最終更新:2024/5/1
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【監獄ドックイヤー】 (かんごくどっくいやー) 男性1、女性1。 反社会的描写を含みます。 有償版販売ページは
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。 【八坂 士郎(やさか しろう)】 33歳男性、営業職。 三年前から妻の不倫に気付き、結婚生活を続けたまま部下の恵真と不倫している。 移動を伴う栄転の話が持ち上がっている。 【新橋 恵真(にいばし えま)】 25歳女性、営業職。 新卒で現在の職につき、上司の士郎と不倫中。 【配役表】 矢坂士郎: 新橋恵真: ======================================= <新宿駅構内。士郎が歩く後ろを、恵真がついていく。> 001恵真:……。 002士郎:……。 003恵真:……あー、やぁっとホーム着いた! <士郎に抱き着く> 004士郎:驚いたなあ。 同じ車両に乗ったのは初めてだったね。 005恵真:ヤサカさん、歩くの早いよ。 一回ルミネの前で見失ったよ。 006士郎:焦っててそれ所じゃなかった。 ごめん、ついて来てるのはわかってたんだよ。 007恵真:電車の中でも不審者みたいだった。 008士郎:ニイバシがいたから、別の車両に移ろうかって。 009恵真:それでソワソワしてたんだ。 移ってもよかったのに。 010士郎:ニイバシの後ろにいた男の子が、ずっとケータイ持ってたんだよ。 盗撮じゃないかと思って、その。 011恵真:考え過ぎ! 今の子はあんなモンだよ。 012士郎:エマだってこっち、チラチラ 013恵真:<遮る> あー。 新宿出るまでは? 014士郎:……悪い、ニイバシさんだってこっちチラチラ見てたでしょ。 015恵真:うん。 私はヤサカさんがこっち見てたから見てたんだよ。 016士郎:はいはい、そうですか。 017恵真:そうですよ。 あ、電車来た! 行こ、行こ! <箱根。レンタカー車内。> 018恵真:あぁー海見えた! 箱根、やっぱいいなぁ箱根! 019士郎:<笑う> やっぱいいですか、箱根。 020恵真:やっぱいいんですよ。 いつも運転ありがとうございます! 021士郎:いいえ。 そうだ、エマが行きたいって言ってた店、雑誌に載ってたよ。 022恵真:本当? 行きたい! 023士郎:明日行こうか。 鞄、雑誌入ってるから。 見て。 024恵真:うん。 ……ねー、いつも思うんだけど。 こうして雑誌の端っこ折っちゃうの、雑誌痛むよ? 025士郎:ん? こうした方がわかりやすいんだよ。 長く保管する物でもないから。 それに、ドッグイヤーにしとけば、楽しみがこれだけあるってパッと見てわかる。 026恵真:ドッグイヤー? 027士郎:犬の耳に見えない? 028恵真:こうして、折っておく事をいうの? 029士郎:そうそう。 030恵真:ふうん、私もやろうかな。 031士郎:雑誌痛むよ。 032恵真:意地わ、 <士郎の電話が鳴る> ……電話。 033士郎:知らない番号だ。 034恵真:えっ。 035士郎:一旦車停めるから。 036恵真:う、うん。 037士郎:──もしもし。 ……はい、そうですが。 ああ、妻がお世話になっております……え? ……ああ、はい。 あーそうですか、わかりました、ありがとうございます。 僕からも連絡を入れてみます。 ありがとうございました、はい、はい。 <終話> 038恵真:……奥さん? 039士郎:が、体調崩したらしくて。 040恵真:ええ!? 帰らないと、 041士郎:いいよ。 ごめんな、こっちの電話は切っておこう。 042恵真:よくないよ、私は会社さえ休みなら空いてるから、今日は奥さんの所に、 043士郎:前に話したパート先の店長が、車で送って行ったって。 044恵真:……不倫相手の人? 045士郎:そう。 だから、エマは心配しなくていいんだよ。 あっちの話じゃ、僕は出張でいないから連絡はいいと、妻が言ったそうだから。 046恵真:……、でも連絡きちゃったんだ。 お節介だね。 