最終更新:2024/5/1
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【雨が止んだら、泣き止んで。】 (あめがやんだら、なきやんで。) 男性1:女性1。 反社会的描写、暴力描写を含みます。 有償版販売ページは
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。 【井上 准也(いのうえじゅんや)】 18歳高校生/20代男性。 ※曽根崎心中男性版、井上と同一人物。 【辺見 帆香(へんみほのか)】 18歳高校生/20代女性。 【配役表】 井上准也: 辺見帆香: ======================================= 001准也:桜が嫌いだ。 昔の事を思い出すと、いつも桜が咲いている。 002帆香:雨、嫌いなんだよね。 偏頭痛が酷くなるから。 人に心配を掛けるから。 003准也:母親が、酷い癇癪持ちで。 俺が小さい頃にはもう、父親はとうに愛想が尽きていたのだと思う。 そうして父親に見放されてから段々と、母の癇癪は加速した。 女とはそういう生き物だと、ずっと信じて疑わなかった。 004帆香:あ、イノウエくん。 理科のノート集めてるんだけど、今提出ってできるかな。 005准也:だから。 母親と同じように気難しい顔をしている癖に、クラスのみんなから信頼を得ているホノカが。 少し、物珍しかったんだと思う。 <ラブホテルの一室。二人で寝そべっている。> 006帆香:お母さん、偏頭痛なのかもね。 007准也:へ? 008帆香:偏頭痛。 知らない? 009准也:何それ? その頭痛がすると人殴ったりするの? 010帆香:違うよ。 気圧の関係で、頭の片側がズキズキ痛くなっちゃうの。 偏頭痛、漢字がそのまま、偏る頭痛。 それでずっと具合が悪いのかもね。 011准也:待って、変な頭痛じゃねえんだ。 012帆香:うん。 偏る、の方。 013准也:へえ。 014帆香:光や音に敏感になる人もいるって聞いた事があるから、 イノウエくんが立てる物音で痛んで、気が立ったりしちゃうのかもね。 015准也:あのさ。 それって専用の薬とかある? 016帆香:市販の痛み止めで大丈夫だと思うよ。 あまり酷いなら、隣の市に頭痛専門外来の病院があるから。 調べてみたら? 017准也:ヘンミ。 お前、医者? 018帆香:イノウエくんと同じ高校生だよ。 019准也:じゃあ親が医者? 020帆香:ううん。 両方会社員。 021准也:なんでその、変な頭痛の事知ってんの。 022帆香:私も偏頭痛持ちなんだよね。 023准也:いつも学校来てんじゃん。 024帆香:痛み止め飲んでるよ。 025准也:……。 026帆香:どうしたの? 027准也:いや、今大丈夫なのかなって。 028帆香:大丈夫じゃなかったら、始める前に止めてって言ってるよ。 勿論偏頭痛だとしても、イノウエくんに酷い八つ当たりをするのは違うと思うけどね。 029准也:あぁ……。 えーっとさ、話変えるんだけど。 桜好きなんだ? 030帆香:ん? 031准也:いや、ほら、さっき煙草吸ってる時、桜がって言ってたから。 032帆香:日本人は大体好きじゃない? 033准也:あ、そう。 俺桜が綺麗な所知ってるから、お近付きの印に誘いたかったんだけど。 034帆香:素敵だね、ありがとう。 シャワー浴びていいかな? 流石に煙草吸ったまま帰れないからさ。 035准也:お? おお。 036帆香:チェックまで後三十分くらいなのかな。 それまでに服着てくれたらいいから。 ゆっくりしててね。 037准也:<帆香を見送って、口笛> ……クールなこって。 038帆香:上級生と喧嘩して、学校の備品を壊して、逐一停学して。 それは、私には関係のない事だからどうでもよかったけど。 039准也:クワバラぁ、お前のプリント見してー。 答え写させてー。 040帆香:進学校で、みんなが我が身可愛さで問題集に齧りつく中で。 ちょっと変わった人だなって思ってたよ。 