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【偶像のキャロル─another─】 (ぐうぞうのきゃろる あなざー) 男性2:女性2:男女可1。 男女性別反転バージョン。正規版はこちら。 【矢作幸(やはぎさち)】 45歳女性。建築デザイナー。 凛久の元妻。気の優しいお人好し。 娘のマリアを亡くした事が切っ掛けで凛久と離婚。離婚後は連絡すら取っていない。 雑誌に数度取り上げられる等、仕事だけは順調。 夜な夜な仕事の後にバー七福堂に入り浸っている。 【河西凛久(かさいりく)】 38歳男性。出版社勤務。 幸の元夫。文芸誌の編集長で、人懐っこい男性。 娘のマリアを亡くした事が切っ掛けで幸と離婚。離婚後は連絡すら取っていない。 離婚から四年経った現在も、幸との結婚指輪を日常的につけている。 ※「リクちゃん」「リクくん」ってちょっと呼びにくい気がするので、  「りっちゃん」「りっくん」等、呼びやすい様に適宜変えて頂いて大丈夫です。 【瀬田優凛(せたゆうり)】 25歳男性。フラワーコーディネイター。 幸と仕事で縁があり、偶々七福堂を訪ねる男性。 自称クズ。素直で正直で融通が利かず、他者の尺度や観点に殆ど興味が無い。 【城内伶音(しろうちれおん)】 28歳女性。出版社勤務。 凛久の後輩。要領が悪くても明るさで可愛がられるタイプ。 就活に失敗し、がむしゃらにバイトをしていた期間を経てどうにか出版社に就職した経緯を持つ。 【水橋ヨリ(みずはしより)】 年齢不詳、男女可。バー「七福堂」の店長兼ただ一人の店員。  ※男性の場合、オネエさんでお願いします。   幸や凛久を可愛がっているので、年齢は二人より上かなと思います。 バー自体は都心に有り洒落てはいるものの、ヨリ自身が気に入った客に手製の夕食を押し付ける為、 常連客に「大将」だの「お母さん」だの好き勝手呼ばれている。マスターって呼ばれたいお年頃。 注釈:「凛久」「伶音」が登場するシーン(2018年が主)と、      「幸」「優凛」が登場するシーン(2019年)と、シーンが混在しています。      ヨリはどちらにも出てくる為、時系列に注意して下さい。 ※矢作真莉愛(やはぎまりあ)  名前のみ。幸と凛久の娘。  五年前、スイミングスクールで事故死している。 【配役表】 矢作幸 : 河西凛久: 瀬田優凛: 城内伶音: 水橋ヨリ: ======================================= <幸、自宅。見合いを打診する電話を受けている。> ​ 0001幸 :──……いやいや、仕事で手一杯で。 このご時世、本当に贅沢な話なんですけどもね。      ……あはは、いやー、ほんともう、ねえ。 お気持ちだけで、ええ、ええ。      本当に素敵な方で、私には勿体無いですよ。      ……んん、いやいやそんな、ええもう、この歳まで独り身な私には。 あはは。      ……写真。 写真だけ。 あーじゃあ……ええ、はは、写真だけですよ……。 <凛久、職場。周囲に彼を慕う社員がいる中、仕事をしている。> 0002凛久:ミシマ、ササハラ先生の原稿どうよ。 一昨日ちょっと電話掛けたんだけど、出ないんだわ。 0003幸 :<通話を終えて> ……気に掛けてもらえるのはありがたいんだけどね。      私もう、家庭持つ気ないんだよー……。 参ったなー。 どう断ろっかなー。 0004凛久:手前、用件聞く前に断るなよ。 ちょっと様子見に行ってさ、ついでにコレ渡して。      契約更新おめでとーっつって。      <見送りながら> おーおー元気だなあ。 アレササハラ先生に惚れてんじゃねえの?      ……え、マジか、同級生? はーマジか、事実、小説よりヤベえ。 それちょっとテンション上がんな。 <幸、「七福堂」でヨリを相手に愚痴っている。> 0005幸 :いや下がるよ。 この歳で見合いとか、テンションダダ下がりだよ。      紹介される子って大体、三十前のお坊ちゃんでさ?      今の子ってみんなイケメンだよね、アラフィフのおばさんには荷が重いの。      この歳になるとラッキーとか微塵も思えないんだよ。      うわマジかぁ、ヤバい無理! ってもう、それで頭いっぱいよ、私。 0006凛久:え、何。 飲み会でそんな話してんの?      ……おぉ。 なにぃ。 編集長混ざって聞いていいヤツ? ……んー、じゃあ行くか。      へへへ。 全員で飲み行くの久しぶりだなぁ。 よし、今週末! 俺の奢り! 行く人挙手!      そんで、誰か良い店教えて! <2019年、七福堂店内。> 0007幸 :こうして一人で気軽に飲んでるのが、一番楽しいんだもん。      大将。 ほんとにお店、閉めないでね。 私がぽっくり逝くまで開けててね? 0008ヨリ:その大将っての止めてくれない? アタシはマスター! もうおでんしまっちゃおうかなあ。 0009幸 :ああはいはい、マスターね。 私白滝もいっこ食べたい。 0010ヨリ:はーい。 さっちゃんは結婚なんてしなくても、アタシが胃袋掴んでるもんね? 0011幸 :そう! ヨリちゃんが私の胃袋とボトルを掴んでるから、それでいーの、私は。 0012ヨリ:まあまあまあ、わかるのよ。 数多のオジサマ達がさあ、お坊ちゃん紹介してくれるってのは。      また雑誌見たわよ、美人すぎるデザイナー。 肩書も収入も人当たりもバッチリなんだもの。 0013幸 :そう? ありがと。 誉めてもらったから、またしあさっても来る。 0014ヨリ:この時間でいいから、明日も来なよ。 アタシ雑誌見てどう思ったか教えてあげよっか? 0015幸 :なぁに? 美人って思ってくれた? 0016ヨリ:いやっ、腰細っ! 信じらんない! て。 豚の角煮、煮ようと思ってるの。 白米も出してあげる。 0017幸 :食べていいの? 明日? 0018ヨリ:明日。 お代わりしてってよ。 0019幸 :じゃあ明日も来ちゃおう。 ……うーん、常連に角煮と白米が出てくる店。      名前も七福堂(しちふくどう)って思いっきり日本語。      やっぱりマスター、より大将、って言った方がいい気がする。 0020ヨリ:マ、ス、ター! ね! 0021幸 :はーい。 仕事の後で来るから、ほんとにこのくらいの時間になっちゃうけど。 それでもいい? 0022ヨリ:構わないわよ。 表の電気消してあっても、入ってきちゃっていいからね。 <2018年、七福堂店内。> 0023凛久:マジで!? ありがと! ヨリちゃん大好き! 0024ヨリ:はいはい。 ちゃんと、もつ煮辛くしてあるからね。 0025凛久:七味乗ってないけど。 0026ヨリ:唐辛子と一緒に煮てある。 0027凛久:お! ほんとだ、結構辛い。 0028ヨリ:でしょ。 悪いわねぇ、リクちゃんが予約入れてくれるなら、予約入れないで待ってたのに。 0029凛久:ちゃん付け止してくれ、……はー、今更か。      ま、俺の話も急だったし。 忘年会はここ、使わせてよ。 0030ヨリ:勿論、早めに連絡してね。 飲み会顔出すようになったの。 良い事ね。 0031凛久:んー……。 あれから初めてだから、ちょっと思う所はあるけど。      だから一発目、ま、一念発起って事で。 ヨリちゃんの所にしようと思ってたんだ。 0032ヨリ:そっか。 仕事はどう? 上手くいってるの。 0033凛久:お陰様で。 定期的に若い奴が入ってくれるお陰で、毎日盛り上がってるよ。 0034ヨリ:文芸誌に? へええ。 0035凛久:まあファッション誌には劣るし、弱小も弱小なんだけどさ。 0036ヨリ:弱小でも編集長なんて肩書じゃあ、モテてモテてしょうがないでしょ。 0037凛久:って訳でもないんだなぁ。 こういうモノもありますし。 <指輪を見せる> 0038ヨリ:やだ。 まだ指輪つけてんの? 0039凛久:虫除けだよ。 別に離婚したから結婚指輪してちゃ駄目、なんて決まりないしさ。 0040ヨリ:あれから何年? 0041凛久:四年。 0042ヨリ:もう、いいんじゃない? 0043凛久:いいって? ああ、別に引きずってるとかじゃ全然、ないよ。 0044ヨリ:四年間、職場の飲み会に顔出さないでいたのに? 0045凛久:流石にそろそろマズいかなーって思って。 この度現場復帰しますかね、と! 0046ヨリ:えらい! 0047凛久:だろだろー? 前祝いにメシもうちょっと頂戴、母ちゃん! 0048ヨリ:マスターな! はいはい。 ……その指輪も、外せる時がくるといいわね。 0049凛久:外せるよ、こんなの。 いつだって外せるから、いつもつけてる。      なあ、本当に来てない? 0050ヨリ:来てない。 ……だから、安心してご飯、食べなさいな。 ​ <2019年、駅前、雨。優凛がスマホ片手に立っている傍を、幸が通り掛かる。> ​ 0051幸 :あれ? 0052優凛:あ。 0053幸 :……えーっと。 0054優凛:セタです。 えっと、ヤハギさん。 今日、お疲れ様でした。 0055幸 :あーあー、セタくん! うん、お疲れね! どうしたのこんな所で、濡れちゃうよ。 駅ここ? 0056優凛:いやその、終電逃しちゃってー……どうしよっかなって。 ホテルか満喫か。 0057幸 :あー……ちょっと歩かないと両方無いんだよ。      そっか、困ったね。 こんな時間まで打ち上げしてたの? 0058優凛:ああ、打ち上げは十時くらいに解散しましたよ。 0059幸 :そっか。 ……んーっと、お腹、空いてたりする? 0060優凛:え? まあ。 0061幸 :うん、じゃあさ。 お姉さんの夜食に付き合わない? 美味しい物食べれるよ。 <七福堂店内。> 0062ヨリ:……いや別に、あるけど、角煮。 その子は? 0063幸 :今日一緒に仕事した子。 角煮と白米ね。 タオルも貸して。 0064優凛:や、悪いっすよ。 0065ヨリ:遠慮しないでいいの。 こっちおいで。      ここ入って真っ直ぐ行くとね、シャワーあるから。 で、私のお古で悪いんだけど着替えも出しとく。 0066優凛:お古!? 0067ヨリ:いーから、いいから。 風邪引かれた方が気分悪いから、入ってらっしゃいな。 0068優凛:え、マジで、あの、代金。 0069ヨリ:はいはい後でもらう。 アンタはまずシャワーする。 んで、あったまって来る! <優凛、ヨリに押し込まれて奥へ向かう。> 0070ヨリ:……なによ、何が起きてるのコレ。 0071幸 :いやだって、傘も差さないで突っ立ってたらほっとけないよ! 終電無いって言うし! 0072ヨリ:ッカァーこのお人好し! 昨日あんだけ言っといて、若いツバメでもつかまえてきたのかと思った! 0073幸 :違う違う違う! あの、今日の撮影に花用意してくれた子なの、えーっと、セタくん! 0074ヨリ:名前聞いてんじゃないのよ! 0075幸 :いやあのね、突っ立ってたのぼーっと! おかしいでしょ!? 打ち上げとっくに終わったって言うし! 0076ヨリ:……さっちゃん、ほんと人が良すぎ。 0077幸 :うっ……でも、来週の撮影でも世話になる所の子だし、じゃお疲れーって訳にはいかないのん……。 0078ヨリ:わかった、わかった。 全く、アタシに滅茶苦茶感謝してよね。 <豚汁をドンと出す> 0079幸 :……豚汁? 美味しそう。 0080ヨリ:予報で雪が降るって言ってたから、作ったのよ。 0081幸 :ほんと!? ありがとう、大好物! 0082ヨリ:って前に聞いてたから作ったんだけどね。 あの子が出てくる前に、これと角煮で三人前にしたげる。 ​ <2018年、電車内。ドア付近に立つ伶音と凛久。> ​ 0083伶音:ほんと、ほんとーに! カサイさんのトコで働けて幸せです、ほんと、私って世界一幸せです! 0084凛久:はいはいはい、そうですか。 シロウチそれ、後何回言ったら満足する? 0085伶音:マジで、マジで! 私こんなにべろんべろんでも見捨てないでいてくれるし! 0086凛久:うん、ちょっと声量落とせな。 そろそろ見捨てようかなって思ってるよ。 0087伶音:見捨てないで下さい……やだぁ……行くとこ無くなる……。 0088凛久:んな訳ないだろ。 0089伶音:そう思っちゃうくらい、よかったなーって思ってるんです、カサイさんと働けて!      ねえカサイさん、聞いてますか! 0090凛久:おうおうわかったから。 ほら、もう着くぞ最寄り。 タクシーで帰れるか? お前大丈夫か? 0091伶音:はぁい。 カサイさんは大丈夫なんですか。 0092凛久:俺はいいよ、その辺のホテル泊まるし。 また月曜から頑張ろうなー。 0093伶音:ほんと、ありがとうございますねぇ、へへへ、送ってもらってタクシー代まで……      もー、何もかも美味しかったー……。 0094凛久:……俺も楽しかったよ。 半蔵門使ってる連中は酒癖がヤベエってのも覚えたしな。      今までこういう飲み会断ってたの、ちょっと後悔するくらい楽しかったわ。 0095伶音:そういえばー、なんで今まで参加しなかったんですか?      あ、これミシマさんに聞くなって言われてたヤツだ。 やば。 0096凛久:<笑う> ミシマが? 0097伶音:そお。 編集長が飲み会に参加しないの、暗黙の了解だーって。 入った時、ミシマさんが。 0098凛久:なんだ、アイツが根回ししてくれてたのか。 0099伶音:なんでですかー、私またみんなで飲みたいですよー。 0100凛久:うん、うん。 楽しかったから。 またみんなで飲みに行こう。 な? 0101伶音:なんでなんですかー……。 0102凛久:……娘がいるからだな。 0103伶音:え? 0104凛久:着いたぞ。 ほら、おやすみ。 帰れ帰れ。 0105伶音:……いや、娘がいたら尚更。 0106凛久:ほら。 0107伶音:いや、待って、 <伶音、凛久を電車から引っ張り出す。> ​ 0108凛久:うおっ!? 0109伶音:って、 0110凛久:あ、あー……電車、……あはは! 0111伶音:うわ、うわぁ! ごめんなさい! あの、ふらついて! ほんとごめんなさい! 0112凛久:あはっ、あははは! ああ、いいよ、あはははは! 大丈夫かよお前! 0113伶音:いや、その……本当にごめんなさい! ビジホですよね、あの、駅出た所にあるんで! 0114凛久:はーマジか、うわ、シロウチほんと、ほんっと面白いな! あはははは!      なあおい、こういうのって男がやるんじゃねえのかよ! 0115伶音:いやっ、上り……終わってるじゃん、ほんと、本当にすみません! 0116凛久:っひー、ひー、いいよ大丈夫、全然平気。 