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【路地裏のジョーカー】 (ろじうらのじょーかー) 男性2、女性2。 反社会的な要素を含みます。 「bride slumber party」「dragging death party」と同世界観になります。 有償版販売ページはこちら。 【レナード・バートリー】 36歳男性。警察官。 下記、ロナルド・バートリーと顔のよく似た双子の弟。 生真面目で武骨な警察官であり、殆ど毎夜家庭内暴力から逃げ出してくるウィレミナを保護している。 作中、サラと共に「娼婦殺し」の犯人がウィレミナであると知り、 激昂し発砲したサラを殺人犯にしない様、自ら即座にウィレミナの頭部を撃ち抜く。 本作終了後は行方不明になっている。 【ロナルド・バートリー】 36歳男性。武器商人。 上記、レナード・バートリーと顔のよく似た双子の兄。 ゴミ箱を漁っていたサラを保護している。 作中、レナードが連れ歩いていたウィレミナを気に掛け連れ出すも、 ウィレミナこそが「娼婦殺し」の犯人だと気付いたサラとレナードに眼前でウィレミナを殺される。 ★作中ロナルドのモノローグは、レナードを拘束、拷問している最中のロナルドの独り言。 本作終了後は行方不明になっている。 【ウィレミナ・アリス】 28歳女性。針子。脚本内は「ウィレ」と表記。 大人しく貞淑な女性。旦那の家庭内暴力に耐えかね、殆ど毎夜旦那が寝付いてからレナードの元に通っている。 「娼婦殺し」の犯人。自身が旦那を始めとする義家族から受けていた暴力と同様に、夜半に娼婦を奇襲していた。 その犯行が新聞に掲載された事を知り、医者の旦那から医療用のメスをくすねて犯行に使い始める。 終始当人に犯罪をしている意識はなく、都合の悪い者は暴力を受ける自身の経験則で、犯行を繰り返していた。 作中、サラとレナードにより射殺される。 本作終了後はロナルドが手厚く葬った為、行方不明になっている。 【サラ・トンプソン】 17歳女性。スリ。 明るく活発な少女。実家は昔ながらの武器売買を行っていたが、業績の悪化で両親がこぞって自殺を選ぶ。 身寄りの無い為天涯孤独となり、スラム街で同じ様な子供達を守る為器用さを生かし手製の武器を作っていた。 特に売春婦として働く少女達の事を尊敬しており、「娼婦殺し」には人一倍憎しみを持っている。 「娼婦殺し」と判明したウィレミナの腹部を撃ち抜き、激昂したロナルドに脚を撃ち抜かれる。 本作終了後は行方不明になっている。 【少年A】 ウィレミナと兼ね役。 「dragging death party」登場人物、「ルイス・アンダーヒル」の幼少期。 【少年B】 サラと兼ね役。 「dragging death party」登場人物、「ゴードン・フローリー」の幼少期。 レナード・バートリー   : ロナルド・バートリー   : ウィレミナ・アリス/少年A: サラ・トンプソン/少年B : ======================================= <ロンドン郊外、廃工場の一角。> 001ロナルド:──お目覚めか? おはよう。        今日のロンドンは晴天、雲一つ見当たらない。        ああ、あまり暴れない方がいいぞ。 俺には緊縛の才能はなかったらしくて。        欲しいとも思っていなかったから丁度良かったが、今、まさに。        そんな俺に拘束されているお前には悪いニュースだろう。 暴れたらきっと痛いぞ。        早速で申し訳ない、ちょっと手を借りたい。 楽しいお話をしながら、といこうか。        女は過去を嘲笑い、未来を望んだ。 男は未来を嘲笑い、過去を望んだ。        現実は開幕へ直(ひた)走る、物語は閉幕へ只終わる。        ババ抜きに入れる事ができるジョーカーは、一枚だけ。 じゃないとゲームは破綻する。        たったそれだけの、楽しい楽しいお話さ。 <ロンドン郊外路地裏、ゴミ箱を漁るサラ。> 002サラ  :<ロナルドに首根っこを掴まれる> ふぎゃっ!? 003ロナルド:どーもお嬢さん。 このゴミ箱にゃ武器のなり損ないしか入ってないぞ。 004サラ  :っ、は、離せ、離して! 005ロナルド:ここ数日、スクラップを漁ってたのはお前だな? 006サラ  :ひっ、 007ロナルド:グッド、罪悪感はあるのか、良い子だ。        このまま警察に突き出すのは容易いが、さてどうしたモンかねえ。 008サラ  :っ、えい! 009ロナルド:うおっ!? <サラ、手製の閃光弾を投げつける。> 010サラ  :あは、あはは! やった! じゃあねおじさん、もう二度と        <もう一度ロナルドに首根っこを掴まれる> んぎゅ、 011ロナルド:俺はおじさんじゃない、お兄さんだ。        予備動作がデカい。 馬鹿め、閃光弾なんだろ? 相手が目をつむるスキを作ってどうする。        それともう一つ、最も大事な事だ。 俺は、おじさんじゃ、ない。 012サラ  :どっからどう見てもおっさんでしょ! 離せ、離せぇぇ……! 013ロナルド:いいや、ますます離せなくなったね。 今のは何だ、お前お手製の閃光弾なのか? 014サラ  :そうだよ! 文句ある!? 015ロナルド:グッド! なんて素晴らしい! 016サラ  :へ? 017ロナルド:一人で作ったのか!? どうやって作った!? 018サラ  :……か、簡単よ。 マグネシウムと着火剤を混ぜて、爆竹にくっ付けただけ。 019ロナルド:その割には音がしなかったな? 020サラ  :目眩ましが目的だから、爆竹の火薬、量を抑えてるの。        着火剤に火がついて、それが拡散すればいいだけの話だから。 021ロナルド:そうか。 その材料をここからちょろまかしていたんだな? 022サラ  :まあ、ついでにね? 023ロナルド:ついで。 目当てはメシか? 024サラ  :……そうよ、なによ、悪い!?        ご飯食べなきゃ死んじゃうって、おっさんにはわからないのかしら!? 025ロナルド:パパとママはどうした? 家に帰って作ってもらえばいいだろ。 026サラ  :それができないからこうしてんのよ! 027ロナルド:……。 028サラ  :……な、……何よ。 029ロナルド:なあ。 雇ってやろうか? 030サラ  :へ? 031ロナルド:その歳で用途に応じた閃光弾が作れる、すごい才能だ。 金を払う価値がある。 032サラ  :アンタも浮浪者じゃなかったの!? 033ロナルド:なッ……! 馬鹿が、俺のどこが浮浪者に見える!? 034サラ  :頭から爪先まで全部よ、ぜーんぶ! 035ロナルド:はあ、やだやだ。 こんな色男捕まえて浮浪者、っかー……。 ガキには俺の魅力がわからんかね。 036サラ  :ガキじゃないわ、もう十七になるもの! 037ロナルド:俺の半分も生きてねえ! 038サラ  :おっさん! 039ロナルド:お兄さんにはな、ロナルド・バートリーっつー立派な名前があんだよ! 040サラ  :<小声で> ……バートリー。 041ロナルド:ガキ、お前は。 042サラ  :言わない。 043ロナルド:あ? 雇ってやるっつってんだよ。 044サラ  :余計なお世話よ。 アンタみたいな浮浪者から受け取るきったない金で暮らすの、ごめんだわ。 045ロナルド:ほー、ほー。 046サラ  :何よ。 047ロナルド:身形(みなり)と言葉遣いからして、随分いいトコの嬢ちゃんらしいが。 048サラ  :……。 049ロナルド:なのに、そうしてゴミを漁ってるのは何故だ?        お前はどうして、あんな出来の良い武器を作る必要がある? 050サラ  :……言わない。 051ロナルド:なら言わないままでいい、お前が野垂れ死にしようが、俺には大した問題じゃない。        でも一つだけ覚えとけよ。 お前が得る金に綺麗も汚いもない。        金ができなきゃゴミ漁って生きるか、野垂れ死ぬだけだ。 052サラ  :……。 053ロナルド:ふくれっ面になった所で金はできねえぞ。        