最終更新:2024/5/1
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【風鈴草】 (ふうりんそう) 登場人物については
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。 栞と撫子、喫茶店で茶を前に話している。 ======================================= 001栞 :私はここ三ヵ月、面白可笑しく暮らしているよ。 お陰様で。 002撫子:私は何もしてない。 003栞 :あんな事があっても人間暮らしていけるのは、人の縁があってこそさね。 問題ないよ、夢の同棲生活は虹色さ。 最近ね、ちょっとした楽しみを見付けたんだ。 004撫子:楽しみ。 005栞 :そう。 生い先短いじいちゃんばあちゃんの店で買い物をするんだ。 彼らは私を自らの孫のように扱ってくれる。 006撫子:孫? 007栞 :時々まけてもらったり、売れ残った細切れや葉を譲って下さるんだ。 昨日はわらび餅をご馳走してもらった。 居心地が良いよ。 008撫子:でも、金は払う。 009栞 :何事も対価が必要なのさ。 この紅茶や茶菓子だって金を払った対価に得た物だ。 対価が金のうちはまだいい。 010撫子:そう、至極当然(しごくとうぜん)。 でもあなたが言うと悪い事のように聞こえる。 011栞 :悪い事とは即(すなわ)ち、楽しい事を言うんだよ。 お嬢。 012撫子:彼もあなたも、どうしてそうおかしな考えをしているんだろう。 013栞 :おかしい? 014撫子:簡単に常識を飛び越えてしまう。 015栞 :常識。 きっとそれはお嬢にとっての常識で、私にとっての常識じゃあない。 016撫子:……。 017栞 :常識、常識かあ。 そもそもその常識とは誰が定めた? 私の知らん所で常識を定めるお偉いさんでもいるのだろうか。 そしてそれはいつ公布されているんだ? <苦笑する> ……。 冗談はさて置き、だ。 ううん、それにしても好きな言葉じゃあないな。 お嬢もよく知ってるだろう? それを押し付けようとする図々しい連中を。 ──キミが為、摘んだ蕾(つぼみ)は紅(べに)の色。 覚えているかい? 018撫子:清く咲こうと、狂い咲こうと。 懐かしい。 019栞 :ちょっと話が脱線するけどさ、あの子、作家になったそうだよ。 020撫子:作家に? 021栞 :そう。 お嬢みたいな熱心な本の虫ならいずれ出会うさ。 さて話を戻そう。 どうして摘んでしまうのかね。 022撫子:邪魔だから。 都合が悪いから間引く。 023栞 :間引いて、気に入った花だけ咲かせて。 血の繋がった我が子を自分の傀儡(くぐつ)にするのが、彼等の言う常識だと? 萎(しお)れ枯れるのを看取(みと)りもせずに? 024撫子:それでも、綺麗な花を咲かせたい。 自分の感性で満足できる花を。 近ければ近い程、仕方の無いものかもしれない。 誰しも見栄(みば)えの良い花は好き、だと、最近は思う。 025栞 :……ちょっと感情的になりすぎたね、ごめん。 026撫子:私とあなたとは自身の身に起きた事の大きさが違う。 私はこうして喫茶店に逃げ込めばその日は楽しく過ごせる。 027栞 :そんな悲しそうな顔しないでくれよ、私何も言えなくなっちまうよ、お嬢。 028撫子:その、お嬢というの。 止さない? お前様とか、お前とか、それでいいのに。 029栞 :お嬢はお嬢さね。 世界のオオハシ会長の愛娘様。 030撫子:それでもあなたにとっては一友人。 オオハシの名は関係ない。 031栞 :……ああ、嫌だ嫌だ、お嬢。 お嬢は学生時代からそんなに器のデカい子だったかね。 いやぁ損をしたな、色恋ばかりに目を向けて。 もっとお前様と話しておけばよかった。 032撫子:私あの頃のあなた、好きだったけれど。 いつも溌剌(はつらつ)としていて、みんなの中心で。 