めっちゃ面白いな。 あはは!      オラ湿気た顔してんなよ! 記念だ、どっか美味い店ねえのか、この辺! 0117伶音:え、あの、ホテル、 0118凛久:駅前にあんだろ? ほら、お前に下ろされたんだからもう一件付き合え!      っはーマジ肉食女子やべえ、電車から男引きずり下ろすって!      あははは、なあこれ月曜みんなに話していい!? 0119伶音:ほんと勘弁して下さい! 肉食女子じゃないです! でも本当にごめんなさい! 0120凛久:謝るな! 0121伶音:はい! 0122凛久:あーウケる、ウケるし、下りた事ねえわ、ここ。      ほら、俺ホテル取るから、シロウチは店探せ! 肉な! 0123伶音:今から!? しかも肉ですか!? 0124凛久:おー肉だ肉。 無かったらチェーンでもいいから。 <スマホを弄りながら>      ──あ、すみませんちょっとお聞きしたいんですけど、今日って泊まれます? 0125伶音:え、……あ、あー……。 ​ <2019年、七福堂店内。> 0126ヨリ:で、彼女の機嫌が直るまで一時間外にいた訳!? 0127優凛:まあ、怒らせちゃったのは俺なんで……。 0128ヨリ:馬鹿だねほんと! だからあんな濡れネズミみたいな顔してたの!      駄目駄目そんな女! 今すぐ捨てなさい! セタちゃん今いくつよ!? 0129優凛:に、二十五。 0130ヨリ:二十五にもなって、っかー、アンタもアンタよ! ねえさっちゃん! そう思わない!? 0131幸 :うん? 0132ヨリ:すっ惚けてないの! 彼氏が! 仕事の打ち上げで! 約束キャンセルしたから!?      キレて! 一時間この寒空の下よ! どう思う!? 0133幸 :あー、うん。 私もその子はちょっとなぁ……って思うなぁ。      でも今日の打ち上げって、うちの社長が急に言い出した事だからねえ。 ほんとにごめんね。 0134優凛:いやいやいや、色々勉強になりました。 俺。 0135幸 :ほんとー? じゃあ私も顔出しておけばよかったかな。 0136ヨリ:ね、ね!? そんな彼女すぐ捨てた方がいいって、思うよね!? 0137幸 :んー……、でもセタくんから、捨てられる? 0138優凛:ん? 0139幸 :今日仕事してんの、一日側で見させてもらってね。      この子すごい、丁寧だなあ、感じ良いなあって思ったの。 0140優凛:ありがとうございます。 0141幸 :ああーやだな、そんな畏(かしこ)まらないでよ。      そんでね。 花相手にあんなに丁寧で真剣な子って多分、      人間相手にもそうなんじゃないかなって、私の妄想ね。      その、丁寧に接するベクトルをちょっと変えるくらいでいいと思うの。      自分を大事にする方向? っていうか。 0142優凛:……。 0143幸 :捨てる捨てないは、置いといてね。 とりあえずは、雨の中で一時間も待ちぼうけするとかは、駄目だよ。 0144ヨリ:そうそう! 自分が幸せになりたかったら一週間以内に捨てなさい! んで、アタシに報告に来る!      まだクリスマスまで一カ月ちょっとあるんだから、クリスマス彼女いないの嫌ーなんて聞かないわよ!?      アンタ、顔綺麗だし感じも良いからね、すぐ次がつかまるわよ! アタシが保証したげる! 0145優凛:あ、ありがとうございます……? 0146幸 :あれ。 ヨリちゃん気に入った? よかったね。      母さんに気に入られたから、ここに来れば美味しい物食べられるよ。 0147ヨリ:母さんじゃなくてヨリちゃん! 0148幸 :ヨリちゃんでいいのね。 ヨリちゃん、ボトルと、豚汁お代わり頂戴。 0149ヨリ:今日ボトルとかいいから! アタシのお酒開けたげる! セタちゃん飲める!? 0150優凛:あ、はい、飮めます。 0151ヨリ:じゃあアタシの奢り! 奢るからそんな女捨ててきなさい! 待ってて! <店奥へ引っ込む> 0152幸 :……アグレッシブで、面白い人でしょ。 0153優凛:そっすね、ちょっとびっくりしましたけど……。 0154幸 :うんうん。 ごめんね、私こんなんだから、人の世話の焼き方ってわからなくて。 0155優凛:あの、さっきの話。 0156幸 :あ、説教臭くなっちゃってごめんね。 0157優凛:いえいえ、俺、頑張ってみます。 ありがとうございました。 0158幸 :どういたしまして。 ヨリちゃんだったら世話焼いてくれるかなって思って、連れてきたの。      煙草大丈夫? 0159優凛:はい。 俺も、いいですか。 0160幸 :吸うの? え、全然そんな風に見えない。 0161優凛:よく言われます。 0162幸 :灰皿使って。 彼女に怒られたりしないの。 0163優凛:彼女も吸うので。 0164幸 :成程。 お、セッタだ。 最近の子って電子タバコじゃないの? 0165優凛:電子タバコ、匂いが苦手で……。 0166幸 :あーわかる。 私も匂いが苦手でずっとこっちなの。      そろそろ都内、飲食店で吸えなくなるんだっけね。 肩身狭くなっちゃうね。      まあ私達みたいな喫煙者より、来年のオリンピックの方が大事だよね、そりゃあ。 0167優凛:そうですね。 ……なんすか? 0168幸 :あ、ごめんね。 身近に煙草吸う男の子っていなかったから、なんか新鮮で。 0169優凛:そうですか? 0170幸 :うん。 あれ、これ失礼っていうか、セクハラになるのかな。 なるんだったらごめんね。 0171優凛:あぁいえいえ、気にしませんよ。 0172幸 :よかった。 セッタ、いいね、渋いね。 0173優凛:ヤハギさんも。 ラーク吸ってる女の人って、俺初めて見たっす。 0174ヨリ:あら! ごめんね灰皿も出さないで! びっくりしちゃった! 0175優凛:いえ、ああ、すみません。 0176ヨリ:いいえ。 ほら、お酒何でもあるからね、好きなの飲んでいきな。 ​ <2018年、出版社内。> ​ 0177伶音:あ、いたいた……! 0178凛久:お。 お疲れ。 0179伶音:カサイさん! 私こないだの言わないでって言ったのに! みんなに言いましたね!? 0180凛久:言ったっけな? 0181伶音:部署全員に笑われましたけど!? 0182凛久:じゃあ言ったな。 いやお前マジ、酒癖ヤバいよ、自覚してる? 0183伶音:してますよ! ほんと申し訳ないって、出社して笑われるまでは思ってました! 0184凛久:あそこまでいくと酒乱だよ。 最終的に私もホテル泊まるぅーって人のシャツに 0185伶音:ほんとにほんとにほんっとーに! すみませんでした!      で、謝りにきたのもあるんですけど! 0186凛久:だから謝らなくていいって、酒癖直した方がいいぞーとは思うけど。 0187伶音:あの、電車で言ってた事。 0188凛久:電車? 0189伶音:娘が、って。 0190凛久:娘? いないよ、俺。 0191伶音:今は、いないってだけでしょう。 0192凛久:……ほーん。 話してくれたのは誰だ? 0193伶音:コンドウさんです。 前に娘さんがいたってだけ、その、そんなに詳しくは聞かなかったけど。 0194凛久:<笑う> そっか、裏切り者はコンドウな。 うん、まあ、飲み会顔出さなかったのもそういう事。      ごめんな、今まで黙ってて。 今度からは顔出すから。 0195伶音:その指輪も、ポーズだって聞きました。 0196凛久:そうそう。 前の嫁さんと買った結婚指輪。 0197伶音:あの。 今度、ご飯行きませんか。 こないだのお詫びで。 0198凛久:……この流れで誘う? 0199伶音:この流れで、誘ってるんです! 0200凛久:ん? これすっ惚けた方がいい所? 0201伶音:ど、……どちらでも……いいですけど……。 0202凛久:……おお、あはは。 根性あるな。 わかった、いいよ。 店は俺が決めていい? 0203伶音:はい! あ、あの、予算が適度な所で! 0204凛久:おうおう、適度な所な。      適当に酒が飲めて、美味いモンが食える所があるよ。 <七福堂店内。> 0205ヨリ:マーッ! やだ、マーッ! 0206凛久:嘘、客いない? 0207ヨリ:いないいない! さっき帰った! なんなら閉めてくるけど!? 0208凛久:閉めなくていいって。 忘年会の下見。 0209伶音:あ、こんばんは……。 0210凛久:マスターのヨリちゃん。 もう十年以上通ってんの。 こっち、可愛い部下のシロウチ。 0211ヨリ:どーも! やだやだやだ、リクちゃんたら! 女の子連れてくるなら、化粧バッチリで待ってたのに! 0212凛久:二割仕事だよ。 コースのさ、あのークラッカーに乗って色々出てくるメニュー、見せてもらっていい?      あれってさあ、シメに何出してもらえる? 他の料理も頼んでいい? 0213ヨリ:何でも出したげるよん。 コースっつったって形だけだし。 そうねえ、女の子多いんだっけ? 0214凛久:男が八の女が七。 一番年上が俺だけど、全員馬鹿みたいに飲む。 0215ヨリ:この辺の大皿と、一人一品ご飯物って感じで、飲みほ付き六千円でどう。 そこから追加は定価。 0216凛久:よし、乗った! 0217ヨリ:毎度あり、待ってるからね。 今日はもつ煮いる? 唐辛子入ってないけど。 0218凛久:あるなら、白米と一緒にコレに出してやって。 0219伶音:私? 0220凛久:コイツすげー酒癖悪いの。 先に腹に入れておきゃ、ちょっとはマシになるかなって。 0221ヨリ:いいわよいいわよ、リクちゃんが連れてきたレディなんだもの。      辛いの大丈夫? ごはん、どのくらいがいい? 0222伶音:あー……大丈夫、です。 適度に……。 0223ヨリ:ケチ臭い事言わない! どーんと盛ってきてあげるからね、待ってて!      リクちゃんは白でいいの! 0224凛久:うんー。 シロウチ、これ。 忘年会のメニューなんだけど、どう? 0225伶音:あ、普通におつまみ出るんだ。 美味しそうだし、これで六千円? いいですね。 0226凛久:ん。 じゃあここにするか、忘年会。      盛り上げてくれるのはこないだの飲み会でわかったからさ、ならお前が好きなモンにしようと思って。 0227伶音:……ん、メニューにもつ煮無いですけど、ここ何屋さんですか? 0228凛久:一応バーらしいよ。 十年通うと夕飯が出てくる。 0229伶音:へええ……。 0230ヨリ:シロウチちゃんだっけ、リクちゃんが連れてきたからアンタももう常連! いつでもご飯出したげる!      ほらほら、丁度実家から里芋送ってもらって、煮てあったの!      食べなさい! こっちがね、レンコンのお吸い物! 0231伶音:あ、どうも……うわすごい。 私食べきれるかな。 0232ヨリ:やーねえ、最近の子ってこんな細くってまあ!      これでバカスカ酒飲んでちゃ、下っ腹ぶよぶよになるわよ!? ​ <2019年、七福堂店内。> ​ ​ 0233優凛:って言ったって、こっち物価おかしくね? もうスロ打ちに行く気にもならねーわ。      消費税上がんなよって思わねえ? 上がる前と必要経費段違いなんだけど。 0234ヨリ:アンタはその煙草! スロットとそれ止めりゃお金できるでしょうに! 0235優凛:んーまあ……。 どっちも俺の呼吸みたいなモンだから、止めねえんだけど。 0236ヨリ:ま、やだ! ギャンブル狂い!? 0237優凛:いーじゃんいーじゃん。 俺が稼いだ金で行ってんだからさあ。      それで彼女に金せびった事とかないよ? 流石にそこまではハマってない。      でもちょっとかわいそうな事したかなぁ。 何だかんだ止めて欲しそうだったし? 0238ヨリ:それにしたって一時間雨の中で人様待たせるなんて、碌な女じゃないっつーの! 0239優凛:だよね! ま、ヨリちゃんにそう言われて別れたし。 ありがとね。 0240ヨリ:……アンタ、ほんとその顔で徳して生きてきたわね。 中身ドが付く程クズだってのに。 0241優凛:そうかな。 クズでもぱっと見清潔感あれば人生どうにかなると思ってるけど、そうでもない?      俺、仕事は人よりできるし。 0242ヨリ:……。 0243優凛:てか、中身はクズって割と誉め言葉だと思ってんだよね。      なんも考えないで子供デキて育てられなかったり、      ギャンブルの為に女に金せびったり、DVするタイプのクズよりマシじゃね?      俺が世間様に歩調合せる為に煙草とスロットが必要だって、そんだけだから。      あ、でもヨリちゃんに言われるまで別れられなかったのは、ちょっと反省してる。 0244ヨリ:アンタみたいなのなんていうか知ってる? 0245優凛:性悪の不良物件クズ。 0246ヨリ:わかってんじゃない。 ま、きっちり別れてきたんだから、そこは誉めてあげてもいいかもね。 0247優凛:褒めてくれるかわりに、豚汁お代わりちょーだい。 俺こういう家庭の味的な? 好きなんだよね。 0248ヨリ:捨てた彼女、作ってくれなかったの? 0249優凛:んー? なんかたまに洒落た料理なら作ってたよ。 アクアパッツァーだとか、横文字系の。      すげー見栄っ張りだったの。 俺この顔でしょ? どうにかつかまえておきたいってもう、丸見え。 0250ヨリ:成程ね。 次はそんな女につかまるんじゃないわよ、しばらくウチで我慢しなさい。      全く、常連みたいな顔してあれから毎日来て。 0251優凛:もう常連? 0252ヨリ:六日続けて来といて、焼酎までキープしてんだから立派な常連よ。 0253優凛:やった。 0254ヨリ:はいはい。 で、何よ改まって相談って。 0255優凛:あ、そうそうそう。 ヤハギさんって結婚してないよね? 0256ヨリ:<むせる> 0257優凛:ママ活とかじゃないから! 割とガチ! 0258ヨリ:いや、いやっ、そこを疑ってるんじゃなくて! 0259優凛:よかった。 俺ああいうタイプと付き合った事ないから、どうしたらいいかわかんなくって。 0260ヨリ:セタちゃん、あの、さっちゃんっていくつか知ってる? 0261優凛:四十五っしょ? 載ってる雑誌、注文して買った。 0262ヨリ:二十、年上なのよ!? 0263優凛:うん、いいじゃん。 え? 仲良くなるのに年齢とかって別に関係なくない? 0264ヨリ:なんだ、仲良くなりたいだけなのね。 0265優凛:んーん、あわよくばああいう人と結婚したいんだよね。 あ、子供も欲しい! 0266ヨリ:おっふ……。 0267優凛:え、なんで。 ヨリちゃん的には反対? あの顔で男癖クソ悪いとか? 0268ヨリ:いやいやいや……えっと、一から話聞きたいんだけど。 