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【蜜月ショーシアター】 (みつげつしょーしあたー) 男性3:女性2。 「星屑のまじない」の前日譚です。 【西宮 結子(にしみやゆうこ)】 27歳、イギリス日系企業勤務。 19歳、大学生。(回想) 【ルイ・オルコット】 30~40代、小説家。イギリス人 【志野 直文(しのなおふみ)】 19歳、大学生。 【日高 正弘(ひだかまさひろ)】 19歳、大学生。 【遠矢 硝子(とおやしょうこ)】 19歳、大学生。 ​【配役表】 西宮 結子    : ルイ・オルコット : 志野 直文    : 日高 正弘    : 遠矢 硝子    : ======================================= <ロンドンのアパート一室。リビングにいる結子と、リビングに来るルイ。> 001ルイ:ユウコ、帰っているのか。 僕のメールは見てくれた? 食べる物が何もないんだ。      締め切りが明日なのにこれじゃあ腹の虫がうるさくって、      ……ユウコ、どうした? 泣いてるのかい? 002結子:ルイ、ねえどうしよう。 私日本に行かないと。 003ルイ:落ちついて。 ユウコ、何があった?      その手に持ってるのはエアメールだね。 一体どうしたんだい。 004結子:……。 005ルイ:……オーケイ、わかった。 丁度休憩を取りたかったんだ。      そこにあるのはテイクアウェイの折り詰めだね? 店は……よし、カンペキだ。      僕はその大好物の寿司達を頂く。 僕の淹れるコーヒーと交換しよう、いいね?      キミは顔を洗ってソファーで待っていて。 それから話をしよう。 006結子:ルイ。 私いつも言うけど、折り詰めのお寿司とコーヒーって合わないと思うの。 007ルイ:どうして? 僕達の祖国の味のマッチングだよ?      日本とイギリス。 この二つが混じり合ってマズイものができる訳がない。      僕をご覧、こんなに良い男。 キミもだ、イイ女。 そして僕らは楽しく過ごしてる。      ユウコは日本の寿司に慣れてるからそう思うだけさ。 008結子:はいはい、そうね。 009ルイ:納得していない時の返事だな、まあいい。 コーヒーができるまで僕の昔話をしよう。      ユウコに話した事はあったかな、前の彼女には話したんだけど。      僕はその昔、うんと小さかった頃。 神父様になりたかったんだ。      ただ、年に一回の誕生日さえ恋人と愛し合えないと知った時に気が変わった。 010結子:ルイが神父に? キリストが頭を抱えるわね。 011ルイ:だろう?      僕のような万年ティーンエイジャーは、あんな長ったらしい御託(ごたく)を      だらだらと大勢の前で披露するのは大変難しいんだ。      そもそもあの聖書とかいう御託には「神は初めに天と地を創造した」、      なんて書いてあるけど、詳細が何一つ書いてないからね。      ……一ついい事を教えよう。 いいかい、今のがブリティッシュジョークだ。      この笑いを理解するとキミはよりイギリス人らしくなる。 012結子:<苦笑しながら> どうもありがとう、よく覚えたわ。 013ルイ:良い返事だ、表情は見なかった事にする。      僕は僕の子猫を、ブリティッシュショートヘアに仕立てたいだけさ。 可愛いよね、彼ら。      さてさて。 キミにとって恐らく唯一であろうイギリス人のお手本であるこの僕の想像力では、      そんな聖書を読み解いて世界を作り、なおかつソイツで大衆を釘づけにするのは、      大変難しいと気付いちまったんだ。      ……あれ、何の話だっけ。 僕らは新しい子猫でも迎えようとしていたのかい? 014結子:神父になりたかった話。 015ルイ:それだ。 ユウコは本当に記憶力がいい。      その調子で僕の話を聞いてもらえたら嬉しいけど、残念ながらコーヒーが出来上がるので      エンディングに向かおう。 016結子:そうね。 私リクエストがあるの、次はルイ少年のティーンエイジャー時代のオイタを主に聞きたい。 017ルイ:それらは残念ながら時効だ、覚えていない。      ご存知の通り、僕は非常に奔放(ほんぽう)な人間でね。 五年以上前の事は覚えてないんだ。      誰かがかつて「リッチモンドのピーターパン」と呼ばれていた頃の      僕の輝かしい戦歴を記録していればまた話は別だが。 018結子:ならば質問は一つね。 可愛いティンカーベルがいたの? 019ルイ:いたかもしれないし、いなかったかもしれない。 真実は今や猫箱の中だ。      今やリッチモンドのピーターパンも、ビックベンの前で黒い髪のティンカーベルを見つけちまって、      その可愛い尻に敷かれているハッピーなお話の真っ只中だからね。      ……ん? 僕は何が言いたかったんだ? 020結子:神父になりたかった話。 021ルイ:そうそうそう。      だからピーターパンとして名を馳せしばらく経った今も、得意な事が一つだけある。 022結子:何? 023ルイ:人の話を聞く事は大得意さ。 特に、可愛いティンクのお話と笑顔が大好き。 