最終更新:2024/5/1
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。 【優考(ゆたか)】 二十代以上男性(沙英より年上~四十五歳目途) 202号室(沙英の上階)の部屋の住人。 【沙英(さえ)】 二十代以上女性(二十歳~優考より年下) 102号室(優考の下階)の部屋の住人。 【配役表】 優考: 沙英: ======================================= 001沙英:──暑い。 ああ、折角の休みだというのに、暑い。 買い置きのミネラルウォーターがもう残り少ない事に気づいて、 外、出歩きたくないんだよなあと逡巡して。 本当に何となく、窓の外を見た時に気が付いた。 002沙英:<窓を開けながら> っべー……伸び伸びじゃぁん……。 003優考:あー。 もしかして切っちゃう? 004沙英:えっ。 005優考:あ。 下の人ー? 006沙英:は、はい。 こんなに伸ばしちゃったら、苦情。 007優考:俺は入れないよ。 こっちの隣の部屋には伸びてないし。 グリーンカーテンっていうんだっけ。 何て葉っぱなの? コレ。 008沙英:ラトゥールです。 あの、本当に大丈夫ですか。 009優考:うんー。 いいね、コレ。 こんなに伸びるモンなんだ。 俺も支え作ってあげたら、もっと伸びるかな? 010沙英:え、そっちどうなってます? 011優考:えっとねー。 ベランダ伝って、こう、垂れてる。 012沙英:迷惑じゃないです? 013優考:迷惑じゃないよ。 でも、もうすぐ床に着いちゃいそうで可哀想だからさ、 どうしよっかなって思ってたの。 014沙英:すみません、あの、支え買うならお金出すんで、 015優考:いいよ、いらない、いらない。 なに、この葉っぱあるとちょっと涼しくなるんでしょ? 016沙英:まあ多少は。 017優考:コイツ見ながらビール飲むのが日課になってんだよね。 018沙英:あー、じゃあ……なにかお礼を。 019優考:こっちがお礼渡したいくらいだよ。 020沙英:いやいやいや……えーっと、にーぜろ、にですか。 021優考:ほんと、気ぃ使わなくていいからね。 022沙英:いいんですか。 023優考:うん。 そっちさ、両隣誰かいるの? 024沙英:いないです。 025優考:えー。 女の子が一階なの、隣もいないの。 026沙英:二階って家賃ちょっと高くなかったですか、確か。 027優考:ロフト付いてるからね。 折角話せたし、カーテン頂いちゃうし。 なにか男手を頼りたい事があったら声、掛けてね。 028沙英:あ、ありがとうございます。 えっと、お名前。 029優考:ユタカだよー。 優しく考えるで、ユタカ。 そっちは? 030沙英:いさご、サンズイに少ないと、英語のエイで、サエです。 031優考:サエちゃん。 うん。 何か困ったら声掛けてねー。 032沙英:あ、はーい……。 033優考:また話そー。 034沙英:──カーテンの緑の向こう、私の頭の上で。 時々立ち上る細い煙が、見えるだけだった。 035優考:お。 窓開けましたかー? 036沙英:ああ、開けましたね。 こんにちは。 037優考:こんにちは。 すごいね、このラトゥールちゃん。 支え作ってあげたらさ、ぐんぐん伸びるよ。 038沙英:結構強い植物らしいですよ。 039優考:ああ、日差しも強いしね。 いやあ、本当に良い物分けて頂いちゃったな。 植物っていいね、癒されるね。 本当にありがとう。 040沙英:──その日から、互いの顔も知らないまま。 些細な親交が始まった。 041優考:俺からも何か、返せたらいいんだけどなあー。 042沙英:──アパートの一階と、二階と。 窓を開け放しての会話。 向日葵だっけ。 こういう風に、太陽の方を向いて咲く花があったような。 043優考:サーエーちゃん。 今何かやってる? 044沙英:ん。 ユタカさん? 045優考:どもー。 何してるのー? 046沙英:ベランダの大葉、取ってるんです。 いい大きさになってるんで。 047優考:おぉ、いいねー。 