なんで? 0269優凛:なんでって? 0270ヨリ:なんで好きになっちゃったの? 0271優凛:あ、好きになったとかそういう感じじゃない。 0272ヨリ:ああ!? 0273優凛:多分、俺の寂しいとあの人の寂しいって違うから。 0274ヨリ:クズな上に電波くんなの……? 0275優凛:んー……ごめん、なんて言えばいいんだろうなあ。      これ憶測なんだけど。 俺が一人で生きていけない理由を埋めるのに、ヤハギさんが丁度いい気がする。      んで、これって下手したら超失礼なんだけど。 ヤハギさんの寂しいに、俺は丁度いい自信がある。      なんかこう……直感? そんな気がした。 0276ヨリ:…… <溜息> 0277優凛:ね? これが恋だって言う人も、多分いるんだと思うよ。 0278ヨリ:セタちゃん、あのさ。 0279優凛:ん? 0280ヨリ:えーと……。 うん、協力したげる。 0281優凛:やった! 0282ヨリ:したげるけど! あの、一個聞かせて。      ……その、恋愛って。 その人の人生の一端になる訳じゃない。 0283優凛:うん? うん。 0284ヨリ:セタちゃんは、それで後悔しない? セタちゃんの人生の一端にさっちゃんが関わるの、後悔しない? 0285優凛:それはわかんない。 だってまだそこまで関わってねーし。      後悔しないって前提のある恋愛なんて、どこにもないと思ってるし。 0286ヨリ:……そう。 0287優凛:うん。 俺はそう思ってるし、多分ヤハギさんとそういう感じになって後悔しても、      それって、何? その辺の俺くらいの女子みてえな、こうー……      ドロドロした嫌な感じとはまた違う気がする。 するから、好きになってみてもいいかなって。 0288ヨリ:……わかった。 あんな飄々としといて、難攻不落よー? 0289優凛:って思ったから、外堀から埋めるのがいいかなって。 なあ、さっきの質問何? ヨリちゃんの経験則? ​ ​ <2018年、七福堂店内。> ​ 0290ヨリ:経験則、っていうかー……。 アタシが見てきた感じ、まあ難しいでしょうよ。 0291伶音:やっぱ、難しいですよね……。 0292ヨリ:まーねー。 難攻不落よ、あの子は。 0293伶音:……度々思ってたんですけど、ヨリさんっておいくつなんすか? 0294ヨリ:やーねえこの子! 歳なんてアタシとっくに食べちゃったわよ! 味忘れた! 0295伶音:いやだって、パッと見カサイさんと同じくらいかなって思ってたけど、      カサイさんの事あの子、とかリクちゃん、なんて言うから気になるじゃないですか! 0296ヨリ:あらま。 後でスペアリブ出したげる。 0297伶音:やったぁ! じゃなくて! カサイさんとメッチャ仲良いし! シャワーとか貸してるし! 0298ヨリ:まあねえ、レオン、あはは、何、アンタ妬いてたの? 0299伶音:う……まあ、あの、ちょっと……だってカサイさんとすごい仲良しじゃないですかー! 0300ヨリ:はいはいはい。 アンタくらいの子はね、ああいう仕事ができる年上に引っ掛かるのはわかるのよ。      そっからどうにかなるのがマズいとは、アタシは思わないわよ?      自由恋愛最高じゃない。 あの子独身だし。 0301伶音:じゃあ、じゃあ! 私にも望みありますかね!? 0302ヨリ:それはアンタの頑張り次第。 言ったでしょ、難攻不落だって。      離婚して四年経ってんのにまだ結婚指輪なんてつけてるんだもん。 呆れちゃった。 0303伶音:……離婚、なんですか? 死別じゃなくて? 0304ヨリ:離婚。 0305伶音:それ、なんで、とか聞いてもいいです? 0306ヨリ:んー……ボトルキープして、時々でいいから三ヵ月、夕食食べにきてくれたら考えたげる。 0307伶音:あれ! キープします! 0308ヨリ:最後まで聞く! 0309伶音:はい! 0310ヨリ:……そんで。 リクちゃんの好きな食事の作り方覚えたら、教えてあげてもいいわよ。 0311伶音:……料理? 私、実家暮らしでその、簡単な物しか……。 0312ヨリ:でしょ。 主菜、副菜、汁物。 一通り教えてあげるから、覚えて作れるようになりなさい。      酒キープしてると思えば、足が向きやすいでしょ。 授業料よ。 0313伶音:……ヨリさんて、結構良い人だったりします? 0314ヨリ:嘘でしょ、こんなに良い人他にいるゥ!?      周りがみんなドが付くお人好しだから、アタシもお人好しになっちゃったのよねえ! 0315凛久:お。 何なに、なんで盛り上がってんの? <2019年、七福堂店内。> ​ 0316幸 :あれ。 すっかり仲良くなったんだね。 ちょっとびっくりしちゃった。 0317優凛:ヨリちゃんの作る物、何でも美味いから。 最近通ってるんです。 0318幸 :あー、だよねえ。 わかる。 0319優凛:はい。 0320幸 :ん? 0321優凛:注(つ)ぎます、酒。 0322幸 :え、いいの? ありがとう。 じゃあ私も注ぐよ、はい。 0323優凛:ありがとうございます。 0324幸 :うん、お疲れー。 0325優凛:お疲れ様っすー。 0326幸 :いやあ、ほんとに。 色々無茶言ってごめんね。 0327優凛:いえ、良い撮影になったならよかったっす。 0328幸 :お陰様でね。 あ、そうだ。 名刺とかある? 0329優凛:ありますよ。 0330幸 :交換しよっか。 0331優凛:え、いいんすか!? 0332幸 :うん。 セタくん、センス良いよね。 こっちの意図汲んで動いてくれるのも、すごいありがたかった。      また一緒に仕事しようね。 0333優凛:はい、こちらこそ。 色々勉強になりました。 0334ヨリ:始めてる? ほらほら、穴子の天ぷらと、じゃーん。 牛カツ。 0335優凛:え、すっげ! なんで!? なんでこんな豪華!? 0336ヨリ:でっかい仕事だったんでしょ、こんな遅くまで働いちゃって。 んで、これもあるから。 0337幸 :やった、豚汁。 0338優凛:今日サツマイモが入ってる。 0339ヨリ:サツマイモだったり、ジャガイモだったり、里芋だったり。      そん時安い物を適当にポイポイ入れてるからねえ。 0340優凛:へええ……。 0341幸 :私実家がサツマイモだったから、最初は里芋入ってるの驚いたけどね。 0342ヨリ:そういえばうちは、里芋とジャガイモの混合だったかな。 セタちゃん家は? 0343優凛:家で豚汁って飲んだ事ないなー……。 あ、でも、給食で里芋が入ってた気がする。 0344幸 :出なかったの? 0345優凛:はい。 父子家庭で、姉が作ってたんで。 0346幸 :あー……。 0347ヨリ:地雷踏んだ。 0348優凛:そんなに地雷じゃない。 姉ちゃん料理上手かったし。      豚汁より、ビシソワーズが出てきたって感じ? 0349ヨリ:おお、横文字。 0350幸 :お父さんやお姉さんとは、ちゃんと仲良くしてる? 0351ヨリ:やだおばさんぽい! 0352幸 :おばさんだからね! 0353優凛:この写真、カジキ持ってるのが父です。 で、このコメントが俺。 0354幸 :……これどこ? 0355優凛:マレーシア。 0356幸 :お父さんマレーシアにいるの!? 0357ヨリ:お父さんインスタやってんの!? 0358優凛:う、うん……そうだけど……。 0359幸 :え、え、お父さんいくつ? 0360優凛:四十七歳。 0361幸 :二歳……差……? マジ……? 0362優凛:姉ちゃんが結婚して、俺も独り立ちしたからーって、世界旅行してて。 0363ヨリ:っはー……はああ……。 インスタ使いこなすパパ、ねえ。 0364幸 :なんかこう、すごい、ジェネレーションギャップってこういう事……? 0365優凛:……そんなに? 0366幸 :うん、なんか割とショック。 私二年後こうなれるのかなぁ……。 0367ヨリ:この父あっての息子、って感じするわ。 0368優凛:え、それ俺の事誉めてる? 0369ヨリ:誉めてる誉めてる、超誉めてる。      ユウリちゃんはパパ似のヤンチャで優しい子ですことー。 0370優凛:なんだかなあ。 0371幸 :あれ。 セタくんって下の名前、ユウリくんって言うの? 0372優凛:え? あ、はい。 セタ、ユウリです。 0373幸 :へええ素敵、今時の名前だねえ。 どういう字を書くの? 0374優凛:優しいに、凛然のリンです。 あ、ヤハギさんは? 0375幸 :……私? 幸せのあの字で、サチ。 だから、うん、さっちゃんとか呼ばれてる。 0376優凛:へええ、名前可愛いっすね! もし失礼じゃなかったら、俺もさっちゃんって呼んでいいっすか? 0377幸 :いいよ。 なんか照れ臭いなあっと。 ヨリちゃん、お手洗い借りるね。 0378ヨリ:はいはいー。 ​ <幸、席を立つ。> 0379優凛:よしよしよし! ヤハギさん脱却! ヨリちゃん、不自然じゃなかった!? 0380ヨリ:……うん。 不自然じゃなかったわよ、やったじゃない。 0381優凛:ちょっとわざとらしかったかなって、言ってから思ったけど。 0382ヨリ:んん? ……ねえ。 お父さんのプロフィール、四十四歳って書いてあるけど。 0383優凛:バレた? うん、四十四。 俺父さんと母さんが十九歳の時の子だから。      流石に親が年下ってのは、ショッキングかなーって。 二歳年上ってだけでショック受けてたし。 0384ヨリ:……あんたほんと、なんていうか……強(したた)かよねえ……。 ​ <2018年、都内飲食店内。> 0385凛久:……なぁ、シロウチってもしかして、そういう性癖だったりする? 0386伶音:どうしたんですか急に。 ほら、シュラスコ来ましたよ。 0387凛久:あ、はいはいはい、どうもー。      ……いやだってさ、何が楽しくて毎週上司と飲んでんの? 0388伶音:ええそれ、……ええ……。 0389凛久:いや、俺は楽しくないとかそういうんじゃないんだよ。      毎週美味い肉食えるし、食えるんだけどさ。 お前最近全然飲まねえし! 0390伶音:酒乱って言われたの気にしてるんですけども。 0391凛久:だってあれ酒乱だろ。 ほら飲めって、ワイン嫌か? 0392伶音:何でも好きですし、飲みます。      ……私だって楽しいし、カサイさんがいいよって言ってくれるから、誘ってんですけど。 0393凛久:……んんんんんん。 0394伶音:何ですか、もー。 足バタバタしない。 0395凛久:娘が嫁に行く時の気分ってこうなのか……。 0396伶音:あなたの娘じゃないしまだ嫁ぎません。 0397凛久:マジレスすんなよ。 冗談冗談。 0398伶音:<溜息> ……。 0399凛久:……んん、楽しいと思ってくれてるならいいんだよ。      今までってヨリちゃんの所行かないと、一人で飯食う羽目になってたのがさあ。      毎週、誰かと一緒に飯が食えるの、悪くないなって思うし。 0400伶音:じゃあよかった。 0401凛久:……もっとさあ、イケメン! いるだろ周りに。 おっさん相手にしてる暇あんのかよ。 0402伶音:お兄さんです。 0403凛久:そこはどうでもいいんだよ、じゃあ、お兄さん相手にしてる暇あんのかよ? 0404伶音:あるから誘ってます。 0405凛久:そこまで即答されるとなんか……暖簾(のれん)に腕押し? みたいな。 0406伶音:まあ、はい。 0407凛久:……。 ぶっちゃけさあ。 0408伶音:はい。 0409凛久:部下として、可愛いとは思ってるよ。 仕事、真面目だし。 たまに空回るけど。 0410伶音:はい。 0411凛久:まあ、みんなの妹分っつか、ムードメーカーっていうんだろうな。 たまに空回るけど。 0412伶音:空回る系の話は余計です。 0413凛久:でもさ、だから、……うーん。 たまに空回るけど。 0414伶音:文脈滅茶苦茶だし、結構酔ってます? 0415凛久:酔ってなきゃこんな話しねえよ! 0416伶音:はいはいはい。 0417凛久:……勿体無いなあ、って、思うんだって。 どうしても。      だって今いくつよ? 俺と十、違うよな? 0418伶音:二十七ですね。 0419凛久:ほらあ、丁度十違う! 俺アラフォーなの! なんか、なんかさあ。      ……親御さんに申し訳ないんだよ。 0420伶音:私の恋愛に親は関係ないでしょ。 0421凛久:……そうなんだけど。 0422伶音:……うん、あの、私がカサイさんの立場だったら、多分同じ事言いますよ? 0423凛久:うん。 絶対言う。 0424伶音:でもそれって、在り得ない話じゃないですか。 たらればとか、もしも、とか。 0425凛久:……うん。 0426伶音:私は、ただ、カサイさんが電車であんな顔して突き放そうとするから、引っ掛かって。 0427凛久:電車で。 0428伶音:そりゃ気になりますよ、普段職場じゃ率先してみんなを引っ張ってるような人が、      突然娘が、とか言い出して。 周りにちょっと話聞かせてもらったら、過去娘さんがいて、でも今はいなくて。      離婚してて、ずっと結婚指輪してるなんて、聞いたら。 正直意味わかんないですよ。      私、大学出ても就活上手くいかなくて、ちょっとバイトして、      なんとか出版社に拾ってもらって、未だに空回ってますし、 0429凛久:そんな事ないだろ。 0430伶音:……まあ、私としては、事実そうなんで。      職場ですごいなぁって憧れてた人が割と隙があって、私がどうこうできるできないって話じゃなくて、      ああ、私は気になるんです、そういうの、兎に角。 0431凛久:……うん。 0432伶音:……だってカサイさん、あのまま放っといたら、どっか行っちゃうんじゃないかなって。 0433凛久:うん。 0434伶音:……酔っぱらってるフリして引き留めたら、      職場で楽しそうにしてるカサイさんと、繋ぎとめられる気がして。 0435凛久:うん。 0436伶音:その、うんって何ですか。 0437凛久:え、ただの相槌だけど。 0438伶音:……あの、気付いてたりしました? 0439凛久:そりゃな? だってお前、こないだ吐くまで飲んでもあそこまでうるさくなかったじゃん。 0440伶音:……あぁ……。 0441凛久:その前にみんなで飲んで寝落ちた時も大人しいモンで、 0442伶音:ああ……はい……失礼しました、その節は……。 0443凛久:笑い上戸ではあるよな? でもまあ、うん、酔ったフリだったかーって流石に気付くって。 0444伶音:あ、お兄さん、モルツピッチャーでもらえます? 