最終更新:2024/5/1
利用規約
をご一読下さい。
★
してはいけない事→脚本のコピー&ペースト/ページURL以外の配布/アーカイブ等の7日以上の公開
告知や配信画面の為に画像や動画を作らず、使わなければ、お金を支払う必要はありません。
アーカイブ等の7日以上の公開は、有償版の購入と別途申請が必要です。
わからない事がありましたら羽白深夜子までご連絡下さい。
サイト掲載版を使う方は
使用申請フォーム
からご申請下さい。
【星の夜の金魚】 (ほしのよるのきんぎょ) 男性2、女性2。 グランピングしながら十年ぶりに駄弁るだけのお話です。 有償版販売ページは
こちら
。 【飛鳥 慎太郎(あすかしんたろう)】 28歳男性、バイヤー。 【市原 野々(いちはらのの)】 28歳女性、OL。 【君島 礼香(きみしまれいか)】 28歳女性、パート勤務。 【花本 豪(はなもとごう)】 28歳男性、生物学者。 【配役表】 飛鳥慎太郎: 市原野々 : 君島礼香 : 花本豪 : ======================================= 0001豪 :──金魚を、飼っていた時期がある。 小学生の頃だ。 よくある夏祭りの出店で手に入れた三匹を、最初は可愛がっていた記憶がある。 小学生男子というものは無邪気で現金で、残酷で。 当時の俺も例に漏れず、命の何たるかを知らずにいた所為で。 玄関の脇に置かれた水槽で生きる彼らに、餌を与えるのが母の習慣になるまで、十日と掛からなかった。 ふと。 そのうちの一匹が、いつの間にかいなくなっている事に気付いて。 母に八つ当たりをして、しこたま泣いてから漸く、母が指差したソイツの墓にアイスの棒を立てた。 <スーパー、生鮮食品売り場。> 0002礼香 :ふうん。 ゴウくんっぽくないね。 0003豪 :反省したからね。 0004礼香 :そうじゃなくて。 0005豪 :ん? 0006礼香 :ああ、死んだんだ。 とか言い出しても驚かないよ。 0007豪 :嘘、俺そんなキャラだったっけ。 0008礼香 :淡々としてるっていうか。 あるがまま受け入れます感? 死んだんだ、は言わないか。 菩薩スマイル浮かべてる。 0009豪 :マジかー。 0010礼香 :それで大事な所でちゃんと我が強い、みたいな。 ちゃんと癇癪起こす子だったんだ。 0011豪 :あの金魚はそのくらいショックだったんだと思う。 だから今、この仕事。 0012礼香 :あーね。 豚と牛、どっちが好き? 0013豪 :カレーだっけ。 0014礼香 :そう。 0015豪 :えー……牛寄りかな、俺は。 0016礼香 :ご両親、関西の人? 0017豪 :えっ? 0018礼香 :関西の人ってカレーは牛や! みたいな、ない? 0019豪 :<笑う> そうなの? 今の関西弁? 0020礼香 :うん。 0021豪 :普通にポークカレーってあるでしょ。 0022礼香 :えー。 関西の人ってカレーに豚肉入れないと思ってるからさ。 牛以外はシチュー、みたいな。 0023豪 :うちは違ったよ。 あ、シンが生まれは関西だ、確か。 0024礼香 :そうなの? <遠目に> ねー、シンー。 カレーの肉どうするー。 0025慎太郎:<遠目に> 何でもー。 0026礼香 :うわ、マジか。 騙された。 0027豪 :騙された? 0028礼香 :前関西の人が、カレーは牛、他はありえないって言ってて。 0029豪 :あー。 0030礼香 :あの人が変わってたんだ。 勉強になったわ。 ふふ、面白いよね、食文化ってね。 0031豪 :<笑う> そうだね。 0032礼香 :そんで? 0033豪 :ん? 0034礼香 :いや、金魚の話の続き。 0035豪 :あぁ。 だから今研究所に勤めてるんだよって。 そこで終わり。 0036礼香 :おぉー。 そっか、そっか。 0037豪 :ありきたりだったかな。 0038礼香 :そんな事ないよ。 研究所に勤めてる人って、人生で初めて会ったから。 何を聞いたら失礼とかわかんないけど。 でもほら、一泊二日ある訳で。 0039豪 :訳で? 0040礼香 :だから、話の取っ掛かりができたなって思って。 0041豪 :ならよかった。 0042礼香 :<笑う>なんかねー。 卒業して十年も経つと、知らない人みたいで。 0043豪 :あー、そう、だね。 0044礼香 :あの頃は毎日何かしら、話してたのにね。 0045豪 :ちょっとビビった、キミシマさん、肉売り場に来て唐突だったから、話題。 俺死んだ肉眺めながら何を話してるんだろうって。 0046礼香 :<笑う> 死んだ肉。 ウケる。 0047豪 :死んだ肉眺めながら死んだ金魚の話、してたんだよ。 0048礼香 :ごめん。 そういえば研究所に勤めてんだよなって思って、気になっちゃって。 口から出ちゃった。 0049豪 :いい、いい、取っ掛かりだから。 0050礼香 :てかシンはいつまでお菓子悩んでるんだろう。 0051豪 :<遠目に> シン。 まだー? 0052慎太郎:<遠目に> うすしおとコンソメでさぁ、 0053礼香 :<遮る> 両方でいいから。 早く持って来なさい。 0054慎太郎:<遠目に> マジかやった! もうちょい待って! 0055礼香 :子供か。 0056豪 :……お母さんっぽい。 0057礼香 :ん? まあね。 おばさん臭い? 0058豪 :いや。 買い物も手慣れてるし。 0059礼香 :そう? しないの、買い物。 0060豪 :いつも社食かコンビニで……。 子供男の子だっけ。 0061礼香 :男と女、一人ずつ。 0062豪 :今日はどうしてるの。 0063礼香 :実家に預けてる。 おじいちゃん家大好きで、テンションすごくて。 0064豪 :今いくつ? 0065礼香 :息子が八歳で、娘が六歳。 写真見る? 0066豪 :うん。 0067礼香 :ほら。 0068豪 :え、 <笑う> 息子すげー似てる。 0069礼香 :でしょ。 嫌になるよ、小学生になった途端生意気で。 でもまあじいじとばあばがいて、タブレットがあれば良い子にしてくれるから。 他所より手は掛かってないかも、……どした? 0070豪 :……指、あかぎれ。 0071礼香 :ああ、うん。 やだな。 パート先が花屋で水仕事だから、どうしても。 0072豪 :痛くないの。 0073礼香 :<苦笑する> 万年こうなの。 皮膚科行ってるんだけど中々ね。 0074豪 :手袋とか使わないの。 0075礼香 :手袋? 0076豪 :水仕事する時。 0077礼香 :使った事ないな。 0078豪 :じゃあ、 0079慎太郎:悪い悪い悪い! なあ、チョコとか食う? 得用持って来たけど! 0080礼香 :はいはい食べる食べる。 もーそんなに抱えて、食べ切れる? 0081慎太郎:なんで、酒飲まねえの? 俺食べながらじゃないと飲めないからさ。 0082礼香 :あーね。 0083豪 :食べ切れなかったら持って帰ればいいよ。 イチハラさんはまだ掛かるかな、百均。 0084礼香 :ラインきてたわ。 ちょっと行ってくる。 ココ会計任せていい? 後で割ろう、レシートもらっておいてね。 0085豪 :うん。 キミシマさん酒は? 何飲む? 0086礼香 :レイカでいいって。 適当にビール、買っといて。 0087慎太郎:瓶でいいー? 0088礼香 :いい、いい。 ビールならなんでもー。 0089慎太郎:おー。 <礼香、立ち去る。> 0090慎太郎:……思ってたより、元気そうだな。 0091豪 :離婚、半年だっけ。 0092慎太郎:五ヵ月前? だったかな、うん、多分そんくらい。 お前告んないの。 0093豪 :告んないよ。 0094慎太郎:なんで、好きだったじゃん。 だからお前呼んだんだけど。 0095豪 :だと思った……。 いや、離婚五ヵ月は卑怯だろ。 0096慎太郎:そんな事ないと思うけど。 なんか、 0097豪 :なんか、何。 0098慎太郎:や、……旦那の暴力で別れたって聞いたから。 0099豪 :マジ? 0100慎太郎:あ。 こういうのあんまよくないか。 0101豪 :まあ。 0102慎太郎:いうてただの噂だし、ゴウならって思ってるし……。 今回だって、ダメ元で声掛けたらお前来るしさ、 0103豪 :お前人の事より自分の事な。 0104慎太郎:お前こそ人の事より自分の事な。 0105豪 :いやもうお前、お前さあ。 五組の連中が何年、お前とイチハラさんからの招待状待ってると思ってんの。 0106慎太郎:ひぃー余計なお世話。 0107豪 :いやシンお前さぁ、 0108慎太郎:<吹き出す> ふへっ。 0109豪 :何だよ。 0110慎太郎:いや、変わんなー。 やだやだ、口うるせえの。 0111豪 :あ? 0112慎太郎:お前さぁってのと、シンお前さぁ、って。 ずっと言ってんの。 ほら、卒業式の後のカラオケ。 店出禁になるからもうちょいどうにかしろってずっとうるせえの。 0113豪 :兄貴の友達があのカラオケ出禁になってたから、 0114慎太郎:変わんね、言ってる事。 十年経ってる癖に。 0115豪 :悪うございました。 いつも俺が悪者だよ。 0116慎太郎:悪物になんてしてねえだろ。 学者さんねえ、相変わらずキッチリしてるわ。 うん、学級委員長してました感ある。 学級委員長ハイブランド版。 0117豪 :そうすか。 そういやお前、今何してんの。 0118慎太郎:バイヤー。 0119豪 :は、 0120慎太郎:ん? 0121豪 :バイヤー? 0122慎太郎:バイヤー。 仕入れのね。 0123豪 :いや、そりゃわかるんだけど。 え、何の? 0124慎太郎:アパレル。 後で名刺やるわ、……何その顔。 <キャンプ施設、炊事場。> 0125野乃 :え。 バイヤー? 0126豪 :<吹き出す> 同じ事言ってる。 0127礼香 :すっご! 何売ってんの!? 0128慎太郎:みんなして何その反応! 怪しい仕事じゃねーけど!? 0129礼香 :そりゃわかってんだよ! ノノ、ピーラー取って。 0130野乃 :はい。 0131豪 :これコレ、シンの店だって。 0132野乃 :あぁ、ネットショップ。 すごーい。 0133慎太郎:ノノは全然変わんねーなぁ。 その歩き方直らねえの? 0134野乃 :あれ。 まだ変? 0135慎太郎:昔より変。 なんか、フラフラしてひょこひょこしてる。 ゼンマイで動くこういう玩具あったよな。 0136野乃 :ソレ可愛いじゃん。 0137慎太郎:自分で言う? 0138野乃 :<笑う> もうご飯炊いちゃっていい? 0139礼香 :うん。 えーセンス良! レディースやってる? 0140慎太郎:やってるよ、なんでみんなバイヤーだって言うと一旦キョトンとすんの。 0141豪 :昔っから洒落てんなーとは思ってたけど。 仕事にしてるのはビビるだろ、普通に。 0142礼香 :ねえー子供服、子供服やってないの。 入れてよ、買うから。 0143慎太郎:考えるわ。 