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【一蹴ロストホープ】 (いっしゅうろすとほーぷ) 男性1、女性1。 有償版販売ページはこちら。 【三上 武春(みかみたけはる)】 33歳男性、作家。 資産家家庭の生まれで、許嫁の陽咲との結婚を条件に作家業を続けている。 陽咲、咲月とははとこ(又従姉妹)の幼馴染。 【右京 咲月(うきょうさつき)】 30歳女性、議員秘書。 資産家家庭の生まれで、県議会議員の叔父の秘書をしている。 陽咲の妹で、武春とははとこ(又従兄弟)の幼馴染。 ★三上陽咲(みかみひなた) 名前のみ登場。武春の妻で、咲月の姉。 武春とははとこ(又従兄弟)の幼馴染で、幼少期からの許嫁。 【配役表】 三上武春: 右京咲月: ======================================= 001咲月:──お義兄さん、煙草。 002武春:んぁ? あー……。 003咲月:まだ、止められていなかったんですね。 004武春:あぁうん、……いやごめん、怒らないで。 005咲月:怒っていませんよ。 006武春:目が笑ってないよ。 007咲月:人相が悪いのは元からです。 008武春:そう?      ひーちゃんとそっくりなんだから、さっちゃんも笑ってた方がいいと思うよ。 009咲月:……。 010武春:まあ、俺はどっちでもいいんだけど。 さっちゃんと会ってる時くらいは、息抜きさせて。 011咲月:それ、いつも仰いますね。 012武春:いつも思ってるからね。 013咲月:ヨシヒロ伯父様が亡くなってから、アイコ伯母様がいい顔をなさらないので、 014武春:<遮る> 煙草は止めた方がいい、うん、そうだね。      でもさー。 ひーちゃんがさ、煙草吸ってる時の俺が一番格好良いって。      言ってるんだから、仕方なくない? 015咲月:……皆さん、私に仰るんですよ。 タケハルくんはさっちゃんと仲良しだからって。 016武春:煙草止めるように言えって事? すげー嫌味。 悪いね、なんか。 017咲月:風当りが強いのは、いくらか慣れていますので。 018武春:あー……タロ叔父さん、また出馬するの。 再来年だっけ。 019咲月:ええ。 020武春:ヨシ叔父さんがー……肺癌だっけ? あの人もあっという間だったな、引き継ぐ間もなく。 021咲月:大爺様がタロウ叔父様に事業の引継ぎをと打診なさったのですが、出馬の 022武春:やめよ、この話。 今日くらいさ。 俺も煙草止め止め。 023咲月:そう、ですね。 すみませんでした。 024武春:いいえ。 ……とはいえ、だ。 何の話しよっか。 025咲月:この間。 026武春:ん。 027咲月:ラジオ局の方が、いらして。 028武春:ラジオ? どこ? 029咲月:県内放送の。 030武春:ああ、タロ叔父さんの。 031咲月:そう、番組の。 ディレクターの方が、姉と同じ大学のご出身で。 032武春:へー。 033咲月:よく似ていらっしゃいますね、と仰って頂いたのですが、……。 034武春:<苦笑する> 大学のって事は、アレか、ミスコンの。 035咲月:<苦笑する> 仰っていましたね。 036武春:いやぁ、はは。 我が妻ながら、あの総取りはすごかったもんな。 037咲月:そうですね。 038武春:て事は、さっちゃんの笑顔もミスコン総取りなんだろうな、うん。 039咲月:私はこの愛想でしょう。 褒めて頂いたのに、ちょっと困らせてしまいまして。 040武春:あらら。 んー、さっちゃんはさっちゃんで、凛としてるけどね。      可愛げはひーちゃん、凛々しさはさっちゃん。 よくいうじゃない、みんな違ってみんないい。      俺も世間体に染まってる訳で、笑ってた方がいいよとは言うけど。 041咲月:<苦笑する> 042武春:ソイツもさ。 さっちゃんがあんまり凛々しいから怯(ひる)んだだけだよ。 043咲月:だと、いいんですけれども。 044武春:男なんてそんなモンよ。      