最終更新:2025/9/1 こちらは「有償販売のみ」の脚本です。 規約違反多数の為、2025年9月1日に無償版から移転しています。 サイト上では途中まで閲覧する事が出来ます。 購入はこちら
【斯くして王は供物を喰った】 (かくしておうはくもつをくった) 男性3:女性3。 ​「スクリーンに一輪」の前日譚です。 【間鳥蒼士(まとりそうし)】 外科医。26歳→28歳。 【高崎琴子(たかさきことこ)】 女優。24歳→26歳。 【外川雪子(とがわゆきこ)】 劇場照明スタッフ。24歳→25歳。 【森永千紗(もりながちさ)】 劇場スタッフ。24歳→25歳。 【白来冬哉(はくらいとうや)】 精神科医。27→29歳。 【榎本成司(えのもとせいじ)】 消防士。26歳→27歳。 蒼士、冬哉の友人。 男(ナガタ)……劇場スタッフ。白来冬哉と兼ね役。 隊員……消防隊員。榎本成司と兼ね役。 女A……火災現場の野次馬。外川雪子と兼ね役。 女B……火災現場の野次馬。森永千紗と兼ね役。 アナウンサー……テレビから聞こえる音声。高崎琴子と兼ね役。 【配役表】 間鳥蒼士   : 高崎琴子・アナ: 外川雪子・女A: 森永千紗・女B: 白来冬哉・男 : 榎本成司・隊員: ======================================= 001蒼士:──知りたかった、だけなんだと思う。 <劇場内通路。火事の中。> ​ 002千紗:──……ああ、私、ここで終わるんだ……。 <劇場舞台上手。火事の中。> 003琴子:緞帳(どんちょう)が燃えてる……。 004雪子:コトコ! あなたは逃げて! ここは危ないから! 005琴子:ユキコは? チサもまだ中にいるんじゃないの!? 006雪子:私はチサとか、動ける人を探して裏口から出る!      チサ、この時間ならきっと裏口に近い部屋にいるから!      大丈夫心配しないで、コトコは客席突っ切って、ロビーへ行って! 007琴子:私も行く! チサを探す! 008雪子:馬鹿を言わないで! 女優でしょう、顔に火傷でもしたらどうすんの! 009琴子:でも! 010雪子:でもじゃないの、しっかりしなさい!      私は動ける人を探す、コトコは怪我をしないでロビーに辿り着く、いい!? 011琴子:ユキコ、 012雪子:<遮る> ね? 私は大丈夫。 根拠なんてないけど、絶対大丈夫だから。 013千紗:……たっちゃん、まーくん、……ごめんねえ。 014雪子:私、この劇場を捨てられないの。 スタッフなんだもん。 わかって。 015琴子:──……生きて、外で、会えるよね。 っ!? <照明、二人の足元に落ちる。> 016雪子:……び、っくりした。 ははは、当然でしょ。 だから先に行ってて。 017琴子:絶対よ、お願い、早く来てね! <琴子、走り去る> 018雪子:わかってる! 足元に気を付けて! 怪我、絶対にしないで! 019千紗:……ママ、今日帰れないみたい……。 ごめんね。 020蒼士:──トガワユキコはその後、倒壊した劇場ホールで発見される。      他、モリナガチサを始めとした劇場の管理スタッフ、      その日勤務していた十数名は、焼死、煙による中毒、窒息等、いずれも死亡が確認されている。 021雪子:……あー……。 酷い有様。 022蒼士:──トガワユキコの遺体は舞台上で、モリナガチサの遺体は舞台裏通路で、発見された。      もう彼女達の意図を聞く事はできない。 聞いたとて、愚かとしか言えないだろう。      セキュリティシステムの不具合によって、防火シャッターが逃げ惑う人々の妨げになっていたとはいえ。      モリナガチサは、裏口付近の部屋からわざわざ舞台裏廊下に向かった痕跡があり、      トガワユキコは、客席を突っ切り階段さえ下りれば、火の回りが遅かったロビーに辿り着いたのだ。      現に、たった一人ロビーに辿りついた私の妻、マトリコトコは。      駆けつけた消防隊員に唯一保護されたのだから。 023雪子:この劇場、エリックがいたのかな。 人質だったのかな。 そんな話、聞いた事ないけど。 024千紗:住みつくならさあ、オペラ座とかさあ、もっと大きな劇場にして欲しかったなあ。 