最終更新:2025/12/18
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【忘れ音のジゼル】 (わすれねのじぜる) 男性2、女性2。全員幼馴染です。 生きていられる事も生きていける事も、当たり前ではないよなあなんて思いながら書きました。 有償版販売ページは
こちら
。 【藤咲 美衣(ふじさきみい)】 30歳女性、在宅ウェブデザイナー/16~17歳、高校生。 高校時代はバレエにそれなりに打ち込んでいた少女。 淡々としている一方で周囲の事はよく見ており、幼馴染達の中でも一歩引いて過ごしている。 【桃瀬 紗那(ももせさな)】 30歳女性、法律事務所事務員/16~17歳、高校生。 高校時代から一貫して正義感の強い女性。 幼馴染の中では一番賑やかで、一番感受性が強い。 【秋穂 霧生(あいおきりゅう)】 30歳男性、ペンションオーナー/16~17歳、高校生。 元外資系勤務。幼馴染達を先導し、幼い頃秘密基地を作ろうと言い出した人物。 実家は工務店。離婚が切っ掛けで実家へ戻り、ペンション経営を思い付く。 【高梨 啓(たかなしけい)】 30歳男性、翻訳家/16~17歳、高校生(通信制)。 母親がカナダ人のハーフ。いじめが切っ掛けで高校は通信制を選ぶ。 あまり外に出たがらないが、幼馴染達に連れられて渋々出掛けている。 【配役表】 藤咲美衣: 桃瀬紗那: 秋穂霧生: 高梨啓 : ======================================= <高校時代。紗那の家でノートを広げている二人。> 001紗那:<教師の真似。大仰に、時々啓に顔を近づけながら話す> ──きりぎりす、忘れ音に啼(な)く火燵(こたつ)哉(かな)。 大変美しい句でございますねぇ。 皆さんもそう思われますでしょう? こちら詠み人については所説ございますが、季語になっている忘れ音というのはー…… あ、続きなんて言ってたかな。 忘れちゃった。 002啓 :学校の先生の真似? 003紗那:古文のね。 なに、こう、芝居臭いしくどくてさぁ。 小学生に教えてんのかよって。 004啓 :高校の先生って個性的なんだね。 楽しそうでいいんじゃない。 005紗那:えー? 私はケイみたいに家で黙々と勉強してる方がいいよ。 だるい。 006啓 :結局自分と違うものが羨ましくなるだけだよ。 007紗那:そうなんだよな。 んー、ミイのバレエとか、キリのバスケとか。 008啓 :<笑う> あんなに動けたら楽しいんだろうな。 サナちゃんも見た目だけは運動得意そうなのに。 009紗那:ほんとだよ。 完全にお父さんの血。 はぁやだやだ。 ケイはいいよなぁ、見た目通り頭良くて羨ましい。 010啓 :だからさ、結局 011紗那:自分と違うものが羨ましい、へーへーその通りでございます。 012啓 :バレエとか、バスケとかね。 013紗那:うちらも久々にやる? バスケ。 014啓 :どこで? 015紗那:秘密基地の前でならできるんじゃない? 無理かな。 ボール転がっても木があるし。 016啓 :あー……でもサナちゃん、また顔面にボールぶつけて泣かない? 017紗那:うるせ。 <外からの声を聞く。> 018啓 :二人、来た? 019紗那:来た。 <外へ> はーあーいー! <現在。美衣の家前、二階の美衣の部屋を見上げる霧生。> 020美衣:えっ? 021霧生:あーそーぼー。 022美衣:え、えっ、え? <美衣、窓から顔を出す。> 023霧生:久々! 今仕事中? 元気してたか! 024美衣:……えっ? どうしたの、来るって言ってたっけ? 025霧生:離婚してこっち帰ってきた! 026美衣:えっ!? 027霧生:だから、今日からまたお隣さん! 今何してんの? 飯食いに行くべ! 028美衣:<たじろぐ> り、りっ…… <外へ向けて> 離婚!? 029霧生:そう! <笑う> 悪い、今思い出したんだけど、あんまデカい声で離婚離婚言うなって 母ちゃんから言われてんだった! 030美衣:……そりゃそうだ……。 031霧生:近所に只今帰りましたって報告して周ったんだから、別にいいと思わねえ? てか上がっていい? おじさんかおばさんいる? 032美衣:し、下にいる、と思う。 お母さんが。 033霧生:そっち行くわ。 おじゃましまーす。 <高校時代。紗那の部屋。> 034紗那:勉強するんだし、二人共コーヒーにする? 035啓 :ミイちゃんコーヒー飲める? 036美衣:ココアの方がいいなぁ。 037紗那:はいよー。 038霧生:まだコーヒー飲めない? ガキだなー。 039美衣:うるさいなぁ。 <霧生の足元を蹴る> 040霧生:いて、蹴るな蹴るな。 サナ、俺のは砂糖と牛乳入れてちょ。 041啓 :どっちがガキなんだか。 今日そんなに寒くないし、秘密基地でテスト勉強する? 042美衣:いいよ、そうする? 043霧生:えー休ませろって。 <座りながら> 俺は部活帰り、ミイだってレッスン帰りなんだぞ。 044紗那:大変だねえ、土日も朝からご苦労なこった。 <美衣と霧生に飲み物を渡す> 私どっちでもいいよ。 まあ、秘密基地の方が勉強は捗るか。 045啓 :そうだよ。 キリ、この間ずっとウィーやってたし。 046霧生:サナん家だと誘惑多いんだよなぁ。 まー、秘密基地行くかー。 047啓 :一休みしたらね。 寒くなったら帰ってこようか。 二人もそれでいい? <現在。ファミレス店内。> 048紗那:えぇ。 チャンスじゃん。 049美衣:チャンスって何。 ええ? やめてよ縁起でもない、離婚して半年って、 050紗那:結婚できないのは女の方ね。 しかもその制度って廃止になってるし。 051美衣:ええー、普通に知らなかった。 マジで? 男女平等か。 052紗那:ワンチャンあるんじゃないの? どう。 053美衣:ないよ、嫌だっつーの。 054紗那:<笑う> 嫌ときたモンだ。 055美衣:サナはどうなの。 キリ、いや、ケイちゃんとそうなったらって考えてよ、嫌じゃない? 056紗那:嫌な事あるか。 翻訳家ってどのくらい稼げんの? 結構優良物件じゃない? 057美衣:やだぁ男の財布しか見てないよコイツ。 幼馴染すらATM? 058紗那:大事だろ。 あんな澄ましてる癖にスカンピンだったらそれこそ嫌だよ。 059美衣:財布じゃなくてさ。 だって、幼稚園の頃からの友達だよ。 嫌でしょ。 060紗那:そこは別にどうでもいいよ。 むしろあの頃のケイと家族になれますって歓迎するけどね。 すっげぇ可愛かったし。 私とミイ差し置いて誘拐されそうになってたじゃん。 061美衣:二回ね。 062紗那:<手を叩いて笑う> え? 子供産んであの顔だったら最高じゃね? 063美衣:もーやめてよ。 ないないない。 064紗那:そんなイヤイヤないない言ってるから三十過ぎて独身なんだよお前。 065美衣:サナも独身じゃん。 066紗那:あれ? キリの写真、体育祭の。 父兄用に貼り出されてたの、買ってなかった? 067美衣:……買ったけど。 068紗那:ほら買ってる。 069美衣:学生の頃の見てて良いなって思うのと、今先を見据えて恋愛すんのと全然違うじゃん。 070紗那:違わねえよ男と女でしかないんだから。 そうやってさぁ、相手の事一つ一つバツつけて選んで、この先どーすんの。 三十過ぎてんだけど。 私達。 071美衣:…… <小声> それで幼馴染が相手、ってなると結局ソコ? ってならない? 072紗那:ならない。 073美衣:しかもあっちバツ一つつけて帰ってきてんだよ? 074紗那:収まるトコに収まったなーって。 075美衣:……。 076紗那:<笑う> なんかさー、高校の頃に。 ほら、一緒に行ってた塾でさ。 熟年夫婦みたいなカップルいなかった? 077美衣:いた! 両方頭良さそうな顔してた! 078紗那:ああいう感じでさー 079美衣:<遮る> 名前なんだっけ? あ、名前知らないや。 話した事もない。 080紗那:話聞けよ。 あの二人、片方学者になったらしい。 081美衣:やば。 どっち? 082紗那:男。 083美衣:へえーっ、え、結婚とかしたのかな。 084紗那:それは知らなーい。 085美衣:気になってきた。 めっちゃ気になってきた。 086紗那:てかさー誰に遠慮して恋愛してんの? 087美衣:誰に? てかマジでないんだって、キリとは。 088紗那:ないのはわかったから。 いやその、誰が結局ソコ? とか言うの? 誰その底意地悪いヤツ。 089美衣:……私? 090紗那:意地悪い! 091美衣:かなぁ。 092紗那:何、他人にそんな事思いながら生きてんの? 大変そ。 093美衣:他の人には思わないけど、まあ、自分の事は全部見えてる、から? 094紗那:まあまあまあ、わかるっちゃわかるよ。 大人になるとさ、とりあえず寝てみる以外の恋愛の始め方、わかんなくてイヤになるよね。 095美衣:そんなのサナだけだよ。 096紗那:そお? <スマホを見る> やべ、もう二十一時。 097美衣:えっ、ほんとだ。 098紗那:なぁんだ。 キリ帰ってきた嬉しーとかノロケ聞けんのかなーって思いながら来たのに。 幼馴染の嫌な一面見ただけだったわ。 099美衣:そんなに? 意地悪いかな? 100紗那:別の人に向けなきゃいいでしょ。 101美衣:サナ。 私、喜んで良いと思う? 102紗那:いんじゃね。 