最終更新:2025/6/30
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【ファーストバイト・シンデレラ】 (ふぁーすとばいと・しんでれら) 男性1、女性1。 はいあーんを書こうと思ったら自省のお話になりました。どうして。 有償版販売ページは
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。 【秋平 和奏(あきひらわか)】 28歳女性、清掃バイト。 美大を卒業後イラストレーターとして活動していたが、 SNSで注目を集め盗作の冤罪で炎上してしまい、現在は地元に帰っている。 【藤井 大樹(ふじいたいじゅ)】 28歳男性、写真家。 高校時代から写真部で写真を撮り続け、現在は式場でウエディングフォトを撮っている。 秋平和奏とはクラスメイトで、学生時代は作品を度々目にしていた。 【配役表】 秋平和奏: 藤井大樹: ======================================= 001和奏:──いつからだろう。 私の生活が、壊れかけのおもちゃみたいに、出来の悪い物語みたいに、空回りを始めたのは。 いや、誰しも黒歴史の一つ二つはあるんだと思う。 ていうかそう思わないとやっていけない。 私の人生は、今日までの全部が黒歴史でしかなかったから。 <書店、店内。> 002大樹:……あ。 003和奏:……。 <大樹を見掛けて引き返そうとする> 004大樹:アキヒラさん! ……だよね? 俺、高校で同じクラスだったフジイだけど、覚えてる? 005和奏:──ほら。 こんなド田舎の本屋ですら、マスクと眼鏡で顔を隠しても意味なんてなくて。 006大樹:こっち戻ってたんすね。 俺、上京しててたまたま帰って来てて、 007和奏:覚えてないんで。 008大樹:え、 009和奏:覚えてないんで、行っていいですか。 010大樹:……すみません。 011和奏:──なんとか美大に入って、たまたまイラストでバズって、ちょっとした誤解で炎上して。 イラストレーターとしての仕事はあっという間に立ち消えた。 注目は侮蔑へ、称賛は暴言へ。 瞬く間に成り下がった私は地元に逃げ帰って、何もない片田舎に籠もる他なかった。 012大樹:<苦笑する> ……やっぱ、覚えてないよなぁ……。 013和奏:<速足で歩きながら独り言> 最悪最悪最悪……フジイって確か、写真部の。 何? 顔撮りに来たとか? マジで最悪なんだけど。 014和奏:──みんなきっと、壊れかけのおもちゃを面白おかしく見物して。 それが無様に瓦解するのを笑って、また新しいおもちゃを探し始めるだけなんだから。 <数日後、図書館。> 015大樹:こんにちは。 016和奏:……。 017大樹:先日は申し訳ありませんでした。 僕、 018和奏:あの。 困ります、写真は。 019大樹:写真? 020和奏:ネットニュースの人ですか? ここ職場なんで、困ります。 021大樹:えっ、あ、職場? 週末の日中はここにいるって聞いて。 022和奏:はい? 023大樹:アキヒラさんのお母さん、わかば幼稚園の園長先生ですよね。 俺の姉がわかば幼稚園で働いてて。 024和奏:……は? 025大樹:アキヒラワカさんの事、本屋で見掛けたって話したら、姉が話を聞いてきたみたいで。 同じ三年二組で写真部だったフジイです。 もしかして思い出してくれました? 026和奏:……えっと、はい。 027大樹:よかった! <時計を見る> そろそろ昼休憩になります? 028和奏:まだ。 029大樹:今日って仕事何時までですか? 030和奏:ごめんなさい、今日仕事の後は予定が。 031大樹:じゃあ、来週の土曜にまた寄ります。 