自分より優秀な女の子を見つけたらおだてて取り入るか、遠巻きに可愛がるか、嫌うか。      そういう小さい生き物なの。 内緒だよ、さっちゃんだから教えてあげる。 045咲月:ふふ。 046武春:やっと笑ったぁ。 ちなみにコレは俺個人の見解だから、言いふらさないようにね。 047咲月:冗談という事ですね。 048武春:そ。 049咲月:下手ですね。 050武春:下手でもいいの、さっちゃん笑ったから。      俺だってひーちゃん絡みで昔から散々、周りに色々言われたよ。      それでさ、高校の頃。 ひーちゃんが教室にお弁当持って来る度に喧嘩してさ。 051咲月:お弁当? 052武春:ひーちゃん俺の分まで弁当作って持って来てたの。      周りが冷やかすからって断ってたんだけど、許嫁だもん、って言われて。 053咲月:そうでしたか。 054武春:周りも面白がるのよ、今時許嫁なんてさ。      そうか、さっちゃんは俺達と丁度三つ違うから、一緒だったのは小学校が最後か。 055咲月:そうですね。 お義兄さんとは、小学校の登校班くらいでしょうか、一緒だったのは。 056武春:あぁー……あー、懐かしい。      さっちゃん、初めて登校する時さ。 すごい泣いてたの覚えてる? 057咲月:……覚えて、ないですね。 058武春:学校が遠くて嫌だって、泣いてさ。 ひーちゃんが怒って手引っ張って、喧嘩してさ。      最終的に俺がおんぶしたんだよ。 九歳が、二十分。 あの頃は根性あったなぁ、俺。 059咲月:……すみませんでした。 060武春:ふ、ふふ、ひーちゃんが顔真っ赤にしながら、ランドセル三つ抱えてね。      さっちゃんが学校の前の橋渡った辺りからずーっと、      ハルちゃん、さっちゃん重たいよね、ごめんね、って泣いてて、 061咲月:すみませんでした。 062武春:ごめんごめん。 はー……今じゃ立派な議員秘書だもんなあ。      俺の中ではずっと、泣いてひーちゃんに怒られてる小さい妹なんだけどな。 063咲月:それは、……姉が意地悪を言うからで。 064武春:まあ、まあ。 気が強いだけで、意地悪ではなかったでしょ。      俺にはあの頃、面倒見が良いお姉ちゃんに見えてたけど。 065咲月:傍から見ていれば、そうなんでしょうね。 066武春:姉妹だと男兄弟とはまた感覚が違うのかな。 一人っ子だからわからないけど。 067咲月:<苦笑する> 許嫁の話が、まとまった頃でしたから。 068武春:んー? あー、成程。 小学生女子のヤキモチね。 069咲月:まあ、はい。 気が強いので。 070武春:気が強いねえ、気が強い姉と愼ましい妹、お決まりっちゃお決まりだな。 071咲月:お義兄さんは嫌ではなかったんですか、許嫁の話。 072武春:えっ? 今聞く? 073咲月:あの、話した事が、聞いた事がなかったなと、思ったので。      聞けませんでしょう、中々、こんな事。 074武春:嫌だった、って言ったら? 075咲月:……まあ、でしょうね、と。 076武春:そうでしょ。 いや、嫌ではないんだけど、別に。      ホントだよ、じゃなきゃ俺は結婚なんてしなかっただろうし。      子供の頃は何も考えてなかったと思うよ。 冷やかされてもそういうモンだと思ってた。      ひーちゃんがどう、じゃなくて。 作家続ける条件って言われるとね、どーにもね。 077咲月:そうですよね。 078武春:俺にどう言って欲しかった? 079咲月:どう、とも。 080武春:そ。 本当、イイ女になったね。 081咲月:そうですか。 082武春:じゃなきゃこうしてさっちゃんと会ってないよ。 083咲月:あの、手。 084武春:いいじゃんいいじゃん。 たまにはね。 嫌? 085咲月:別に嫌とは言って 086武春:<遮る> でしょー。 じゃあ繋いでてよ。      俺はさっちゃんと仲良しなんでしょ? じゃあ手を繋ぐくらい、いいじゃん。 087咲月:何考えてるんですか、 088武春:今日でココに来るの、最後にしようと思ってるんだ。 089咲月:……それがいいかと。 