何気にしてんの? てか、離婚するような結婚生活してたなら私も嬉しい。 キリ帰ってきたの。 103美衣:……サナがいんじゃねって言うなら、いいや。 104紗那:でしょ。 <笑う> 普段からそのくらい素直にすれば? 澄ました顔しちゃってさ。 105美衣:常に素直ですけど。 106紗那:どーだか。 もうちょっとさー愛想とかさー。 バレエしてた時は、それはもう私ハツラツです! って感じだったのに。 107美衣:舞台だからね。 帰る? 108紗那:帰ろ、出る支度しな。 <高校時代。美衣の家。> 109霧生:え? 今のタニセンの真似? 古文の。 110紗那:そう! 111霧生:めっちゃ似てね? 112紗那:ね? いい線いってる。 113美衣:てかさぁ、昨日の古文でタニセンにマスカラ没収されたんだけど。 返して欲しい。 114霧生:お前授業中に化粧してんの? 115美衣:違うよ、たまたま筆箱の中に入れちゃってて、 116紗那:マスカラがぁ? たまたま入るかぁ? 117美衣:一昨日レッスンから帰るの遅かったの、眠かったんだよ! ほら、ポーチと筆箱、こうしてここに置いてて! 118霧生:はいはいはい。 で? 119美衣:で、見られて学業に関係のない持ち物は持ち込むなって。 120啓 :そういうの、事情話して返してもらえないの? 121美衣:……面倒臭い。 122霧生:タニセン話なげーんだよな。 怒らないし、返してくれるけど。 俺もやられたわ、PSP。 123紗那:PSPとマスカラと比べんなよ。 大きさ全然違うじゃん。 124霧生:モンハンしたかったんだよ! 125啓 :<笑う> 怒らないなら、事情話せば返してもらえるんじゃないの。 明日行ってきなよ、マスカラって安い物じゃないでしょ。 126美衣:まあ……。 でも面倒臭いんだって。 フジサキさんはバレエもやってるんだから、日常生活から淑女としての振る舞いをーとか、 学生のうちは学業が優先でーとか、うんちゃらかんちゃら言われるの目に見えててダルい。 127紗那:<教師の真似> フジサキさんはね、学業の他にバレエもございますからね。 日常生活から淑女としての振る舞いを心掛けて、うんちゃらかんちゃらでございますからね。 128霧生:<笑う> 言ってそー! 129啓 :マスカラの件は勘違いでもさ、筆箱の中まで気に掛けてくれる人がいるうちが花だよ。 130美衣:ケイちゃん大人みたいな正論ばっか言う。 131啓 :正論だと思ってるからね。 132霧生:あ! てかPSPで思い出した。 ちょっとさ、秘密基地行かねえ? 俺充電器置きっぱにしてきたんだよ。 133美衣:えー寒いんだけどー。 134紗那:あそこ充電できなくない? 135霧生:頼む頼む頼む! 肉まん奢る! 136紗那:よっしゃ、行くか。 137美衣:テス勉は? ケイちゃんに教えてもらう為に来たんじゃないの? 138霧生:戻ってからでもできんべ。 ケイは? 行く? 139啓 :えぇ……どうしようかな。 140霧生:肉まんいらねえ? じゃあ俺が一人で食うけど。 141啓 :……行く。 奢りでしょ、肉まん食えるなら行く。 142霧生:よっしゃ! 俺充電できなくて困ってたんだよ、助かったわ! 143啓 :秘密基地に忘れてきたって事でしょ? 144紗那:ねえもしかして外寒い? ミイ手袋片方貸してよ、ポケットにお招きしてやるよ。 145美衣:バンプかよ。 スノースマイルかよ。 146紗那:あ、ミイゆっくり歩いてよ、お招きするから。 いつも歩くの早いし。 147美衣:サナが歩くの遅いんだって。 アレどのアルバムに入ってたっけ? キリ、またアルバム借りていい? <現在。コンビニイートイン、夕食を食べる霧生の隣に腰掛ける啓。> 148啓 :帰ってたんだ。 149霧生:……、外出てんだ。 150啓 :<苦笑する> いくつになったと思ってるの。 151霧生:仕事は? 152啓 :在宅で翻訳やってる。 153霧生:仕事は引き籠ってんのかよ。 154啓 :なんで離婚したの。 155霧生:直球だな、おい。 近所のおばちゃん達も腫れ物扱いだったのに。 156啓 :自分が言った事もう忘れた? 外出てんだとか、仕事は引き籠りだとか、結構な事言ってたけど。 157霧生:別に。 夫婦喧嘩が拗れたと思ったら、子供が托卵だってわかったから別れただけ。 158啓 :托卵? 159霧生:不倫相手の子だった。 共通財産だけ分けて養育費ナシ、慰謝料食い潰しながら職探し中。 160啓 :……。 161霧生:……んな顔すんなよ。 俺結構な事言ったんだろ? 162啓 :そんな、ドラマみたいな話。 163霧生:なー。 ついこの間、一緒にランドセル見に行ったんだけどな。 164啓 :そんな大きかったっけ。 165霧生:半年後には小学生だよ。 幼稚園辞めてあっちの実家に引っ越して、そっから小学校通うと。 166啓 :そう……。 167霧生:そっちは、元気してんの。 168啓 :ぼちぼちかな。 169霧生:アイツらは。 170啓 :先月会ったよ。 今、ミイちゃんが納期前で忙しいらしくて。 171霧生:あーだから顔しか出さなかったのかよあの女。 昨日家の前行って声掛けたら顔だけ出して、下りてこねえの。 ラプンツェルかよ。 172啓 :はは。 納期前はラインも返ってこないし、忙しくしてるみたい。 173霧生:フリーランスなんだっけ。 いいねえ、充実してるんだ。 174啓 :でも確定申告前は連絡くるよ。 ケイちゃんどうしたらいい? どこ書けばいい? って。 175霧生:毎年? 176啓 :毎年。 177霧生:<笑う> もっと適任がいるだろうに。 178啓 :法律事務所だと、確定申告はまた違うんじゃない。 179霧生:そうなん? 180啓 :税理士事務所とごっちゃになってない? 181霧生:それだわ。 そうか、別モンか。 法律事務所のおねーさんは? 182啓 :まぁ……元気にしてるんじゃないかな。 183霧生:お? 184啓 :何? 185霧生:なーんか含んでね? 何なに。 186啓 :別に、何もないよ。 ついこないだ見掛けたってだけで。 187霧生:見掛けたぁ? 声掛ければいいのに。 188啓 :あーいや……男の人と一緒だったから、話し掛けなかっただけだよ。 本人からまだ何も聞いてないし、今のキリには言わない方がいいのかなとか、 ちょっと考えただけ。 189霧生:男! マジ、どんなの? 変な男? 190啓 :<苦笑する> 杞憂だったか。 普通に、普通にっていうか……。 良いスーツ着たハンサムな人だったよ。 191霧生:へー……。 なあ、そうだ。 俺さ、相談があってお前に連絡しようと思ってたんだよ。 192啓 :何? 珍しいね。 193霧生:秘密基地の土地なんだけどさ。 194啓 :……。 195霧生:……、別に変な話じゃねえよ。 あそこ、お前のじい様の土地なんだろ。 196啓 :うん。 197霧生:そこで商売してえって思ったら、俺どうしたらいいの。 198啓 :へっ? 商売? <学生時代。秘密基地内。> 199紗那:そう! 広くなくていい、この秘密基地くらいのこじんまりしたお店! 200美衣:お店かぁ。 飲食? 201紗那:いーや。 セレクトショップみたいな、雑貨屋さん? 海外行って、自分で雑貨買い付けて並べるの。 どう。 202霧生:おっしゃれーサナっぽい。 まあこじんまり、ってのがちょっと引っ掛かるけど。 203紗那:馴染みがあるこじんまーりなのよ、ここが。 十年通えばねー。 204啓 :ちょっと意外だった。 てっきりおばちゃんみたいに先生になるんだと思ってた。 205紗那:身近で忙しいの見てるからさ。 ま、成績で困る事はないだろうし? とりあえず経済学部行っておこうかなって。 206霧生:いいなー。 俺バスケの推薦もらえるかな。 ぶっちゃけ将来とか進路希望とか何も考えてねえ。 推薦もらえないと詰む、俺。 207紗那:あれ。 おじさんの仕事継がないんだ。 208霧生:継がない。 この秘密基地が、俺の人生で最初で最後の作品! 格好良くね? 209紗那:このボロ小屋がぁ? 210霧生:オモムキがあるっつーんだよ、タニセンがよく言ってるだろ! それにお前、ここで雨に降られた事あるか? 誰が降られないように修繕してると思ってんだ? 211紗那:へーへー、ありがとうございます。 212美衣:ここが最初で最後なの? なんか勿体無くない? 213霧生:勿体無くない。 いー感じにできたから中々満足よ? 俺。 親父の後継いだらさ、こー……建てるだけ! って訳にはいかないだろ、工務店なんだから。 214紗那:そりゃそうか。 215美衣:あーあ。 まだ十六年しか生きてないのに、今後の人生を今決めろって無理じゃない? 216霧生:それな! こんな紙切れ一枚で何がどーわかるんだよ。 ミイ、バレエは? 辞めんの? 217美衣:うん、高校までにする。 ほら。 <紙を見せる> 218紗那:……体育大? 219美衣:ぶっちゃけバレエ続けてるの、今の教室の先生が好きだから続けてるだけだし。 表舞台に立つより、教える側になりたいかな。 220啓 :プロにはならないの? 221美衣:私はなれないよ、なってもバレエダンサーって売れなきゃ生活カツカツだよ。 そこまで夢見て諦める方が苦しいと思う。 多分ね。 222啓 :そっか。 すごいな、俺そこまで考えてないよ。 とりあえず大学は行っておこうって、 223紗那:行くの!? 