032和奏:え、いや……あー……。 033大樹:急にすいません、また! 034和奏:……撮りに来たんじゃ、なかったんだ……。 <数日後、図書館。> 035大樹:この本、ここにしまえばいい? 036和奏:あ、……どうも。 037大樹:どうも。 これって全部返却の本? こんなにあるんだ。 大変っすね、手伝いま 038和奏:いいです! っていうか、なんでこんなしょっちゅう帰ってるんですか。 039大樹:なんか、高校の進路指導の一環で講演してくれって言われて。 その打ち合わせと、姉が冬に結婚するから式のすり合わせとか。 俺らの代でもあったっしょ。 卒業生が進路の話するの、アレ。 040和奏:──そうだ。 卒業生の講演があった日で、放課後は全校集会で、その後の教室で。 041大樹:ほら、俺らの代専門出てる人少ないからーって、俺に話がきて。 アキヒラさんは? 確か、美大行ってたよね。 042和奏:あぁ、えと、一応。 043大樹:だよね。 そういう人が話した方が夢あると思うんだけどなぁ。 044和奏:……今はデザインとか色々あるし、美術系の学校に進む人って珍しくないんじゃない。 045大樹:そうなんだよ、俺同じ事言った。 デザインの専門行ったの、今時珍しくも何ともないですよって。 046和奏:えっ。 047大樹:ん? 048和奏:デザイン? 049大樹:うん。 美大みたいな立派な所じゃないからね。 たまたま写真学科があったってだけで、番組制作とか編集とかそっちに力入れてる学校で。 050和奏:写真、……そうなんだ……。 051大樹:興味持ってもらえた? 052和奏:へ。 053大樹:仕事邪魔するの悪いし。 俺あっちのカフェで待ってるからさ、続きそっちで話そう。 終わるの何時? 054和奏:あ、十五時に、上がる。 055大樹:あと三十分か。 待ってるから、気が向いたらカフェ寄って。 056和奏:いや悪いよ。 057大樹:こないだ驚かせた詫びもしたいし、借りたい本があるから。 マジで気が向いたらでいいよ、一人で借りた本読んで適当に帰るし。 じゃあね。 058和奏:陽キャやば。 ……ヤな事思い出したな……。 059和奏:──「たった一回賞取った程度で陰キャが調子乗ってんの見ても何も思わないって。」 「ダセェんだよ、下手糞。」 未熟で、痛烈で、当時は何とも思ってなかったあの頃の言葉が。 今の自分に痛い程刺さっていた。 <カフェ店内。> 060大樹:俺今、ブライダルサロンで働いてて。 これ名刺。 061和奏:フォトグラファー、はあ……すごいですね。 062大樹:横文字でそれっぽく言ってるだけだから。 063和奏:でも写真家でしょ。 あ、だからすり合わせ、お姉さんの結婚式。 064大樹:そうそう、うちで挙げてもらうの。 アキヒラさんは? 司書っすか。 065和奏:……清掃、の、バイトで。 066大樹:そうなんだ。 図書館の清掃かぁ、大変そう。 ここ俺が出すから気にしないで。 腹減ってない? 067和奏:いや、それは悪いから。 068大樹:いいんだって。 この間、本屋で急に声掛けたから驚いたでしょ。 その詫びで俺が奢りたいから奢らせて。 何食べる? パスタとか美味そうだよ。 069和奏:……カフェラテで。 070大樹:それだけで足りる? 071和奏:あ、えと。 うん。 072大樹:<店員を呼び止める> すみません。 カフェラテとコーヒーと、モンブランを。 あと、フォークを二つと空いてる皿を一つもらっていいですか。 はい。 073和奏:モンブラン? 074大樹:久々に食いたいなって。 甘いの得意じゃないから半分食ってもらえません? 075和奏:うん……あの。 076大樹:はい。 077和奏:フジイくん、だよね? 078大樹:ん? はい。 079和奏:窓際の席に座ってた。 