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【痴話喧嘩にチュール】 (ちわげんかにちゅーる) 男性1、女性1、性別不問1。ちょっとだけセルフパロディ。 有償版販売ページはこちら。 【宝来 蒼涼(ほうらいそうすけ)】 年齢自由、IT企業社長。(二十代半ば~四十歳くらいまでを想定) 堅物ぶっているが実は滅茶苦茶猫好きな真面目過ぎる馬鹿。 もの凄く良い所のお坊ちゃんで琴葉のお見合い写真を見て滅茶苦茶一目惚れしたけど 「絶対に金に困る暮らしはさせぬ」と考えてゴリゴリに仕事してるので不愛想気味。 【宝来 琴葉(ほうらいことは)】 年齢自由、専業主婦。(二十代半ば~四十歳くらいまでを想定) 冷淡ぶっているが実は滅茶苦茶猫好きな真面目過ぎる馬鹿。 もの凄く良い所のお嬢さんで蒼涼のお見合い写真を見て滅茶苦茶一目惚れしたけど 「絶対に健やかに長生きさせてやる」と考えてゴリゴリに家を守ってるのであまり前に出ない。 【ソラ】 蒼涼と琴葉の飼い猫。品種はアメリカンカール。この中で一番賢い。 ※オス猫ですが演じる際は性別不問です。  ソラは蒼涼・琴葉の話している事がわかりますが、  蒼涼と琴葉はソラの言っている事がわかりません。わかりたいよね。 【配役表】 宝来蒼涼: 宝来琴葉: ソラ  : ======================================= <披露宴直後。タワマン最上階のリビング、向かい合って座る二人。> 001蒼涼:──お前。 何か欲しい物は無いのか。 002琴葉:欲しい物、ですか。 003蒼涼:ああ。 今日で披露宴も恙(つつが)無く終わった。      俺の都合で新婚旅行に連れて行けない詫びだ、何でも言え。 004琴葉:……これ程立派なタワーマンション、それも最上階に住まわせて頂いて、      これからあなたに生活させて頂くのですから。 欲しい物なんて……。 005蒼涼:面白みのない女だな、まあいい。      前から話していた通り、俺は明日から海外支社の視察だ。      何かあれば秘書に連絡しろ。 006琴葉:あの。 もしあなたさえよろしければ、猫を。 007蒼涼:……猫、だと? 008琴葉:はい。 009蒼涼:飼いたいのか? 010琴葉:はい。 011蒼涼:……まあいい、構わん。 好みの品種を秘書に伝えておけ。      見繕うように言っておく。 <現在。窓の外を眺めるソラ。> 012ソラ:そうして私は、この家に迎えられたらしい。      ──吾輩は猫である、名前はソラ。 猫はこういうのが挨拶なんだろ。      アメリカンカールという品種で、当然、血統書付き。      私の住居は随分地面から遠い分、空に近い。 タワーマンションというヤツだ。      遠くに赤い塔が見えるし、どれだけ下に目を凝らしてもビル、ビル、ビル。      人がゴミのようだ、なんて人間が言うアニメを夫人が流していた事があるが、      なにせ人間が見えた事などないから、きっとアレよりも高いんだと思う。 013琴葉:<電話口> はい、在宅しておりますのですぐにお届けをお願いしても……はい、はい。 014ソラ:──私がこの家に招かれてそろそろ一年。 夫人はずっとこの住居で私と過ごしている。      そして、ああしてコンシェルジュと電話をしている時は大体、すぐに段ボールが届く。 015琴葉:お待ちしております。 失礼します。 016ソラ:──夫人。 今日は何を買ったんだ? 夫人の食事か? 私の食事か? 017琴葉:ソラちゃん。 窓際にいて、暑くはありませんか。 018ソラ:──心配ない。 それより、今日は何が届くんだ? 019琴葉:……ソラちゃん。 020ソラ:──なんだ? <琴葉、ソラに飛びつく。> 021琴葉:はーーーーーーーーーーーーーーッ、たまらーーーーーーーーーんッ! 022ソラ:──夫人。 スカートが捲れているぞ。 023琴葉:ひゃーーーーーーーーーー猫ちゃんのいる生活たまらんッ!      ソラちゃ、えへへ、ソーラちゃん! あぁー今日もフワフワもふもふフワフワ!      可愛いねえ可愛いねえ! 今日も世界で一番可愛いねえ! 024ソラ:──それは何よりだ。 夫人のおかげだぞ。 025琴葉:またお空見てたのぉ、ママお電話してたのよ、うるさくしてごめんねえ! 026ソラ:──電話をしていたのは見ればわかるし、今の方がずっとうるさいぞ。 027琴葉:お空見てたの邪魔してごめんねえ! ソラちゃんは良い子良い子ねえ! 028ソラ:──夫人。 私で盛り上がるのは構わないが、そろそろコンシェルジュが、 <インターフォンの音。> 029ソラ:──そら、来たようだぞ。 030琴葉:はぁぁぁぁ、すごい、やっぱタワマンの一流コンシェルジュさんしゅごい、      いつもお仕事が早いお兄ちゃんだねえソラちゃん! ママ助かっちゃう! 031ソラ:──そうだな。 専用エレベーターを使っているのだろうが、彼の手際の良さと素早さは感嘆に値する。      今日こそ労いの言葉を掛けてやってはどうだ、 032琴葉:<ドアを開けて塩対応> はい。 ありがとうございます、お疲れ様です。 <ドアを閉める> 033ソラ:──毎度の事だが、もう少し何か言ってやればいいのに……。 