0445凛久:待て待て待て待て。 0446伶音:何ですか、もー! 言ってよぉ! 私バカみたいじゃないですか! 0447凛久:ごめんなお兄さん、ビールじゃなくて白、デキャンタでもらえます? はーい。 0448伶音:なに平然と注文してるんですか! 私ビールがいいです! 0449凛久:そっかあ。 うん、ありがとな。 0450伶音:はあ!? 散々聞いといて、こんだけ聞いといてありがとうで済ませます!? 0451凛久:うん、お心遣いありがとなー、って。 0452伶音:血も涙もない……! 0453凛久:決定打、何もないしなー。 答え合わせできたから、俺は満足したよ。      うん、うん。 可愛い奴だなぁお前。 早く良い彼氏できたらいいな。 0454伶音:……クリスマス、って、空いてますか……。 0455凛久:……え。 0456伶音:あーーーーコレ、これっ、忘れて下さい! 0457凛久:クリスマス、って、来週の火曜? 0458伶音:……はい。 0459凛久:……忘年会なんですけども。 0460伶音:すいませんさっきの忘れてもらっていいですか? 0461凛久:あの、うん、同じ会場にいる筈なんですよね。 0462伶音:忘れて下さいほんとマジで。 0463凛久:え? 参加者全員承諾したから、職場の忘年会なんですが……? 0464伶音:忘れてマジで! 0465凛久:出版の兼ね合いと諸々の都合が何とかつく唯一の日、なんですけれど……? 0466伶音:忘れて下さい本当に、忘れて! 0467凛久:わかった、いいよ。 0468伶音:わす、……はい? 0469凛久:忘年会終わったらな。 そもそも九時には全員帰す気でいたし。 0470伶音:えっ、すごい健全ですね……? 0471凛久:いやだってクリスマスじゃん。 半蔵門組飲み方ヤバいし、お前含めて。 0472伶音:うっ。 0473凛久:二次会は各々好きにしろって言うつもりだったんだよ。      どっか店変えてシャンパンとケーキ、でいいか? ​ <2019年、七福堂店内。> ​ 0474幸 :……クリスマス。 もうそんな時期なんだねぇ。 0475優凛:そうっすよ。 俺フリーになったんで、ヨリちゃんと一緒に飲もうと思ってて。      さっちゃんはどうするのかなって、話してて。 0476幸 :私はー……、適当にコンビニのチキン買って、バライティ見て寝ようかなって、思ってた。      えーセタくんはさ、早く寝てサンタさん待ってた方がいいんじゃない? 0477優凛:そんな歳じゃないっすよ。      俺ケーキ用意するんで、七福堂の常連で集まって食べませんか? 0478幸 :常連で集まる? 0479優凛:って言っても、俺とヨリちゃんだけなんすけど。 0480幸 :……いいのかなあ、私みたいなおばさんがお邪魔しちゃっても。 0481優凛:人数多い方が楽しいっすよ。 あ、そうだ! サンタさん、着ますか? 0482幸 :ええ、私トナカイでいいよー。 うーん……じゃあ、お邪魔しちゃおっかな。 0483優凛:よかった。 楽しみにしてますね。 0484幸 :うん。 セタくんは友達と集まったりしないの。 0485優凛:みんな彼女いたり仕事だったりするんで。      この歳になればクリスマスなんてもう、酒飲む口実っすよ。 0486幸 :ええ、味気ないなあ。 なんかこうー……ないの? 若いなーってエピソード。 0487優凛:ないですよ。 クリスマスなんて酒飲む口実っす。 0488幸 :そっかぁ。 あ、じゃあ。 プレゼント交換とか、する? 0489優凛:プレゼント交換? 0490幸 :ヨリちゃんもセタくんも結構飲むし、      おつまみの詰め合わせ、とかだったら誰に当たっても損、しないでしょ。      楽しみはちょっとでも多い方がいいよ。 0491優凛:ああ、いいっすねそれ。 俺も買っておきます。 0492幸 :うん。 それでね、私の事は止めておいた方がいいよ。 0493優凛:……え、はい? 0494幸 :私の事は止めておいた方がいいよ。 0495優凛:……え、え? 0496幸 :いくら何でも、見てればわかっちゃうよ。 クリスマス一緒に、ってのが決め手だったけど。 0497優凛:……。 0498幸 :ああ、……えっと。 誤解だったらそれでいいんだ。 誤解じゃないんだろうなって、さっき思って。 0499優凛:……。 0500幸 :……あはは。 誤解じゃなかったんだね。      ありがとうね、こんなおばさん気に掛けてくれて。 でも私、セタくんの事絶対幸せにできないし。      そういう、良い感じに思ってもらえるのは嬉しいんだ。      これからも良い飲み仲間でいられたら嬉しいなって思う。 0501優凛:幸せになりたいなんて、誰が言ったんですか。 0502幸 :ん? 0503優凛:俺、幸せになりたいだなんて言ってないです。 0504幸 :……ううん、でもさ。 私はセタくんに幸せになって欲しいなって思うよ。      こんなに綺麗で真面目な子なんだからさ。      ご飯美味しそうに食べてるセタくんとか、仕事してる時のセタくんとか、見てて思った。 0505優凛:俺、……。 0506幸 :お父さんの写真、見せてくれた事あったじゃない。      ああいう時の楽しそうな顔とか。 私、させられないから。      お父さんも嫌だと思うよ、大事に育てた息子がさあ。 ね?      あーあ、歳取るって嫌だよね。 大事にしてた息子、私みたいなのに取られたらって思うとね。 どうにも。 0507優凛:……。 0508幸 :……ね、セタくん。 私、いくつか知ってる? 0509優凛:……はい。 0510幸 :もうセタくんの子供産んだり、できないよ。 ​ <優凛、帰り支度を始める。> 0511優凛:……俺の幸せは、俺の幸せで、そりゃ子供も欲しいなって思うけど、それとこれとは関係ない。      それをアンタにわかってもらおうとか、幸せにしてもらおうとか、そういうのは思ってねえし、      こういう、人との関係から逃げるのに歳だって関係ないし。      それに、……何、アンタ、俺がアンタの事好きだってわかってて会ってたの? 0512幸 :うん、まあ、わかるよ。 付き合う気はないけど。 0513優凛:……指輪とか、そういうの、自衛した方がいいかなって思う。 0514幸 :そうかもね。 ​ <優凛、退店する。> 0515ヨリ:<奥から出てくる> ……あーあ。 あの子お金払わないで出てったけど。 0516幸 :あぁ……。 ごめんね、私が払うよ。 0517ヨリ:外、雪だよ。 0518幸 :うん。 寒いだろうね。 私が出て行こうと思ってたのに。 0519ヨリ:よかったの。 0520幸 :飲み仲間が減っちゃったのは、寂しいかな。 0521ヨリ:そう。 あの子、あれでいて強かだから。 0522幸 :そうなんだ。 0523ヨリ:……っかー! 全くもう! 出づらいったらありゃしない!      それに、わかってたならもっとやり方あったんじゃない!? 0524幸 :んー? やり方? 0525ヨリ:子供産めなきゃ女じゃない、みたいな言い方よ! 0526幸 :なんか期待させちゃったら、その方が残酷だと思うよ。      たまたま彼女と別れるタイミングに居合わせちゃったのが私だったって、そんだけだよ。 0527ヨリ:そんな訳ないでしょ。 0528幸 :そうなの? そっか。 0529ヨリ:そんだけだったらさっちゃん、なんでそんな顔して酒飲んでんの。 酒不味くなるよ。 0530幸 :……私、あの子の事、何も知らないし。 0531ヨリ:あの子が歩み寄ろうとしてるのを、アンタが子供持ち出してぶった切ったんでしょうが。 0532幸 :……。 0533ヨリ:……自分の寂しいとさっちゃんの寂しいは、多分違うからって。 0534幸 :ん? 0535ヨリ:自分が一人で生きていけない理由を埋めるのに、アンタが丁度いい気がして。      アンタの寂しいに、あの子は丁度いい自信がある、って。 0536幸 :なぁに? それ。 0537ヨリ:あの子が言ってたの。      ねえ。 歳がいくつ違おうがあの子、ちゃんと物事考えてるのよ。      ちゃんとアンタに向き合おうとしてたのよ。 0538幸 :……。 0539ヨリ:……もう、いいんじゃない。 0540幸 :いいのかな。 0541ヨリ:十分よ。 0542幸 :マリア、赦してくれるかな。 0543ヨリ:アタシはわかんないけど。 0544幸 :そっか。 ごめん、私もお代、後でいい? 0545ヨリ:お代は後でいいけど。 0546幸 :ん? 0547ヨリ:アタシから話そうか。 アタシとした話、バラしちゃったし。 0548幸 :……ううん。 私からちゃんと話す。 <幸、退店する。> 0549ヨリ:……全く、相変わらず手が掛かるんだから……。      そうか、去年の今頃もこんな事してたな。 相変わらず、変な所で似た物夫婦なんだから。 <2018年、クリスマス。都内飲食店内。> ​ ​ 0550凛久:はい、お疲れさん。 0551伶音:お疲れ様です。 0552凛久:クリスマスだから、って、ケーキはちょっと安直だったか。 0553伶音:いえいえ。 私甘い物好きなんで。 0554凛久:だよな、よかった。 0555伶音:だよなって? 0556凛久:菓子配ると一番に持ってくだろ、ひよっこ風情が。 0557伶音:すいませんでした!      でも! カサイさんが俺はいらないからーって持ってくるんじゃないですか! 0558凛久:はいはいはい。 次からは俺の分もやるよ。 後、名前で呼べ。 0559伶音:ん? 0560凛久:リク。 名前。 0561伶音:……呼べと。 0562凛久:おう。 酒乱卒業のご褒美。 プライベートだしな。 0563伶音:……まぁ、いいや。 リクさん。 0564凛久:んー? 0565伶音:あの、コレ。 よかったら。 0566凛久:えー、何なに……。      <吹き出す> お前、お前ラルフローレンのマフラーって。 学生かよ! 0567伶音:いやだって! わかんなくて! 0568凛久:まじかー。 え、コレいくらした? 0569伶音:言う訳ないでしょ!? 0570凛久:あっ値札付いてる。 0571伶音:嘘!? 0572凛久:うっそー。 0573伶音:……。 0574凛久:そっかあ。 ありがとな、わざわざ。 0575伶音:使って下さいね。 0576凛久:いや。 とっとくよ。 0577伶音:……。 0578凛久:……この指輪つけてんの、ちゃんと説明しようと思って今日誘ったんだ。      前にも言った通り、前の嫁さんとの結婚指輪なんだよ。      四年前に離婚してて。 嫁とはもう全然連絡取ってないし、何とも思ってない。 0579伶音:じゃあなんで。 0580凛久:嫁じゃないから。 忘れたいのが嫁じゃないから、この指輪をつけてる。 0581伶音:……娘さんですか。 ​ <2019年、ビジネスホテル。> ​ ​ 0582幸 :<駆けこんで、フロントに向かって>      お兄さんごめんね、この子のチェックインキャンセルして。 0583優凛:は、 0584幸 :お金掛かる? うん、ありがとう。 ほら行こう。 0585優凛:……何してんすか。 0586幸 :やっぱ終電無いよね。 ここに来る間、滑って転ばなかった? 0587優凛:……。 0588幸 :ここのホテル、使うんだろうなって思ったんだよね。      さっき、ごめんね。 馬鹿な事言って。 0589優凛:……いえ。 0590幸 :……タクシー、呼ぶから。 私の家行こっか。 0591優凛:は!? 0592幸 :歩いて五分くらいなの。 あー、嫌なら、ヨリちゃんの所でも、どこでもいいんだけど……。 0593優凛:あの、……えっ、嫌では、ないっす。 てか、いいんですか。 0594幸 :私はいいよ。 使ってない部屋があるから、そこ泊まって。      ホテルばっか使ってたらお金、飛んじゃうよ。 <2018年。都内飲食店内。> 0595凛久:ファッション誌、やってた頃。 まだ新米だった頃に、嫁に会って。      俺が二十四の頃。 ちゃちゃっと式挙げて、新婚旅行もして、娘が生まれて。      あっちが在宅で働いてくれてたおかげで、俺はそのまま仕事していられたんだよね。      ……俺、それで調子乗ってたんだ。      自分が仕事してれば、嫁も娘も、当たり前の暮らしをさせてやれるって。      その当たり前の暮らし、って何だったんだろうな。 今じゃあもう、わかんないんだけど。 <2019年、幸、自宅。> 0596幸 :ほら入って。 コーヒーしかないんだけど、いい? 0597優凛:はい。 0598幸 :突き当りがリビングになってるから、そこで座って待ってて。      ソファーがあるから、好きなトコ、座って。 0599優凛:……えっと。 0600幸 :ああ、散らかっててごめんね。 適当に動かしていいよ。 0601優凛:いやこれ、見合いの写真じゃ。 0602幸 :そうそう。 もーさ、仕事で知り合ったオジサマ達が、選りすぐりのお坊ちゃんの写真送ってくれんの。      断ってはいるんだよ、私も。 でも断り切れなくてさ、そうして貯まる一方。 0603優凛:……。 0604幸 :ね。 私、そんな写真をそういう風に雑に扱えるし、若い男家に上げちゃう女なの。      砂糖とか入れる? 0605優凛:……ミルクと砂糖、下さい。 0606幸 :あれ。 あはは、子供舌なんだぁ。 人は見た目によらないね。 <2018年。都内飲食店内。> 0607凛久:……その癖、娘の教育方針っつーか。 きっちりビジョンがあって。      本人がやりたがったのもあるんだけど、五歳の頃に、英会話とバレエと、スイミング、始めて。 0608伶音:いいですね。 私もそういうの、色々やりたかったなあ。 0609凛久:そう? 好奇心旺盛で、見たもの何でもかんでもやりたがる子だったんだよ。 0610伶音:なら、楽しかったんじゃないですか。      私も子供の頃、色々憧れてはいたけど。 習字とスイミングしかやらせてもらえなかった。 0611凛久:いいじゃん。 ああお前、字綺麗だよな。 成程な。 0612伶音:まあ、はい。 字だけは綺麗に書けて絶対に損しないから、って。 母がうるさくて。 0613凛久:……うん、そういうモンなんだよ、親って。      今日はバレエ上手にできたよ、今日は誰々先生とこんなお歌歌ったよ、今日はどのくらい泳げたんだよ、って。      そうやって、帰った俺に教えてくれるのが当たり前だと思ってた。 <2019年、幸、自宅。> 0614幸 :どっから話そうかな……。 リクエスト、ある? 0615優凛:旦那の話。 