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【八百比丘尼、山中にて】 (やおびくに、さんちゅうにて) 男性4:女性2。 「スクリーンに一輪」「斯くして王は供物を喰った」の続編、最終章です。 【白来 冬哉(はくらいとうや)】 39歳男性、診療所医師。 【間鳥 蒼士(まとりそうし)】 38歳男性、医師。 【秦 タクト(はたたくと)】 16歳男性、高校一年生。 【瀧 朱音(たきあかね)】 37歳女性、看護師。 【末広 仁那(すえひろにな)】 16歳女性、高校一年生。 【竹中 広武(たけなかひろむ)】 男性。年齢を定めていないので、役者さんがお好きに設定して下さい。(24歳以上) 【配役表】 白来冬哉: 間鳥蒼士: 秦タクト: 瀧朱音 : 末広仁那: 竹中広武: ======================================= 0001冬哉 :──どこかで、鶺鴒(せきれい)の鳴く声がする。 相思鳥(そうしちょう)、かご抜け鳥。       雌雄(しゆう)で鳴き交わす鳥。 人間の自然開発により、この国に留まった鳥。       憧れようと、望もうと、鳴き交わす内容を知り得る事はない。       その名前も、人間が勝手に、彼らの事を傍(はた)から見て付けた名前、それだけであって。       蝉、夏休みに入った子供達の嬌声。 野菜を売り歩く農協のトラックのエンジン、 <診療所内。> 0002朱音 :トウヤ先生? どうなさいました? 0003冬哉 :へ、……あ。 ええっと、良い天気だなあって、思いまして。 0004朱音 :そうですねえ、やっと晴れましたね。       さっきイワサカさんのおばあちゃんが、やっと晴れて家から出られたって、コレ。       持って来て下さいましたよ。 先生へって。 0005冬哉 :あー、スイカ。 すごい、立派ですね。 0006朱音 :先生の顔を見ないと、腰痛が酷くなっちゃう気がするから。 診察じゃなくても顔を見せてくれ、って。 0007冬哉 :あそこはご夫婦揃って口が上手いから……。 今日はもう誰も来ないかなあ。 スイカ、頂きますか。 0008朱音 :はい、切り分けますよ。 0009冬哉 :ああ、いい、いい。 僕がやります。 <スイカを取り上げる> 0010朱音 :え、え。 0011冬哉 :暑いから、サイダー買ってあるんです。 くりぬいてサイダーに入れて食べましょう。 0012朱音 :…… <吹き出す> 0013冬哉 :何ですか。 0014朱音 :<笑いながら> 子供みたい。 でも、美味しそうですね。 そうしましょうか。 0015冬哉 :スエヒロさんトコの、ニナちゃんが美味しいよって教えてくれて。 試してみたかったんですよね。 0016朱音 :スイカ、くりぬいて。 皮だけになったスイカに、くりぬいた中身とサイダーを入れるのはどうですか。 0017冬哉 :えっ。 0018朱音 :まあるい、一口サイズのアイスがあるでしょ? アレも一緒に入れたら、美味しいんですよ。 0019冬哉 :それにしましょう! 0020朱音 :<笑う> 流石に、アイスはありませんよ。 0021冬哉 :じゃあ俺が買ってきます、留守、任せてもいいですか! 0022朱音 :その前に。 0023冬哉 :ん? 0024朱音 :さっき、診察している最中に。 取材の申し込みのお電話がありましたよ。 0025冬哉 :取材? 0026朱音 :たまにあるんです。       本土の記者さんがわざわざいらして、こういう離島の医療に関して話を聞きたい、って。       診察中だから折り返します、と伝えてあります。       そういえば、トウヤ先生がこの島に来てからは初めてですね、取材って。 0027冬哉 :……うーん。 前の院長、お祖父様は、どうされていましたか。 0028朱音 :全部受けていましたよ。 おじいちゃん、人が好きだから。 0029冬哉 :じゃあ僕もそうしよう。       僕に代替わりして、人当たりが悪くなったって言われるのも癪(しゃく)ですしね。 0030朱音 :そんな事、気になさらなくていいんですよ。 0031冬哉 :そういう訳にはいかない。 十年前、僕を拾って下さったのはお祖父様ですからね。 0032朱音 :……それ、随分こだわりますね? 0033冬哉 :僕にとっては、大事な事なんですよ。 0034朱音 :先生がこの島に来た頃。 元気がなかったのと、何か関係がありますか? 0035冬哉 :元気が? ……そうだったかな。 0036朱音 :そうですよ。 ずうっと生気のない顔をして。 0037冬哉 :……忘れちゃったな。 タキさん、アイスは何味がいいですか! 0038朱音 :先生のお好きな味で、構いませんよ。 0039冬哉 :じゃあ、適当に買ってきますね! 0040朱音 :気を付けて! 0041朱音 :<苦笑して> ……忘れちゃったな、ですか。 <島内。自転車で走っている冬哉。> 0042仁那 :<遠目から> トウヤ先生ー! <冬哉に駆け寄る> 0043冬哉 :<自転車を止める> お、ニナちゃん! 