喧嘩をしたり、ああして友達に勉強教えてってねだっていたり、 かと思えば、授業中でも気まぐれに抜け出したり。 ちょっと異質ではあったと思うけど、どうでもよかった。 むしろ、異質だからこそ。 あぁ、あんな風に、自由に生きているのってどんな気分なんだろうな、って。 <ラブホテルの一室。帆香が准也を膝枕している。> 041准也:……いや、別に。 授業って、授業じゃん。 042帆香:うん。 043准也:授業でやってる事って、教科書に書いてあるモンだろ? 044帆香:自分で勉強すればどうにかなるって事? 045准也:そう。 046帆香:それだと、テスト範囲わからなくない? 047准也:クワバラとかイセに聞いてる。 048帆香:イセくんとも仲良いの? 049准也:俺ら三人、幼稚園から一緒。 050帆香:へー……だから、成績良いんだ。 051准也:だからって? 052帆香:イセくんもクワバラくんも、いつも学年トップじゃない。 053准也:ホノカもいつも名前、アイツらと一緒に貼りだしてある。 俺よりずっと前にある。 054帆香:私はなんとか十位内だよ。 ジュンヤはー…… 055准也:俺? 二十から三十くらい。 056帆香:だよね。 二人に教えてもらってるんだ。 057准也:なんで? 教えてもらわないよ、俺の勉強じゃん。 自分でやってるよ。 058帆香:いつもクワバラくんに、プリントとかノート見せてもらってない? 059准也:教科書だけ持ってても、授業内容はわかんねえじゃん。 060帆香:<苦笑する> 授業、出ればいいのに。 061准也:ダメなんだよ、俺。 五十分も大人しくしていられない。 062帆香:そっか。 今もどこ触ってんの。 063准也:ダメだった? 064帆香:いいけど。 065准也:<笑う> ホノカ、変な奴。 聞いてくる事も変だし。 066帆香:ジュンヤの方が変だと思うんだけどな。 067准也:俺は普通だよ。 お前の方が変だよ。 学校だとスッピンなのに、ホテル来る時だけ化粧したりさ。 068帆香:偽装工作のつもりなんだけど、変かな。 069准也:あー確かに別人だわ。 俺も何かやった方がいい? 070帆香:ジュンヤは、私服が大人っぽいからそのままでも大丈夫じゃない? 071准也:じゃあホノカもスッピンの方が可愛いから、そのままがいいと思う。 072帆香:偽装工作なんだって。 073准也:そうだったわ。 いいわ、ヤる時落としてくれるし。 074帆香:そうだね。 あと二十分くらいで、膝枕お終いね。 メイクしないと。 075准也:えーなんで。 親うるさい? 076帆香:親は平気だけど、延長料掛かっちゃうよ。 077准也:親平気なんだ。 なんか意外。 078帆香:そうかな? 079准也:補導とかあるし、この時間まで出歩く高校生ってさ。 俺みてぇに親が社会不適合者か、仕事が激務な子供だけだと思ってた。 080帆香:後者だよ。 二人とも会社員ー……ていうか。 ほんとの事言うとね、経営してるの。 081准也:は、社長? 082帆香:うん。 お父さんが社長、お母さんが専務。 083准也:じゃあ社長令嬢だ。 084帆香:内緒にしてね。 だから家にお金あるし、私が一人っ子だから甘いの、親。 学校卒業するまでは、帰りが遅くなるとか友達の家に泊まらせて頂く時に ちゃんと連絡入れたらいいし、遊ぶお金は自分でバイトして稼ぐ、って約束してる。 085准也:だからバイトしてんだ。 バイトの申請した? アレって何書けば通るの? 086帆香:社会勉強と将来の学費の為って嘘書いた。 担任と教頭先生と面談して、成績が良ければ通るみたいだよ。 087准也:教頭ってあのうるせーハゲ? うちの生徒ほぼ通らないじゃん。 088帆香:そんな事ないよ。 志望校とかどのくらい稼ぎたいのか、答えてたらあっさり通ったよ。 089准也:へー……。 なあ、親と、仲良い? 090帆香:……。 091准也:俺、母親が前話した通りだから。 普通の家って知りたいんだけど。 ちゃんとしてる家みたいだし。 