大学!? 224啓 :うん? 行くけど。 225霧生:マジか! え、歩いて? 226啓 :まあ必要なら。 ……何驚いてんの。 227霧生:いやだってお前。 228啓 :ああ。 元不登校の引き籠りだから、進学しないと思ってた? 229紗那:いやそこまでは言ってないけど、まあ、そう思ってた。 230霧生:サナ! 231啓 :<笑う> いいよ、そう思われて当然だと思うし。 いつまでも外に出ないままじゃあ、いられないだろ。 232美衣:ここには来てるしね。 233啓 :図書館にも行くしね。 234美衣:って思うと結構外出てない? 引き籠りって何だっけ。 235霧生:ケイ、お前その、……無理してない? 236啓 :してないよ。 237紗那:本当に? 外出たくなかったら、ウチらケイの部屋行くけど。 238啓 :いいって。 <笑ってテーブルを軽く叩く> このテーブル、秘密基地でテスト勉強しようって俺が運んだんだけど。 239霧生:してなくね? 240啓 :今からしないなら持って帰るって言ってんだよ。 241紗那:困るよ、ここにジュース置けなくなる! 242啓 :じゃあノート出して、ほら。 進路希望の話はもういいでしょ。 243霧生:……、通信から大学って、大変じゃねえの。 244啓 :全然? 俺勉強は得意だし、誰かさんと違って。 245霧生:ヤな奴! 246啓 :<笑う> そっちの授業のノートも見せてくれてるだろ、だから困ってない。 ほら。 推薦取るにしても、成績足りないと困るのはキリだよ。 247霧生:……でも。 ケイが大学行くなら、全員進学か。 引っ越したりすんのかな。 248紗那:あ、私は近場で探すよ。 お父さんがそうして欲しいって。 249美衣:なんで? あ、 <笑う> カナお姉ちゃんか。 250紗那:そう! 姉貴のせいで、頼むから大学出るまでは未婚でいてくれって! 251啓 :<苦笑する> 一時期おじさん荒れてたもんなぁ。 252霧生:そういう、結婚とか仕事とかあるし。 いつまでも今みたいに秘密基地集合! とはいかねーよなー。 俺ここに自分の子供連れてくるの、ちょっと夢だったんだけどなー。 253美衣:え、いいじゃんそれ。 それぞれ子供できたらここ集合? 254紗那:誰がこのオモムキがある小屋管理するんだよ。 あ、キリがすればいいか。 255霧生:四人でやんの! 256紗那:えー? 私とミイは結婚するでしょ。 257美衣:どうだろ、するのかな? わかんない。 258紗那:マジで? 私は絶対する。 式挙げたいし、ウエディングドレスも着たいし! 259啓 :結婚の前に、経済学部と体育大行くんでしょ。 テスト勉強。 260霧生:<溜息> テーブル人質に取られてるんだもんな。 261美衣:やりますか。 どうしよう、今日何やろうかな。 <現在。ファミレス。> 262紗那:ペンション経営? 263霧生:そー。 お仕事は何ですか? ペンションの経営を少々。 264紗那:ウケる。 かぁーっこいー。 265啓 :なんでまた急に……。 それもあの土地で。 266霧生:あの土地だからいいんだろ。 管理人の思い出の場所、傷心を癒してくれたこの土地に恩返しを、ってな。 謳い文句完璧。 ま、書類とか諸々はこれからなんだけど、じい様には許可取った。 267紗那:ねえ、あの人ツイッターやってんだよ。 268啓 :フォロワー全員町内会の人だけどな。 269霧生:今はエックスっつーんだぞ。 じい様のアカウント教えろ。 270紗那:これ。 すげーよ、毎日何かしら写真載せててさ。 271啓 :ミイちゃん。 ……大丈夫? 272美衣:え? ああ……。 273霧生:何難しい顔してんの、反対? あの秘密基地が半壊したまま雨ざらしって、俺ちょっと嫌なんだよ。 274美衣:うん、わかる。 私も。 275紗那:今思うと滅茶苦茶可愛いよなー。 僕達私達だけの秘密基地に集合、って。 ずっとあそこでテスト勉強してなかった? 276霧生:してたわ。 掘っ立て小屋に、使わねえ座布団とか机とか持ち込んでさあ。 俺未だにわかってねえんだけど、アレって何する小屋だったん? 277啓 :猟友会の元休憩場所。 もう使わないみたいって言ったら、キリが俺らが使おうって言った。 278霧生:あぁ! 言ったなそんな事! 279啓 :可愛いけど、高校生になってもあんなボロい場所で遊んで。 時代だな。 280霧生:俺が逐一直してやったろ! いやー贅沢だねぇ、座椅子にクッションなんか持ちこんじゃってさ。 281美衣:夏でも平気で遊んでたよね。 今じゃ熱中症が心配だよ、あんな場所。 282霧生:あれいつだったか、台風の。 283紗那:違うよ、ただの大雨だよ、避難勧告出た時でしょ。 小六の時。 284霧生:それそれそれ。 ミイが公民館行こうよー避難しようよーって泣いてたの。 285美衣:一人で行くって言ったらサナが泣いてキレたヤツ。 286啓 :今外出たら死んじゃうからダメ! って。 287紗那:私可愛くね? あ、そうでもない? 288啓 :二人共可愛かったよ、当時は。 289美衣:一言余計なんだよね。 290霧生:まあまあ。 折角帰ったんだし心機一転、何かやりたくてよ。 やっぱ、俺一人の独断じゃあな。 お前らには許可取ろうと思って。 291紗那:勿論私らは無料で使え……? 292霧生:手伝うなら考えない事もない。 293紗那:よっしゃ、煙草吸えるようにして。 最近どこも吸えなくてさぁ。 294啓 :ペンション、って事は、インバウンド客の受け入れも考えてるんだよね? 295霧生:ああ。 まぁそこは元外資っすわ、日常会話くらいならどうにか。 296啓 :齟齬(そご)が出ないように英語の案内は俺が考えるよ。 契約関係も口出すから。 297霧生:マジ? 助かるわ。 298啓 :流石に税理士事務所と法律事務所、ごっちゃになってるトコ見たらね……。 299霧生:申請とか書類とか、そういう細けえ事が片付けばこっちのモンよ。 アイオ工務店とそのツテで建てようって、親父と計画中。 300紗那:結局店継がないんだ? おじさん何も言わなかったの。 301霧生:今タケが修行してる。 302紗那:あれ? そうだったの!? 303啓 :タケくん、地方の大学に行ったんじゃ。 304霧生:資格取って帰ってきてんだよ、建築施工管理技士。 弟がそこまでやってるから、兄貴だってそれだけで口挟めねえし。 305紗那:あぁねー。 ペンションとか何言ってんだって思ったけど、家が大工なんだもんな。 306啓 :そういえば、あの秘密基地もちゃんと木材使って直してたよね。 今考えるとすごいな。 307霧生:使わない木材もらって再利用ってな。 当時はそこまで考えてなかったけど。 ってな訳で、俺の中じゃそこまで突飛な話じゃなくてさ。 ミイ、お前には客向けのサイト作んの頼むわ。 ああいうのっていくら掛かる? 308美衣:……建て直す、んだよね? <間。> 309美衣:……あの、秘密基地。 310霧生:そうだけど。 お前があのまま残しておきたいなら、 311美衣:いい。 建て直そう。 そっか。 312啓 :何か考えてる事があるなら、言っておいた方がいいと思うよ。 313美衣:あ、いや、そういう訳じゃないんだけど。 314霧生:何だよ、ハッキリ言えって。 315美衣:……、じゃあ。 取り壊し、見に行ってもいい? あと。 ドリンクバーそろそろ取りに行きたいんだけど。 <学生時代、啓の部屋。飲み物を持って部屋に戻る啓。> 316啓 :宿題終わりそう? ココア飲まない。 317美衣:ん、ありがと。 もうちょっとで終わるから、ノート貸すね。 318啓 :どうも。 ミイちゃんのノート、見やすくて助かる。 319美衣:そう? 320啓 :ってかあの二人が字、汚すぎるんだけど。 321美衣:おかしいねえ、四人で習字通ってたのに。 322啓 :<ノートを覗き込みながら> ……やっぱり学校通ってないとわかんない事って、あるな。 323美衣:通う? 今から。 324啓 :<苦笑する> いや、いい。 325美衣:定時制……は遠いのか。 326啓 :だね。 ごめん、湿っぽい事言った。 327美衣:なんで謝るの? 328啓 :いや……この、先生がちょっと言ってた事のメモとか。 サナちゃんの先生の真似とか、マスカラ没収された話とか。 329美衣:あ、あの後マスカラ返してもらったよ。 330啓 :ならよかった。 ……ツイッターで流れてる、授業ダルいーとか先生ウザいーとか、ああいうの。 文字だけじゃなくて、間近で見たら、ちょっといいなって思っただけ。 331美衣:そっか。 そういうのは通信だとないか。 332啓 :授業以外がイヤすぎて全日制諦めたんだから、贅沢も言っていられないけど。 333美衣:贅沢じゃないでしょ。 えらくない、それでも大学行くって。 334啓 :そうかなあ。 たまたま、親が高校は全日制じゃなくていいよって言ってくれただけで。 恵まれてるとは思ってるから、できるだけ普通になりたいだけだよ。 335美衣:普通以上にえらいと思うけどねえ。 隣の芝は蒼いってヤツですか。 336啓 :……ミイちゃんさあ。 337美衣:んー? 338啓 :……、いや、多分ミイちゃんじゃないよね。 バレエのレッスンでそれどころじゃないと思うし。 339美衣:何が? 340啓 :あー……これ、サナちゃんとキリには黙ってて欲しいんだけど。 341美衣:うん? うん。 