0144野乃 :すごいなぁ、お洒落だねえ。 0145慎太郎:独立してまだ三年くらいだから、今もバタバタよ。 休みは好きに取れるんだけどさ。 0146野乃 :じゃあ元々は、そういうアパレル? ブランドのお店にいたの? 0147慎太郎:うん。 店舗マネージャーから、バイヤー。 0148豪 :それって出世ルート? みたいな? 0149慎太郎:まあ、一応……。 0150豪 :ほー。 0151野乃 :買い付け? っていうのかな、海外行ったりするの? 0152慎太郎:するんじゃね? 0153野乃 :してないの? 0154慎太郎:今はまだ、コロナでちょっと。 だからツテで辿って安物のボロ布掴んで、とかある。 0155野乃 :あぁー実物見れないから。 0156慎太郎:そう。 てか、俺ら何かしよか。 喋りながら見てるだけって結構罪悪感ある。 0157礼香 :いい、いい。 明日のバーベキューは全部、ガチで全部任せるから。 0158慎太郎:あっ手前。 そういう。 0159礼香 :馬鹿め、今更気付いたか。 私もノノも、この野菜切り終わったらやる事大体終わりなんですよ。 0160豪 :てかさ、メシ作るのはココで、食べるのは? あのテントの中で食っていいんだよね? 0161野乃 :むしろご飲食はテントの中で、って。 あっちの、バーベキューできる所以外では。 アスカくんとハナモトくんが荷物置いてる方が大きいから、そっちで食べよう。 0162豪 :おおー、成程な。 0163慎太郎:俺とゴウで火起こして、肉焼いて、後片付けしてって事? 0164礼香 :そういう事。 今日は私とノノでカレー作って後片付けまでするから。 0165慎太郎:は? そっちカレーじゃん、カレーとバーベキュー? 作業量の差エグいんだけど。 0166礼香 :やるって言った人キミだから。 0167慎太郎:やられた、完全にやられた。 0168礼香 :それでいいってラインきた時私ガッツポーズしたからね。 スペアリブしてくれるんでしょ。 楽しみにしてる。 0169慎太郎:くっそ……。 0170豪 :俺料理マジでからっきしだから。 ご指導頼むわー。 0171慎太郎:くっそ……! 0172野乃 :アスカくん、これ、ご飯炊くのどうしたらいいか教えて。 明日何か手伝うから。 0173慎太郎:お! いいぜえ。 ほらぁ見ろお前ら、協力、協力! 0174野乃 :いやぁごめん、わかんなくて。 土鍋でご飯炊く、みたいな感覚でいいの? 0175慎太郎:そうそう。 ……フラフラふらふらしてんなぁ。 俺持つわ。 0176野乃 :あ、ありがとー。 0177慎太郎:まあ水入れて吸水させないとなんだけど── 0178礼香 :<小声> アスカくん。 0179豪 :<小声> イチハラ。 <礼香と豪、顔を見合わせてから首を振る。> 0180豪 :高校生かよ。 0181礼香 :春はまだ遠いか。 0182豪 :時が止まってる。 0183礼香 :今日明日でどうにかなるかね。 0184豪 :無理な気がしてきた。 0185慎太郎:よからぬ事を言われてる気がする! 0186礼香 :いやいやいや、ダッチオーブンまで持っててすごいねーって。 0187豪 :何だっけ、ソロキャン? してるんだっけ、って話をね。 0188慎太郎:してなかったんだろうなあ! 0189豪 :<笑う> 思ってたより本格的に色々持ってたから、驚きはしたよ。 0190礼香 :ソロキャン勢からしたらさ、こういうグランピングってどうなの。 邪道って思っちゃったりしない? 0191慎太郎:え、別に。 いいじゃんこういうのも。 あのドームテントすごい洒落てるし、最低限でも用意してもらえるのは楽だし、 <食器の割れる音。> 0192礼香 :えっ。 0193野乃 :……あぁー、やっちゃった、ごめん。 0194礼香 :ちょっとやだ、大丈夫? 0195豪 :転んだ? 怪我してない? 0196慎太郎:あぁあ、お前危ない、そこ皿の破片あるから、手。 怪我ー……してなさそうだな。 0197野乃 :ありがと。 0198慎太郎:気を付けろよ。 相変わらずトロいなぁ。 トロいし、ピシッと歩かねえからコケるんだよ。 0199礼香 :眩暈? 0200野乃 :ちょっと……コレ、食器レンタルだよね? 0201豪 :連絡入れてくる。 0202礼香 :顔色悪くない? 歩けそう? 0203野乃 :厳しいかも。 私の荷物の横に杖、あるから。 取ってもらえない? 0204慎太郎:……杖ぇ? 0205野乃 :うん、すぐわかると思う。 0206慎太郎:あ、じゃあ、俺取ってくるわ。 0207野乃 :あはは、ありがとー。 0208慎太郎:おー。 俺の婆ちゃんもこんなに手ぇ掛からなかったぞー。 0209野乃 :ごめんねー、マジで。 <ドームテント内。> 0210豪 :<ノック> イチハラさん、入って平気? 0211野乃 :うん。 ……あぁー、ありがとう。 ごめんね。 0212豪 :あっちと内装あんまり変わらないんだ。 ココアだって、飲めそう? 0213野乃 :ありがとう。 マシュマロ入ってる、やったぁ。 0214豪 :レイカさんが、イチハラさんは甘いの好きだから持って行ってって。 寝てなくて平気? 0215野乃 :うん、隣座って。 ハナモトくんは、そっちは? 0216豪 :俺、甘いのダメだからコーヒー。 カレーの続き手伝おうかって言ったんだけど。 使い物にならなくて逃げて来たんだ。 0217野乃 :そうなの? 0218豪 :タマネギじゃなくて指切りそうになって、もう包丁触るなってシンに。 0219野乃 :意外、何でもできそうなのに。 0220豪 :本当に調理実習でしかした事なくて、料理って。 タマネギって、皮剥いた後も滑るんだな……。 0221野乃 :<笑う> 0222豪 :話し相手俺でいい? 0223野乃 :いいよ。 0224豪 :体調が悪い、とかじゃないんだね。 0225野乃 :うん。 持病みたいな、ほら。 私マラソン大会とか出てなかったでしょう。 0226豪 :体育も休んでたよね? その頃から? 0227野乃 :よく覚えてるね。 0228豪 :授業の出欠取るの、学級委員だったから。 0229野乃 :そうだった。 ハナモトくんは今、何してるの? 0230豪 :俺? はー……一応、研究所で働いてる。 0231野乃 :なんの? 0232豪 :生物学者ってくくり。 0233野乃 :学者? マジで? 何か頭良い仕事してるとは聞いてたけど。 0234豪 :頭良い仕事って。 まだペーペーだよ。 0235野乃 :でも学者……えぇえ、すごいね。 0236豪 :そうかな。 イチハラさんは? 0237野乃 :普通にOLしてるよ。 そっかぁ、みんなすごいね。 レイちゃんはお母さんだし、アスカくんはバイヤーだし、ハナモトくんは学者で、……そっかぁ。 0238豪 :レイカさんとかシンとか、よく連絡取ってるの。 0239野乃 :女子はラインに色々グループあるから。 ハナモトくんもライン、教えてもらっていい? 0240豪 :俺? いいよ、てか下の名前でいいよ。 0241野乃 :じゃあ私もノノでいいよ。 今度ね、卒業して十年のクラス会がしたくて。 0242豪 :マジか。 それって俺が幹事やった方がよかったりする? 0243野乃 :私やるよ。 幹事好きなんだ。 0244豪 :ほんと? じゃあお言葉に甘えていい? 0245野乃 :うん。 0246豪 :ありがと、助かる。 0247野乃 :私がみんな、会いたいし。 色々改めてお礼言いたい事もあるから。 0248豪 :ノノさんが? 0249野乃 :さん、いらないよ。 0250豪 :わかった。 なんで、こうー……言うのもアレだけど、 0251野乃 :陰キャ寄りだった? よね? 私。 0252豪 :そこまでは言わないけど、まあ、大人しい方の人だったよね? 席で本読んでる感じの。 レイカさんと仲良いのも俺、知らなかったよ。 0253野乃 :女子はみんなあの頃からずっと仲良いよ。 今もたまに、何人かで集まってるし。 0254豪 :そうだったんだ。 後はー……シンがよく一方的に絡んでる、みたいな。 0255野乃 :一方的じゃなかったよ。 春、席が前後だったから、たまたま。 0256豪 :そっか。 なんか面白い面子だなぁ、って誘われた時に思って。 ノノが言い出した? って俺聞いてるけど。 そうなの? 0257野乃 :私とレイちゃんが言い出しっぺ。 ほら、レイちゃん、こっち帰ってきたから。 0258豪 :あぁ。 0259野乃 :気晴らしに何かーって二人でインスタ見てて、肉焼いて星見よって。 グランピングにしてー、レイちゃんが男子、アスカくん呼ぼうーって連絡取ってくれて。 0260豪 :ほー、ほー。 成程な、そういう経緯だったんだ。 0261野乃 :なんか言いたそう。 0262豪 :や、ちゃんと数合わせだったんだって、思って。 0263野乃 :そんな事ない、もうちょっと声掛けてたんだけどみんなやっぱ連休とかじゃないから 0264豪 :<笑う> いやいやいや、数合わせの方が気が楽だってだけで。 面白いな、そっか、大人になって恋愛沙汰をどうにかしようってこうなるんだな。 0265野乃 :何、恋愛沙汰をどうにか、って。 0266豪 :リアリティーショー、恋リアって言うんだっけ、今は。 台本無い中で恋愛しますみたいな番組あったじゃん、前。 あんな感じで白々しかったら、ちょっと嫌だなーって思って来たから。 0267野乃 :……。 0268豪 :みんなそんな感じじゃなくて安心してた。 0269野乃 :ああいうのってちゃんと台本あったと思うよ。 0270豪 :まあまあ。 仕事何してる、とかさ。 ちゃんと十年で変わってるけど、ほぼ絡みなかった感じ。 0271野乃 :ねえ、レイちゃんから何か言われてる? 言われてるよね? 0272豪 :何も? ああでもシンには、お前とイチハラさんからの招待状、 あの時のクラス全員が待ってるぞーとは言ったけど。 俺がね。 0273野乃 :もー! 0274豪 :<笑う> 俺好きだよー、そういう恋バナ。 グランピング、こういう非日常で縮まる距離? に居合わせる片隅のモブ。 あ、自分で言って思ったけどソレいいな。 特等席じゃん。 0275野乃 :そんなんじゃない! そんなんじゃないよ! 0276豪 :まぁまぁそう恥ずかしがらずに。 0277野乃 :普通に恥ずかしいでしょコレ! 0278豪 :どうなの、ぶっちゃけ。 シンはノノのイジり方変わってないけど。 アレはアリなの? 0279野乃 :……別に。 0280豪 :アリなんだ。 本人達がアリならいいのか、お節介しちゃったな。 0281野乃 :何? 0282豪 :シンお前さぁ、女子に変なイジりすんなよーって、俺ずっと言ってて。 ちょっといい感じのモブじゃない? 我ながら。 十年経ってもこうして呼んでくれるし、これはもう成就を見届けないとなって。 結構楽しみにして来たんだけど、今日。 0283野乃 :……もー! 0284豪 :<笑う> はぁ、そっかそっか。 