080大樹:そんな事まで覚えてんの。 そうそう、窓側の後ろから二番目。 081和奏:いや、覚えてるんだけど……すごい変わった、ね? 082大樹:あぁそう? 仕事柄っていうのもあるんじゃないかな。 083和奏:……そっか。 084大樹:そういえば前に会った時さ、写真とかネットニュースとか言ってなかった? 085和奏:あ、ちょっと勘違いで。 086大樹:切羽詰まってる風に見えたんだけど、大丈夫? 何か困ってたりした? 087和奏:……。 088大樹:……とか、いきなり聞かれても困るか、うん。 ごめんごめん。 089和奏:知らないの? 090大樹:うん? 091和奏:本当に? 092大樹:ほんとほんと。 どうかしたの? 093和奏:う、噂とか。 なってたりしない? 094大樹:……なってないと思うけど。 えー何、噂になるような事。 なんだろう、結婚? 095和奏:<小声> 炎上、……して。 096大樹:炎上? ネットの? 097和奏:……。 098大樹:…… <小声> ごめん、俺ネット疎くて。 芸能人やってるの? 099和奏:ふ。 <小さく笑う> 100大樹:なんで笑うの。 え、だって炎上って。 俺一緒にいて平気? 彼氏だって誤解されたりする? 101和奏:そ、そういうのじゃないから。 102大樹:じゃあどうして。 103和奏:……イラストレーター、やってて。 104大樹:え! 105和奏:それでその……ちょっと。 106大樹:ん? イラストレーターってイラスト描く人だよね? 107和奏:そう。 108大樹:炎上したの? 109和奏:SNSで、その、ちょっと目立つ事言っちゃって。 それは私が迂闊だったんだけど。 謝罪文出す前に、イラストの盗作疑惑とか、出ちゃって……。 110大樹:待って待って。 謝罪文? 盗作? 111和奏:あぁ、わかんないよね。 <スマホを渡す> これ、このサイト見て。 112大樹:……これって、アキヒラさんが描いたイラストだよね? 113和奏:え、そう。 高校時代に描いた絵の、リメイク……。 114大樹:あー、だから見覚えあったんだ。 うわぁ懐かしい、今見ても絵上手いなぁ。 115和奏:なんで私の絵ってわかったの、見てくれてたの? 116大樹:文化祭で展示されてなかった? へー……。 <店員に対応する> あぁ、どうもー。 ちょっと俺がサイト見てる間、そのモンブラン好きなだけ食べて。 食べ切ってもいいから。 117和奏:それは、 118大樹:俺甘いのダメだから。 食べて。 119和奏:……。 <モンブランを引き寄せる> 120和奏:──……炎上とか、急に言われても困るか。 また失敗した気がする。 見た目からもう、ネットとは程遠い人、って感じ、するし。 真剣にまとめサイトを追う目を時々盗み見る。 私何してるんだろう。 こんな、 121大樹:陰キャが楽して稼いでるとか、書かれてるけどさ。 122和奏:うえッ!? 123大樹:どした? 124和奏:な、なんでも。 あは……や、イラストレーターってそういう、 お絵描きで稼げていいなぁみたいな、言われがちなんだよね。 125大樹:楽な仕事なんてある訳ないだろ。 一枚描くのにすげー苦労するんじゃないの。 んー……。 盗作、こじつけに見えるんだけどなぁ。 126和奏:盗作なんてしてないよ、してないけどね。 その盗作って言ってる漫画家さん、有名な人なんだよねー……。 127大樹:うん、こっちの人は俺も知ってる。 <スマホを返す> ありがと、なんとなくわかった。 なんか……ネット離れた方がよさそうだけど、イラストの仕事とかって。 128和奏:殆ど消えたね、この先の仕事も……。 それに、ちょっと過激な人達が、家の特定とか 129大樹:え!? 130和奏:都内の一人暮らししてた方だから、こっちの実家は大丈夫。 ……だから、ほとぼりが冷めるまで逃げ帰った、みたいな。 ここで働いてるのも、お父さんのツテで。 131大樹:警察は? 132和奏:弁護士には、一応。 だから本当は色々言っちゃダメなんだけど、……そういう訳で。 133大樹:そうだったんだ。 てかごめん、こんな大変な時に。 そりゃ急に声掛けられたらビビるわ。 134和奏:ああいや。 私も誤解して、変な事言っちゃったから……。 135大樹:俺さ、今もモリモトとかナカタと飲みに行ってるんだ。 覚えてる? サッカー部で声デカかった二人。 136和奏:……モリモトくんって、クラスリレーのアンカーだった? 137大樹:そう。 アイツ今学年同窓会の幹事やってて。 138和奏:そうなんだ。 出た事ないから知らなかった。 139大樹:こう言っちゃなんだけど。 <小声> 元クラスメイトが炎上とか、アイツ騒ぎそうじゃない。 140和奏:う、うん。 141大樹:俺も都内で働いてて、そういう訳で週末だけこっちに帰ってるんだけど。 昨日モリモトと、帰ったら飲み行こうってラインしてて。 その時何も言ってなかったから。 こっちは平気平気。 モリモト実家継いでるから、こっちで噂になってるか探っとく。 142和奏:え、あ。 ありがとう。 143大樹:いいえ。 <スマホを弄る> へぇ、あんな大御所漫画家に目付けられるような、……待って。 144和奏:ん? 145大樹:フォロワー三万人……いるの? 146和奏:あぁ、炎上して増えたり減ったりしてるから、そこはなんとも。 147大樹:その前は? どれくらいいたの? 148和奏:三万八千……くらい? だったかな。 149大樹:へぇ! すごいな、俺もフォローしとこ。 150和奏:だから発言には気をつけなきゃいけなかったんだよね。 151大樹:それは……ごめん、俺は何とも言うべきじゃないな。 こっちで友達は? ほらー……なんだっけ、仲良かった。 152和奏:モトちゃんとか、スミとか? あの子達結婚してて、あんまり連絡取ってない。 153大樹:そうなんだ、へー懐かしいな。 みんないつの間にか大人になっちゃったな。 154和奏:そう、だね。 <フォークを置く> 155大樹:モンブラン全部食べていいよ。 156和奏:私ももう入らないかも。 157大樹:じゃ俺が食べよ。 158和奏:甘いのダメじゃなかった? 159大樹:気が向いたかな。 160和奏:<苦笑する> ありがとう、話してちょっと気が晴れたかも。 ごめんね、私ばっかりベラベラ喋って。 <立ち上がる> 161大樹:いや、俺から聞いたんだから。 ライン交換しようよ。 162和奏:あぁうん。 はい。 163大樹:ありがとう。 164和奏:やっぱりご馳走になる訳にはいかないから、これ。 <千円札を置く> 165大樹:え、多いよ。 166和奏:気が晴れたから、もらって。 仕事都内だっけ。 頑張ってね。 167大樹:うん、また。 <和奏、立ち去る。> 168和奏:──なんでこんな話をしたのか。 どうして相手がフジイくんだったのか。 結局自分でもよくわからなかったけど、少し気が晴れた事は別に嘘じゃない。 169大樹:……頑張ってねは、もう会う気がない人のソレなんだよなぁ。 ふーん……。 170和奏:──あの頃の魔法がすっかり解けて。 年齢上は大人になって、それに、分別がつくようになって。 ほんの少しだけ、彼を慮(おもんぱか)る事ができるようになって。 本当に、本当に些細な事だけど。 贖罪のつもりだったのかもしれない。 私はこんなに愚かな人間なんですよー、って。 伝えたかったのかもしれない。 171大樹:<通話中> ──お、お疲れ。 お前今日休みだったよな、今って何してる? 