0616幸 :ド直球だね。 まあ、そうなるよね。      ……んー。 私には勿体無いくらい、できた人だった、としか。      若い頃から、何でもかんでもできる人だった。 周りに彼を慕う人も多かったし。      私が三十一の頃に結婚して、娘、マリアを産んで、産休中終った後も在宅勤務してて。      当時は珍しかったからさ、なんやかんや言われたけど。 でもなんとかなってたんだ。      社長が色々工面してくれたりもあったんだけどね。 私は全部、旦那のお陰だったと思ってる。      ……名前。 優しいに凛然のリンでユウリ、だっけ。 0617優凛:はい。 え、何? 0618幸 :凛然のリンの字。 旦那にもね、入ってたから驚いちゃって。      凛然に久しいで、リク。 男の子に凛の字って、珍しい名前だと思ってたんだけど。      最近はそうでもないんだー、って……この子は下の名前で呼びたくないなあ、って。      私を好きでいてくれる云々以前に、ちょっと警戒してたの。 ごめんね、本当に。 0619凛久:……創刊記念のパーティーがあって、その打ち上げで。 まあ、俺が編集長になったって、昇進祝いで。      今日スイミングかあ、今日はどのくらい泳げるかなぁ。 とか、暢気に考えてたんだよ。      打ち上げの二次会が終わったのが零時近くて、店出てケータイ見たら、着信が山程入ってて。      最初は嫁のケータイだったのが、かかりつけ医、そっから、大きな病院になって。 0620幸 :名前の事だけじゃなくて。 ……娘がね。 スイミングスクールに通ってたの。      旦那、リクくんが出世して、会社をあげて結構大きな飲み会をしてた日に。      私が娘をスイミングスクールに迎えに行ってて、……そしたらさ、受付の人が真っ青な顔で駆け寄ってくるの。      マリアちゃんがプールで項垂(うなだ)れてて、息、してない、って。      そのプール、上の方から父兄がプールの様子、見えるようになってたのね。      なのに私、雑誌読んでて、全然気付かなかった。 0621凛久:すぐに収容先の病院に向かったんだけど、俺、間に合わなくて。      ……ほんとにちょっとの時間、間に合わなくて。 生きてる娘にもう、会えなかった。 0622幸 :旦那に何度も連絡入れたんだけど、繋がらなくて。      まさか娘が溺れてるなんて思わないよねって、……今ならわかるよ、わかってるのよ。 ​ 0623凛久:霊安室、行った時には、嫁が娘の手を握ってて。      何が何だかわからなくて、俺。 なんで、お前がついてたのに、って。      真っ先にした事が、酒飲んでた自分の事棚に上げて嫁に掴み掛かるって、そんだけ。      ……俺の所為で、娘の手から離れた、嫁の指に、同じ指輪があったって。      そりゃそうなんだよ、俺が掴み掛かったから。 娘の手が離れるのと、嫁のしてた指輪が。      俺はその事を忘れたいだけで。 この指輪、それ以上の意味なんて無いんだ。 0624幸 :そっから揉めて、揉めて、結局離婚したのが五年前。      ……わかってもらえたかな。 私ってね、お母さんにもお嫁さんにも、なり切れなかったのよ。 ​ ​ <2018年、七福堂店内。> ​ 0625ヨリ:そう、聞いたの。 0626伶音:はい。 0627ヨリ:どうしよっか。 0628伶音:……私、子供産んだ事ないから、わからないけど。 0629ヨリ:うん。 0630伶音:人間って一生のうち、何人を本当に幸せにできると思いますか。 0631ヨリ:うん? そりゃあ、……その人次第、でしょうよ。      リクちゃんみたいに、幸せにしてやるぞーって意気込んでたって、      それを不意に取り上げられちゃう人もいる。      アタシみたいに店開いて、その客のうちの何人かが幸せになりたくて、      わざわざメシを食いに顔を見せてくれる人もいる。 0632伶音:……自分が産んだ子供って、そのうちの何割を占めるんですか。 0633ヨリ:……。 0634伶音:……私。 クリスマスプレゼント、持って行って。 0635ヨリ:あらいいじゃない。 0636伶音:使わないってハッキリ言われましたよ。 ……それ言われるまで、私、自信があったんですよ。      就活失敗してバイトしてて、就職してからも、私、      実家暮らしで貯金はちゃんとしてたし、ちゃんと頑張って過ごしてたから。      ……だから、私は、同じ轍(てつ)は踏まないって。 0637ヨリ:違ったね。 0638伶音:立ててた作戦、全部パアになっちゃった。 0639ヨリ:パアじゃないでしょ。 ほら、手洗ってこっち来な。      リクちゃんに連れられてここに来て、アタシに料理を習ってる。 台所に立つのも大分サマになってきたよ。      料理ができるようになる。 そうすれば、レオンと誰かがとりあえずその日、生きていけるようになる。 0640伶音:……。 0641ヨリ:辛いなら、やめる? 0642伶音:やめない。 止めたら多分、いつか、あの人どっか行く。 0643ヨリ:そう、その意気だ。 今日明日どうにかなる話じゃない。      リクちゃんは今日まで生きてた。      明日リクちゃんとメシを食べてるのはレオンかもしれないし、違うかもしれない。 0644伶音:違うのは嫌。 0645ヨリ:若いっていいわね。 若いんだからいつだって、アンタはリクちゃんの隣でメシ食えるのよ。      まだ何も終わってない。      産んだ子供が幸せの何割、ねえ。 命一個、測れる訳ないでしょう。 <2019年、幸自宅。> ​ 0646優凛:でも、もう五年なんでしょ。 0647幸 :まだ五年、かな。 生きていればマリアはまだ十歳で、中学校すら行ってない。 0648優凛:……マリアちゃんと、旦那の写真、ありますか。 0649幸 :あるよ、寝室だけど。 見る? 0650優凛:見たい。 0651幸 :待ってね、持ってくるから、 0652優凛:<幸を掴む> 一緒に行く。 0653幸 :えっ。 0654優凛:その写真の前で首でも掻っ捌かれたら、たまらない。 0655幸 :そんな事しないって。 ……まあ、うん、来るのはいいよ。      あ。 押し倒したりしないでね。 0656優凛:……。 0657幸 :……もー、そんな怖い顔、しないの。      ほら、これ。 こっちが産まれた時の写真で、こっちが初めて立った時。 0658優凛:一番新しいのは? 0659幸 :これか、あっ。 <優凛、写真を取り上げる> 0660優凛:これ預かる。 いつかちゃんと返すから。 0661幸 :……今、返してよ。 0662優凛:嫌だ。 0663幸 :どうして。 0664優凛:俺ごと連れて行ってくれるなら、返す。 0665幸 :……。 0666優凛:……ヨリちゃんと、恋愛って誰かの人生の一端だって話をした事が、あって。      そんなん理屈はわかるけど、ぶっちゃけ実感がない。      アンタの事、止めた方がいいんだなんて、歳とか親とか、絶対幸せにできないとか、      子供だなんだ、適当な理由つけて言われたって納得できない。      このままじゃ後悔もできない。 ……なら、今までアンタがいじけて踏み躙ってきた人の分、      ……俺が我儘言ったって、別にいいでしょ。 0667幸 :……本当に、いいと思ってる? 0668優凛:思ってない。 思ってないけど、これしかやり方がわからない。 0669幸 :そっか。 ……七福堂で待ち合わせ、しよ。 何曜日の夜が都合いい? 0670優凛:……水曜か、日曜。 0671幸 :じゃあ水曜日の夜十時。 毎週七福堂で待ってるから、デートしよう。 0672優凛:は、 0673幸 :写真、絶対持ってきてね。 終電間に合うようには、するから。 0674優凛:……わかった。 0675幸 :うん。 何か食べた? 残り物しかないけど、何か食べる? 0676優凛:……。 0677幸 :セタくん? 0678優凛:た、……べ、ない。 0679幸 :そっか。 コーヒーのお代わり淹れるね。 何か若い子が好きそうな映画、あったかなー……。 ​ <2019年、七福堂店内。> 0680優凛:もっと、怒られると思った。 0681ヨリ:その後も何もなかったの? 0682優凛:タイトル忘れたけど、古い洋画見て気が付いたら朝で、毛布が掛かってた。 0683ヨリ:さっちゃん、いなかったんだ。 0684優凛:うん。 使ってない部屋がーとか言ってたのに、結局リビングのソファーでさ。      それは別にいいんだけど、朝飯と仕事に行くから合鍵がどう、とか、書置きがあって、……。 0685ヨリ:うわ、そういうトコ余計ねー。 0686優凛:……ほんとな。 0687ヨリ:後悔した? 0688優凛:してない。 こっからだし。 0689ヨリ:そう。 やるじゃない、どうなる事かと思ったけど、食いついたじゃない、ちゃんと。 0690優凛:……やったのかな。 0691ヨリ:うんうん、ちゃんと踏み込んでる。 0692優凛:正直、もう、気が気じゃなくて。 写真持ち歩いてるんだ俺。 馬鹿みたいだよ。 0693ヨリ:それは馬鹿みたいだわ。 あーあ、なんでこんな大事にしてんの。      これ、写真入れるのわざわざ買ったの? ……ねえ。 なんでアンタ泣いてんの。 0694優凛:……可愛い。 マリアちゃん。 0695ヨリ:……うん。 0696優凛:旦那だって。 俺の方が良い男だろって、写真見るまで思ってた。 0697ヨリ:おーおー、すごい自信。 0698優凛:当たり前じゃん。 俺の人生なんだから、俺が一番に決まってる。 0699ヨリ:って、思ってたんだよね。 0700優凛:……なんでこの人達、あの人をひとりぼっちにしたんだろう。 0701ヨリ:しょうがなかったのよ。 0702優凛:でも旦那は、……。 0703ヨリ:旦那さんは、何? 0704優凛:……何でもない。 これ、俺が言っちゃ駄目だ。 0705ヨリ:うんうん、アンタ可愛いわ。 素直で、馬鹿真面目で。 協力してよかった。      大丈夫、ユウリだから踏み込めたのよ。 自信持ってやんなさい。 0706優凛:……でも。 旦那の方が良い男じゃん。 なに、人相っつーか……。 0707ヨリ:馬鹿ねアンタ、アンタも歳食えばこういう男になんのよ。      まあリクちゃんはね。 あのさっちゃんが一目惚れしたんだもん。 そりゃあ良い男よ。 0708優凛:へえ。 0709ヨリ:カサイリクって言ってね。 表参道の出版社で今、編集長やってる。 0710優凛:別に聞きたくねーし。 0711ヨリ:あらそう? ビックニュースがあったんだけど。 0712優凛:何。 0713ヨリ:彼ね、再婚したのよ。 今年の夏。 ​ <2018年、出版社内。> 0714伶音:……ちょーっと、カサイさん! 何やってるんですか!? 0715凛久:いやいやいや、大掃除だし、運ぶの手伝ってくれって頼まれてさ! 0716伶音:先に自分の部署の片付けをして下さい!      ったく、どーせファッション誌の美人さん達に色目使われたんでしょ! 0717凛久:うわ、小姑かよ……。 0718伶音:はいはいうるさい! 0719凛久:誰も手ぇ空いてないって言うからさぁ。 じゃあ手伝うかって。 0720伶音:<溜息> こんな資料、去年まで手つけてなかったじゃないですか。 なんでまた急に。 0721凛久:来年元号変わるだろ? その前に手、つけとかないと。 もう地獄が見えてるんだからさ。 0722伶音:地獄、あー……。 じゃあ、ウチの部署とあちらさんに話つけて、手伝いますから。 0723凛久:マジか、助かるー! そういや何になるんだろうな、新しい元号。 書き易ければ何でもいいけど。 0724伶音:そうですね。 そうだ、何か男性陣、向こうで忘年会の串カツがどうこう騒いでましたけど。      カサイさんはいいんですか。 0725凛久:え、え。 何それ。 串カツ? 0726伶音:二丁目と三丁目に美味い店があるからどっちにするか、って。 0727凛久:はー!? お前、お前! そういうのはボスの意見仰げっつの! 0728伶音:別に忘年会の場所くらいでそんな……。 0729凛久:こういう小さな事がボスの沽券(こけん)に関わるんだ! シロウチ悪い、ここ頼むわ! 0730伶音:はいはいはい。 <凛久、立ち去ろうとして振り返る。> ​ 0731凛久:レオン。 0732伶音:……はい? え。 0733凛久:<苦笑する> お前、本当に良いヤツだな。 手伝いありがとな。 0734伶音:え? あ、はい。 ……ああ、あの。 0735凛久:ん。 0736伶音:褒めてくれるんだったら。 年明け、初詣に付き合って下さい。 0737凛久:……実家帰るつもりでいた。 0738伶音:実家。 0739凛久:徳島。 0740伶音:とくっ……!? ああ、そですか……。 0741凛久:……一緒に来る? 0742伶音:はい。 はい!? 0743凛久:田舎で、両親と娘の墓しかないけど。 0744伶音:……実家って? 0745凛久:姉夫婦が住んでんの。 0746伶音:お姉さん、いるんですか。 0747凛久:うん。 姉貴と弟がいる。 歳離れてるから、割とシスコンブラコン。 0748伶音:……行きます。 0749凛久:わかった。 田舎だけどメシが割と何でもかんでも美味いから、奢ったる。 0750伶音:じゃあ私、ホテル探しておきますね。 0751凛久:え? うちに泊まればいいじゃん。 0752伶音:どういう顔で泊まれと。 0753凛久:そういう顔で泊まればいいじゃん。 0754伶音:……んん? 0755凛久:じゃ、俺は串カツ戦争があるので。 0756伶音:はい。 ……え、ええ……? <2019年、七福堂店内。> 0757幸 :えっ、開いてないの、閉めるの、年末年始! 0758ヨリ:閉めるわよぉ。 これでもアタシ、一人娘だからね。 父ちゃん母ちゃん生きてるうちに顔見せないと。 0759幸 :生きてるの!? 0760ヨリ:やだ失礼しちゃうこの女! 仙台でバリバリ焼き肉屋やってるわよ! 0761幸 :え、え? ヨリちゃんいくつ? 私より上だと思ってた。 0762ヨリ:マーーッ何この失礼な小娘! これだから恋する乙女ちゃんはヤなのよ! 0763幸 :恋する乙女ちゃんって何!?      いや、私も失礼だと思ったから聞かなかったんだけど! 今気になっちゃって! 0764ヨリ:歳なんてもう何十年も前に煮て食っちゃったの!      ほんとにもうどいつもこいつも、女の子っていくつになってもお茶目さんなんだから! やーね! 0765幸 :ん? その言い方はー……若い女の子の常連がいるの? 