047士郎:<笑う> おばちゃんが多いからなあ。 あっちに着いたら、メールだけ入れてみるよ。 いい? 048恵真:うん。 お大事にして下さい、って。 049士郎:言えないからね、僕が受け取るよ。 ありがとう。 <車を発進させる> 050恵真:……。 051士郎:……お嬢さん、海、見えてますよ。 052恵真:あ、うん、うん……。 053士郎:<苦笑する> あからさまにヘコまない。 054恵真:……。 055士郎:妻にやり返したくて、付き合ってもらってるだけなんだ。 今頃電話をくれたお姉さん方もきっと笑ってるよ。 あの旦那さん、三年も不倫されてるのにねって。 056恵真:いやそんな、 057士郎:でも僕だってエマがいる。 それがとても、精神的に助かってるよ。 僕の移動まではよろしくね。 最初に話した通り、何かあったら何も知らなかった、って。 既婚者だって知らなかったって、言ってくれていいから。 慰謝料も適切な額を、ちゃんと渡すよ。 なにも心配しないで。 058恵真:……うん、わかった。 059士郎:はい。 硝子細工の体験だっけ、行くんだろ? 060恵真:うん。 061士郎:じゃあほら、元気出して。 062恵真:うん、うん……移動、栄転になるんだっけ。 063士郎:そ、支部長。 時期だけまだ、近々とは。 064恵真:目途も立ってない? 065士郎:<笑う> 立ってないよ。 なに、僕そんな悪人に見える? 066恵真:悪人? そんな事ないよ? 067士郎:そんなにすぐ、別れたりしないよ。 068恵真:…… <苦笑する> そっか。 いやぁー支部長殿、今後ともよろしくお願いしますね、ね。 069士郎:いいからそういうの。 ほら、行きますよ。 <箱根、旅館の一室。> 070恵真:あー、さっぱりした。 いいね、家族風呂って。 071士郎:……さっぱりしたって言われると、なんかな。 072恵真:ん? なんかって、なに? 073士郎:する事済みました、みたいなさ……。 074恵真:違うよ! そんな意図全然なかったよ! 考えすぎだよ! 温泉が! よかったんだよ! 075士郎:あ、そう? のぼせてない? 076恵真:のぼせてない! 変な風にとらないで! もー、考え方おじさんだよ! 077士郎:そっかー。 おじさんだからなー。 078恵真:アイス、セクハラ料で食べるからね。 079士郎:ダメだよ僕ダッツ買ったんだから。 080恵真:え、ダッツ買ったの! 一口、ね、一口! 081士郎:いいよ。 エマは? 何買ったのソレ、……何味? スイカ? 082恵真:フルーツレモンティーだって。 なんで旅館ってこう、ちょっと独特なアイスバー置いてるんだろうね。 083士郎:思い出に残るようにじゃない? いいな、そのキウイの所。 頂戴。 084恵真:いいよ。 思い出どこも結構いい値段するなぁ。 コレ四百五十円だよ。 085士郎:僕のダッツと同じ値段だ。 ゴミ頂戴。 086恵真:ん。 ……ねぇ、一個お願いしていい? 087士郎:何? 088恵真:座って。 089士郎:ん? ……はい、座りました。 090恵真:もうちょっと奥、そう。 それで、脚広げて。 091士郎:こう? 092恵真:そう。 わーい。 <士郎の足の間に座る> 093士郎:お願い、コレ? 094恵真:これ。 ダメだった? 095士郎:いいよ。 さっきのセクハラ料ね。 096恵真:わかった。 097士郎:で、これは何ですかね、エマさん。 098恵真:昔お父さんが、お風呂上りにこうして抱っこしてくれたなって。 099士郎:え。 100恵真:なに。 101士郎:うわ、娘可愛いな。 これってパパ抱っこして、って事でしょ。 102恵真:そうだよ。 パ、…… <吹き出す> 103士郎:<笑う> 意味が全然違っちゃうけどね。 今は。 104恵真:あはは、自分で言ってヘコむ所だった。 105士郎:うん。 へー、いいな女の子。 僕男兄弟しかいないから。 106恵真:末っ子だっけ。 107士郎:そう、四人兄弟の末っ子。 そういうのなかったな。 お風呂出たら四人でチャンバラごっこして、母さんに怒られて寝てた。 108恵真:いいなー。 お兄ちゃん達遊んでくれたんだ。 109士郎:歳が近いんだよ。 