034琴葉:うっひょー! やっと届いたァ……! やっぱり海外に発注すると届くのが遅くなっちゃってダメね。      ママ待ちきれなくなっちゃうのよ。 でもねでもね、コレは絶対にソラちゃんに似合うなって思ったの! 035ソラ:──私の物か、しかし食べる物ではなさそうだな。 036琴葉:ソラちゃんは段ボールの方が好きかしら? 新しいおもちゃが増えてよかったわね。 037ソラ:──夫人自ら選んだ物の方がいいに決まっている。 ……ほう、首輪か。 038琴葉:新しい首輪なんだけど、どう? どう? 早速付けてみよっか! 039ソラ:──うむ。 ……ふむぅ、これはなかなか 040琴葉:イヤアアアアアアアアアアアアアア可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいッ! 041ソラ:──始まってしまった……。 042琴葉:いとおかし! いとおかし! <スマホのカメラで連写する> 043ソラ:──おおいに感動しているなら何よりだ。 044琴葉:やんごとないあはれーーーーーーーーーーーッ! <スマホのカメラで連写する> 045ソラ:──そうか、非常に尊くて趣があるか。 ところで、今令和だよな? 046琴葉:クウッ……! 毛並みの色と絶対合ってると……! こりゃ間違いねえと思ったッ……!      エルメス特注十六万の首輪、っぱ間違いねえよ……! 一ヵ月、待った甲斐があった……! 047ソラ:── <溜息> 写真はもういいんだな? どれ、私も確認しよう。 <窓ガラスを覗き込む>      ふむ、確かに色合いは中々私好みだ。 付け心地も良いな。      しかし、夫人の普段の趣味からはかけ離れているように見えるが……。 048琴葉:<寝転びながら> あぁーッよかった、思い切って注文してよかったッ!      外商さんにお願いしたからッ! ソウスケさんの小物と似た感じにしてもらったからッ!      口止めする手間はあったけどっ! でもっ! 全く以てどーって事なかったぜっ!      こっそりソウスケさんの小物と色を合わせたくてッ! この色にしてよかった! 049ソラ:──成程な。 言われてみれば、コレは旦那の趣味に近いな。 050琴葉:あー写真送りたいなー、ソウスケさんにも見て欲しいなーあー!      でも今絶対飛行機に乗ってる時間だし、そもそもこういうの興味ないだろうし嫌がりそう。      <起き上がる> それ以前に、私と結婚して下さったのもどういう訳だか未だによくわからないし……。      私の実家からの資金援助が目的でもまあ、別に気にしないけど。      全然気にしてないけど、ほんとに気にしてないけど、何も問題ないけど、はぁー……。 051ソラ:──ものすごく気にしてるんだな。 なに、今日は久方ぶりに顔が見れるんだ。      気になるなら夫人から、その辺りを聞いてみればいい。 052琴葉:ねえソラちゃん? 私はどうあれソラちゃんは、こんなに可愛いのにねえ! 053ソラ:──一重に、夫人の世話の賜物だ。      この首輪も、旦那に見せる為に今日に合わせて買っているんだろう? 054琴葉:あ。 今日届くように無理してもらっちゃったから、      外商さんに口止めの件と合わせてお礼のお電話入れなきゃ!      ソラちゃーん。 ママお電話してくるからね、お外見てて暑くなったら、お水飲んでね。 055ソラ:──このように。 タワーマンションでハイブランドに囲まれて夫人と暮らす。      これが私の日常だ。 夫人と過ごし、夫人が選んだ食事をし、夫人の選んだおもちゃで遊ぶ。      我ながら中々良い暮らしをしていると思う。      それもこれも全て、私の身の回りの世話をしてくれる夫人と、もう一人、旦那のお陰だ。      今日は久方ぶりに旦那が帰国される。 夫人が少々浮き足立っているのもその所為だ。 056琴葉:はぁぁ、緊張したぁ。 ダメねぇ、私ってばいつまでたっても人見知りで。      ソラちゃんだけよ、ホントの私を見せられるのは! あぁん天使! マジ天使! 私の天使!      猫ちゃんだもんね! 人見知りはしないかうふふ! ハアアアア好き好きちゅっちゅ! 057ソラ:──いや、浮き足立っているのはいつもの事か。 058琴葉:でもでもー、今日からまたちょっとだけ三人暮らしよ。 ソウスケさん、お帰りになるからね。      楽しみねえソラちゃん! 首輪気付いてもらえるといいわねぇ! さ、お掃除のチェックしましょ! 059ソラ:──ああ、ご相伴(しょうばん)仕(つかまつ)る……む、抱き上げてくれるのか。 いつもすまないな。 060琴葉:よいしょ、っと。 んふふふふふふ、家族三人で過ごすのは、三ヵ月ぶり? かしら? 061ソラ:──そうだな。 夫人も嬉しそうで何よりだ。 062琴葉:お掃除……ヨシ! こっちもヨシ! 花瓶のお花ヨシ! 観葉植物ちゃんヨシ! 063ソラ:──その、ヨシ! で片足を上げる指差し確認は一体なんなんだ? 064琴葉:埃も、ソラちゃんの毛もコロコロ済! 前回の帰国時を上回る抜群のコンディション! バッチリ! 065ソラ:──なあ夫人。 これだけ広い家だ、以前テレビで見掛けたハウスクリーニング、頼んだらどうなんだ。      いくら専業主婦とはいえ、この広さを一人で掃除するのは大変だろう。 