342啓 :……最近、家の庭にさ。 生ごみとか煙草の吸殻とか、捨ててあって。 343美衣:は? 私そんな事しないよ。 344啓 :違う違う違う。 その、ほら……犯人は大体わかってるんだけど。 345美衣:……ええ? そこまで幼稚な事する? 346啓 :<苦笑する> 中学卒業まで、いじめっぽい事は一通りしてた人達だよ。 その……近所で揉めてる声がするんだって、最近、夜中に。 347美衣:あーね。 で? 348啓 :で、って? 349美衣:嫌がらせされてて、外で揉めてる。 それをサナとキリに黙ってる、そこまでオッケー。 350啓 :……、 <苦笑する> それだけの愚痴。 351美衣:それだけ? 本当? 何かありそう。 352啓 :いつもの事だけど、クールなのに鋭いよね。 353美衣:そうかな。 いや、まだありますって顔に書いてある。 すごい困ってる時の顔してるよ、どうしたの? 354啓 :困ってる時の顔? 俺の? 355美衣:うん。 年少の頃かな、オモチャ壊したのケイちゃんなのに、キリが怒られた時。 困ってるなーって思ってたら、すごい泣くんだもん 356啓 :待って。 あの、なんでそんなの覚えてるの? 357美衣:覚えてるよ、ケイちゃんがその顔するの珍しいし。 で、何? 358啓 :……揉めてる声に、女の子の声も混ざってたって聞いて。 359美衣:ええ? 何それ。 女の人、じゃなくて女の子? 360啓 :そう。 えーっと……。 <大人時代。ペンション予定地。取り壊しの工事を見守る二人。> 361美衣:なーに。 工事の音で聞こえなーい。 362啓 :それって、花火大会とかでやるからいいんじゃないの。 363美衣:工事現場だとムードないか。 364啓 :聞こえてるし。 365美衣:<笑う> で、何? ずっと聞いておきたかった事って。 366啓 :……あの秘密基地の事故、本当に老朽化だけが原因だったのかな。 367美衣:え? 警察の人がそう言ったんじゃないの。 368啓 :いや……ずっと、他に原因があったんじゃないかなとか、考えてて。 369美衣:……もしそうなら、直接聞けてると思うよ? 他の原因。 370啓 :だよね。 俺の考えすぎか。 371美衣:そうだよ。 <啓の顔を覗く> 困ってる時の顔だ。 どうしたの? 372啓 :<苦笑する> 秘密基地、無くなる前に聞いておきたくて。 373美衣:……。 374啓 :まあでも、俺が知らないならミイちゃんも聞いてないか。 ごめん、変な事聞いて、思い出させて。 375美衣:私は別に。 それにほら、ケイちゃんのトラウマ? の方が大変だったと思うよ。 376啓 :俺は大変じゃなかったよ。 嫌がらせの調査の方が面倒だったかな。 377美衣:ね、今だから聞いちゃうけど、あの時取り調べとかされてたの。 378啓 :聞き取り調査ね。 ほら、結局家への嫌がらせだったから。 いじめの事色々聞かれたりはしたけど、それだけ。 379美衣:全然それだけ、とはならないんだけどな。 380啓 :当事者だからね。 381美衣:まー、そっか。 382啓 :うん。 <間。> 383啓 :ミイちゃんは。 バレエ、続けたかった? 384美衣:どうだろ。 でも、高校卒業したら辞めるつもりだったよ。 385啓 :そっか。 ……うん、そっか。 386美衣:何? 取り壊し前に聞いておきたかった? 387啓 :うん。 バレエ、発表会とか見てて、なんて言えばいいかな。 いつものミイちゃんと違ったから、辞めて……どうなんだろうって、思ってた。 388美衣:えーじゃあ、私ももう一個聞いていい? 389啓 :どうぞ。 390美衣:あの事故がなかったら、うちらどうなってたと思う? 391啓 :……変わらないんじゃない。 ああ、でも。 392啓 :俺はもう少し、誰かを許せる大人になってたのかもね。 <現在。バー店内、隣り合って座る紗那と霧生。> 393紗那:いいねー。 っぱ、依頼者側がそう笑ってんのが一番良いわ。 マジお疲れ。 394霧生:お前の事務所に頼んだ訳じゃねーけどな。 そういう訳で数百万も棚ぼたして。 心機一転、じゃ、ペンションやりますか、って。 395紗那:サイコー! もう一杯飲んじゃお。 396霧生:実際どうなん。 托卵からの離婚って、結構あったりすんの。 397紗那:ここまで盛大なのは初めて聞いたわ。 馬鹿だねー元嫁も。 上手くやってりゃ外資の旦那だろ? 財布預かるどころか金払うハメになってよ。 398霧生:それこそ棚ぼたよ。 夫婦喧嘩中にポロっと口滑らしてさ。 399紗那:元々関係は良かったんでしょ? へえ、なんで喧嘩したの。 400霧生:……。 401紗那:……ええ? 今黙る? 一通り喋っておいて? 402霧生:いや、よく考えたらお前に一番言いにくいわ。 403紗那:何、なんで。 気になるよ、なんだよ。 404霧生:えー……。 うわそっか、そりゃ聞くよな。 なんで喧嘩したのってなるわ。 405紗那:うん。 何、夫婦喧嘩の原因。 406霧生:……俺の財布見られて。 407紗那:財布ぅ? 何見られたの。 キャバ? ソープのお姉ちゃんの名刺? 408霧生:ミイの写真。 409紗那:<むせる> 410霧生:最後の、バレエの発表会の、時の。 ジゼル。 411紗那:あー、……。 412霧生:ロリコン趣味かよとか色々言われて、そんで……何だったかな。 とにかくあっちが言った事が何か引っ掛かって。 興信所雇って諸々発覚。 413紗那:……あー……。 414霧生:ミイとケイに言うなよ。 415紗那:言わねえよ、言えねえよ。 安心しな、私もあの写真とっておいてある。 416霧生:マジ? 417紗那:マジ。 普通にいい写真だよな。 418霧生:な。 419紗那:……。 420霧生:……。 421紗那:カーッ! 黙んな、酒不味くなる! 422霧生:や。 あのさ。 423紗那:何。 424霧生:……ケイがお前の事、心配してて。 多分。 425紗那:あ? ケイが? 多分って? 426霧生:ハッキリとは言わなかったんだよ。 サナが男と二人で歩いてんの見掛けた、って言ってたけど。 お前さ、毎回男できる度に俺らに言ってたじゃん。 427紗那:へい。 428霧生:なんで今回言わなかった? 429紗那:……いやいやいや。 うちらもう三十だよ? 聞いて聞いてカレピできちゃったーとはならないでしょ。 430霧生:二十八の頃は言ってきたのに? 431紗那:二十代の頃の話でしょ。 432霧生:お前。 俺に言えないような事してねえよな? 433紗那:……。 434霧生:今の俺に、言えねえような事。 してねえよな? 435紗那:……さあ。 どうだろ。 <学生時代。深夜、啓の家付近。> 436霧生:こらぁそこのJK、何してんだー。 437紗那:……何してんの。 438霧生:いや俺が聞いてんだけど。 439紗那:塾の自習室にいて、 440霧生:自習室って十時には閉まるんじゃねえの。 前ミイに聞いたけど。 441紗那:……。 442霧生:……夜中に、女の子が不良と言い合ってる声がする、って。 母ちゃんに聞いてさ。 あーサナなんだろうなぁ、って思ったから来てみた。 443紗那:だって、……。 444霧生:ダメだろー一応は女の子なんだからさ、何かあったらどーすんの。 445紗那:もう何かあるんだって。 アイツら、ケイの家の庭にゴミ撒いてんだよ。 446霧生:は? 447紗那:たまたま、塾の帰りにアイツら見掛けた事があって。 家こっちじゃない筈、って後つけたらわかって、 448霧生:わかった、わかった。 あのさ、ずーっと、ガキの頃からいじめやって、ケイの事不登校にした連中がさ。 お前の言う事聞くと思う? 面白がってエスカレートするだけだよ。 449紗那:でも、 450霧生:母ちゃんがサナの声に気付かねえ訳ないと思うんだよ、俺。 なのに、女の子って言ってた。 や、天然だからマジでわかってねーのかもしれないけど。 451紗那:……。 452霧生:お前。 絶対アイツらに手出すなよ。 453紗那:なんで。 454霧生:なんでも。 455紗那:……なんで。 <泣き出す> 456霧生:ええ……。 457紗那:なんで。 <地団太を踏む> なんで。 458霧生:泣くなよ、俺が泣かしてるみたいじゃん。 459紗那:なんで。 ケイ、アイツらの所為で高校、行かなかったのに。 行けなくなったのに。 なんで、卒業してからもあんな事されなきゃいけないの。 460霧生:……。 461紗那:なんで。 462霧生:俺に聞くなよ。 俺だってわかんねえよ、そんなの。 ケイが何かしたか、アイツ何もしてねえよ、真面目に学校行ってただけだよ。 463紗那:そうだよ、だから、 464霧生:だーもう。 お前泣くと不細工なんだよな。 <ハンカチを取り出す> 顔拭けほら。 足ドンドンしない。 465紗那:<顔を拭きながら地団太を踏む> うるさいな。 ああ、もう、ムカつく! 466霧生:その、泣く時足ドンドンするのやめろよ。 ほんと変わってねえな。 467紗那:なんで私が説教されてんだよ、ムカつくな! 468霧生:はいはいそうだな。 ……俺がやるから。 わかったな。 469紗那:やるって、何を? 470霧生:んー、町内会で見回りしてもらうとか? 駐在さんにも相談してみるか。 471紗那:そんなのんびりしてたらもっと嫌がらせされるんじゃないの。 472霧生:それはわからん。 でも、俺らに何ができる? アイツらと一緒に補導される方が馬鹿らしくね? 