090武春:でしょう。 だから、ね? 最後に。      小学生の頃の話してたら、懷かしくなっちゃった。 あの頃と同じ。 091咲月:……。 092武春:モテ期だったな、人生最大の。 両手に花、右手にさっちゃん、左手にひーちゃん。 093咲月:意地の悪い人ですね。 094武春:そう? そんな事ないよ。 紳士だよ、俺。 095咲月:……確か、左利きでしたよね。 096武春:ん? うん。 097咲月:どうしていつも、姉じゃなくて私が右手だったのですか。 098武春:え、あれ? そうだったっけ。 よく覚えてるね。 099咲月:ほら。 あの、車道に面している場所を歩く時に、その。      日本では右側通行なので、ほら、庇うだとか、……。 100武春:あー。 あはは、そこまで考えてないよ。 小学生の頃だよ? 101咲月:で、すよね……。 102武春:<笑う> さっちゃんが一番小さいからね。      俺とひーちゃんは同い年だけど、さっちゃんが一番小さいから。      道路から一番遠い所、歩くように。 何かあったら守れるように。 103咲月:……考えてるじゃないですか。 104武春:って、そういえば母さんに言われたなって、今思い出した。      そうかぁ。 俺律義に守ってたんだなあ。 105咲月:……。 106武春:よかったよなぁ、あの頃は。      親の言う事を聞いていれば何もかもできて、良い子でいられて、何もかも保証されてた。 107咲月:私は窮屈でしたよ。 108武春:そりゃね。 本家のお嬢さんはね。      俺ですら、他所の子が羨ましいなって思ったのは一度や二度じゃなかった。      友達の家に遊びに行ったら、お母さんがおやつを持って来てくれて驚いたよ。 109咲月:ああ、私と姉、応接間はどちらですか、って友達の家で言った事ありますよ。 110武春:マジ? 111咲月:はい。 団地で。 112武春:ははは! 113咲月:姉の友達の家に、連れて行ってもらって。 そこのお母さんに。      ウキョウさんのお家の子なのね、って笑っていらして。 114武春:うん、うん。 今思い出しても羨ましいよな、ああいうの。      お帰りって言われる家。 学校から帰ったら、応接間で大人が金の話をしてない家。 115咲月:そうですね。 116武春:大方、ラップで包んだホットケーキが出てくるんだ、蜂蜜が入ってるの。 117咲月:三角に切ってあって、寒いと炬燵に入ってるか、ストーブの前に置いてある。 118武春:そうそう。 いいよなぁ、ああいうの。 119咲月:羨ましかったですね。 120武春:最初はそうして持てなしておいて、ミカミさんのご子息に怪我をさせたら大変だ、って。      ……段々遊ばなくなるんだけどな。 121咲月:……。 122武春:無言の肯定? 123咲月:そう、ですね。 124武春:<苦笑する> まあ、うん。 仕方ないんだけどな。 125咲月:大爺様がいなければと、……お義兄さんは、思った事はありませんか。 126武春:あるよ、全然ある。 口に出さないだけでうちの親族、みんな一度は思ってるだろ。 127咲月:私、小学生の頃に。 サツキちゃんは地主のお家の子だから、      サツキちゃんに怪我させたら、パパとママのお仕事なくなっちゃうから、怖いから遊ばない、って。      言われた事があって。 128武春:友達に? 129咲月:はい。 130武春:ソレも中々キツいな。 その子も親に言われたんだろうけど。      俺はソレ聞いたの、友達のお母さんだったな。 どこから聞いても嫌になるんだろうけど。 131咲月:はい。 私その時、あんまりショックだったから。      おじいちゃんなんかいなければいいのにと言いましたよ。 132武春:え、言ったの、大爺様に? 133咲月:そう、本人に。 134武春:すごい。 135咲月:だから、同じ経験がお義兄さんにもあったのかな、と思って。 136武春:俺はそんな事言えなかったよ。 親相手にも、反抗期なんて一度もなかった。      度胸あるね、多分この村で一番度胸あるよ。 