066琴葉:クッションも中身が減ってる物はないわね。 うん……うん、大丈夫みたい。      ふふふ。 新しいキルティング、今日こそ気付いてくれるかしら。      何も言ってくれないから意地になって大きいのを作ったら、私の掛布団より大きくなっちゃったわね。 067ソラ:──……これだけデカデカとリビングに飾っているんだ、目には入るだろう。 068琴葉:このお部屋もこの暮らしも全部、ソウスケさんが頑張って働いて下さってるお陰なのよ、ソラちゃん。      お仕事が忙しいし、自分にも他人にも厳しい方だけどね。 でも、そんな人だから。      日本に帰って来てよかったって、また帰ってきたい、って。 思ってもらえたらいいわね。 069ソラ:──……私が野暮だったな。 旦那も口には出さずとも、夫人の心配りには気付いているだろうさ。 070琴葉:そうだ、お料理も確認しておかなきゃ。 ソラちゃん下ろしますよ、はぁーもふもふもふもふ……。 071ソラ:──料理、キッチンか。 私はココで大人しくしておこう。      むむ……掃除の一番の手間といえば、私の体毛だな。 日頃あの丸い掃除機が掃除してくれているとはいえ、 072琴葉:あーっ! いっけなーい! 073ソラ:──ん? 074琴葉:ワサビ、買い忘れちゃったわ。 ワサビってコンビニに置いているのかしら……。 075ソラ:──ワサビ……何だったか? あぁ、旦那が魚につけていた緑か。 076琴葉:……ワサビ、チューブ? 自分で擦らなくていいの? 便利なのね。      まあ、成分表が載っていないわ。 これはお電話で確認させて頂かないと、うぅ、電話……。      ……でもこれもソウスケさんの健康の為! 確認しない訳にはいきません!      ワサビチューブの会社の方、どうか優しい方がお電話を取って! 077ソラ:──夫人の父上、母上。 私はワサビ、とやらはわからないが。      世間知らずなまま嫁いだ弊害が今発生していると察する。 箱入り娘だからこその苦労もあるようだ。      ……それでもまあ、献身的な事だ。 ああして電話の内容をメモまでとって。      日頃から私や旦那の食事、食材にこだわりがある様子だが、まさかあの緑まで気に掛けるとは……。 <玄関の開く音。> 078ソラ:──ん? 079蒼涼:帰ったぞ。 ……おい。 いないのか? 080ソラ:──旦那!? 081琴葉:<電話口> ご丁寧に教えて頂いて、ありがとうございました。      はい、はい。 ありがたくお買い物させて頂きます。 失礼致します。 082蒼涼:電話をしていたのか、……どうした、財布なんて持って。 083琴葉:お帰りなさいませ。 随分、ご帰宅が早いのですね。 084蒼涼:予定より早く現地を出たんだ。 085ソラ:──そうだったのか。 お疲れのご様子だが、ご健勝で何より。 086蒼涼:なんだ、買い物に行くのか? 087琴葉:はい。 近くのコンビニまで。 088蒼涼:何? お前、自分で買い物に出ているのか? 089琴葉:はい。 090蒼涼:<溜息> カードは渡しているだろう。 ネットスーパーでは事足りんのか。 091琴葉:……申し訳ありません、買い忘れがありました。 092蒼涼:腹に入れば何でもいいと、適当な出前で構わないといつも言っているだろう。 093ソラ:──旦那、それは言い過ぎだ。 094琴葉:それでも、あなたの日本でのお食事の用意くらい、私にやらせて下さいませ。 095蒼涼:<舌打ち> ……コンビニで事足りるのか。 096琴葉:ええ。 097蒼涼:早く行って来い。 十分で帰れ。 098琴葉:はい、行って参ります。 <琴葉、家を出る。> 099蒼涼:<溜息> 100ソラ:──旦那。 先程の出前でいいという言葉は適切ではない、夫人を傷付けるぞ。 101蒼涼:……ソラか。 102ソラ:──ああ私だ。 貴殿は夫人が今朝の五時から、いや。      昨日の昼前から、貴殿の帰国を心待ちにして食事を作っていた事を知らないだろう。 103蒼涼:どうした、にゃあにゃあと。 104ソラ:──貴殿の態度を見ていれば喚きたくもなる。 それも今に始まった事ではない。      夫人がどれだけ、貴殿の帰国を心待ちにしていたと 105蒼涼:ハアアアアアアアアアアアン! ソラたん、ソラたん!      パパ帰りまちたよぉ、ただいまでちゅよおおおおおおおおお! 106ソラ:──始まってしまった……。 107蒼涼:オーマイガー……ソーキュート……キュートボーイ……アメイジング……ッ!      っぱ日本最高だなオイィ!? 猫ちゃんのいる暮らし最高! 猫ちゃんしか勝たんッ! 108ソラ:──そう思うならせめて終始日本語で喋ってくれ……。 109蒼涼:ハァアアアア、ちょっと大きくなってるねえ、よしよしよし。      ご飯いっぱい食べてるのー。 ご飯おいちーかなっ? 110ソラ:──ああ、夫人が用意してくれる食事はいつも美味い。 だから貴殿も、 111蒼涼:そうなのぉ、コトハさんのご飯おいちーのぉ、よかったねええええああああガワイイッ! 112ソラ:──うん、だから貴殿も、 113蒼涼:<ソラに頬擦りをしながら> はああ、コトハさんが猫をって言い出した時、      本当にびっくりしたんだ俺はァ……!      美人で何事もそつなくこなす上に、俺の心まで読めるのかと思ったんだ……ッ!      