092帆香:……先に、聞いていい? 093准也:いいよ。 交換な。 094帆香:ジュンヤ、お父さんは? 095准也:いるよ。 全然帰って来ねえけど。 俺も一人っ子なんだけど、まあ、父親の気持ちもわかるから何も言えねえし。 でも流石にさ、母親にバットで足の骨折られた時は色々、入院の世話してくれてさ。 ……その時俺が十歳だったんだけど。 ずっと俺に謝ってんだよ。 096帆香:謝るの? 097准也:俺みたいな父親想像してたべ? 全然ちげーの。 すげー物静かでさ、ハンサムで、滅茶苦茶本持ってて。 今も俺らの生活費振り込んでるし、連絡も取れるよ。 入院した時。 俺に謝るの見ながら、ああ、この人じゃあの母親相手にするのは無理だわって思って。 098帆香:……ジュンヤに謝って、でも一緒に暮らしてないの。 099准也:うん。 いいよ、色々やってくれてるしメールは返ってくるし。 100帆香:ジュンヤの事も連れ出してくれたらいいのにね。 101准也:んー……コレ悪い意味じゃなくてさ。 俺が男だから、そう思うだけかもだけど。 子供一人で育てるって多分、相当難しいよ。 俺らって突然父親になるじゃん。 俺明日から父親ですって、無理だもん。 102帆香:難しい話するね。 103准也:だろ? ホノカはどう、明日から十ヵ月、腹痛めてお母さんになって下さい、って。 104帆香:……正直、あんまり考えた事なかったな。 105准也:なー? だから、話逸れたけど。 十歳の俺はあの入院で大いに納得しちゃったの。 この人はあの母親の旦那でいるのも、俺の父親でいるのも、荷が重いんだろうなって。 106帆香:私はあんまり納得できないかな。 ごめんね。 107准也:だろうなぁ。 でも俺、ほら、もうデカいし。 殴られるのも減ったよ。 108帆香:……。 109准也:はい、俺話した。 ホノカの番。 110帆香:<苦笑する> 世間的には、この時間に娘を外出させるのは悪い親、って前提でね。 111准也:それもよくわかんねーけどな。 まあ、事件にならなきゃいいんじゃね。 112帆香:高校生になる時に、スマホ買ってもらって。 その時、世間体はどうでもいいから少しずつ、対等な大人だと思って接する。 でも困った時にはすぐに親に相談する事、素行の面で、最低限世間様に恥ずかしくない人間でいる事、 私が人様に迷惑を掛けたら、必ず両親と一緒に償う事。 って約束したよ。 113准也:……おお? 114帆香:肉親っていうか保護者、みたいな感じなんだよね。 バイトの給料三割だけ、家賃と食費の代わりに渡して。 夜遅く出歩く時は連絡入れて。 他は何も言わない、詮索もされない。 一緒に食事してる時に最近どう? とか、聞かれるけど。 ……うーん、普通の家ではないのかもね。 あんまり親っぽくない、っていうか。 115准也:えーでもいいじゃんそれ。 なんか、親に信じてもらってるって感じする。 116帆香:そうかな。 なんか、……。 117准也:俺はそう思うよ。 ホノカ見てたら、それ言えちゃう親の気持ちわかるよ。 118帆香:そう? ……ほら、延長料金、掛かっちゃうよ。 119准也:いいよ、俺出すよ。 奢るからルームサービス見せて。 120帆香:この間も奢ってくれなかった? 121准也:んー。 ホノカは、勉強もバイトも頑張っててえらいから。 何食う? 122帆香:ピラフがいいな。 123准也:また。 ここのピラフ冷凍じゃん、そんなに美味い? 124帆香:美味しいよ。 125准也:あ。 今気付いた、ピラフ一番安いじゃん、駄目だめ。 126帆香:冷凍のピラフが好きなんだよ。 127准也:やっぱ変な奴ー。 128帆香:学校で上級生と喧嘩したりする方が、ちょっと変わってると思うよ。 129准也:そうなの? 130帆香:そうだよ。 131准也:てか、ホノカ、知ってんの? 132帆香:一昨日喧嘩してたの、三階から見てたよ。 133准也:うわ、マジ? はっずー。 134帆香:恥ずかしいの? また停学になっちゃうよー、って思って見てた。 