悪い、ちょっと話したいんだけど時間ある? 172和奏:──……それはそれで、勝手に悲劇のヒロインぶってて失礼か。 でも。 まるで出来の悪い物語は、この日は少しだけ、本当に少しだけ。 綺麗に見えた気がした。 173大樹:ネットの炎上ってさ、どうしたら収まんの? 174和奏:──それから十日程後。 当の本人を置き去りに盛り上がる、SNSの文字を追い掛けて。 連絡をする気なんてなかった彼に、慌ててメッセージを送るハメになる。 <通話中。> 175大樹:もしもし。 どうしたの急に。 176和奏:あ、もしもし! 177大樹:ごめんごめん、ラインくれると思ってなかったから、 178和奏:あの! ねえ、あのポストフジイくん? 179大樹:お、もう気付いた? ネットばっかり見てると毒だよ。 180和奏:あれ、あの、私の高校時代の絵! 181大樹:うん。 <笑う> あの漫画家引用してたねー。 ビックリしたわ。 182和奏:な、なんであんな写真持ってるの!? 183大樹:俺写真部だよ、文化祭の撮影係もやってたの。 データ残っててよかった。 184和奏:どうして、あんなポスト。 185大樹:勝手にごめん。 迷惑だったかな。 186和奏:いや……。 あっちが引っ込んだから、ぶっちゃけありがたかったけど。 187大樹:<笑う> 盗作したって言われてる絵。 見覚えあるって言ったでしょ。 アキヒラさんもリメイクだって言ってたし。 なら、あの構図のアキヒラさんの絵が、十年以上前から存在してたって証明すれば、 何か変わるのかなって思って。 結局はあっちの漫画家が、自分の発言で勝手に自壊してった感じだけど。 っていうか、拡散してる人に元二組の人いたのわかった? 三組の人もいて……、 188和奏:……。 189大樹:……法律って、その。 アキヒラさんの事は守ってくれても、描いた絵の事まで守るのは、難しいんでしょ。 多分。 俺の投稿が火に油注いでたら、ごめん。 でも遊び半分の冷やかしでやった訳じゃないよ。 190和奏:あ、いや、嫌だとか悪く思ってる訳じゃなくて! その……。 191大樹:何? 迷惑だって思ったなら、そう言ってくれていいよ。 192和奏:違くて。 あの、こんな風に庇おうとしてくれる人が、いると思わなかったから。 193大樹:そう? アキヒラさん困ってたみたいだし。 あの発言、冤罪吹っ掛けられたり特定までされるような発言かなぁって、思って。 好き嫌いはありそうだったけど。 194和奏:そうかな……。 195大樹:そうだよ。 なんかなぁって思ったから、思った事そのまま書いちゃった。 俺もあんなに広まるとは思ってなかったからビビったけど。 一応学校とか、色々特定できないように投稿したけどそこは平気? 196和奏:ネット疎いって言ってたのに。 上手くない? 197大樹:ちょっと勉強したよ。 法務に同期がいてさ、色々聞きながらやったし。 198和奏:は、法務? 199大樹:そう。 ソイツにだけ同級生だって話しちゃった。 でも口は堅いヤツだからさ。 200和奏:ふふ。 <泣きながら小さく笑う> 201大樹:今日だけでフォロワー、千人戻ってきてるじゃん。 有名人なんだから発言は慎重にね。 202和奏:……うん、ありがとう。 203大樹:え。 泣いてる? 204和奏:泣いてないよ。 205大樹:そう。 あ、弁護士の人には、余計な事してごめんなさいって謝っておいて。 206和奏:あはは! 207大樹:<笑う> 元気出た? 次はモンブラン食べ切れそう? 208和奏:出た、出たからね。 フジイくん、次いつ帰るの? 209大樹:んー? 210和奏:あの。 ……話したい事が、あるの。 <カフェ店内。> 211大樹:お。 ちょっと顔色良くなってない。 212和奏:そうかな。 