大爺様、何て? 137咲月:何も言いませんでしたよ、祖父も両親も。 姉には、叱られましたが。 138武春:ひーちゃんが? 怒ったの? 139咲月:まあ、その頃色々。 あったんですよ。      中学生になってから、祖父には謝りました。 140武春:そう、えらいね。 141咲月:<笑う> 謝った後で、フグの懐石を二人で、食べに行きました。 142武春:ははは! 爺様、渋いな。      孫とはいえ女子中学生だろ。 もっとなかったのかよ。 143咲月:じいちゃんはこういう事しかわからないから、って。      事業はできても、じいちゃんは仲直りの仕方がわからなくてごめんな、って。 144武春:ああ、ああ。 あの人はそういう所がモテるんだろうな、人にな。 145咲月:これ。 一応は私と祖父だけの、内緒の話だったので。      ついでにもう一つ暴露してもいいですか。 146武春:うん、いいよ。 なぁに。 147咲月:姉はそれで、家の事で、先輩にいじめられたって言ってましたね。 148武春:えっ。 何それ、嘘、知らない。 149咲月:暴露だって言ったじゃないですか。 中一の時、三年生の先輩に。 150武春:え、えっ? それ本当? 151咲月:足を骨折してたの。 覚えてないですか。 152武春:……え。 153咲月:はい。 先輩に階段から突き落とされて、足が手すりの柵に絡まって。 154武春:え、えっ。 俺、なにも聞いてない。 階段から落ちて折ったって。 155咲月:でしょうね。 エミ伯母様の病院と、大爺様が片付けたので。 156武春:……ああ、そうなんだ。 157咲月:酷かったですよ。 治療費と口外しない旨を織り込んだ和解金と。      その、先輩のお父様の解雇と。 158武春:お父さんはどこの系列の従業員、……もう十年以上前の話か、聞かない方がいいかな。 159咲月:事故、ですから。 160武春:うん。 161咲月:私、未だに忘れられないですよ。      大爺様の怒鳴り声と、加害者側のお母様が泣いて土下座を為さってる姿と。      私と姉で応接間を盗み見していて。 姉が、私に小さい声で、ざまあみろって、耳打ちして。 162武春:──……うん、だよねぇ……。 ひーちゃん、自分で足、柵に突っ込んだんだ。 163咲月:一応は無我夢中だったそうですよ。 どうにか仕返しを、と。      あの階段から踊り場への落下なら、そんな事しなくても大事になったかもしれないのに。      ざまあみろ、って。 聞いて、私が呆気に取られていたら、足以外は元気なのって。 164武春:うん、うん、ケロッとしてるの、想像できるよ……。 165咲月:私も長年ソレが面白くなかったので、今こうして口外しているんでしょうけどね。 166武春:ひーちゃんが? 加害者の先輩が? 167咲月:両方が。 いじめもその仕返しも、馬鹿馬鹿しいでしょう。      結局そんな無茶苦茶な形でも身内を守りたい、守らないといけない大爺様に全てが向くんですよ。 168武春:ああ、……結局ね、そうなるんだよね。 大金を動かせるっていうのも損だな。      だから出馬も面白くない爺様の風当たりがどうこう、……止め止め止め。      嫌だね、狹いコミュニティで守られて生きて、今もそこで澱んでて。 169咲月:言う事を聞いていれば、何もかも保証されているんですけどね。 170武春:嫌味? 171咲月:どうでしょうね。 でも、私も澱んでいるうちの一人ですよ。      お飾りの議員秘書なんて、その筆頭ではないですか。 172武春:お飾りなんかじゃないでしょ。 親戚連中みんな褒めてるよ、立派な秘書だって。      どんな評判でも、売れない小説書く為だけに、本家のお嬢さんもらった俺よりはマシでしょ。 173咲月:その本家のお嬢さんが、お義兄さんにゾッコンなんですから。 美談ではないですか。 174武春:仕返しの為に自分の足を折るお嬢さんだけど? 175咲月:そのくらい度胸があったから、大成半ばの作家先生に嫁げたのではないですか? 