一番上が三つ上で、上の兄貴が二つ上で、双子でさ。 110恵真:え! 双子ってやっぱ顔似てるの? 111士郎:一卵性だからそっくりだよ。 アニメみたいに喋る事ハモったりもする。 昔、兄弟で僕だけ女顔だったから、女の子の服着てた時期があって。 112恵真:えー! 嘘だぁ、見たい! 113士郎:写真あるかなぁ。 母さんに聞いてみるよ。 兄貴が逐一、可愛いってハモってたんだよな。 ほら、ダッツ。 114恵真:あ。 <士郎を振り向いて口を開ける> 115士郎:……えー。 116恵真:スプーン持つの、面倒臭い。 117士郎:じゃあ、ピィって三回鳴いたらあげるよ。 118恵真:ピィピィピィ! 119士郎:<笑う> わかっ、わかった、どーぞ。 120恵真:……コレ何ダッツ? 121士郎:マカダミアナッツ。 122恵真:えー美味しい! ピィピィピィ! 123士郎:僕の分なくなるよ。 124恵真:ナッツいなかったよ、さっき! 125士郎:そんな事ある? 126恵真:あった! 127士郎:はいはいはい…… <アイスを食べさせる> ナッツいた? 128恵真:今度はいた。 えー美味しい、初めて食べた、今度買って食べよう。 129士郎:そうして下さい。 130恵真:こっちも食べる? 131士郎:待って。 ダッツ食べ切る。 132恵真:ん。 大人って贅沢だねぇ。 こんな時間から温泉入って、アイス食べても何も言われなくて。 133士郎:ビール買ってあるよ。 134恵真:え? いつ買った? 135士郎:売店で。 アイスと一緒に買っておいた。 136恵真:じゃあ、後でお金払うね。 137士郎:いらないよ。 いいよ、そのくらい。 138恵真:よくない、お金の切れ目が縁の切れ目って言うじゃん。 139士郎:三百二十円が? 140恵真:高いね。 払うって。 141士郎:いいの。 ほら、そっちのアイスも頂戴。 142恵真:……んー。 <不服そうにアイスを差し出す> あっ! <士郎に手を掴まれる> 一口大きい、あーっ! 苺も食べた! 143士郎:ご馳走様、ビール代です。 144恵真:……そんながっついて、歯、沁みないの……。 145士郎:早く食べないと溶けちゃうよ。 146恵真:ん、 147士郎:<笑って、恵真の頭に顎を乗せる> ……もう、日が暮れるなぁ。 148恵真:暮れるね。 食事、部屋に持って来てくれるんだっけ。 149士郎:そうだよ。 150恵真:大浴場は? 行っとく? 151士郎:僕は明日の朝行くからいい。 152恵真:……シロウさーん。 153士郎:なーにー。 154恵真:頭、頭重いよ。 155士郎:嘘だ、軽く乗せてるって。 156恵真:思いっきり顎、乗せてるでしょ。 頭カクカクするよ。 157士郎:<思い切り口を開けて> なぁーにぃー。 158恵真:ねえアイス食べにくいよ! 159士郎:手伝おうか? 160恵真:いい、いい! もー……。 161士郎:早く食べちゃいなよ。 溶けちゃうよ。 162恵真:<笑う> うん。 ごめんね、食べるの遅くて。 163士郎:別の食べ物ならいいんだけどね、アイスはね。 164恵真:うん。 165士郎:なに? なんか、楽しそうだけど。 166恵真:……シロウさん、お父さんと同じ事言うって、思って。 167士郎:悪かったね、おじさんで。 168恵真:違うよ。 私の事、脚の間に座らせて。 アイスだけは食べるの急かしたなって、思って。 他の物はゆっくり食べなさいって言うのに。 169士郎:エマ、兄弟いたっけ。 170恵真:一人っ子だよ。 だからココ、私だけのお席だーってずっと思ってたの。 171士郎:思ってたって? 違うの? 172恵真:若い頃お母さんとデートした時も、同じ事してたんだって。 なぁんだ、私だけじゃないんだ、って思って、やめたの。 お父さんの常套手段だったの。 173士郎:成程。 仲良かった? 女の子って、男より父親離れが早いイメージあるからさ。 174恵真:人並みなんじゃない? 中学生になる頃にはあんまり話さなくなったし。 175士郎:今は? 176恵真:人並みかなぁ。 たまに、ラインくるぐらい。 177士郎:そっか。 178恵真:うん。 ん、食べ切った。 