でも体育の授業だけは頑(かたく)なに参加しなかった。 033栞 :何故だと思う? 当ててみなよ。 034撫子:顔に傷が付くのが嫌だったから。 顔に傷の付く恐れのある活動は徹底的に避けていた。 035栞 :おや正解。 どうしてわかった? 036撫子:当時のあなたが、柳の君に綺麗な顔だと誉められたと、はしゃいでいらしたから。 037栞 :へえ、さすが推理小説の虫。 038撫子:これは推理でもなんでもない。 あの立ち位置にいると、教室の中が見渡せたのよ。 039栞 :ふふふ、懐かしい単語ね、柳の君。 040撫子:放課後に、あなたが柳の君に駆け寄るのを窓から眺めるのが好きだった。 尻尾を振る猫のようで。 041栞 :好きな相手に尻尾を振るのは犬だな。 しかし、好き、かあ。 ふふふ、本当か? アガサの書く小説と比べて? 042撫子:アガサ。 043栞 :そらみろ。 ……言い訳、に聞こえるかもしれないけど。 あの頃のあなたは本が全てのように、私には見えた。 044撫子:それは今も変わらない。 045栞 :そうだね。 うん、そうだ。 所で、そんなに本に夢中になっているのなら、この菓子は私が……って、食べるの。 まあいいか。 すみません、同じ物と、紅茶を。 046撫子:食べていいの? 047栞 :いいかい、私も食べるんだからね。 本が全てってのは撤回してもらうよ。 048撫子:でも、美味しいでしょ? 049栞 :美味しい。 確かに上等品だね。 これも彼と? 050撫子:彼? あぁ。 051栞 :ああって、酷いな。 また面倒くさい感じで拗ねるぞ、ホマレさん。 052撫子:どうして。 053栞 :お前様はとことん、疎いな。 わざとやってるのかと時折、ちらっと勘ぐってしまう。 054撫子:わざと? 私が? 何を? 055栞 :恋愛の話から遠ざかろうとしているように見える。 056撫子:あれっ、これってもしかして恋愛の話? どうして? 057栞 :どうして、ってそりゃあ、お前様とホマレさんはほぼ毎日こうしてお茶してるそうじゃないか。 何らかの気持ちがあってもおかしくない。 それに、ホマレさんはお前様にご執心のように見えたからさ。 058撫子:嘘。 059栞 :嘘をついてどうなる。 ご両親が持って来るという、阿呆面共の写真に興味を持てとは私も言わないけどさぁ。 せめて視野の範囲内には興味を持ってくれよ。 060撫子:興味。 ……興味、湧かない。 061栞 :私達もそろそろいい歳だ、もっとさぁ、色恋沙汰に興味持っていこうよ。 062撫子:面白くないんだもの。 063栞 :面白くない? 064撫子:だってアレには熱がない。 同じ生き物を食い殺してでも悲願を叶えようとする熱がない。 065栞 :痴情の縺(もつ)れ、その末の殺人。 推理小説にはよくあるんじゃないのかい? 066撫子:私はあまり好きじゃないかな。 067栞 :どうして。 068撫子:どう……うーん、……安直? 069栞 :私は人一人殺すに足る動機だと思うけど。 070撫子:うーん……そう、なの? やっぱりよくわからない。 071栞 :例え話をするよ。 ある日突然ホマレさんからの連絡が途絶えた。 どの喫茶店を探してもいない。 そんな状況になったら、お前さんはどう思う? 072撫子:そもそも、私と彼は会う約束はした事がない。 あなたに引き合わせてもらった時に、初めて会う時間の約束をしたのよ。 彼が気まぐれに現れて気まぐれに喋るのを聞きながら、私は本を読んでるだけだもの。 073栞 :んじゃあこうだ。 ホマレさんがお前さんの前に現れなくなったら? 074撫子:静かに本を読む事ができる。 075栞 :あ、確かに。 076撫子:でしょう? 077栞 :やれ、これじゃあ殺人事件が起こる可能性はなさそうね。 じゃあそもそも、お前様は何を思ってあの九官鳥に付き合っているのさ。 078撫子:あの人の話は十分の九が無駄話だから、一だけを聞き逃さなければ会話はできる。 