0766ヨリ:そうよいるのよ。 アレも歳聞いてきたけどね、アンタよりずっと可愛い子がいる! 0767幸 :へー! 何してる子なの? 0768ヨリ:大手出版社勤務。 上司に連れられてきて、……あの子いくつだったかしら、三十手前?      良い子よお、ご飯出してあげてたら自分から厨房入るようになって! 0769幸 :へええ、私には到底真似できないねえ。 0770ヨリ:でしょ。 だから良い子だって言ったのよ。      良い旦那さんに嫁いでご飯作ってあげてるから、最近トンと顔見せないんだけどね。 0771幸 :既婚!? 0772ヨリ:既婚。 0773幸 :へえーっ、三十手前なんて一番楽しい時期に、へえーっ。 会ってみたいなぁ。 0774ヨリ:絶対会わせない。 0775幸 :なんで? 0776ヨリ:何でも! 一番楽しい時に結婚なんて、アンタだってそうだったでしょうが。 0777幸 :……まあ、そうなんだけど。 私はリクくんが誰かのモノになるのが嫌だったから焦ってただけで。 0778ヨリ:あははは! あー可愛い可愛い! 0779幸 :何! 0780ヨリ:なんも! 0781幸 :てか何でリクくんの話になるの、全部知ってる上でエグってくるの止めようよ。 0782ヨリ:全部知ってるからエグってるんでしょ。      もうクリスマス会なんて面倒な事しなくていいでしょ、私二十三日からいないからね。 0783幸 :はっ!? なんで! どうしてそういう事するの!? 0784ヨリ:なんとでも言いなさいな。 0785幸 :え、あれ、もしかして? カレンダー……今年クリスマス水曜じゃん! 0786ヨリ:そう。 楽しんで、デート兼クリスマス会。 二人っきりの。 0787幸 :……。 0788ヨリ:……ねえ、そんな捨てられたネコちゃんみたいな顔されてもアタシも困るんだけど。 0789幸 :私も困ってる……。 0790ヨリ:先週もその前も、二人で楽しくやってたじゃない。 家にだって上げてるし。 0791幸 :いや、うん。 セタくんと会って話すとか、そういうのは楽しいよ、楽しいけど。 0792ヨリ:けど? 0793幸 :あの子、いつ私に飽きてくれるかな。 0794ヨリ:はあ!? 往生際の悪い女ね、まだそんな事言ってんの! 0795幸 :私はもう飽きてくれるのを待つしか手がないの! 0796ヨリ:ふざけた事言ってんじゃないわよ! キッチリ振るなりどうにかなるなり、しなさいよ! 0797幸 :だってあの子私と二十違うんだよ!? 0798ヨリ:歳は関係ないと思うけど! 0799幸 :関係あるって。 私どう考えても、セタくんより早く死ぬんだよ。 0800ヨリ:……。 そこまで考えてるなら尚更、歳なんて関係ないわよ。 0801幸 :それは、……うーん。 0802ヨリ:何よ。 0803幸 :荷が重い……。 0804ヨリ:カーッ! カーッ! <地団駄を踏む> 0805幸 :私だって、そのさあ、常連の良い子ちゃんの爪の垢煎じて飲みたいよ……。      私リクくんも結構年下だったんだよ、すごい、ちゃんと覚悟して結婚したんだよ……。 0806ヨリ:……別にさ。 結婚なんて気の迷いでも、人生の墓場でも何でもいいのよ。 0807幸 :ええ……。 0808ヨリ:世間が勝手に幸せの代名詞にしちゃってるだけよ、あんなの。      あれって商売だから、その範疇に個人の幸せって含まれない訳。      ブライダル業界とか? 人様の幸せお手伝いする仕事も定着してて、      誰かが幸せになれば誰かの苦労とか挫折とかお給金になるって、そんだけのシステム。 0809幸 :うん、まあね? 0810ヨリ:だから。 この国全員が、異性と結婚しなさい。      役所でキッチリ契約して、結婚式挙げて、幸せな家庭築きなさい、なんて法律ないじゃない。      幸せとか責任とか、他人に定義されてたまるもんですか。 あの子がそんなので喜ぶタマだと思う? 0811幸 :……まあ。 年下の可愛いお嫁さんもらった方がいいんじゃない、って言ったら、鼻で笑われた。      だんだんわかってきた。 0812ヨリ:でしょ。      さっちゃんさあ、リクちゃんとかマリアちゃんの事があって、悲観的になってるのはわかるんだけど。      傍から見てるとさ、やり過ぎなのよね。 さっちゃんなりに幸せになろうとか思わない訳?      なんで五年も飽きないで、悲劇のヒロイン面(づら)していられんの? <2019年、七福堂店内。> 0813優凛:えー、ウケる。 0814幸 :ウケないでよ。 せめてウケるなら笑ってよ、真顔じゃん……。 0815優凛:いやまあ。 悲劇のヒロインとか、そこまでは思わなかったけど。 0816幸 :じゃあ似たような事は思ってたって訳ね。 0817優凛:思ってなかったらいくら何でも、女の人の寝室入れろなんて言わねーよ。 0818幸 :……そう、そうだね。 0819優凛:別に俺、付き合いたいとは思ってるけど、籍入れたいとか思わないよ。 0820幸 :……ん!? 0821優凛:ん? だって、家族亡くして、もっかい新しい家族作りましょうってしんどくない? アンタが。 0822幸 :……え、いや、まあ……。      てかじゃあ、断るのに子供引き合いに出した私馬鹿みたいじゃん。 0823優凛:まあ子供も欲しいとは思ってるよ。      あの時も言ったけど、それとこれとは別。 とりあえず心がくっついてるなら、それで。 0824幸 :いやいや、結婚しないのはマズいよ。 だって、……。 0825優凛:だって、何? 0826幸 :……この国ってさ、結婚しないと生きづらいよ。 0827優凛:へえそうなんだ。      俺はそう思わなかったから、とりあえずお金貯めときゃ大丈夫っしょって思ってた。 0828幸 :そりゃあ、だって、……。 0829優凛:じゃあ、同性カップルってどうしてるんだろ? 0830幸 :……へ? 0831優凛:結婚、できないじゃん。 とりあえず今って。 0832幸 :……いや、それは、私も知らないけど。 0833優凛:そっか。 さっちゃんは結婚しないと生きづらいから、結婚した? 0834幸 :いや……。 0835優凛:ん? じゃなんで生きづらいって言った? 0836幸 :信用とか、贈与税とか、保険とか、相続とか……。 0837優凛:信用? 0838幸 :ほら、結婚してないと、色々……。 0839優凛:ああ、いい歳なのに結婚してないとかヤベーとか、そんな感じ?      そんなん言わせておけばよくない? って思うけどね。      後のは金の話かーって何となくわかったけど、詳しくはわかんない。      ね、ね、俺ちゃんとスロットも止めたしさ。 色々お金の事とか詳しく教えてよ。 0840幸 :……。 0841優凛:……え、なんでそんな顔すんの。 0842幸 :……ジェネレーション、ギャップだなあって? 0843優凛:ええー? 難しい事言う。 0844幸 :私も、セタくんの言う事は難しいって思ってるよ。      ごめん、これ言ったらセタくん怒るの、わかってて聞くんだけどさ。 0845優凛:うん? 0846幸 :……何、なんて言えばいいの。 ほら、結婚して、子供がいて、って、そういうの。      なんかその、前にクリスマスも、酒飲む口実だって言ってたし。 サンタさんとか憧れたり、しないの? 0847優凛:別に怒らないけど、憧れもしないよ。 てか、プレゼント待ってるような歳じゃないし。 0848幸 :なんで? 0849優凛:なんでって、俺もう二十半ば……ああ、そうじゃないのね。      んー……。 結婚とか、約束とかって、絶対じゃねえし。 0850幸 :……いや、うん、それは、そうなんだけど。 0851優凛:これ話したら、さっちゃんまた変な顔しそうだけど。      俺の家、母さん病死してるんだよね。 俺が八歳の時だから、母さんが二十七歳の時。 0852幸 :……そんな、若い頃に? 0853優凛:うん。 ガン。 0854幸 :そう。 0855優凛:うん。 最期までずうっと家にいた。      俺も姉ちゃんも、小さいなりに考えて考えて、病院に行こうよって言ったけど、母さんずっと家にいた。      俺その頃から馬鹿だったから。      いつも行く小児科に電話掛けて、母さんを治しにきて下さいって言った事もある。 0856幸 :……そういう感じは、変わらないんだね。 0857優凛:多分一生変わらないよ。 姉ちゃんにすごい叱られて、……父さんは叱らなかったな。      でも母さん、最期まで幸せだったって言ってたから。 俺は母さん、幸せだったって信じてる。      高校入る時に、なんで母さん、最期まで家にいたの? って父さんに聞いたら。      延命の治療費がとても払える額じゃなかったんだって、初めて父さん泣かせた。      それも、延命なんだよ。 笑っちゃうよな、……笑えないのか。      後数年母さんが生きるだけで、すげー金が掛かって、      母さんは自分が生き続ける事じゃなくて、父さんと姉ちゃんと俺が生きるのを選んで、      父さんは母さんを尊重した。      ああ、金なんだなーって。 でも金さえあれば、俺の周りの人に何かあっても助けてやれるんだなって、      チビなりに、胸の中がチリチリ痛くなるまで、考えた。 0858幸 :……うん。 0859優凛:あ、勿論、何千、何億ってお金があってもどうしようもない事があるのは、わかってるんだ。 0860幸 :うん。 0861優凛:……で。 クリスマス、はー……いつだっけ?      小学校高学年まではプレゼント、サンタさんからだよーってもらってたんだよ。      なんでだったか忘れたけど、もうガキじゃないから金の無駄遣いしないでって父さんに言って、      止めてもらった。 0862幸 :うわキッツ……。 0863優凛:やっぱ嫌? 0864幸 :ちょっと心にくるかな、息子に言われたらと思うと……。 0865優凛:やっぱり? ほら、俺もさ、別にできた息子って訳じゃなくてさ。      父さんに嫌な顔させた悪い子だから、サンタさん来なくなった。 そんな感じでいいんじゃん? 0866幸 :そうかなあ。 0867優凛:そう。 でさ、高校入ってすぐバイト始めて、大学入ってからもバイトしてさ。      金は大丈夫なつもりでいたんだよ。 でもさっき、さっちゃんが言ってた相続とか贈与……?      とかはよくわかんなくて。      そっか、持ってるだけじゃ駄目か。 確かに、使い方わかってないとどうしようもねえよな。      さっちゃんがそこ、不安なら。 ちょっとマジで教えて。 勉強してくるから。 0868幸 :……。 0869優凛:……ねえ、なんでそんな変な顔してんの。 同情? だったら怒るけど。 0870幸 :そんなんじゃないよ、……そんなんじゃない。      うん、お金の話だっけ。 私がわかる範囲でよければ、教えるよ。 ​ ​ <2019年正月、徳島県、道の駅。車内。> ​ ​ 0871凛久:……ん。 道の駅入るか? 0872伶音:はい。 ちょっと車停めたくて。 0873凛久:そうか。 悪いな、俺が連れ出したのに。 レンタカーまで借りてさ。 0874伶音:あ、いや、それは全然。 飲酒運転させる訳にもいかないし。      流石に家族水入らずの年越しに混ぜてもらったのは、ビビりましたけど。 0875凛久:でも何だかんだ、姉貴に気に入られたみたいでよかったわ。      ……あれ、下りない? じゃあドアのロック、 0876伶音:帰るんですか、こっちに。 0877凛久:ん? 0878伶音:お姉さんに聞きましたよ。 離婚してからずっと誘ってて。 良い返事、やっともらえたって。 0879凛久:……まあ。 0880伶音:仕事は? 0881凛久:コンドウに引き継ぐ。 夏の終わり頃、内々に話はしてあって。 0882伶音:……飲み会、これからも誘うって。 0883凛久:うん、俺が徳島に戻るまで。 0884伶音:ヨリさん、何も言ってなかったですよ。 0885凛久:まだ話してない。 0886伶音:なんで私を、徳島に連れてきたんですか。 0887凛久:……日頃の礼に、と思って。 0888伶音:マフラー、受け取らなかったのは。 帰る予定があるからですか。 0889凛久:……娘の事とか、あるし。      何度も言うけどお前まだ若いんだしさ、 0890伶音:お姉さんに、リクさんは帰せませんって言いました。 0891凛久:ん? 0892伶音:私、リクさんとお付き合いするつもりで、その挨拶に来ましたって言いました。 0893凛久:え、や、……いやいやそういう顔って、あはは、観光に来ましたって 0894伶音:あんまり、ふざけないでもらえますか。 0895凛久:……ごめん。 最後に思い出じゃないけど、 0896伶音:だから! 最後って何なんですか! 勝手に思い出にしないで下さい!      ずっと黙って聞いてれば、イケメンって誰、良い彼氏って誰! どこにいんのよ!?      あなた以外に誰に惚れたらいいんですか! 0897凛久:レオン、 0898伶音:これは、私の勝手で! 私の我儘でも何でもいいんですけど!      奥さんも娘さんも忘れられないなら、私は全然それで構わないし!      ってかそんな人達の事、大事にできない人なら好きにならないし! 0899凛久:お前、お前それで構わない訳ないだろ!? じゃあお前は 0900伶音:私が構わないって言ってるんです! 私の気持ちまで決めつけんな! 0901凛久:……。 0902伶音:……リクさんが好きって、思ってる事がそもそも迷惑だったら、止めます。      でもそうじゃないなら、ちょっとでも嬉しいって思ってくれてるなら、      私の気持ち決めつけて、先回りしないで下さい。 0903凛久:……わかった、悪かったよ。 0904伶音:絶対、絶対、あんな優しいお姉さんの所にいたら、もっと引きこもりますよ。 0905凛久:かもな。 0906伶音:そのままで構わないんで。 捨てたり、忘れたり、しなくていいんで。 0907凛久:うん。 0908伶音:後輩とか、同僚とか、恋人とか、家族とか、何でもいいから。 0909凛久:うん。 0910伶音:あなたが私の世界からいなくならない保証が欲しい。 0911凛久:……うん。 わかった、わかったって。 今までごめんな。 0912伶音:娘さん、可愛かったなら、大事だったなら。 0913凛久:うん。 0914伶音:忘れたりとか、しないでいいから。 そのまま持ってきていいから。 0915凛久:うん。 0916伶音:嫌な事だけ、都合よく忘れて下さい。 