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【eclat de cocon】 (えくらでここん) 男性1:女性1。「eclat et rose」の別視点のお話。 作中の配役表記、三点リーダ等意図的に排除しています。 有償版販売ページはこちら。 男……男声(少年・サーカスの座長・父親) 女……女声(母親・サーカスの呼び込み・赤い眼の少女) 【配役表】 男: 女: ======================================= 001女:──はいはい、どうしたの、おチビちゃん。     まあ、困った子。 沢山眠って良い夢を見ない子は、素敵な大人にはなれないの。     子守唄は、いらない? そう。 大きくなったわね。     大きくなったおチビちゃん。 ならば一つ、お話をしてあげるわ。     夢を見る事ができなくなってしまった、彼のお話を。     夢を捨ててしまった、彼のお話を。 ​ 002男:さあ、さあ、何なりと。 僕にお申し付けを。 お代は銅貨のたった一枚で構いません。     靴を磨きましょう。 使いをして来ましょう。 僕がなんなりと、あなたの願いを叶えましょう。     そこのあなた。 これからお買い物ですか? もう夜も更ける、ご子息を連れて出歩くのは危ない。     僕が代わりに買い物をしてきましょう。 お代は銅貨のたった一枚で 003女:嫌よ、止めて頂戴。 お前みたいな子が買って来た物を、この子が食べたいと思うもんですか。     そう言って彼を振り払った女性の反対側の手には、上等な服を着た彼より小さい子が、にこにこと笑っています。 004男:……ああ、それもそうか。 僕のようなみすぼらしい子が買って来た食材では、あの子は笑ってくれないのか。     ならば男性はどうだろう。 もし、そこの旦那様。 靴磨きは如何(いかが)でしょうか。     その上等な履き物を、今よりきっと上等にして見せましょう。 お代は銅貨のたった一枚で、……     え、盗み? いやいやいや、僕にそんな事は、うわぁ!? (押し飛ばされる) ​ 005女:彼がどうして、そうやって生きているのか。     彼を産んだお母さんは、そのまま天に召されてしまったの。 守ってくれるお父さんもいなかった。     だからね。 彼は、たった一人で生きるしかなかった。     可哀想? そうね、可哀想。 それでも、この世界中にはそんな子が溢れかえっているのよ。     そんな子供達が生まれてしまうのだから。 神様は、きっと退屈していたのかもしれないわね。 006男:ああ、どうしよう。 今日もどなたも僕を使って下さらなかった。     銅貨が無ければパンは食えない。 パンが無ければ、僕は飢えて死んでしまう。     盗みなんてする度胸もない。 ああ、僕はどうしたら生きていけるんだ。 007女:ねえキミ、随分困った顔をしているね? 008男:うわぁ!? 009女:こんにちは。 この町にしばらく滞在するサーカスの団員さ、どうぞよろしく。 010男:サー、カス? 僕、サーカスを見た事がない。 011女:ありゃりゃりゃりゃ。 それは不幸な話だ! あんなに楽しいモンを知らないなんて!     この町の陳腐なサーカスより、もっともっともっと! 素晴らしいものが見れるサーカスさ! 012男:楽しいの? 013女:そう! アタシの人生で、サーカスより面白いものは他になかったね! 014男:本当に? 一体何が見れるの? 015女:何でも見れるさ? 人の支配、努力、笑顔、幸福。 人生に必要なものは、何だってサーカスに揃ってる! 016男:人生に、必要なもの? 017女:そうさそうさ! アンタ、見た所アタシと同じ匂いがする。 サーカスを知らなかった頃のアタシとね。     一度見に来るといい。 ウチの座長はとびきり優しくて、人生に必要なものは何でもかんでも揃えて下さる!     それにね、まずはタダでサーカスの楽しさを教えてやるってんだからね! ほら、これがチラシ。 018男:ありがとう! あ、ねえ。 キミは人生に必要なものはサーカスにあるって言ってたけどさ。     僕は今日食べるパンにも困っているんだ。 これも、人生に必要なものかい?     だとしたらそれも、サーカスにあったりしないかい? 019女:だーからぁ、アンタはアタシと同じ匂いがするって言ったろう?     楽しく働いて楽しくメシを食う! それすらもサーカスには揃ってるんだよ! 020男:そうなんだ。 