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【痴人の愛】 (ちじんのあい) 男性2:女性2。 谷崎潤一郎氏の同名小説から引用を含みます。 内容を知らなくても演じられるように書いてあります。 有償版販売ページはこちら。 →谷崎潤一郎氏著書『痴人の愛』あらすじ 譲治という真面目な会社員は「若い少女を育て自分好みに育てて結婚する」事を考えていました。 彼はナオミという15歳で喫茶店のウェイターをしていた美人と出会い、彼女を育てる事を決めます。 ナオミは非常に奔放な少女で、譲治に小遣いをもらい浪費したり、 譲治の家に寝泊まりしながら他の男性と遊んだりしています。 譲治は彼女を一度家から追い出しますが、ナオミに惚れているので、結局はナオミに縋り服従します。 最終的に譲治がナオミの言う事に全て聞き入れ、服従する事を条件に二人は結婚し、譲治は財産を全て投げ売り、 家をナオミの好きな横浜に立て、ナオミは奔放に遊び暮らします。 「彼女は二十三に、私は三十六になりました。」というのは小説の最後の文章で、 結婚から数年経過している事を示唆しています。 福田 陽菜(ふくだあきな)  18歳女性 高校生。 樋本 孝 (ひもとたかし)  31歳男性 高校教師。 野合 久信(やごうひさのぶ) 18歳男性 高校生。 高田 由紀(たかだゆき)   18歳女性 高校生。 ※高田由紀のみ、極端に台詞数が少ない旨ご承知おき下さい。 【配役表】 福田 陽菜: 樋本 孝 : 野合 久信: 高田 由紀: ======================================= 001陽菜:卒業式の今日、私は失恋をする。 ​ <教室内。> 002由紀:アキー、この後クラスのみんなでご飯食べに行くんだけど、アキも行かない? 003陽菜:あー……。 この後髪切りに行くから、その後行ってもいい? 004由紀:マジ? 切っちゃうの? 005陽菜:うん。 006由紀:ばっさりいく? 007陽菜:そうするつもり。 008由紀:ほおー。 黒髪ロング、アキのトレードマークっていうか、そんな感じじゃん。      綺麗なのにもったいないなあ。 009陽菜:そうなのかなぁ、でもありがとう。 010由紀:うん。 じゃ、駅前のファミレスにいるからね。 切り終わったら連絡して。 011陽菜:わかった。 私が切り終わるまでいてね。 012由紀:おっけー。 ちゃっちゃと切ってこーい。 <陽菜が教室を出てすぐ、久信が教室に入る。> 013久信:……あれ。 アキ、メシ食いに行かねえって? 014由紀:んー。 また国語のヒモトの所なんじゃないの? 髪切って来るって言ってたから。 015久信:は? なんでヒモトの所に行って、髪切んの? 016由紀:ばーか。 失恋しに行くからでしょ。 髪切ってこっち来るんだって。 017久信:……あー。 018由紀:よかったね? 019久信:何が。 020由紀:アキが失恋して。 021久信:いい訳ないだろ。 ユキ、お前何で止めないんだよ。 022由紀:不毛じゃん。 いくらヒモトが独身だからって、この先ずっと高校の先生に片思いすんのって。      止める理由ないでしょ。 むしろアンタは喜ぶべきだと思うけど。 023久信:なんでだよ、喜べるかよそんなの。 024由紀:あーはいはい。 ねえノブ、あのさ。 チビの頃からアンタずっとその調子じゃん。 025久信:その調子じゃんって、何が。 ユキ、俺相手だと本当に適当だな。 こっちは真面目に相談してるのに。 026由紀:私だって真面目だよ。 アンタが女絡みで嬉しそうな顔してる所見た事ない。      幼稚園の頃隣のクラスの女の子に優しくして、小学校の同じクラスの子に優しくして。      中学の後輩と付き合って。 ねえ、ノブが大事にしてきた女の子の内、何人がアンタの事をわかってくれた? 027久信:……。 028由紀:ねえノブ、幼馴染の忠告は聞いといた方が得だよ。      