0285野乃 :え、なに? あの頃からそんなに色々言ってたの? 男子みんな? 0286豪 :アレは言うでしょ。 当時多感な男子高校生ですよ。 俺の周り、あー、トミナガとかカイとか、覚えてる? 0287野乃 :覚えてる覚えてる。 頭良いグループの男子、懐かしー。 0288豪 :そんな事なかったけど。 あとーハヤシとハセと、シンでよくカラオケ行ってて。 0289野乃 :うんうんうん。 0290豪 :そん時に、どーなん? みたいな話はしてた。 女子はみんな何も言わなかった? 0291野乃 :……言ってたけど。 0292豪 :じゃあ、あの頃告っちゃえばよかったのに。 みんな応援してたよ。 0293野乃 :すごい簡単に言うね。 0294豪 :他人事だからね。 0295野乃 :それ、それさぁ。 アスカくんは嫌がらなかったの? 0296豪 :聞いちゃう? 0297野乃 :聞かない。 0298豪 :聞いときなよ。 傑作だから。 0299野乃 :聞かない! 0300豪 :<笑う> <炊事場。> 0301慎太郎:なあ。 あの、ノノが持ってた杖、ってさ。 0302礼香 :んー? 0303慎太郎:……アイツ、どっか悪いの。 0304礼香 :<苦笑する> そうだよー。 0305慎太郎:でも白い杖じゃなかった。 0306礼香 :白杖(はくじょう)は、視覚障害の方が持つ杖だからね。 ノノとは違うよ。 0307慎太郎:それは、その、なに。 高校の頃から? 0308礼香 :……、ごめん、私から話していい事なのか私もわかってない。 0309慎太郎:あ、だよな。 ごめん変な事聞いて。 0310礼香 :いや、あー……。 昔から自分で話してたり、してるから……どうなんだろうなぁ。 0311慎太郎:いやいやいや、無理には聞かない! ちゃんと自分で聞く! 0312礼香 :……体悪くても、私達と同じ様に生活してるよ。 体育とかできないだけで、他はなにも私達と変わらないよ、高校の頃から。 会社から通勤気を付けてとか言われては、いるみたいなんだけど。 今日はいつもと環境が違うから、ちょっと疲れたのかもね。 0313慎太郎:……。 0314礼香 :なに? どしたの。 0315慎太郎:や、そんなん知らなかったから。 ちょっと……。 0316礼香 :ちょっと、何。 0317慎太郎:……んんん。 0318礼香 :ぶっちゃけさー。 くっつく気あんの、あるから今モニョってんだよね? 0319慎太郎:まあ、……おん……。 0320礼香 :はっきり返事してくんない? 0321慎太郎:しょーじき今日その気で来たけど! 0322礼香 :じゃあいいや、ぶっちゃけちゃうけどさ。 コレお節介だからノノには黙っててよ。 ほんとまどろっこしい、アンタら。 なんで十年も掛かるかなあ。 0323慎太郎:おぉ……。 0324礼香 :何その変な顔。 もーさ、五組女子全員の願望なの、ノノとアンタが付き合うの。 宿泊研修から修学旅行から全部全部全部! 女子全員でお膳立てしてさあ! 0325慎太郎:マジか。 0326礼香 :二年になってからずっと同じ班になってるでしょ、校外学習。 0327慎太郎:……ほんとだ! マジか! 0328礼香 :マジかって、っかーコイツ……。 当時はそりゃまあ、いうて子供だから面白がってたフシはあるけど。 オモチャにはしないようにね、ってみんなで約束してたんだよ。 なのにアンタは二十八になっても小学生みたいなイジり方してるし! 0329慎太郎:……。 0330礼香 :それでバツが悪くて今私に話してんでしょ! 0331慎太郎:まあ……。 0332礼香 :ハッキリ返事しな! 0333慎太郎:うぅ、 0334礼香 :うちの長男でも、もっとハッキリ物言うけど。 八歳だよ、八歳。 てかウチの子紳士だから、好きな子イジったりしませんけど。 0335慎太郎:マ? 0336礼香 :マジ。 男の子同士ならまあ、取っ組み合いとかね? ちょっとぐらいならいいけど。 それでも親同士は必死で頭下げてんだからさぁ。 もし他所のお嬢さんに変な事したら泣いても家入れない。 感情論で許せん。 0337慎太郎:そこまで言う? 0338礼香 :当たり前でしょ! もー……。 平衡(へいこう)機能がよくないんだって。 0339慎太郎:えっ、言っていいの。 0340礼香 :ノノが言ってるのとまるきり同じ事、言うから。 0341慎太郎:わかった。 えっと、ヘイコウって何? 0342礼香 :ええとー……真っ直ぐ立つとか、そういうの。 0343慎太郎:立つのも? 歩くだけじゃなくて? 0344礼香 :うん。 乗り物の運転は諦めてる、仕事も職種によっちゃ企業側の配慮がいる、らしい。 でもあの子の仕事事務だから。 住んでるのも職場近いし。 0345慎太郎:一人暮らし? 0346礼香 :一人暮らし。 たまに家族が様子見に来るって。 0347慎太郎:じゃあ命が危ないとか、今すぐ手術する程悪いとかじゃないんだ。 0348礼香 :今すぐ手術、って? 0349慎太郎:や、俺さ。 そういう体の不調、鼻炎しかないからわかんなくて。 0350礼香 :ふはっ。 0351慎太郎:何、何の笑いなのソレ。 0352礼香 :馬鹿だねえ、鼻炎も大病だっつの。 まあ、母親からしてみればって言葉はくっつくけど。 0353慎太郎:そう? 0354礼香 :当然。 治療見てるとなんで健康に産めなかったんだろうってちょっと思うよ。 うちの娘が鼻炎でレーザー治療してるんだけど、代われるモンなら代わりたいよ、私。 0355慎太郎:……なんか。 レイ、母ちゃんやってんな。 0356礼香 :やってるよ。 0357慎太郎:あの頃はクラス一クールなお姉さんだと思ってた、俺。 0358礼香 :あはは! 0359慎太郎:高校時代、二年も同じ教室に押し込められてたのに。 何も知らねえな。 0360礼香 :十年経ってるからね。 そういうモンなんじゃない。 悪いねぇ、クールなお姉さんが所帶染みちゃってさぁ。 0361慎太郎:あのさぁ。 コレ俺が失礼だったら、はっきり失礼だって言って欲しいんだけど。 0362礼香 :ん? 0363慎太郎:代わってやりたいくらい大事だから、離婚した? 0364礼香 :直球だねぇ。 0365慎太郎:俺の親、離婚してて。 母親が昔アパレルで働いてて。 だからー……みたいなのあるし、正直。 俺は、母親にはなれないから一生わからないし。 0366礼香 :それは自分でお母さんに聞きなよ。 お母さんとは私、世代も何もかも違うんだからさぁ。 生活も育て方も何もかも違うでしょうよ。 0367慎太郎:まぁそうなんだけど。 0368礼香 :シンあんた、ほんとに十年経ってる? 言ってる事いちいちガキくせぇ。 十年前のシンがここにいるんじゃないよね? 二十八だよね? 0369慎太郎:おおお一番気にしてる事を、お前……! 0370礼香 :<笑う> いーじゃんいーじゃん。 シンだなぁ、って思ってるよ。 ゴウくんが結構変わってて驚いたから、ちょっと安心した。 0371慎太郎:……そうかぁ? 0372礼香 :うん。 なんかいいよ、若い頃に戻ったみたい。 気分が若返るだけで、あの頃の事、覚えてる事の方が少ないけどね。 0373慎太郎:いいのかよ。 こう、……自分でもわかってるよ、学生の頃から変わってないの。 前の職場ですげー可愛がってもらったんだけど、 ベンチャーだったし少数精鋭でテンションとノリ重視だったからさぁ。 0374礼香 :うん、うん。 いい会社だったんだねえ。 0375慎太郎:そう。 そんまま独立したから、色んな事が、最低限大人になりました! って感じで。 まあ二十八なんてこんなモンだろって思って今日駅来たら、まずノノの雰囲気がさ、 アラサーのOLです自立してます感バリバリじゃん。 俺その段階では、おっ! てちょっとテンション上がってたのよ。 0376礼香 :うん。 0377慎太郎:で、ゴウはまあ、学者だって聞いてたから、 アレから学者に進化したらこんな感じかなー……がそのまんま歩いて来てさぁ。 0378礼香 :進化て。 0379慎太郎:腕時計カルティエだし、何あのシャツ、スラックス、靴! 爽やかの擬人化! 0380礼香 :擬人化……はー、わかるな。 0381慎太郎:極めつけがレイ、お前だよ! 若い頃の母ちゃん歩いて来たかと思った! 0382礼香 :<手を叩いて笑う> 0383慎太郎:このブルゾンミュウミュウだろ、お前良いの着てんなぁ……! 0384礼香 :バイヤーやば、見てわかんのすごくない!? 0385慎太郎:だってコレ新作じゃん! 0386礼香 :そうなの!? 違、お父さんが離婚したからって買ってくれてさ! 子供の付き合いで着ると色々面倒だからって思って、今日やっと卸したんだよ! 0387慎太郎:そうそう、そういう母親感! が! 見ててなんか焦るんだよ俺は! お前超十年経ってんじゃん! 母ちゃんって言ってんの褒め言葉な!? 0388礼香 :わかる、わかるから。 母親にはなれないんだもんね。 0389慎太郎:そう! ちんちくりん俺だけじゃんって若干の、焦り? みたいな! 0390礼香 :そうかあ。 焦ってて、好きだからイジってた子が実は体が、は更に焦るかぁ。 0391慎太郎:そ、……ういう訳ですよ! なんかなぁ、付き合うにしても釣り合うかなぁ俺。 0392礼香 :釣り合いねえ、気にしなくていいと思うけどなぁ。 0393慎太郎:なぁー頼む! お力添え? お手伝い? 頂けません? 何でもいーから! 0394礼香 :お? 今日か明日でちゃんと告るって約束するなら、いくらでもお力添えするけど。 0395慎太郎:は!? 0396礼香 :私が手伝った所で、最終的にはシンがどうにかしないとダメでしょ。 0397慎太郎:そりゃ、そう、なんだけど。 え? 今日? 明日? 0398礼香 :みんなにライン送っていい? 告るって言質取ったって。 0399慎太郎:みんなにって何。 0400礼香 :女子結構みんなで会ってるんだよ。 えっと、ノノがいないグループ…… お、ココでいいか。 結構人数いるし。 0401慎太郎:海産物を食べまくる集い……? 何これ、え、今も遊んでるって事? 0402礼香 :そ。 送っていいっていうか、送るわ。 0403慎太郎:おい。 おい、おい! 待て! おい! 0404礼香 :はい、送りましたー。 コレで逃げ場ないからね、うわ既読早、ほら、もう四つついた。 0405慎太郎:うわ。 うわうわうわ、女子誰が誰だかー……あっイシダさんだ、ギャッ、マキも!? 0406礼香 :<笑う> 結婚して名前変わってる子もいるからねえ。 0407慎太郎:みんな返信早すぎん!? 0408礼香 :このとーり、みんなキミ達の吉報を楽しみにしてたって事ですよ。 全力でお力添えしますんで、頑張って下さーい。 <ドームテント内。> 0409慎太郎:へいへいへいへい、包丁下手糞男。 0410豪 :何だよ、何のノリなんだよ。 お前の荷物ソコな。 