大葉も育ててるんだ。 048沙英:いりますか? 049優考:いいって、いいって。 こんな立派なカーテン分けてもらっちゃってるし。 後何か育ててるの? 050沙英:プチトマト。 051優考:あー、トマト好きー。 052沙英:<笑いながら> いりますか? 053優考:んー……トマトは魅力的かもしんない。 054沙英:<笑う> じゃあ、うーん。 明日仕事行く時ポストに掛けておきますよ。 何時に家出ます? 055優考:俺今リモート。 056沙英:なら部屋に持って行きますよ? 057優考:ポストでいいよ、階段面倒じゃん。 いつも家出るの、あー……七時半くらい? 058沙英:そうですね。 059優考:早いね。 じゃあ、ポストに取りに行くよ。 ありがとう。 060沙英:いえ、一人じゃ食べ切れないくらい取れるから。 061優考:いいなぁ。 俺も何か育ててみよっかなあ。 062沙英:──些細な悩み事を忘れられるような気がして。 何となく、ベランダにいる時間が増えた。 063優考:えらいねえ、毎日そうしてちゃんとお世話してて。 064沙英:いずれ自分が食べる物なんで、一応。 愛着も沸くし。 065優考:サエちゃんの話聞いてるとさ。 庭付きもよかったなって思っちゃうよねー。 066沙英:私はロフトの方がいいけどな。 毎月四千円ケチりました。 067優考:ロフトあっても寝床になるだけだよ。 俺目、悪いから。 起き抜けに降りるの怖いし。 068沙英:それがいいんじゃないですか。 なんか、秘密基地みたいで。 069優考:あーね。 しょっちゅう頭ぶつけるけど。 070沙英:たんこぶになりそう。 <煙草を付けながら> 071優考:あ! 今火点けた? 何なに、ヤニ仲間じゃん! 072沙英:何吸ってます? 073優考:ずーっとセッタ。 サエちゃんは? 074沙英:ずーっとホープ。 075優考:しっぶ。 なんだ、吸ってるのサエちゃんだったんだ。 隣に住んでるお兄ちゃんだと思ってたや。 076沙英:匂います? 077優考:俺は喫煙者だから気にしないよ。 078沙英:あ、そっか。 隣も男の人なんですか? 079優考:うんー。 今風のさ、しゅっとしてるイケメンだよ。 080沙英:わあ、いい事聞いた。 081優考:でも仕事夜勤っぽくてさ、大変そう。 行き会う度、ずーっと疲れた顔してるんだよ。 今も寝てるんじゃないかな。 082沙英:こんなデカい声で喋ってて、悪い事しちゃいましたかね。 083優考:大丈夫、大丈夫。 俺がロフトからすっ転んでも苦情来た事ないから。 084沙英:<笑う> いいなぁ、お隣さん。 私ココ住み始めて人に会った事ないですよ。 085優考:帰りがあの時間じゃあねえ。 086沙英:あ、すみません、うるさかったですか? 087優考:いや、全然。 休みの日中に、サエちゃんが庭手入れしてるの見た事あって。 あの足音は下の階の女の子だったのか、って思ったくらい。 088沙英:あぁ、結構ヒールの音、響きますよね。 089優考:気使わないでよ。 隣のお兄ちゃんは夜勤だからあの時間いないし、 俺も働いてる時はヘッドフォンしてるし。 090沙英:ヘッドフォン? なんの仕事なんですか? 091優考:んーまあ、一応は管理職。 今日もこの後仕事だよ。 092沙英:日曜もですか。 093優考:日曜もです。 サエちゃんは? 094沙英:コールセンターです。 もーマジキツくて……。 あ、私も今、上司にリモート打診されてるんですよー。 でもサボっちゃいそうだなって。 ぶっちゃけどうです? リモートって。 095優考:いやぁ、楽だよリモート。 俺ずっとリモートで働きたい。 ヘッドフォンも自前の使えるしさ、ほんとはダメなんだけどコッソリ菓子も食えるよ。 096沙英:ああーそれ聞くとちょっといいなって思うかも……! そういうのって、派遣でもパソコンとか借りられるんですかね。 持ってなくて。 097優考:コールセンターでしょ? なら大丈夫なんじゃない? 機材無いと働けないんだし、上長に聞いてみたら? 098沙英:あー……。 099優考:何? その声。 