お前。 先の大悪臭は覚えてるか。 054サラ  :……この辺りの川が原因だとかいう……。 055ロナルド:グッド。 ここからちょっと歩いた所にあるテムズ川、アレが発端だってお前の見解は正しい。        次の質問はイエスかノーでいい。 お前のパパとママはペストかコレラの患者か? 056サラ  :<驚いて> ノー。 何? どういう事? 057ロナルド:そりゃ結構。        お前とその家族が、今ロンドンに蔓延(まんえん)する伝染病の毒牙に掛かっていないのは大変喜ばしい。 058サラ  :伝染病。 この辺りの話なの? 059ロナルド:そう。 スモールレディ、ここから俺の話をよく聞け。        一つ目。 伝染病に関してこの辺りは一等地だ。 そんな場所に転がってるモンを食わない方がいい。 060サラ  :……。 061ロナルド:二つ目。 綺麗だろうが、汚かろうが。 金は持ってた方がいい。        お前の事情なんざ興味ねえよ。 お前の腕を買って金を出す、それだけだ。 どうだ? 062サラ  :……私。 063ロナルド:おう。 064サラ  :自由でいたいの。 065ロナルド:あ? 066サラ  :自由でいたいから、こうして生きてるの。        お金を頂けるって事は時間を提供するんでしょ。 嫌よ、そんなの。 067ロナルド:……あーのなあ。 何が言いたいかイマイチ要領を得ないが、もう一つ小言を言う。 068サラ  :何? 069ロナルド:お前の自由とか、そもそもガキんちょのごっこ遊びにすぎねーんだよ。 070サラ  :そんなの、 071ロナルド:それで、自由で、メシが食えるのか? 072サラ  :……。 073ロナルド:そんなモンより、生きていく為の力をつけるべきだ、わかるか?        今はわかんなくていいけどよ。 若いってのはいいねえ、そう、何より無茶が利く。 074サラ  :無茶なんかじゃない! 075ロナルド:<笑う> いいから、こっちへ来い。        まずはその綺麗なべべを没収だ、この辺りじゃ目立って仕方ないからな。 <ロンドン市内、交番前。> 076レナード:こんばんは、ミセスアリス。 077ウィレ :……こんばんは、バートリーさん。 078レナード:奥へ。 <周囲を見回してから小声で> 大丈夫、後をつけられてはいません。 079ウィレ :どうもありがとう。 <交番内。> 080ウィレ :<盛大に溜息をつく> 081レナード:そちらへ。 ……あー、今日もお綺麗で何より。 その、頬の辺りが特に。 082ウィレ :<苦笑する> ごめんなさい、いつも手間を掛けてしまって。 083レナード:いえ。 先に手当てをしましょう。 ご主人は。 084ウィレ :私を殴るだけ殴って寝たわ。 085レナード:<溜息> 086ウィレ :あの、バートリーさん。 087レナード:レナードで構わない。 088ウィレ :お名前が嫌いなんでしたっけ。 089レナード:家出同然で、家を飛び出したモノで。 090ウィレ :私もそうできればいいのかしら。 091レナード:そんな事、しないに越した事はない。        頬、消毒しますよ。 沁みて痛いかもしれない。 092ウィレ :殴られるよりはマシだと、……ねえ、冗談ですよ。 093レナード:あなたは冗談が下手だ。 094ウィレ :あなたもね。 ずっと眉間に皺が寄ってるわ。 095レナード:あなたの事情を知って、あなたを見たら。 誰だってこんな顔になりますよ。 096ウィレ :そうかしら。 097レナード:そうです。 098ウィレ :だからこうして、親切にして下さっているのかしら。 099レナード:親切? 100ウィレ :違いましたか? こうして訪ねる度、怪我を治療して下さって。 101レナード:ロンドン市民の安寧は俺の職務であり義務だ。        本来ならあなたのご主人に、その。 102ウィレ :であれば、私のこの傷も職務であり義務、ではありませんか。 103レナード:暴力を受ける事が? どうして。 104ウィレ :しょうがないのです、あの人の心も行き場がないんです、きっと。        裁縫しかできない私を妻に迎えて。        あの人の診療所の手伝いすらもまともにできない私に、できる事といえばこのくらいで。 105レナード:……次は左手を。 袖口から、打撲痕が見えています。 106ウィレ :あら。 107レナード:毎夜毎夜こんな怪我を負う事があなたの義務だと?        あなたは。 こんな怪我を負う為にご主人に嫁いだと? 108ウィレ :そうなのかも、しれませんね。 109レナード:……不躾を。 110ウィレ :いいえ。 111レナード:第三者の一見解だとお思い下さい。 112ウィレ :勿論。 113レナード:大変、許し難い。 実家を飛び出し、家庭を持たない俺のような若輩者には到底理解が及ばない。        自ら愛して迎えた女性に、 114ウィレ :政略結婚でしたのよ。 家同士の利害が一致しただけ。 115レナード:それでも、未来を誓った筈だ。 116ウィレ :<溜息> 117レナード:あなたは諦めておいでだ。 しかし俺は諦めない。        何事も仕様がない事はありましょう。 しかし俺が諦めない。        俺が諦めない事で、あなたの未来が変わるなら。        ……こうして何度でも事実を、証拠を目に焼き付けて。 然るべき時に責務を果たします。 118ウィレ :どうもありがとう。 すっかり痛くなくなったわ。        きっとレナードさんが仰る、然るべき時というのはこないと思うの。 119レナード:あなたが申し出れば明日にでも。 120ウィレ :私が申し出ないから。 121レナード:<苦笑する> であれば俺はお手上げだ。 122ウィレ :<笑う> ごめんなさい、いつもお仕事中に、お仕事以外の面倒を。 123レナード:いえ。 視界に入れば否応にも気になってしまうだけで、お気になさらず。        ──それでは、いつも通り俺の仕事をさせて下さい。 調書を。 124ウィレ :はい。 125レナード:お名前は? 126ウィレ :ウィレミナ・アリス。 127レナード:住所、……は、流石に覚えました。 こちらで書いておきましょう。        お仕事は? 128ウィレ :針子をしています。 近所の皆様のお洋服を、仕立てたり、直したり。 129レナード:今日はどういったご用件で、警察へ? 130ウィレ :主人の暴力に耐えかねて、相談に来ました。 <ロンドン郊外、ロナルドの家。> 131サラ  :ロナルド! おはよっ! 132ロナルド:おー……朝から元気だねえ……。 133サラ  :ポーチドエッグ、ベイクドビーンズ、トマト、マッシュルーム、ケジャリー、        パンはいつものトコ、はい、食べて。 134ロナルド:……お!? 135サラ  :今日の入出荷の見積もり。 それ食べたらすぐ目を通してね。 136ロナルド:おい。 137サラ  :武器商人って聞いた時は驚いたし、それってメシ食えんの? って思ったけど。        毎日毎日こんなに仕事があるなんて。 はぁあ、目が回りそう。 138ロナルド:おい! 139サラ  :なぁに? あ、倉庫と工場(こうば)の掃除は終わってるわ。        ロナルドが朝食を食べ終えたらキッチンも片付ける。 だから早く食べてよね。 140ロナルド:サラ・トンプソン! 141サラ  :そう、私がサラ・トンプソン。 お探しの物はコレかしら? 142ロナルド:それだ! 手前、また俺の財布パクりやがって……! 143サラ  :頂いてるお給金じゃ、とてもじゃないけどマトモな朝食が作れなかったのよ。 144ロナルド:だからって逐一財布パクんな! 朝メシはどうでもいいから! 145サラ  :よくない、ママが言ってたわ。 一日の始まりにちゃんと栄養を取らないと、 146ロナルド:ママは言ってたか!? その為に財布をスっていいって言ってたか!? 147サラ  :そんな事言う訳ないでしょ。 148ロナルド:いつスった、俺が寝てる間か? 懲りて寝室には鍵をつけたぞ。 