0411慎太郎:何話した? 0412豪 :<笑う> 気になるんじゃん。 0413慎太郎:俺がレイと話した内容、気になんねえの。 0414豪 :ならないよ、男子高校生かよ。 0415慎太郎:んだよ、気になってるの俺だけかよ。 0416豪 :あ、ライン交換した。 0417慎太郎:何したじゃなくて、何話したって聞いてんだよ。 俺なんか女子に告るの周知されたんだけど! 0418豪 :周知? どゆこと? 0419慎太郎:俺もわからん! 0420豪 :女子って? 0421慎太郎:女子! 五組の女子! イシダさんとかマッキーとか! 逃げてきた! 0422豪 :何が起きてんの……。 別に、あの頃違うグループだったのに集まるの面白いねとか、そんな話してただけだよ。 0423慎太郎:クラスでグループとかなかったじゃん。 0424豪 :お前はな? 誰彼構わず話し掛けてたし。 0425慎太郎:俺そんなに節操無しだった? 0426豪 :だからバイヤーとかやってるんだろうけど。 0427慎太郎:まあ、まあねえ。 0428豪 :で、そっちは。 なに話したの。 0429慎太郎:……事情、的な。 イチハラの。 0430豪 :体調? 0431慎太郎:そう。 0432豪 :なに、それでヘコんでんの。 0433慎太郎:知らなかったから、なんかぁ……さぁ……。 0434豪 :それ言いだしたらお前、俺にバツイチとどうにかなれとか言ってたんですけど。 0435慎太郎:バツイチの方が、いや、方がとか言ったらアレか。 0436豪 :<溜息> 子供も思ってたよりデカいしさぁ。 八歳と六歳の義理のおとーさん、なれる? お前。 0437慎太郎:……っかぁー。 0438豪 :ってなるじゃん、やっぱ。 だからどう、とかないけど。 0439慎太郎:まあ、うん……どっちがって話じゃないけど平衡機能がって 0440豪 :は? 0441慎太郎:あ。 0442豪 :え、えっ? ノノ? 0443慎太郎:ごめんごめんごめん聞かなかった事にして。 0444豪 :無茶言うな、え、マジかよ。 体弱い、虚弱体質みたいな感じだと思ってた。 平衡機能って、平衡障害? ちゃんと聞こえてるっぽいけど? 病名ちゃんとついてんの? それで十年以上? 闘病してるって事? 0445慎太郎:……その、すげー大変な病気じゃないらしい、俺らと同じ生活できるって言ってた、けど。 0446豪 :……はぁ……いや、はぁって、ちょっと、うん……。 <ドームテント内。> 0447野乃 :はぁーなにあのキラキラ男子。 釣り合わないよ、絶対釣り合わないって。 0448礼香 :んな事ないって。 0449野乃 :だってバイヤーの人って、ちょっと調べたけど色々出掛けたり忙しい仕事だって。 0450礼香 :でもネットショップしてるなら拠点家じゃね? なんだっけ、特定しょーほーなんちゃらかんちゃら……。 0451野乃 :会社勤めしてる感じじゃなさそうだよなーとは、思ったんだよ。 0452礼香 :あ、あった。 0453野乃 :なに? 0454礼香 :店出す時って住所の登録必要じゃん? なんか、法律で。 この住所マンション? かな? 0455野乃 :分譲買ってるとか!? もーやめてほんと自信なくす! 0456礼香 :聞けばいいじゃんーヘコむ前にさー。 ほんと、気にしすぎだから。 ……いつまでその手帳見てんの。 0457野乃 :これさえなかったらなぁって。 0458礼香 :その手帳が何。 0459野乃 :コイツ見る度に、普通じゃないんだなあって。 戒め? 的な。 0460礼香 :普通だけど、私にとっては。 ノノにとっての普通が何なのか知らんけど。 フツーにクラスメイトしてたし、フツーに友達してるし。 0461野乃 :ありがと。 0462礼香 :だからそのありがとうは何ぃ。 私と友達でありがとうみたいな美談? 0463野乃 :違うって、口から出ちゃうんだって。 0464礼香 :いらねーそのありがとう。 全力でお返しするわ。 0465野乃 :もらってよー、なんだかんだ罪悪感的なものはあるからさー。 0466礼香 :ほらやっぱ感謝と別だ、自己満足に使うなって。 0467野乃 :だってさぁ、ずっと言っててごめんなんだけどさぁ。 入社した時カウンセラーの人、導入してくれてるんだよ? 0468礼香 :ずっと言い続けるけどいーじゃん、安心じゃん! 0469野乃 :最近ランチ一緒に行ってくれる! 超良い人! 0470礼香 :最高じゃん、何が嫌なの? 0471野乃 :嫌ってか、それってホントにフラットなのかなぁって考える……。 0472礼香 :フラットかどうかは知らん。 私企業の人じゃないし。 でも他にカウンセラーが必要な人も雇用できるようにはなってる。 0473野乃 :……まあ、そうか。 0474礼香 :不満そう。 0475野乃 :不満だよ、私、他の人よりできる事少ないのに、世間は私に優しい。 0476礼香 :別に、何かできるから友達になった訳じゃないんですけど。 0477野乃 :はぁ? 人間できてんねえ。 0478礼香 :逆ギレすんな。 <ラインの通知音> お、見てコレ! 0479野乃 :パソコン広げてんのソレ、ラインしてたの。 0480礼香 :一回やってみたかったんだよ、こういうエモい場所でマックブック広げんの。 0481野乃 :ウケるんだけど。 え、リュウキくん? もうこんな大きいの!? 0482礼香 :会った時からそんなに伸びてないと思うんだけど。 0483野乃 :嘘、絶対伸びてるって! 0484礼香 :写真撮って撮って。 リュウとリラにママ今超エモいって送るから。 0485野乃 :ねえウケんだけど。 ちょっと、景色と一緒に撮るからテーブルちょっとこっちずらして。 0486礼香 :はい、はい。 0487野乃 :撮るよー。 <写真を撮る> 0488礼香 :あんがとー。 うわ、エモ。 0489野乃 :ヤバい、バリキャリいるんだが。 0490礼香 :バリキャリならこんな所来てまで仕事しねーよ。 <しばらく笑う。> 0491礼香 :……別に、さあ。 この歳になればみんな、何かどうかあると思っちゃうけどな。 0492野乃 :なに? 0493礼香 :この歳になると、何かするのが億劫になる理由がみんなあると思うよ。 私はコブ付きパートのおばちゃんだし。 0494野乃 :お疲れ。 今日息抜きになってますかー。 0495礼香 :息抜きでバリキャリになっちゃダメじゃない? 0496野乃 :<笑う> ……事情ねえ、そうかなあ。 0497礼香 :そうだよ。 ノノはほら、たまたまそういう事情があって、もう慣れてるかもだけど。 歳とってくと体調とか、色々心配事が増えてくんだよ、大多数が。 0498野乃 :うん、まあ。 0499礼香 :もうさあ、先取りした、得したって、思っていく方がいいじゃん、そういうの。 0500野乃 :先取りぃ? 0501礼香 :あぁ、勿論ノノがイヤじゃなければの話なんだけどね。 今の考え方でしんどいなら、そっちの方がいいんじゃないの、って。 0502野乃 :うん。 0503礼香 :ノノ、事情があるからって何でそんな遠慮してるんだろうって思ってたよ、私。 ずーっと。 普通にノリ良いし、人見知りでもない、なのに大人しくてさ。 めっちゃ不思議だった。 0504野乃 :……、結局、一番気にして一番贔屓してるのは、自分なんだろうねえ。 0505礼香 :それはだって、自分の事だから自分が一番雑に扱えるもん。 0506野乃 :うん。 0507礼香 :あの二人、キラキラ野郎共。 クラスでもマイペースだったじゃん。 だから私職種聞いて、だよねー二人とも所謂(いわゆる)会社勤めではないよねーってちょっと面白かったんだけど。 0508野乃 :わかる。 0509礼香 :でしょ? それは二人が頑張ってきた結果であって、別に誰が一番とかないでしょうよ。 うちらも別に手抜いて生きてきた訳じゃなくね? 少なくとも自立してんじゃん金銭的には。 0510野乃 :自立ねえ。 0511礼香 :してんの、ノノも。 しかも体に起こる事の覚悟の決め方はうちらの先行ってんの。 これから三十になって四十になって、きっと体動かなくなる一方だよ。 ノノは腹決まってんじゃん。 生きてくの、気持ちの面でアドにもできるよ。 0512野乃 :アド? 0513礼香 :アドバンテージ。 0514野乃 :ああ、……そうかなぁ、アドかあ。 0515礼香 :まあ勝手にわーわー言ってるだけだから、三割くらいで聞いて。 0516野乃 :やっぱり、申し訳ないって気持ちはあるよ。 0517礼香 :うん。 それは、気持ちは別にいいんだけど、お礼とかありがとうとかマジいいから。 0518野乃 :お礼言いたい。 0519礼香 :いーからホントマジで。 純愛実らせてくれたらそれが一番なんで、ウチら。 0520野乃 :純愛ぃ? 0521礼香 :十年越しってなればそら純愛でしょうが。 0522野乃 :どうだろ。 拗らせてるだけだよ。 0523慎太郎:<遠目から> じょーしーぃ! 0524野乃 :はい、はいはいはい! 何! 0525礼香 :焦りすぎだろ。 0526慎太郎:俺ら荷物整理終わった! こっちでカレー食お! 俺腹減った! 0527礼香 :はーい。 マジあいつ現役の男子高校生かよ。 0528野乃 :<笑う> 現役の子より食べそう。 行こ、行こ。 私もお腹空いたよ。 <ドームテント内。> 0529豪 :……え、うま。 店のカレーだコレ。 0530礼香 :でしょ。 辛くない? ノノ、大丈夫? 0531野乃 :辛いけど美味しー! すごくない!? 0532慎太郎:なぁコレヤバない!? 店出せるって! 0533礼香 :そうだろうそうだろう。 誰かに食べて欲しかったんだよね! 流石に子供はまだ、スパイスの良さわかんないから。 食べさせられなくてさ。 0534豪 :これルー使ってないの? 0535慎太郎:無礼者! レイがめっちゃスパイス計ってたんだぞ! 0536野乃 :だよねえ、色がルーのカレーじゃないもん。 すご、美味しい。 0537礼香 :まあ、まあ、バーベキューとね、釣り合う様に考えてますよ。 ちょっと食べてて、付け合わせあるから。 0538野乃 :付け合わせ!? 0539慎太郎:何なになに! 0540礼香 :食べてなさいって! 0541豪 :カレーお代わりしていいー? 0542礼香 :いいよ、めいっぱい作ったし。 むしろ食べてガンガン消化してー。 0543慎太郎:馬鹿野郎消化だなんてとんでもねえ! 最後舐めてでも食うから! 0544礼香 :わかった、わかった。 付け合わせコレね。 アチャールと、カチュンバと、サンボル、サブジ。 0545慎太郎:なんて? 0546礼香 :<笑う> サンボルはスリランカの料理で、後はインドの料理。 0547野乃 :えぇコレ、作ってきたの!? 0548礼香 :一晩漬けたいのがあったからさぁ。 ほら、野菜食べなぁ。 0549野乃 :ええ……ありがとう、すごいねコレ。 0550礼香 :ありがとうとかいいから。 