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【霧氷のマリア】 (むひょうのまりあ) 男性3:女性3:男女可1。 「偶像のキャロル」続編です。 男女性別反転バージョンのサンプルは
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。 【矢作 幸多(やはぎ こうた)】 46歳男性。建築デザイナー。 【城内 凛(しろうち りん)】 40歳女性。出版社勤務。 【瀬田 花凛(せた かりん)】 26歳女性。フラワーコーディネイター。 【城内 理音(しろうち りおん)】 30歳男性。出版社勤務。 【水橋 ヨリ(みずはし より)】 年齢不詳、男女可。バー「七福堂(しちふくどう)」の店長兼ただ一人の店員。 ※男性の場合、オネエさんでお願いします。 幸多や凛を可愛がっているので、年齢は二人より上かなと思います。 【天寺 輝(あまでら ひかる)】 29歳男性。フレンチシェフ。 【推名 美来(しいな みらい)】 26歳女性。法律事務所勤務。花凛の幼馴染。 ※矢作真莉愛(やはぎまりあ) 名前のみ。幸多と凛の娘。 スイミングスクールで事故死している。 【配役表】 水橋ヨリ: 矢作幸多: 城内凛 : 瀬田花凛: 城内理音: 天寺輝 : 推名美来: ======================================= 0001ヨリ:嫌な予感は、してたのよね。 アタシ、世話焼きで面倒見が良いからさ。 まあ、ぼちぼち? モテんのよ。 ……何よその目。 今更、恋愛だとか、惚れた腫れたがどーこーだとか、一切、ぜーんぜん、全く。 興味ないのよ。 むしろ邪魔! だぁって良い店持って? お客さんもぼちぼち、来てくれて? 順風満帆な訳。 一昨年はリンちゃんとリオン。 去年はコウちゃんとカリン。 面倒見てきて。 そもそもリンちゃんとコウちゃんは常連っていうか、古い友人だし、 面倒見れて寧ろよかったなあ、って思ってるのよ。 リオンもカリンも、まあ可愛げはあるし。 あの子達も、リンちゃんとコウちゃんみたいに付き合ってくのよ、アタシ、きっと。 知り合って、縁持って、面倒見させてもらえて。 これぞ飲食店、個人営業明利に尽きるってモンよ。 でも! 自分の事ってなったら話は別! 面倒! そう、歳食うと自分の事って面倒なのよ! 0002輝 :あ、あ、あー……すみません! その、外、雨、すごくて! 0003ヨリ:今年は自分の番になるなんて、思わないじゃない。 <幸多、自宅。> 0004花凛:……ヨリちゃんだ。 0005幸多:うん、ヨリちゃん来てるよ。 0006ヨリ:はあい! お邪魔してまーす! 0007花凛:結構お酒飲んでるヨリちゃんだ。 あ、ただいま! 0008幸多:おかえり。 外寒くなかった、大丈夫? 0009ヨリ:マーッ! おかえり、ただいま、だってえ! マーッ! 0010花凛:面倒臭いタイプの酔っ払いだ……。 0011ヨリ:そうよぉ、今日は結構お酒飲んでて面倒臭いヨリちゃんよぉ! やっぱデザイナーって良い家住んでんのねえ! 0012花凛:え、え、何。 アレ何事なの、コウちゃん。 0013幸多:俺もわかんない……。 十分くらい前に来てずっとあんな調子だから、今から聞き出そうと思って。 カリンちゃんは先にシャワー、浴びておいで。 0014花凛:あえー……。 大丈夫なの、あの酔っ払い。 0015ヨリ:何よ! 去年散々面倒見てやったんだから、たまにはヨリちゃんの愚痴聞きなさいよお! 0016幸多:うんうんうん、俺が聞くからね……。 0017ヨリ:カリン! あんたに言ってんのよ! 0018花凛:なんで!? カリン仕事してたから、今超疲れてるんだけど!? 繁忙期! わかる!? 0019ヨリ:わかんない! 0020花凛:それに久し振りに泊まるから! オススメの映画持ってきたのに! 0021ヨリ:何よアタシが邪魔だって言うの!? 0022幸多:言ってないよ! 言ってないから! ほら、カリンちゃんパジャマ! 早く逃げて! 0023ヨリ:逃げてって何よ!? マッ! アンタ、パジャマ死ぬほど可愛くないわね!? 0024花凛:うるさいなあ! 0025幸多:ほらほらほら喧嘩しない! カリンちゃんはまずシャワーするの! んであったまって来る! <花凛、浴室へ走る。> 0026ヨリ:まあまあまあまあ、仲良しですことー! 0027幸多:そう? そう見える? 0028ヨリ:ええ。 幸せ振り撒いちゃって、いいじゃないの、全く! ん、こういう時って何を爆発しろって言えばよかったんだっけ? 0029幸多:……うーん……。 0030ヨリ:何よ。 0031幸多:あー……実はね、半年くらい前からずっとさあ。 <回想。半年程前。> 0032花凛:コウちゃんただいま! ベット来た!? 0033幸多:カリンちゃんおかえり! 来たよ来たよ、ほら、こっち! 0034花凛:わー……! 新しい! 0035幸多:そりゃそうだ。 0036花凛:ねえねえねえ、そっち、コウちゃんのベット! 寝っ転がって! 0037幸多:何、なに? 0038花凛:……ふふー。 0039幸多:どうですかー、新居の眺めは。 0040花凛:まだ新居じゃないもん。 引っ越さないもん。 0041幸多:えー? 0042花凛:たまにね、ここで泊まるから! <起き上がる> あったらしいベットだ、やったやった! 0043幸多:……ん、んー……。 もう半年、こんな感じなんだよなあ……。 <回想ここまで。> 0044ヨリ:ねえちょっと待ってヤッダもしかして寝(てないの)!? 0045幸多:時々! 泊りに! きてくれるようになるまで! 半年掛かったんだよね! 0046ヨリ:付き合ってもうそろそろ一年よね!? 嘘でしょ寝(てないの)!? 0047幸多:同棲しようよってね! 雰囲気は出してるんだよね!? 俺からね!? ……だけどなんか、断られたら嫌だなって、俺もはっきり言えなくてさ。 何となく、そういう話を避けらてるような気がするんだよね……。 