傷付ける気がないなら、人を好きになんてならない方がいいって、私は思ってる。 029久信:好きになったら、その相手を大事にするモンじゃないのか。 030由紀:アンタさっき答えられなかったでしょ。 何人がアンタの事わかってくれた? っての。      アンタの言う、相手を大事にしてきた結果がソレなんでしょ。 031久信:そうだけど、……そうなんだけど。 最初(はな)っから諦めて掛かってるお前よりはマシだと思う。      それでも俺は、傷つけたくないから、俺の考えを改める気はない。 032由紀:どこに行くの。 033久信:追いかける。 034由紀:追いかけて何て言うの。 035久信:好きだって言う。 036由紀:玉砕覚悟? 037久信:悪いか。 038由紀:馬鹿みたい。 でも玉砕したらまた話聞いてあげるよ。 039久信:その馬鹿の話を延々と聞いてるお前は何なんだよ。 040由紀:賢明な傍観者だよ。 041久信:馬鹿みたいだな。 ​ <久信が教室を出ていくのを見送る由紀。> 042由紀:本当にね。 <世界史準備室、ドア前。> ​ 043陽菜:<数回深呼吸をする> 失礼します。 044孝 :お。 来たな、卒業生。 045陽菜:本、返したかったんで。 持って来ました。 046孝 :ああ、ありがとう。 どうだった? 047陽菜:どうだった、というか……これ、教え子に勧める内容ではないですよね。 048孝 :そうか? 谷崎潤一郎(たにざきじゅんいちろう)、「痴人の愛」。 名作だぞ。      タニザキの陰翳礼讃(いんえいらいさん)なんかは、教科書にだって載ってた事もあるんだぞ。 049陽菜:なら陰翳礼讃を勧めて下さい。 050孝 :フクダに貸そうと思ったら、もう持っていたじゃないか。 あの時は驚いたなぁ。      俺みたいな三十過ぎのおっさんなら兎も角、フクダみたいな若い子が読んでるなんて。 051陽菜:三十過ぎって言ったって、まだ三十一歳じゃないですか。 先生も若いですよ。 052孝 :<笑う> ……で、どうだった? 「痴人の愛」。 面白かったか? 053陽菜:面白かったです。 でも、これを男性に勧められるって、ちょっと微妙な気持ちになります。 054孝 :そうかあ? 谷崎とか後はー……、泉鏡花(いずみきょうか)、三島由紀夫(みしまゆきお)な。      この頃の耽美(たんび)主義の作家はいいぞ。 あるだけで美しいって、そういう概念がいいよな。 055陽菜:……この本は、「痴人の愛」は確かに素晴らしいと思いました。      私が言いたい事はそうじゃない事くらい、わかりますよね? はぐらかさないで下さい。 056孝 :……。 057陽菜:私、この学校を卒業しました。 058孝 :うん。 059陽菜:明日からは、こうして、ヒモト先生がサボってる世界史準備室に来る事はないんです。 060孝 :うん。 061陽菜:先生の教え子じゃ、ないです。 062孝 :うん。 063陽菜:ヒモトさん、 064孝 :<遮る> フクダ、座ろう。 065陽菜:……はい。 066孝 :少し、僕に時間をくれないか。 最後の授業、って言えば恰好良いのかな。 067陽菜:いいえ、少しも。 068孝 :そうか。 ……思えば僕は、キミの前で教育者らしい事を何一つ言えなかった。 069陽菜:そうですね。 授業中も男子にからかわれてばかりで全然進まないし。 070孝 :でも、キミのクラスでの授業は楽しかったよ。 フクダが真面目に授業を聞いていてくれたから。 071陽菜:またそういう事を言う。 期待させないで下さいって何回も言いましたよね? 072孝 :何回も聞いたね。 ……でも、本当に楽しかったんだ。 073陽菜:<溜息> 074孝 :はは。 ……「痴人の愛」。 キミは登場人物達に何を思った? 075陽菜:……ジョウジには、好感が持てました。 真面目で、勤勉で、実直で。 076孝 :しかしそのジョウジは、ナオミに惚れて狂う。 仕事を止め、友人と縁を切り。      