作るのがストレス発散なの。 はぁ、唐辛子を心置きなく使えるっていいねえ! 0551豪 :このサラダみたいなの美味い。 0552礼香 :でしょう! このねぇ、粗挽き胡椒をこれでもかって入れたのが食べたくて! 0553慎太郎:全部美味え、全部美味え。 0554野乃 :私レイちゃん家の子になる! 0555礼香 :定員オーバーです。 あぁあ、ビール欲しくなるねえ。 0556豪 :コレ、子供にこうして作ってるの? 0557礼香 :そうだよ。 放っとくと肉とご飯しか食べないから。 もっと子供向けの味にしてるけどね。 0558豪 :子供向けの味? 0559礼香 :蜂蜜入れたり。 それでも食べたり食べなかったりする。 0560豪 :おぉ……。 0561慎太郎:カーッ勿体無ぇ、こんなんガキの頃出されたら野菜で育つわ俺。 0562野乃 :こういうのどこで覚えるの? ネット? 0563礼香 :ネットもだけど、お店食べ歩いて美味しかったの再現したりもするよ。 あのーほら。 高校に近い、知らない? 0564慎太郎:七福堂(しちふくどう)! 0565礼香 :そう! インド人のおっちゃんやってるトコ! 0566豪 :俺お代わりしていい? マジで山盛りお代わりしていい? 0567慎太郎:あぁ! 俺もする! 0568礼香 :たんまりあるから好きなだけどうぞ。 0569野乃 :このニンジンの美味しいー。 作り方送って。 0570礼香 :おけー。 ちょ、盛り方が男子高校生なんだよ二人とも。 0571野乃 :二人ともそれ食べ切れる? 0572慎太郎:いけるね。 全ッ然余裕でいける。 0573豪 :人が作るメシ美味いなー。 0574慎太郎:あぁあわかる、この歳になると作ってもらうってだけで涙出る。 0575豪 :わかるわ。 0576礼香 :社食も人が作ってるんじゃないの。 0577豪 :弁当だよ、チンして食べてんの。 0578礼香 :また作ろっか。 0579豪 :え。 0580慎太郎:マジ!? 0581礼香 :冷凍で一ヵ月、大丈夫だから。 子供のカレーは毎回ルーで作るけど、私はコレ作り置きしてチンしてるの。 0582慎太郎:欲しい! 0583野乃 :食べたい! 0584豪 :食いたいけど……ええ、いいの。 0585礼香 :いいよ。 まとめて作るから、その時連絡する。 0586慎太郎:おぉやった、子供服入れますわ、お届けしますわ。 0587野乃 :私も何か奢るよ、食べたいの言って! 0588豪 :俺どうしよ……何か、あれば。 0589礼香 :いいよそういうの。 一人で作って一人で食べるのが嫌なだけだから。 0590野乃 :あ、リュウキくんのクロスバイク、見てもらったら? 0591礼香 :え。 0592野乃 :ゴウくん、自転車とか詳しい? 0593豪 :まあ……通勤で使ってるけど、詳しいって聞かれると、ちょっと。 0594慎太郎:何? 子供? 0595野乃 :うん。 もう直しちゃった? 0596礼香 :いいよ、悪いよ。 0597豪 :クロスバイク? 壊れたの? 0598礼香 :あー、うん……。 自転車屋さん持って行かないとなって、 っていうか、私がわからなくて放置しちゃって。 身長伸びてるし、高さも合わせてあげないとなーって思ってて。 0599豪 :写真ある? 0600野乃 :はい。 見せてくれた時一緒に撮ったの。 0601慎太郎:めっちゃ良いの乗ってんじゃん! 0602豪 :おー。 コレ何インチ? 0603礼香 :え? インチ? 0604豪 :自転車の高さ、みたいな。 0605礼香 :待って待って、購入履歴見る。 0606慎太郎:ちょっと自転車デカくね? 0607野乃 :そうなの? こういう物じゃないの? 0608豪 :俺もデカいなって思って。 ちょっと品名、見せて。 0609礼香 :えーっと、二十四、インチ……? 品名コレ。 0610豪 :ん。 0611慎太郎:コレどっか壊れてんの? どこ? 0612礼香 :この写真、壊れる前に撮ったから。 なんか、ペダルが重い? らしくて、後チェーン外れちゃってて。 0613慎太郎:ペダル重い? タイヤの空気抜けてんじゃねえの。 パンクしてなきゃ、家で入れられるよ。 0614礼香 :え、そうなの? 私自転車あんまり乗らなくて。 0615慎太郎:説明書とか入ってなかった? 0616礼香 :……どこに、しまったかなぁ……。 0617慎太郎:あー、理解した。 0618豪 :<笑う> チェーンも、家でできるよ。 0619慎太郎:できるし、多分説明書に書いてあるし。 0620礼香 :……すんません。 0621慎太郎:てかググれよ。 0622礼香 :子供が乗るから、ちゃんと見てもらわないとなって。 0623野乃 :お店持ってく必要なさそう? 0624豪 :ないと思う。 息子くん身長何センチ? 0625礼香 :今百二十八……? かな? 0626豪 :二十四インチって、乗れるの百三十センチからだよ。 0627礼香 :百二十からじゃなかった!? 0628豪 :二十インチの方、それは。 0629礼香 :……ほんとだ。 え、え、危ない? 今乗せてないし、私が近くにいる時しか乗せてなかったけど。 0630野乃 :そうなの? 0631礼香 :学校の規定で決まってる、そういうの。 低学年の子は基本、公道で乗らない、父兄が監督できる場所限定。 0632慎太郎:危ないっちゃ危ないけど、まあ大丈夫じゃね? 0633豪 :まあ……俺も兄貴の無理して乗ってたわ、子供の頃。 あんまり推奨はしないけど。 0634礼香 :<溜息> いやぁ、助かります……カレー渡すわ……。 0635豪 :うん、よかった。 0636礼香 :本人が欲しいって言ったの、そのまま買ったからさあ。 やっぱ男手だね、こういうのは。 0637慎太郎:男手っつか、説明書とっとけよ。 0638礼香 :ごもっともです……皆さんたんと召し上がって下さい……。 0639慎太郎:てか酒開ける? 0640礼香 :あぁ、皆さん注(つ)がせて頂きますんで……。 0641豪 :いいから。 カレーもらえるんでしょ、何かあればまた頼って。 0642礼香 :わかった。 酒取ってくるね、ビールでいい? 0643野乃 :うん、私一口でいいからね。 0644慎太郎:は。 <小声> 男手って、パパって事か。 0645豪 :うるせえな。 0646野乃 :<小声> パパ!? 0647豪 :違うよ。 0648慎太郎:<小声> いーじゃん、十年越し。 0649豪 :なにもよくない。 0650野乃 :ほう……! 0651豪 :違うからね? 本当に違うからね? 俺はモブだよ? 0652野乃 :ほう! 0653礼香 :取ってきたよ。 はい、……なに? 0654野乃 :何でもない! 0655慎太郎:本当に何でもない! 0656礼香 :ん? うん。 0657慎太郎:てかさ、席替えしねえ!? 0658野乃 :あーっいいと思う! すごくいいと思う! 0659慎太郎:だよな!? 0660礼香 :ん……? んん? 0661豪 :……あぁ、席替えかあー。 いいんじゃない? 0662慎太郎:だよな! 0663豪 :じゃ俺とレイカさんで隣、シンとノノで隣り合って座れな。 0664野乃 :そうしよ! 0665慎太郎:よっしゃ、ん? 0666礼香 :あー……! そっか、オッケー! はいはいシン、皿! こっち! 0667慎太郎:あ、うん、あぁ? 0668豪 :<小声> ばぁか。 0669慎太郎:あ!? 0670礼香 :そうだよね、折角だもん、ねえ? 0671豪 :いやあ俺全然気が回らなくて申し訳なかったなぁ。 0672礼香 :ねえー全然、 <強調して> お力添え! しないでお喋りしちゃって! 0673慎太郎:おッ!? 0674野乃 :なんか私、全然空気読めてなくてごめんねー! 0675豪 :いやいや。 盛り上がってきた? し、丁度いいタイミングだったんじゃない。 0676礼香 :あ。 あのさ、私色々片付けたらちょっとゴウくんの事借りたいんだけど、いい? 0677野乃 :えっ! 0678礼香 :だからちょーっと、シンとノノと二人でいてもらえるかなあ? 0679慎太郎:ええっ!? 0680野乃 :いいよいいよ、勿論! ゆっくり話してきて! 0681慎太郎:俺ウノ持って来てるんだけど! やらねえの!? 0682礼香 :あーうん、話し終わったらやるやる。 0683慎太郎:俺ウノ買って来てるんだけど!? 0684豪 :どんだけウノやりたいんだよ。 0685野乃 :えっちなみに、何の話ーとか、聞いてよかったり、する……? 0686礼香 :あぁ。 私とゴウくん、同じ塾に通ってたんだけど。 0687慎太郎:え、そうなの? 0688豪 :ん? うん。 0689礼香 :その時の友達で結婚する子がいるから、その話したくて。 四人でいる時だとちょっとバツが悪いっていうか、いい? 0690野乃 :いい、全然いいよ! 0691豪 :シンは? 戻ったらウノするから。 0692慎太郎:……いい、けどぉ……。 0693野乃 :けど、なに? どした? 0694慎太郎:いや何でもない、全然! オッケー! 0695豪 :じゃあよかった。 はいじゃあ、乾杯しときます? 0696礼香 :おぉ、しよしよ! いいんちょ、音頭お願いしていいですか。 0697豪 :はいはいはい……じゃあ。 乾杯。 <夜半、屋外。> 0698豪 :あぁー……結構飲んだかも。 0699礼香 :あんな飲めるんだね。 一番飲んでたんじゃない。 0700豪 :多分シンが一番飲んでたよ。 酒入ってたのに、片付けまでありがとう。 0701礼香 :いいえ。 そういう約束だったし、ノノも一緒にしてくれたし。 0702豪 :で、誰? 結婚すんの。 0703礼香 :んー? みんないずれ結婚するんじゃない、知らない。 0704豪 :ですよね。 や、上手い事やってくれるといいんですけど。 0705礼香 :ね。 コレが最後のお膳立てになればなぁ。 0706豪 :<笑う> ……なんか。 0707礼香 :んー? 0708豪 :離婚したって、聞いたけど。 0709礼香 :ん、したねぇ。 0710豪 :何されたとか、聞いていいの。 今。 0711礼香 :えっ? 0712豪 :その、離婚の原因。 0713礼香 :ソレはわかるんだけど、私有責の離婚だって思わないの。 0714豪 :思わないよ。 0715礼香 :あはは。 0716豪 :なに、その乾いた笑い。 0717礼香 :噂出回ってるんだろうなって思って、ちょっと気ぃ張ってたから。 0718豪 :噂は、……よく知らないけど。 右手貸して。 0719礼香 :ん。 0720豪 :ここの傷、あかぎれじゃないよね。 0721礼香 :……まあ。 0722豪 :写真、見せてもらった時に見えて。 何で掌(てのひら)なんて縫ってんの。 旦那に何されたの。 他の場所は怪我してないの? 何をされたらこんな所に怪我、……ごめん。 0723礼香 :ははは! 0724豪 :悪い、悪かったって。 