135准也:停学は別にいいんだけど、恥ずかしいだろ。 136帆香:なんで? 137准也:いや、なんか、因縁つけられたから喧嘩になったんだけど。 俺もソイツらと同類ですって言ってるようなモンじゃん。 マジか、ホノカにバレてねえと思ってた。 138帆香:同類だとは思わないけど。 139准也:学校でバット振り回して喧嘩してんだよ。 同類だろ。 140帆香:そうなのかなあ。 141准也:あ、チョコケーキある。 ホノカ好きだろ、ピラフとコレな。 142帆香:ジュンヤは? 143准也:俺なんでもー……あ、このハンバーグでいいや。 これ、デカい方。 144帆香:わかった、電話掛けるね。 145准也:んー。 俺トイレ行ってくるわ。 146帆香:<准也を見送って> 好きな食べ物は、子供っぽいんだね。 <ラブホテルの一室。帆香が准也を膝枕している。> 147准也:クライネ……何? 148帆香:クライネ・レビン症候群。 反復性過眠、周期性過眠、 ちょっと大袈裟だけど、眠れる森の美女症候群とか言われるかな。 149准也:調べたら出てきた。 これ? 150帆香:うん。 読んでみて。 151准也:……すげー寝ちゃう病気? 152帆香:簡単に言うと、そうだね。 153准也:今は? 眠くない? 154帆香:今は大丈夫。 155准也:……いつから? 156帆香:小学生、六年生の頃から。 157准也:ほー……。 158帆香:その所為で、中学生の時に何回か保健室登校してたの。 159准也:え、なあ、百万人に一人、って書いてある。 160帆香:うん、珍しいんだって。 これも誰にも話さないでね。 161准也:話さないけど、えっと、……学校は。 162帆香:知ってるよ。 受験前に話してある。 163准也:普通に、毎日来てるじゃん。 164帆香:一年生の頃、夏休み明けから十月まで保健室登校してたよ。 違うクラスだったから知らないよね。 二組だった人に聞いてみて。 165准也:<スマホの画面を見ながら> ほーん……十代が多い、男の方が多くて、……積極的治療を控える場合もあります……。 166帆香:……。 <准也を黙って見ている> 167准也:……自然治癒はするけど、収まるまで平均で十四年……。 168帆香:うん。 169准也:……この、びょーそーき、で合ってる? 170帆香:うん、病相期。 171准也:最後にそれがきたのは? いつ? 172帆香:一年生の十月かな。 173准也:え、じゃあ。 174帆香:そう。 そろそろかなって、思って。 175准也:……そうなったら、会えないな。 176帆香:うん。 177准也:保健室登校? 178帆香:そうだね。 179准也:クラスの女子、知ってんの。 180帆香:エリナ、わかる? ヒサハラエリナ。 181准也:ヒサハラ……あーあの、巻き髪の子。 182帆香:うん。 小学六年生の時、同じクラスだったから知ってるよ。 183准也:仲良いんだ。 184帆香:うん、いつもお昼一緒に食べてる。 185准也:他は? 186帆香:あとは、アマミヤさんと、ユキモトさん。 187准也:やべ、わかんね。 昼一緒に食ってる? 188帆香:うん。 エリナと、二人だけには、話してる。 189准也:今度見とく。 <笑う> なんか、ヒサハラの他はあんまり仲良くなさそう。 190帆香:そんな事ないよ。 映画とか買い物とか、行ってる。 191准也:俺の話してる? 192帆香:してない。 193准也:しといてよ。 194帆香:クワバラくんとイセくんに、私の話してる? 195准也:してない。 196帆香:ほら。 197准也:ああね。 ……味方、っつか。 多い方がいいの。 198帆香:味方? 199准也:や、なんか、大変そうだから。 200帆香:うーん……。 201准也:ホノカが味方欲しいなら。 俺、クワバラとイセに話していい? あいつらなら絶対、茶化したりしないから。 202帆香:セフレだって、ちゃんと言えるならいいよ。 203准也:……。 204帆香:なぁに、不満? 205准也:……別に。 