ついにはナオミの馬になると言って、自分の財産を擲(なげう)った。 077陽菜:最後は本当に痴人でしたね。 私には理解できません。 078孝 :ナオミの事もかい? 079陽菜:ナオミの事が、理解できません。 080孝 :きっとそう言うと思ったよ。      ナオミは千束(ぜんそく)、つまり吉原で育った、生粋の娼婦と呼べるような女性だったね。      僕は、彼女はああいう風にしか成長できなかった女性だと、そう思うんだ。 081陽菜:……実家の環境が悪かったとはいえ、最低限人として、人を傷付けないよう努力するべきじゃないんですか。      ナオミのような女性が男性にモテるのはわかります。 何となくだけど。      でも奔放で自分勝手なナオミには、どうしても感情移入ができなくて。 082孝 :うん。 なあフクダ、それでもナオミ自身は幸せだと思わないかい? 083陽菜:そりゃ幸せでしょう。 ジョウジを誑(たぶら)かして、お金をもらって暮らしてるんだから。 084孝 :ならばジョウジはどうだろう? 085陽菜:……。 086孝 :ナオミという女に騙されて、彼の生活の全てがナオミを中心に回るようになった。      多額の金を払って、ナオミと結婚し服従する。 ナオミは浮気と浪費を続けるだろう。      それでも我儘な所が可愛いと書かれていたね。 087陽菜:……ジョウジも、幸せなんでしょうか。 088孝 :そう思うよ。 僕はね、幸せの形なんて、きっと人それぞれなんだと思う。 089陽菜:……「私自身は、ナオミに惚れているのですから、どう思われても仕方がありません」、ですか。 090孝 :うん。 091陽菜:何が、……何が言いたいんですか。 私が、ジョウジのように惨めだとそう仰りたいんですか。      それともナオミのような我儘は止せと、そう言いたいんですか。 092孝 :いや。 僕はフクダに、二人のように自分だけの幸せを見つけて欲しいと思ってる。      ジョウジのように傍から見て惨めでも、ナオミのように我儘で人を傷付けても。      フクダ、キミに幸せになって欲しいと思っている。 093陽菜:また始まった。      先生が、ヒモトさんがそうやって先生でいようとするから! 私尚更訳がわからなくなる!      私今日はヒモトさんに振られるつもりでここに来ました、      ちゃんと最後まで良い子でいようと思ってここに来ました! 094孝 :フクダ、 095陽菜:どうしてそんな煙(けむ)に巻いたような言い方をするんですか!?      どうしてちゃんと向き合ってくれないんですか! 096孝 :フクダ、落ち着いて。 最後まで聞いてくれよ、頼むから。 097陽菜:もう聞きたくありません、ちゃんとこれでさよならだって思わせて下さい!      私には、あなたがナオミのように見えます。 先生という建前で、私を振りまわさないで下さい! 098孝 :…… 099陽菜:三年、三年待ちました。 あなたを好きになって。      どれだけ苦しかったかわかりますか、どれだけ悔しかったかわかりますか。      ヒモトさんが優しくて、こうして二人きりで話す時間を毎日もらって、      それだけがどんなに嬉しかったかわかりますか?      ちゃんと突き放して下さい、お願いだから。      そうしてもらって、あなたに褒められた髪を切って、あなたを忘れて、じゃないと私はここを卒業できない。 100孝 :……卒業できないか、ははは、それは困るなぁ。 101陽菜:なら、ちゃんと 102孝 :フクダ。 キミは本当に真面目で、どこまでも一途で。      きっとこれから大人になってもそれは変わらないのだろう。      僕はそれが心底羨ましい。 これから正しく生きる事も間違える事も許されるキミが羨ましい。      僕はね。 これから、あれ程憧れた教育者という職業を、この先出会う生徒達をも裏切り続けるのだから、      確かにナオミのような人間なんだろう。      それでも僕は幸せだ。 