149サラ  :昨日、帰り際よ。 150ロナルド:帰り際……? 151サラ  :ブランズウィックの話をしながらすれ違った時。 152ロナルド:あの一瞬で! お前の手癖はどうなってるんだ!? 153サラ  :その手癖のお陰でマトモな朝食が食べれるのよ、感謝してよね。 154ロナルド:頼んでない! 155サラ  :じゃあ、それ私が食べるわ。 156ロナルド:くれてやるとも言ってねえ! 頂きます! 157サラ  :はいどーぞ。 158ロナルド:……言えば朝食代はくれてやるから、スるのは勘弁してくれ……。 159サラ  :私言ったわよね、自由でいたいって。 ガキンチョのごっこ遊び?        オーケイ、それならそれで構わないわ。 でも私にとっては生きる為の一手段なのよ。 160ロナルド:スリが? 161サラ  :スリが。 そうして生きてきたわ、二年前から。 162ロナルド:あの日俺は警察に突き出すべきだったんだな……。 163サラ  :悪くなかったわよ? 無事に生きてこれた、友達もできた。 164ロナルド:スリで? 165サラ  :スリで。 手に職があるって大事よね。        私の事、産まれた頃からの幼馴染と同じだって言ってくれる子もいるのよ、今度紹介する。 166ロナルド:そりゃどうも。 167サラ  :パパやママに勉強しなさいなんて怒られる事もない。        女の子らしくしなさいって小言を言われる事もない。        きっと、私にはこういう暮らし方が合ってたんだわ。 168ロナルド:……。 そりゃ、同感だ。 169サラ  :あなたも? 170ロナルド:ああ。 俺も家が窮屈で仕方なかったクチだ。        しかしサラ、ああ、物事っつーのは上手くいかないモンでよ。        どういう訳だか、一人で生きていくにしたって責任が付き纏(まと)う。 171サラ  :勿論。 だから今社会勉強をしてる所よ、ココでね。 172ロナルド:……わかってんじゃん。 173サラ  :<笑う> 174ロナルド:ま、財布パクって警察のご厄介に、なんてオチがつかなきゃいいさ。 てかパクんな。        最近はおかしな噂も聞く。 175サラ  :おかしな噂? 176ロナルド:なんでも、路地裏のジョーカーとかいう── 177サラ  :あ、それ私よ。 178ロナルド:そうそ……なんだって? 179サラ  :路地裏のジョーカー。 それ、私の事よ。 180ロナルド:……へ? 181サラ  :スるの、別に財布だけじゃないの。 ナイフとか、拳銃だとか。        片手に収まるモノなら大体どうにかなるのよね。        火薬弄りも得意だから、ちょっと既製品弄って売っ払ったり。        ううん、スリって言うと聞こえが悪いわね。        路地裏に潜んでる何でも屋、くらいの認識でいてくれたら 182ロナルド:こんの、馬鹿娘がぁ! <サラにゲンコツを落とす> <ロンドン市内、交番内。> 183ウィレ :路地裏のジョーカー。 184レナード:要はスリです。 テムズ川近くの貧困街で多発している。 全く……。 185ウィレ :だから、出歩くのは危ない? 止しておいた方がいいのかしら。 186レナード:いえ。 あなたの場合その、家の中に籠るのも心配だ。        路地裏には、近付かないように。 187ウィレ :<笑う> 路地裏の、とわざわざついているんですものね。 188レナード:はい。 コレラの蔓延以降、どうにも治安が。 最近はおかしな事件もある。        我々警察も勿論尽力しますが、自衛をば。 189ウィレ :おかしな事件……。 ごめんなさい、そんなに忙しい中で、時間を。 190レナード:いえ。 あなたの安寧も俺の義務です。 191ウィレ :そうでしたね。 その、おかしな事件というのは? 192レナード:守秘義務です。 193ウィレ :ジョーカーの件は教えて下さったのに? 194レナード:……それは、その。 手当ての最中あなたが退屈したらいけないと思って、雑談を。 195ウィレ :じゃあ、次の雑談はおかしな事件にしましょう。 196レナード:……。 197ウィレ :ふふ。 198レナード:……。 <根負けして溜息を吐く> 娼婦殺しです。 199ウィレ :えっ。 200レナード:何度か新聞にも載ってる。 201ウィレ :そうなんですか。 新聞、読ませてもらえなくて。 202レナード:夜半、鈍器で娼婦の頭を潰す。        そんな正義漢気取りのクソ野郎が、このロンドンには跋扈(ばっこ)している。 203ウィレ :ふふ、クソ野郎、そうね。 204レナード:ああまあ、その、言葉のアヤと言いますか……。        兎角。 その事件も路地裏で起きています。 十分、お気をつけて。 205ウィレ :路地裏が危ない、というのは十分にわかりました。        無理矢理聞き出してしまってごめんなさい。 ありがとうございます。 206レナード:いや。 最も、あなたにとって一番危険なのは家の中だ。 207ウィレ :そうは言っても、家は家だから。 帰らないと。 208レナード:……踏み入った話をします。 209ウィレ :はい。 210レナード:ご実家は。 211ウィレ :母が一人。 もう年老いていますので、到底頼る気には。 212レナード:お父様は。 213ウィレ :母子家庭で。 214レナード:……。 他に親族は。 215ウィレ :いません。 216レナード:ご主人のご家族は。 217ウィレ :結婚して二年もせずに、二人とも。 218レナード:その頃から、ご主人の暴力はあったのですか。 219ウィレ :いいえ。 ただ。 220レナード:ただ? 221ウィレ :その頃は、義母から同じ事をされていたので。 222レナード:なんだって。 223ウィレ :それも仕様のない事だったんです。 224レナード:仕様のない訳あるか! 225ウィレ :子供ができないんです。 私には。 226レナード:──いや、だからと言って、 227ウィレ :主人は一人っ子で。 私の不妊がわかったのは結婚後でした。        私の母が、頼みこんだ結婚だったので。 義母にしたら騙されたも同然でしょう。        騙されて不良品を掴まされた、と。 義父は私を庇ってくれましたよ。        でも今になって思えば、義母はそれも面白くなかったのでしょうね。 228レナード:……。 229ウィレ :ねえ、それでも私には、主人を置いて一人になる事ができないのですから。 230レナード:何故、どうして。 そんな男あなたから捨ててしまえばいい! 231ウィレ :私の家族になってくれた人を、どうして私から捨てられますか。 232レナード:暴力を振うのだから捨てたらいい! 顔や掌(てのひら)にまで怪我をして! 233ウィレ :毎朝毎朝、泣きながら私に謝り縋りつくあの人を、どうして私から捨てられますか。 234レナード:それでアンタは本当に幸せなのか!? 235ウィレ :幸せですよ。 夜を超えて朝がきたら、あの人は私に愛していると、そう言うのだから。 236レナード:……っ。 237ウィレ :きっと、レナードさんの言い分が正しいのです。        だって私は、幸せだと宣(のたま)いながら、暴力に耐えかねてこうして、警察を訪ねてる。 238レナード:それでも、然るべき時はこない。 239ウィレ :ええ。 240レナード:毎日毎日こんな怪我を負わされて、あなたはきっとその男に 241ウィレ :殺される日が、くるのでしょうね。 242レナード:それでもいいと。 243ウィレ :ええ。 244レナード:……俺は諦めない。 245ウィレ :そうすれば、私の未来が変わる日がくるかもしれない、と。 246レナード:ええ。 247ウィレ :そうですね。 248レナード:……もう一つだけ、聞いていいですか。 249ウィレ :はい。 250レナード:自由になりたいとは、思わないのか。 251ウィレ :自由とは今以上に幸せかどうか、わからないでしょう。        私は不自由を愛していて、そしてそれが幸せなのだから。 252レナード:──……。 調書を。 