025雪子:コトコ、あの子、脅されてたのかな。 ふふ、ははは。 026千紗:あなたの気持ち、ちょっとわかるよ。 コトちゃんのクリスティーヌ、綺麗だもんね。 027蒼士:同じようにロビーに逃げていれば、助かったものを。 028雪子:──あなたも、コトコの芝居、好きだったの? 029千紗:──でも駄目だよ。 コトちゃんは、ソウシくんのお嫁さんになるんだから。 030蒼士:──……やはり、よくわからない。 <二年程前。コーヒーショップ店内。> 031琴子:すみません。 隣、荷物いいですか。 032蒼士:ああ、すみません。 033琴子:<座る> ……何を書かれているんですか? 034蒼士:え? 035琴子:いつも隣に座りますよね。 036蒼士:……。 今日は、マスクをされていないんですね。 037琴子:ええ。 038蒼士:──おかしな女だった。      人目に付かない隅(すみ)の席で、コーヒーショップだというのに。      いつもマスクをしていて、いつも画用紙を広げている女。 039琴子:いつもお隣で書き物をなさっているから、何をされている方なのかなって。 040蒼士:ああ、仕事のメモですよ。 041琴子:そうでしたか。 いつも熱心だから、てっきり作家さんなのかと。 042蒼士:あなたはいつも画用紙を広げていますね。 043琴子:<笑う> ここ、花壇が綺麗でしょう。 ​ 044蒼士:──明らかに度の合っていない伊達眼鏡、襟口の開いたセーター。      化粧っ気は薄く、レンズの奥の瞳は子供のように丸く大きく、よく動いた。 045琴子:いつも一枚だけスケッチをして、帰るの。 046蒼士:見せて頂いても? 047琴子:どうぞ。 048蒼士:……花? 049琴子:花。 050蒼士:この、赤いギザギザは何ですか? 051琴子:お花の部分です。 052蒼士:ならば、これが葉ですか。 053琴子:はい。 どうも、上手く描けなくて。 054蒼士:もう少し、手本をよく見て描かれた方がいい。 055琴子:おかしいですか? 056蒼士:チューリップはこう、お椀型はしていませんよ。 ほら。 057琴子:あ、新しい紙を使って。 058蒼士:いいんですか。 059琴子:ええ。 お手本を見ずとも描けるんですね。 060蒼士:ちらちら見てますよ。 061琴子:お仕事で絵を描かれているんですか? 062蒼士:いいえ、全く。 063琴子:でもお上手なんですね。 064蒼士:どうも小器用らしくて。 065琴子:私も色々、器用にできると思っていたんですよね。 なのに絵は駄目みたいで。 066蒼士:コツさえ覚えれば簡単ですよ、何事も。 067琴子:コツ? どんな? 068蒼士:想像した物ではなく、目で見た物を描けばいいんです。      ……花弁は数枚が重なって袋状になっていて、      こうして、花托(かたく)から花軸(かじく)が伸びている筈。 069琴子:かたく? かじく? 070蒼士:花軸は茎の事です。 花托は、実物を見られた方が早い。      花弁を支えている部分がある筈です。 071琴子:本当に? <立ち上がる> 072蒼士:──鉛筆を動かせば、女の目はくるくるとそれを追った。      実物を、と言えば唐突に席を立ち、窓ガラスの前にしゃがみ込むと。      括った髪の下に、セーターに収まる背骨が浮く。 073琴子:ありました。 お詳しいんですね。 <戻って来て座る> 074蒼士:この程度は、まあ。 学校で習いませんでしたか。 075琴子:学校、あんまり通えなかったから。 076蒼士:……はあ。 077琴子:美術の授業なんて殆ど受けなかったから、困ってて。      もしご迷惑でなければ、もう少し教えて頂けませんか。 078蒼士:──面倒だとは思った。 それでも、この女のくるくると動く瞳を見ていれば。      退屈しのぎにはなるだろうと、そう、思った。 <数日後。コーヒーショップ店内。> 079琴子:マトリさん! 080蒼士:こんばんは、タカサキさん。 081琴子:こんばんは。      この間マトリさんに教えてもらって描いたシクラメン、褒めて頂きました! 082蒼士:そうですか。 よかったですね。 