カラ頂戴、捨ててくるから。 179士郎:いいよ。 後で片付けるから。 こっち頂戴。 180恵真:ん。 ……んん? なに? 181士郎:お父さんの話して。 182恵真:お父さんの? 183士郎:うん。 何でもいいよ。 184恵真:……んー。 テレビで野球見てキレてて、うるさかったな、とか。 185士郎:この体制で? 186恵真:そう。 煙草吸って、ビール片手に野球見てて。 私がお風呂上がったら、エマ、お父さんアイス買ってあるぞ、って座らせて。 187士郎:うん。 188恵真:夏時はね、絶対チョコアイスが買ってあるの。 あの何本か入ってて安いヤツ。 私が座ったら煙草はお終いにしてくれるんだけど、 てか、お父さんに煙草吸わせない為に、お母さんにアイス持たされたんだけど。 189士郎:はは、うん。 190恵真:もうビール結構飲んでるんだよ、その頃には。 もー贔屓のチームが負けるとさ、うるさいのなんの。 挙句不貞腐れて、宿題しろよ、って言いながら寝ちゃうの。 次の日も漁あるから。 191士郎:宮城だっけ。 いいな、行きたいな。 192恵真:今度行ってみる? 193士郎:うん。 お父さん、エマに甘えてたんだね。 194恵真:そうかな。 195士郎:だと思うよ。 196恵真:ねぇ、今日私話してばっかりだよ。 あと頭、頬っぺた乗せてるの、重いよ。 197士郎:重くないよ。 軽く乗せてるし。 198恵真:そ。 シロウさんは? お父さん。 199士郎:僕は父が商社マンだったから。 僕が起きる頃には出掛けて、寝てから帰って来てたよ。 だから、兄貴達に遊んでもらった事ばっかり覚えてる。 200恵真:エリートだ。 201士郎:そんな事ないよ。 あの人はー……そうだ、確か部長になってすぐ、体壊して退職してね。 202恵真:そうなの? 今は? 203士郎:通院しながら在宅で翻訳の仕事、してるよ。 204恵真:翻訳? 205士郎:貿易関係の仕事をしてたんだ。 ずっとドイツ語で仕事してた。 206恵真:すごーい、やっぱエリートだ。 207士郎:<苦笑する> 体壊すまで働いて、それまで不仲だった母さんに頼ってさ。 わからないモンだよね。 子供の頃はいつか離婚するんだろうな、って思ってたのに。 今じゃあ、時々母さんとツーショットの写メがくるんだよ。 208恵真:え、見たい。 209士郎:えーっとね……、ほら。 家庭菜園が順調です、って。 210恵真:お庭大きいね、えー、すご……。 今は仲良いんだね。 お父さん、ハンサムだね。 211士郎:こう、なれたらよかったんだけどな。 212恵真:奥さんと? 213士郎:……、ごめん、忘れて。 214恵真:気にしないって。 最初から期間限定だって、決めてるんだからさ。 215士郎:……。 216恵真:もうこうなれないって事は、なくない? 217士郎:無理だと思う。 二番目の兄貴もさ、してるんだよ、離婚。 一度おかしくなったらもう、悪い方にトントン拍子だ、って。 何より、僕が無理だ。 218恵真:そっか。 219士郎:今、エマのさ。 お父さんの話、聞いてて。 彼女も、そうして大事にされてる時間があったろうに。 どうして僕はそれができなかったんだろうな、こういう話、してこなかったな、って。 220恵真:私そんなつもりで話したんじゃないよ。 221士郎:うん、わかってるよ。 わかってるから、僕の勝手な戒めだよ。 222恵真:そもそも奥さんが先に不倫したんだし、 223士郎:だから僕も不倫する、ってのは違うだろ。 224恵真:……違わないよ。 目には目を、歯には歯を、って、言うじゃん。 225士郎:何だっけそれ。 226恵真:そこまで覚えてないけど……。 227士郎:……変な話してごめん。 僕がさ、抱っこしてって事でしょ、可愛いって。 不意に口から出たんだ、そういう過去が、思い出があったんだろうな、って、思ったら。 落ち着かなくなっちゃってさ。 本当にごめん。 マナー違反だよな。 228恵真:……ううん、そんな事ないよ。 別にさぁ、私の前でくらい、大丈夫じゃなくていいよ。 229士郎:……そうか。 230恵真:離婚って、もう無理でも、何でも。 辛いと思うんだよ。 そういう時の為に私がいるんだよ。 