0044仁那 :先生、どこ行くの? 0045冬哉 :ひとっ走り、コンビニまで。       この間教えてもらったスイカをくりぬくヤツ、やってみようと思ってさ……ん? 0046タクト:どうも、こんにちは。 0047冬哉 :こんにちは。 ……ええと、ニナちゃんの彼氏かな。 0048仁那 :違うよ! 0049タクト:<笑う> 昨日から夏の間だけ、この島に住む事になりました。 ハタ、タクトって言います。       スエヒロさんはただ、同い年だからって僕の面倒を押し付けられて。 0050冬哉 :そうなんだ。 僕は診療所のハクライだよ、医者をやってる。 よろしくね。 0051タクト:はい、よろしくお願いします。 0052仁那 :別に、押し付けられてるとか思ってないよ。 0053タクト:そう? じゃあよかった。 0054仁那 :あのね先生。 タクト、石で彫刻を作るのが上手なんだよ! 0055冬哉 :石彫(せきちょう)? ええ、すごいね! 0056タクト:いえ、そんな、全然。 0057仁那 :謙遜しちゃって。 だから、怪我したらすぐ先生の所に連れて行くからね。       先生に紹介しようと思って、今から診療所、行こうとしてたんだよ。 0058冬哉 :わざわざありがとう。 でも、怪我はしないに越した事ないからね。 0059タクト:はい。 0060冬哉 :そうだ、今からスイカくりぬいて、サイダーとアイス入れて食べようって話してたんだよ。       そこに入れるアイスを買いに行くんだ。 診療所にタキさんがいるから、二人もおいで。 0061仁那 :いいの!? 0062冬哉 :いいよ。 ニナちゃんが、これ美味しいよーって教えてくれたんじゃないか。 0063仁那 :やった! じゃあ診療所で待ってるね! 0064冬哉 :わかった。 アイス、何味がいい? 0065仁那 :私ブドウ! 0066冬哉 :タクトくんは? 0067タクト:頂けないですよ、俺は。 0068仁那 :遠慮しなーい! こういう時はね、やったー! って甘えとけば、大人も喜ぶんだから。       田舎の子供のコツだよ? 0069タクト:えっと……。 0070冬哉 :まあまあ、最初は驚くよね。 僕も島に来たばかりの頃はずーっと遠慮してたや。 0071タクト:そ、そっか。 うーん、じゃあ、俺はナシのアイスがいいです。 0072冬哉 :うん。 じゃあ、買ってくるから。 扇風機回してるからね、待合室にいるんだよ! <タクトと仁那、冬哉を見送る。> 0073タクト:へえぇ、島のお医者さん。 随分若いんだね。 0074仁那 :トウヤ先生ね、わざわざ東京から来てくれたんだよ。 0075タクト:そんなドラマあったな。 来てくれた、って? 0076仁那 :前の先生がご高齢だっだから、トウヤ先生が引き継いでくれたの。       私が六歳の頃だから、十年前。 小さい頃はおじいちゃん先生だったよ。 0077タクト:へええ、結構長いんだ。 東京の医者より気軽な感じで、なんかいいね。 0078仁那 :そうなの?       私本土の大きい病院って掛かった事ないから、お医者さんってみんなあんな感じだと思ってた。 0079タクト:掛かった事ないんだ。 あー、うん。 なんかそんな感じする。 健康優良児。 0080仁那 :でしょ。 あ、でも、ドラマとかでは見た事あるよ、大きい病院。       お医者さんがばーって並んで、総回診です、ってするの。 あんな感じ? 0081タクト:いや、それは流石にフィクション。       俺も入院とかはした事ないけど、診察室でふんぞり返ってるっつーか?       それは言い過ぎだとしても、あんなヨレヨレのシャツにサンダルで出歩いてる医者はいないかな。 0082仁那 :ふうん。 いいな、いいなあ。 もっと本土の話聞きたいよ。 0083タクト:隣の芝は蒼く見えるモンじゃない。 俺生まれも都内だけど、面白いモンなんて特に無いし。       買い物とか、遊びに行ったりはしないの? 0084仁那 :たまに本土には買い物に行くよ。 でも私は親と一緒に行くし、東京には行った事ないんだよね。       行きたいんだけどなあ。 0085タクト:高校が本土にあって、毎日船で行くって昨日言ってたじゃん、それは? 0086仁那 :そうなんだけど、船の時間の所為で買い物とか全然できないし、それと東京じゃまた違う、全然違う!       あーあ! 高校卒業したら、絶対東京の専門行くんだ! 0087タクト:あ、進路東京なの。 何の専門行くの? 0088仁那 :美容師かネイリスト! 0089タクト:あー、ぽいぽい。 0090仁那 :ね、ね、タクトくん。 私が上京したら、また遊ぼうね。 0091タクト:へっ、……まあ、いいけど。 0092仁那 :嫌だった!? なんか間があった! 本土の、それも都会の友達ができたって、私超嬉しいのに! 0093タクト:……んん。 まあ、スエヒロさんちょっと心配だし。 俺が覚えてたら、都内案内してあげてもいいよ。 0094仁那 :ニーナ! 