でもでも、そのお陰で世界中の敏腕ブリーダーに片っ端から連絡してこんなに可愛い子を、      ソラたんをお迎えできたんだもんんん……。 コトハさんありがとう命よありがとう……! 114ソラ:──旦那。 <蒼涼の鼻に軽く猫パンチ> 115蒼涼:わっ!? 116ソラ:──私の事を快く迎えてくれた旦那と夫人には、本当に感謝に絶えない。      私達の生活を仕事で支える旦那、私の世話を一人でしてくれている夫人、      二人にはそれぞれ、感謝を言い表せないんだ、私は。 猫だからというのはさておきだ。 117蒼涼:ぁ……ぁ……! 118ソラ:──二人とも、その、なんだ……。 お互いへの愛情表現が些か淡白であるのも承知している。      しかしな、このまま逆仮面夫婦でいてもいい事は何もないぞ。      旦那は多忙、仕事の為数多の社員の為世界中を闊歩している事も承知だ。      だからといって縁あって伴侶となった夫人と、私と話している時みたいに、      いや、そこまで過剰にとは言わないが素直に話せないのは問題であり、 119蒼涼:肉球プニップニなんだが!? ヒエエエエエエエ可愛いよお可愛いよお!      うんうんうん、パパ帰って来たよおおおお! お迎えの猫パンチありがとおおおおおおお!      お利口さんだね! ソラたんは世界で一番お利口さんな猫ちゃんだねええええ! 120ソラ:──なーんも聞いちゃいねえんだよなぁ……。 121蒼涼:てか、ウワーッビューティホゥ! 我が家が美しい! モデルルームかな!? 122ソラ:──全く……今気付いたのか? 123蒼涼:世界中のホテル探してもこんなに綺麗な部屋って無いぞ! コトハさんすごいな!? 124ソラ:──そうだろう、そうだろう。 夫人が毎日念入りに掃除しているからな。 125蒼涼:うわうわうわ……俺の家モデルルームより綺麗じゃーん!      展望とか景色はどうでもい、あれ? 何コレ何コレ何コレ! 前こんなの無かったぞ! 126ソラ:──お、気付いたか。 127蒼涼:おぉ……! 何だコレ、どーなってるんだ?      花の刺繍? 俺の掛布団よりデカいな!? なぁソラたん、これはコトハさんが買ったのか? 128ソラ:──いいや、作ったんだ。      壁も照明も温かみのある部屋だから、白一色のキルティングでも映えるだろうとな。 129蒼涼:あっ? コレ違うな、作ったんだな? うわぁ……ルーブルに寄贈するかあ! 130ソラ:──何故? 131蒼涼:おー……! 観葉植物くーん、元気だったか、俺帰ったぞー。      猫と花とか観葉植物って同じ空間で生きられるんだ? こんな綺麗な姿で? 理解が及ばないが? 132ソラ:──私は賢いからな、悪戯はしない。      それにソイツらも私と同様、日頃夫人が丁寧に世話をしている。      この部屋が綺麗に保たれているのは、夫人の努力の成果だぞ。 133蒼涼:ん……? いい匂いがする、これは! 134ソラ:──おっと。 <蒼涼の腕から降りる> 135蒼涼:あっ! 136ソラ:──私はキッチンにはお供しかねる。 旦那、見て来るといいぞ。 137蒼涼:なぁんで降りちゃうんだよぉ!? ソラたんおいで、抱っこさせて! ソラたーん! 138ソラ:──いや、私はキッチンには入らないぞ。      そこは食事を作る場所だ。 私が入っていい場所ではない。 139蒼涼:ちぇーっ……いいよ、俺一人で見に行くからな。 140ソラ:──全く。 ボンボン故か、こういう生活感の無さは些か困りものだ。 141蒼涼:おおお! シチューだやった! こっちは……ローストビーフもある!      クエの刺身にアップルパイに……! 142ソラ:──旦那の好物ばかりだろう。      昨日からそんなに作ってどうする、はしゃぎすぎではないか? と思っていたが。      こうして旦那がはしゃいでいるのを見ると、夫人も頑張った甲斐があったというものだな。 143蒼涼:ソラたん! 俺の好きな食べ物ばかりある! コレ全部コトハさんが!? 144ソラ:──夫人しかいないだろう。 145蒼涼:なんて事だ……コトハさんは早くミシュランから三ツ星をもらった方がいい! 146ソラ:──そこまで? 147蒼涼:はぁーっすごいな……ソラたん抱っこ、ソラたん抱っ、なんだそのオシャな首輪はァ!? 148ソラ:──うわびっくりした! 旦那、猫の耳元でデカい声を出すのはご法度だぞ! 149蒼涼:ん? んん!? これも前に来た時はちがっ……ええー!? 150ソラ:──終始ココまで愉快だが旦那、お疲れではないのか? 元気いっぱいだな? 151蒼涼:お……俺の腕時計のベルトに似てる……!? エルメスか……? ソラたんの首輪が……!?      ソラたんとエルメスのコラボ!? そんな、そんな事があっていいのか……!? 152ソラ:──あっていいらしいぞ。 153蒼涼:可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいッ! <スマホで動画撮影> 154ソラ:──……あ。 動画を撮ってるのか。 すまない、普段は写真の連写なんだ。 どれ。 155蒼涼:かわッ、ほわあああああ! 歩いてッ! 歩いてる! あんよ! あんよ上手!      