0048ヨリ:そうなの? 0049幸多:いや、俺がそう思ったってだけなんだけど。 ……その、自意識過剰かもしれないけど結構、好かれてると思ってたから。 なんで同棲の話題避けられてるのか、全然わからなくて……。 0050ヨリ:……情けない男と、情けない女ねえ。 0051幸多:まあ、ん? 女? 0052ヨリ:何だっけなあ。 あの頃コウちゃんが言ってた、小動物ってアレ。 妙に的を得てたなって今でも思い出すのよね。 何だかんだ理由つけて、安心できる巣穴から出たくないんでしょ。 0053幸多:……。 0054ヨリ:ま、同棲の話を避けてるってのは、実際見てないからわからないけど。 ……何も間違ってないわよ。 コウちゃんは。 アンタの事だから、雰囲気出してるっつっても適度にーってやってるんだろうし。 正解は正解なんだけど、察し良くなきゃわかる訳ないでしょ、そんなの。 0055幸多:……そうだよなあ、そうなんだよなあ……。 0056ヨリ:付き合い始めて、もうそろそろ一年なんでしょ? 0057幸多:うん、そう、もうすぐ。 だから泊まりにきてくれるって話、だったんだけど……。 0058ヨリ:そういう事は早く言いなさいよ!? 上がりこんじゃったじゃない! はあ、もーわかったわかった。 邪魔者は退散しますよって。 0059幸多:ご、ごめんね、なんか……。 0060ヨリ:いーのいーの。 おかしいと思ったのよね。 クリスマスはまだ先だし、こんな何でもない日にご馳走並んでてさ。 なんか困った事があったら、すぐに連絡してよね。 すぐよ、すぐ! 0061幸多:わかったって……。 ほんとごめんね。 また今日の埋め合わせ、するから。 0062ヨリ:アタシが勝手に上がり込んだんだから、気にしないで。 じゃあね! <ヨリ、屋外へ出る。> 0063ヨリ:……聞き出されて、ないわね? <都内飲食店。> 0064ヨリ:って事があってね、さっき! アンタ捕まってよかったわー。 今日は誰かと飲みたい気分だったのよねえ! ほらほら、乾杯しましょ! 0065理音:はあ……。 何かあったんすか? 俺でいいなら話聞くくらいは、できますけど。 0066ヨリ:んーとねえ、……んん? アンタなーんでそんな暗い顔してんの。 あれ、そういえばリンちゃんは? 0067理音:接待で帰り遅くなるらしいんすよ。 0068ヨリ:らしい? ほん。 珍しいわね? 0069理音:でしょう!? ちょっと俺の話も聞いてもらっていいですか!? 0070ヨリ:な、な、何よ……。 <回想。半月程前。> 0071理音:リーン、夕飯できたよー。 0072凛 :ん? ああ、ありがと! 0073理音:またメール? 何なに、仕事? 0074凛 :そんなトコ。 ごめんね、家事任せきりにしちゃって。 0075理音:それは大丈夫だけど……。 0076凛 :夕飯何? あ、煮魚? いいねいいねー! 食器出してくるね! 0077理音:ん、ああ、ありがと! 0078理音:……うーん……。 なーんか、怪しい……。 <回想ここまで。> 0079理音:って感じで! 最近家にいてもずーっとパソコンかスマホ見てるんすよ! も、もしかして……って俺ずーっと気が気じゃなくて! 0080ヨリ:浮気して(るんじゃないの) 0081理音:してない! リンさんに限って浮気なんかしてない! 0082ヨリ:いや、 0083理音:俺の考え過ぎ! 絶対に俺の考え過ぎ! ですよね!? 0084ヨリ:……って言われても。 そんなに気になるなら、パソコンの履歴でもスマホでも見せてもらったら? 0085理音:俺にそんな事できると思いますか!? 0086ヨリ:できないでしょうね。 0087理音:わかってますぅ……わかってるから、誰かに話だけでも聞いて欲しくてぇ……。 ヨリさんから連絡がきた時にこれは天啓だって思ったんですよ、俺もうどうしたらいいかさっぱりでぇ……。 0088ヨリ:わかっ、わかったから! やだ、私が泣かせてるみたいじゃない! ほら、話聞いてあげるから鼻かみなさい! とりあえず! 0089理音:ありがとうございますぅ……。 <ヨリ、屋外を一人で歩きながら。> 0090ヨリ:……やっぱり聞き出されて、ないわね? <七福堂店内。> 0091ヨリ:世話焼いてるッ! 結局アタシは! 世話焼いてるッ! 0092花凛:おお。 結構なお点前で。 0093美来:カリンそれ違う! それはお茶の時に言うヤツ! 0094花凛:あれ? 0095ヨリ:そこじゃない! 0096美来:ひえ! す、すすすみません! 0097ヨリ:あっ、やだやだアタシったら、大きい声出してごめんね。 0098花凛:まあ、ヨリちゃんでもそんな風に嘆く日あるんだね。 大丈夫だってー。 ヨリちゃんが世話焼いてくれるから、カリン達超助かってるよ。 ありがとね。 0099ヨリ:<小声> 誰の所為だと思ってんのよ……! あー、えーっと、そう。 カリンのお友達ね、こんばんは。 <お冷を出しながら> 0100美来:はい、こんばんは! シイナです、いつもカリンがお世話になってるみたいなので、一言お礼が言いたくて。 0101花凛:ミライね、すごいんだよ。 法律事務所に勤めてんの。 カリンの小さい頃からの幼馴染。 0102ヨリ:ふうん、シイナミライちゃん。 カリンとはまた違うタイプの美人さんねえ、お姉さんウキウキしちゃうわ。 0103美来:え、ええ……? えへへ、あの、そうですかあ……? 0104ヨリ:でーも! その眼鏡、もちょっと考えた方がいいんじゃない? 白シャツにリクルートスーツって、アンタね。 いい歳した女がなーにやってんだか! 0105美来:ひえ、あ、あははは……。 0106花凛:<小声> いいぞいいぞ、ヨリちゃんもっと言ってやってー! 0107ヨリ:横の女見てみなさい、こんなチャラチャラした格好でアタシ仕事できるしーなんてホザいてんのよ!? 0108花凛:えーなんで、カリンはちゃんとしてんじゃん! 0109ヨリ:肩口の縫い目があってない! 背中の方、裾がほつれてるのが見えた! ピアスそれ、やっすいレジンでしょ。 