名前で呼んでよ、昨日からずーっとそう言ってるのに! 0095タクト:わかった、わかった。 ニナね、ニナニナ。 俺の事も、呼び捨てでいいよ。 0096仁那 :あー、やっと下の名前で呼んでもらえた! やっぱそっちの方がさ、友達って感じする! 0097タクト:俺、女性を名前で呼び捨てにするって初めてだよ……。 0098仁那 :ええっ、そうなの!? 普段どう呼んでるの? 0099タクト:苗字でさん付け。 スエヒロさん、って。 0100仁那 :うわぁ、都会の子だー! 0101タクト:そう? 0102仁那 :え、え、だって。 学校のクラス、四十人とかいるんでしょ!? 0103タクト:ん? うん。 一クラス四十人くらいかな。 0104仁那 :分校の全校生徒より多い!       そんなに人が多いとさ、苗字とさん付け、苗字被って同じ呼び方になる子とかいないの? 0105タクト:そういう時はまあ、ニュアンスで。 0106仁那 :へー……この島の子、みんな小さい頃から知り合いだから、そういう事しないなあ。       うん、こういうのが、カルチャーショックってヤツなんだな。 0107タクト:マジ? ……まあ、そうか。 お世辞にも栄えてる、とはいえないか。       東京は人が多いよ。 自然が豊かでのんびりしてて、俺はこっちの方が好きだよ。 0108仁那 :そう? ならよかった! 0109タクト:あ、てか、そうだニナ。 さっき川に突っ込んで来たラムネどうするんだよ。       川で魚釣るっつって、釣り竿とかもそのまま置いてきたじゃん。 診療所? 行ってる間どーすんの。 0110仁那 :あんなの誰も取らないよ、釣り竿なんてみんな持ってるし。 大丈夫、大丈夫。 0111タクト:ええっ。 なんかソワソワするから、一回片付けに行こうよ。 0112仁那 :いいの、それよりスイカ、スイカ!       <タクトの手を掴んで> ほら、タクト、診療所行こうー! <診療所内。> 0113朱音 :ああ、ヒロツカさんの島宿(しまやど)に泊まってるのね。 0114タクト:そうなんです。 すげえ、場所言えばもう誰の家だかわかっちゃうんですね。 0115朱音 :私は生まれもこの島だし、広い島じゃないから。 0116仁那 :一人で来てるんだって、すごいよねえ。       そんで昨日、ヒロツカのおばちゃんにうちのナス届けたらさ。       今日からしばらく同い年の子が泊まるから案内してあげて、って言われたの。       超びっくりしたよ、同い年の子が一人で泊まりに来るなんて、初めてだし。 0117朱音 :一人? 0118タクト:父がロンドンに二ヵ月、出張で。 うち父子家庭なんで、それでこの島に誘ってもらって。 0119冬哉 :そうかあ。 ここはヒロツカさんのお家から距離あるけど、何か困ったら言いなよ。       怪我じゃなくても、何でも、宿題でも。 0120仁那 :うわ、嫌な事思い出させるー。 0121冬哉 :ニナちゃんは、夏休みが終わる三日前に飛び込んでくる常連さんだもんね、毎年。       高校生になったんだし、今年はちゃんとやりなよ。 0122朱音 :でも前日じゃなくて三日前、ってトコが偉いじゃない。 0123仁那 :でしょ! 0124冬哉 :でしょじゃないの。 0125仁那 :へへへ。 タクトも、宿題教えてもらいに来よう? 0126タクト:三日前じゃなくて明日からならいいよ。 0127仁那 :げ。 0128タクト:でも、お邪魔じゃないんですか。 0129冬哉 :いいよ。 回診で、毎日午後二時から四時は診療所にはいないけど、いつもこんな感じだから。 0130タクト:へええ。 0131冬哉 :正面から回って、そこの裏口を使いな。 0132朱音 :先生が回診してる間も、私は診療所にいるから。 いつでも来て大丈夫よ。 0133タクト:ありがとうございます。 回診、って? 0134冬哉 :島をぐるっと回って、お年寄りの調子を見に行くんだよ。 0135タクト:へー! すげえ、マジでドラマみたい! 0136冬哉 :だよなあ。 都内じゃ考えられないよなあ。 0137朱音 :トウヤ先生、モテモテだから。       回診の後に来れば野菜とか、お菓子とか、良い物あるわよ。 0138仁那 :そうそうそう! 狙い目は、水曜日のミタのおばあちゃんのホットケーキ! 0139冬哉 :あ、だから水曜日にいつも来るんだな。 自分でもらいに行けばいいじゃないか。 0140仁那 :やだよう。 私小学生の頃、ミタのおばあちゃんにお習字習ってたんだけど、       厳しいんだもん、怖いんだもんミタのおばあちゃん! 0141朱音 :ニナちゃん、お習字道具で遊んでたんでしょ。 0142仁那 :なんでわかったの!? 0143朱音 :私も習ってたもの。 遊んでた子にはすごく、厳しかったなって。 0144タクト:そりゃ、習字道具で遊んだら怒られるだろ。 0145仁那 :だってつまんなかったんだもん! 0146冬哉 :いいじゃん、ニナちゃんはそうして座ってるより、運動ができるんだから。 