0725礼香 :いや、いいよ、いいって。 その質問攻めちょっと懐かしくて、あはは、 私だけ? 懐かしくない? 塾の帰り道で別れ話したの。 0726豪 :……悪かったよ……。 0727礼香 :んーん。 今なら多分、対等に話せるから。 0728豪 :いや、あの時も詰めてるつもりは、……なかった、んだけど。 でも言い過ぎたなって思うし、受け取る側の所感が違えば 0729礼香 :ゴウ。 0730豪 :……なに。 0731礼香 :……なっつかしいなあ、久しぶりに呼んだ。 ゴウ、って。 0732豪 :うん。 0733礼香 :コレね。 食器投げられて、その時の傷なんだよ。 目敏いね。 0734豪 :……。 0735礼香 :頭にきてそのままビンタしたらさ、傷開いちゃって。 旦那のツラと眼鏡に血ぃ飛んでさ。 あの人、それで気が動転したんだろうけど。 暴力女、離婚や、俺に慰謝料払い、って騒いで。 馬鹿だよねえ、これまで散々人の事ぶん殴っといてさ。 もう笑い話だけど。 溜め込んだ診断書と日記で滅茶苦茶慰謝料取れたから、ぜーんぜん大丈夫。 0736豪 :他の怪我は。 0737礼香 :もう治ってるよ。 縫ったのはここだけで、残ってるのもここだけ。 0738豪 :本当に? 0739礼香 :うん。もう痛くもないし。 ……えぇ、なに。 もしかして慰めてくれんの? 優しいねぇ。 0740豪 :なんでそんな男と結婚したんだよ。 俺、レイカは幸せになってるモンだって、てっきり。 0741礼香 :普通に幸せだったよ。 娘が生まれた後で、あの人が職場で移動があって。 それからかなあ。 移動して病んでたんだと思う。 0742豪 :レイカは。 トラウマになってないの。 0743礼香 :それはない。 0744豪 :ほんとに? 0745礼香 :私がトラウマとか何とか言ってたら、子供生きていけなくなるよ。 0746豪 :それは、そう、なんだろうけど。 0747礼香 :<笑う> ……ぶっちゃけると、子供の前で滅茶苦茶泣いた。 0748豪 :どうして。 0749礼香 :八歳と六歳って、私らが思ってるよりずっと大人だよ。 これからパパと別々に暮らすんだよ、って話した時にさ。 離婚するんでしょ、ママ悲しかったら泣いていいよ、もうパパに殴られないんだよ、って。 0750豪 :……あー……。 0751礼香 :ママは赤ちゃんの時、泣いてる俺らの面倒見てくれたから、今度はママが泣いていいよって、 ママはパパが好きな人だったから、一番悲しいのはママなんだよ、って。 言うんだよ。 それ聞いて泣いて、泣いて、そのまま三人で寝落ちて起きたらさあ。 ぐっちゃぐちゃのキッチンで、半生のホットケーキが焼いてあるんだよ。 0752豪 :うん。 0753礼香 :チンしてなんとか食べたんだけどさー。 あ、私が日和ってたらこの子ら、キッチン爆発させそう、って。 0754豪 :はは。 0755礼香 :キッチンなんて、お手伝い程度で立たせた事しかなかったのに。 勝手に覚えてくれちゃってさ。 0756豪 :レイカの事見てたんじゃないの。 0757礼香 :かなぁ。 まあ、だから、私は大丈夫だったよ。 0758豪 :そうか。 そうかぁ。 0759礼香 :なに。 0760豪 :大丈夫じゃないって言って欲しかった。 0761礼香 :えぇ? そこはさぁ、頑張ったね、みたいな良い事言ってよ。 0762豪 :いや、色々、頼って欲しかった、っていうか……。 俺が告って俺が振って、自分勝手な事、言ってるのはわかってるんだけど。 俺はレイカが十年好きだったよ。 0763礼香 :過去形? 0764豪 :とりあえず。 茶々入れないで。 0765礼香 :はぁい。 0766豪 :……結婚より、離婚したって聞いた方がショックだった。 何があったのか想像もつかなくて。 0767礼香 :どうして? 0768豪 :俺の知らない場所で、勝手に幸せでいてくれてるって思い込んでたんだよ。 思い込みたかっただけかも、しれないけど。 0769礼香 :何それ、荷が重いよ。 0770豪 :別れ話した時も、レイカが何かって訳じゃなくて。 入試判定悪くて。 殆ど八つ当たりだったんだ。 0771礼香 :そうだったんだ。 言ってくれたらよかったのに。 ……あの頃も、そういう風に言った気がするけど。 0772豪 :言えないよ、言えなかったよ。 多分俺今もそういうの、言えない。 今日ノノに頭良い仕事してる、みたいな事言われた時、俺すげー焦ったんだけど。 あの頃はクラスの中でちょっと勉強ができてただけで、大学入ったら全然そうでもなくて。 今も、肩書きが学者ってだけで、そのくくりだと俺本当に出来損ないなんだよ。 遺伝子専攻してるんだけど、実はまだまともに研究できてない。 0773礼香 :んん? 0774豪 :事務とか観察とか、フィールドワーク、サンプル採取、って言えば何となくわかるかな。 0775礼香 :あぁ、まあ……歩き回って色々集める、みたいな。 0776豪 :そう。 所長も先輩もみんな人が良いから仕事もらえてるだけで。 まだ、学生でもできるような簡単な仕事ばっかりで。 0777礼香 :んんん、何となくわかった。 0778豪 :そういう時にさ、レイカが結婚したって聞いて。 ちゃんと時間が進んでて、俺だけがまだ進めてないんだって、あの時レイカに色々言った癖に。 結構モチベーションになってて、俺の中で。 そう思ってたら、離婚の話聞いて。 0779礼香 :それも時間が進んだ結果でしかないけどね。 0780豪 :そうなんだけど、……ずっと俺の手なんて届かない場所にいるモンだって、 俺が傷付けたんだから、そうであって当たり前だって、思ってて。 0781礼香 :うーん、変にプライド高いよね。 自罰的だよね。 0782豪 :……わかってるよ、それは。 0783礼香 :そうか。 ねえ、今も好き? 現在進行形? 0784豪 :……おう。 0785礼香 :じゃあ、幸せだよ。 0786豪 :子供がいて。 0787礼香 :うん。 だから、自分が傷付けたとか思わなくていいよ。 0788豪 :さいですか。 0789礼香 :あと、ゴウが思ってたよりいい男になったんだなって、わかって。 0790豪 :……そうだろ。 0791礼香 :うん。 口うるさい所は変わらないけど。 0792豪 :それは、 0793礼香 :ずうっと、愛情深い人だな、って。 そこも変わってなくて、嬉しい。 だから幸せですよ、私は。 0794豪 :……。 0795礼香 :ねえ、なんで黙っちゃうの。 0796豪 :やり直さない。 もう一回。 0797礼香 :……。 0798豪 :……何だよ、平然としてた癖に。 俺今清水の舞台から飛び降りたけど。 0799礼香 :子供と相談って、言ってもいい? 0800豪 :ああ、うん。 そこは勿論。 0801礼香 :前向きでは、あるので。 0802豪 :あのさ、そういうのこっちの顔見て言ってくれない? <礼香の腕を取る> もしもし。 もしもーし? 0803礼香 :<抵抗する> イイイイイ、待って待って、照れ臭いから! 0804豪 :あのー! 顔見て言ってもらえますか! 0805礼香 :待って待って待って、 0806豪 :男手いるって言ってたろ、俺今更他の男に任せる気ないけど! 0807礼香 :今酔った、今酒回ったから! 0808豪 :耳赤い! 0809礼香 :嘘吐け! 0810豪 :マジで! 0811礼香 :嘘、ひえッ! 0812豪 :<笑う> 顔の方が赤かったわ。 0813礼香 :ほんとに勘弁してよ、ママ、そういう免疫もうないんだってー……。 0814豪 :や、あの時、俺が告った時も真っ赤だったけど。 0815礼香 :覚えてない! 0816豪 :は? 忘れた? 0817礼香 :忘れてない! 0818豪 :うん。 ……子供、名前何て言うの。 0819礼香 :リュウキとリラ。 0820豪 :リラ? 洒落てんなあ。 0821礼香 :そう思うでしょ? でも、もっとすごい名前の子沢山いるから。 0822豪 :へええ。 その辺も勉強っていうか、するか。 0823礼香 :……まあ。 0824豪 :クロスバイク、見に行くから。 レイカがよければその時紹介して。 0825礼香 :ママの友達、でいい? 0826豪 :まずはな。 0827礼香 :ん、わかった。 なんか、その……遊んでやって。 0828豪 :今の子って何して遊んでんの、ゲーム? 0829礼香 :買わないでよ。 0830豪 :お、手厳しい。 0831礼香 :そりゃあね? あの自転車いくらしたと思ってんの、六万だよ? 今年と来年のお年玉全部徴収するって約束で買ってるんだよ。 0832豪 :じゃあ俺がゲーム買ってもいいだろ。 0833礼香 :よくない。 0834豪 :話聞いてると息子が手強そうだから、ワイロにしたいんだけど。 0835礼香 :てかゲーム持ってるし。 0836豪 :じゃあソフト買うか。 0837礼香 :もー甘やかさないで、ほんとに。 0838豪 :はいはい。 じゃあ、なんか。 したい事ないの。 ママじゃなくて、レイカは。 0839礼香 :ええ? 0840豪 :何か、ないの。 0841礼香 :……それは、どういう? 0842豪 :何でも。 一日休みたいとか、旅行とか、何でも。 外堀埋めるの難しそうだから。 本人にする。 0843礼香 :外堀って、いや、肉焼いて星見ようって叶ってるしー……。 ……あぁ、でも、うん。 0844豪 :なに? 0845礼香 :動物園、子供と行こうって言ってて行ってないなあ、って。 0846豪 :子供抜きで、何かないの。 動物園も連れてくけど。 0847礼香 :ええ、パッと思い付かないなぁ……何かあるかな……。 0848豪 :司書は。 図書館司書。 0849礼香 :……。 0850豪 :なりたいって、昔言ってた。 0851礼香 :言ったわ、自分でも忘れてた……。 ええ、よく覚えてるね。 0852豪 :覚えてるよ。 レイカと話した事は多分、一通り。 0853礼香 :三ヵ月しか、付き合ってなかったのに。 0854豪 :三ヵ月しか付き合ってなかったから、かも。 0855礼香 :……えっと、じゃあ、……とりあえず、それで。 0856豪 :うん、叶えられる様にするから。 今度は頼って。 0857礼香 :徐々に、でいい? 0858豪 :うん。 0859礼香 :ねえ、なんでさっきからずっとニヤついてんの? 0860豪 :やー……はは。 手、届かない事なかったんだなって、思った。 <ドームテント内。> 0861慎太郎:<小声> ハメられた……ッ! 0862野乃 :アスカくん、ウノって二人でできたっけー? 0863慎太郎:あぁ!? あー……っと。 二人からってなってるけど、ドロフォーとかどうすんだコレ。 0864野乃 :確かに。 0865慎太郎:待つかあ、あの二人。 0866野乃 :わかった。 はい。 0867慎太郎:お、何これ。 ホットワイン? 0868野乃 :うん。 