473紗那:……。 474霧生:帰ろ。 送ってくわ、さすがに。 475紗那:キリ、なんで私がここにいるってわかったの。 476霧生:お前だと思って待ち構えてたから。 <笑う> ビビるわー、日付変わってんだけど。 477紗那:はぁ? マジかよ、ストーカーじゃん。 <現在。霧生の家、広げた図面を覗き込む四人。> 478啓 :うん、すごいね。 これおじさんが図面作ったの? 479美衣:こんな広いペンションになるんだ、すごー。 480紗那:イマドキじゃん、めっちゃいい。 ここ吹き抜けって事だろ? すげー。 481霧生:そーそー。 この辺りで一番のペンションにするんだって、親父張り切っちまってよ。 図面引いたのが親父、部屋の名前決めたのが俺。 482紗那:まー、キリの父ちゃんならこれだけの規模になるか。 息子は掘っ立て小屋の修繕ができてたんだもんなぁ。 483美衣:このムービールーム? って何? 484霧生:映画館。 ミイ好きだろ? ホームシアターとソファー置いて、映画見れるようにすんの。 485美衣:え! 嬉しい! 486啓 :じゃあこっちは俺の希望? レストルーム。 487霧生:そう、休憩室! ハンモックを四つくらい置いて、本棚も置ける部屋にしようと思っててさ、 488啓 :ちなみに、 <笑う> レストルームってトイレって意味だけど。 489霧生:あ!? レストって休むって意味じゃねえの!? 490啓 :あと、ムービールームじゃなくてシアタールームの方が意味通じるかな。 491紗那:スモーキングエリアは問題ねえからな。 是非続けてくれたまえ。 アイエヌジーは覚えてんだな? えらいぞ、元外資。 492霧生:……ケイ! 翻訳! 493啓 :日本語で書けばいいでしょ。 494美衣:<笑う> <着信音。> 495霧生:お、悪い。 電話だ。 496紗那:ここで出れば? 497霧生:えープライベートがぁ、 <応答する> はいもしもしー。 498紗那:なんだコイツ。 499霧生:<電話口> はいはいはい、アイオです。 ……警察? 500美衣:えっ。 501啓 :警察? 502霧生:<電話口> ……あ、わかり、ました。 えっと、どちらに行けば……。 えー……。 はい、はい。 そうですね、俺です。 わかりました、すぐ向かいます。 はい、失礼しますー……。 <終話> 503啓 :どうした? 504霧生:火事、っつか……小火(ぼや)でフェンス燃えたらしい。 505美衣:小火? 506紗那:燃えたって、どの程度。 507霧生:いや、アレ仮のフェンスだから燃えてもまあ……。 俺警察署行ってくる。 どうする? 508美衣:行く、え、一緒に行けんの? 509啓 :行って車で待ってるとか、できそう? 510紗那:運転しようか。 511霧生:頼むわ。 えー……やば、えぇ? マジ? 512美衣:大丈夫? 顔真っ青だよ。 513霧生:……平気、多分。 でも運転は怖いわ、ちょっと今は。 514紗那:犯人はわかってんの? 515霧生:……高校生だって。 516啓 :高校生? <学生時代。秘密基地内。> 517美衣:女の子の声、サナだったの? 518霧生:おー。 アイツら捕まえて説教してた。 519紗那:……。 520啓 :サナちゃんほんと、無茶しないで。 521紗那:無茶じゃない。 522霧生:サナぁ。 話違うじゃん。 523紗那:……無茶じゃない、けど。 夜中に騒いでごめん。 524啓 :嫌がらせ、また止めようとしてくれてたんでしょ。 謝らなくていいって。 525霧生:いい訳ねーだろ。 俺母ちゃんとスズキのおばちゃんから聞いたんだぞ。 お前どんだけ声デカいの、スズキのおばちゃんが聞いてるって事は三軒先まで声 526美衣:キリ、本人反省してるから……。 527霧生:お、そうな、ごめんごめん。 528紗那:……おじさんとおばさんにも、謝りに行くから。 529啓 :俺から話すよ。 でも、もう無茶しないでね。 今週末監視カメラ付けるから、早くわかってよかったよ。 530美衣:監視カメラ? 531啓 :うん。 親が警察に嫌がらせに合ってるって相談したら、 パトロールは強化するけど、誰がやってるかちゃんと特定した方がいいって。 532紗那:アイツらだって。 533啓 :俺達は見てないから。 昔いざこざがあったからって断定はしちゃダメでしょ。 534紗那:私、アイツらが家の前にいるの見てる、 535霧生:はいはいはいはい。 警察がパトロールして現行犯逮捕すりゃ一発なのに。 536啓 :いや……吸殻で、芝生が焦げてる箇所があって。 537美衣:ええ? 538啓 :悪質だからこそ確実に特定しましょう、だって。 今日辺り帰ったら防犯カメラ設置中って看板立ってると思うよ。 539霧生:ほおぉ。 な? 大人が動けば早いんだよ。 540紗那:そうだけどでも、火事になってたかもしれないんでしょ。 541啓 :まあ、うん。 俺と父さんで週末まで見張る。 防犯カメラくるまで。 542紗那:私も 543霧生:馬鹿野郎。 JKに見張りなんぞ頼む馬鹿がどこにいる。 544紗那:でも、私だったら塾の帰りに見れるし、 545美衣:それは止めといた方がいいんじゃないかなあ。 あの人達じゃなくて、もし別の放火犯だったらどうするの? 546紗那:……。 547美衣:それに。 サナに何かあったらもっと話がややこしくなると思うんだけど。 あの人達が犯人なら同い年だよ、未成年って罪軽くなるんじゃない。 加害者が何年かして、サナを逆恨みしたらどうするの? 548霧生:加害者て。 549美衣:加害者でしょ。 変な話ケイちゃんの、……色々は、 学校の中だったから許されてきちゃった節があるけど。 550啓 :そうだね。 551美衣:それを持ちだして庭焦がしてんでしょ? これ、加害じゃなかったら何? や、学校の中だから、って理屈も納得はできないけどさ? 552紗那:…… <溜息> なんか、普段口出さない奴から言われるとな。 確かにな。 553美衣:私よりずっと怒ってる人がいるから言わないだけだよ。 びっくりした、大人に聞かれたくない話だとか言うんだもん。 ここ着くまでドキドキしてた。 よかったね、秘密基地があって。 554霧生:とか言う割にお前、あっさりしすぎ。 555美衣:そう? 556紗那:で、ケイは何も話さなさすぎ。 お節介する私も悪いけど。 言えってば。 557啓 :ごめん。 でも、俺もミイちゃんもいつもこうでしょ。 558美衣:いつもこうらしい。 あそうだ、私さ、さっき百均にいたの。 559霧生:お? 560美衣:ほら。 ここのカーテンにできないかなって思って、買ってきた。 561霧生:おお、いーじゃん! それっぽくね!? てかこんなの売ってんだ。 562美衣:売ってた。 なんか、小さいクッションみたいなのもあったよ。 563霧生:お! 買いに行くべ! このブルーシートも古くなってきたし、代わりに敷くモン欲しかったんだよな。 564啓 :えー……出掛けるの。 565霧生:行かないなら一番可愛いクッションケイ専用にするからな! 566啓 :行こ。 流石に割り勘にするよね? 567霧生:<笑う> そりゃそうだろ! この基地のモン買うんだから奢らねえよ! 568美衣:……まだ気が済まない? 569紗那:いや……。 570美衣:気が済んでないって顔してる。 私見張るよ? サナが何もしないように。 571紗那:子供がやらかして、子供が被害受けてんのに。 大人なんて、学校の中じゃ見向きもしなかったじゃん。 572美衣:でもおじさんとおばさん、監視カメラつけるし見張るって。 警察にも相談した。 ……ケイちゃんに高校行かなくていいよって言ったのも、大人じゃね? 573紗那:……そだね。 駄々捏ねてもしかたないか。 574霧生:<遠目から> おーい! 後十秒で来なかったらジュース奢り! 十! 九! 575紗那:わかった、行くよ。 行くってば。 <現在。警察署前、駐車場の車内。> 576美衣:どうだった? 大丈夫だった? 577霧生:高校生が敷地内で花火してたんだと。 578美衣:花火ぃ? 579霧生:そ。 基地の取り壊し前からちょくちょくたむろしてたらしい。 580啓 :<苦笑する> ……なんていうか、その、子供らしいね。 581霧生:まあ、ようするに子供の頃の俺達と同じような事をしてて。 ちゃんと掃除してたっぽくて気付かなかったわ。 ……でもなー、その、マズいらしい。 582美衣:マズいって? 謝ってこなかったとか? 583紗那:他人の敷地に入って小火だから、建造物侵入と失火か。 ま、厳重注意、お家と学校へ連絡ってトコ。 584霧生:停学とかもありえるらしい。 ちょっと話せたんだけど三年生で、花火は最後の思い出作りのつもりだった、って。 585紗那:場所が悪かったね。 お家でやるべきだった。 586霧生:それはそうなんだけど、 587紗那:仮のフェンス燃えてんだろ、一応は。 思いっきり被害者じゃん。 588啓 :三年生だと、もう進路決まってたり……するのかな、早い子だと。 589美衣:そっか、そうだね。 590霧生:<溜息> 悪い、この足でミソラ高行って。 591紗那:行ってどーする。 592霧生:俺許してますって話してみる。 進路決まってる子がいるんだよ、影響出ないようにして下さいって頼む。 593紗那:被害届出さないの? 594霧生:そうだよ、悪いかよ。 