後の九割は本を読んでいればいい。 079栞 :それでいて拗ねないのかい、あの人は。 080撫子:拗ねていないんじゃない? それでも私の前に顔を出すのだから。 081栞 :日替わりのラジオみたいね。 082撫子:うん、それそれ。 083栞 :酷いな。 084撫子:酷いかしら。 そこは価値観の違いだと思う。 085栞 :本当にあれが喧(やかま)しいとは思わないのかい。 086撫子:別段。 087栞 :私は三十分話したら喧しさに飽きて口を閉じたよ。 それでも喋り続けるのだから本当、ラジオと形容するのが正しいね。 お前さんはそんなラジオ、どう思ってるんだい。 088撫子:ラジオはラジオよ。 見聞は広がるし聞いていて飽きない。 それに多少音があった方が、本を読み進めるのが早くて助かる。 089栞 :ああ、そうかいそうかい。 090撫子:私は世間知らずだから、彼の話から新しい事を知れるのはとても楽しい。 091栞 :ふうん。 092撫子:この間は贋作師(がんさくし)がどうやって贋作を作るか聞かせてもらった。 093栞 :待て待てお嬢! お前様がそれを知ってどうする。 094撫子:どうもしない。 095栞 :良い雰囲気じゃないかと思ったけど、余計な話をするもんじゃないと忠告しておこう。 096撫子:良い雰囲気? 余計な事? どうして。 097栞 :お前さん、あのラジオと楽しくお喋りしているんだろう? 098撫子:うん。 099栞 :その話を聞いて良い雰囲気だと思ったんだよ。 だが、贋作の話をこんな場所でするもんじゃないよ。 そっちは余計な話。 100撫子:贋作の話を始めたのは彼よ。 101栞 :そうだね。 うん、そうだ。 102撫子:呆れた? 103栞 :呆れた、呆れた。 104撫子:さっきまでと立場が入れ替わったわね。 105栞 :なに、お前さん私に呆れていたのかい? 106撫子:うん。私が理解できない話をされてどうしようかと思った。 107栞 :それも新しい見聞さ。 覚えておきな。 じいちゃんばあちゃんの店で買い物をすればわらび餅が食べられる、ってね。 こんなの教科書じゃ教えてくれないよ。 108撫子:随分簡略化されているように思うけど。 109栞 :要約すればそういう事さ。 お前様の頭の回転ならば、すぐに思い出せるし結びつけるだろ。 <立ち上がる> 110撫子:仕事? 111栞 :ああ、今日は何でも屋。 愛しの君が待ってるんでね。 112撫子:ねえ。 113栞 :ん? 114撫子:私達、上手くやっていけると思うの。 これからも、仲良くしてね。 115栞 :……ははは。 まるで口説き文句だね。 116撫子:ほら、また飛び越えた。 117栞 :お前様なら、ってヤツだよ。 まだ帰らないのかい。 118撫子:門限までもう少しあるから。 119栞 :なら、私ももう少しいようかな。 このままだと菓子を食うお前様を眺めに来ただけになっちまう。 私ももらうよ。 <座る> 120撫子:愛しの君はいいの? 121栞 :私の要領の良さなら仕事なんてパッと終わるよ。 その後は夕飯を出して風呂の支度をするだけだから、たまにはいいだろ。 今日はあの、忌々しいエウカリスの入学式、アレの続きだ。 122撫子:そうね、続きをしましょう。 ──すみません。 同じ物と、紅茶を。 角砂糖はいりませんから。 2015.2.20 完成 羽白深夜子 2015.2.23 更新 羽白深夜子 2015.3.24 更新 羽白深夜子 2015.9.18 更新 羽白深夜子 2015.11.24 更新 羽白深夜子 2020.1.9 修正 羽白深夜子 2021.1.16 修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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