0147朱音 :それですぐ怪我をするから、この診療所の常連さんなんだものね。 0148タクト:あー、そんな感じする。 0149仁那 :もう! 0150冬哉 :<笑う> ……あ、そうだタキさん。 さっきの電話、折り返してくれました? 0151朱音 :はい。 来週いらっしゃるそうで、了承しましたよ。 0152冬哉 :了解、了解。 0153仁那 :お客さん? 0154朱音 :東京から、お客さん。 0155仁那 :ふうん。 0156冬哉 :あ、来週? 来週ってタキさん、金、土でお休み取ってるじゃないか。 いいんですか? 0157朱音 :もし被っちゃったらまた、キタニさんの奥さんに留守、任せますよ。 私から頼みます。 0158仁那 :え、アカネさん来週いないの? 0159朱音 :金、土の二日だけね。 あ、ちょっと待ってね、ニナちゃんに見せようと思って……。       <鞄からチケットを取り出す> じゃーん! 0160仁那 :あーっ! シラサカミコトが復帰する映画!? いいな、いいな! 0161冬哉 :──。 0162朱音 :いいでしょ。 チケット取れたの。 0163タクト:何、何? 0164仁那 :映画の初日にやる舞台挨拶、ライブビューイングだっけ? それでね、全国中継するんだって。       お母さんと一緒に抽選応募したんだけど、外れちゃってさー。 0165朱音 :ニナちゃんの分まで、見てくるからね。 0166仁那 :うん! でも、いいなあ。 本土の映画館行きたかったなあ。 0167朱音 :ニナちゃんの目的は、本土のお買い物でしょう。 0168仁那 :お買い物、も! 行きたかったの! 0169朱音 :そう。 でもニナちゃん、よくシラサカミコト、知ってるね?       ニナちゃん達が小さい頃の女優さんなのに。 0170仁那 :テレビでよく、ドラマの再放送やってるでしょ? それ見て好きになったんだあ。 0171朱音 :あら、何見たの? シラサカミコトが出てたドラマなら、私結構詳しいわよ。 0172タクト:……どうしました、トウヤ先生。 0173冬哉 :えっ。 0174タクト:顔色。 真っ青ですよ。 0175朱音 :本当、どうなさったんですか。 どこか調子が悪いんですか? 0176冬哉 :あ、ああ、いや。 何でもないよ、大丈夫。 0177朱音 :熱中症じゃないんですか、そんなに汗をかいて── <冬哉に手を伸ばす> 0178冬哉 :<朱音の手を払いのける> 何でも! ……ない、ですよ、ははは。       すいません、顔洗ってきますね。 <冬哉、裏庭へ向かう。> 0179仁那 :……どうしたんだろ。 あんな先生、初めて見た。 0180朱音 :ちょっと疲れてるのかもね。 0181タクト:俺、様子見てきますよ。 0182朱音 :……そう? じゃあ、お願いしてもいい? 0183タクト:はい。 水とそこのタオル、借りますね。 <タクト、冬哉を追う。> 0184仁那 :……。 0185朱音 :かっこいいね。 0186仁那 :んえっ。 0187朱音 :タクトくん。 夏休みの間だけ、こっちにいるんだっけ。 0188仁那 :うん。 0189朱音 :ニナちゃん、頑張らないとね。 0190仁那 :えっ、そういうのじゃないよ! 0191朱音 :そういうのって何? 0192仁那 :……んんんんん! <地団駄を踏む> 0193朱音 :<笑う> ごめんごめん。 怒らないでよ。 0194仁那 :アカネさんはどうなの! 結婚、しないの。 0195朱音 :したくても、相手がいないとねえ。 0196仁那 :いっつもそうやって逃げるじゃん! 0197朱音 :<笑う> ……うーんと昔。 憧れてた人は、いたけどね。 0198仁那 :え、えっ! そうなの!? 誰!? 0199朱音 :本土にいた頃に会った人。 0200仁那 :なぁんだ。 連絡取ったり、してないの? 0201朱音 :全然。 0202仁那 :そうなんだあ。 でもそういうのいいなあ、いいなあ。       アカネさんのそういう話、初めて聞いたかも。 0203朱音 :そうだっけ? 私、話したんだから。       ニナちゃんも好きな人ができたら、教えてね。 0204仁那 :うん! 0205朱音 :好きな人ができた時と、何か、虚しくなった時。 0206仁那 :虚しくなった時? 0207朱音 :うん。 そういう時は、私に話してね。 0208仁那 :わかった、けどー……。 虚しくなるかあ、それってどんな時? 0209朱音 :うーん……。 自分が、何もできてないなあって思った時かな。 0210仁那 :できてないって思った時? <呼び鈴。> 0211仁那 :あ、誰か来た。 0212朱音 :私出てくるわ。 0213仁那 :先生呼ぶ? 0214朱音 :大丈夫。 ニナちゃんは、ゆっくりしててね。 0215仁那 :はあい。 0216仁那 :……うーん。 好きな人、かあ。 <診療所玄関。> 0217朱音 :こんにちは。 どうなさいました? 0218蒼士 :こんにちは。 こちらの診療所に、ハクライトウヤ先生はいらっしゃいますか。 