100沙英:若干、怖いんですよねー……まあ、今派遣なんですけど、正社誘われてたりとか。 101優考:おーいいじゃん。 仕事ができる女性だ。 102沙英:んー……。 まあ、今より稼げるのはいいんだけど。 若干、直属の上司が怖いっていうか、ちょっと神経質で話しづらいっていうか。 あの人の直属の部下になるかもって思ったら、若干気が引けて。 103優考:ほうほう。 104沙英:それがその、はは、鬼のヤトって、 105優考:<むせる> 106沙英:大丈夫ですか? 107優考:大丈夫で、大丈夫……あー、何なに、そんな怖いの。 108沙英:そうですそうです。 あ、ヤトってその人の苗字なんですけど。 結構狙ってる子もいるしー、まあ確かに、スーツにオールバックのハンサムで。 目の保養? ちょっとした清涼剤? っていうか。 遠目から見てる分は最高なんすけどね。 109優考:おぉ……。 110沙英:でも顧客対応ミスると超ネチネチ捲し立てるし、鬼のヤトってちょっとほら、語呂が良くて。 うちの部署、正社もバイトも大体新人研修がその人で。 なのにプライベートな話は全くしないし、飲み会とかも全然来ないから色々謎で。 111優考:うんうん。 112沙英:なんかー、みんなの共通認識みたいな。 馬鹿真面目で怖いけど仕事できるし。 新人に話し掛ける時、鬼のヤト研修どうだったー? って話し掛けたら大体仲良くなれて。 113優考:あー、いるいる、そういう上司。 114沙英:いますよね。 最近チームの子にもリモート打診してるみたいで。 正社とリモート同時に打診されて、リモートならヤトに会わなくていいじゃん、とか、 給料上がる、とか、でもそんな理由で受けていいモンなのかなー……みたいな。 115優考:ああねー。 んー、リモート打診するならパソコン貸し出してそうじゃない? 一式貸してもらえるならリモートほんと、楽でいいよ。 聞いてみたら? 116沙英:どーなんだろ。 そういえば、ちゃんと聞いた事ないなあ……。 117優考:聞いてみなよ。 仕事で使うパソコンなら借りれるって。 それにさ、その、上司のネタで盛り上がれるなら、職場の空気イイっぽくない? 118沙英:あーそれは良いっすね、普通に。 その上司も真面目っていうか、仕事馬鹿、仕事熱心で良い人ではあると思うし。 119優考:<苦笑する> 仕事馬鹿……。 120沙英:あーなんていうか。 職場も上司も、派遣のこの距離が一番いいのかな、なんて。 正直別に収入も困ってる訳じゃー……めっちゃ愚痴ってますね、ごめんなさい。 121優考:いーえ。 返事がおじさんの小言でいいなら、聞くよ。 122沙英:絶対おじさんって歳じゃないでしょ、お兄さんでしょ。 123優考:えーどうだろ。 まあ、サエちゃんよりちょっとは上だしさ。 俺も一応は管理職だし、その、ヤトさんみたいにならないように気を付けよー。 124沙英:いやいや、ヤトさんも良い上司ではあると思ってるんですよ。 でもユタカさん絶対良い上司でしょ。 ゆる系っつか、話しやすそう。 125優考:全然そんな事ないよ。 も、バイトちゃん達が考えてる事全然わかんないよ。 おじさんも話入りたいなーとか思うけど、イタいって思われたくないとか、葛藤? 126沙英:<笑う> 127優考:何笑ってんの、するんだよ葛藤。 楽しそうにしてる所見てるとさ。 128沙英:そうですか、そうですか。 129優考:笑ってられんのも今のうちだからねー。 130沙英:──ちょっとベラベラ話し過ぎたかな、なんて思った次の日。 プチトマトは、私の一番好きなチョコレートと、短い手紙になって返ってきた。 131優考:お隣さんの分まで、どうもありがとう。 プチトマトって酢漬けにすると美味しいんだね。 イケメンのお兄ちゃんも、大層喜んでおられました。 ハート。 132沙英:……おー。 ゆる系おっさん、手紙かわよ。 チョコラッキー。 133優考:え、トマトのピクルス? 134沙英:はい。 135優考:うわ、酢漬けとか言っちゃった! 136沙英:<笑う> 同じでしょ。 137優考:ピクルスの方がお洒落じゃん。 