083琴子:ええ。 ありがとうございました。 084蒼士:……今日はマスク、されてるんですね。 085琴子:あ、はい。 この後友達と待ち合わせをしてて。 086蒼士:この時間からですか。 087琴子:仕事が忙しいみたいで。 088蒼士:へえ。 089琴子:……あの。 ずっと聞きたかったんですけど。 090蒼士:はい。 091琴子:私が誰だか、わかりませんか? 092蒼士:は、……知り合いでしたか? 093琴子:いえ、そういう訳では。 何でもないです、ごめんなさい。      気になさらないで下さいね。 094蒼士:すみません。 人の顔を覚えるのが苦手なんです。 095琴子:成程。 私と話していても、興味がないってそんな感じしますよね。      ああ、うん。 興味がないって表現がぴったり。 096蒼士:そうですか? 097琴子:隠しても無駄ですよ。 アウトプットは下手でも、インプットは得意なんです。 098蒼士:……。 099琴子:私、いつも色々質問するでしょう。 100蒼士:はい。 101琴子:あれを面倒だって言う人もいるんですよ。      私は知りたいから聞いてるのに、 102千紗:タカサキちゃーん。 <遠めから> 103琴子:来たみたい。 今日は向こうで騒がしくしてます。      うるさかったらごめんなさい。 <琴子、蒼士から離れる> 104蒼士:……そうなのか。 あれは、面倒なのか。 105雪子:ごめんね、遅くなった。 一人で大丈夫だった? 106琴子:うん、大丈夫。 107千紗:ユキコちゃんね、スタ、…… <スタジオまで、と言い掛ける> 迎えに行くかって。 108琴子:<笑う> そんな気にしなくていいのに。 109千紗:ごめん、ごめん。 110雪子:ほら、外だから気を抜かないで喋るの。 111蒼士:──見た所、学生時代からの友人、という様子だった。      一人は背が高く、一人は胸元までの髪を巻いた、今風の女性。 112雪子:あ、またカプチーノだ。 113琴子:うん。 <雪子に飲み物を飲まれる> あ、ちょっと! 勝手に飲まないでよ。 114雪子:いつも思うんだけど、これ何が入ってるの? 115千紗:あっちのカウンターにある、バニラのパウダーでしょ。      一回タカサキちゃんと一緒にお砂糖入れに行って驚いたよ。      すっごい、ドバッと入れるんだもん。 引いたよ。 116琴子:このくらい入れた方が美味しいもの。 117千紗:シロップ変えてもらったら? 118雪子:へー、入れて来よ。 119琴子:ユキコのは…… <口を付ける> うわ。 120雪子:ブラックだから、タカサキは飲めないよ。 121琴子:苦い、苦い。 チサ、フラぺ頂戴。 122千紗:はいはいはい。 123蒼士:……。 <席を立つ> 124千紗:どう、お仕事。 別件(稽古)の方も順調? 125琴子:順調。 楽しみにしててね。 126千紗:ふふふ、これ慣れないなあ。 127琴子:ごめん。 128千紗:ううん。 今日は私とユキちゃんが誘ったんだし、こっちこそごめんね。      あ、そうだ。 あの付き纏ってる、あー、人(共演者)、どうなった? 129琴子:相変わらずだよ。 途中まで守衛さん(マネージャー)に付き添ってもらってる。 130千紗:こわー。 引っ越した方がいいんじゃない? 会社(事務所)の人に相談した? 131琴子:した。 タクシー……送り迎えもあんまりできないから、今度社長にも相談してみようかって。 132千紗:お家は? 知られてるの? 133琴子:知られてないと思う。 そもそもこんな外れまで── 134蒼士:タカサキさん。 135琴子:え、はい? 136蒼士:帰るんで、これ。 よかったらお友達と。 137琴子:あ、ありがとうございます。 138蒼士:──どこか妙な違和感のある会話。 一人だけ苗字で呼ばれる彼女。      マスクに指を引っ掛けて笑う彼女が、何故か、面白くなかった。 <ここから小声で。> 139琴子:……クッキー、もらっちゃった。 140千紗:誰? 誰? 格好良いね。 141雪子:誰今の。 知り合い? 142琴子:ここでよく隣に座る人。 143雪子:えー、大丈夫なの? 144琴子:大丈夫。 