0219朱音 :ああ、ごめんなさい。 先生は今留守にしていて── <診療所、裏庭。> 0220タクト:先生。 0221冬哉 :どうした? 0222タクト:もっと日陰に座った方がいいですよ。 心配になったので、これ。 0223冬哉 :あ、ああ……ありがとう。 ごめんね、驚かせて。 0224タクト:いえ、人間そういう日もありますよ。 0225冬哉 :随分、達観してるね。 0226タクト:まあ。 ……うち、母が早くに亡くなって、父子家庭なんで。       十六にもなれば、自分の身の回りと、周りの人の事は、ある程度は。 0227冬哉 :さっきもそう言ってたね、偉いなあ。 0228タクト:シラサカミコト。 0229冬哉 :……ん? 0230タクト:シラサカミコトの話題からだ、先生が黙り込んだの。 0231冬哉 :そうだったかな。 ちょっと、耳鳴りと立ち眩みがしてさ。       あんまり二人の話、聞いてなかったんだ。 0232タクト:ふうん。 じゃあそれ、信じますね。 <冬哉の隣に座る> 0233冬哉 :何か言いたそうだね。 0234タクト:そういうの、出会って間もない人間に話した方が楽じゃないですか?       本当はアカネさんみたいなタイプに話すのがおススメなんですけど。 0235冬哉 :あ、ああ……。 0236タクト:こう言っちゃなんですけど、俺、さっき先生に出会ったばっかりだし。       この島にまた来る事があるのかわからないし。       夏が終わったら都内に戻って、ああ、そんな人いたなって。       ここの事を、たまに思い出す程度なんですよ、きっと。 0237冬哉 :……本当に大人びてるね。 0238タクト:どうも。 それで? 0239冬哉 :キミ、もしかして自分が聞きたいだけなんじゃ? 0240タクト:社会勉強です。 0241冬哉 :否定はしないんだね。 0242タクト:はは。 嘘を吐くつもりはないんで。       さっきの反応が心因性でないのなら、突然あんな剣幕になるのは病気を疑った方がいいですよ。 0243冬哉 :<苦笑する> 高校生に諭されるとはね。 0244タクト:まずいんじゃないですか? 島のお医者さんが、それだと。 0245冬哉 :……、そうだね。       昔、対人関係で、ちょっと色々あって。 それを思い出しただけだよ。 0246タクト:対人関係? 0247冬哉 :うん。 0248タクト:ふうん。 聞いてよかった、女性の名前が切っ掛けでああなるのなら、       この先生女性関係で何かあったのか? ってちょっと勘繰りましたよ。 0249冬哉 :そうじゃ、……ないよ、うん、違う。 そうじゃない。 0250タクト:ならよかった。       ニナがあんなに懐いてるから。 都内に戻ってからも心配する所だった。 0251冬哉 :たまに思い出す程度、なんじゃなかったのかい。 0252タクト:たまに思い出す程度にしたいから、びっくりしたんですよ。       社会勉強ついでに。 対人関係でちょっと色々、って? 話せる範囲でいいんで。 0253冬哉 :昔、人に騙されてね。 ……この島に来る切っ掛けだったんだ。       腐ってた頃に求人を見つけて、こういう場所で一からやり直すのもいいのかもしれないと思って。 0254タクト:……。 0255冬哉 :ここ、前の院長がアカネさんのお祖父さんなんだ。 三年前に亡くなったけどね。       本当に温かい方で、僕の事も受け入れてくれて、色々面倒を見てもらって。 0256タクト:それでもう一回人を信じられるようになったって、そんな感じですか。 0257冬哉 :うん、そう。 0258タクト:へええ、成程。 言いにくい事をわざわざ、ありがとうございました。 0259冬哉 :ああ、いいえ。 心配してくれてありがとう。       すごいな。 本当にしっかりしてるんだね、キミは。 0260タクト:そうですかね。 0261冬哉 :いやあ、情けないなあ……。 キミみたいな若い子に、こうして慰めてもらって。 0262タクト:心の調子が悪い時は、みんなそうなるでしょう。 そこに歳は関係ないですよ。       俺はちょっとした拠(よ)り所があって、そういう悩みと縁がないから。 聞いておきたかったんです。 0263冬哉 :ん、縁がない? 心の調子が悪い事と? 0264タクト:……、なんか生意気言いましたね。 すみません。 0265冬哉 :僕は喋ったんだ。 次はキミの番だよ。       まだ若いのに、すごいね。 拠り所、……それって? 0266タクト:<苦笑する> そんな大層なモノじゃないです。 俺には諦めた事と、夢見ている事がある。 0267冬哉 :何だろう。 諦めたのはその……ご家族の事かな。 0268タクト:はい。 0269冬哉 :夢は、将来の夢、とか? 0270タクト:そんな感じです。 0271冬哉 :石彫かな。 0272タクト:はい。 それが、どうしても。 家族を諦めて夢を手に入れた、ただそれだけです。       島の西の方、低い山の辺りに、滝壺があるじゃないですか。 