253ウィレ :はい。 254レナード:お名前は。 255ウィレ :ウィレミナ・アリス。 256レナード:住所は覚えました。 お仕事は。 257ウィレ :針子をしています。 近所の皆様のお洋服を、仕立てたり、直したり。 258レナード:……今日は、どういったご用件で、警察へ。 259ウィレ :主人の暴力に耐えかねて、相談に来ました。 <雨が降るロンドン郊外、ロナルドの家。> 260サラ  :うわ、すごい雨……。 本当に出掛けるの? 261ロナルド:ああ、出掛けるぞ。 電球が切れちゃあ仕事もできねえ。        この雨なら人通りも多くねえだろ。 ついでにメシの買い出しだ。 262サラ  :支度するからちょっと待って。 263ロナルド:おー。 264サラ  :……ねえ、聞いていい? 265ロナルド:支度しながら話すなら。 266サラ  :どうして天気の悪い日、人通りの少ない日しか出掛けないの? <雨が降るロンドン郊外。> 267レナード:雨が降っていようが、ロンドン市内の保安は私の職務ですから。 268ウィレ :そうでしたね。 すみません、買い物の荷物。 269レナード:ああ、いえ。 ご婦人にこの量は辛いでしょう。        本来なら。 ご主人に同伴願うべきだと思いますよ、俺は。 270ウィレ :今は回診中でして。 271レナード:そうですか、ついでに面を拝んでやろうと思っていたのに。 272ウィレ :ジョークがお上手ですね。 273レナード:今のはジョークではなくて本気だったんですけど……。 274ロナルド:まあ、そういう気分なんだよ。 俺は家が好きなんだ。 275サラ  :ふうん。 お待たせ、出ましょう。 276ロナルド:ああ。 ……──親父、出掛けてくる。 277サラ  :お父さん思いよね。 278ロナルド:ん。 279サラ  :いつも出掛ける前に、お父さんの写真に声掛けてるじゃない。 280ロナルド:まあな。 281レナード:それに。 ……子供の頃から、買い物に出掛けた時。        こうして母の隣で、いつも荷物を持っていたんです。 282ウィレ :まあ。 その頃からお優しかったのね。 283レナード:優しい、そうでしょうか。 284ウィレ :そうですよ。 お母様は、お元気ですか。 285レナード:俺が家を出る前に死にました。 ……いや。 母が死んだから、家を出たと。        そう言った方が正しいな。 286ロナルド:ああ、そうだな。 ……生きてる頃は大嫌いだったんだけどな。 287サラ  :そうなの? 288ロナルド:色々あったんだ。 289サラ  :なら聞かないわ。 余計湿っぽくなっちゃう。 290ロナルド:グッド、わかってんじゃねえか。 出掛けるぞ。 <雨が降るロンドン市内、路地裏。> 291レナード:ああ、あったあった。 この店、色々安く買えると聞いていますよ。 ここで待っています。 292サラ  :あ! ロナルド、ちょっとお洋服見てきていい!? 293ロナルド:いいぞ。 一番セクシーなの買ってこいよ。 294ウィレ :ありがとうございます。 気を付けて下さいね。 295レナード:ん? 296サラ  :馬鹿! 淑女にそんな事言うモンじゃないわよ! 297ウィレ :ここ。 路地裏だから。 298ロナルド:へーえ……。 こんな路地裏に、淑女向けの店があったなんてな。 299レナード:ああ、ご主人の話以外は、覚えていてくれるのか……。 300ロナルド:ん? おお? なんだぁ?        よお、久し振りだなあ。 会いたかったぜ? ──弟。 301レナード:……兄貴。 302ロナルド:元気にしてるのか? ああ、こうして顔を合わせるのはお前が家を出て以来じゃないか? 303レナード:そうだな。 顔を見たくもなかったモンでな。 304ロナルド:流石兄弟! 気が合うな、俺もだよ。 305レナード:お陰で。 ロンドン中の鏡を叩き割りたいと、何度思った事か! <レナード、ロナルドに殴り掛かる。> 306ロナルド:<レナードの拳を躱す> おおっ!? 307レナード:<舌打ち> 308ロナルド:おいおいおい、なんだぁ? 牢屋に永久就職でもしてえのか? 309レナード:相変わらず、逃げ足だけは早いな。 310ロナルド:どうも。 ロンドン中の鏡を、へえ。        手前が職場で臭いメシ食っててくれりゃ、俺は大手を振ってロンドン市内をお散歩できるな。        大歓迎だ、俺としては。 311レナード:相変わらず達者で何よりだ、口だけはな! <ロナルドに殴り掛かる> 312ロナルド:お前は昔っからそうだ。 大した喧嘩もできねえ癖に手ばっか早くてよ。 313レナード:うるせえ! 誰の所為で母さんが死んだと思ってんだ! 314ロナルド:自殺だ。 315レナード:自殺じゃない! お前と親父が殺したんだ! 316ロナルド:その親父が死んだの、手前は知ってるか。 317レナード:は、── 318ロナルド:出来の悪い方の息子が家業継ぐのが相当嫌だったらしくてな。        手塩に掛けた方の息子が出て行ってすぐ、首吊って死にぞこなってなあ! 五年後に死に直したさ! 319レナード:……嘘だろ。 あの親父が。 320ロナルド:馬鹿が。 葬式にも顔出さねえで。 321レナード:……そうか、ああ、そうか。 俺も兄貴と揃いのクソ野郎に成り下がったか。 322ロナルド:お前もジョークが上手くなったじゃねえか。        マトモに話もできねえのは、変わりないがな。 <ウィレミナ、店から走って出てくる。> 323ウィレ :どうなさったんですか!? 324ロナルド:な──!? 325レナード:あ、コレは、 <ロナルド、レナードの顔面を殴る。> 326レナード:っ!? 327ウィレ :レナードさん! 328ロナルド:どうしようもねえヤツだとは思ってたが、ここまでとはな、えぇ!? 329レナード:……っ! 330ロナルド:歯ぁ食いしばれよ。 そのお嬢さんの顔の怪我の分だ。 <サラ、閃光弾を投げつける。> 331ロナルド:うわっ!? 332サラ  :お兄さん、こっち! <レナードの腕を引く> 333レナード:お、おい!? 334サラ  :目ェつむってっ! <閃光弾を投げつける> <サラ、レナード、走り去る。> 335ロナルド:っ!? ……ああ、クソ、くそっ! 336ウィレ :……。 337ロナルド:お嬢さんすまん、そこにいるかい。 まだ、目が。 338ウィレ :ええ、おりますよ。 大丈夫ですか、今のは……。 339ロナルド:俺の連れだ。 ああ、申し訳ない。 弁解と、アンタの手当てを。 340サラ  :あーあ、あんなにカッカしちゃって。        お兄さんごめんね。 立派な制服で、デートの途中だったのかしら。 341レナード:お、おい。 キミ、今の。 342サラ  :ロンドン警察は助けてくれた人間を売るの? ……って。 343レナード:ぐ。 そうだな、感謝が先だ、 344サラ  :ロナルド……? 345レナード:──…… <苦笑する> の、双子の弟だ。        キミは何故兄と一緒にいたんだ。 ああその前に、どこも怪我をしていないか? 346ロナルド:ったく、あの馬鹿野郎! 何も変わってねえじゃねえか! 347ウィレ :あの。 348ロナルド:ん、ああ、悪い。 顔を見てもらえばわかると思うんだが、俺はあの警官の双子の兄ちゃんでよ。 349ウィレ :まあ、そっくりですね。 350ロナルド:だろ? ……で、その。 弟がすまない。 あの通り、昔から直情的な馬鹿なんだ。 351ウィレ :え? 352ロナルド:顔、痛むか? って、よく見りゃどこもかしこも怪我だらけじゃねえか。        あの馬鹿、ついに女に手ェ上げてるのか。 353ウィレ :……もしかして、心配して下さって? 354ロナルド:そりゃそうだろ、腐ってもアレの兄貴なんだ。 弟の尻拭いはすらぁ。 355ウィレ :あの、違うの。 あなたの弟さんは、手当てをしてくれただけなんです。 356ロナルド:……あ? どういう事だ? うちの弟に殴られた訳じゃねえのか。 357ウィレ :そうです。 あなたの弟さんは、私に親切にしてくれていただけで── <雨が降るロンドン市内。