わかった。 206帆香:<笑う> 何? 207准也:別に。 ふーん。 <起き上がる> 208帆香:何、なに? 209准也:似合うじゃん、眠れる森の美女症候群。 ホノカ美人だから、それっぽい。 210帆香:……。 211准也:平均十四年だから、あとー……十年、くらい? 212帆香:かもしれないね。 もっと掛かるかもね。 213准也:あ! なるほどな。 だからホノカの親って、ホノカの事信じてるんだな。 214帆香:どういう事? 215准也:え? だって、ホノカが起きてる時間は、ホノカのモンだろ。 ふつーみたいに夜出掛けちゃ駄目ですとか言ってたら、ホノカの時間少なくなるじゃん。 216帆香:……。 217准也:それが少なくなるから、ホノカの事信じて、自分の仕事してるんだろ。 やべー。 やっぱ社長ってなると考える事違うな、うん。 218帆香:……。 219准也:なんか、月経性とか、色々書いてあったから。 ちゃんと読んどく。 授業のノート取っといてやるし、保健室にも行くよ。 早く治るといいな。 220帆香:……そうだね。 221准也:あ。 俺、無神経だった? 変な事言った? 222帆香:ううん。 ご家族の事、教えてもらったからと思って、話してみたけど。 223帆香:ちょっとだけ、嬉しかった。 <雨が降る住宅街。傘をさして並んで歩く二人。> 224准也:うわー。 雨ヤベエなー、梅雨だしなー! 225帆香:テンション高いね。 226准也:おん。 雨好きなんだよ、ちょっと楽しいじゃん。 あ、雨だと偏頭痛出るんだっけ。 平気? 227帆香:痛み止め飲んだよ。 228准也:じゃあよし。 見てよ、コレ。 229帆香:ん? ブーツ? 230准也:そ。 雨用ブーツ。 231帆香:<笑う> わざわざ買ったの? 232准也:買った。 233帆香:学ランに、ティーシャツに、その靴合わせると微妙だね。 234准也:そう? まあ、制服と合わせるように黒、って思ったからな。 朝降られたからしゃーない。 235帆香:シャツ、乾かなかったんだ。 236准也:雨好きだから別にいいけど。 ホノカはー……あ、雨だからスニーカーなのか。 237帆香:うん。 238准也:ごめんなー、なんかわざわざ。 学校帰りに。 239帆香:いいよ。 学校持って行くと、没収されちゃうかもしれないし。 こっちこそわざわざ家まで来てもらって、ごめんね。 240准也:いい、いい。 流石に漫画十九巻全部持って歩くの、ダルいだろ。 241帆香:大丈夫なのに。 242准也:駄目、重いから。 俺が持った方がいい。 制服のホノカと、私服のホノカと、両方見れたしな。 243帆香:いつも両方見てるじゃない。 244准也:違う違う。 高校生、って感じの事してんの今日が初めてじゃん。 漫画の貸し借りとか。 クワバラとイセとしかした事ねえわ。 245帆香:……あー。 246准也:いつも着替えて集合してホテル直行だし。 247帆香:そうだね。 私、初めて男の子にからかわれたかも。 248准也:マジ? 悪い、後でクワバラによく言っとくわ。 249帆香:いいよ。 なんか、そうだね。 高校生って感じ。 250准也:だろー? いや、クワバラにはちゃんと言っておくけど。 251帆香:ふふ、男の子と一緒に帰ると本当にからかわれるんだね。 252准也:ヒサハラもこっち見てたぞ。 253帆香:うん。 今日はイノウエくんに用があるって言っておいたから。 254准也:俺の事何か言ってた? 255帆香:脅されてるの、って心配されたよ。 256准也:ひでえ、なに、俺そんな風に見られてんの!? 257帆香:まあ、あれだけ停学してるんだもの。 悪い噂も少しは立つよ。 258准也:……停学、気を付けるわ。 259帆香:うん。 260准也:あ、そうだ。 さっき、リビングで待ってた時さ。 261帆香:何か面白い物あった? 262准也:ピアノの上に飾ってあった写真見てたんだけど、一緒に写ってた人、親? 263帆香:そうだよ。 264准也:ホノカ、すげー母親に似てるな。 