0273冬哉 :ん? うん。 0274タクト:ニナに案内してもらって、この島に来てからはそこで作ってます。 0275冬哉 :そうかあ、格好良いなあ。 あの滝壺、見た目より深いから、足を滑らせて落ちないようにね。       キミが将来、ここをたまに思い出す程度にするとしても。 応援してるよ。 0276タクト:ありがとうございます。 でも、格好良い事なんてないです。       誰しも皆そうでしょう、そうして生きているんでしょう。       「地獄の業火に焼かれながら、それでも天国に憧れる」。 だから俺は石彫を作りたい。 0277冬哉 :格好良い言い回しだね、漫画か何か? 0278タクト:「思いの外に醜いだろう。 地獄の業火に焼かれながら、それでも天国に憧れる」。 0279冬哉 :……それは。 その……もしかして。 0280タクト:ご存じですか? オペラゴースト。 エリック。 0281冬哉 :……オペラ座の、怪人の、名前。 0282タクト:その感じだと、先生もご存じですか。 オペラ座の怪人。 0283冬哉 :ああ、うん、ちょっとだけ。 0284タクト:そうなんだ! 俺、自分がエリックに似てるって。 ずっと思ってるんです。 0285冬哉 :……俺も、そう思う。 0286タクト:どうして。 0287冬哉 :どう、……上手く、言えないけど。 0288タクト:先生は違う。 明るくて朗らかだから。 エリックは生まれつき醜いのですよ。       オペラ座の怪人。 俺にとっては、因縁の芝居です。       <笑う> ……母が生前、芝居が好きで。 それで俺も、小さい頃からやってるんですよね。 0289タクト:だからわかる。 あなたは、エリックじゃない。 <数日後。診療所内。> 0290仁那 :せーんーせー? <シャーペンで冬哉の手の甲をつつく> 0291冬哉 :んっ!? な、何なに、どうしたのニナちゃん。 0292仁那 :もー。 先生最近ずっとぼーっとしてる。 大丈夫なの? 0293冬哉 :だからって、シャーペンでつつかなくてもいいじゃないか……。 0294仁那 :ここの公式がわかんないの。 先生、わかる? 0295冬哉 :ん、ああ、見せて。 ……ねえ、ニナちゃん。 0296仁那 :んー? 0297冬哉 :タクトくん、また寝てる? 0298仁那 :だと思うよ。       <不貞腐れながら> 一昨日、昨日、今日とヒロツカのおじちゃんに漁に連れてってもらってるんだって。 0299冬哉 :そっか。 0300仁那 :タクトが先生に勉強見てもらおうって言ったのにさー!       しかも自分は超勉強できるし! 何あれ! チートじゃん! 0301冬哉 :いいじゃないか。 漁船に乗るなんて、彼初めてだろう。 0302仁那 :毎日毎日、面白いのかなあ。 0303朱音 :男の子は、面白いんじゃない?       先生も来たばかりの頃は、おじいちゃんに連れられてよく乗ってましたね。 0304冬哉 :あれは参ったなあ、ゲンジさんスパルタだし、兎に角日焼けがすごくて……。 0305仁那 :<笑う> <呼び鈴。> 0306朱音 :私出ますね。 <朱音、退室する> 0307冬哉 :はい。 0308仁那 :……ねー。 先生は、お嫁さんもらったりしないの。 0309冬哉 :ん? なんだい、急に。 0310仁那 :この島に来て十年でしょ? この島の人、お嫁さんにもらったりしないの。 0311冬哉 :……えー? 0312仁那 :先生くらいの独身の人だとー……ヨウコさんとか、ほら、最近移住してきたクシヤマさんとか、       あとはクルミちゃんとか、アカネさんとか! 0313冬哉 :僕の心配より、自分の宿題を心配しな。 0314仁那 :そうやってはぐらかすー。 大人ってずるいー。 0315朱音 :<顔を覗かせて> 先生。 例のお客さん、いらっしゃってますよ。 0316冬哉 :おっ! はいはいはい。 0317仁那 :あー、逃げたー! 0318冬哉 :そういう話は、また今度。 ニナちゃんの宿題が終わったらね。 0319仁那 :っちぇー。 <冬哉、退室する。> 0320朱音 :何なに? 何の話をしてたの? 0321仁那 :先生は結婚しないのーって聞いてたの。 逃げられちゃった。 0322朱音 :そうだったの。 先生は、結婚はなさらないんじゃないかしら。 0323仁那 :そうなの? どうして? 0324朱音 :んー……。 何となく、かな。 <タクト、裏口から飛び込んでくる。> 0325タクト:ああいた! ニナ、アカネさんも!       これ! 俺が釣ったタイなんだ、初めて釣ったタイ!       刺身にすると美味いんだってさ、一緒に食お! 0326仁那 :あれ、タクトもう帰ったんだ。 0327朱音 :すごい、立派なタイねえ。 私捌(さば)いて来てあげる。 ちょっと待ってね。 0328タクト:捌けるんですか!? 0329朱音 :勿論。 見る? 0330タクト:見たいです! 0331仁那 :あ、あ! 私も行く! <診療所、応接室。> 0332冬哉 :そちら、掛けて下さい。 