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【夜空の狐】 (よぞらのきつね) 男性3:女性2。 「蜜月ショーシアター」「星屑のまじない」の後日譚です。 【日高 正弘(ひだかまさひろ)】 52歳、営業職。 【日高 硝子(ひだかしょうこ)】 52歳、専業主婦。 【日高 直哉(ひだかなおや)】 25歳、博物館職員。 【日高 愛希(ひだかあき)】 25歳、博物館職員。 【志野 直文(しのなおふみ)】 27歳、故人。 ​【配役表】 日高 正弘: 日高 硝子: 日高 直哉: 日高 愛希: 志野 直文: ======================================= 001直哉:俺は、一度だけ父さんに会った事がある。 <自宅。仏壇の前に佇む正弘。> 002正弘:──よう。      明日、ナオヤが結婚するぞ。 ついに所帯持ちだ。      アイツ肝が据わってるなあ。 式の前日に青い顔で俺のアパートに来た誰かさんとは大違いだ。      ついこの間まで、転んだと思ったらぴーぴー泣いて、自転車に乗れなくてまた泣いてた癖によ。      友達と喧嘩したって泣いて帰った事もあったな。 その度にショウコがオロオロするからよ。      ……あの頃の俺は、ショウコの支えになりたくて精一杯だったよ。      ナオヤみたいに、 003硝子:<別の部屋から> お父さん! 早くお風呂洗って! 004正弘:ん、風呂? もう洗うのか? まだ三時だぞ。 005硝子:呆れた。 六時にアキちゃんが来るの忘れたの?      お夕飯の買い物、お父さんだけ留守番したいならそれでいいですけど。 006正弘:待て待て待て! 忘れてた、すぐ洗うから! 007硝子:そう? 私、アキちゃんの布団取り込んでくるからね。 008正弘:……あー。 何話してたんだっけか。      ははは、二十年あんな感じだぞ。 尻に敷かれっぱなし。 母親ってすげえな。      結婚は人生の墓場、ってか? ひー、おっかねえおっかねえ。      あ、そうそう、今日ナオヤの嫁さんが泊まりに来るんだよ。      すげえ別嬪だから、お前も見とけ。      <小声> ……若い頃のショウコそっくりだ。 009硝子:<別の部屋から> お父さん!? 010正弘:洗うよ、今すぐ洗う! 011硝子:もう。 そこで何してるの? 012正弘:俺の嫁さん別嬪だろって自慢してたんだよ。 013硝子:若い頃の私にそっくりだって聞こえたんですけど? 014正弘:あ、いや、違うんだ母さん、あのな、 015硝子:お父さんの分のコロッケ、ありませんから。 016正弘:っあ、っちょ!      ……あー。 これで本当におかず抜かれなきゃあ、まだ可愛いで済むんだけどな……。      でも。 あんな不貞腐れ方、どうやったって雪の女王なんて呼べねえよな。      なあ、ナオフミ。 <七福堂、テーブル席。> 017愛希:……。 <呆然としている> 018直哉:えっとー……。 アキちゃん? 019愛希:……。 020直哉:アキちゃーん? 021愛希:……。 022直哉:お、怒るよね。 怒ってるよね。 023愛希:……キャパオーバーしてた。 今処理終わった。 なんで黙ってたの。 024直哉:その、ちょっと言いづらくて。 025愛希:だからって、ねえ! <でこぴん> 026直哉:あいだっ! 027愛希:なんで! 結婚式前日にそういう事言うのかな!?      私がずっとずっとずーっと! ご実家に泊まりに行くの緊張するって言ってたの、聞いてたよね!? 028直哉:はい! 聞いてました! 029愛希:散々悩んで! 菓子折りも一緒に選んだよね!? さっき! 030直哉:はい! 選びました! 031愛希:なのになんで今言うかなあ!? 032直哉:アッ、はい……。 ごもっともです……。 033愛希:ああどうしよう、お仏壇にあげるお菓子なんて用意してない! 034直哉:いやいやいや、そんな気を使わなくていいよ。 母さんだって手ぶらで来いって 035愛希:<遮る> だからってお義父さんとお義母さんに買って! ……その、何!? 036直哉:お父さんでいいよ。 037愛希:その、もう一人のお父さんに何も買って行かない訳にはいかないでしょ!?      ああもう、えー、ほんと、どうしよう。 何? こういう時って何買えばいいの? 038直哉:いいんだってほんと、気にしないで。 顔見せて線香あげてくれたらそれでいいんだって。 039愛希:……そういうもん? 040直哉:うん、そういうもん。 041愛希:これで黙ってる事、もうない? 042直哉:ないよ、ないない。 全部話した。 043愛希:ほんと? 044直哉:……多分。 思い当たる限りは。 045愛希:<溜息> ……でも、やっぱりどこか寄ってもいい?      お父さんにも、お菓子買って行きたいの。 046直哉:わかった。 047愛希:名前は? 亡くなったお父さんの。 048直哉:ナオフミ。 シノナオフミ。 049愛希:……ナオヤくんの直(なお)の字は、そこから? 050直哉:うん、そう。      父さん、っつっても実感はないけどな。 遺影が若い頃の写真だからさ。 051愛希:実感なかったから黙ってたの? 052直哉:うん。 俺の父さんは、父さんだし。 053愛希:そっか。 054直哉:……ねえ、あのさ、アキちゃん。      ずっと、誰にも言わなかった事があるんだ。 内緒の話。      これ話したら、ほんとに黙ってる事は一つもない。 055愛希:えっ、何? 056直哉:俺、一度だけ父さんに会った事がある。 057愛希:……どういう事? ナオフミさんに? 058直哉:うん。 昔さ、うんと小さかった頃、小学校に上がったばっかりの頃かな。      高熱を出して、病院に担ぎ込まれた事があるんだ。 059正弘:<三十代の頃の正弘>      ──ナオヤ! 頑張れよ! もうすぐだからな!      頼む、頼むから、コイツまで連れていかないでくれ!── 060直哉:父さんが必死で俺を担いで、母さんが泣きながら俺の手を握ってさ。 061硝子:<三十代の頃の硝子>      ──ナオヤ、ナオヤ。 行かないで── 062直哉:ふっと、気が付いたら。 でっかい汽車に乗ってたんだ。      隣で、若いお兄さんが本を読んでた。 何の本だったかな、兎に角分厚い本。      俺に気が付くと、にかって笑って本を閉じて、こんばんは、初めまして。 って。      知らない人だと思って、こんばんは、初めまして。 俺も咄嗟にそう返したんだ。      挨拶だけは父さんがすごくうるさかったから。 昔っから。      そのお兄さんに、怖いとか、そういうのは思わなかった。      ものすごく嬉しそうに「思ってた通り賢いな、キミは」って笑ってるんだよ。      父さんみたいにでかい手じゃなくて、痩せた細い手で、俺の頭を撫でるんだ。      どうして俺、すぐに気が付かなかったんだろう。 病院から家に帰って気付いたんだ。      ──仏壇の小さな写真の中で、その人が笑ってるんだ。 ※続きは有償版をご購入の上お楽しみ下さい。 2015.8.20 初版 羽白深夜子 2015.9.28 更新 羽白深夜子 2019.4.2 更新 羽白深夜子 2022.3.15 有償版作成 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 サイトへ戻る