265帆香:<笑う> よく言われる。 というか、ほら。 266准也:うん、父親ゴツくて超びっくりした。 多分俺、社長だって聞いてなかったらヤクザだと思ってた。 267帆香:<笑う> パパ、あの見た目だけど優しいよ。 268准也:マジ!? 見た目インテリヤクザじゃん! 269帆香:うん、うん。 270准也:……てか。 パパって呼んでんだ、かわいー。 271帆香:ずっとパパって呼んできたから。 人前ではちゃんと、お父さんとか、父が、って言ってるよ。 272准也:うん、初めて聞いた。 へー。 ちゃんと娘やってんだな。 273帆香:──……。 274准也:んー? 275帆香:ん? なに? 276准也:今何か言った? 277帆香:何も言ってないよ。 ねえ、そうだ。 今度、ご飯食べにおいでよ。 278准也:へっ。 279帆香:ママが作るハンバーグ、美味しいよ。 ね? 280准也:……えー、それって、いいの? 281帆香:うん。 二人ともジュンヤの事、気に入ると思うよ? 282准也:うわ、待ってー。 俺ホノカの親にすげえ悪い事してる気がしてきた……。 283帆香:なんで? ホテル誘ったの私じゃん。 284准也:そうなんだけど。 夜連れ歩いてんのは俺じゃん。 あんなさぁ、小さい頃から写真、ずっと撮っててさあ……。 285帆香:ちゃんと彼氏って紹介するから。 それで問題なくない? 286准也:……。 287帆香:<笑う> 変な顔。 ね? 288准也:まあ……。 289帆香:決まり、約束ね。 290准也:……わかった。 ハンバーグな。 それってさ、料理番組みたいに、こー……両手でぱしぱし、するの。 291帆香:するよ。 292准也:あれ何? 293帆香:空気を抜いてるんだよ。 294准也:空気抜くとどうなんの。 美味くなんの? 295帆香:アレやらないと割れちゃうんだよ。 296准也:割れる? ハンバーグが? え、冷凍のとかファミレスの、綺麗じゃん。 みんな手でぱしぱししてんの。 297帆香:<笑う> ママにさ、作る所見せてもらう? 298准也:え、見せてくれるかな。 299帆香:くれると思うよ。 300准也:えー、見る見る。 ……で、ココ。 俺ん家。 ボロいっしょ。 つかマジで家近かったんだな。 301帆香:丁度学区の境目だからね。 アパートなんだ、本当にお邪魔して大丈夫なの? 302准也:いいって。 濡れるから、玄関入って待ってて。 漫画ありがとな、すぐ着替えてくる。 <ドアを開ける> ほい、どーぞ。 303帆香:<小声> お邪魔しまーす……。 304准也:何で小声なんだよ。 傘そこな、タオル持ってくるから。 隣近所いねーし、母親も今寝てるだろうし── 305帆香:ジュンヤ、──ジュンヤ! <准也、背後から母親に髪を掴まれる。> 306准也:──後ろからものすごい力で髪を掴まれて、そのまま自分が倒れたのはわかった。 307帆香:ジュンヤに覆い被さる彼女が、何を怒鳴っているのかは全く聞き取れなかった。 308准也:酒臭えな、また、馬鹿みたいに飲んだんだろうな、とは思った。 それだけだった。 309帆香:辛うじて聞き取れたのは、女、とか、お前、とか、本当に断片的な単語だった。 310准也:俺は慣れてるけどホノカが、と、俺の肩を掴む手をどうにか押し退けた時、 311帆香:偏頭痛、なんて言葉で片付けられる状況ではなかったと過(よ)ぎって、ふと、視界に入った。 312准也:細い腕が、バットを振り上げるのが見えた。 313帆香:ものすごい音がした。 314准也:ホノカは、力いっぱいバットを母親の頭に振り下ろした。 315帆香:頭蓋が潰れる音は呆気なくて、握ったバットの重さをどう扱うか、それしか考えていなかった。 316准也:二度、振り下ろした後だったか。 どうにか倒れる母親の下から這い出て。 首が歪んで、鼻が捻じ曲がって、右目の眼球が飛び出た母親が、俺に手を伸ばす。 317帆香:無我夢中だった。 その手が、ジュンヤに良い事を絶対に齎(もたら)さないと知った以上。 