213大樹:良くなってる。 弁護士の人、怒ってたりした? 214和奏:人に話したのは怒られたけど、笑ってた。 女性の方なんだけど、ぶっちゃけざまあみろですねーって。 215大樹:マジ? 強そうな弁護士ついてんじゃん。 余計なお節介だったかな。 216和奏:……ずっと思ってたんだけど。 どうして、そんな風に私に話し掛けられるの。 217大樹:どうしてって? 218和奏:だって、……私、フジイくんにすごい酷い事言ったのに。 219大樹:<苦笑する> ……そういうのは、言われた側が覚えてたり根に持ってる事じゃないの。 ずっと覚えてるよ。 俺の写真が表彰されたすぐ後のアレでしょ? 陰キャが調子乗ってる、ダセェんだよ下手糞、ね。 <高校時代、友人と話している和奏。> 220和奏:──はぁ? 別に、あんなありきたりの構図。 誰が撮っても賞取れるっしょ。 写真ってさぁ、適当に景色撮って、それが見栄え良ければ評価されんじゃない。 ウチ写真の事わかんないけど絵だったらあんなの、構図がありきたり過ぎて見向きもされないし。 たった一回賞取って表彰されてる程度で、陰キャが調子乗ってんの見ても何も思わないって。 ダセェんだよ、下手糞。 221大樹:アキヒラさん、ザ、一軍女子って感じだったから。 うわぁ目付けられた、って内心めっちゃヒヤヒヤした。 222和奏:──ワカの絵今日は表彰されなかったね、と。 友達に言われて、咄嗟に口から出た八つ当たりだった。 一言一句覚えてる。 だよねー、と、私に同調する友達の嬌声まで蘇る。 その後は覚えていない。 多分、いつも通りプリクラでも撮って下校したんだと思う。 223大樹:<笑う> でも、アキヒラさんの絵は知ってたから。 上手いなぁ、いつも表彰されててすごいな、って見てたから。 上手い人から見たら、俺の写真ってまだ足りないんだ、とか色々考えて。 224和奏:──窓際の後ろから二番目の席で、いつも通り帰り支度をしていた学ランの後ろ姿。 いつも自信なさげに背を丸めて、表彰の時ですら俯いていた、細い頼りない背中。 なのに、私達の罵声に動じる素振りすらなくて。 225大樹:……なんて言えばいいかな。 ヒヤヒヤしたし、たかが全校集会で表彰されただけなのになんで? ってビビりはしたよ。 226和奏:……ビビったのはこっちもなんですけど。 227大樹:えぇ? 228和奏:だってあんな、あの、大人しそうで控えめだったのに! 急にこんな、社交的になってるんだもん。 マジでびっくりした、別人だと思った。 229大樹:仕事柄だって。 てか陰キャだったってハッキリ言ってくれていいよ、その通りだし。 230和奏:……炎上とか、その、自分に色々あって。 私がフジイくんに言った事と私を叩いてる人と、何も変わんないなって 231大樹:それは規模が全然違うでしょ。 確かに、んー、褒められる言葉じゃなかったのかもしれないけど。 でも写真の感想を言ってただけで、その後俺に攻撃しなかったじゃん。 232和奏:……。 233大樹:そっか、ビビったかぁ。 今の仕事、やっぱある程度人当たりが良くないと駄目だからさ。 嫌でしょ、ウエディングフォト撮る人が教室の隅でぼっち飯してる陰キャとか、 休み時間ずーっとレンズ磨いてる陰キャだったら。 234和奏:いや……、でもお陰で話すチャンスできたから、言っておかなきゃダメだと思って。 あの、本当にごめんなさい。 今更なんだけど、あの頃私スランプで。 予備校で構図滅茶苦茶指摘されてて。 235大樹:予備校? 236和奏:美大の。 237大樹:そういうの通ってたんだ。 238和奏:それで八つ当たりで言っちゃって、……これ、言い訳なんだけど。 239大樹:謝って欲しい訳じゃないよ、謝罪してくれるなら受け取るけど。 