> 358サラ  :<笑う> ロナルドが私の事、誘拐だなんてできる訳ないでしょ。 359レナード:……そんなに笑う事ないだろ……。 360サラ  :ああ、ごめんなさい。        ふぅん。 ロナルドと同じ顔なのに随分表情が違うわね。 361レナード:そりゃあそうだ、別人なんだから。 362サラ  :別人でも兄弟、しかも双子なんでしょう?        殴り合いの喧嘩なんてダサい事止めた方がいいわ。 363レナード:……。 364サラ  :ねえ、あの綺麗な人はあなたのガールフレンドじゃないの?        格好悪い所見せちゃ駄目よ。 365レナード:違う、ガールフレンドじゃない。 366サラ  :あらそうなの。 じゃあ、どうしてあんな派手な喧嘩をしていたの。 367レナード:……。 368サラ  :だんまり。 オーケイ、それなら私自分の話をするわね。        私がどうして、あなたのお兄さんと一緒にいたか、ですっけ。 369レナード:さっき教えてくれたじゃないか。 兄がキミを雇っていると。 370サラ  :その前の話をする。 その話が気に入ったら、あなたの話も聞かせて。 371レナード:……わかった。 372サラ  :<笑う> あなたはグッド、とは言わないのね。 373レナード:え? あ、ああ……。 374サラ  :オッケー、話すわ。        私の両親、パパとママね。 商売敵の腕があんまり良いからって、        ──首、括(くく)っちゃったの。 二年前。 馬鹿よね、こんな可愛い一人娘を置いてよ? 375レナード:……それから、一人で? 376サラ  :いいえ。 あなたも知ってると思うけど。        貧しい家の子や、私みたいに身寄りのない子が、集まって情報交換をしてるの。 377レナード:ああ、路地裏で。 耳の痛い話だ。 378サラ  :同情してくれてありがとう。 ああ、嫌味じゃないのよ?        そのグループに入れてもらったの。 稼ぐには体を売るのが手っ取り早いんでしょうけど、        私、それは絶対嫌だった。 勿論そうして暮らしてる友達の事は尊敬していて、愛してる。        だから私が守ろうと思った。 ──娼婦が殺されてるって話、知ってる? 379レナード:当然。 キミも知ってるんだな……ああ。 その結果が、あの閃光弾かい? 380サラ  :そう! 中々いい感じでしょ? あくまで自衛用だから、怒ったりしないで。 381レナード:ああ。 382サラ  :よかった。 警察ってもっと嫌な奴ばかりだと思ってたわ。 あなたみたいな人もいるのね。 383レナード:俺が変わり者だって、それだけだ。 384サラ  :そうかしら。 そんな事はないと思うけど。 385レナード:……そうか、娼婦の友人がいるのなら、嫌な思いもしてきたんだろうな。 386サラ  :私は直接嫌な思いをした事はないわ。 いつも傍から見ているだけ。        だからこうして、彼女達が持ち歩ける武器を作ってみたの。 387レナード:なあ、もしかして。 388サラ  :察しが良いわね。 つい二週間くらい前かしら、殺された娼婦によくしてもらってたの。        私、一人っ子だったけど。 本当の妹みたいに可愛がってもらったわ。 389レナード:……。 390サラ  :鈍器で顔を潰して。 冗談じゃないわよ。        容姿にちょっとでも自信がある子はみんな娼婦になるのよ、生きていく為に。        それを潰して、命まで奪って。 ふざけてるわよね。 391レナード:そう、そうだな。 そういう話なら一つ情報提供をしよう。 さっき兄貴から助けてもらった礼だ。 392サラ  :何? 393レナード:つい数日前の犯行。 凶器は鈍器ではなく医療用のメスだった。 394サラ  :医療用のメス? どうして……いや、あなたにどうして、なんて聞いてもしょうがないわね。 395レナード:ああ。 俺からこんな事を言ってしまっていいのかわからないが、メスなら鈍器より小さい。 396サラ  :って事は、怪しい奴が近寄って来たらコレを投げれば。 397レナード:効果は期待できるだろう。 398サラ  :そうよね!? よかった、ふふ、作って本当によかったわ!        でも、そうね。 メスになったから安心、なんて事はないわ。 もう少し考えた方がいいかしら。 399レナード:<笑う> キミは、本当に友達の事が好きなんだな。 400サラ  :勿論! ……って言いたい所だけど。 両親と、よくしてくれたお姉さんと。        立て続けに亡くしちゃったからこう、……ムキになってるだけかもしれないわね。 401レナード:そうか。 402サラ  :でも、命が救えるならそれでいいと思わない?        訳のわかんない殺人鬼に友達を、よくしてくれた人を殺されるなんて、もう二度とごめんよ。 403レナード:ああ、そうだな。        ……不躾な事を聞くが、ご両親は、その。 404サラ  :……バートリー。 405レナード:え。 406サラ  :バートリーって名前の、武器商人が流行り出したから。 407レナード:……。 408サラ  :良い友人であり、商売敵だって。 パパいつも笑ってたわ。        代替わりして急に金周りがよくなって、それで、うちは困窮する一方。 409レナード:それは、もしや、俺達の。 410サラ  :トンプソン。 って、知ってるかしら。 ロナルドは知らなかったみたいだけど。 411レナード:……小さい頃、よく親父が一緒に酒を飲んでいた、ような……。        キミ、あの人のご子女だったのか。 412サラ  :ご名答。 あなたのお兄さんに拾われた時、私はツイてるわって思った。        何かよからぬ事をしてうちから客を取っていたら、警察に突き出す──        いいえ、その時は頭ブチ抜いてやろうと思った。        <笑う> 警察に身内がいるんじゃあ、ブチ抜くしかなかったのね。 413レナード:俺は家も、兄貴も関係ない。 414サラ  :冗談よ。 415レナード:……本当は、俺が家業を継いで武器商人になる筈だったんだ。        親父が目を掛けていたのは俺だった。 だから、兄貴はキミのお父さんを知らなかったんだろう。 416サラ  :そう。 417レナード:人を殺す武器を作るのが嫌で、俺にそれを継がせたい親父も鬱陶しかった。        だってそうだろう。 将来大勢を間接的に殺す、そんな未来が嫌だった。        母だけは、家族だと思っていた。 でも母はそうじゃなかったらしい。 418サラ  :どういう事? 419レナード:親父がデカい商談で家を空けている間に。 首を括った。 420サラ  :……、そう。 421レナード:母の葬儀は散々だった。 商談でいない父に、遊び歩いていた兄貴。 422サラ  :えっ、二人ともお葬式にいなかったの!? 423レナード:ああ。 424サラ  :どうして!? 425レナード:俺にはわからない。 わかりたくもない。        母の葬式より人を殺す仕事の方が大事なんだろう、と。        俺は人殺しにはなりたくないと、家を出る前に父に言ったら打(ぶ)たれたよ。        兄貴はそれすらも知らずに遊び歩いてた。 426サラ  :だってロナルド、いつもお父さんの写真に── 427レナード:写真に? なんだ? 428サラ  :……何でもない。 429レナード:そうか。 ……まあ、その、そういう訳で。 俺は家を出て警官になった。 430サラ  :そう。 431レナード:そんな兄貴が、キミみたいな子と一緒にいたから。 432サラ  :<苦笑する> 話してくれてよかったわ。 あんな喧嘩をしてたのも、納得した。        続き、話していい? 433レナード:勿論。 すまない、割って入ってしまって。 434サラ  :いいえ。        そう、もし、あなたのお兄さんがよからぬ事をしていたらって話の続きね。 435レナード:頭を撃ち抜こうとしていたんだったか。 そうしてくれたらよかったものを。 