318准也:ああ、これは場外ホームランだ、なんて考えて。 319帆香:殴りつければあっという間に転がった四肢を見て、十歳のジュンヤの足も、こうだったのかな、とか。 320准也:やっと悲鳴を上げようとした口が、バットで横殴りにされて、それで。 321准也:──……きゅ、う、きゅうしゃ。 322帆香:駄目、待って。 手袋、タオルある? 323准也:あ、ああ、うん。 軍手ある。 血すごい、拭く物ある? 324帆香:ハンカチあるから大丈夫、ありがとう。 ジュンヤも拭いて、着替えて。 325准也:ああ、うん。 326帆香:急いで、アリバイ作ってきて。 327准也:アリバイ? 328帆香:クワバラくんか、イセくんと会って。 この事話してもいいから。 329准也:何、 330帆香:ん? なあに? 331准也:……ホノカ、俺の事、助けてくれるの? 332帆香:うん。 333准也:なんで。 334帆香:ふふ。 私、難病持ちだから、ふふ。 ……もしかしたら、精神疾患とかで、罪が軽くなるかもしれないよ。 335准也:──……いや。 俺らと会ってた事にした方がいい。 近所だから帰り際俺らと行き会って駄弁って、話が合ったから一緒にいたって。 期末が近いからテスト勉強しようって話で、うん、ファミレス行こ。 着替えたら親に電話して。 外に公園あったろ、そこで。 友達と会ったから一緒に勉強してくるって言って。 いつも仕事何時頃終わるの。 336帆香:……十時過ぎるなら、仕事の帰りに迎えに来てもらえる、かな。 337准也:じゃあ服貸すからすぐ着替えて。 ……それで、アリバイ、どう。 338帆香:……。 339准也:今クワバラにメール、 340帆香:メールは駄目、電話も。 通信履歴が残る。 会ってきて。 親に連絡入れとく。 341准也:本当に、親に怒られない? 342帆香:大丈夫。 そこはほんとに。 発症してから、甘いの、私に。 343准也:わかった。 俺も着替えたらクワバラとアパートの前にいる。 344帆香:うん。 ──ふふ。 暴れてみて、ちょっとすっきりしたかも。 345准也:すっきり? 何が? 346帆香:色々。 これで、私も同類だね。 347准也:…… <笑う> バットだから、お揃いなんじゃん? 348帆香:<笑う> そうだね、……ジュンヤ? ねえ、 349准也:ん? 何? 350帆香:──……なんでもないよ。 351准也:母は、押し入った強盗に殺された。 352帆香:ジュンヤはゴム手袋を付けて、玄関先にあった彼女のバッグから、財布だけを持ち出した。 353准也:第一発見者は深夜に帰宅した俺で、その後母の葬儀と引っ越しを終えるまで、学校に行けなかった。 354帆香:私が服を着替えている間、ジュンヤは部屋中の箪笥(たんす)や引き出しの全てをひっくり返していた。 355准也:捜査は難航した。 年老いた耳の遠い大家が経営するアパート。 大雨の中、目撃者も、近隣住民も無いボロアパート。 母親はそこに、事件当日も。 柄の悪い男をとっかえひっかえ、連れ込んでいたらしい。 356帆香:着替え終わる頃には、アパートの目の前の公園で、幼馴染だと話したクラスメイトと談笑していた。 357准也:ホノカの指紋を拭き取り、俺の指紋を付けて、ボロボロのグリップテープを剥がして。 苦心して雨の中に放置したバットすら、凶器以上の意味を持たなかった。 それどころか、いくつか顔も知らない男の指紋が付着していたらしい。 ラッキーだったと思う。 358帆香:人目を避けてアパートを出て、服を買って、着替えて、ファミレスへ向かって。 359准也:他の物的証拠になりそうな物は、二人で手分けして学校のロッカーに隠して。 捜査が収まった頃に、二人で。 燃やして灰を川に流した。 当日着ていた学生服だけは、自分で手洗いして卒業まで使うしかなかった。 360帆香:あのアパートを出て三十分もすれば、私は。 平静を取り戻していた。 361准也:新しい住居は葬式の後、父親がマンションの一室を用意してくれた。 