むしろ感謝してる。 240和奏:は、感謝? なんで? 241大樹:俺、あの全校集会で表彰されたのが最初で最後。 あの後どんなコンクールも箸にも棒にも引っ掛からなくて。 一人、たった一人だけでいいから、俺の写真見てくれよ、って思ってた時期があって。 242和奏:──ずっとどこか楽しそうだった表情が、ふと手元に落ちた拍子に抜け落ちる。 一人だけでもと祈るような気持ちには覚えがある。 あの時の私が、子供の我儘みたいな手段で発散したそれを。 この人は正しく、静かに、ずっとずっと手元の機材に乗せていたのだろう。 243大樹:あれから色んなコンクールの結果が届く度、アキヒラさんが言ってた事当たってんじゃん、 って思ってた。 あの表彰された写真はたまたま、高校生にしては良く撮れてるってだけだったんだよ。 244和奏:いやそこまでの事は……言ったね私……。 245大樹:言ったね。 ありがと、俺の写真よく見てくれてて。 俺もビビってないでちゃんと話聞けばよかった。 246和奏:み、見て? 247大樹:写真見てなかったら構図が、とか言い出さないでしょ。 見ないで言ってた? 248和奏:見たけど、あの、白い花に朝露が乗ってる写真でしょ。 玄関みたいな場所で。 249大樹:そうそれそれ! あの頃のアキヒラさん、当時の審査員よりよく見てたんだよ。 250和奏:……。 251大樹:しかもめっちゃ俺の写真覚えてんじゃん。 それは普通に嬉しい。 撮るのが好きだったから、見てる人がいるなんて、あの時まで考えた事なかったんだよな。 252和奏:それは、……でも、私もそうだったな。 見てる人がいるなんて思いながら描かなかったもの、私も。 253大樹:あんな上手い人でもそうなんだ。 254和奏:だから予備校で色々言われて……今だって炎上して色々言われてるし。 私、喋ると軽率な所、成長してないね。 255大樹:<苦笑する> 炎上もそうだけど、人相手だろうが作品だろうが、 人って見たいものしか見ないし、見ようと思った風にしか、見れないからさ。 256和奏:……そ、か。 257大樹:こないだ電話で、庇おうとしてくれる人がーとか言ってたけど。 ネットでも庇ってる人、いたよ。 俺何回も見掛けたよ。 258和奏:……。 259大樹:それだけ良い絵描いてるんだし、結局そういう一人に届けばいいんじゃない。 絵も写真も。 今って、なんとなく指動かせば何万人に言いたい事届くのにさぁ。 俺もアキヒラさんも、ずっと絵とか写真とかやってるのは、そういう所じゃないの。 260和奏:……、そうなのかもね。 261大樹:ね。 <鞄を漁る> そうだ、あの時本屋で、今何をしてるかが見せたくて話し掛けたんだ。 俺が撮ったウエディングフォト。 勿論、客じゃなくて雇ったモデルの写真。 262和奏:見ていいの? 263大樹:うん。 構図、ありきたりかな? 264和奏:……ウエディングフォトってこういう物じゃないの。 265大樹:<笑う> ある程度テンプレがある写真なら俺強いんだなって、就活してる時に気付いたんだ。 ちょっと上手かっただけの俺に、アキヒラさんが真っ向から一番最初に、教えてくれたから。 あの絵を撮ったデータを探したのは、その時のお礼。 266和奏:──純白の式場と飾られた花々と、男女。 正直、あの頃の私も今の私も、写真の良し悪しなんてわからない。 わからないけど。 写真中央で絡まる男女の指、その指に光る指輪のさりげなさに、 十年前に表彰されていた、朝露が花びらに乗った慎ましい写真を思い出していた。 267大樹:ど? 268和奏:……綺麗。 素敵だね。 269大樹:マジか。 よかった! 270和奏:──ああ、やっと、やっと言えた。 271大樹:とかさー、色々偉そうな事言ったけど。 