俺、隣の兄ちゃんにも酢漬けっつって渡しちゃったよ。 138沙英:同じだからいいですよ。 139優考:そう? あのね、あの兄ちゃん、喋ると馬鹿っぽくて可愛い。 140沙英:マジすか。 141優考:うん。 マージっすか! ココ女の子いたんすね! って、喜んでおられたよ。 142沙英:今の真似? 143優考:結構いい感じに似た。 144沙英:馬鹿っぽ! 145優考:俺達時々ベランダで話してるからキミも休みの時に混ざりな、って言ったの。 あざーす! って本当に言ってる子、初めて見たよ。 146沙英:超馬鹿っぽ! 147優考:でしょ? ちょっと犬っぽくて、モテそうだったから。 サエちゃんくらいの女の子は好きなんじゃないのー? 148沙英:えーどうだろ。 私落ち着いてる人がいいからなぁ。 149優考:おっとなー! サエちゃん仕事できちゃうもんね! 150沙英:<笑う> ……そうだ。 受けましたよー、正社の話。 151優考:おーマジか! おめでと! 152沙英:パソコンも借りられるし、まあ、リモートと一緒に話受けちゃえば、 通勤時間寝ていられるなって、そこが決め手だったんですけどね。 153優考:<笑う> 例の上司は? 154沙英:ああ、最近あんまり会ってないから、すっかりすっぽ抜けてました。 155優考:<笑う> 156沙英:上司いなくて部長と話したんすけど、えらい喜んでもらって。 けっこー大袈裟だったけど、そういうモンなんです? 157優考:そういうモンよ。 俺だって、仕事できる派遣ちゃんが弊社来てくれたら嬉しいわ。 158沙英:へええ。 159優考:シフト制になるとね、生活リズムあっという間に崩れるから。 マジで体調とか気を付けてねー。 160沙英:はー……あれ? シフト制になるって言ってましたっけ? 161優考:ん? あれ、前言ってなかった? 162沙英:えー覚えてない。 よく覚えてますね? 163優考:アレでしょ? 土日関係ナシになるんでしょ? 164沙英:そうです。 えー私そんな事まで愚痴ったっけ、すいません。 165優考:あーアレ、俺が勝手に文脈で察しちゃったのかもしれないね。 166沙英:まあまあまあ、兎に角、色々聞いて頂いてるんで、ご報告です。 167優考:はい、ご報告ありがとー。 168沙英:なんか、これだけ話聞いてもらってるのに顔も知らないって不思議ですね。 169優考:顔見るとがっかりしちゃうよ。 いいじゃん、こういうのも。 文通? 秘密の関係? っていうかさ。 170沙英:ユタカさんって端々(はしばし)女子力高くないすか。 171優考:そお? どの辺が? 172沙英:こないだの手紙、ハート書いちゃう所とか。 今も文通とかサクッと出てきちゃうの。 173優考:焼き鳥とビールを愛するおっさんなんだけどねー。 174沙英:お兄さんでしょ。 175優考:どーだろ。 でもさ、アレ、なんだっけ。 こんな童話なかった? 176沙英:童話? 177優考:あのーアレ。 髪の長いお姫様が高い塔に、 178沙英:ラプンツェル? 179優考:そう、それだ! こんな感じじゃない? 180沙英:上下逆じゃないっすか。 アレ王子様が下にいるんですよ? 181優考:でも俺女子力高いんでしょ? 182沙英:え、私が迎えに行くんですか。 183優考:待ってるね? 184沙英:ラプンツェルって髪使って自力で下りてませんでしたっけ。 185優考:あれ? どっちだっけ? 186沙英:どっちにしろユタカさん、階段がーってポストでいいって言うじゃないですか。 187優考:そりゃね? 女の子にご足労頂くのはちょっと。 188沙英:じゃー迎えに来て下さいよ。 189優考:そんな事異性に簡単に言うモンじゃありません。 それに俺が迎えに行っても、その後の行く先は焼き鳥屋だよー。 190沙英:いいじゃないすか。 あ、職場の近くに美味い焼き鳥屋あるんすよ。 191優考:えー何てトコー? 192沙英:七福堂(しちふくどう)っていうんですけど。 193優考:あー知ってる! ボッロい立ち飲みでしょ!? 194沙英:知ってます!? 