0917凛久:うん。 0918伶音:もう、リクさんが独りになる理由に使わないで下さい。 ​ 0919伶音:……ねえ。 そんな変な顔してないで、返事、して下さい。      ずっと困らせてきたの、謝るから。 いつもみたいに適当でいいから。 0920伶音:リク。 <2019年年末、七福堂店内。> ​ 0921幸 :リクくんってさ。      人懷っこいけど臆病だから、人の事よく見てるけど絶対に一線超えて踏み込んでこなくて。      あの子、セタくんは。 ずっと私の方を見てるから居心地が悪いんだよね。      私が誤魔化してるのとか、ズルしてるのを、全部見透かされてる気がするの。 0922ヨリ:そうね。 0923幸 :歳、重ねるにつれて。 逃げ回る方法ばっかり覚えてさ。      この間、私が不意に結婚しないと相続の受け取りが、とか言ったらさ。      よくわかんないから教えて、って。 あの子途中からメモとか取り出してさ、      ……私、何してるんだろうなあ。 面白くなっちゃって、ベラベラ色々、金の話してね。 0924ヨリ:うん。 それで。 0925幸 :……それで、思ったんだけど。 思い返してみればセタくんって。      私の事見透かそうとしてるとか、暴こうとしてるとか、そういうんじゃないんだよね、あの子。      結構気が強い割に素直だけど、自分の予想外な事が起きると眉寄せてこっちジッと見てくる。      あー、ああいう小動物いたなあって。 なんだろう、警戒本能っていうかさ。      そんで、寝る時に、寝相良いけどすごいちっちゃく丸まって寝てて、……。 0926ヨリ:何。 0927幸 :……この子に、リクくんが使ってた部屋、使わせちゃ駄目だなって思ったの。      私の部屋に泊まった日。 0928ヨリ:だからリビングだったんだ。 さっちゃんの寝室でよかったんじゃない? 0929幸 :いや駄目でしょ。 遥かに駄目でしょ。 そっちの方が。      あの時に私、何となくわかってたんだ。      この子、私がこうしてのらりくらりしてる限り、絶対私の事飽きてくれないんだなって。 0930ヨリ:ずっと言ってきたでしょ、そういう子だって。 0931幸 :うん。 0932ヨリ:そう、そう。 腹は決まった? 0933幸 :……決まんない。 決まんないよ、そんなの。 0934ヨリ:どーすんの。 もう明日にはアタシ、仙台なんだけど。 0935幸 :ヨリちゃん。 0936ヨリ:なあに。 0937幸 :私、ほんとに卑怯でもいい? 0938ヨリ:卑怯でも何でも、さっちゃんが決めた事ならいいんじゃない。      アタシは知ったこっちゃないわよ、さっちゃんがどう幸せになろうが。      ここにメシ食べにきてくれたらそれでいい。      過程が卑怯かどうか、なんて。 私は知ったこっちゃない。 0939幸 :リクくんの近状。 私に黙ってる事があれば、教えて。 0940ヨリ:……。 夏に、再婚した。 編集長も続けてる。 一人で住んでた部屋、引き払ってる。 0941幸 :……そっか。 0942ヨリ:うん。 年下のね、可愛いお嫁さんもらってる。 0943幸 :今は、幸せにしてるの。 0944ヨリ:してる。 お店に顔出す頻度は減ったけど、夫婦そろって、アタシのもつ煮が好きだって言ってくれてね。      ちょくちょく冷凍にしたの、送ってる。 0945幸 :奥さんの事は知ってるの? 良い子? 0946ヨリ:常連。 リクちゃんに美味しい物作ってあげるようにって、ここに来る度厨房に入って、手伝ってくれる。 0947幸 :……あ、出版社勤務の良い子! 0948ヨリ:大当たり。 去年の今頃、今のさっちゃんの頻度で顔出してたら。 行き会ってたかもね。 0949幸 :……あはは、なんだ、そうだったんだ……。      私、リクくん好きになったの、ここだったから。 どうしても足が向かなくて。 0950ヨリ:そうね。 リクちゃんもずっと確認してたわよ、さっちゃん本当に来ないの? って。 0951幸 :……気に掛けてくれてたんだ。 0952ヨリ:当然でしょ。 0953幸 :恨まれたり、してなかったんだ。 0954ヨリ:してない。 0955幸 :私が、一人で。 置いてきぼりくらってたんだね。 0956ヨリ:リクちゃんは無理矢理でも前に進まなきゃいけなかった。      さっちゃんは、ここまで生きてこれちゃった。 それだけでしょ。 0957幸 :そうだね。 0958ヨリ:うん。 ……さてさて! 水曜のデートはどこにするの? 0959幸 :過程は関係ないんじゃなかったの。 0960ヨリ:修羅場提供してやったんだからこんくらい贅沢言わせてよ!      いー感じにね? 捌(は)けてるの? 大変だったのよアタシも! めっちゃ気になるし正直! 0961幸 :やっぱアレわざと消えてたんだ卑怯者! 0962ヨリ:はいはいはいリクちゃんに送るもつ煮煮てましたよぴっぴろぴー! 0963幸 :私も食べたい! 0964ヨリ:アンタリクちゃんに合わせて作ったの、辛いって絶対食べなかったでしょうが!      ……そんで? どうなのよ。 0965幸 :……決めた。 0966ヨリ:ならよかった。 0967幸 :恋愛は人生の一端、なんだよね? 0968ヨリ:そうね、そんな話もしたわ。 0969幸 :切れ端程度の一端なら、一緒に持ってもらうのもいいのかもしれない、のかな、とは。      ……いいのかな、こんな、情けない決め方で、本当に。 0970ヨリ:ほら、決めたんなら情けない顔しないの!      それが良い方向なのか、そうじゃないのか。 決めるのは、これからのさっちゃんなんだから。 <2019年正月、徳島県。走行している車内。> 0971伶音:その、圧すごいっていうか、お姉さん。 0972凛久:まあ、バツイチで子供四人育ててるし……。 0973伶音:強い……。 0974凛久:何? 何か言われた? 0975伶音:実家に乗り込む根性があるんでしょ!? 先に本人落として出直して来なさいよ! って。 0976凛久:っふ。 0977伶音:笑った? 0978凛久:いや。 で? 0979伶音:じゃあ今夜落として来ますから! って。 0980凛久:お前も大概強いんだよなあ……。 0981伶音:そしたらお姉さん、カツ入れるようにおみいさん作ってあげるわね! って。 0982凛久:っふふ。 0983伶音:なんで笑うの。 なんか美味しい雑炊出てきたけど、アレおみいさん? 0984凛久:そう、あれ、あはは。 姉貴の得意料理。      俺、昔から結構食ったからさ。 腹減ったらとりあえずアレなの。 0985伶音:ああ、成程。 0986凛久:うん、まあ、そういう人なんだよ。      ……弟、俺がマリア亡くしてから、顔見せてくれなくてさ。 あそこ子供三人いるから。 0987伶音:会いたい? 0988凛久:そりゃあもう。 甥っ子も可愛いし。      来年からは来いって、連絡入れておくか。 0989伶音:それは、その時も私、徳島ついて来ていいって事ですか? 0990凛久:おう。 0991伶音:やったーー! 0992凛久:うるせ、おい、ちょっといい感じになったからって調子乗んなよ。 0993伶音:はーマジ、マジ緊張した。 ヨリさんに難攻不落って聞いてたから、 0994凛久:ヨリちゃん? 0995伶音:聞いてないです。 0996凛久:聞いてたって言ったよな、つか今更敬語に戻すな、白々しい。 0997伶音:もっとさ、ちゃんと順序立ててやる予定だったの私。 謎の協力者もいたし。 0998凛久:ヨリちゃんなんだな、ヨリちゃんなんだよな!? 0999伶音:色々予定外な事起こるからマジどうしようかと思ってた。 あーよかった! 1000凛久:……まあいいや、ヨリちゃんの事は後で聞きだそ。 1001伶音:止めて下さいほんとに。 1002凛久:そんで、あー、新居の事なんだけど。 1003伶音:は? 1004凛久:……え? 1005伶音:新、居……? 1006凛久:……流石にご実家入る度胸はねえし、俺今単身用に住んでるんだけど。 1007伶音:え、えっ、本当に付き合ってくれるんですか……? 1008凛久:そっから!? 1009伶音:私、ちゃんと返事聞いてないです。 1010凛久:あー、あー……。 1011伶音:で、その……同棲する、って事ですか……? 1012凛久:ごめん今の忘れてもらえる? 1013伶音:わー! 私、職場から三十分以内の所がいい! 1014凛久:もしもーし、お取込みの最中恐縮なんだけど、忘れてもらえるかなー? 1015伶音:デザイナーズ? キッチン広めな所? 日当たり良い所がいいな、角部屋で。 色々考えなくちゃー。 1016凛久:わーすれーてくーださーい! 1017伶音:忘れない! も、絶対忘れない! 同棲前提の返事だったとか、うわ、ニヤける! 普通に! 1018凛久:ニヤけてないでちゃんと運転しろ! 1019伶音:っていうかうら若い女の子にあんだけ盛大に告白させておいて!? 運転までさせておいて!?      返事すらしない男なんているんですか!? 1020凛久:二十七にもなってうら若いとか自称すんな! 1021伶音:おーへーんーじーはー! 1022凛久:もうわかった! それでいいから! 1023伶音:お! 1024凛久:……寝室は別! 1025伶音:絶対嫌ですけど!? 1026凛久:なんでだよ、つかお前いくら持ってんだよオラ、同棲するなら通帳見せるのが先だかんな!?      デザイナーズだキッチン広めだ、日当たり良好だ角部屋だ、金が掛かる事ばっか言いやがって。      俺もな、その、独身貴族してるつもりだったから少しは貯めてるけど。 アテにされるのは正直。 1027伶音:五百万。 1028凛久:……は? 1029伶音:五百万、ちゃんと貯金してますけど? 何だったら母に頼んで通帳の写メ送ってもらいましょうか? 1030凛久:……え、……は? あれっ、多くない? 思ってたより多い。 1031伶音:あの辺ならワンチャン、家賃十万払えばそこそこの場所住めたりしないかな……?      まあ、私賃貸の相場とかわからないんで! その辺りはリクさんに検討してもらって 1032凛久:待て待て待て待てや待てや! ちょ、ちょっと、都内帰ったら検討! わかったな!? 1033伶音:はーい、わかりました。 でもまずは。 1034凛久:何。 1035伶音:コンドウさんに仕事引き継ぐ話。 撤回してくるのが先ですよね? 1036凛久:……まあ。 1037伶音:で、明日。 ……東京帰る前に、もっかいマリアちゃんに挨拶したいです。 1038凛久:お父さんは私と結婚するんですよーって? マリアもどんな気分で聞いてるんだか。 1039伶音:お父さんは幸せになるよって、ちゃんと約束して来て下さい。 1040凛久:……。 1041伶音:……分骨、っていうのかな。 骨を少しだけ、新居に置いたりとか、できませんか。 1042凛久:……やろうと思えば、できるんじゃねえの。 1043伶音:うん、そうしましょう。      で、そのー……あの、ベタなのはわかってるけど。 水族館とか動物園とか、行きましょう。 1044凛久:……なんで。 1045伶音:いや、好奇心旺盛な子だったって言ったのリクさんじゃん。      好きじゃなかったですか? そういう所。 私子供の頃すごい好きだったけど。 1046凛久:好きだったけど、なあ、お前わざとやってる? 1047伶音:何が? 1048凛久:……何でもないけど。 1049伶音:あ、今度こそ泣いちゃいます? <助手席から頭を掴まれる> 痛っ! 1050凛久:お前、お前調子に乗りやがって! <運転席の伶音の頭を撫でつける> 1051伶音:運転してんだから、頭はやめてもらえます!?      もー! ほいつかまえた! ……ちょっと、ふざけたけど。      リクさんの子なら、私だって大事ですから。      お父さん寂しそうなのは、嫌かなって。 だったら見たい物見て、やりたい事やった方がいいです。 1052凛久:……おう。 1053伶音:うん。 私、今の玩具とか全然わかんないけど。      流行ってる玩具とかも用意して、マリアちゃんにも来てもらいましょう。 1054凛久:おう。 <2019年、クリスマス。幸、自宅。> 1055優凛:……なにこれ。 1056幸 :チキン。 すごいね、チキンが八個とケーキと、グラタンついてくるんだよ。 あとお皿もついてきた。 1057優凛:いや、違くて。 何この部屋、ファンシー。 1058幸 :え、クリスマスだから。 ウサギさんの風船と、あっちクマさん、ほら。 嫌? 1059優凛:……え、俺の為に? ウサギとクマ用意したの!? 1060幸 :うん、マリアが生きてた頃は、毎年こうしてたし。 それに私デザイナーなんだよ。      やっぱ嫌? こういうの。 ほら、ツリーすごいよ。      今ってこの木だけで、飾り付けしなくても、七色に光ったりするんだね! 1061優凛:ごめん、ラブホの風呂みたいだなって。 1062幸 :違う! サンタさんがこれ目印にしてくるの! 1063優凛:へー。 1064幸 :信じてない? まあいいや。 ほら、ちょっとこっちおいで。 <優凛の手を引く> 1065優凛:な、何。 1066幸 :これ、私からセタくんへ。 色々お世話になったから。 1067優凛:……何これ。 海外のアニメでしか見た事ない、こんなの。 1068幸 :でしょ。 ほんとは全部ブーツか靴下に入れたかったんだけど、予算オーバーしちゃうからこうしてみた。      この箱全部、セタくんの分だからね。 このツリーの辺り、全部。 開けていいよ。 1069優凛:え、え。 いくつあるのこれ。 いくら掛かったの。 1070幸 :気にしないの。 クリスマスプレゼント、もらってこなかったんでしょ?      小学校高学年って言ってたから、まあ、十歳からもらってないって仮定して。 十五個。 1071優凛:……。 1072幸 :一個一個はそんな高くないよ。 USBのメモリだとか、イヤホンとか。      そうだなぁ、全部で高いおつまみのセットと同じくらい。 1073優凛:……。 1074幸 :……嬉しくない? 1075優凛:……嬉しいけど。 え、何?      クリスマス家でやろうって、そこからびっくりしてたんだけど。 何企んでる? 1076幸 :信頼なさすぎじゃない? ……こう、色々鮮烈だったからさ。 私にとって、セタくんって。      今日は私がびっくりさせようと思って。 また、映画見ながら適当に寝ていいからね。 1077優凛:ここで? 1078幸 :空いてる部屋、前の旦那の部屋だから。 