436サラ  :そういう訳にはいかないわ。 だってロナルド、何も悪い事なんかしてなかった。        武器商人、死の商人。        そんな呼ばれ方をする人達が、真面目に真摯に、愚直に人を殺す道具を作ってるの。        ロナルドも同じだった、きっとあなたのお父さんもよ。 考えてみて頂戴。 当然の話だわ。 437レナード:当然? 438サラ  :ええ。 武器って一口に言っても沢山ある。 私達の家が扱っていたのは、拳銃よね? 439レナード:あ、ああ。 440サラ  :銃弾って真っ直ぐなの。 真っ直ぐ向かって、人を殺すか、地面に落ちるか。 どちらかなの。        ハートを撃ち抜くとも言うわね? 姿勢で心も撃てるのよ。 それを、私達は知ってる筈。        姿勢も、武器も。 殺すだけではないじゃない。 殺せるなら、何かを守る事にも使えるのよ。 441レナード:守る。 442サラ  :うん。 人の生死、それを扱う人達を私は。 この世界の誰よりも高潔だとすら思う。 443レナード:耳が痛いな。 俺はそんな家を嫌って逃げ出したんだ。 444サラ  :あなたはお母さんの事があったんでしょう。        それに、あなたなりの高潔で素敵なものを見付けたんでしょう。 445レナード:……さっき俺が言った事。 武器商人になる筈だった話、アレを撤回させてくれ。        キミのご家族を悪く言いたかったんじゃない、アレは俺個人の見解だ。        武器が人を守る。 考えた事もなかったが、キミの言う通りだ。        ……今の俺は、ロンドン市民の為に、この通り。 拳銃を携帯している。 446サラ  :気にしないで。 私も同じ境遇だったの、気持ちはわかるわ。 447レナード:自分が酷く幼稚だと思う、後悔してる。 448サラ  :後悔する必要ない。 あなたのお兄さんと私は、受け入れただけ。        あなたはそうじゃなかっただけ。 それでいいの。        繰り返すけど、あなたなりに素敵なものを見付けたんでしょう。 449レナード:……キミの言う、キミの素敵なものを踏み躙るような言い方をした。 450サラ  :構わないって言ってるのよ、人の話はよく聞きなさい! 451レナード:す、すまない……。 よく言われる。 452サラ  :<笑う> でも、そうね。 今日あなたに出会って、私。 一つ決めた事がある。 453レナード:なんだい? 454サラ  :私、将来ボーイフレンドを作るなら、結婚するなら。 あなたみたいな人にするわ。        真面目で、優しくて、そのまま仕事をしてる、そんな人を選ぼうって決めた。        だから本当に、悪い気なんてしていないのよ。 455レナード:<笑う> そうか、それは光栄だな。 456サラ  :本当に? 子供の冗談だと思ってない? 457レナード:そんな事はないよ。 こんな素敵なレディに褒められたんだ。        ああ、仕事で受勲した時と、同じくらい光栄だ。 <雨が降るロンドン市内。> 458ロナルド:……お前、お前そりゃあ、弟の言い分が正しいわ……。 459ウィレ :そうなんですね。 460ロナルド:そう畏(かしこ)まるなよ。        ウィレミナ、……あー、呼びにくいからミナって呼ぶわ。 461ウィレ :ええ。 462ロナルド:お前がそう、旦那を想っている、愛しているのはよくよくわかった。        でもなあ。 お前だって殴られる時は痛いだろ。 463ウィレ :痛い。 464ロナルド:ああ、殴られた瞬間だ。 その時の事をよく思い返してくれ。 465ウィレ :……痛い、わね。 466ロナルド:そうだろ? お前はさ、そんな生活に慣れちまったから今の生活を愛せる。 旦那を愛せる。        慣れっつーのは怖いな。        俺が口を挟める事ではないのは重々承知しているが、お前はすげー奴だって尊敬する。 467ウィレ :ありがとう。 468ロナルド:ああ。 でもな、殴られる瞬間に痛むんだろう。 それを愛する必要はない。        現に、お前は旦那が寝てから俺の弟を訪ねてる。        なあ、それはどうしてなんだ。 弟に手当てをさせたい、そんな理由じゃないだろう。 469ウィレ :……。 470ロナルド:理由を探さなくていい、わかりきってる。        お前はな、弟に会って安心してるんだ。 お前に害を与えない人間、お前を殴らない人間。        どうだ、違うか。 違うなら、弟に会いに行っていたのは何故か。        思いついた事でいい、教えてくれ。 471ウィレ :……耐え兼ねて。 472ロナルド:グッド、そうだな。 お前は理由を口にできてる。        旦那を捨てろとは言わねえよ。 お前が愛してるものだから。        なあ、旦那と同じように愛するものを増やすのはどうだ。 一つずつでいい。        急に今の生活を捨てられる程に何かを愛する、ってのは難しいだろうさ。        こうして家を出る時間は作れるのか? 473ウィレ :ええ。 主人が回診をしている間とか、主人が寝てる間は。 474ロナルド:夜か! いいね、夜遊びでもしたらどうだ。 475ウィレ :夜遊び……? 476ロナルド:した事あるか? はは、なさそうだな! 折角の夜に出掛ける先が警察だけっつーのは味気ねえ。        金さえありゃ遊べる、がー……。 お、そうだ。 俺と出掛けてみるか? 477ウィレ :あなたと、出掛ける。 478ロナルド:ああ。 なに、俺ぁ不倫だのなんだのごちゃごちゃした事は苦手でね。 適任なんじゃないか。        それに、お前さんみたいな美人を一人で歩かせるのは心配だ。        エスコートに関しちゃ、弟よりゃマトモにできるだろうよ。 479ウィレ :でも、悪いわ。 あなたの時間を頂く訳だし、……主人にも何を言われるか。 480ロナルド:黙ってりゃいい。 弟の所にも、旦那に黙って顔出してるんだろ。 481ウィレ :そうだけど、でも、彼は警察の方だから、 482ロナルド:警察だから信用できるのか? 警察だって俺と同じ男だ。 483ウィレ :……。 484ロナルド:悪いようにはしねえよ。 俺ぁこの通り口は達者なんだ。 万が一があればどうにかしてやる。        試しに、少し散歩してみるか? 485ウィレ :……。 486ロナルド:この雨だ。 何かあったかい物でも買おう。 手、貸しな。 487ウィレ :……ホットチョコレートがいいわ。 488ロナルド:わかった。 うお、なんだ、冷てえ手だな。 489ウィレ :そうかしら。 490ロナルド:おお、そうだそうだ。 ホットチョコレートで温まればいいんだがな。 491サラ  :もー! 人妻連れてどこほっつき歩いてんのよ! 全然見付からないじゃないの! 492レナード:サラ、キミだけでも先に帰った方がいい。 この雨だ。 493サラ  :大丈夫よ、ロナルドがいないと仕事にならないし。 494レナード:ならせめて、俺の傘を使ってくれ。        見た所こちらの方が大きい、キミの肩が濡れないで済むだろう。 495サラ  :それじゃレナードが濡れちゃうでしょ、 <レナードに傘を取り上げられる>        あ、もう! 496レナード:いいんだ。 俺の制服はこんなに立派なんだ、雨くらいどうって事ない。 497サラ  :……じゃ、お言葉に甘えるわ。 498ウィレ :……美味しい。 499ロナルド:ホットチョコレート、飲んだ事ないな。 どれ、一口寄越してみろ。 500ウィレ :え。 501ロナルド:うわ、甘いな。 502ウィレ :手。 503ロナルド:んあ? 504ウィレ :温かいのね、ロナルドの手は。 だから私の手が冷たいと思ったんでしょう。 505ロナルド:……そうか? 506ウィレ :あなたは何を飲んでるの? 507ロナルド:あ、おい。 コーヒーだから苦いぞ。 508ウィレ :……。 509ロナルド:はは! そら言ったろ、苦かったか。 510ウィレ :苦かったわ。 511ロナルド:俺と会ってから初めて、顔が変わった。 512ウィレ :顔? そうかしら。 