せめてシルバーにしなさいな! ネックレスもなあにそれ、三百円の食玩かしらって感じ! そんなとりあえず流行追い掛けましたーって格好で歩いて? 仕事ができるだなんてまー、ちゃんちゃらおかしいわ! 0110花凛:はあ!? 0111美来:か、カリン、カリン、落ち着いてー……! 0112ヨリ:んでもセンスは悪くないっちゃ悪くないのよねえ、カリンはねえ……。 アンタ去年の今頃に着てたのどうしたのよ、あっちの方がずっとよかったわよ? 0113花凛:あれは、……大口の仕事だったし、コウちゃんに会えるからって思って、その……。 ……お姉ちゃんの服借りてた……。 0114ヨリ:はーん、成程。 男ができて気を抜いてると。 0115花凛:うっ。 0116ヨリ:そんで、ミライちゃんもー……ふうん。 眼鏡と髪型弄ればどうにでもなるわね。 0117花凛:だよね!? カリンずっとそう言ってるの! 折角綺麗系な顔してるのにさ!? 0118美来:だ、だだだってえ……服買いに行くの苦手なんだもん……。 0119ヨリ:なあに、何が苦手なの。 0120美来:えー……ああいう所の店員さんって、その、すごい話し掛けてくれるじゃないですか……。 0121ヨリ:そりゃ、こんな頓着なさそうな子が来たらご案内するでしょうよ。 あちらも仕事なんだもの。 0122美来:その、仕事感持ってこられるのが苦手なんですよ、私! 0123ヨリ:カリン、アンタ一緒に行ってやればいいじゃない。 0124花凛:ん? よく一緒に行くよお、お店。 でも好みじゃない、カリンが買うの見てるーって、何も買わないんだもん。 0125ヨリ:じゃあミライちゃんが好きな店、一緒に行けばいいじゃない。 0126花凛:カリンの好みじゃないんだもん。 行かなーい。 0127ヨリ:コイツ……! 0128美来:こ、今度はその、ちゃんと私服でここ、遊びにきますね! 今日は仕事終わりに急に会う事になったからその、こんなスーツなんですけども……! 0129ヨリ:あらそうだったの、楽しみにしてるわね。 全く、どこの就活生捕まえてきたのかと思ったわ。 <凛、入店する。> 0130凛 :よっすよっすー。 なんか盛り上がってんねー。 0131花凛:あ! リンさんだ! 0132凛 :やっぱりカリンちゃんだった。 外まで声聞こえてたよ、こんばんは。 0133花凛:こんばんは! あのね、今日カリンの友達連れてきたんです! こっちこっち! 0134ヨリ:いらっしゃい。 今日も白でいいの? 0135凛 :んー。 お腹空いたよ、お母さん。 0136ヨリ:お母さんじゃなくてヨリちゃんな! はいはい、先にワイン出すからね。 0137凛 :やった。 お友達も、こんばんは。 0138美来:あ、はい、こんばんは! 0139花凛:前に話した、仲良くなったお姉さん。 で、やっぱり前に話した事ある、カリンの幼馴染です。 0140凛 :おお。 シロウチです、どうもー。 0141美来:初めまして、シイナです。 カリンがお世話になってます! 0142ヨリ:はいはいはい、ワインと、ご飯と、モツ煮ね。 0143凛 :お! ありがとありがと! 0144花凛:ミライ。 リンさんね、カリンの彼氏の前の奥さんなの! 0145美来:まッ!? 0146凛 :<むせる> 0147ヨリ:あははは、アンタ、ほんとにもー! ちょっとこっち来なさい。 0148花凛:何!? 0149美来:前!? 彼氏!? 何!? えっ、どういう事!? 0150ヨリ:ちょっと、ちょーっとこっち来なさい! あのね、物事の順序ってモノ教えてあげるから、ちょーっと、ほら! 来いっつってんのよ! <花凛の耳を引っ張る> 0151花凛:いだだだだだだ! 0152美来:あ、あー……。 ……あの、えっと! 0153凛 :だ、大丈夫! その、あらゆる意味で大丈夫! 0154美来:あ、あ、あの、私、その、カリンに彼氏ができたのも初耳で! その! 0155凛 :あっ、そこから? そこはその、私管轄外だなあ! あははは! 0156美来:もしカリンが何か仕出かしてたら本当にごめんなさい! あの、ごめんなさいで済む話ではないんですけども、私こういう者でして! その、ごッ、ご相談とかあればこっちの事務所の番号に掛けて頂けると! 0157凛 :大丈夫大丈夫、本当に違うから! 円満! あはは、円満なんだって! あはははは! 0158美来:ほんとですか……!? 0159凛 :あは、ほんとほんと、あはは、ほんとだって。 じゃなきゃさ、こんなに仲良くしてる訳ないじゃん。 0160美来:よかったあ……! 昔からずうっとあんな感じなので、 0161花凛:だってああ言うのが一番わかりやすいじゃん! 0162ヨリ:わかりやすさの話なんかしてないでしょ、伝わりやすさの話してんのよ! 0163美来:幼稚園の頃から男の子を喧嘩して泣かすわ、 0164花凛:一番端的で伝わりやすいでしょ!? 0165ヨリ:そうなんでしょうよ! アンタの中ではそうなんでしょうよ! 0166美来:中学生になれば先輩と取っ組み合いの喧嘩はするわ、 0167ヨリ:徐々に、順序立てて、人に伝わるように話をするってわかるかしら!? 0168美来:もお、昔からあんな感じなんで、ついに、ついに人様に迷惑かけちゃったかなって! 0169凛 :何だこの状況! あははははは! 0170花凛:えー……? だってカリン、ああ言うのが一番わかりやすいかなあって思ったんだもん……。 0171凛 :はー、おかしい。 ねえヨリちゃん、大丈夫だから。 お説教いいからこっちで話しようよ。 ミライちゃん、カリンちゃんに彼氏がいるの知らなかったんだって。 0172ヨリ:まッ! 幼馴染なんじゃないの!? 0173花凛:今日話そうと思って誘ったんだよお。 そこに丁度、リンさん来てくれたからあ! 0174凛 :うん、うん、わかった。 話しよ、ね。 0175美来:うう……ね、カリン、彼氏できたの? なんで言ってくれなかったのー! 0176花凛:ミライが忙しいって言ってたんじゃん。 だから今日話そうと思って。 