ありがとう、絶対に見に行くよ! ​ 021女:それから彼が見たサーカスは、本当に本当に素晴らしいものでした。     いつもの公園でゾウが練り歩き、火の輪をくぐる虎や美しい団員の空中ブランコ。     必ず風船を射抜くナイフ投げに、そして、彼にチラシを渡してくれた彼女の綱渡り。     どれもこれも、彼には信じられない程美しくて、ハラハラして。 夢中になって拍手を送りました。 ​ 022男:ねえ! ねえキミ! すごかったよ! あんなに細い綱をどうやって渡ったんだい!?     あんなに楽しくて素晴らしい事が、人生に起こり得るなんて僕には信じられないくらいだよ! 023女:アンタ、見に来てくれたんだ! ありがとう。 でも綱渡りの秘訣は内緒。     実はアタシ、今日がデビューだったんだ。 隣町でアンタのように暮らしていた所を拾われてね。 024男:そうだったのか。 だから、楽しく働いて楽しくメシも食えるって知っていたんだね。     僕にもあんな事ができるだろうか、キミのように人々をハラハラさせたり、笑顔にする事ができるかな? 025女:やりたいと思えば何だって叶うさ。 アタシをご覧?     つい先週まではアンタと同じ物乞い。 今日からは、アタシがこの町一のエンターティナーだ!     ほら、アタシについておいで。 座長と話をしよう。 アンタの話はしておいてあるからね、きっと使って下さる! ​ 026男:やあやあやあ、どうも初めまして。 キミかな? 彼女の紹介でうちのサーカスに入りたいというのは。     私はこのサーカスの座長をしているよ、よろしく。     キミ、歳は? ──はいはい、彼女と同じ。 少し大きいな。     では、顔をよぉく見せておくれ。 ……おお、綺麗な顔をしている。 きっと人気が出るだろう。     サーカスの仕事や訓練はとても厳しい。     動物達の世話に稽古と何かと忙しいから、逃げ出してしまう団員も多くてね。     しかし見合った給金は約束しよう。 そら、そんなボロ切れを脱いで。     新しい服をあげよう、顔を洗っておいで。 027女:それから、彼の毎日は一変しました。     朝早くに起きて会場を掃除し、動物達に餌をやり。     毎日毎日煌(きら)びやかな上演を見ては、きっといつか自分もあの場にと、夢を見た。     彼女と同じ綱渡りの練習を始めたのは、サーカスに入って三日後。 彼女は彼に、色んな事を教えてくれた。     凶暴な虎がどうして言う事を聞くのか。 細い綱の歩き方。 小さなお客様への手の振り方。 美味しいパンの焼き方。     全部全部、彼女が教えてくれたの。 彼も、それをよく聞いていた。     そしてね、毎日星が見える頃になった時。     きっと二人で、どの町に行っても一番と謳われるエンターティナーになろうと約束をしたわ。     でもね。 それからしばらくして、彼はとても奇妙な事に気付きました。 028男:このサーカスには、大人が座長しかいない。 そして、道具はいつもピカピカの新品だ。     きっと、座長は僕のような可哀想な子供に仕事を下さっているんだ。     きっと、可哀想な僕らが怪我をしない為に、新しい道具を持って来て下さるんだ。     なんて素晴らしい場所なんだろう! 僕も早く、芸を覚えて一人前にならなくちゃ。 まずは綱渡りだな。     ……おーい? そろそろ稽古の時間なんだけどー……倉庫の方かな。 029女:いいえ、彼は知らなかっただけ。     素晴らしいサーカスの座長、その男は、芸ではなく全く違うものを商品にしていたの。     素晴らしい芸は、確かに一つの宝石のような商品になる。 けれど男が売っていたのはもっと違うもの。 ​ 030男:おーい? ……何だろう、この匂いは。 031女:自分と同じ、可哀想な子をサーカスに呼んであげなさい。     その子が努力をして芸を身につければ、きっと一生食べる物に困らない。     その芸で人を幸せにして、賃金を得て、食料を得て、人を笑顔にして歩く事は、きっとキミの喜びになる。     喜びとは、きっと人生に必要だ。 032男:──……あ……? ​ 033女:そう言って新しい服をくれた男の言葉を、みんな信じていました。     だからね、何も知らないままなの。     彼だってその時は気が付けなかったわ。 訳がわからなくて、大人になってから気付いた。     だから。 034男:……っ、ああああああああああああああああああ! ​ 035女:チラシをくれたあの子の最期は、あなたにはまだ早い。 