595紗那:いいね。 ちょい反省文代わりに働いてもらえば? 596霧生:は? 597啓 :あぁ、奉仕活動みたいな。 598美衣:高校生でもできそうな事、何かありそう? 草むしりとか? 599霧生:……え。 サナ、怒ってるんじゃねえの。 600紗那:なんでさ。 被害者が許すっつってんのに、口出す訳ない。 601霧生:いや、お前もっとこう、正義の人的な……。 602紗那:<笑う> 見知らぬ高校生にそこまでムキになれねえわ。 やだねー大人になるって。 603美衣:ミソラ高って私立だよね? そういうの厳しいイメージあるけど、平気かな。 604啓 :それは、キリが被害届出すか出さないかによるんじゃないの。 出さなかったら逆に騒がないイメージあるけど。 605霧生:出さん! 絶対出さん! いや、俺が部屋入ったら五人共バッて立ち上がって頭下げて謝ってきたんだって! 606啓 :<苦笑する> ほだされてるなあ。 607霧生:進路と引っ越し決まってる子がいて、それで思い出作りとか言われたらさ、俺さぁ! 608啓 :わかった、わかったって。 609紗那:<小声で> 俺がやるから、ってか。 610霧生:お? 何? 611紗那:なんでもなーい。 <学生時代。秘密基地内、三人でくつろいでいる。> 612啓 :なんでもないが一番怪しい気がするんだけどな。 613霧生:お前まで何言ってんの……。 つか勉強しねえの。 614紗那:普段してない筆頭が何言ってんの。 照れなくてもいいじゃん、本人いないし、本当の事言えって。 615霧生:お前らと同じだよ、幼馴染。 はい本当の事言った。 616啓 :じゃあ、お遊戯会の白雪姫、あれ何だったの? 617紗那:そうそれ。 ミイが白雪姫に選ばれたヤツ、練習の時ずっと泣いてなかった? 618霧生:いつの話してんだよ! ……王子様が一番格好良い役だって、母ちゃんが言ってたの! 619紗那:ふ、 620啓 :……王子様役がやりたくて泣いてた、って事? 621霧生:そうだよ! キリュウは華があるから絶対王子様役に向いてるって、 サナ! お前何笑ってんだよ! ケイも! 622紗那:<笑う> じゃあ。 純粋に王子様になりたくてびーびー泣いてたの! あれ! 623啓 :てっきりミイちゃんの王子様になりたくて泣いてると思ってた。 ごめんね。 624霧生:なんだそれ! ミイが白雪姫になれて俺が王子様になれなかったのが悔しかったんだよ! 俺だって王冠被りたかったんだよ! 625紗那:<笑う> 626啓 :作ってあげようか? 627霧生:いらねえ! なんだよ森の動物、犬役って、野犬じゃん! 駄目だろ! 628啓 :キリが、クマ役もリス役も嫌だって泣き叫んでたからでしょ。 629紗那:そーそー。 懐かしいな、あれ白雪姫をキスで起こすのどうしたんだっけ。 630啓 :王子様が背中を擦って毒リンゴを吐かせたら、白雪姫が生き返った。 631紗那:<笑う> そんなモンなんだよなー! 632啓 :駄目でしょ、幼稚園のお遊戯会でそれ以上は。 633美衣:あぁ、やっぱりここにいた! なんで電話出ないの! 634霧生:おん? 今日レッスンじゃねえの? 635美衣:終わってすぐ来た! ねえ、主役もらった! 私次の発表会の主役! もらった! 636紗那:おー! おめでとう! すご! 637霧生:え、俺らまた見に行っていい!? 638啓 :羨ましくなって泣かない? 639霧生:うるせえな! 640美衣:泣く? 何? 641紗那:年長のお遊戯会。 ほら、白雪姫。 642美衣:あぁ、ずっと泣いてたよね。 俺の方が王子様だーって。 643紗那:<笑う> 644霧生:お前らなんでそんなの覚えてんだよ……! 645啓 :はいはい。 主役って、あんな大勢いるのに? すごいね、おめでとう。 646紗那:今度は何の役すんの? まあ聞いてもわかんないと思うんだけど。 647美衣:ジゼル! 私ずっとやりたかったの! ジゼル! 648紗那:……えーっと、わかんない。 649啓 :<苦笑する> ね。 今度はどこの国の話? <現在。ペンション予定地、高校生達に声を掛ける霧生。> 650霧生:ほら、ちょっと休憩するべ! やー、現役高校生の体力すげー。 俺ついていけねえよ。 651紗那:あんた達も食いな。 大工さんの奥さんがね、おはぎ持ってきてくれたんだよ。 食った事ある? 好き? 652霧生:俺きなこ! きなこのがいい! 653紗那:馬鹿お前、二つ取るな! こういうのは若い子に先に取らせてやんだよ! 654霧生:え、高校生っておはぎ食うの? 655紗那:同じ事言ってる。 悪いなー、おっさんおばさんになるとさ、高校生ってもう別の生き物なんだわ! <遠巻きに見ている啓と美衣。> 656啓 :仲良くなったね。 657美衣:ね。 ……あの子達、みんな真面目で良い子だね。 658啓 :だね。 この間俺がエナドリ差し入れしたら、キリュウさんの弟さんっすか、だって。 659美衣:<笑う> 弟さん。 660啓 :俺の方がお兄さんのつもりだったんだけどな。 661美衣:それはないわ。 662紗那:おーい、おはぎ。 いらない? 七福堂(しちふくどう)の良いヤツだよこれ、食べなよ。 663啓 :後で食べるよ。 俺お茶淹れてこようか。 664紗那:いいよ、私ポット取りにいく。 ……おー。 ここから見ると壮観だね。 再来週には外観出来上がるらしい。 665美衣:マジ? じゃあ写真撮りにこないと。 サイトに載せるヤツ。 666紗那:プロが撮るんじゃないの? 667美衣:プロに任せたら高いよ。 機材だけ借りてくる。 668啓 :ちゃんとそういうツテがあるんだ。 669美衣:ツテっていうか、前一緒に仕事してた人。 670啓 :へー……。 こういう仕事って、開業前にもっとバタバタするものだと思ってたけど。 そうでもないんだね。 671紗那:おばちゃんが陣頭指揮取ってるから。 おじさんの尻はおばちゃんが叩いて、キリはタケくんがせっついて。 672啓 :一家総出だ。 673紗那:それどころじゃないよ。 おばちゃん婦人会にも声掛けたらしい。 婦人会総出でキリちゃんアレは!? ソレは!? ってすげーんだと。 674啓 :<笑う> あぁ。 675紗那:てかココ寒くね。 あっちのバンの後ろに乗ってたら? 風除けにはなるでしょ。 676美衣:仕事あるからそろそろ帰らないと。 サナは? 677紗那:私は夕方までいるよ、あの子達送るから。 廃材の片付けとか雑草の処理とか、助かってるからな。 親御さんに話して汚名返上させねーと。 678美衣:あんなキレてたのに。 679紗那:もう過ぎた事だし、罪滅ぼしもサボってねえし。 ん、私言うほどキレてたか? 680美衣:傍から見たらね? 681啓 :丸くなったよね、正義の人が。 682紗那:何だよ正義って。 子供が楽しそうにしてんだから、こっちの方が正義だろ! <紗那、遠ざかる。> 683啓 :……子供がね。 684美衣:ケイちゃん? 685啓 :いや、ちょっと。 686美衣:ん? 687啓 :あー。 あの子達、良い思い出になるといいな。 688美衣:なるんじゃない? 楽しそうだし、本職の大工さんに混ざってあんな大きい物建てる、って中々できないでしょ。 689啓 :俺らもいい経験になってるしね。 690美衣:経験で、非日常っていうか、夢みたいな。 691啓 :非日常ではあるね。 夢? そう? 692美衣:うん。 大きい物が出来上がっていくのって、夢みたいだなぁって思って。 それに、あの子達が来てくれるようになってすごい賑やかになったね。 693啓 :ちょっと前までココ、半壊した秘密基地だけだったのにね。 694美衣:ここに来るのも、私達くらいだったのに。 こんなに人がいる。 695啓 :これからもっと増えるよ、お客さん。 それはそれで寂しい気もするけど、一番良い良い変わり方なんだろうね。 <学生時代。秘密基地内、四人でくつろいでいる。> 696霧生:いや、にしたってあんなバターンって死ぬモン? 697美衣:歌劇だから。 そういうモンだから。 698紗那:バレエのあの感じ、慣れた気でいたけどそうでもないわ。 死んだシーン見て、えぇ……って言っちゃったもん。 699啓 :俺は良かったと思ったけどね。 人間死ぬ時ってあんなモンなのかなって。 700美衣:あれねー最初は舞踏会で踊りまくって、急に寒い外に出て死ぬって話だったらしい。 701霧生:あ、俺そっちの方が納得できるわ。 心筋梗塞? 702啓 :情緒ないな……。 703紗那:ええ!? 両方納得できんわ! 何、男に裏切られたから狂って死にまーす! みたいな! 704美衣:舞踊だから。 そういうモンだから。 705啓 :その後亡霊になって二部があるんだから。 706霧生:やーまーそう、……うーん……。 707啓 :貴族役の人、格好良かったな。 あの人は社会人? 去年も出てたよね。 708美衣:そうだよ。 去年パーティーのシーンで一緒に踊ってた人。 709啓 :だよね。 へー……さっき言ってた最初の、っていうのは? 別の演出? 710美衣:作者さんが書いた時に、別の人に監修に入ってもらってああなった、らしいよ。 711紗那:あ、でも! 亡霊になってから踊り方変わってたのはびっくりした! 最初別の人が踊ってんのかって思った! 712美衣:でしょ? いーのいーの、そういう所見て面白がってくれたら。 