0177美来:で、でー……その彼氏さんが、その、シロウチさんの。 0178凛 :前の旦那。 私再婚してるから、本当に気にしないで大丈夫だからね。 今は、時々この店で一緒に飯食ったりしてるし。 <七福堂店内。> 0179幸多:あぁ、そういう流れだったんだ……なんかごめんね、苦労かけて。 0180凛 :いーえ。 <笑う> カリンちゃんとお友達と話して、ちょっと若返った気がする。 0181幸多:リンちゃんは元々歳より若く見えるよ。 0182凛 :そうじゃなくてね。 話の流れで今度三人で、一緒に買い物行こうってなってさ。 マリア産んでから、友達と一緒に買い物だなんてトンとしてなかったから。 0183幸多:ああね。 楽しんできな。 0184凛 :ん。 彼女ちゃん、お借りしまーす。 0185幸多:どうぞ、どうぞ。 リンちゃんなら大歓迎です。 0186凛 :そう? ならよかった。 なんかさー、一緒にパンケーキ食べに行こうって誘われて。 すっごい新鮮だなって。 0187幸多:恵比寿でしょ。 0188凛 :え。 もしかして行ったの? 0189幸多:行った。 すごい肩身狭かった。 0190凛 :<笑う> ウケる、食べきれた? 0191幸多:まあ、なんとか。 美味かったし。 0192凛 :マジか。 ううん、コウさんが食べきれたなら、大丈夫か。 0193幸多:何だよそれ、どういう意味? 0194凛 :ほら、年齢的な意味で、胃の容量っていうか。 0195ヨリ:はいお待たせ! あ、な、ご! 天ぷらよ! 0196幸多:お! ありがとー! 0197凛 :すっげ。 ええ、今日もお代いいの? 0198ヨリ:いいのいいの! もうね、この絵面! ツーショット! 見てるだけでアタシお腹いっぱい! 0199幸多:おお。 得したね。 0200凛 :得した。 頂きまーす! 0201ヨリ:得なんてレベルじゃないの! もー、この組み合わせ! 二度と見れないと思ってたんだから、アタシ! 0202凛 :まあ、だろうね。 0203幸多:何だかんだもっかい引き合わせてくれたの、ヨリちゃんだったじゃないか。 0204ヨリ:お節介だったかしら? 0205幸多:いいえ。 0206凛 :ま、私も気にはなってたからね。 0207幸多:そうなの? 0208凛 :そりゃね。 だってコウさん、絶対一人で生きていけないよなって思ってたし。 0209幸多:俺が? 0210凛 :うん。 0211幸多:どの辺が? 0212凛 :えー……なんか、こう、……ねえ? 0213ヨリ:うんうんうんうん。 0214幸多:そんな事ないよ、俺。 0215ヨリ:コウちゃんだって、リンちゃんの事気にしてたわよ。 0216凛 :え。 そうなの? 0217幸多:まあ、そりゃね? あんな別れ方したらね? そう思ってたら再婚してるなんて聞いたからさー……。 0218凛 :聞いたから、何。 0219幸多:あ、別に悪く言いたいんじゃないんだよ? 0220凛 :うん。 0221幸多:まじかー、って。 0222凛 :どの辺にまじかーってなったのよ。 再婚してた事? ねえ、若い男と再婚してた事? 0223幸多:えっ、ねえ、そんなグイグイ聞く? 0224凛 :だって気になるじゃん。 私だって、二十年下の彼女がって聞いた時、目玉飛び出るかと思ったんだけど。 0225幸多:じゃあおあいこじゃん。 多分同じ事考えてたよ。 0226凛 :<溜息> コウさんってちょっとでも自分が立場悪くなると、わかりやすく逃げるよね。 ほんと、そういうトコ。 0227幸多:リンちゃんだって自分に都合悪くなるとすぐ質問攻めにしてくるじゃないか。 0228凛 :それはだって、コウさんが適当に逃げるからでしょうが! 0229幸多:だから、いい加減逃がしてくれるくらいの度量があってもいいんじゃないですかって言ってんの! 0230凛 :はあー!? 先に再婚がどうたら言い出したのそっちでしょ! 0231幸多:歳の話持ち出したのそっちだろ、パンケーキの話で! 俺ちょっと気にしてるんだよ! 0232凛 :自分が気にしてる事言われたからって、そうやって子供みたいに言い返してくるのいい加減止めてよ! 0233ヨリ:はいはい! ごちそうさま! 0234凛 :まだ終わってない! 0235ヨリ:終わってなくても終わりなの! ほんとにもう、変わんないんだから、アンタ達。 離婚してもこれなんだから、世話ないわ、ほんと。 仲良き事は美しきかな。 0236幸多:……まあ、変わっては、ないね。 ちょっと安心した。 0237凛 :……ん、まあね。 0238ヨリ:んー! 仲裁入れば秒で片付くチョロさもそのまま! 0239凛 :なんでそんな嬉しそうなの。 0240ヨリ:そりゃね、嬉しいに決まってんでしょ! アンタ達アタシにどんだけ心配掛けたかわかってんの!? 0241凛 :わ、……かってるよお……。 0242ヨリ:ホントに!? 0243凛 :ほんとに! 0244ヨリ:ホントにホント!? 0245凛 :ほんと、ほんと! 0246ヨリ:コウちゃんは!? 0247幸多:……わかってるよ。 0248ヨリ:よし! もうあんな風に心配させないでいてくれたら、それでいいのよ。 お互い幸せそうで、こうしてアタシの店に揃って顔見せてくれて。 子供みたいな喧嘩して、けろっと仲直りしてくれたら、それで。 0249凛 :……わかった。 0250ヨリ:わかればよろしい! そんで。 今日はどうしたのよ、二人で。 旦那と彼女は一緒じゃないの? 0251幸多:店の前でバッタリ。 俺もびっくりしたよ。 0252凛 :私だってびっくりした、……んだけど。 丁度よかったかも。 ちょっとさあ、相談、っていうかー……。 0253幸多:ん、俺に? 0254凛 :うん、コウさんに。 0255幸多:どうしたの、 <輝、店に飛び込む。> 0256輝 :あ、あ、あー……すみません! その、外、雨、すごくて! 0257ヨリ:あらあらあら、濡れネズミ! そんな降ってるの。 僕ね、タオル持ってきてあげるから、ジャケット脱いでそこで待ってなさいな。 風邪引いちゃう。 