036男:──誰も追って来ない。 よかった、無事に逃げ切ったんだ。     よかった? どうして。 あそこには人生に必要なものがあるんじゃなかったのか。     あんな風に、人の生を踏み躙る事も必要だっていうのか?     こんな事ならば、あんなものを見るのなら。 町中で盗みを働く方がずっとましだ。 037女:いいえ、何も間違っちゃいないわ。 彼は絶望し、それでも生に縋った。     サーカスが町を去ってから、財布を盗み、食料を盗み、人に殴られようが、貶されようが、それでも生に縋った。     毎日毎日をようやっと生きた。 ずっとお腹が空いていた。 人の幸せを忘れた。     それでも、生きる事に縋っていたの。     そして、彼は絶対に、人を傷付けなかった。     だってね。 ずっとずっと、覚えていたんだもの。 彼女と切磋琢磨した日々を。 038男:そうだ、僕は一時も忘れたりしない。     辛くても切磋琢磨した日々を、隣にいたキミを、キミが教えてくれた僅かな生きる術も。     毎日の少ない糧を得たあの日々を、それらを踏み躙られたあの絶望を!     こんなモノが人生に必要なものか! こんなに惨めな僕を置いて! なにが幸福だ! 039女:ねえ、あなた。 040男:……何だよ。 041女:この真珠を売って。 きっといくらかのお金になるわ。     それでパンを買って食べて、お願い、生きて。     私があなたを助ける理由は、きっとそれだけでいいの。     さあ、受け取って。 生きていれば、きっといい事があるもの。     少なくとも私は、そう信じてる。 042男:……え? 043女:ね。 絶対に、そうしてね。 044男:えっと、ねえ! なんで!? どうしてこれを僕に!?     ──……行っちゃった。 でも、真珠。 ああ、真珠だ。 こんなに上等な物は見た事がない。     きっと幾枚かの銀貨になる! パンだ、いや、肉が食えるぞ! それでもきっとあり余る! 045女:そうして彼は数枚の銀貨を得て、上等な食事を取り、服を買いました。     銀貨はまだ幾枚か残っていて、彼は道端で少し、考えます。 046男:これで贅沢をする事は簡単だ。 だけど、使えば尽きてしまう。     尽きたらまた盗人だ。 どうしよう、僕はどうしたいだろうか。     ……どうせ盗人に戻るなら。 あの子に返そう。 赤い眼をした、真珠のあの子に返そう。     探さなくちゃ、どこに行けば会えるかな。 上等な服を着ていた、どこか大きい館のお嬢さんなのだろう。     僕のようなボロを着た人間が会えるのだろうか。 いや、まずは人が沢山集まる場所で話を──     いや、そうだ。 僕には芸がある。 あの子は寂しそうに笑っていた。 きっと僕が笑わせてあげよう。     この町のサーカスは確かに小さくて陳腐だ。 それでも、サーカスには人生に必要なものが揃ってるんだろう?     どの町に行っても一番のエンターティナーは、キミに譲るよ。     僕は、この町一のエンターティナーになって見せる。 僕を見捨て続けたこの町の、一番に。 ​ 047女:そうして彼は、数枚の銀貨を握り締めて小さなサーカスに入った。     最初は細い綱の上で、次にシルクハットから鳩を出す事を覚え、どんどん新しい芸を覚えたの。     町一番のエンターティナーになった。 そしてついには、サーカスの座長に上りつめた。 048男:けれどね、彼も途中で気付いたのさ。     どんな上等なシルクハットから鳩を出しても、道端に咲く花にすら敵わない事もある。     おチビちゃんにご婦人、一つ問題だ。 今日の私の、キミ達へのお土産は何だろう? 049女:まあ、何かしら。 夜更かしをしていた私達に、道端のおばけでも捕まえて来たの? 050男:いいや違う。 ほら、こんなに上等な花束だ。     夢を仕事に変えた僕は、キミ達の笑顔の為にこんな素晴らしい花束すら手に入れられるようになった。     どんな悲しい経緯があれど、辛い絶望があれど。 キミ達に花を買って帰る事のできる僕が誇らしいよ。     ついでに、明日の朝一番にはシルクハットから鳩をお呼びして、賑やかな朝食にしよう。 051女:さあ、今夜のお話はこれでおしまい。     明日はもっともっと、幸せなお話をしましょう。 2016.6.20 完成 羽白深夜子 2021.2.4  修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 サイトへ戻る