麦茶でよろしかったですか。 0333広武 :どーもどーも! 麦茶助かります、いや、暑くて参ってたんですよ。       こんな立派な応接室があるんだなあ。 0334冬哉 :ちょっとした会合で使ったり。 近所の方とお話したり、ですね。 0335広武 :ふんふん。 いや、涼しくて生き返りました。       レンタカーでも借りようと思ってたんですがね、無いんですね。 0336冬哉 :<笑う> そうですね、あまり広い島ではないから。 どちらにお泊りなんですか? 0337広武 :空港を出た所のホテルです。 いやあ、参りました。       取材の前に熱中症でお世話になる所だった。 ちょっと気を付けるか、泊まる場所変えないとだな。 0338冬哉 :都内のような暑さではないけど、まあ、それでも厳しいですよね。 0339広武 :そう! カラッと暑い分、油断しましたね。 都内みたいにすぐ逃げ込めるコンビニも中々。 0340冬哉 :ありませんからね。 煙草は吸われますか? 僕は吸わないけど、灰皿の用意がありますよ。 0341広武 :えっ!? いいんですか、病院なのに。 0342冬哉 :前の院長もここで吸っていたそうです。       島のおじいちゃん達がね、会合か何かで来てくれた時に、吸えないと怒られちゃうんで。 0343広武 :成程。 すっかり馴染んでいらっしゃいますねー。 すんません、煙草失礼します。       改めて、タケナカと申します、これ名刺。 今回はお世話になります。 0344冬哉 :ああ、ご丁寧に。 ハクライです、大したお話はできないかもしれませんが、よろしくお願いします。 0345広武 :とんでもない。 じゃあ早速なんで、す、がー……。 <メモを用意する>       今のお話聞いてると、随分と島に馴染んでいらっしゃる感じですが。       島に移住されたのは、どのくらい前なんでしょう? 0346冬哉 :そろそろ十年になりますかね。 0347広武 :はえー、十年。 その前はどちらに? 0348冬哉 :都内で、精神科医をやってました。 0349広武 :えっ! そうなんですか。 0350冬哉 :前の院長先生が高齢で、もう兎に角医者をって所に、僕が飛び込んだ感じですね。       総合診療、初期診察を僕が行(おこな)って、本土の病院と連携しています。 0351広武 :ああ、成程、成程。 へええ……。       いやね、さっきお会いして、随分お若い先生だってびっくりしたんですよ。       この島に来ようと思った切っ掛けは? 0352冬哉 :ちょっと行き詰まってた所で、ここの募集を見つけて。       こういう開けた所でやり直すのも、いいのかもしれないなあと思いまして。 0353広武 :行き詰まってた? 十年前っていうと、まだまだお若かったのでは? 0354冬哉 :二十九の頃ですね。 0355広武 :えーっ! それは、思ってたよりお若かったです。       そのくらいのお医者さんって、行き詰るのが当然、みたいな所あるんじゃないですか?       でも先生すごく人当たりが良いし、僻地(へきち)医療を選ばれて正解だったのかもしれませんね。 0356冬哉 :そうですね。 僕にはこういう場所での仕事の方が、性に合ってたみたいです。 0357広武 :ですよね。 じゃあちょっと、島に来る前の事もお聞きしていいですか。 0358冬哉 :えっ、 0359広武 :あ、勿論差し支えない範囲で大丈夫です! 先生のご来歴というか、順を追って記事にしたいもので。 0360冬哉 :ああ、成程……。 0361広武 :お生まれはどちらなんでしょう? 0362冬哉 :都内です。 練馬。 0363広武 :……練馬の、ハクライさん? あれ、もしかして! ハクライ病院と何かご関係が!? 0364冬哉 :……今の院長の、弟です。 0365広武 :あー! ああ、成程! いやいや、ご立派な訳だ!       言われてみれば、お兄様と少し似ていらっしゃいますね。 0366冬哉 :え、あ、兄にも取材を? 0367広武 :いいえ、写真でしか存じ上げないのですが。 はー、弟さんもお医者様だったんですね。       でも先生の方がお兄様より、ちょっとハンサムかな? なんて! 0368冬哉 :ははは……。 0369広武 :そうかそうか、あの病院の……。 俺、ちょっとお世話になってたんですよ。 0370冬哉 :あ、そうなんですか? 0371広武 :通院してたんですよね。 あまり待たされなくて、ほんっと助かりましたわ。       ハクライ総合病院。 設立は千九百五十年。       現在の病床(びょうしょう)数は精神科病棟を含め八百九十を数え、診療科は実に三十を超える。       良い病院ですよね。 地域医療の中核を担いかつ、先鋭的な取り組みも素晴らしい。       電子カルテの導入が国内でも── 0372冬哉 :先代の父と、兄の手腕です、何もかも、一重に。 ……僕は、ちょっと経営を手伝っていた程度で。 0373広武 :お手伝いされていたなら、そんな事はないでしょう。       