0258輝 :まじっすか、すみません! 0259凛 :お風呂貸してあげたらいいじゃん。 0260ヨリ:そのつもりよー。 0261輝 :風呂!? 0262幸多:ここね、雨に降られたお客さんにはお風呂、貸してくれるんだよ。 0263輝 :へー……え、ヤハギコウタ!? 0264幸多:ん? 0265輝 :で、デザイナーの! ヤハギさんっすよね!? 0266幸多:ん、うん。 そう。 0267輝 :うわあ! 先月の商家建築に載ってたインタビュー読みました! 0268幸多:おお。 そっかあ、ありがとー。 すごい手、冷たいね。 大丈夫? 0269凛 :商家建築? あ、建築雑誌か。 ちゃんと仕事してんだ。 0270幸多:してるよ、一応。 0271輝 :インタビューと一緒に載ってた店舗内装見て、かっけえなーって思ってたんです! やべえ、会えるとか思ってなかった! 感動なんすけど! 0272ヨリ:あらなあに、盛り上がっちゃって。 お風呂沸いてるから、とりあえず入ってらっしゃいな。 0273輝 :ああ、名刺、名刺……! 0274幸多:先にお風呂行っておいでよ。 俺、まだしばらくいるし。 0275輝 :マジっすか! じゃあちょっと、すみません! ほんとにお風呂、頂いていいんですか。 0276ヨリ:いいわよ。 ちゃんとあったまってらっしゃい。 0277輝 :ありがとうございます、失礼しまーす! <輝、奥へ向かう。> 0278凛 :おおー……。 若者は元気があっていいねえ。 0279幸多:ほんとにね。 ああ、びっくりした。 0280ヨリ:何、なに? 0281凛 :コウさんのインタビュー、読んでたんだって。 ヤハギコウタだーって。 0282ヨリ:あらま! びっくり! 0283幸多:初めてだよ、あんな若い子に声掛けられたの。 さて、あの子出てくる前にインタビューで何言ったか思い出さないと。 0284凛 :覚えてねえのかよ。 0285幸多:そんだけモテてるんだよ。 0286凛 :雑誌社に。 0287幸多:そう。 0288ヨリ:<笑う> アタシあの子のご飯、作ってくるけど。 二人はお酒、お代わりいる? リンちゃん全然飲んでないじゃない。 0289凛 :んー? 今日は気分じゃないの。 0290幸多:珍しいね。 0291凛 :控えてんの。 0292幸多:そうなの。 じゃあ、俺もお代わりいらないよ。 0293ヨリ:わかった。 じゃ、よろしくやっててねん。 0294幸多:へええ、控えてんだ。 旦那効果? 0295凛 :違うよ。 ……んー。 0296幸多:何? 0297凛 :……何でもない。 やっぱいいや、相談。 0298幸多:いいの? 0299凛 :うん。 0300幸多:まあ、いいならいいんだけど。 0301凛 :大人だねえ。 0302幸多:そりゃ、大人ですから。 リンちゃんみたいにあれこれ聞いた方がいい? 0303凛 :いい。 面倒くさい。 0304幸多:あっそ。 ねえ、じゃあ、リオンくん来ないの。 久々に話したいよ。 0305凛 :今作家先生せっついてるんだと思うよ、既読付かないし。 仕事させてやって。 0306幸多:ちぇ。 嫌われてなきゃ、俺が会いたがってるってちゃんと言っといてよ。 0307凛 :あんだけ懷かれてて、どうして嫌われてるって思えるんだか。 わかった、ちゃんと言っとくよ。 <七福堂店内。> 0308花凛:ねー、リオン。 0309理音:……なんだよ。 0310花凛:リンさんって、好きな色何? 0311理音:知らねえよ。 0312花凛:知らないの? は? つっかえな。 0313理音:使えないってなんだよ、お前、俺年上な!? 0314花凛:だから何。 0315理音:敬語はいいからとりあえずさあ、苗字で呼ぶとか、何とかしろよ。 0316花凛:そんな事でしかマウント取れないの? いくつだっけ? 0317理音:お前の四つ上だって言っただろ! 0318花凛:なぁんだ、四つしか違わないじゃん。 実質同級生だよ。 0319理音:四つしか違わないって今自分で言ったろ、四つも! 違うんだよ! 0320花凛:リンさんにはちゃんと敬語使ってんじゃん。 あ。 そうだそれで思い出した! リオンさあ、コウちゃんに超馴れ馴れしくない? 0321理音:ああ? お前の方がリンさんに馴れ馴れしいだろ! 0322花凛:はあヤキモチですかぁ? 面倒くさ。 0323理音:そうじゃねえんだよ! 0324ヨリ:はいはいはい、何喧嘩してんの。 0325花凛:だーって。 0326理音:コイツうるせえんすよ! 0327ヨリ:わかった、わかった。 お腹空いてるから喧嘩するの、ほら食べなさいな。 0328花凛:あー、雑炊! 0329理音:うわ、魚入ってる。 0330ヨリ:タイとサーモン入れてんの、安く買えたのよね。 私が一人で食べようと思ってたんだけど。 折角アンタ達早く顔見せてくれたんだから、サービス。 内緒ね。 食べなさい。 0331理音:あざっす! 0332花凛:これ美味しい! 0333ヨリ:そう、よかったね。 アンタ達ホント扱いやすくていいわね。 0334花凛:嫌味? 0335ヨリ:いいえ。 扱いやすくて可愛いって言ったのよ。 0336花凛:じゃあいいや。 0337理音:ちょろ……おっ。 ヨリさん、リンさん来るまで、後三十分掛からないと思います。 0338ヨリ:わかった。 モツ煮温めてくるわ、喧嘩するんじゃないわよ。 0339花凛:はーい。 0340理音:はーい。 0341花凛:え、これ美味くない? 0342理音:うん、美味い。 0343花凛:何入ってるんだろこれ。 0344理音:えー、わっかんな……みりんとか? 0345花凛:醤油じゃない事しかわからない。 0346理音:醤油入ってね? 出汁醤油か? これ。 0347花凛:カリン味音痴だからわかんないもん。 0348理音:え、お前それで飯作れんの。 0349花凛:作れるよ。 でもコウちゃん家行けばコウちゃんが作ってくれるし。 0350理音:お前クソじゃん。 0351花凛:ねえご飯食べてる時にクソとか言わないでよ。 <溜息> そんで、相談って何。 カリンわざわざ時間作って来てるんですけど。 0352理音:あ、そうだ、そうだ。 0353花凛:どーせリンさんの事でしょ? もうすぐ来るなら、早くしなよ。 0354理音:……なんでわかった? 0355花凛:わかるよ。 てか、割と死にそうな顔してたじゃん、駅で会った時。 相談があるって言ってカリン呼び出してさ、寧ろリンさんの相談じゃなかったら引く。 0356理音:……お前さ、カリンさ。 その、浮気するとしたら、どうやってする? 0357花凛:<むせる> 0358理音:やっぱその、ケータイとかパソコンのメールで連絡取る? 感じにする? 0359花凛:馬鹿なんじゃないの!? は!? 0360理音:俺すげえ真面目に悩んでんだけど!? 0361花凛:カリン浮気なんかした事ないし、しませんけど!? 0362理音:わかっ、わかった、ごめん! 今のは俺が悪かったから! 0363花凛:はー……まじ、デリカシーって言葉知ってる? 0364理音:わ、悪かったって……。 0365花凛:…… <小声> なに、リンさん、浮気してんの? 0366理音:<小声> 確証はない、けどー……隠し事されてる気がする。 0367花凛:……いやいやいや、ありえないって。 0368理音:俺だってそう思いたいけどさあ。 家にいる時、ずっとケータイかパソコン見てるんだよ。 0369花凛:それは、……なんか、ソシャゲにハマってるとか? 0370理音:……なあ、今日ってコウタさん来る? 0371花凛:来るって言ってるけど、何時に……まさか。 0372理音:いや、俺だってまさかって思ってる、思ってるけどさ。 0373花凛:……んん、私も何となく聞き出してあげるよ、そしたら。 でも、私は違うって思ってるからね。 リンさんの浮気云々って、そこから。 0374理音:……おう。 0375花凛:パソコンって、共有? 0376理音:いや、仕事で使うから別。 0377花凛:じゃあネットの履歴も見れないかあ。 0378理音:……こっそり、見た。 消されてた。 0379花凛:……。 0380理音:……。 0381花凛:メール、は。 0382理音:流石に見てない。 0383花凛:……そういうの、さあ。 ちゃんと本人と話した方がいいんじゃないの。 私達みたいに、いつでも離れられる関係じゃ、ないじゃん。 リオンは。 0384理音:うん。 0385花凛:もし何でもなかったら。 リンさんだって、疑われるのは心外だと思うよ。 私だったら嫌だなって思っちゃう。 なんですぐ聞いてくれなかったんだろうって。 0386理音:……うん、だよな。 なんかごめん、変な事聞いて。 0387花凛:いやでも、ネットの履歴消してあったんでしょ? ……まあ、気になるよ、うん。 0388理音:だよなあ……。 0389ヨリ:なぁに、今度は二人して葬式みたいな顔して。 どうしたの? 雑炊美味しくなかった? 0390理音:いや、あの、 0391花凛:ねーヨリちゃん、カリンあのパスタ揚げたの食べたーい! 塩コショウの! 0392ヨリ:あら。 注文でいいの? 0393花凛:うん、注文! あとね、黒霧島とー……リオンいつも何飲んでんの? 0394理音:んえ。 ビールだけど。 0395花凛:生ひとつ。 カリンの注文でいいから! 0396ヨリ:あらあら、わかったわ。 ちょっと待っててね。 0397理音:え、俺出すよ。 0398花凛:いいよ別に。 カリン仕事は人よりできるから、超稼いでるし。 0399理音:ぐっ。 0400花凛:呼び出しといて、暗い顔でいられる方が嫌なんだけど。 とりあえずお酒飲んどきなよ。 揚げパスタ、美味しいんだよ。 他所だと味色々あるんだけど、ここだと塩コショウなの。 0401理音:……お前、アレだよな。 ツンデレ。 0402花凛:そう? 0403理音:うん。 ありがとな。 0404花凛:……まあ、褒め言葉だと、思っとく。 <幸多、凛、入店する。> 0405幸多:お! いたいたいた、リオンくん! 0406理音:あ、コウタさ……!? 0407凛 :一緒にいたんだ、よかったー! いやあ、お店の前でバッタリ会ってさあ! あはは、何回バッタリ会うんだっつーの! 0408理音:あー……あはは、すごい、その、偶然だねー。 0409花凛:<小声> 間が悪い……! 0410幸多:久し振りだねえ、仕事忙しくしてるの! 0411理音:あ、は、はい! いやあすみません、この間ご馳走してもらったんだから、今度は俺から誘いたかったのに! 0412幸多:いいのいいの、こうして一緒に飮めるんだからさあ! 0413ヨリ:あらあらまあまあ、お揃いで! 二人は何飲むの! 0414幸多:俺いつもの! あ、カリンちゃんとリオンくんはもう、注文しちゃった? 0415花凛:したよお。 コウちゃん遅いんだもん! 0416凛 :二人が飲み始める前に着いてよかったぁ! ヨリちゃん、私烏龍茶頂戴。 あとモツ煮ね! 0417ヨリ:はいはい。 0418幸多:ん、あれ? 今日ヒカルくん、いないの? 0419花凛:ヒカル? 誰? 0420理音:コウタさんの知り合い? 0421凛 :ああ、違う違う。 この間ナンパした子。 0422理音:ナンッ!? 0423花凛:パ……!? 0424ヨリ:アタシがね。 あそっか、まだ二人は会ってないわよねえ。 うちの従業員、そのイチよ。 <七福堂店内。> 0425輝 :……美味え。 0426ヨリ:あらよかった。 ご飯も豚汁もお代わりあるから、沢山食べなさいね。 0427幸多:ぱぴえ……? 0428凛 :「パピエ・デ・ルネ」ってあー、神田のフランス料理の店? 0429輝 :んあ、はい、そうっす。 お姉さん知ってます? 0430凛 :うん。 今結構色々取り上げられてるよね。 すごい所でシェフやってんだね。 あ。 フランス料理だからシェフじゃないのか。 なんだっけ、ブリゲード…… 0431輝 :シェフでいいっすよ。 この通り、そういうのにこだわりないんで。 0432幸多:確かにパッと見て料理人だとは思わなかったなあ。 