あんよが上手世界選手権一位! 優勝! おめでとう! 156ソラ:──旦那、そうして発狂している所も撮れているのだが、いいのか? 157蒼涼:メイドミークラァァァァイ! メイドミースマイルッ! 158ソラ:──そうか。 泣く程感動して、笑顔になったか。 159蒼涼:オーマイガー! タッチマイハーーーーーーーート! 160ソラ:──心に触れたか。 何よりだ。 できれば日本語で頼む。 161蒼涼:ハアッ、少々はしゃいでしまったが、俺のこの感動を全部、コトハさんが……!?      コトハさん! ソラたん! 綺麗な家! 幸せハッピーセット!?      あの人は俺には勿体ない嫁さんだ、なのに俺ときたら! 162ソラ:──ん? 163蒼涼:家主、一国一城の城主たる者威厳あれと父に習い、世界中の社員達の生活の為、      俺に会社を譲った父の誇りの為、ひいてはこの社会の為と心に誓い、      幼少のみぎりから経済学に帝王学、数多の学問を収め社会に貢献してきたとはいえッ!      俺は……俺はコトハさんを金で不自由させていないだけではないかァ! 164ソラ:──あー……。 まあ、十分ではあるんだぞ? 165蒼涼:一成人男性としてなんとまあ恥ずべき事だ! 金で人の心は動かない!      俺は彼女にニコリとも笑いかけてもらった事がないのがその何よりの証拠だ! なら!      こんなに感謝していながら、何故! コトハさんの心を掴んでおこうとしない!?      俺が、俺が見つめ合うと素直にお喋りできないばかりに! この無能め! 166ソラ:──巡り合った瞬間(とき)から魔法が解けないんだな。 167蒼涼:先程も出前で構わないなどと、んな訳あるかーい!      俺は! コトハさんの手料理! 滅茶苦茶食いたい!      でも! 立ちっぱなしでお料理したら! コトハさん疲れちゃうから! 168ソラ:──あ、ああ……。 169蒼涼:それすら伝えられないどころか、緊張でついうっかり高圧的になってしまって!      だって! 帝王学は好きな子とどうお喋りすればいいとか教えてくれなかったからぁ! 170ソラ:──帝王学もそこまでカバーが必要な帝王がいるなんて、思っていないだろうよ。 171蒼涼:それに、普段あんなに偉そうにしといて、実は猫ちゃんがハチャメチャに大好きなんて      絶対引かれるじゃぁん……猫まっしぐらならぬ離婚まっしぐらだ……。 172ソラ:──それは何とも言えぬ……。 173蒼涼:今も! 俺! コンビニとか二回しか行った事がないから! わからないんだが! 174ソラ:──ボンボンめ。 175蒼涼:コンビニって確か、不良が屯(たむろ)してる場所だよな!? 176ソラ:──旦那の父上、母上。 残念ながら、ご子息はコンビニへの理解度が飼い猫以下だ。 177蒼涼:クソッ俺はどうしてコトハさんを一人でコンビニに行かせた!? 今からつけるか! SP! 178ソラ:──コンビニまで? 往復十分を? 正気を疑われるぞ? 179蒼涼:とりあえず区役所、いや区長に電話を! 180ソラ:──何故対応してもらえると思った? <玄関の開く音。> 181琴葉:ただいま帰りました。 182蒼涼:遅い! 183琴葉:えっ? 184蒼涼:何分経ったと思っている!? 帰りが遅すぎるぞ! 185琴葉:あの……恐らく十分以内だったかと……。 186蒼涼:いや、多分十分ギリギリだ、九分五十秒くらいだったな! 187琴葉:十分と仰って…… 188蒼涼:それは、十分でというのは言葉のニュアンスで! 正確には九分三十秒程の事を指すんだ! 189ソラ:──ものすごい理不尽。 190琴葉:まあ、そうだったのですね。 世間知らず故、今日まで知らずに過ごしてしまって……。 191蒼涼:アッ、や、いや、これはローカルルールだったかな!? うん! 192ソラ:──おうちルールなんだよな。 193蒼涼:知らなかったのであれば致し方ない、次からは気を付けなさい! 194琴葉:はい。 承知致しました。 195蒼涼:……デカい声を出して、そのぉ……あれだぁ……。 196琴葉:はい。 197蒼涼:す……すッ、すま……ッ、 198琴葉:はい? 199蒼涼:スマトラ島の事が気掛かりだ! 少々調べ物をしたいのだが、いいか!? 200琴葉:はい、ご随意にどうぞ。 自室でお調べになりますか。 201蒼涼:あー……そ、そうだ、折角の日本だからな、リビングで調べる! 202ソラ:──なんて? 203蒼涼:パソコンを持って来る、お前は気にせずに、夕食の支度をしなさい。 204琴葉:かしこまりました。 <蒼涼、パソコンを取りに向かう。> 205琴葉:<小声> ソラちゃああああああああああああああああ! 206ソラ:──な、な、なんだ? 207琴葉:ねえ、ねえっ!? リビングでお仕事されるんですって! ねえどうしよう!? 208ソラ:──ど……どうもこうもないのではないか? 209琴葉:コレ、コレは、アレですか?      在宅勤務が導入されたこの時勢、自宅で職務を全うされるご主人のお姿に      もう一度改めて惚れ直すという、ワイドショーで見掛けて憧れたアレですか!? 210ソラ:──恐らくだが、惚れ直すような業務はしないぞ、旦那は。 211琴葉:どうしましょう! ソウスケさんが帰られたばかりか、職務を全うするお姿を!?      