僕がそう言うのだから間違いない。      こればっかりは、「どう思われても仕方がありません」。 103陽菜:えっ? 104孝 :フクダは進学組だったな。 卒業する頃は二十二歳になるのか。 一年足りないな。      それまでに、沢山勉強して、沢山遊んで、沢山間違えて、幸せを見つけるんだ、いいね。      狡(ずる)い事も、キミを傷つける事も承知しているよ。 だから同じだけ歳を重ねる。      <近づく足音に気付く> ……その時僕は三十六か。 もうおっさんだな。 105陽菜:二十三、……三十六って、それって本の最後の、 106孝 :キミが大人になって、キミの幸せを見つけた時に── <世界史準備室のドアが開く。> ​ 107久信:アキナ! 108陽菜:あ、……ノブくん……? 109孝 :おうヤゴウ、卒業おめでとう。 110久信:……何、してたんですか。 アキと。 111孝 :フクダに本を貸してたんだ。 ありがとなフクダ、わざわざ返しに来てくれて。 112久信:わざわざ二人きりで、こんな所で? 113孝 :ははは。 もう卒業だからバラしちゃうけど、僕ここでよくサボってるんだ。      フクダも悪いな、探させちゃって。 114陽菜:あ、いえ……。 115孝 :バレちゃったら仕方ないな、職員室に戻るか。 二人はもう帰るか? 116久信:はい。 俺ら、メシ食いに行くんで。 117孝 :おお、いいなぁ。 楽しんで。 学校にはまたいつでも遊びに来いよ。 118久信:……失礼します。 アキ、行くぞ。 <部屋を出る> 119陽菜:え、あ、うん、……先生、さようなら。 120孝 :おう。 あ、フクダ。 言い忘れてた。      卒業おめでとう。 この本の最後の文章を忘れずに。      ──……。 はは。 僕は、髪が長い方が似合うと思うぞ。 121陽菜:…… <息を飲む音> 122久信:アキ? <部屋を覗きこむ> 123孝 :ほら。 ヤゴウ待ってるぞ。 124陽菜:あ、はい……。 ​ <陽菜、久信立ち去る。> ​ 125孝 :<溜息> ……真面目で勤勉でも、僕にとってはキミがナオミのように見えたよ。      教育者としての自分を、キミのこれからを殺して五年を待つ僕は、痴人以外の何者でもないだろうに。 <校内を歩く陽菜と久信。> ​ 126久信:……あー、なんか、大事な話とかしてた? 127陽菜:いや、全然……。 128久信:ならよかった。 129陽菜:……。 130久信:……そうだ、この後メシ食いに行くじゃん?      なんか、髪を切りに行くって聞いた、けど。 結構時間掛かる? 131陽菜:……ううん。 切りに行くの、止めよっかなって。 132久信:そ、っかー……うん、アキは髪長い方が似合うよ。      って、嘘、お前泣いて、……。 133陽菜:ノブくん、し、幸せって何なんだろう……。 134久信:え、えっ!? えー……っと、ヒモトに何かされたのか? 135陽菜:ううん、そうじゃない。 ごめんね、なんか色々考えちゃって。 136久信:……何の事だかさっぱりだけどさ。      自分が傷付こうが何だろうが、自分の考えを通せたら幸せなんじゃないか? 137陽菜:そうなのかな。 138久信:いや、俺がそう思ってるってだけなんだけどな。 生きてるうちにゴールなんてないじゃん。      だから、苦しくてもそう思っていられるっていうのは、幸せなんだと思う。 139陽菜:……そっか。 140孝 :「彼女は二十三に、私は三十六になりました。」      ……あーあ、ちょっと格好付け過ぎたかな。 ​ 141陽菜:そうだね。 私もそう言えるまで、頑張ろうかな。 ​ 142孝 :──痴人の愛の続きを。 アキナ、また、その時に。 2016.5.4 完成 羽白深夜子 2018.4.7 修正 羽白深夜子 2020.1.5 修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 引用 「痴人の愛」谷崎潤一郎 サイトへ戻る