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【eclat et rose】 (えくらえろーず) 男性1:女性1。 作中の配役表記、三点リーダ等意図的に排除しています。 有償版販売ページはこちら。 男……男声(神様・少女の父親・サーカスの青年・ナレーション) 女……女声(ナレーション・少女) 【配役表】 男: 女: ======================================= 001女:昔々。 神様はとても退屈していたの。     人間は生まれ、泣き、啀(いが)み合い、奪い合い。     そして何かを得て、笑って、恋をして、子を成して、老いて、死ぬ。     長い間ずっとこの繰り返しだわ。 退屈して当然。     だからね。 神様は一つ、意地悪を思いついた。 002男:そうだ。 次に生まれ落ちる人間の涙を、真珠に変えてみよう。     人とは欲深い生き物だ、奪い合うに違いない。 きっと退屈しない人生を見せてくれる。 003女:そして、その子が生まれた。 町一番の大きな屋敷、立派な旦那様と優しい奥様の子、小さな小さな女の子。     彼女が産声を上げた時、苛められた時、嬉しかった時。     涙を落とす度に、それはコツコツと床を叩く真珠に変わった。     沢山の子供に苛められた。 沢山の大人にせびられた。     彼女を本当に愛していたのは、きっとお父さんとお母さんだけだった。 004男:可愛い子。 私達の愛しい子。 主(しゅ)よ、何故このような険しい道を与えますか。     この子が落とす涙より、はにかむ笑顔はずっとずっと愛らしいのに。     されど、皆は笑顔に見向きもせず。 さあ泣け、さあ真珠を落とせとそればかり。     私達はこの子を愛して二十年。 もう長くない私達がこの子にしてやれる事はないのか。     せめて与えられるだけではない愛をと、町中から選りすぐった青年を当てがった。     しかしそれも間違っていたのかもしれない。 一人目の男に酷く騙されて、あの子は眼をつむってしまった。     彼が四人目だ。 ああ、彼は真珠などではなく、この子の笑顔を知ってくれるといいけれど。     さあさあ、可愛い愛娘。 こちらにおいで。 005女:今度はどなた? 私、もう誰にも会いたくないの。     お父様とお母様が天に召される時、きっと私も一緒に行くわ。     パンの一切れもいらない。 お父様とお母様がいない世界で、私は何も欲しくないの。     だから私は両の眼を閉じたわ。 誰も彼も、私じゃなくて真珠を欲しがったのだから。     私は沢山を持ち過ぎたの。 この体の水という水が全て真珠に変わるなら、それは人の身に余る沢山だわ。     だから、神様は私に何も与えて下さらないの。 何も手に入れてはいけないのよ。 006男:そんな悲しい事を言わないで。 生きていればいい事があるよ。 少なくとも、僕はそう信じているよ。 007女:どなた? 008男:初めましてお嬢さん。 僕はこの町一のサーカスの、そのまた一番のエンターティナーさ。 009女:エンターティナー? 私、サーカスを見た事がない。 010男:当然さ。 キミが眼を閉じてしまっているのだから。     ねぇ、眼を開けて。 僕の話を聞いて、一度芸を見てごらん。 キミはきっと笑ってくれる。     僕のこの立派な衣装を見て。 このベルベットからは、素敵な物が何だって出てくるんだ。     夢だって、希望だって、きっとキミの笑顔だって。 シルクハットからはね、白い鳩が出るよ。     僕はこの町一のエンターティナーになるのが夢で、ずっとずっと努力をしてきたのだから。 011女:嫌よ。 笑い過ぎたら泣いてしまう。 真珠が落ちてしまう。     あなたはその真珠を掠め取る算段なんでしょう。 012男:それはそれは、難しい相談だな。     エンターティナーたる僕は、人々を笑わせる事こそ日々の目標にしているけれど、     笑い過ぎて泣いてしまうのは僕の管轄外だ。     そうだ、ならばこうしよう! いいかい、こうして僕の手を取って。 013女:何をするの? どこへ行くの? 014男:キミ、ずっと眼を閉じているじゃないか。 そんな調子じゃきっと退屈だ。 015女:もう慣れたわ。 何年かこうしているもの。 016男:ならばまず、キミに何年か分の町の変化を伝えたいと思う。     僕がキミの眼になろう、キミは耳を澄ましているだけでいい。 017女:町へ出掛けるの? 嫌よ、あんな所。     みんながみんな、面白いモノを見る目で私を見るんだもの。 018男:心配しないで。 僕はこの町一のエンターティナー。     キミよりずっと面白いモノだから。 ほら、行こう!     キミは何が好きなんだろう。 面白いものかな、うんと綺麗なものかな。     ほら、僕と探しに行こう! 019女:心配をよそに、彼は彼女を連れて町へ繰り出した。     石畳の欠け方、繁盛する風船屋、退屈そうなキャンディ屋に金を払って飴を買い、     道端の白百合をプレゼント。 そこで漸く、彼女の頑(かたく)なが綻んだ。 020男:あれっ。 今キミ、笑ったね? 021女:いいえ、白百合が香っただけ。 