絵の描き方を教えてもらってるの。 145雪子:絵? 146琴子:ほら、画家の役がきて困ってるって、前に話したじゃない? 147雪子:あー。 名前教えて大丈夫なの? 148琴子:本名しか教えてないもん。 顔見てもわからなかったみたいだし。 149雪子:嘘、マジ? 150琴子:マジ。 151千紗:<大きめの声で> あー、あの人! 152雪子:うるさっ、え、何? 153千紗:<小声で> 近くの、私立病院の外科のお医者さん! 154雪子:そうなの? 若くない? 155千紗:こないだマーが怪我した時に、あの人に診てもらったもの!      そうだよ間違いないって、白衣じゃないからわからなかった! 156琴子:お医者様なの? 157千紗:うんうん。 背おっきいし、俳優さんみたいだなって思って、覚えてた。 158雪子:なーるほど医者か。 そりゃテレビなんか見る時間ないだろうね。      大女優のツラもわからない訳だ。 159千紗:あそこ良い病院だよお。 他の大きい病院と違って、あんまり待たされないからさあ。 160雪子:てかマーくん怪我したの? 大丈夫だった? 161千紗:ただの捻挫だよ。 もーずっとママ、ママ、って泣いてるんだもの。 162雪子:相変わらずママっ子だねえ。 そうして甘えてくれるのも今の内だよ。 163千紗:そんな事ないよ、マーはずっとママと一緒なの。      最近歯が一本抜けてさあ。 あ、写メ見る? 見てこれ。 164雪子:ははは! 可愛い! 165琴子:……ふぅん。 <数日後、コーヒーショップ店内。> 166蒼士:……舞台? 167琴子:ええ。 絵の件でお世話になりましたし、見にいらして下さい。 彼女さんと一緒に。 168蒼士:いませんよ。 折角だし、友人とお邪魔します。      こういう舞台を見るのは初めてだな。 お好きなんですか。 169琴子:ええ、好き。 一番好き。 170蒼士:へえ。 <チケットをまじまじと見る>      ……ウィリアム・シェイクスピア「マクベス」。 171琴子:ご存じですか? シェイクスピア。 172蒼士:恥ずかしながら、ロミオとジュリエットしか。 173琴子:なら、面白いと思いますよ。 アレとはまた感じが違います。 174蒼士:そうですか。 あ、お代を。 175琴子:この間のクッキーのお礼です。 176蒼士:いや、三枚も。 高かったんじゃ。 177琴子:仕事柄タダで手に入るんです。 渡す人もいないし、もらって下さい。 178蒼士:この間の彼女達に渡せばいいでしょう。 179琴子:彼女達、スタッフなんです。 180蒼士:ああ、舞台関係の方なんですね。 道理でお洒落だと。 181琴子:お洒落ですかね、あまり買い物に出ないから流行に疎くて。 182蒼士:お洒落でしょう。 ある程度身綺麗でなければ、付き纏われはしない。 183琴子:あ。 聞こえてました? 184蒼士:女三人寄れば何とやら、ですね。 もう少し音量を下げられた方がいい。      ここから家までは大丈夫なんですか。 185琴子:大丈夫です。 家はここから歩いてすぐで、オートロックですから。      ここで少し気を休めて帰れば。 186蒼士:……コンビニの、隣のマンションですか。 187琴子:え? 188蒼士:この辺りにオートロックの物件はそこしかないから。 189琴子:え、ああ、はい。 私、迂闊(うかつ)ですね。 190蒼士:住んでる人間しかわかりませんよ。 191琴子:……あ。 そうなんですか? 192蒼士:九階です。 帰りはお送りします。 193琴子:ご近所さんだったんですね。 私は十一階です。 194蒼士:驚いたな。 高給取りなんですね。 195琴子:まあ、色々あって。 ※続きは有償版をご購入の上お楽しみ下さい。 2017.2.12 完成 羽白深夜子 2018.5.17 修正 羽白深夜子 2022.2.20 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 2025.9.1 更新 羽白深夜子 引用 「マクベス」ウィリアム・シェイクスピア 「リア王」ウィリアム・シェイクスピア 「オペラ座の怪人」ガストン・ルルー サイトへ戻る