でもあの病院、一時期ちょっと噂になりましたよね。 十年くらい前に── <冬哉、コップを取り落とす。> 0374広武 :え、先生!? 大丈夫ですか!? 0375冬哉 :ごっ、ごめんなさい! ちょっとぼーっとして……! 0376広武 :あーあー、ズボンが! 拭く物、拭く物……先生! 0377冬哉 :す、すみません、本当に大丈夫なんで……。 0378広武 :そんな顔色で、大丈夫な訳ないでしょ! 0379朱音 :<ノック> どうしました? 大きな音が 0380広武 :あ、看護師さん!? 先生コップ落としちゃって! 具合悪いみたいなんですよ! <朱音、入室する。冬哉、以降過呼吸気味に呼吸をしている。> 0381朱音 :先生、どうしました? 0382広武 :話してたら急に……先生? 先生! ちゃんと息吸えますか!? 0383朱音 :<遠目に> ニナちゃん! ニナちゃん! 聞こえたら何でもいいから、袋! 持ってきて! 0384広武 :寝かせた方がいいんじゃないですか。 0385朱音 :そうですね、ここに、 0386広武 :ベッドあります? 俺手伝いますから、運んだ方がいい。 0387朱音 :ええ、すみません、ありがとうございます。 0388仁那 :先生!? 0389タクト:過呼吸ですか? 0390朱音 :そうみたい。 ニナちゃん、先生の口元にその袋、当ててあげて。 0391仁那 :わ、かった! 0392朱音 :先生、先生。 大丈夫ですよ。 何も心配いりませんよ。 0393広武 :キミ、先生ベッドまで運ぶから。 看護師さんと一緒に反対側、支えてもらえる? 0394タクト:はい! 0395広武 :先生、とりあえずベッドまで行きましょう。 持ち上げますよ、せーの! <診療所内、待合室。> 0396朱音 :すみません、折角訪ねて下さったのに。 0397広武 :いいえ。 先生はどうですか? 0398朱音 :落ち着きました。 今、島の子達が見てくれています。 0399広武 :ならよかった。       俺しばらく島にいますし、取材なんていつでもできますから。 先生にもそう伝えて下さい。 0400朱音 :ありがとうございます。 お帰りになる前に、これ。 0401広武 :お、ラムネ。 0402朱音 :助けて頂いたんだし、よかったら。 0403広武 :お言葉に甘えますね、ラッキー。       <ラムネを一口飲んで> ……よくあるんですか、ああいう事。 0404朱音 :いいえ、初めてです。 0405広武 :あー初めて……。 悪い事しちゃったなあ。       先生の来歴とか、書かせてもらおうと思って。 ちょっと昔の話を聞いたんですよ。 0406朱音 :ああ……。 それなら、私の所為でもあるかもしれませんね。 0407広武 :そうなんです? 0408朱音 :何日か前に、ちょっと。 0409広武 :ふうん。 看護師さんはここ、長いんです? 0410朱音 :ええ。 元々は私の祖父の診療所なんで。 0411広武 :お生まれがこの島で? 0412朱音 :そうですよ。 高校卒業まで、この島で暮らしていました。 0413広武 :へええ、なるほど。 ……そこからどうして、わざわざ上京しようと思ったんです。 0414朱音 :進学先が看護学校だったので。 0415広武 :わざわざ、都内の看護学校を選んだのは? 0416朱音 :……えっと。 若い子にありがちな、都会に出たいとか、そういう気持ちで……。 0417広武 :島に戻ったのは? 0418朱音 :二十七の頃だから……。 0419広武 :十年前。 0420朱音 :ええ。 上京していた事も、時期まで、よくご存じですね? どこかでおばあちゃん達に捕まりました? 0421広武 :俺から捕まえて聞いたんですよ。       あの診療所の看護師さん、随分綺麗な人だけど、この島の人なの? って。 0422朱音 :まあ、そうだったんですね。 0423広武 :上京してた頃の勤務先。 練馬の大きい病院だったんじゃないですか? 0424朱音 :……。 0425広武 :……賭けが当たった、かな?       先生島に随分溶け込んでて、そうそう! 島の人達の評判も良くて。       まさに順風満帆、俺にはそう見えたんですけどね。       でもあなたが過呼吸になった先生に真っ先に掛けた言葉は、「何も心配いらない」。       あなた。 ハクライ先生がこの島に来る前から、彼の事を知っていたでしょ? ※続きは有償版をご購入の上お楽しみ下さい。 2020.7.25 初版 羽白深夜子 2020.7.28 更新 羽白深夜子 2020.7.31 更新 羽白深夜子 2020.8.7  更新 羽白深夜子 2020.8.16 更新 羽白深夜子 2020.8.29 公開 羽白深夜子 2020.8.30 有償版作成 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 引用 「ハムレット」ウィリアム・シェイクスピア 「オペラ座の怪人」ガストン・ルルー サイトへ戻る