513ロナルド:ずっとぼーっとしやがってよ。        ひひ、傑作だ。 美人のしかめっ面も悪かねえな、美人だからか。 514ウィレ :しかめっ面……。 515ロナルド:もっぺん笑ってみろよ。 516ウィレ :私、笑ったかしら。 517ロナルド:笑った。 美味しい、って言った時。 518ウィレ :じゃあ、今は笑えないわ。 519ロナルド:もっぺん美味しいって思えばいいだろ。 520ウィレ :難しい事を言うのね。 521ロナルド:何も難しくはないだろ。 522ウィレ :……。 そうね、もっと簡単だったわ。 523ロナルド:お? <ウィレミナに手を取られる> お。 524ウィレ :これでちゃんと、笑えてる? 525ロナルド:おお、……なんだぁ、大胆だな。 526ウィレ :大胆? 何が? あなたの手をお借りしただけよ。 527ロナルド:それが大胆だっつってんだよ。 528ウィレ :温かい物が好きなのよ。 529ロナルド:ホットチョコレートがあるだろ。 530ウィレ :あなたの手の方が上等よ。 531ロナルド:……、そうか。 532ウィレ :あなただってさっき、勝手に私の手を取って、勝手に私の物を飲んだわ。        大胆ね。 533ロナルド:……。 534ウィレ :ねえ、ちゃんと笑ってた? 535ロナルド:……おお。 536ウィレ :ならよかったわ。 満足かしら。 537ロナルド:おお。 538ウィレ :笑えって言い出したの、あなたよ。 539ロナルド:……そうだな。 540ウィレ :こうして、愛するものを増やしていけばいいのね。 541ロナルド:そうなんじゃないか。 542ウィレ :コレもあなたが言ったのよ。 543ロナルド:そうだったな。 ……あーあ、手にこんな傷が無きゃ、もっといいんだがな。        掌まで怪我、……掌? 544ウィレ :ええ。 切っちゃったの。 545ロナルド:おい、切っちゃったって、旦那にやられたのか? 546ウィレ :これは違うのよ。 ちょっと暴れるから、その時に。 547ロナルド:暴れる? 548ウィレ :娼婦が。 549ロナルド:──え? 550レナード:あ。 サラ、あそこにいるの。 551サラ  :ああ! よかったやっと見付けた!        んもう、コーヒーなんて飲んじゃっていい身分ね、 552レナード:<小声で> 待て、サラ。 553サラ  :何? 554レナード:<小声で> 今、娼婦、と聞こえた。 555ロナルド:……しょう、ふ……? はは、どうしたミナ。        娼婦が暴れる? 一体全体何の話なんだ? 556ウィレ :娼婦を殺してる人がいる、って話、知ってる? 557ロナルド:ああ。 558ウィレ :それ、私の事よ。 559ロナルド:……。 560ウィレ :顔を潰してるのが、新聞に載ったって聞いたの。        だから主人の診療所からメスを借りて。        上手くいかなくて、使い慣れていないから、なのかしらね。 その時の傷なの。 561ロナルド:──お、前……? 562ウィレ :……ロナルド? 大丈夫、顔色が悪いわ、 563ロナルド:あ、ああ、悪い……。 なんだ、旦那にそう言えって言われたのか? 564ウィレ :いいえ。 565ロナルド:そうだ、そうなんだよな? 暴力旦那が、娼婦殺しの犯人で、……。 566ウィレ :うるさかったのよ。 567ロナルド:……。 568ウィレ :うるさかった、それに。 ほんのちょっとだけ、彼女達が羨ましかった。 569ロナルド:羨ましい……? 570ウィレ :そうよ、羨ましかった。 そういう時は、殴られるものだわ。        うるさい、どうしてお前はのうのうと暮らしてるんだ、って。        違ったのかしら。 でも、私はそうだったの。 同じ事をしたのだけど……。 571ロナルド:同じ事。 572ウィレ :何か、違ったの? ロナルド。 573ロナルド:……ミナ。 お前は娼婦の何が、羨ましかった? 574ウィレ :子供を授かる事ができる。 そして、産んだり、殺したり、選択肢がある事。 575ロナルド:お前には選択肢がなかったのか? 576ウィレ :ええ。 生かすか殺すか、その選択肢が欲しかった。 577ロナルド:お前、……お前は、子供が、産めない。 578ウィレ :そう。 579ロナルド:だから、旦那に暴力を振われていた。 580ウィレ :あ、そうね。 私も自由になりたかったのかもしれない。        私が決めてみたかったのかもしれない。 人の生死を。 581ロナルド:──……。 荷物、まとめろ。 582ウィレ :荷物? 583ロナルド:お前の家へ行こう、旦那の回診は何時までだ、 584ウィレ :ねえロナルド、どうしたの? 585ロナルド:ロンドンを出る、俺とお前で、旦那も娼婦殺しも、何もない場所へ行く、いいな、 586ウィレ :どうして? 587ロナルド:どうしてもこうしてもねえんだよ! 海、そうだ、海を渡ろう、俺とお前で! 588ウィレ :海。 589ロナルド:ああ。 大丈夫、連れて行ってやるさ、俺が。        ごっこ遊び、上等だ、自由にしてみたかったんだろ、してみりゃいいさ、        人も自分も殺さなくて済む場所ってのはきっとある筈なんだ、そこへ行こう。 590ウィレ :……人も、自分も、殺さない……。 591ロナルド:海を渡ろう、な? きっと今以上の幸せがある、幸せにしてやる、どこへだって連れて行ってやるよ。 592ウィレ :……考えた事もなかったわ。 593ロナルド:だろ!? 考えた事がねえんだ、その先にお前の幸せがあるのかもしれない!        俺達が知らないだけで、人も自分も殺さなくていい場所がきっとあるんだ! 594ウィレ :…… <笑う> そうね、そうなのかもしれない。 595ロナルド:な!? 海の向こうでも、幸せでも、地獄でも! どこへだって連れて行ってやるよ! 596ウィレ :ねえ、地獄って <銃声(サラの発砲)、ウィレミナの腹を貫く。> 597ウィレ :ど、こ……に、 598レナード:っ! <銃声(レナードの発砲)、ウィレミナの頭を貫く。> 599ロナルド:──は、 600サラ  :させるか、させるかぁ! 人殺し! 601レナード:サラ! 下がれ! 602ロナルド:ミナ? おい、ミナ! 603サラ  :下がれない! 私は腹しか撃ってない!        まだアイツ死んでない! ロナルドが! 604レナード:俺が撃った彼女は死んだ、なあ見てただろ、 605サラ  :ふざけるなよ人殺し! お前だけッ、お前だけ生かしはするもんか、        お前、お前だけは─ <銃声(ロナルドの発砲)、サラの足を撃ち抜く。> 606サラ  :<悲鳴> 607レナード:サラ! 608ロナルド:……随分じゃねえか、なあ、おい。 609レナード:サラ、歩けるか、大丈夫か!? 610ロナルド:歩けなかろうが生きてはいるだろうが!        もう一発ブチ込んでやろうか!? 611レナード:彼女を撃ったのは俺だ、お前からは見えてただろ! 612ロナルド:<笑う> そうだな頭を撃ったのは手前だな!        でもそのガキが先にミナの腹を撃ったのも見えた!        ああ、あああクソガキが! あの時警察に突き出しておきゃあよかったな! 613サラ  :……ロナルド、 614ロナルド:うるせえ! まとめてぶっ殺してやる! <ロナルド、発砲。> 615レナード:サラ、少し搖れるが耐えてくれ! <レナード、サラを抱えて駆け出す。> 616サラ  :っ、ロナルド、ロナルドやめて! <ロナルド、発砲。> 617ロナルド:畜生が! <ロナルド、駆け出す。> 618レナード:<舌打ち> くそ、追ってくるか。 619サラ  :レナード、 620レナード:心配しなくていい、大丈夫だ。 621ロナルド:いいねえ! 鬼ごっこ! 何年ぶりだ、なあ、兄弟! 622サラ  :でも、ロナルドが 623レナード:キミはアレを説得できると思うか!?        二人いっぺんに頭を撃ち抜かれてそれで終わりだ! 624サラ  :……。 625ロナルド:いいや、そもそも俺達は鬼ごっこだなんて! 