私明日死ぬのでは!? 命日では!? 大往生では!? まだ入る墓買ってないのだが!? 212ソラ:──落ち着け、絶対にそんな大層な事は起きないから。 213蒼涼:よぉーし! パソコンを持って来たぞ! 俺は、仕事をしているからな!? 214琴葉:はい。 応援しております。 215ソラ:──急に落ち着くじゃない……こわ……。 216蒼涼:あ、あー…… <棒読み> そうかぁー。      二千四年に起きたスマトラ地震の影響は、こんな所にも出ているのかー。 217ソラ:──こっちもこっちで酷いな。 218琴葉:<小声> パソコンに向かうお姿……やっぱり格好良い……! 219ソラ:──まあ、うん、似たもの同士ではあるんだ、あるんだがなぁ……。 220琴葉:<小声> はっ、見とれてる場合じゃなかった! <咳払い> あなた。 221蒼涼:ん? 俺は今スマトラ島について考えていてだな。 222琴葉:はい。 ソラちゃんのお食事を先に出してもよろしいですか? 223蒼涼:あぁ、構わない。 腹が減ってるかもしれない、先に出してやれ。 224琴葉:はい。 225ソラ:──お。 先に食わせてもらえるのか、ありがたい。      旦那、家主を差し置いて恐縮だが、お先に失礼するぞ。 226蒼涼:<小声> はああああッ、コトハさんがキッチンに立ってるぅ……!      いつもああやって食事の準備してるんだぁ……! なんて凛々しい姿なんだ……! 227ソラ:──やれやれ……。 228琴葉:ソラちゃん。 ご飯にしましょう。 229ソラ:──……なんだ? いつもと違うな。 230琴葉:先程コンビニに出向いた際、猫用のおやつを見つけたんですよ。 231ソラ:──ほう、テレビのCMで見た事があるな。 232琴葉:ソラちゃんも興味がありますか? ご飯の上に掛けましたからね、召し上がれ。 233ソラ:──ありがたく。 ……ほう。 ほう! 234琴葉:美味しいですか。 235ソラ:──あぁ! これはいいな! 236蒼涼:なんだ? 餌を変えたのか。 237琴葉:はい。 コンビニに、猫用のおやつが売っていたんですよ。 238蒼涼:そんな物まで。 随分手広いな。 239ソラ:──夫人、夫人! これで終わりなのか? いや、個包装でもっと入っているだろう! 240蒼涼:……どうだ、その……おやつ、とやらは気に入ったのか? 241琴葉:ええ。 こんなにペロッとご飯を食べてしまうのは、初めてですね。 242ソラ:──CMで見たから知ってるぞ、もっと容量がある筈だ!      ええい、キッチンの、その上の方にある事はわかってはいるが……! 243琴葉:……もっと、食べたいのですか? 244ソラ:──そう! そうだ! 245蒼涼:食いたいらしい。 やればいいじゃないか。 246琴葉:でも、一食分のカロリーを計算しての量だったんですよ。 247蒼涼:ではダメだぞ、ソラ。 また明日にでも出してやれ。 248琴葉:はい、そうします。 249ソラ:──ぬぬ……。 仕方ない、アレをやるか。      全く。 これきり、これっきりなんだからな!? <ソラ、琴葉の前で寝そべって腹を見せる。> 250ソラ:にゃあ。 251琴葉:ヒャアアアアアアアアアアア!? 252蒼涼:なんだ!? 253ソラ:──ふふふ。 テレビで見ているからな、人間の事はよく知ってるぞ。      私はああはなるまいと思っていたがな……! どうだ、人間はこれが好きなんだろ? 254琴葉:へ、ヘソっ、可愛いいいいいいいいいい! <スマホのカメラで連写する> 255蒼涼:なんだ、一体どうしたんだ!? 256琴葉:か、かわっ、かわよ、可愛い! 可愛いねええええええええええ!? <スマホのカメラで連写する> 257蒼涼:可愛い!? 俺がか!? 258琴葉:違う! どいて! 259蒼涼:違う!? そんな馬鹿な! 260ソラ:──は? 261琴葉:なんじゃワレ! チュール欲しいんかワレ! もおおおおおしょうがないなああああああ! 262蒼涼:おい! 正気か!? 263琴葉:ゴリッゴリに正気なんだが!? は!? 邪魔だな正面立たないでもらえます!? 264蒼涼:なッ……じゃッ……お前! ソラに浮気か!? 265ソラ:──何言ってんだコイツ。 266蒼涼:ソラ! お前、俺の妻に何をした!? 267ソラ:──旦那、頭大丈夫か? 268琴葉:はッ! ごめんなさいあなた! 誤解よ、今のは誤解なの! 269ソラ:──夫人も情緒大丈夫か? 270琴葉:初めてヘソ天してくれたから、ち、チュールをと…… <膝から崩れる> 271蒼涼:ヘソ天だと!? この、オス猫! 泥棒猫! 272ソラ:──オス猫だが、何か? 273蒼涼:この人はな、俺の嫁さんだ! いくらソラたんとはいえ 274琴葉:ソラたん? 275蒼涼:飼い猫とはいえ! お前にこの人はやれんぞ! 276琴葉:えっ……。 277ソラ:──夫人、今の言葉は頬を赤らめるほどの言葉ではないんだ。      数秒前を思い出せ、ついに思い切りソラたんって言ったぞ。 278蒼涼:それに! 俺にだってヘソ天して欲しいんだぞ! 279琴葉:写真! さっき撮れました! 280蒼涼:何だって!? <二人、スマホの写真を覗き込む。> 281蒼涼:ほぅ、アメイジング……ッ! 282琴葉:はぁ、やんごとねぇ……ッ! 283ソラ:── <溜息> <ソラ、二人の前で再び寝そべって腹を見せる。