ウエディングフォトって、一人でもこう、重みが違う訳ですよ。 272和奏:そっか、一生飾るよね。 273大樹:そうなんだよ。 緊張感ヤバい。 クラスの一軍女子に目ェつけられるよりヤバい。 274和奏:ねえごめんって、ほんとに。 ……マジで黒歴史なんだって。 なんであんな必死に校則破ってたんだろー……。 275大樹:しかもわざわざ俺の席でね。 276和奏:そう! だから覚えてたの、メイクする時机借りてた子だって! 277大樹:ソコかーい。 あ、スミってえーっと、シマモトさんでしょ? あの人が俺の机であぐらかいてマスカラしてんの、本当に参ったよアレ。 278和奏:<笑う> ほんと、やりたい放題だったよね。 279大樹:そうだよ、全く元気が良い若者で。 ……っていうかさ、その。 炎上、時間が経てば収まりそうだけど。 イラストの仕事って戻れそう? 280和奏:……あんだけ炎上したら、大っぴらにイラストレーターはちょっと難しいかな。 名前変えても画風でわかるだろうし、仕事切られた企業とか、あるし。 281大樹:……ワカさんさぁ。 デザインの仕事、興味ない。 282和奏:デザイン? 283大樹:絵が描けて、社会経験と勉強する意欲があってパソコン使える人なら歓迎するって。 色々落ち着いた後でまた東京に来る気があるなら、紹介するけど。 パソコン使えたりする? 284和奏:……つ、使える、デジタルでも描けるし、デザインも参考書だけは持ってる! 必要なら何でも買うし勉強もする! なんだってやる! 285大樹:う、うん、うん。 ちか、 286和奏:素人も素人だと思うんだけど、いいの? 私使ってもらえんの!? ねえでも勉強する意欲があればいいってどういう事? 未経験採用って事だよね? 287大樹:うん、あの、まずはバイトからにはなると思うけど、 288和奏:全然いい! っていうか待って待って、先にとりあえずお礼する! なんか、ほんとに色々ありがとう。 <モンブランを乗せたフォークを突き出す> はい! 289大樹:はい? え、何? 290和奏:食べない? お礼。 食べないなら私全部食べるけど。 モンブラン好きなんだよ。 291大樹:知ってるけど、その、コレってはいあーんって事? 292和奏:あ。 293大樹:っていうか近い、んだけど……。 294和奏:……。 <フォークを引っ込めようとする> 295大樹:<和奏の手首を掴む> は? 食べますけど? 296和奏:ちょ、何掴んでんの、無理しなくていいって。 297大樹:モンブランしか食べないって、シマモトさんに言われてなかった? 298和奏:えっそんな事まで覚えてるの? 299大樹:覚えてるよ、いつも俺の席の周りで騒いでたじゃん。 300和奏:は? 私らの話聞いてたの。 301大樹:あんなデカい声で騒いでれば聞こえるよ。 だから俺モンブラン頼んでたんだから。 302和奏:え気まずい、普通に。 マジで勘弁してよ。 303大樹:そっちだって俺の写真覚えてたんでしょ、お相子だよ。 好物食べさせてくれるってすげーお礼じゃない? 絶対食べるけど。 304和奏:てかあの、自分でやっといてなんだけどお店でコレは気まずい、ねえちょっと待って、まッ! 305大樹:うま。 これがとりあえずのお礼なんだっけ? 仕事の話も詰めたいし、今度飯行こうよ。 いつ空いてる? 306和奏:──不貞腐れて諦めていた物語は、なんとなく、上手く回り始めた気がしているけれど。 軽率に黒歴史を量産するのは、もうちょっと気をつけようと思った。 2025.6.14 初版 羽白深夜子 2025.6.20 更新 羽白深夜子 2025.6.30 更新 羽白深夜子
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