一緒に遊んだ事があったか! 626レナード:……キミが兄貴にその、情を持ってるのはわかる、人として。        彼女を撃ったのも、兄貴を庇おうとしたんだろう。 627サラ  :……。 <泣き出す> 628レナード:大丈夫、俺はキミを生かしたい。 絶対に一人にはさせない。 629ロナルド:なあ! 兄弟! <ロナルド、発砲。> <レナード、物陰にサラを下ろす。> 630レナード:ここで、隠れていてくれ。 必ず迎えにくる。 <ロナルド、発砲。> 631ロナルド:なあ、なあ弟! ミナは! これから愛するものを増やすって!        言ってたんだぞ! おい! アイツ! 俺の手が温かいって!        ああ、ああ! なら何で、なんで! これから! 俺の手を!        そんなモンいくらでも! <ロナルド、発砲。> 632ロナルド:──……なんで俺から、何もかも離れていくんだよ……。 <レナード、歩み寄り拳銃を地に滑らせる。> 633ロナルド:……あ……? 634レナード:撃ち切っただろ。 六発。 635ロナルド:……手前。 あのジョーカー、どこに隠した。 636レナード:さあ、どこだろうな。 637ロナルド:言え。 638レナード:教える訳ないだろ。 639ロナルド:何だ、情が沸いたか? 640レナード:お前だって情が沸いたんだろ。 641ロナルド:<笑う> まあ、違いないな。        嫌な所で似たモンだ。 642レナード:俺は、連続殺人犯を射殺したまでだ。 643ロナルド:……。 644レナード:自白していた最中だったんだろう。 なら、……。        ロンドン市民を守る為に、害する者を罰する、それが俺の仕事だ。        高潔だとすら、思う。 645ロナルド:善良なロンドン市民を射殺して、か。 646レナード:ああ。 そうするしかなかった。 647ロナルド:そんな訳ねえだろ。 ミナにはまだ心があった。        俺の手を……。 648レナード:……。 だから。        その銃を取って。 俺に報復をするならすればいい。 649ロナルド:…… <笑う> 650レナード:俺は抵抗する。 俺がその銃を持てば。 次はお前を撃つ。 651ロナルド:<笑う> 652レナード:……サラに、報復をしないと約束をしてくれたら、 653ロナルド:そうさ。 報復をすればいい。 654レナード:……。 655ロナルド:そう、そうさ! 俺が手に入れる事ができないなら! 奪えばいい!        ああ、あああ! なんでこんな簡単な事がわからなかったんだ!?        お袋も! 親父も! ミナも! お前も! そう!        殺せばなかった事になるんだからな! ああそうさ!        ミナ! 自由になろう! 俺とお前で! なら何が邪魔だ!? 656レナード:兄貴、 657ロナルド:お前は直情的な馬鹿だと思っていたが、違ったな!        賢いよ、お前は賢い! 俺の賢い弟だ! 658レナード:……そうか。 659ロナルド:改めて聞くぞ、弟。        あのジョーカー、どこに隠した。 660レナード:言う訳ねえだろ。 661ロナルド:グッド。 662レナード:親父の口癖か。 663ロナルド:──お袋の葬式の、あの日。 親父が心配でなあ……。 664レナード:……。 665ロナルド:商談についていったんだ俺は。        グッド、その一言でどんな日も商売ができるって、親父は。 666レナード:<舌打ち> 667ロナルド:俺達にメシを食わせる為に、 668レナード:与太話は大概にしろ! 669ロナルド:お前が母さんの葬式を立派に仕切るだろうから!        俺は商売ができると! 親父は! 670レナード:……。 671ロナルド:父さんが見てたのは、最期まで見てたのは、お前だったよ、レナード。 672レナード:……。 673ロナルド:だから。 ミナは、俺に譲っちゃくれないか。        仇を。 俺に。 譲ってくれ。 頼む。 674レナード:断る。 675ロナルド:なら、力尽くで言わせるしかないな。 676レナード:やれるモンならやってみろ。 677ロナルド:自由になるんだ。 あのジョーカーが邪魔だ。 678レナード:なら銃を取れ。 親父の作った銃じゃなくて悪いな。 679ロナルド:お前の銃とか、ガキのごっこ遊びに過ぎねえんだよ! 680レナード:お前の自由とか、ガキのごっこ遊びに過ぎねえんだよ! <銃声。> <ロンドン郊外、廃工場の一角。> 681ロナルド:斯くしてこのお話はおしまい。 何、聞いてみればつまらなかったろう?        ミナが自由になるには何が必要だ? そう、連続殺人、それが邪魔になる。        全く手の掛かる女だ。 いいさ、叶えてやろう。        なんて事はない、手はいくつか浮かんでる。 グッド。        お前とサラが邪魔だ。 しかし、お前とサラなら。 ミナの事を覚えていてくれるだろう?        ジョーカーの在処(ありか)。 吐く気になったかい。        ……そうか、それならそれで結構。 俺は必ず見付け出すさ。 682ロナルド:さあ、手を貸しておくれ。        そして、手を、斬(き)ろう。 ──弟。 <ロンドン市内、路地裏。フラフラと歩いている血塗れのロナルド。> 683少年A :ひでぇよなあ、親方! 684少年B :うん。 お陰でメシ、食い損ねちゃったな。 685少年A :ホント、今日は災難だ── <ロナルドにぶつかる> うわっ!?        あ、ごめんなさい! 686少年B :お、俺達、悪気はなかったんだ、その……。 687ロナルド:……お前ら、腹、減ってんのか。 688少年B :いいえ、 689少年A :そうなんだよ。 なあおっちゃん、この新聞やるからさ、そのパンくれよ! 690少年B :おい! 691ロナルド:いいぞー。 おっちゃんな、金が無くて困ってたんだ。        その新聞、このパンで買ってくれや。 食いかけで悪いな。 692少年A :いいの!? 693ロナルド:なんだ、商売持ち掛けたのはそっちだろ。        お前、利口だな。 そっちは慎重だ。 二人とも良い商売人になるぞ。 694少年A :ほんとか!? 商売始めたらおっさんも、俺達の店に来いよ! 695ロナルド:わかった。 きっと店には顔を出すぞ。        でもな、俺みたいにフラフラしてる大人にはなるなよ。 696少年A :フラフラしててもいーじゃん。 たまにはそんな日が必要だぜ? 697ロナルド:<笑う> おお、小生意気だな。 ……二人、仲良くやれよ。 698少年A :うん、わかった! 699少年B :あ、ありがとうございました。 行こう。 700少年A :ビビり過ぎだって。 やったな親友、家に着く前に食おうぜ! 701少年B :あああ、脚を怪我してるんだから、そんなにはしゃぐなよ、親友……! 702ロナルド:……親友。 親友、ねえ。        ──……俺達もそうだったら、上手くいったのかね。 703少年A :やったな、親友! お前腹減ったって言ってたじゃん。        そらこっち、食えよ。 704少年B :ありがと……。 あんな人からもらったパンなんて、大丈夫かな……。 705少年A :大丈夫だって! あのおっちゃん、格好良かったなあ!        俺もさぁ、背が伸びたらあんな大人になれるかな? 706少年B :どこが格好良かったんだよ。 707少年A :俺、綺麗なモノが好きなんだ! わかるだろ!? 708少年B :<溜息> たまにお前の事がよくわかんなくなるよ、俺……。 709少年B :──あんな血塗(まみ)れの浮浪者、どこが格好良いんだよ。 <歩きながら新聞を開くロナルド。> 710ロナルド:──……千八百七十年、九月。        今日のロンドンは晴天。 雲一つ、見当たらない。 2021.6.25 初版 羽白深夜子 2021.7.5 更新 羽白深夜子 2021.7.17 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 サイトへ戻る