本当に何もないよ。      どこで寝るかはセタくんが決めて。 1079優凛:……じゃあ、ここにする。 1080幸 :わかった。 1081優凛:なん、かー……。 すごい拍子抜けした。 1082幸 :あはは。 突っ立ってないで、コート脱いでプレゼント開けなよ。      二人だけになっちゃったけど。 クリスマス会、しよう。 1083優凛:……うん。 1084幸 :それで、そっちは何? 大きいし、おつまみのセットって訳じゃなさそうだけど。 1085優凛:……これ、マリアちゃんに。 買ってきた。 <2019年、クリスマス。凛久と伶音の新居。> 1086ヨリ:……おー、おお……! 1087伶音:何なに? 1088ヨリ:新婚の家って感じ! 1089凛久:半年経てば新婚も何もねーって。      ワインでいい? クリスマスだし、ヨリちゃん泊まりにくるならって思って、ちょっと奮発した。 1090伶音:ほんっとマジで滅茶苦茶良いワインなんで、私にも一口下さいね。 1091ヨリ:はいはいはい。 いやー! ……普通に良い家で引くわ、出版社ってそんな儲かるの? 1092凛久:キッチンにいる小姑がうるさくてさ。 ならいっそ買うかーって。 1093伶音:ほーら! そろそろ食事ができますよー! 1094ヨリ:九階。 1095凛久:九階。 1096ヨリ:駅まで何分? 1097凛久:表参道まで徒歩十一分。 1098伶音:あ、あー。 そろそろデザートも冷えてるなー! 1099ヨリ:このぬくもりは? 1100凛久:床暖。 あ、浴室にミストサウナついてるから使って。 1101ヨリ:あのカウンターは? 1102凛久:天然石。 1103伶音:ほら! なんと、パエリアです! デザートにケーキもあるんで、 1104凛久:レオンちゃーん。 貯金がおいくらだって言ってたっけ? 1105伶音:ほんっとすいませんでした。 1106凛久:デザイナー? 日当たり? 何だっけ? んー? 1107伶音:生意気言ってすいませんっしたァ! 1108凛久:湯張ってワイン持ってきなァ! 1109伶音:はい! 1110ヨリ:成程、リクちゃんの財布から出てる訳だ。 1111凛久:生意気言ってた癖にな。 ……あの頃の保険金とか、色々。 1112ヨリ:そ。 有意義に使えてよかったわね。 1113凛久:頭金にぱあっと使ったよ。 レオンが目引ん剝いてたの、マジ面白かった。      ……なんか。 縮こまってた癖に、立地とか防犯とか、色々言い出して。      流石にこんな立派な所、住むつもりなかったよ俺。      すげーのな、何かあれば二十四時間警備員が駆け付けてくれるし、……あと、小学校が近い。 1114ヨリ:部屋、三つあるんだっけ。 1115凛久:おう。 1116ヨリ:……もー! もう! 何だかんだその気なんだからぁ! 1117凛久:まあ、まあ。 店、あんまり顔出さなくて悪いね。 1118ヨリ:いいのよそんなの! やだ、もー、パエリア! 美味しい! 私こんなの教えてない! 1119凛久:……一個だけ、気になってた事があるんだけど。 1120ヨリ:なあに? 1121凛久:いつも車出す時、絶対運転してくれるんだよ。 俺がやるって言ってるのに。 1122ヨリ:あら、イケメン。 1123凛久:ヨリちゃん、俺のパニック障害の話、した? 1124ヨリ:してない。 1125凛久:……んー、そっか。 1126ヨリ:本当よ。 リクちゃんの話聞きたかったら、料理習いにきなさいって。 私はそれしか言ってない。      結局アタシの手助けなんていらなかったみたいだけどね。 1127凛久:そんな事ない。 じゃあ、まあ、自発的にやってんのか、アレ。 1128ヨリ:そうよ。 アタシが世話焼かなくても、幸せにしてるみたいで本当によかった。 1129凛久:ヨリちゃんのお陰だよ。 シャワー貸してもらったり、着替え用意してくれてたり。 1130ヨリ:さっちゃんが焦って、リクちゃん引っ張ってきたりね。 1131凛久:……懐かしいな。 1132ヨリ:ね。 あの着替え、別の男の子が使ったわよ。 1133凛久:マジ? 1134ヨリ:マジ。 最近ね。 1135凛久:そうか、よかった。 あの人あんなに適当で絶対一人で生きられないよなって、      ……大丈夫なのかなー、って。 ちょっとだけ、引っ掛かってたんだ。 1136ヨリ:知ってる。 1137凛久:知ってたか。 1138ヨリ:今日辺り、やっとリクちゃんから巣立てるんじゃない。 1139凛久:巣立つ? 1140ヨリ:仙台行く予定、前倒しして伝えて。 逃げ込めないようにしてやったわよ。 1141凛久:あ、それでうちに泊めてって? そういう? 佳境? 1142ヨリ:そう! 1143凛久:おぉ、いいね、いいね! 1144伶音:何の話してるんですか? 1145凛久:ん? うーん……。 1146伶音:何? 1147凛久:デザイナーのさ、ヤハギサチって知ってる? 1148伶音:ああ、はい。 こないだ建築誌に取材で来てた。 1149凛久:あれ、 1150ヨリ:ねえねえねえ、レオンはそのヤハギさん、どう思う!? 同じ女として! 1151凛久:は!? 1152伶音:あー、綺麗な人ですよね。 賞取ったってニュースとか、雑誌の特集とか、チラっとしか知らないけど。 1153凛久:ヨリっ、ヨリちゃん! 1154伶音:何? 1155ヨリ:うんうんうん、美人よね。 まだ独身だなんて信じらんなーい! 1156伶音:え、そうなんですか? ふうん、意外。 モテそうなのに。 1157凛久:まっ、ヨリちゃん! ほんとに! 1158伶音:だから、何? どうしたの。 知り合い? 1159凛久:あっ、うん……むかーし、むかーしの……同級生トカダッタカナア……。 1160伶音:なんでそんな焦ってんの、何、元カノ? 別に妬かないから言ってよ。 1161ヨリ:ちょっとね、アタシ雑誌持ち歩いてるから、見ていいわよ。 1162凛久:なんで!? 1163ヨリ:店の常連が活躍してるんだもん、自慢したいじゃない。 1164伶音:え、常連! 会えたりするんですか!? 1165凛久:ヨリちゃん、ほんと、争いは何も生まない! 1166ヨリ:争ってないし、コキ使われててまあ、レオンも可哀想でしょ?      リクちゃんだって言い出そうとしてたじゃない。      ねー、レオン。 アンタ良い子だからね、いい事教えたげるわ、ちょっとゆっくり座りなさい。 1167伶音:はぁい! へええ、七福堂すごい、あんな有名人も来てるんですね。      旦那の知り合いって言えば、話せたりしますか? 1168ヨリ:勿論勿論! 1169凛久:……まあ確かに、レオンみたいな子好きだろうけどさあ……。 1170伶音:マジ! 1171ヨリ:大丈夫、ヨリちゃんに任せなさいな。 取り持ってあげる、ちゃーんと。 1172伶音:やった! 私ローンがほんと怖くて! ちょっとお話聞きたいんですよね! ​ <2019年、クリスマス。幸、自宅。> ​ 1173優凛:……あー……? 寝てた。 1174幸 :寝てたね。 1175優凛:今何時? 1176幸 :三時。 そのまま寝ていいよ。 1177優凛:映画……。 1178幸 :私一人で見ちゃった。 すごいねB級映画って、ちょっと舐めてた。      また、ああいうの見ようね。 1179優凛:洗い物してる? 1180幸 :ああ、いい、いい。 私片付けるから。 1181優凛:……ねー。 1182幸 :何? 1183優凛:この指輪、何? 1184幸 :ああ。 それ、サンタさんがセタくんへって置いて行ったから、勝手につけたよ。 あげる。 1185優凛:鍵、ついてる。 1186幸 :ここの鍵だって。 1187優凛:そっか。 そっかー。 1188幸 :よかったね。 良い子でいたから、サンタさん来たんだね。 1189優凛:ねえ、こっち来て、手貸して。 1190幸 :何なに? はい。 1191優凛:……お揃いだ……。 1192幸 :え、ちょっと、ねえ、泣かないでよ。 ダサいとか言って欲しかったんだけど。 1193優凛:ダサい。 ダサいしズルい。 今日の、全部ズルいし。 1194幸 :うん、ごめんね。 私多分ずっとズルいよ。 1195優凛:じゃあ謝るなよ。 開き直ってろよ。 1196幸 :それができないからこうしてるんだけど。 1197優凛:指輪小せえし。 1198幸 :サンタさん、セタくんの指のサイズ知らなかったみたい。 1199優凛:なのに、左の薬指なんだ。 1200幸 :……ちょっと毛布、入れて。 よく見せて。      うん、遠出するけど、直せるから。 今度一緒に行こうね。 1201優凛:今度? 1202幸 :今度。 1203優凛:嘘吐き。 1204幸 :はい? 1205優凛:俺の事、絶対幸せにできないとか嘘じゃん。 1206幸 :……えー。 1207優凛:幸せだよ、ちゃんと。 1208幸 :そっか。 ……なんだ。 泣くとちょっと顔が幼いっていうか。 1209優凛:お世辞いらないよ、セクハラ。 1210幸 :もうお付き合いしてるのに? 1211優凛:……。 1212幸 :……あー、また泣く。 1213優凛:だって、ちょっとだけ頑張ったんだよ。 1214幸 :うん、ありがとうね。 1215優凛:金の話とか、調べたから。 勉強したから。 1216幸 :うん。 1217優凛:アンタ相続税間違えて覚えてる所ある。 1218幸 :ほんと? じゃあ今度はセタくんが教えてね。 1219優凛:でも、二十年が埋まる訳ないって、わかってたから。 1220幸 :うん。 1221優凛:さっちゃんの家族、取り戻せる訳でもないって、わかってたから。 1222幸 :うん。 ありがとう。 でも投げ出さないでいてくれたんだよね、セタくんは。 1223優凛:苗字で呼ばれるの、好きじゃない。 1224幸 :……はい。 1225優凛:子供扱いされるのもやだ。 1226幸 :……善処します。 1227優凛:買ってきたぬいぐるみ、すぐああいう風に大事にしてるのも、ムカつく。 1228幸 :だって、セタくんがマリアに買ってきてくれたから、 1229優凛:苗字。 1230幸 :あーうん、わかった、わかった。 1231優凛:……写真、返さないと。 1232幸 :ああ、いいよ。 1233優凛:いいの? 1234幸 :うん。 持ってて、私の一端。 1235優凛:一端。 1236幸 :うん。 1237優凛:……ここ、来て、いいんだよね? 1238幸 :いつでもどうぞ。 1239優凛:じゃあ、そこ、テレビの所。 飾っていい? 1240幸 :……。 1241優凛:一緒に、いられるから。 さっちゃんだけの物にしないでくれたら、いい。 1242幸 :……指輪直す時に、額縁、買いに行こうね。 1243優凛:うん。 1244幸 :いつでも来ていいし、内装ダサいって思ったら変えていいからね。 1245優凛:デザイナーなんじゃないの。 1246幸 :んんん、そうなんだけどそうじゃなくて……。 1247優凛:じゃあ俺もあの寝室で寝る。 1248幸 :……そ、れは、どうなの。 あ、ベットもう一個買う? 1249優凛:駄目。 ここまでしといて、それは駄目。 1250幸 :……わかった。 じゃあ、今日からね。 一緒に寝ようね。 1251優凛:え、今日? 1252幸 :何よ。 あ、照れた? すけべ。 1253優凛:そういうのじゃない! 1254幸 :そう? まあ、私は何でもいいから。      あ、あとそうだ、お父さんとお姉さんにご挨拶をね、 1255優凛:いいよ、気にしないで。 マレーシアで楽しくやってると思うから、こっち帰った時で。 1256幸 :そういう訳にはいかないでしょう。 1257優凛:……まあ、父さんより年上の彼女だからびっくりさせるかもしんないけど。 1258幸 :え。 はい? あれ? 1259優凛:父さん、四十四歳だから。 ヨリちゃんは嘘、すぐ見破ったよ。 1260幸 :あの、マレーシアへ国際電話っていくら掛かるの、 1261優凛:いいから。 ……信じてくんないの。 1262幸 :……せめてお姉さんには、挨拶させてね。 1263優凛:わかった。 1264幸 :……えーっと。 なんか、ダラダラしちゃったけど、ちゃんとなんか言った方がいい? 1265優凛:いい、いらない。 ちゃんとわかったから。 泣いてごめん。 1266幸 :いや、思いの外締まらないなあって、思ってただけだから。 カッコ悪いね……。 1267優凛:俺の事、好きでいてくれたら、それでいい。 1268幸 :ほんと? 1269優凛:うん。 1270幸 :ユウリくんは、それで幸せ? 1271優凛:うん。 すごく。 1272幸 :私の事飽きたとか、言わないでね。 ずうっと。 1273優凛:言わないよ。 きっとずっと、大好きなままだよ。 ​ <2019年、クリスマス。凛久と伶音の新居。> ​ 1274ヨリ:クリスマスのキャロル、ってね。 向こうじゃ子供が町の家々回って、歌うんですって。      いいわよね。 子供が幸せ配りまわるのって。 1275凛久:聖歌隊ってヤツ? 1276ヨリ:まあ、そんな感じ? 本当はダンスソングで、教会より酒場で歌われてたのが発端だって。 1277凛久:なんだそれ。 1278ヨリ:あらまあ、可愛い。 1279凛久:ん? ……ああ、やっと気付きました? 1280ヨリ:前のは? 1281凛久:ここ。 1282ヨリ:まあ、ネックレス。 似合ってるじゃない。 1283凛久:胸元にあれば、忘れないでしょって。 1284ヨリ:嫁が。 1285凛久:嫁が。 1286ヨリ:良い子、見つけたじゃない。 シメの雑炊まで全部美味しかったわ。 1287凛久:でしょ? あれ、うちの姉貴直伝だから。 1288ヨリ:あら、いいわね。 アタシも教えてもらお。 1289凛久:にしても前の嫁さんの話聞いて、あんなにグダグダに泣くとは思わなかったけどな。 1290ヨリ:まあまあ、アレも愛よ、愛。 1291凛久:……レオンと会わせる時。 あっちが嫌がらなかったら、俺も会わせてよ。 1292ヨリ:あら、アタシから誘おうと思ってたのに。 1293凛久:キャロルって、子供が歌うんでしょ。 マリア、そっちにも来た? って、聞かなきゃ。 1294ヨリ:そうね。 その可愛い指輪、ちゃんとつけて来なさいよ。 2019.12.5 初版 羽白深夜子 2019.12.9 更新 羽白深夜子 2019.12.11 更新 羽白深夜子 2019.12.13 更新 羽白深夜子 2020.1.10 修正 羽白深夜子 2021.11.21 性転換版作成 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 サイトへ戻る