362帆香:ジュンヤがお揃いだと言ったあの時、こちらを振り向いたあの時。 一筋だけ流れた涙は学生服に落ちて、それきりだった。 363准也:事件後初めて対面し、父には既に別の家族がいた事を知ったその日。 やっぱり、桜が綺麗に咲いていた。 <回想。学校敷地内。准也と帆香が出会った頃、煙草を吸う准也。> 364帆香:イノウエくん? 365准也:あ。 366帆香:えっと、同じクラスのヘンミだけど……わかるかな。 367准也:あー……、クラスのいいんちょーさん、だよね。 何? 368帆香:理科のノート、先生があとイノウエくんだけだって、探してて。 <苦笑する> 言わないよ。 ふうん、みんなココで吸ってるんだ。 部室棟の裏、いいね。 桜見ながら煙草が吸えるんだ。 369准也:あ、うん。 370帆香:立地は良いけど、こんなに吸い殻あって先生にバレないの? 371准也:あのー……、 372帆香:私も明日からは持って来ようかな。 お礼はするから、一本もらえない? 373准也:へ、いいんちょ、マジ? つか授業始まるけど。 374帆香:いいんちょじゃなくて、ヘンミね。 イノウエくんも火、点けたばっかりじゃない。 お花見しようよ、授業始まるけど。 375准也:……おぉ、いいね、いいね。 ラークだけど平気? 376帆香:普段赤マルだからそんなに変わらないよ。 377准也:おー。 <煙草を取り出す> 378帆香:赤ラークじゃん、いいね。 379准也:姉さん、火、どーぞ。 380帆香:ありがとう。 私イノウエくん探してた事にするけど、黙っててね。 381准也:いいよ、俺このまま帰るし。 382帆香:帰るの? どうして? 383准也:何となくだけど。 384帆香:ふうん、じゃあ私も帰ろ。 385准也:え。 386帆香:イノウエくん探してたんじゃなくて熱出した事にしようかな。 保健室で一芝居打って来るからさ、一緒に帰ろう? いつもどこから抜け出すの? 387准也:……。 388帆香:言えない? 389准也:や。 いいんちょ、サボったりするんだ、って。 390帆香:初めてだよ。 午後世界史でしょ? ダルいし、私も何となく。 あ、じゃあさぁ。 一緒に帰って、そのままホテル行こうよ。 一本、分けてもらったお礼ね。 <事件から数年後。二十代になった二人。> 391准也:──……色々思い返してみれば、ホノカ。 最初からすげー不良少女じゃん。 クラス委員長が、さあ。 煙草吸って学校サボってホテル行って、さあ。 今回長いなぁ、早く起きろよ。 ……まだ、治るの、時間掛かりそう? パパさんが、ママさんと俺とホノカと。 四人でメシ食いに行こうって言ってたぞ。 392帆香:ジュンヤは嫌がりそうだけど。 これは遺書、みたいな物だと思ってくれていいよ。 眠いの、ずっと。 もうずっと。 同類で、お揃いになった日から、ずっと。 良い子で、良い生徒で、良い娘でいるのは。 あの日が限界だったのかもしれないね。 393准也:……もう、梅雨だからさあ。 起きて、シーツ洗った方がいいと思う訳。 どーよ? 394帆香:次に私が眠ったら。 桜が咲いてから、私を殺してね。 395准也:──うん、よし。 今日も生きてんな。 あんまり馬鹿な事、考えるなよ。 396帆香:私ね、ジュンヤがあの学ランで煙草吸ってるの見た時から、桜が一番好きだよ。 一番最初、ホテル行った時。 桜が綺麗な所を知ってるって言ってたの、覚えてる? 最期は一緒に見たいな。 その時に全部思い出にしてしまって、それで。 397准也:早く起きねえと、冷凍庫のピラフも流石に腐るぞ。 ……仕事行ってくる。 今日さ、あのラブホ行くんだよ。 だから俺、ちょっと感傷的な訳。 ──行ってきまーす。 398帆香:雨が止んだら、泣き止んで。 2022.5.14 初版 羽白深夜子 2022.5.22 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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