176武春:そう? 177咲月:自慢の、姉ですよ。 178武春:言うねえ。 179咲月:それくらい、仲が良かった姉妹なんです。 180武春:<笑う> そうだねえ。      ははは。 さっき狹いコミュニティで云々、言ったけど。      守られてるのか、閉じ込められてるのか、閉じ籠ってるのか。      わかったモンじゃないね、俺達。 181咲月:両方、まあ、取り方によるんでしょう、こういうのは。 182武春:ならポジティブに取りたいモンだけどねえ。 183咲月:最(さい)たるものがあるじゃないですか。 184武春:んー? ポジティブ? 185咲月:はい。 あれ程の規模の結婚式は、中々見られませんでしょうに。 186武春:<苦笑する> ああね、そうだねえ。 187咲月:相場の何倍の費用でしたっけ。 188武春:ん。 <手を広げて見せる> 189咲月:ほら。 190武春:ああいうのはさ、花嫁さんと、招待客の皆さんの為に設ける場だから。      それこそお飾りだよ、新郎は。 その費用も大爺様の懐から出てる訳だし。 191咲月:女なんてそれで喜べるモンなんですよ。      思い通りになる男を見つけたらおだてて擦り寄るか、思い通りにならなければ、嫌うか。      そういう小さい生き物なんですよ。 内緒ですよ、お義兄さんだから教えてあげます。 192武春:……おぉー。 酷い意趣返しだなぁ。 お見事、お見事。 193咲月:<笑う> それでも、幸せそうでしたよ。 194武春:そう? 195咲月:はい。 196武春:今より? 197咲月:はい。 198武春:……そ。 さっちゃんも大人みたいな事、言うようになったね。 199咲月:怒ってますか? 200武春:少しね。 俺も、大人になれたらよかったんだけどね。      親の名前の招待状を持って、嬉しそうにしてるひーちゃん見て、……。 201咲月:お義兄さん? 202武春:……ちょっと情けなかったな、って。 今のはその八つ当たり。 ごめんね。 203咲月:いえ……、私もずけずけと、すみません。 204武春:いーえ! そう、うん。 結婚式の後もひーちゃん、嬉しそうにしてくれてたからさ。      料理上手で、何をやっても人よりできて、なのに、全部俺に向けてくれて。      それでよかった。 俺が自分で思ってたより欲張りだったんだよ、ははは。 205咲月:ずっと、聞きたかったのですが。 206武春:んー? 207咲月:お義兄さんは。 姉をちゃんと、そういう意味で好きなんですか? <間。> 208武春:勿論。 俺はひーちゃん好きだよ?      じゃなきゃ、家が決めた許嫁とはいえ流石に結婚までしない。 209咲月:そうですか。 210武春:許嫁で、あんなに美人で気が強いのに、ずっと俺の後、ひよこみたいについて来て。      俺からは何一つ与えられない癖に。 自慢の材料にしたいだけかもしれないけどね。 211咲月:自慢ですか。 212武春:自慢なのか、不幸自慢なのか。 もうわかんないけどね。      そういう意味で、なら。 俺、さっちゃんも同じくらい好きだしさ。 213咲月:……そう、ですか。 214武春:いやぁー、さぁ。 もうお義兄さんじゃなくて、いいんじゃないかな。 215咲月:……。 216武春:昔みたいにハルちゃん、の方がやりやすいんだけどな、俺。 白々しいよ、笑っちゃうよ。 217咲月:……じゃあ、さっちゃんも、勘弁してよ。 218武春:わかった、わかった。 もう三回忌だもんなぁ。      ま、そういう訳で俺は、こうしてひーちゃんの墓に来るの、止めるよ。      じゃないと俺が生きていけない気がするんだよ。 俺が墓石になりそうなんだ。      俺自分勝手かな、どう思う、サツキ。 219咲月:……先に死んだお姉ちゃんの方が、ずっと勝手だとは思うけど。 220武春:<笑う> だよなぁ。      チビの頃からあんな追っ掛けてきた癖に、結婚したら二年でぽっくりよ。      <黙る咲月を見て> ……ぽっくりは、違うか。 221咲月:事故、だから。 222武春:んだなぁ。 