> 284ソラ:にゃー? 285蒼涼:<声にならない雄叫び> 286琴葉:<声にならない悲鳴> 287ソラ:──ほら、気が済んだか? チュールとやらを食わせろ。 288蒼涼:えっ、ヘソ天、えっ、ファンサ!? 289琴葉:ソウスケさん! ヘソ天ですよ! 写真写真! 290蒼涼:待って待ってヤダ! 手が震える! 無理! 291琴葉:無理じゃねえやるんだよ! 連写モードにしてこう! こう! 292蒼涼:ファビュラス……ファンタスティック……! 293琴葉:いとどうつくし……いみじありがたし……! 294ソラ:──喜んでいるなら何よりだ……。 295蒼涼:ん? お前。 296琴葉:何ですか? 297蒼涼:……そのスマホ……その量のソラた、ソラの写真はなんだァ……! 298琴葉:あ、これは 299蒼涼:今すぐ俺に送、……っては、くれないか……! 300琴葉:えっ? 301ソラ:──ん? んん? 302蒼涼:お、……俺は、ソラた、ソラの成長過程を見てないから……。 303琴葉:ええ。 304蒼涼:だからその、これまでのソラた、ソラの成長を、殆ど見れていない訳で、だな。 305ソラ:──もういっそ堂々とソラたんと呼べばいいだろ。 306蒼涼:せめて写真だけでも……俺に送って、くれないか……? 307琴葉:……五ギガ分あるのですが、クラウドじゃなくて大丈夫ですか。 308蒼涼:多いな!? 309琴葉:毎日、家事か手仕事かソラちゃんのお世話しか、していないので。      <微笑む> 沢山、撮り貯めてしまっているのです。 310ソラ:──……おお。 夫人が旦那に笑いかけたのは、初めて見たな。 311蒼涼:そっ!? そ、そ、そうか。 クラウドを共有しよう。 312琴葉:わかりました。 ……そう、ですね。      あなたはお忙しいから、中々、ソラちゃんの事は気に掛けられませんよね。      今まで気が回らずに申し訳ございませんでした。      今後はあなたが海外にいる間も、写真をお送りしますね。 313蒼涼:……これからは、その、俺も見れるから。 これまでの写真だけでいい。 314ソラ:──ん? これから? 315蒼涼:その……なんだ。 日本支社で働くつもりで、いてだな。 316琴葉:はい。 317蒼涼:あー……挨拶回りと雑務を。 ここ三ヵ月、各海外支社にしていたんだ。 318琴葉:はい。 319ソラ:──はぁ、そういう事だったか。 320蒼涼:それで、お前、いや、キミ、ん……?      ……あなたを、置いて飛び回るのは、今後控えたいと……。 321琴葉:えっ? 322ソラ:──早く伝えたくて急いで帰った、と。 テンションが高かったのもその所為なんだな? 旦那。 323蒼涼:まあ、国内の支社には出向く必要があるが! ……これからは、家にいるぞ。 324琴葉:……。 325蒼涼:……なんだ、俺が家にいて不都合があるのか!? 326琴葉:いいえ。 327蒼涼:あなたの言い分はわかる、今まで散々一人で、……いいえ!?      それはその、俺が家にいて不都合があるのか、という問いにノーと答えているのか!? 328琴葉:はい。 329蒼涼:そッ!? ……そ、そうかぁ! 330琴葉:……私のような世間知らずでは、あなたの隣で不足するから、連れて行けないのかと。 331蒼涼:!? 332琴葉:そう思っていましたので、家にいて私やソラちゃんと過ごして下さるのは嬉しく 333蒼涼:<琴葉の両肩を掴む> いいか!? 日本は世界でも群を抜いて治安が良いんだ! 334琴葉:は、はぁ。 335蒼涼:それは、わかるな!? 336ソラ:──旦那、いい加減落ち着け。 337琴葉:はい、あの、足元、ソラちゃんが、 338蒼涼:すまんソラたん! 大事な話なんだ、ちょっと待ってくれ! 339琴葉:ソラたん? 340蒼涼:ソラたんはソラたんでソラたんなんだ! いいか!? 341ソラ:──動揺で開き直っちゃったよ……。 342蒼涼:俺があなたを連れて海外に出向かないのはただただ日本が一番安全だからだ! 他の意図は誓ってない!      見合い前からの仕事と国内に拠点を定める関係でここ一年、新婚の一年だぞ!?      一人で過ごさせたのは本当に申し訳なかったと思っている!      だから贖罪に、いや贖罪というと少々アレなので俺が飼いたいと思ってくれて構わないんだがその、      ポメラニアンでも迎えないかと検討…… 343ソラ:──何故そこからポメラニアンが出てくる、旦那。 もう少し順序立てて話せ。 344蒼涼:いやその話は後でいい! とにかくな! 345琴葉:はい。 346蒼涼:あなたはよく働くし! よくやっているし! 不足している事は一切ない!      世間知らずは俺も同様だ! だから! ……だから、その……アレだ……あのぉ……。 347琴葉:はい。 348蒼涼:<琴葉の肩から手を浮かす> で、デカい声を出して、悪い……。 349ソラ:──言わんこっちゃない。 350琴葉:それでは、国内のお仕事であれば同行させて頂けるという事ですか? 351ソラ:──お? 352蒼涼:そっ、まあ? 文脈的に、おのずと、そういう事になるな? 353琴葉:では、これから、素敵な新婚旅行ができますね。 354蒼涼:……そ、そうだな! だが! 