私は何もしていないわ。 022男:そうか成程。 であればうんと素敵な花束を用意しよう。 きっと沢山香る。 023女:その日家に帰って、彼女は白百合を大切に生けた。     眼を瞑っていたから、とても難しかったけれど。 花はずっとずっと、香っていたの。     だって、彼がそれから毎日、季節が変わっても、花を持ってやって来たから。 ​ 024男:今日は赤色のバラなんだ。 棘(いばら)が鋭いから気をつけて。     ほら、大きな花をつけているんだよ。 キミの掌ほどあるんじゃないか。 025女:そんな事ありっこないわ。 さわればわかる、痛かったらそれは棘。 026男:確かめるのはもっと簡単だよ。 眼を開ければわかる。 027女:でも、怖いわ。 028男:バラを見るのが? 僕を見るのが?     バラであるなら眼を開ける事を勧めるよ。 僕はキミが棘で怪我をする方がずっと怖い。 029女:あなたがそう言うのなら、眼を開けるわ。     ねえ、私の眼を見ても、驚かないでくれる? 怖がらないでくれる? 030男:勿論。 031女:本当ね? 絶対よ、約束よ。     町の皆が、私の事を怖がったわ。 この私の眼のせいで。     真珠を落とす、それだけじゃないこの眼のせいで。 ​ 032男:開いた睫毛の下には、大きなルビーが二つ。 彼女はバラのように、赤い眼をしていました。     けれど、大輪のバラに負けないその眼が、零れ落ちそうな程見開きました。     目の前の彼は、シルクハットなど無く、ベルベットも着ておらず、みすぼらしい服を着ていたのです。 033女:あなた、何も持っていないわ。 034男:うん、何も持っていない。 あるのはキミに渡すバラだけだ。 035女:鳩を出すシルクハットは? 素敵な衣装は? 036男:何もいらないよ、キミの前では。 白百合に笑いかけるキミを見てそう思った。     ああよかった、やっぱりそうだ。 漸く会えた。 ずっと会いたかったんだ。 037女:私に? 会いたかった? おかしな人、ずっと会っていたわ。 038男:キミは覚えていないんだろうね。     キミがまだ眼を開けていた頃、キミが当たり前にくれた一粒の真珠が、僕の人生を変えてくれた事を。     通りがかったキミが、家も無く食扶持(くいぶち)もなく、荒み、声を荒げる僕にくれた言葉を。 ​ 039女:この真珠を売って。 きっといくらかのお金になるわ。     それでパンを買って食べて、お願い、生きて。     私があなたを助ける理由は、きっとそれだけでいいの。     さあ、受け取って。 生きていれば、きっといい事があるもの。     少なくとも私は、そう信じてる。 ​ 040男:キミがそう言ってくれたから、僕はずっと憧れていたエンターティナーになれたんだ。     残念ながら町一番とは言え、給料は少ないんだ。 殆ど花になってしまったけれど。 041女:もしかして、私を探していたの。 042男:そうだよ。 このバラに似たルビーの眼を探してた。     随分探したよ、キミが閉じていたお陰で、町中探しても見つからなかったのだから。 043女:どうして。 あんなの、ただの気まぐれよ。 044男:気まぐれでいい。 初めて人の温かさに触れた。 何が何でも、キミに返したいと思った。      ああ、泣かないでよ。 045女:だって、だって、花瓶にあんなに沢山。     あなたからもらった花が、あんなに沢山あるの。     私、今の今まで気づかなかった、眼をつむっていたから。 気が付かなかったの。     私の言葉で生きてくれる人がいるだなんて。     夢をお金に変えて、愛を、心を下さる方がいるだなんて、想像もしなかった。     みんな、真珠ばかり欲しがったから。 こんなに嬉しい事があると思わなかった。 046男:元はと言えば、キミがくれたこの命だ。 これで漸くおあいこだ。     あれ? あはは、今度は僕が驚いた。     ねえキミ。 キミは今、真珠じゃなくて涙を流しているよ。 047女:ああ、ああ。 あんまり嬉しいから、きっと溶けてしまったのね。 ​ 048男:彼女の言う通り。 神様の気まぐれは、本当の愛で溶ける呪いでしたとさ。     え、この二人のそれから? 僕らを見ていてわからないかい? 可愛いおチビちゃん。 049女:何かを得て、笑って、恋をして、子を成して、老いているわ。 050男:はは、そうだね。 ご覧の通り、彼はサーカスの座長になった。     今は赤い眼をした、誰より素敵な婦人を迎えて、給料も増えた。     お陰で衣裳もこの通りだ。 シルクハットもある。 051女:彼女は素敵な旦那様に嫁いで、もっと小さいあなたを生んで、今はとっても幸せ。     あと、サーカスが大好きなの。 休日は大好きなおチビちゃんと一緒に、サーカスを見に行くわ。     眼が赤くてバラのようだから、マダムローズ、なんてあだ名がついたの。 あなたもよくご存じでしょう? 052男:さあ、今夜のお話はこれでおしまい。     明日を素敵な日にする為に、今日はもう寝よう。 2016.4.21 完成 羽白深夜子 2021.1.28 修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 サイトへ戻る