すごい、格好良いね。 0433輝 :そっすか? ま、ちょっと色々あって店辞めるんで、ピアス増やしたのは最近なんですけどね。 0434幸多:お、おお……。 0435ヨリ:あら辞めちゃうの? 勿体無い。 0436輝 :勿体無い事ねえっすよ。 なんかこー……日本合わねえなあ、て。 0437凛 :ん、ん? 日本? 0438輝 :親父が倒れて去年、フランスから帰って。 独立すっかなー、どうすっかなーって。 悩んでるトコです。 あ、独立してえなーって商家建築眺めてて、ヤハギさんの店舗内装の記事見たんすよ。 0439幸多:成程。 0440輝 :んでまあ、色々店勉強しようと思ってブラブラしてたら、雨に降られちゃって。 0441凛 :はえー……。 え、え、いくつ? 0442輝 :来年三十です。 0443凛 :二十九、へええ。 0444輝 :んでも良い店見つけましたわ。 この豚汁マジ美味えっすね! 0445幸多:でしょでしょ。 常連に豚汁と白米が出てくる店だからね。 このご時世煙草も吸わせてくれるからほんと、ありがたい。 0446ヨリ:どーいたしまして。 でも、フランスにいたならもっと美味しい物、食べてるでしょ。 0447輝 :ん? んー……まあ? ちょっと、何となく。 和食って苦手意識あったんですよね。 だから和食以外なら何でもーって感じで……。 0448凛 :あ、ねえねえねえ。 気が向いたら、でいいんだけどさ。 0449輝 :ん。 何すか? 0450凛 :シェフの気まぐれおつまみ……、とか? 0451幸多:こら、リンちゃん。 0452輝 :いっすよ。 キッチン借りても? 0453幸多:ええ!? いいの、大変じゃない? 0454輝 :美味いモン食わせてもらったから、対抗意識っつか? そんな感じなんで。 0455ヨリ:あらま! いいわよいいわよ、いらっしゃい。 食材好きなの使っていいからね。 0456輝 :やった。 んじゃ、ヨリさんも、そっち。 0457ヨリ:……え? 0458輝 :風呂と豚汁の礼です。 そっち座って下さい。 0459ヨリ:アタシはいいわよ。 0460輝 :俺がよくない。 ほら、座った座った。 見た目こうですけど、お行儀は良いんで。 悪い事しないから。 0461ヨリ:じゃ、じゃあ……? 0462幸多:おお、新鮮。 よかったねヨリちゃん。 0463凛 :やった、やった。 ねえヨリちゃん、今日はこっちで一緒に食べようよ、ね? 0464ヨリ:まあ、いいけど……。 0465輝 :じゃあ。 お姉さん達からリクエスト、聞こうかな。 <七福堂店内。> 0466花凛:何それずるい! カリンもフランス料理食べたい! 0467ヨリ:いいでしょ。 それがまあ、美味しくてねえ。 勢いでウチで働きなさいって言ったら、次の日ノリノリで履歴書持ってきて! 0468幸多:今度、カリンちゃんとリオンくんもいる時にも何かお願いしてみようか。 すごいよ、嫌な顔一つしないで、頼めば色々作ってくれてさ。 0469凛 :ねー。 何、なんてーの? 見た目派手だし、歯に衣着せぬっつか。 ズバッと言う感じの子でさあ。 0470幸多:あれ、先週だっけか。 リンちゃんが先に店入ってた日。 0471花凛:……え、そんなにしょっちゅう、二人きりで飲んでんの? 0472凛 :お互いここに飯食いにくるからさ、結構顔合わせるよね。 0473理音:へ、へー、そうなんだあ……。 0474花凛:ずるーい! カリンもリンさんと飲みたいのにー! 今度そういう時ラインして下さい! 折角交換したんだから! 0475凛 :あはは、わかった。 0476理音:そ、それで! 先週、先週何すか!? 0477幸多:あー。 俺とリンちゃんとヨリちゃんと、三人でヒカルくんが作った飯食ってる時さあ。 0478ヨリ:あー、アレねえ……。 0479輝 :え。 二人って付き合ってるんじゃないんすか? 離婚!? え、うっそ、全然そんな風に見えねえ! なんで一緒に飯食ってんすか!? 0480理音:お、おおう……正論っちゃ正論なんだけど……。 0481ヨリ:アタシも唖然としたわよ。 あれ、ホントにごめんね。 0482幸多:大丈夫、大丈夫。 全然気にしてないから。 0483凛 :てかそう思われんのが当たり前っしょ。 私も去年の今頃は、金輪際会わないんだろうなーって思ってたよ。 0484幸多:俺だって、カリンちゃんと会ってなかったら会う度胸なかったと思うよ。 0485花凛:んえ。 カリン? なんで? 0486幸多:何でも。 0487ヨリ:そういえば、……。 0488理音:そういえば? 0489ヨリ:……何でもない。 またタイミング見て話すわ。 今日ねえ、じゃーん! 実家から牛タン送ってもらったのよ、牛タン! アンタ達食べるでしょ? 0490花凛:食べる! 0491理音:仙台牛!? 俺食った事ねえ! 0492凛 :えっ、ねえねえねえ、それってすごい高い肉じゃない!? マジで!? いいの!? 0493幸多:うっわ。 流石にお代払うからねヨリちゃん、四人前って結構だよ? 0494ヨリ:いーのいーの! なんかリクエストある? 0495凛 :いつも通りヨリちゃんが作ってくれたのでいいよお。 どしたの、急に気使っちゃって。 0496ヨリ:ん? あ、……何でも。 じゃあ焼いてくるから、待ってなさいな。 <ヨリ、店の奥へ向かう。> 0497花凛:牛タン。 0498凛 :カリンちゃん、仙台牛食べた事ある? 0499花凛:多分初めて? ちゃんとしたの食べようと思うと、結構する気がして。 0500凛 :そうそうそう! あ、ねえそうだ。 今度さあ、カリンちゃんと一緒に行きたいお店があるんだよね。 0501花凛:え、行きたいです、行きたい! どこどこ? 0502理音:おーおー、仲のよろしい事で……。 0503幸多:……どうしたんだろ。 0504理音:ん? 0505幸多:ヨリちゃん。 ちょっといつもと違う気がして。 0506理音:……あー。 さっきなんか、言いかけてたし。 そういえばこないだ急に呼び出されて、一緒に酒飲んだんすよ。 0507幸多:あ、リオンくんも? 