195優考:知ってる知ってる! え、行くの? 196沙英:行きますよ。 197優考:一人じゃないよね? 198沙英:一人ですよ。 199優考:えー! 200沙英:いいでしょ、別にイマドキ! あそこのトマト巻きが好きなんですよ! 201優考:それはわかる、めっちゃわかる。 でも女の子なんだから、一人で出歩くんじゃありません。 202沙英:はいはーい。 203優考:イマドキね、変な男もいっぱいいるんだから。 夜道をイヤホンしたまま歩いたりしちゃ駄目だよー? 204沙英:<夜道、息を整えた後、溜息をついて> ──……夜道怖いとか、身をもってわかってますって。 誰なんだよマジ。 やだなー、これからもっと帰り遅くなるってのに……。 205優考:最近帰り遅いねー? 206沙英:んえっ。 207優考:え、なに? 208沙英:あ、いや、あのー……なんでも。 209優考:どうしたの、歯切れ悪いじゃん。 210沙英:……ちょっとガチめな相談事、いいっすか? 211優考:いいよー? なに、どしたの。 例の上司? 212沙英:じゃなくて。 んー……。 213優考:正社員キツい? 214沙英:それはわかりきってた事だから大丈夫、なんですけど。 215優考:そう? サエちゃん色々真面目だし、義理固いし。 頑張りすぎてないかなっておじさん心配よー? 216沙英:お兄さんでしょ。 217優考:ココんとこ帰りも遅いみたいだし、コンビニ飯多いみたいだしさ。 218沙英:まあ、……え? 219優考:ん? 220沙英:あ、いや、なんでも。 <小声> ……なんで、 221優考:そ? 大丈夫かなーって思ってたんだよ? 222沙英:<小声> コンビニ飯多いって、知ってんの。 223優考:あんまり頑張りすぎないようにね。 224沙英:あ、ああ、はい……。 225優考:で、ガチめな相談って? 226沙英:……ユタカさんって。 227優考:うん? 228沙英:良い人、ですよね。 229優考:え、そう? あはは、サエちゃんにそう思ってもらってるならよかったなー! 230沙英:なんか不意に、なんでこんな話してくれるんだろって、思って……。 231優考:んー? このラトゥールを分けてもらった恩人だしさ。 すくすく育っちゃって。 お陰でこの夏、大分快適に過ごせてる訳ですよ。 それだけでもありがたいのに、やっぱご近所の一人暮らしの女の子って気に掛かるし。 232沙英:はあ……。 233優考:恩を着せたい訳じゃなくて、ほら。 大人になると交友関係って狭くなっちゃうし。 だからこう、手元にある縁は大事にしたいよねー、みたいな。 234沙英:……。 235優考:悩みって、人間関係なのかな? 236沙英:まあ、一応は? 237優考:何それ。 俺が聞ける事なら聞くよー? 最初にも言ったじゃん。 困った事あれば言って、って。 238沙英:……そ、すね、そーっすね! <頬をぺしっと叩く> 239優考:え、何なに? 240沙英:あーなんかもー! 疑心暗鬼してる! 気持ち悪い! 241優考:ほんとにどうしたの、大丈夫? 242沙英:大丈夫! 多分! 聞いてくれますか! 243優考:うん、聞く聞く。 244沙英:……実は、三か月くらい前から、夜。 245優考:うん。 246沙英:帰り道で誰かに、 247優考:あ、ちょっと待って。 248沙英:ん? 249優考:あーあーダメダメ、メロちゃん駄目。 今煙草吸ってるから。 ごめんね、お水無くなったかな? ちょっと待ってて。 250沙英:……おお? 251優考:ごめんね。 うちの猫ちゃんが怒ってるから、また。 252沙英:え、猫飼ってるんすか!? 253優考:そー。 メロちゃん。 254沙英:女の子? 255優考:女の子。 俺とラブラブだからさ、実家から連れて来ちゃった。 256沙英:煙草大丈夫なんですか。 257優考:ほんとは絶対ダメだよ。 普段は部屋分けて煙草もベランダだけ。 水か餌が無くなったんだと思う、ごめんね、バタバタして。 ご立腹だ。 258沙英:いえいえ。 <苦笑する> あー、とてもご立腹だ。 