多分。 231士郎:うん。 232恵真:宮城行こうね。 魚美味しいよ。 牛タンもあるよ。 食べるの遅いから、待っててね。 233士郎:うん。 234恵真:ドッグイヤーだっけ。 アレ、いっぱいしていいんでしょ。 235士郎:雑誌痛むよ。 236恵真:意地悪いなあ。 237士郎:<笑う> ドッグイヤーって、さぁ。 238恵真:ん? 239士郎:技術革新って意味もあるんだよ。 ほら、犬の一年は、人間で言う七年で。 240恵真:あぁ、耳のイヤーと、 241士郎:そう、年月のイヤーと。 そういう風にさ、犬みたいに、早く時間が流れてくれないかな、って。 来年になれば、僕は何かを許せるようになってるんじゃないかって。 七年、人が失踪すれば、七年経てば死亡したって判断してもらえるんだよ。 242恵真:それくらい長い時間って、事だよね? 243士郎:あと四年、それ以上、僕はこのまま何を待ってるんだろうかって、 244恵真:あと四年もあれば何だってできるよ。 思い出、いっぱい買えるよ。 ほら、思い出って四百五十円で買えるし。 縁の切れ目は三百二十円なんだよ。 さっき言ったじゃん。 245士郎:切りたい? エマは。 246恵真:……移動決まって、シロウさんが大丈夫になった時は、考えるかな。 247士郎:うん。 248恵真:……おつまみ、買いに行かない? 249士郎:いらない。 アイス食べたから。 250恵真:ほんとにいらない? 251士郎:……。 252恵真:……シロウさんが、大丈夫になるのは。 シロウさんにしかできない事だから。 253士郎:……うん。 254恵真:技術革新って、人が手を動かさないと、進まないと思う。 255士郎:うん。 ごめん。 256恵真:なんか今日、しょんぼりしてるワンちゃんみたいだよ。 257士郎:電話、驚いて……。 258恵真:そうだよね。 私もビビった。 259士郎:ごめん、本当に、今日。 260恵真:うん。 261士郎:エマ。 262恵真:何? 263士郎:宮城と、あとどこに行きたい? 264恵真:どこでもいいよ。 旅行好きだし。 265士郎:どこでも言ってくれていいよ、国外でも。 266恵真:えーっ。 そう言われると迷うなあ。 267士郎:沖縄は? エマ、寒いの苦手だから。 268恵真:いいね。 うん、じゃあ、次沖縄ね。 269士郎:ソーキ蕎麦食いたい。 後何だっけ、豚の耳。 270恵真:もっと近場でもいいよ。 271士郎:近場? なんで。 272恵真:<士郎を振り向いて> シロウさんと一緒ならどこでもいいよ。 あれ、ベタだった? 273士郎:……いいや。 わかった。 274恵真:ん。 やっと笑ったねえ。 275士郎:ずっと笑ってるよ。 276恵真:嘘だぁ。 277士郎:おつまみ、買いに行かないの。 278恵真:シロウさんと一緒じゃなきゃ行かない。 279士郎:じゃあ、今日は部屋から出ない。 280恵真:<笑う> うん。 シロウさん。 シロウさんの言うあと四年が、早く過ぎるといいね。 <都内、恵真の部屋。> 281士郎:<インターフォン越し> ──あ、エマ。 ごめんこんな時間に。 282恵真:シロウさんだ。 どうしたの、今日遅いね、今仕事終わり? 283士郎:まあ、ちょっと話したくて……、 284恵真:わかった、開けるね。 285士郎:<部屋に入る> ごめん、急に。 286恵真:走って来たの? 287士郎:そう。 ちょっと……、遅い時間にごめん。 288恵真:ううん。 さっき、この間の箱根のお土産、届いたから。 私から連絡しようと思ってたんだ。 289士郎:コレあれか、箱根のビスケット……、 お茶とか何もいらないから、ちょっと座ってくれる。 290恵真:え? ……うん。 わかった。 291士郎:ああ、ごめん。 メシ食う所だったんだ。 292恵真:食べてく? 293士郎:いや、大丈夫。 294恵真:……何か今日、落ち着きないね? どうしたの? 何、……。 え。 今、あっちからワンって。 295士郎:わかっちゃった? ちょっと待ってて。 296恵真:え、うん、うん……。 ──え? えー!? わぁ! ちょっと、どうしたのこの子!? 297士郎:<笑う> ごめん、はは、驚かせたくて。 