024結子:残念ながら笑顔は今無理みたいなの。 お話だけでいい? 025ルイ:勿論だ。 <結子の隣に座る> はい、コーヒー。 026結子:ありがとう。 ……ナオフミが亡くなったって。 027ルイ:なんだって? 028結子:覚えてる? 029ルイ:覚えてる。 キミのカレッジの旧友だ、キミの日本での思い出話には必ず出てくる。      ああなんて事だ、早すぎる。 キミと同い年じゃなかったか? 030結子:そう、同い年。 031ルイ:エアメールはやはりショーコからだったのか。      おかしいと思ったんだ。 キミがショーコからの手紙を見て泣くだなんて。 032結子:だから日本に行かないと、って思ったの。 でもよく考えたら、葬儀はもう終わってる。 033ルイ:いや、行くべきだ。 034結子:でもプロジェクトがまだ纏まりきってない 035ルイ:<遮る> 僕から会社に断りを入れよう。 今すぐにでも発つべきだ。 036結子:ルイ、落ち付いて。 私今帰ったの。 何も支度してない。      それにプロジェクトも纏まってからじゃないと。 037ルイ:……発つのは明日だ。 明日朝キミは日本へ発つ、いいね?      僕が原稿を出版社に届けながらミスター・マークに話をしよう。 彼は情に厚い男だからね。      ユウコの普段の仕事振りを鑑(かんが)みてもバカンスがとれない可能性は極めて低い。      何も心配せずに行っておいで。 ところで、ショーコとはメールアドレスを交換していないのかい。 038結子:……ものすごく後悔してる所よ。 039ルイ:住所、は問題ないね。 エアメールがある。 040結子:……そうね。 ええ、辿り着けるわ。 041ルイ:<溜息> ヘイ、ティンク。 僕は話を焦り過ぎたようだ。      キミが日本に発つ準備の前に、いつものようにピーターの耳元で教えておくれ。 042結子:何を? 043ルイ:キミ、どうしてそんなに日本に行きたくないんだ? 044結子:……私そんなに変な顔をしていた? 045ルイ:想像力の足りない僕が、大嫌いな昔の自分の話をする程度には。 しかも一生懸命に。 046結子:どうもありがとう、ピーターパン。 047ルイ:よしてくれよ。 今やただの売れない小説家だ。 048結子:……ルイ。 私ね、帰りたくない訳ではないのよ、ショウコの事も心配。      でも、彼女に会いたいかと問われたら、昔の自分が泣きながら首を振る。 049ルイ:オーケイ。 その涙の理由を聞かせてくれるかい?      登場人物は、キミとショーコ、ナオフミ、そしてマサヒロ。      キミの三ヵ月だけの旧友。 そうだね? 050結子:そうよ。 私がこの国に来る直前に親しくなった、三ヵ月間だけの親友達のお話。      そして、これは話した事はないわね。 ……私がこの国に逃げてきた理由よ。 <正弘の台詞のみ19歳の頃、七福堂内。(結子の回想)> 051正弘:──じゃあ俺は、逃げ帰って来るのに餃子一皿。 052結子:そもそも彼らと親しくなったのは、私がマサヒロに授業のノートを貸した事が切っ掛けなの。 053正弘:──無理無理、どうせ話し掛けないで戻ってくるさ。 アイツ真っ青な顔してたし。 054結子:マサヒロとナオフミの二人は、高校時代からの親友でね。 私とナオフミもすぐ親しくなって。      時々、小さなラーメン屋さんで一緒にラーメンを食べた。 三人でね。 055ルイ:ラーメン。 あれはいいね、僕もピーターパンと名を馳(は)せた頃に出会いたかった。 056正弘:──だろ? んで、ユウコはどうすんだよ。 やっぱ止めたはナシだからな。 057結子:今思えば。 あの日私が二人と一緒にいなければ。      その後に何もなかったのかもしれない。 何も残らなかったのかもしれない。      本当に些細な事だけど……、 <19歳の頃、七福堂店内。> 058正弘:──トオヤさん、ねえ。      俺話した事ないんだけど、文学部の雪の女王って呼ばれてるんだって?      確かにすげー美人だよな。 059結子:私も話した事ないんだけどさ、話してみたらすっごい良い子かもしれないよ?      んー……迷うけど、願掛けも込みって事で!      私は二人で映画を見に行くのに半チャーハン一皿! 060正弘:あ、お前! 半チャーハンの方が三十円安いじゃねえか! 061結子:あとー、味噌ラーメンと塩ラーメンにー…… 062正弘:ナオフミ醤油って言ってなかったか? 063結子:え? 両方私が食べるんだよ? 064正弘:は? ん、ああ!? え、そっちのボタン!?      大盛り!? お前大盛り二杯喰うの!? 一人で!? <27歳の結子。> 065結子:──……本当に些細な事で、きっと、今も気にしてるのは私だけなのよ。      私は、彼らを傷つけてしまったと。 あれからずっとそう思っているの。 ※続きは有償版をご購入の上お楽しみ下さい。 2015.8.2 初版 羽白深夜子 2015.9.28 更新 羽白深夜子 2019.4.2 更新 羽白深夜子 2022.3.15 有償版作成 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 引用 「やまなし」 宮沢賢治 サイトへ戻る