259優考:あ、うん、ごめんね、ドタバタしてるの聞こえちゃってる!? 260沙英:はい。 また、近いうち相談させてもらえれば、大丈夫なんで。 メロちゃんによろしくー。 261優考:ご、ごめんねほんとに! メロちゃん爪立てないよ、駄目だよレディがそんな事したら! また今度ゆっくり聞くから! メロちゃんだーめ! ココ賃貸だからダメ! 今、今シューってしてるから! 臭いのイヤでしょ、待ってああ、ガリガリしない! 262沙英:……人間って猫飼うとマジで奴隷になるんだな……。 でも、うん。 ユタカさんが私の事、つけ回す理由が特にないよな……。 263優考:ごめんごめん! ほんと! ほんとに! 爪磨ぐのは止めてー! <夜道。> 264沙英:……じゃああの男、ほんとに誰なんだよ、って話なんだよな……。 警察ってイチイチゼロだっけ、キュウだっけ、どっちだっけ……。 265優考:──見掛けたのは、本当に偶然だった。 266沙英:<溜息> 毎日毎日……。 267優考:──黒いフードを被って、足音を殺して。 268沙英:ここ曲がったらコンビニ、ここ曲がったらコンビニ……。 269優考:──黒い服で、黒い靴で。 270沙英:大丈夫、今日も大丈夫、今日も、── 271優考:──今日は早歩きで、無防備な左腕を 272沙英:だいじょ、 273優考:──掴みあげられて漸く、 274沙英:ひ、 <優考、缶ビールで男を思い切り殴る。> 275優考:手前何してんだコラァ! 276沙英:──グリーンカーテンが無い場所での、その人は。 277優考:──殴った勢いで潰れた缶ビールの飛沫を浴びながら。 278沙英:──何てことないTシャツと、ジンベエを履いて。 つまみと缶ビールを、抱えていた。 279優考:──彼女をつけ回していた男が倒れ込むのは、まるでスローモーションのように見えた。 280沙英:──ストーカーとも、嫌がらせとも言い難いここ三ヵ月の悩みの種。 まるで解決の糸口を祝うかのように。 ビールの飛沫は盛大に舞っていた。 281優考:サエちゃん大丈夫!? コンビニまで、走れる!? 282沙英:──ユタカさん? 283優考:うん、わかる!? 284沙英:わか、わかります、 285優考:一回、一回コンビニ行こ! <コンビニ内。> 286優考:<警察への電話> ──……はい、そうです。 今三丁目の、駅に近いコンビニに……はい。 すみません、俺結構力いっぱいその男の事殴っちゃって。 その、腕掴まれてるの見て慌てちゃって、あのー……缶ビールで咄嗟に……ああ。 <沙英に向って> サエちゃん、今痛い所ってある? 287沙英:大丈……強いて言えば、手首、掴まれてちょっとだけ痛いかもです。 288優考:<電話> 女の子の方、男に掴まれた手首が痛むみたいで。 コレって診断書……取った後の方がいいですよね。 はい、……はい、わかりました。 交番じゃなくて警察署でいいですか。 ……わかりました、はい。 ありがとうございます。 失礼します。 <終話> 289沙英:あの、 290優考:今ね、お巡りさんがすぐ見回ってくれるって。 手首が痛むなら病院行って、酷いなら今から緊急外来行って、って。 どう? 291沙英:あー……そこまででは、ないです。 292優考:本当? 293沙英:うん。 294優考:じゃあ、明日。 診断書をもらって、警察署に被害届出してくれって。 俺もついてくから、相手殴っちゃったし。 295沙英:そんな、助けてもらってありがとうございました。 296優考:いやいや、丁度ココのコンビニ来た帰りでさ。 297沙英:あと、あの。 298優考:ん? 299沙英:手ー、そろそろ離しても……。 300優考:……あ!? <手を離す> ごめん! 俺いっぱいいっぱいでさ!? ちょっと待ってて、あの、お詫び。 鈍器にしちゃったビール買い直したいし、 何か飲みたい物ある!? ごめん、あんな怖い思いした後なのに! 301沙英:大丈夫、っす。 302優考:あ、そう!? ちょっと、あの、ダッシュで行って来るから待ってて。 <一頻り店内を走ってレジ前> すいません、十四番とー……三十二番、一つずつ! 303沙英:<笑う> 声デッカ……。 