ワイン飲める人でよかった、アルコール飛ばしてるけど、いい? 0869慎太郎:いいよ、ホットワイン飲むの初めてだわ。 ありがと、お疲れ。 0870野乃 :ん、お疲れー。 0871慎太郎:……あ、美味い。 0872野乃 :でしょ。 ねえねえ、ゴウくんってレイちゃんの事好きだったの? 0873慎太郎:らしい。 高校の時の話だし、本人からハッキリ聞いた訳じゃないけど。 はいともいいえとも言わないし。 0874野乃 :そうなんだ。 上手くいってるといいねえ。 0875慎太郎:でもアイツ、ゴウ、よくわかんねえんだよな。 マイペースであんまり自分の話しないからさ。 0876野乃 :あー。 わかるかも。 0877慎太郎:……。 0878野乃 :……。 0879慎太郎:……アレ、ええっと。 マサヤ! 覚えてる!? 0880野乃 :あ、あー! マサヤくん! 覚えてる! 0881慎太郎:アイツ結婚するって! 0882野乃 :そうなの!? みんなどんどん結婚するねえ! 0883慎太郎:なー! 俺も、……。 0884野乃 :……。 0885慎太郎:……け、結婚とか。 そういう話ねえの、イチハラは! 0886野乃 :んんー、相手がね、まだいないから! 0887慎太郎:あぁ俺も俺も! なんか、結婚した後があんまり想像できないっていうか! 0888野乃 :あぁーわかる。 わかる、っていうか……。 0889慎太郎:何? 0890野乃 :……多分、結婚しないなぁ、私。 0891慎太郎:え、マジ? 0892野乃 :したいって気持ちはあるけど、結婚してお終い、じゃないしね。 0893慎太郎:あぁー。 0894野乃 :私もあんまり、結婚した後って想像できないなぁ。 0895慎太郎:だよなぁ。 レイみたいに子供がーって、俺が言うようになるのかな、って。 0896野乃 :すごいよねえ、お母さんって。 自分で生活するだけじゃなくて、子供の生活もあって。 0897慎太郎:だよなあ。 え、え、聞いていい? 0898野乃 :いいよ、いいよ。 0899慎太郎:彼氏とかいなかったん? 0900野乃 :んんー一人? いたけど。 ずっと前に別れちゃった。 アスカくんは? モテそー。 0901慎太郎:全然全然! 付き合っても俺が振られるパターンよ、いつも! 0902野乃 :でも付き合いはしてるんじゃん。 0903慎太郎:まあー……。 0904野乃 :何人? 元カノ。 0905慎太郎:……さんん……? 0906野乃 :何で微妙に暈(ぼか)すの、三人? 0907慎太郎:うん、うん。 0908野乃 :モテてるー。 0909慎太郎:モテてねえって! 結局振られてるんだからさぁ。 俺、割と自己中なのかもしんない。 0910野乃 :そんな事ないでしょ。 0911慎太郎:まあ、……てか、その、もいっこ聞いていい。 0912野乃 :なに? 全然いいよ。 0913慎太郎:これ別に、酒の勢いとかじゃなくて。 0914野乃 :ん? うん。 0915慎太郎:……杖、高校の頃使ってなかったよな? 0916野乃 :ああー、いいよ、全然。 もしかして気にした? 0917慎太郎:まあ、結構びっくりした。 あの頃からどっか悪かった、んだよな? 0918野乃 :うん。 そうー……だねぇ。 0919慎太郎:ごめん俺、何も知らなくて。 歩き方弄ったり、ほら、 0920野乃 :そう言えば、具合悪くなった時に保健室連れて行ってくれたの。 いつもアスカくんだったね。 0921慎太郎:……うん。 0922野乃 :懐かしいな、 0923慎太郎:クラス、雰囲気良かったから、今思い返せば。 だからイジメとかにならなかっただけで、その、…… 俺が茶化してたせいでそうなる可能性って、全然あったなって、だから、ごめん。 0924野乃 :……謝らないでよ。 ぶっちゃけ、あー、何か言ってるなって、そのくらいだったし。 0925慎太郎:お、おう……。 0926野乃 :てか弄ってた人に今更気にされる方がなんかなって、思う、かな。 0927慎太郎:……。 0928野乃 :知った途端、小動物とか、別の生き物を慈しむ、みたいな。 目を向けるアスカくんみたいな人っているよ。 あれってどうして? 0929慎太郎:……。 0930野乃 :……滅茶苦茶意地の悪い事言ったね、ごめん。 コレでおあいこにして。 0931慎太郎:や、あの。 言われて当然だと、思うから。 0932野乃 :そっか。 0933慎太郎:うん。 0934野乃 :……。 びっくりしたって言われて。 ちょっと嬉しかった。 0935慎太郎:なんで。 0936野乃 :だって、びっくりしたんでしょ。 予測がついてなかったって事でしょ。 0937慎太郎:うん。 0938野乃 :私が障害者だって、思ってなかったんでしょ? 0939慎太郎:……そう。 0940野乃 :ひひひ、そうでしょお? ざまあみろ、あんなからかってた癖に。 0941慎太郎:悪かったって……。 障害者、なの。 0942野乃 :そうだよ。 0943慎太郎:あの、……何の? どういう? 0944野乃 :真っ直ぐ歩けないとか、長時間立っていられないとか。 0945慎太郎:そんだけ? 0946野乃 :<苦笑する> そんだけ。 0947慎太郎:不便とか、ないの、今。 0948野乃 :ないよ。 不便って、便利さを知ってる人じゃないとわかんなくない? 0949慎太郎:ん? 0950野乃 :私は便利さの方がわかんないよ。 みんなが普通に走ったり、免許取って車とかバイクの運転したり。 そういうのがどんな感じなんだろうなー便利なんだろうなーって、思う事はあるけど。 不便って、これから出てくるのかもしれない、かな。 0951慎太郎:えーと……。 0952野乃 :目眩だったり、今日みたいに、十メートルを真っ直ぐ歩けなくて転んだりするから。 等級ってわかる? 支援が必要なレベルみたいなの。 多分上がるんだよねー。 0953慎太郎:これまでは上がらなかった、ある程度歩けてたって事? 0954野乃 :そう。 0955慎太郎:薬は? 治療とかしてねえの? 0956野乃 :色々飲んでみたんだけど、ダメで。 リハビリとカウンセリングしてる感じ、かな。 0957慎太郎:原因わかれば治るんじゃないの? 0958野乃 :小さい頃、高熱出したのが原因かも? って。 0959慎太郎:かも、ってなんだそれ。 ちゃんとわかってねえの? 0960野乃 :うんー。 大きい病院行ったけどわかんなくて。 治る病気の筈なんだけどね。 でも、そういうモンらしい。 神経とか脳腫瘍とか、可能性だけ滅茶苦茶いっぱい、あって。 耳、聴覚も異常ないしー……。 0961慎太郎:歩きにくい以外に、なんかー…… 0962野乃 :色々、自律神経失調症ってわかる? 0963慎太郎:車で酔いやすいみたいな? 0964野乃 :そうそう、そういう細々したのが色々。 これから悪くなったりするだろうし、 0965慎太郎:あのさ。 0966野乃 :なに? 0967慎太郎:俺、免許持ってる。 0968野乃 :知ってるけど。 駅からココまで運転してくれたじゃん。 0969慎太郎:正直、その……バイヤーとか言ってっけど、その、始めたばっかりで。 収入とか最悪だけど。 俺なら治るまで、どこでも、連れて行けるから。 0970野乃 :……知ってるけど。 0971慎太郎:へ、は? 0972野乃 :保健室、連れてってくれてたし。 いつも、毎回。 0973慎太郎:ああ、うん……。 0974野乃 :……そのぉ、当時、びっくりは、してたけど。 0975慎太郎:いやだって、お前歩き方へ、…… 0976野乃 :言っていいよ、別に。 変って。 0977慎太郎:歩き方他の人とは違ったから! だから俺が抱いてった方が早いって思って! 0978野乃 :抱いてって…… <笑い始める> 0979慎太郎:ああああああ、違う、俺運んだ方がはえーなって! 早かっただろ俺!? 0980野乃 :<笑いながら> うん、うん。 合唱祭のステージから、全校生徒の真ん中突っ切ってね。 0981慎太郎:お前ぶっ倒れたからだろ!? 三年になったら、お前ぶっ倒れる度にクラスの連中に呼ばれてさぁ! 0982野乃 :毎回来てくれてたじゃん。 え、私の所為? 0983慎太郎:じゃねえけど! 0984野乃 :私しばらく、お姫様抱っこの子ってすごい、周りに言われたんだけどなぁ。 0985慎太郎:俺だってずーっとお姫様抱っこの人って言われてたし! 0986野乃 :ふふ、思い出すと色々恥ずかしいけど、嬉しかったよ、ずっと。 嬉しかったし、高校生活ずっと楽しかった。 障害も何もない、普通の女の子みたいだった。 0987慎太郎:……ならよかった、けど、お前普通の女の子だから。 0988野乃 :普通? 0989慎太郎:そうじゃん、俺はそう思ってたから弄ってたし。 さっき自分で言ってた、治る筈の病気だって。 俺、遠い病院とか連れてくし、手伝うし。 0990野乃 :……弄ってたから? 0991慎太郎:そうじゃねえって、だから、……ああ、もう! 弄ってたからとか障害者だからとか関係なくて、 俺はイチハラの事手伝いたいけど迷惑掛からねえかって! 0992野乃 :あぁ、いや、ごめん。 今の聞き方、私が卑屈だった。 0993慎太郎:俺は、昔弄ってたのも今何とかできないかって思ってんのも、 0994野乃 :いや私は、あくまで私はって話なんだけど。 障害、って、私にとってはすごい大仰な言い方されてるだけで。 レイちゃんみたいに絶対気持ちしんどいのに、頑張ってる人って他にも沢山いるじゃん。 不便の話してる時も言ったけど、私は便利とか普通とかそういうものがわからないから。 なのにさ、世間から私だけよくして、優しくしてもらい続けてる気がして、……。 なんでよくしてもらえるのかって考えて、障害があるからなんだろうなって、 そうやって今だって子供の駄々みたいな思考だから、素直に受け取れなくて。 私、すごい、子供なんだよ、まだ。 ごめん。 0995慎太郎:……俺が散々弄ってた癖に、事情知って掌返してるのは、変わんないから。 0996野乃 :謝るの、止めよう。 昔の事ネタにして笑ってたの、私も一緒だし。 0997慎太郎:うん、……。 0998野乃 :……。 0999慎太郎:俺、お前の事、好きだからさ、昔っから。 障害とか今日知ったから関係ないし。 別の人と付き合ってもなんか違くて。 でも関わり方があれしか、わかんなくて。 ああなってたんだとー…… 思う、んですよ。 1000野乃 :うん。 1001慎太郎:いや、うん、って。 1002野乃 :だって。 ゴウくんとレイちゃん、見てて。 あと正直、クラスのみんなとか……そうなんだろうなぁって思って。 あからさまだったじゃん。 1003慎太郎:あっ、はい。 1004野乃 :私が都合よく解釈してるのかなぁって思ってたら、そうじゃないっぽいし。 1005慎太郎:都合よく? 1006野乃 :……私から言おうと思ってたんだけど、なあ。 1007慎太郎:……え、マジで言ってる? 1008野乃 :うん。 