713啓 :<笑う> 淡々としてるな、舞台の上じゃあんなに表情豊かだったのに。 714美衣:舞台の上だからね? 気持ちとかそういうのは、出しどころがあるんですよ。 715紗那:お、言うねえ。 716霧生:まぁお前までサナみたいに、感情のままでいられたらこっちは困るけどな? 717紗那:だってぇ嫌じゃない、思った事蔑ろにするの。 え、みんなそうでもないの? 718美衣:そこまで気持ちの反射神経ないなあ……。 まあでも、大人になったらいくらでもあるんじゃない? 719霧生:何が? 720美衣:ん? ジゼルみたいに死にたくなるくらい、感情がわーってなる事。 <笑う> 大人になったらありそうじゃない? <現在。喫茶店内、向かい合って座る紗那と啓。> 721紗那:……何? この写真。 722啓 :サナちゃんの彼氏の、奥さんと子供の写真。 723紗那:ふぅん。 724啓 :……知ってた? 725紗那:うん。 飽きちゃったんだよねー、法律事務所で正義の味方みたいな面してんの。 726啓 :……。 727紗那:……なーんてね。 止めようとは思ってんだよ、あっちの奥さんも知ってるし。 728啓 :この人って誰なの。 729紗那:事務所の弁護士。 笑えるよね、どんな顔して離婚相談とか聞いてんだろ。 730啓 :止めなよ。 731紗那:止めるって。 732啓 :今すぐ。 733紗那:……。 734啓 :なあ。 やっぱりサナちゃんがさ、その、人の道外れた事するとか、似合ってないと思うんだよ。 誰か相手が必要なら、俺とかでいいじゃん。 735紗那:えー? <笑う> そんな、自己犠牲みたいな考え方しなくていいよ。 ……付き合い始める時に、独身だって聞いてたんだけどねー。 736啓 :えっ。 737紗那:家庭があるって知ってすぐ、奥さんに連絡したっつーの。 738啓 :……へっ? 739紗那:独身だってコイツが私に話してる録音もある、ご家族に慰謝料も一括支払い済み。 あ。 <笑う> 息子ちゃんにはねぇ、ママのお友達で、秘密の正義の味方って言ってる。 だからお誕生日プレゼントもあげた事あって、 740啓 :ちゃんと説明して。 741紗那:……今の私ってさ、すっごい立場弱いの。 寝る前に気付いちゃったから。 でも婚約指輪とやらがもうすぐもらえるらしい。 それを証拠にする。 独身だって私を騙してる、家族を裏切ってるって法的な価値があるから。 証拠を、指輪を待ってる所。 じゃないと太刀打ちできないんだ、今の私の立場って。 奥さんも承知してる、っていうか、あっちが提案してくれた。 742啓 :……どうしてそんな事。 743紗那:私が慰謝料取る為に。 744啓 :そんな請求ができるくらい傷付いたって事なんじゃないの。 なんで笑ってんの。 745紗那:いやぁ? わかんない。 あ、今から傷付くのかも。 今は相手も自分もムカつくって、それしかないな。 ケイは何も心配しなくていいから。 そういう訳で、奥さんも味方。 事務所内にも味方いるから。 話す気なかったんだけどなー。 746啓 :……。 747紗那:一服していい? <煙草を取り出す> 748啓 :臭いから嫌だ。 749紗那:すんません。 <煙草をしまう> ……あぁ、そーね。 相手になってもらうのは、決戦が終わってから考えようかな。 750啓 :……。 751紗那:嘘だよバーカ。 あからさまに困った顔しないでよ。 ケイ、格好良くなったね。 今に始まった事じゃないか。 この通り私は一人で平気だから、そういう言葉は他の子に言ってあげて。 752啓 :……恰好、良くは、ないよ。 <溜息> 焦った。 キリの離婚もあったし、まさかサナちゃんが、って 753紗那:私もさ、裏切られたから。 一人で舞台に立たせてやるんだ。 754啓 :へ? 755紗那:覚えてない? ジゼル。 人一人裏切ったら、亡霊を見て、世界中で一人きりになるんだって思い知らせてやるの。 そうしないと、法律に関わるって決めた頃の私が、今の私を許せない。 756啓 :……。 757紗那:もう、アンタがいじめられてるの、指咥えて見てた頃の私じゃない。 子供に理不尽を押し付ける大人にだけはならない。 そう思ったら、これからもちゃんと生きていける気がするんだよ。 ねえ、私変かな。 奥さんに慰謝料払ったり、子供にプレゼント渡したり、 ……全部、私の自己満足なのは、わかってるんだけどさ。 ジゼルってアレ、死んで亡霊になった後、どうやって生きてたっけ? <学生時代。校内、放課後の廊下。> 758霧生:ミイ? 759美衣:あ、キリだ。 760霧生:珍し、お前が放課後に学校いるとか。 レッスンは? 761美衣:明日から。 今日休みだから、ケイちゃんと図書館行くんだよね。 一緒に行く? 762霧生:俺はパース。 マジか、暇になっちゃったな。 763美衣:図書館ついて来ればいいのに。 764霧生:いい。 どうせお前らの荷物持ちになるから。 765美衣:<笑う> 部活は休み? そっちこそ珍しいね。 766霧生:顧問もコーチも三年もほぼいなくて、部活回せる人がいねえんだと。 自主練して帰るかな。 767美衣:私達図書館寄って秘密基地行くよ、一時間後くらいには。 768霧生:じゃあ、その頃に行くわ。 あ。 そうだミイ。 769美衣:何ー? 770霧生:クラスの奴が言ってたんだけど。 お前俺の写真買ったん? 771美衣:写真? 772霧生:体育祭の。 773美衣:あ! <笑う> 買った買った、あのドリブルで相手抜いてる写真! 774霧生:マジかよ、何買ってんの。 775美衣:滅茶苦茶写り良くなかった? なんかうちのクラスの子達と盛り上がって買っちゃった! 776霧生:言ってくれりゃよかったのに。 写真くらいいくらでも渡すけど。 777美衣:そういうのじゃないんだよなぁ。 まあノリで買ったんだけど? めっちゃ良い写真だったし、大事にするね! 778霧生:<溜息> ……ノリかーい。 <現在。喫茶店。> 779啓 :ジゼル、ね。 覚えてるよ。 780紗那:やっぱり? 781啓 :怖かった。 ミイちゃんが。 782紗那:へえ、なんで? 783啓 :いや、……普段我関せずって感じで、でも、周りをちゃんと見てる子がさ。 舞台の上ではあんなに感情豊かで、溌溂としてて。 俺にはものすごく綺麗なものに見えたよ。 784紗那:あー確かに、ギャップは、結構。 785啓 :うん。 だから俺、舞台の上で踊ってるミイちゃんの感想を 本人に言った事ってあんまり、なくて。 786紗那:……そうだったっけ? いつもよく見てんなーって思ってたけど。 787啓 :舞台好きだからね。 でも。 俺の事気に入らないからって、これでもかって悪意をぶつけてきたあの人達より。 裏表、とまではいかないけど。 ジゼルか亡霊かみたいな、 知ってる気でいた人の違う面、ギャップが、 <苦笑する> 俺は、今もちょっと怖いよ。 788紗那:まぁ……わからんでもないけど。 789啓 :あの秘密基地の事故。 790紗那:ん? 791啓 :本当は老朽化じゃなくて、人為的な事故だったんでしょ。 792紗那:へえ、そうなんだ。 793啓 :……キリがやったんじゃないか、って。 794紗那:へ? 795啓 :ごめん、忘れて。 796紗那:いや無茶言うなよ。 急だな、何、どういう事? 797啓 :……。 798紗那:いや、さぁ。 ……私もその、人為的な事故だ、みたいな、ちらっと聞いたけど。 にしたってキリがってのはありえないでしょ。 どうしてキリがそんな、 799啓 :のこぎり。 800紗那:──……。 801啓 :秘密基地の裏に落ちてたんだ。 警察を呼んでから見つけて、隠した。 802紗那:……いや、……え、えっ……? 私、いたよね? 803啓 :俺が隠した。 やっぱり気が付いてなかったんだ。 あの人達が俺達の秘密基地に、俺に嫌がらせをする為に、わざわざのこぎりを持ち込んだなら。 そんなに俺の事嫌ってたんだなあって、思ってて。 804紗那:知ってたの。 805啓 :知ってた。 事故当時あの場所に、秘密基地にあの人達がいたんでしょ。 事前に俺達が百均から出てくるのを見掛けて後をつけて、秘密基地の場所を知った。 俺に嫌がらせをしようと思った、家族のいる家より嫌がらせがしやすいと思った。 そういう供述だったって、聞いてる。 806紗那:警察の人から聞いたの? 807啓 :最初は教えられないって言われたけど、親に伝えた話だけでいいから聞きたいって頼み込んだ。 ……親もじいちゃんも、三人も隠してくれてたから、俺から改めて話題にするのもどうかと思って。 808紗那:でも嫌がらせをしようと思った、ってアイツらが言ったんでしょ? 私には自白に聞こえたけど。 809啓 :一般家庭にあんな使い込まれたのこぎりがあるのかな。 ……なんて。 証拠っていうか、キリが、って思ってる理由はそれだけだよ。 810紗那:家族がDIYを趣味にしてて、そっから持ち出したとか。 色々あるでしょ。 高校生になっても、小学生の頃の延長であんな嫌がらせしてた連中だよ。 そもそものこぎりってホームセンターに普通に売ってるよね? 811啓 :でもあの日、キリの部活が自主練になったって、 812紗那:自主練してたキリが、電話しながら慌てて帰るのを見てる同級生がいる。 ……まあ、あくまで私が聞いた話だけど。 813啓 :……そうだったんだ。 話してみないとわからない事ってあるな。 それ聞いてちょっと安心した。 