折角あなたが家を綺麗にしているようだからな!      まあしばらくは家で二人で、二人と一匹、家で過ごすのも悪くないんじゃあないかと── 355琴葉:あなた。 <蒼涼の手を取り歩き出す> 356蒼涼:なんッ!? 357ソラ:──お? なんだ、なんだ。 358琴葉:これ。 わかりますか? 359蒼涼:あ、ああ……。 <琴葉にじっと顔を見られる>      あぁ、そのー……、これはあなたが作ったのか? 中々良い出来じゃないか、この刺繍! 360琴葉:キルティングといいます。 361蒼涼:中々良い出来じゃないかこのキルティングは! ふん、あなたは中々に手先が器用だな!      前に置いていた──ああ、アレだ。      あのカラフルなキルティングも既製品と見紛う程出来が良いと思っていたが、このシンプルさも部屋に合っ、      <琴葉に手を取られる> な、なんだ、何なんだ!? 今度はキッチンか!? 362琴葉:今日のお夕食は、シチューですよ。 363蒼涼:おぉそうか! 俺達は中々、その、食の好みが似通っているよな!      冷蔵庫に入っていたローストビーフもクエの刺身も、丁度食いたいと思っていたんだ! 364琴葉:……ふふ。 365蒼涼:どうしたんだ、何故笑ってるんだ? 366ソラ:──冷蔵庫を盗み見たと、今バレたからな。 367琴葉:お話しないとわからない事が、沢山ありますね。 368蒼涼:そ……そうだな。 その、これからは努力、する。 369琴葉:はい。 お夕食、すぐに温めますので。 ソラちゃんとリビングでお待ち下さいね。      ソラちゃんの分のチュールです。 あなたがあげて下さいませ。 370蒼涼:ん? お、おう……? 何だったんだ……? 371ソラ:──旦那が自分に関心があると、やっと実感したんだろう。 よかったな? 372蒼涼:あー…… <咳払い> お前のおやつだそうだぞ、食うか? 373ソラ:──頂こう。 先に、アレを見てみろ。 374蒼涼:これは開けてそのままソラたんにあげて、……ん? 375琴葉:<キッチンでコッソリ大袈裟に喜んでいる> ッシャァ……! やったぁー……! 376蒼涼:……はは。 なあ、あなたが奇声をあげ始めた時は、何が起きたかと思ったぞ。 377琴葉:あげていません。 378蒼涼:いやもの凄い声で 379琴葉:あげて、いません。 いませんね? 380蒼涼:いませんでした。 381琴葉:<笑う> あなたも、もうソラたんと呼ばないのですか。 382蒼涼:そんな呼び方は! 383ソラ:──そうだ。 ソラたんソラたんと、夫人に隠れて散々呼んでいたんだぞ。 384蒼涼:……お前、今バラしたんだな? 385ソラ:にゃあ。 386琴葉:ソラちゃんがお返事してくれましたし、先程ポメラニアンのお話もしていましたし。      あなたも、可愛い物がお好きなんですね。 387蒼涼:まあ、そうなるんじゃないか。 388琴葉:私と同じですね。 389蒼涼:あ、あー……あなた、犬はどうなんだ。 390琴葉:犬も、好きですよ。 391ソラ:──なんだと!? 392琴葉:でも。 折角あなたが帰られたんですから。 しばらくは三人で、過ごしませんか。 393ソラ:──そ、そうだ! 私達三人で過ごすのがいいと思うぞ! しばらくなんて言わずに! 394蒼涼:……ソラたんも返事をしている事だし、そうするか。 395ソラ:──そうだそうだ! やっと旦那が帰ってすれ違いが解消したと思ったら……! 396蒼涼:よし、明日からは俺が餌をやろう。 だからこれから、少しは俺の味方をしろよ。 397ソラ:──餌に毎回チュールを乗せて、犬を飼うなど馬鹿けた考えを撤回すれば考えてやろう。 398蒼涼:……ん? おい、こういう時は夫婦なら真っ先に子供を検討するものではないのか? 399琴葉:<鼻で笑う> 400蒼涼:あ!? 今俺の事を鼻で笑ったか!? <立ち上がる> 401ソラ:──あ! おい! チュール! 402琴葉:犬とか、子供とか。 忙しい方だと思っただけですよ。 403蒼涼:なんだと!? それは俺が喧しい人間だと言ってるように聞こえるぞ!? 404ソラ:──だ、旦那! そう持ち歩かれては、私がチュールを食べれんのだ! 405琴葉:そうですか? それは、すみませんでした。 406蒼涼:……少しあなたの事がわかったぞ。 おい、ちょっとニヤついているではないか。      今のは俺をからかっていたんだな? そうだろ、おい。 407琴葉:いいえ、そんな事ありませんよ。 408蒼涼:いやそうだな、俺をからかっていたな! ちょっと顔を見せろ! 409琴葉:何ですか、ちょっ、ソラちゃんの毛をコロコロしてからキッチンに入って下さいまし! 410蒼涼:コロコロとやらはどこに置いてるんだ! 先程のように案内してみろ! 411琴葉:リビングにありましたでしょ! もう! 火の前でふざけてはいけません! 412ソラ:── <溜息> じゃれる、というのは正しくああいう事を言うんだろうな……。      チュールは後でもらえばいいか。 全く……人間とは、本当に世話が焼ける生き物だ。 2023.8.25 初版 羽白深夜子 2023.9.1 更新 羽白深夜子 2023.9.12 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 サイトへ戻る