1009慎太郎:マジで言ってる!? 1010野乃 :声デカ。 1011慎太郎:ごめん、マジ? 1012野乃 :マジだよ。 今この歳で、高校生のノリで。 こう、好きです付き合いましょうって、何となく言えなくない? 1013慎太郎:それな? 1014野乃 :うん。 だけど、何かちゃんと言おうーとか、 その前に障害の話しないとフェアじゃないかなーとか……。 1015慎太郎:え、夢? 1016野乃 :聞いてる? 1017慎太郎:聞いてます。 1018野乃 :そう、そうやって考えてたら色々聞いてくれるし。 1019慎太郎:うん。 1020野乃 :ねえ、その……ほら。 所謂、普通じゃない人の彼氏、って。 絶対大変だよ。 アスカくんが思ってる当たり前が、私の当たり前じゃないんだよ。 これは卑屈とかじゃなくて、前付き合ってた人との実体験でさ。 1021慎太郎:それは、イチハラの言う普通の人同士でも同じだと俺思うけど。 1022野乃 :まあ、……うん、そっか。 1023慎太郎:……え、マ? 俺が付き合って下さいって言ったらうんって言うのお前!? 1024野乃 :言うけど、 1025慎太郎:言うんだ!? けど? 何? 1026野乃 :……あのさぁ。 一回、……一回。 ルームシェア、って、わかるよね? 1027慎太郎:うん。 1028野乃 :えっと、期間決めて。 お試しで、一緒に、住んでみない? 1029慎太郎:……ん!? 1030野乃 :軽々しく決める事じゃないとは思うけどさ、思うんだけど。 付き合ってデートで出掛けるって、私調子悪くてできない日の方が多くて。 それに、お互いの暮らしがどれだけ違うかわかると思うし……。 高校時代、ずっと私の事普通にしてくれたのはアスカくんだし、 そういう信頼はあるんだよ、だから一回一緒に住んでみて、 1031慎太郎:住む! は!? マジか!? 1032野乃 :待って即答しないで、ちょっ、 1033慎太郎:っしゃー! ウチ一階だけどオートロックだから! マジ良いよ、特に防犯! コンビニもスーパーも近えし3LDK! 部屋三つあるんだよ! 1034野乃 :ま、まっ……!? え!? 1035慎太郎:不動産は資産だからって、退社する時社長に聞いてちょっと無理して買ってさ! 1036野乃 :<小声> 買ってた……ッ! 1037慎太郎:マジかマジかマジか! 部屋一個倉庫にしてるんだけど! 明日レンタル倉庫借りるわ! えバリアフリー的な!? なんか必要!? 1038野乃 :話聞いて! 1039慎太郎:ごめん! 何! 1040野乃 :…… <溜息> 1041慎太郎:ん? ん? 1042野乃 :もー……言う事忘れた……。 1043慎太郎:そ? なあなあなあ、俺荷物取り行こか? 1044野乃 :ええ……。 1045慎太郎:お前は、便利がわかんないって言ってるじゃん、 俺は、好きな子にどう接すればいいかわかんなかったの。 俺のわかんないはわかったから、一緒に住んでみて、そっから考えればいーじゃん! 1046野乃 :な、何がわかったって? 1047慎太郎:めっちゃ普通に便利に暮らして、お前の事幸せにすればいい! 1048野乃 :はぁ? 1049慎太郎:これさ、お前が住もうって言ったから思いついたんだよ俺! 絶対そういうの、これからもあるから! お試しとかしねーから! え、あの、何笑ってんの? 1050野乃 :<笑いながら> そ、そっか。 お試ししないんだ。 1051慎太郎:うん。 ん? え、俺お前の事十年好きだったけど? で、さっき言ってたの聞く感じお前もだろ? 1052野乃 :<笑いながら> うん、そう。 1053慎太郎:じゃあお試しとか嫌なんだけど。 1054野乃 :<笑いながら> わかっ、わかったって。 1055慎太郎:なぁ何笑ってんだよ! 俺そんな変な事言った!? 1056野乃 :違うよ、はあ、嬉しいから笑ってたんだって。 1057慎太郎:なんだ。 嬉しいならいいや。 1058野乃 :……はー、もう、びっくりした、本当に。 ほんとにいいんだね? 1059慎太郎:言い出したのお前。 1060野乃 :好きって言ってくれたから、何か言わないとって思って…… でもああ、変だったよね、テンパってたの、私。 失敗した。 1061慎太郎:お前さぁー、石橋叩いて叩きすぎてぶっ壊すタイプだろ。 そんな色々心配してどーすんの? 勿体無いじゃん。 1062野乃 :そう? 1063慎太郎:うん。 やってみたらどうにかなる事って結構あるよ。 失敗しても、失敗って大体が死ぬ訳じゃねえし。 1064野乃 :……。 1065慎太郎:コレ、アパレルの時社長から言われた事な。 俺もそう思ってる。 そう思ってるっつか、アパレルやってる時滅茶苦茶失敗したし、 バイヤーやろって思ってからも色々失敗してる。 てか、マンション買ったのも転職もコロナ前だったからガチ焦って。 ええー俺どうなんの!? って思ってたけど、割と大丈夫で。 1066野乃 :<笑う> 1067慎太郎:大丈夫だし、今、イチハラに俺んトコ来ればって言えるから。 俺全然失敗してなかったわ。 むしろ俺の人生にプラスよ? 話聞いてる感じ俺ら、そーいうトコ足して二で割れば丁度いいよ、多分。 何だろ、お前が頑張って? 考えて? 住むかって言ってくれたのもわかるし。 1068野乃 :うん。 1069慎太郎:うん、さっき治るまでどこでも連れて行けるって言ったけど。 治ってからも、てかとっとと治して滅茶苦茶連れまわすし。 こーいう洒落た建物じゃないキャンプも連れてくし、俺キャンプメシのプロよ? あ、買い付けで海外に、とか聞いてたよな? 勿論連れてくけど? 1070野乃 :う、うん。 1071慎太郎:何、なんで引いてんの。 1072野乃 :滅茶苦茶喋るなって思って。 1073慎太郎:プレゼンよ、プレゼン! 俺と付き合うとこんなに楽しいんですって! 1074野乃 :も、伝わってる、大分伝わってる。 楽しいのは、わかってるよ。 わかってるし。 1075慎太郎:わかってるし、何ぃ。 まだ石橋叩く? 1076野乃 :この先進行して、等級上がって、何かあっても。 何もできなくなっても。 アスカくんを好きでいる事はできるな、って今、思ってるよ。 <屋外。> 1077豪 :金魚ってさ、 1078礼香 :ふふ。 1079豪 :え、なに。 1080礼香 :今取っ掛かり出てくるかーって思って。 1081豪 :そう、取っ掛かり。 屋台の金魚でも長生きするし、鱗が剥がれてもまた再生するんだよ。 1082礼香 :薬とかいるんじゃない? 1083豪 :ストレスさえなければ、薬とか設備が無くても十年とか十五年は生きる。 鱗が剥がれるのも、放っとけば命に関わるけど、ちゃんと治せる。 1084礼香 :へーそうなんだ。 早く死んじゃうイメージあったな。 1085豪 :ポイで追い立てられて、狭い袋で揺られて。 人間の家についたら知らない場所で飼われるんだ、ストレス半端ないよ。 1086礼香 :あー……。 1087豪 :学生の頃の俺達もさ。 一箇所に集められて、知らない場所で過ごして、さあ。 こうしてもう一回会って、……十年、別の水槽で生きて。 もう一回巡り合った、みたいな。 1088礼香 :えぇー、何なになに。 ロマンチック。 1089豪 :レイカが、金魚が取っ掛かりとか言うから。 そんな事ばっかり考えてて。 1090礼香 :そっか。 1091豪 :治せるけど。 俺。 1092礼香 :何を? 1093豪 :レイカを。 1094礼香 :……。 1095豪 :……何か言ってくれない? 1096礼香 :……キザぁ。 1097豪 :悪かったな。 1098礼香 :お? ね、アレ。 1099豪 :……テントの中めちゃくちゃ見えるんだ。 おーおー。 <二人、テントの中に入る。> 1100礼香 :ただいまぁ。 嘘ぉ、二十八にもなってこんな可愛い事ある? 1101豪 :いいじゃん、いいじゃん。 エモい。 1102礼香 :抱っこで寝るのが? 何だかなあ。 エモいっちゃエモいのか。 1103豪 :隣いこ。 1104礼香 :……なにぃ? 1105豪 :寝ないの? え、あっちで二人で寝る? 1106礼香 :えぇー。 1107豪 :この環境、何かできると思う? 1108礼香 :世界で最も何もできない場所、すね。 1109豪 :だから、どうぞ。 1110礼香 :あかぎれてるから、 1111豪 :うん。 1112礼香 :……ああ、ダメだ、子供以外に言い訳が見つからない。 1113豪 :言い訳にしないんだ。 1114礼香 :しないよ、絶対しない。 1115豪 :じゃあ、何もしない様に片方塞いでおいて。 1116礼香 :いいね、ソレ。 のった。 1117豪 :この二人の真似でも俺は全然いいけど。 1118礼香 :子供に相談。 1119豪 :はい。 1120礼香 :<笑う> ……うわぁ。 スヤスヤだよ二人とも。 <小声> 上手く行きましたかー? 1121豪 :上手くいったんだろうなあ。 うわーマジ、明日楽しみ。 1122礼香 :ね。 一から十まで聞きださなきゃ。 1123豪 :一から百まで聞き出そうよ。 俺好きなんだよ、他人の馴れ初め。 1124礼香 :そんなキャラだったっけ? 1125豪 :ん? あの頃から好きだったと思うけど。 1126礼香 :嘘、私と歩いてる時、ずーっとブスっとしてたよ。 1127豪 :照れ臭かったから、当時は。 自分と他人じゃ違うよ、全然理想通りにできなかったし。 1128礼香 :今は違う? 1129豪 :今後をお楽しみに。 1130礼香 :ふーん。 期待しちゃお。 ……私ら、随分贅沢な金魚だね。 すごい星が見える。 1131豪 :ほんとだ。 <小声> おい、シン。 星すげえぞ。 1132礼香 :起きちゃうよ。 1133豪 :<小声> シン、起きてウノやろうぜ。 1134礼香 :やめてあげなって。 1135豪 :明日起きてからにする? 1136礼香 :マジかよ。 いいけど。 1137豪 :じゃあ、そういう事で。 寝ますかね。 アラーム……ああ、チェックアウト何時だっけ。 1138礼香 :ゆっくりにしてるから、お昼頃起きればウノもバーベキューもできるよ。 1139豪 :じゃあアラームはいいか。 1140礼香 :うん、いい、いい。 じゃあ、おやすみなさい。 1141豪 :はーい、おやすみー。 2023.2.24 初版 羽白深夜子 2023.3.21 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 ★平衡機能障害について 運動麻痺がなく、起立、歩行を行う事が安定しない障害。 ※自治体によって等級の認定基準、呼称や対応などに差異があります。 本作では文献や自治体対応、学術書などの記述を参考に執筆しておりますが 状態や原因疾患にも個人差がある事をご了承の上、本作をご利用下さい。
サイトへ戻る
◆
文字サイズ変更:
A−
A
A+
行間変更:
詰
普
広
ナイトモード:
★