三回忌って、早いな。 223咲月:そうだね。 224武春:もう行こうか。 225咲月:うん。 水桶返さないと。 226武春:うん。 <二人、墓前から立ち去る。> 227咲月:まだ手、繋ぐの。 228武春:繋ぐよー、ずっと繋いでる。 あーあ。 風当りが強いの、俺も慣れていかないとなー。      今は大爺様と父さんのお目こぼしで作家、続けていられるけど。 でもなぁ。      いっそ上京でもするかな。 バツイチ、死別、まだ三十三だしどうにでもなるだろ。 229咲月:いいんじゃない。 230武春:あら、そう言ってくれる? 231咲月:新しい本、出すんでしょ。 232武春:あれっ。 233咲月:見てる、ツイッター。 234武春:そう、ありがと。 235咲月:結婚が条件って、そんな時代遅れな話 236武春:お宅のおじいちゃんが言い出したんだよ、一応は。 237咲月:……孫馬鹿だから。 孫馬鹿の、時代遅れな与太話に付き合わせたんだから。      もっとうちに甘えてもいいんじゃないの。 238武春:そーね、うん、考えとく。      孫馬鹿、確かになあ。 目に入れても痛くないってアレまさに、だよね。      葬式であんなに泣いてさ。 アレが一番堪えたな、今思い返しても。 239咲月:するの。 上京。 240武春:ちょっと言ってみただけだよ、多分上京しないよ。      した所で、野垂れ死にするのが目に見えてる。 死にたくはないんだ、俺。 241咲月:そう。 242武春:嫌だね、すっかり寡(やもめ)生活が板についたよ。 駄目だね卑屈で。      あんな良いお家からろくでなしの金食い虫についてきて、俺が帰り急がせた所為で、あんな事故で死んで。      ひーちゃんは本当に幸せだったんかね。 墓さえ見捨てて、祟られるんじゃないの、俺。 243咲月:お墓は、私達で面倒見るから。 <武春の手を振り払う> 244武春:あ、……。 サツキ、歩くの早いよ、ちょっと。      サツキまで俺の事置いて行かないでよ、 245咲月:みんな、色々言うけど。 246武春:んー? 247咲月:お姉ちゃん、ドライブ好きだったんだよ。 248武春:……まあ、うん。 249咲月:あの峠道だって。 私、危ないから、通るの止めなよって言った事あったよ。 250武春:うん。 さっちゃんが怒るけど、あの道国道より早いからって言ってて 251咲月:<遮る> お姉ちゃん幸せだったよ。 252武春:──……。 253咲月:ひーちゃん、幸せだったよ。      我儘言ってあんな大きい結婚式して、ハルちゃんと暮らして、      ずっとずっと我儘ばっかり言って、人の事振り回して、勝手に死んでさあ。 254武春:うん。 255咲月:ざまあみろだよ。 私がずっと、ハルちゃんの代わりに言っててあげるよ。 256武春:うん。 257咲月:ひーちゃんが死んだのは、ハルちゃんのせいじゃないよ。 258武春:……。 259咲月:だって、あの頃。 小学生の頃。 ひーの方がハルちゃんといた時間が長いからって、      産まれてからずっと一緒で、だから、結婚するのはひーの方だもん、って、      <泣きながら> ずっと好きだもん、ハルちゃんと結婚して、      一緒に幸せになるのは私なんだよ、って。 言うんだよ。 ずっと、言ってるんだよ。 260武春:<一瞬怯んだ後で笑う> そっか、そんな事言ってたんだ。 261咲月:じゃあ、これから、これからはさぁ。 262武春:嫌な事言うなぁ。 うん、それは意地悪だ。 そうか、そうか。      気が強いのは結構だけど、妹にそんな意地悪言うなよ。 なあ? 263武春:もう、サツキの方が、一緒にいる時間が長くなるばっかりなんだけど、なあ。 2015.5.1 初版 羽白深夜子 2019.10.13 更新 羽白深夜子 2021.7.28 更新 羽白深夜子 2023.1.25 更新 羽白深夜子 2023.2.5 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 サイトへ戻る