知り合いに犬、保護してる人がいてさ。 今子犬いるよって、連絡もらって。 298恵真:わぁ、……。 299士郎:ペット飼えるマンションだって言ってただろ? 掛かる費用は僕が出すから。 パピヨンって犬種なんだけどね── 300恵真:シロウさん。 301士郎:ん? 302恵真:こういうのは、駄目なんだと思う。 303士郎:……え。 304恵真:プレゼントに、命一個、っていうのは。 305士郎:──……ごめん、浅はかだった。 306恵真:あ、ううん! 嬉しくなかった訳じゃないの。 飼いたいなとはずっと思ってて! ありがとう、懐っこくって、可愛いね。 307士郎:無理は、してない? 308恵真:してないしてない! 本当にありがとう! 309士郎:エマは仕事でも、そうでない時でも。 周りに黙って無茶をするから。 310恵真:そうかな。 311士郎:そうだよ。 だから、僕にも言えない事はこいつに言うといいよ。 小さいけど活発な犬種で、男の子だから。 いい番犬になる。 312恵真:そこまで考えてくれてたんだ、嬉しい。 こんにちは、おいで、おいでー……わぁ、本当、人懐っこいんだねえ! 313士郎:ゲージの中でもさ、コイツずっとテンション高くて。 なあ。 ごめんな、やっと外に出してやれたな。 餌とか最低限の物は買ってあるから。 足りない物があったらまた言って。 314恵真:いいの? 315士郎:うん。 316恵真:ありがとう、ええ、ありがとう本当に! ねえ、名前何がいいかなあ? 317士郎:名前はエマが付けな。 これから、エマを守ってくれる子なんだから。 318恵真:私を? 319士郎:移動、内々に、話があって。 ……それで今日、話し込んでて。 320恵真:……そっか。 あはは、急だね。 321士郎:それで、あのさ。 ここからの話は、信じてくれなくてもいい。 できれば信じて欲しいけど。 322恵真:な、何? 323士郎:……。 エマ、ごめん。 324恵真:シロウさん? どうしたの、 325士郎:……僕の子じゃ、ないんだ。 絶対に。 有り得ないんだ。 それだけは。 326恵真:──私にとって生活は、恋愛は。 檻だった。 仕事ではきっと寿退社を見越されて昇進はなく、実家の両親は未来の孫を夢見て話し始めた。 この歳で新しく友達や趣味を、っていうのも、微妙だし。 そもそも休みがない。 だから、恋愛なんてもっと億劫だ。 シロウさんみたいに、相手に不倫されてしまう事だって有り得る訳で、 結婚なんて、そんな相手とも一緒にいなくちゃいけない契約だ。 何もかもが八方塞がり。 そう思って。 きっとどこにも行けないのなら、それなりに気楽に、楽しく過ごせたらいいと思った。 優しくて、身綺麗で、適度にお金を持ってて、私を大事にしてくれて。 そんな人とたまの休みが過ごせたら、それでいい筈だった。 それがシロウさんだった。 今にも飛び下りそうな顔で外を見てた、シロウさんだった。 たったそれだけの事なのに。 327士郎:ほら、この子も耳が折れてるんだよ。 328恵真:……ねえ、そんなに寂しそうに鳴かないでよ。 私だって泣きたいよ。 これからどうすればいいんだろう。 私、私さぁ。 これからどうしたらいい? 329士郎:楽しい事を、きっと運んでくれるよ。 だから、待ってて欲しい。 この子と。 330恵真:──もうすぐ、赤ちゃんのパパになるんだって。 血が繋がってない、赤ちゃんの。 331士郎:信じてくれなくてもいい。 できれば、信じて欲しい。 僕を、待っていて欲しい。 332恵真:あの人はね、お前のパパにはなれないんだよ。 2015.3.12 初版 羽白深夜子 2017.6.14 更新 羽白深夜子 2017.12.1 更新 羽白深夜子 2018.2.14 更新 羽白深夜子 2019.11.7 更新 羽白深夜子 2021.7.27 更新 羽白深夜子 2022.10.9 更新 羽白深夜子 2023.1.15 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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