304優考:ごめんごめんごめん、喫煙所行こう。 ピースと、コーヒーのブラックね。 あげる。 305沙英:あ、どうも……。 306優考:もしかしてこの間相談しようとしてたの、コレ? ストーカー? 307沙英:……はい。 なんか、ずっと後をつけられてて……。 308優考:いつから? 心当たりは? 309沙英:心当たりは特になくて、三ヵ月、くらい前からかな、急に……。 310優考:そんな前から? 警察に相談しなかったの? 311沙英:ネットで調べたら、実害が出ないと警察動いてくれないって。 312優考:それでも警察に相談実績が有るのと無いのは全然違うって、書いてなかった? 313沙英:……そこまで見てなかった。 314優考:もー! 俺たまたま通れたからよかったけど! 315沙英:ほんとすみません、ありがとうございます。 316優考:あのね、サエちゃんいっつも帰り遅いんだから! 運が良かっただけなんだよこんなの! わかってる!? 317沙英:……あー。 <思い出し笑い> 318優考:何!? 俺ちょっと、ほんとに怒ってるんだよ!? 319沙英:すんません、いや、あの。 さっき走った時も思ったけど。 320優考:何!? 321沙英:そのカッコでよくそんなに走れますね。 322優考:……あー。 慣れだよ、慣れ。 323沙英:気ぃ抜けるわー……あ。 初めまして、イチゼロニの、ニシザワです。 324優考:あ、……あーどうも。 ニーゼロニの、者です。 325沙英:へへ。 326優考:変な感じするね。 もー、ほんとに……後は、警察の人に怒られて。 327沙英:ユタカさんもね。 ビールで殴ってたし。 328優考:そうだね。 いや、ラトゥールとかトマトとか、色々。 本当にありがとう。 329沙英:いやいや、こっちこそ。 トマトどころじゃない恩ができちゃって……。 助けてもらった上に、煙草とコーヒーまで。 ブラックが好きって話しましたっけ。 330優考:<煙草に火を点けながら> んー? いつも飲んでんじゃん。 331沙英:へ? 332優考:あ。 333沙英:いつも? あれ、職場では飲んで、ます、けど……。 334優考:あ、そうなんだ……。 335沙英:そういえばユタカさん、私の好きなチョコとか、職場シフト制になるとか、 私がコンビニ飯ばっかり食べてるのとか、色々知ってましたよね。 アレ何でですか? 336優考:何でって、特に深い意味は……。 337沙英:私ちょっとビビったんですよ。 もしかしたら、ストーカー。 つけ回してたの、ユタカさんなんじゃないかなって。 338優考:……あぁ……しくじった……。 339沙英:え、え? なに? ほんとに何で、あんなに色々私の事知ってんすか? 340優考:……俺の事、マジでわかってない? 341沙英:へっ。 342優考:ああー、ちょっと待ってね……。 <前髪を持ち上げる> これプラス、眼鏡、紺スーツ。 343沙英:──……あああああ、SV(エスブイ)、ヤトさん!? 344優考:マジで気付いてなかったんだ……。 345沙英:お疲れ様で、いや、いやッ、髪下すとわっか! 346優考:それ言われるのがイヤで上げてるんです……。 347沙英:あああああ、マジでヤトさんだ、敬語使うとマジでヤトさんだ!? 348優考:はい、ヤトです。 からかわれてるのかと思ってましたよ、僕。 349沙英:僕って言ってるのマジでヤトさんだ!? 350優考:からかわれてるのか、マジでわかってないのか、わかんなくて。 だからできるだけ顔合わせたくなくてお裾分けもポストでって……。 351沙英:あれ? 先月リモート打診してくれたの。 352優考:ニシザワさんが変な男に後つけられてるの、偶然見ちゃったから。 あの子つけられてるなって思ってたら、同じアパートで、下の階で、 日曜に庭いじりしてるのたまたま見掛けて。 あれ派遣のニシザワさんだ、って。 353沙英:日曜も仕事してるって、日曜は休み、 354優考:正社員はシフト制になるでしょ。 355沙英:あ! ブラックとコンビニ飯とチョコ! 