俺のトコにも、ちょっと前に突然。 俺達本当に気にしてないんだけど。 あの後、ヒカルくんと何かあったのかなあ。 <七福堂店内。閉店後。> 0508ヨリ:……ねえ。 0509輝 :何すか、おっかない顔して。 0510ヨリ:止めてよ、客のプライバシーに踏み込むの。 0511輝 :プライバシー? ああ、離婚云々って? 0512ヨリ:そう。 0513輝 :そんな事してないっすよ。 当人達だって笑って話してたし。 話してくれるならって。 興味があったから聞いただけっす。 0514ヨリ:だから、それを止せっつってんのよ。 0515輝 :ええー。 0516ヨリ:あのね、あの二人アレでいて繊細なのよ。 他人がズカズカ踏み込むの、止めてくれる? 0517輝 :繊細だから。 これからもヨリさんが面倒見るんですか。 0518ヨリ:は? 0519輝 :聞き方変えます? あの二人の関係、ヨリさんありきのモンにするんですか。 あの二人が俺に色々話してくれたのだって、この店がそういう雰囲気だからでしょ。 0520ヨリ:……。 0521輝 :……ふーん。 やっぱ俺、時給千円でいいっすわ。 住み込みで働かせて下さい。 0522ヨリ:へ? 0523輝 :今から契約の書き換えってできます? 家事っつか、自分の事もする。 メニューの幅も増える。 得じゃね? 0524ヨリ:ま、待って。 家は? お父さんは? 0525輝 :とりあえず国内にいてくれって話なんで。 まあ一人息子だから、言いたい事はとりあえずはわかる。 でも家で療養してる所為で、母さんもぐちぐちうるさいから逃げる場所探してて。 丁度よかった。 0526ヨリ:……どうして自分から時給下げんのよ。 0527輝 :経営方針に、ちょっと不満がある。 別に生活には困ってないから。 常連客が欲しいってんならまあ、今のも良い手だと思いますよ。 だから、 <笑う> 俺も慈善事業の勉強、しよっかなって。 0528ヨリ:<溜息> 言いたい事、何となくわかったわ。 0529輝 :わかってもらえます? あんな営業で、ポッと出のバイトにその辺のバーと同じ時給払うの、無理あるっしょ。 客が食いてえモンは、客が選んでなんぼだと思ってるし。 今のままじゃ、アンタの考えと合う客しか寄り付かなくなる。 そんな将来の展望がない店で、長くは働けないだろうから。 0530ヨリ:そうね、レストランならね。 ここ、バーなのよ。 0531輝 :常連客にタダ飯食わしてる店が? 0532ヨリ:そうよ。 アタシの店。 0533輝 :ふうん。 それ言われちゃ、なぁんも言えねえわ。 0534ヨリ:わかってんじゃない。 アンタが言いたい事も勿論わかるんだけどね。 客と慣れ合う前に品質上げろって言いたいんでしょ。 0535輝 :そっそっそ。 和食だからある程度仕方ないんだろうけど、出汁が、味が、口当たりが一辺倒なんだよな。 バーメニューもありきたり、他の店に入っても食えるモンばっか。 仕入れ工夫してる感じでもなさそうだし。 0536ヨリ:聞いていい? 店辞めるってアンタ、揉めたんでしょ。 0537輝 :そう。 ま、わかるわな。 つまんねえ料理出してたから口出したら、ネチネチ嫌がらせされるようになってさ。 0538ヨリ:……わからなくもないわ。 歯に衣着せぬ、アタシは好きだけどね。 0539輝 :よかった。 ねえ、じゃあ。 聞きたいんだけどさ。 0540ヨリ:何。 0541輝 :アンタの人生は、この店のどこにあるんすか。 0542ヨリ:──……客に美味いモン食ってもらって、 0543輝 :心底そう思ってるなら無償で飯出しゃいいんだ。 0544ヨリ:……。 0545輝 :最近。 日本でも、家で食事がしづらい子供に無償で飯出す取り組みがあんの、知ってる? アンタがしてるのはそれだ。 商売じゃない、慈善事業。 この店を商売にする為に、俺を雇うのはどうっすか。 改めて。 0546ヨリ:……面白い事言うじゃない、気に入ったわ。 アンタの言う条件で、雇う。 好きな部屋使って。 手に余ってたのよね、丁度よかったわ。 細かい事はまた明日、話しましょ。 一日考えなさい。 0547輝 :やった。 考えたトコで変わんないけど。 0548ヨリ:でも、いいこと? アンタにプライドがあるように、アタシにもプライドがある。 0549輝 :……。 0550ヨリ:客にも、勿論。 アタシ達が扱うのは食事とか、そうね。 食材とか、場所とか、時間とか、そういう物。 0551輝 :……うん。 それは、この店に来て、思った。 0552ヨリ:うん。 アタシはその先の、客の心も、それに含まれると思ってる。 0553輝 :<苦笑する> 0554ヨリ:<笑う> そうね。 アタシとヒカル、そこが一番違うわね。 0555輝 :だって俺。 今まで料理って厨房で、客から見えない場所でするモンだと思ってた。 0556ヨリ:……あー、うん、そうね。 0557輝 :そうか。 考えた事もなかった。 この店、カウンターなんだ。 0558ヨリ:そうよ。 0559輝 :……帰る。 明日荷物持ってくる。 何時に来ればいい? 0560ヨリ:十二時には起きてるわ。 0561輝 :わかった。 じゃあ一時頃に来るから。 <輝、退店する。> 0562ヨリ:無償で飯出しゃいい、ねえ。 それでやっていけるなら、店なんてやってないわよ。 ……やだなあ、アタシ歳取ったなあ! 畜生! 飲むぞー! この時間に女子は悪いからー……コウちゃんかリオン、つかまるかしら。 ま、とりあえず一杯やっちゃって、景気付けてからどっちにするか決めましょ! はーどっこいしょー! おいでませ、ワインちゃーん! ※続きは有償版をご購入の上お楽しみ下さい。 2020.11.18 初版 羽白深夜子 2020.11.19 更新 羽白深夜子 2020.12.1 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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