キリが秘密基地に細工をして、あの人達に何かしようとした、なんて。 814紗那:……。 815啓 :ちょっと無理があるよね。 俺だってわかってるんだ。 どうやるんだよって話だし。 ……もう、あの基地も無くなったし。 816紗那:私、キリにもミイにも、言わない。 ……それでもいい? 817啓 :そうしよう。 俺もこれは墓まで持ってく。 はい。 <小指を立てる> 818紗那:何、あ、 <苦笑する> 指切りげんまん? 819啓 :そう。 一緒に持ってて、生きてる間。 俺一人で抱えられる気がしないから。 820紗那:……じゃあ、生きてないとな。 <小指を絡めて笑う> こういう話、ケイからするの初めてじゃね。 いじめられてんのも全然話さなかった癖に。 821啓 :意地張ってるのが馬鹿らしくなったよ。 嫌だね、大人になるって。 ──指切りげんまん、嘘吐いたら針千本飲ます。 822紗那:指切った。 <学生時代。秘密基地内で指切りげんまんをする美衣と啓。> 823美衣:はい約束! <笑う> いいね、楽しみできちゃった。 824啓 :……別にいいんだけど。 ちなみに仕事にするんじゃなくて、独学で 825美衣:私に本の内容をちゃんと教えられるなら、独学でもいいよ。 826啓 :<溜息> ……これ、絶対司書の人がしまう棚間違えてる。 洋書のコーナーってもっと奥の方じゃなかった? 827美衣:かもね。 いいなあ、そんなに英語できるなら、翻訳家とか格好良いと思うんだけどなあ。 828啓 :単純に英語を話す環境があっただけ。 母さんの実家に行けば嫌でも英語ばっかりだし。 829美衣:だから目指せばいいんじゃない? 830啓 :適当言って。 831美衣:いつも鋭いってケイちゃんが言うのに。 832啓 :まあ考えてみるよ。 翻訳なら、一人で働けるだろうし。 833美衣:<笑う> 自慢しちゃお、幼馴染が翻訳家になったら。 834啓 :自慢になるのかな。 キリ来るんだっけ? 遅くない? 835美衣:もうそろそろ来るんじゃないかな。 836啓 :サナちゃんは? 837美衣:委員会だって。 ねえ二人が来たら話そうよ、翻訳家になるって。 838啓 :言わないよ、なれるかわからないし。 雨降りそうだけど大丈夫かな。 自転車にシート掛けてくる。 839美衣:うん、私二人に秘密基地来るか聞いてみるー。 840啓 :<外から> あ、コンビニ寄れそうなら傘── <秘密基地が半壊する。木材が崩れる大きな音。> 841啓 :──……は? 崩れ……!? ミイちゃん、ミイちゃん! 842美衣:い、った、痛……。 843啓 :ミイちゃん! <木材を退かそうとする> 844紗那:<駆け寄る> ねえっ、すごい音したけど! 845啓 :ミイちゃん! 大丈夫!? 846紗那:……えっ、嘘でしょ、ちょっと! 847美衣:何、え? びっくりした……えっ? 848啓 :聞こえる!? 大丈夫!? 849美衣:き、聞こえるけど、動けない。 850紗那:下にミイがいるの!? 851啓 :そう、基地が壊れた、なんで…… 852紗那:ミイ! 大丈夫なの、動ける!? 853啓 :人呼ぶから、そのまま、動かないでいて! 854美衣:どうしよう、動けないかも。 855紗那:ミイ、救急車呼ばないと、ミイが死んじゃう、 856啓 :生きてるから! 俺人呼ぶから、ここ、ここでミイに声掛けてて! 857紗那:わ、かった。 ミイ、ミイ大丈夫、息できてる!? 858美衣:できてる、大丈夫だから。 サナ泣いてない? 泣かないでよ。 859啓 :<電話口> ──……事故です、木造の小屋が壊れて、友達が下敷きになってて── <現在。ペンション前。> 860美衣:うわ、っと。 押すの下手だな。 861霧生:俺が下手なんじゃない、道が悪いんだ。 862美衣:サナもケイちゃんももっと押すの上手いよ。 863霧生:やっぱコンクリ敷いた方がいいか? 864美衣:この石畳好きだけど、そうだね、車椅子だとちょっと揺れるかも。 865霧生:……脚、平気か。 866美衣:平気。 ここなら歩いて来れるんだってば。 867霧生:お前さぁ、なんでここに来る時だけ車椅子使わねえの。 868美衣:あの子達が心配するでしょ。 松葉杖でも、お姉さん大丈夫ですかって言ってくれるのに。 全く歩けない訳じゃないんだし。 松葉杖があれば歩けるんだから。 869霧生:まぁそうなんだろうけど。 870美衣:後遺症も大した事なかったでしょ。 左脚が動かないって、それだけ。 871霧生:それは、それだけじゃないだろ、バレエ辞めて 872美衣:それだけだよ、もう。 今も生きてるんだから。 <キリの顔を見上げる> 珍しい、ほんとに困ってる時の顔してる。 873霧生:……。 <立ち止まる> 874美衣:脚が動かなくても、キリとケイちゃんとサナと、同じように過ごしてるよ。 875霧生:それは、そうなんだけど。 876美衣:ああいう壊れ方だったけど、あの秘密基地があったから、色々思い出あるんだし。 覚えてる? 秘密基地でテスト勉強して、進路調査票書いてー、キリがサナに説教してー。 877霧生:……。 878美衣:……あの高校生達に、反省できればそれでいいとか言ってなかった? 879霧生:言ったけど。 880美衣:あの子達見てて思った。 高校生って無敵だね、もっと繊細な生き物だと思ってた。 ケイちゃんいじめてたアイツらもさ、きっとあの子達と同じだったんだよ。 881霧生:仲間内で盛り上がるだけの花火と、いじめの末の嫌がらせは悪意のあるない全然違うだろ。 882美衣:ちょっとイタズラのつもりで蹴ったら倒れちゃっただけ。 そこにたまたま私がいただけ。 883霧生:だから。 イタズラってのがそもそもケイをいじめてた延長で 884美衣:そうだね。 今ちゃんと大人やってるといいね。 885霧生:……、お前はさ、あの事故で怪我してる当事者だからそう言えるんだよ。 俺かケイかサナが、お前と同じ怪我で片脚が動かなくなった、 歩くのに杖が必要で、車椅子に乗ってて、って、考えてみろよ。 886美衣:<苦笑する> 誰が怪我しても、生きてはいるんじゃない? 887霧生:お前もサナも割り切ってるし、ケイは今も、アイツらが起こした事故だって知らないだろうし。 俺はお前とサナみてえに割り切れねえよ。 888美衣:なんで。 もうあの秘密基地はないんだよ。 889霧生:なくても割り切れる訳ねえだろ。 ケイは高校行けなくて、サナがあんな泣いてて、ミイは脚、動かなくなって。 890美衣:死にたくなった? 891霧生:は? 892美衣:ケイちゃんがいじめられて、私が事故って、サナが怒ってて。 キリは? 893霧生:……それ、お前の話? 894美衣:……あんまり、その。 キリが気持ち、わーってなってる所。 私達きっと見てないな、気持ちの反射神経が良くて、ちゃんと回避して、 周りの誰かの事考えてるんだろうなって。 離婚したって聞いた時と、あの子達の小火騒ぎがあった時、思ってて。 ……もし回避してなくて、真正面から受け取ってるの、隠してるだけなら。 私、キリに謝らないといけないかもしれない。 895霧生:……離婚、子供の事、考えた時は。 そんなん考えてたかもな。 896美衣:そっか。 キリも全然自分の事話さないよね。 でもごめ── 897霧生:<遮る> 今死にたいとか、思ってる訳ねーだろ。 だからペンション建てたんだよ。 <歩き出す> お前図面ちゃんと見たか。 どこでも、二階にすら車椅子で行けるんだぞ。 さっき脚の事色々言ってごめん、お前どこへだって行けたわ。 俺かサナかケイが押せば、これからもどうって事ない。 今までもそうしてたし。 だから。 死にたくなった云々簡単に言うな。 思っても言うな。 次は俺滅茶苦茶怒るからな。 898美衣:……わかった。 たまにだったら、キリもお遊戯会の時みたいに泣いていいよ。 899霧生:おーそうするわ。 あと、俺、あれ。 ジゼルの死に方、まだ納得してねーからな。 900美衣:えぇ? 901霧生:ジゼルは孫曾孫に囲まれて大往生しましたーって誰かが言うまで納得しねえ。 902美衣:<苦笑する> ……私達もう三十歳だよ。 片脚が動かなくても生きていられるし、てか、学生の頃より色々できるし。 学校にPSPも、マスカラも持ち込んじゃいけない理由ってわかるし。 仕事も確定申告もできるし。 あの秘密基地を、こんな大きいペンションにできるんだよ? 903霧生:……そうだな。 よし、お客様第一号! 二号三号が来る前に中見るか! 904美衣:見よ! やった、ムービールーム楽しみにしてたんだよ。 905霧生:シアタールームな! 906美衣:<笑う> ……ジゼルは、物語の中にしかいない女の子だってわかってるし。 ……なんだってできるのになぁ。 907霧生:……コンクリは敷かない。 そもそも車で入れるしな、ここ。 俺、運転だってできるし。 908美衣:<笑う> 909美衣:大人になったね、私達。 2025.10.13 初版 羽白深夜子 2025.11.2 更新 羽白深夜子 2025.11.16 更新 羽白深夜子 2025.12.11 更新 羽白深夜子 2025.12.17 更新 羽白深夜子 引用 「きりぎりす 忘れ音に啼く 火燵哉」 作者未詳(松尾芭蕉の句として伝わっています)
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