356優考:職場であなたが食べてる物ですね。 357沙英:七福堂! 358優考:職場同じなら立ち寄る所も似通りますよね。 359沙英:最近喫煙所ですごいこれ見よがしにセッタ出してたのって、 360優考:気付いてくれないかなって思ってたんだよ! 部下の子がさ、変な男に帰り道でつけられててさ! でも俺から一緒に帰ろうとか言えないし! 仕事中あんだけ澄ましてて、鬼のヤトって呼ばれてんだろ俺!? 361沙英:あっ……。 362優考:その鬼のヤトがさ、あなたつけられてるから一緒に帰りましょうって! しかも同じアパートの二階、真上に住んでるって! 言ったら引かれるの、目に見えてるじゃん! 363沙英:…… <ややあって笑いだす> 364優考:なに!? なんだよ!? 365沙英:私服ダッサ……。 366優考:今そこなのかよ……! 367沙英:いや、Tシャツにジンベエにサンダルって。 あのヤトさんが。 368優考:そーですね。 俺は鬼のヤトですもんね。 369沙英:それは、なんか、……すんません。 370優考:……いーえ。 俺、大人数で飲むの苦手だからさ。 飲み会今更出づらいし、みんなの空気感わかんねえのどうしよう、とは、思ってて。 悪くは思われてないみたいだし、バイトとか、仲良くしてるのとか。 悪い職場だって思われてないってわかって、精神的に助かってた。 371沙英:……まあ、結局正社なりましたもんね、私。 372優考:そう。 ニシザワさん、派遣会社がすげー押してたからさー、……。 仕事、ネチネチ捲し立てるのは、ごめん。 俺も今年チーム持ったばっかで必死で。 373沙英:馬鹿真面目の仕事馬鹿だけど、ちゃんと助けてくれる人だってわかったから。 374優考:ほんとに? 375沙英:ほんとに。 376優考:俺、鬼のヤト以外にみんなに何か言われてない? 377沙英:言われてないけど、……ああ、そういえば。 こっそりお菓子食べてるし、私らの事、バイトちゃんとか派遣ちゃんって呼んでるんだ。 378優考:黙ってて……。 379沙英:黙ってる。 ずっと言ってるけど、良い上司じゃん。 380優考:……ん。 <手を差し出す> 381沙英:ん? 382優考:帰りますよ、ニシザワさん。 383沙英:……手、繋いで、っすか。 384優考:イヤなら別にいいけど。 385沙英:敬語使われると鬼のヤト思い出すから、敬語封印なら……。 386優考:帰りますよニシザワさん! 仕事馬鹿の僕が明日休みを一日差し上げますからね! 今日は早く帰ってゆっくり休んで下さい、体調管理も仕事のうちなんですから! 387沙英:あっ……。 388優考:まあ僕も休みますしね、申請は僕が勝手に出しますからね。 ええ、仕事馬鹿ですからね。 聞いてますかニシザワさん、わかりましたかニシザワさん! 389沙英:すごい根に持ってる。 390優考:わかりましたと言うだけではなくですね、僕らの業種は言葉を扱う訳ですから、 391沙英:わー! 仕事のトーンでくるの止めて、ほんと! リモートでも圧が変わらないってみんな言ってる! 392優考:言ってんじゃん! 393沙英:そんなんだから仕事馬鹿って言われるんだって……。 394優考:<笑う> ……帰ろ。 俺さ、七福堂の焼き鳥買ってあるから。 分けるから、またベランダで飲も。 395沙英:部屋来ます? 396優考:異性を簡単に部屋に招くんじゃありません。 397沙英:ちゃっかり手ぇ繋いでんのに。 398優考:それとコレとは別! 399沙英:あ、いや。 部屋行きたいな。 400優考:俺の話聞いてる!? 401沙英:いやいやいや。 メロちゃんに会いたいし、グリーンカーテンの成長具合、見たいからさ。 折角分けて差し上げたんだから。 ね? 402優考:……わかりました。 2022.5.31 初版 羽白深夜子 2022.6.23 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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