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【金魚草】 (きんぎょそう) 登場人物についてはこちら。 有償版販売ページはこちら。 誉と崇司、喫茶店で茶を前に話している。 ======================================= 001誉 :戸籍? 002崇司:ああ。 003誉 :へぇ、珍しい事もあるもんだ。      まさかキミから頼み事を賜(たまわ)る日がくるとは思わなかったよ。 004崇司:できるのか、できないのか。 005誉 :できるよ。 何も問題ない。      詐欺師だからね、戸籍の一つや二つの偽造くらいできなくちゃ。      ただ一つ、あ、これは僕の好奇心故に聞くのだけど。 006崇司:なんだ。 007誉 :そんなおっかない顔しないでよ。 相変わらずキミ、僕の事が嫌いなんだね。 008崇司:べらべらと喧(やかま)しいんだよ。 009誉 :そうかな。 僕から言わせちゃ、キミの返答の方が愛想も素っ気も足りていないと思うのだが。      そう睨むなって。 ほら、建前で好奇心故とは言ったけど、それなりに重要な質問だからさ?      とりあえず口を湿(しめ)らせて、 010崇司:で、何を聞きたいんだ。 011誉 :ああ、ごめんごめん。 僕は本当にお喋りが過ぎてしまうね。      ……さて聞こうか。 この依頼は仕事の依頼かい? それとも、私情かい? 012崇司:本当に重要な質問なのか。 013誉 :重要さ。 仕事であれば一介の極々普通の詐欺師である僕が、      この町一、巷(ちまた)で流行りの何でも屋から仕事を頂いた事になる。 僕は有頂天さ。      でも私情であるなら最悪だね。 要は何かしらの面倒事に僕を巻き込もうって魂胆だろ? 014崇司:私情だ。 015誉 :そらきた待ってました!      なんだ、いつの間にいい人を見付けたんだ? 結婚でもするのかい? 一体全体どこの美人と!? 016崇司:待て、何をはしゃいでいるんだ。 面倒事に巻き込まれるのは最悪なんだろ? 017誉 :僕はこの性格上、面倒事に巻き込まれるのは嫌いじゃない。      なんせ僕自身、僕こそが面倒事の化身なんじゃないかと思ってるくらいだからさ。      こればっかりは天賦(てんぷ)の才だと思ってくれていい。      その上、詐欺師の仕事なんて世間様の一般的な観点から見た所、      「最悪」と形容できなければ面白くないとさえ思ってるんでね。      それにキミ、僕が嫌がるだろう解答をあえて選んだろ? 意地悪だな。 でも、ちと甘かったな。 018崇司:……何故女の戸籍と断定して話す。 019誉 :あれ、キミは男色(だんしょく)の趣味でもあっただろうか。 020崇司:ない。 021誉 :だろ? いや、簡単な話だ。      男が面倒事を成そうとするのは大方、好いた女の為だからさ! 022崇司:本当は。 023誉 :そういう格好良い理由にしておこうよ。      キミに足りないのは会話を楽しもうという意欲と男としての見栄と浪漫だね。      まあ、説教する気はないんだけどさ。 簡単な推理、否、推理とも呼べないな。      十日、いや二週ほど前から、キミの家に可愛い黒猫が出入りしているのを知っていたからさ。 024崇司:お前それ、 025誉 :やっぱり訳ありなのか。      おかしいと思ったんだよ、妙に身綺麗なのに着てるのは草臥(くたび)れた男物。 察するにキミのお古。      それに、三日にいっぺん出掛ける先と言えば八百屋に米屋に肉屋。      それも呆(ぼ)けたじいちゃんばあちゃんの店ばかり。 鮮度は大丈夫なのかい?      まあ確かに、市場とは比べ物にならない良心的な値段で置いてはいるけれど。      僕は利口な買い物だとは思えないな。      訳ありではない、そう言うなら、押し掛け女房とはいえ金を渡さないのは感心しないぞ。 026崇司:押し掛け女房じゃあない。 お前、アレをつけていたのか。 027誉 :まあね。 キミがどこのお嬢さんを掻っ攫(さら)って来たのか興味があったからさ。      だーかーら、睨まないでくれよ悪かったって!      んで? 成程彼女の戸籍を作って欲しいと。 そういう事か。 028崇司:ああ、そうだ。 029誉 :元々の身分を証明する物はあるかい?      なに、どこかの深窓(しんそう)のご令嬢だとお見受けしたけれど、念の為にね。 030崇司:好奇心、とやらではないのか。 031誉 :キミは僕を節操無しに仕立て上げたいようだな。 残念、これは仕事だ。      自分の評判が一番の商売道具なんでね。      最悪今現在の名前と出身さえ教えてもらえたら、僕の方でどうにかするけれど。 032崇司:コイツで事足りるか。 033誉 :へえ、エウカリス女学院の学生証ね。 事足りるも何も上等品、……キミ、これ! 034崇司:名前は出すなよ。 誰が聞いているかわからない。 035誉 :<小声> ……驚いたな、キミがロクジョウのお嬢さんと関係があったとは。 036崇司:名前を出すなと言っただろう。 037誉 :だから声を潜めただろ? へえ……へえ。 ありがとう、コイツはキミにお返ししよう。      へえ。 鋼のロクジョウ造船崩壊の噂は本当だったんだな。      まぁ躑躅森(つつじもり)造船の勢いには僕も驚いているが……      っと、これは今話す話題ではないな、すまない。      ロクジョウにご子女は二人いたと思ったが、こちらのお嬢さんは? 038崇司:長女だそうだ。 039誉 :英国に単身留学していた姫君だね。 よし、事情は察した。      姫君は留学先の英国で憐れ行方不明。 新しい彼女は親兄弟もなく天涯孤独の身。      そんな筋書きはどうだろう。 040崇司:ああ、それでいい。 041誉 :よし。 名はどうしようか。 042崇司:苗字はツクヨミで頼む。 043誉 :やはり押し掛け女房じゃあないか。 あまりツンケンするモンじゃないぞ。 044崇司:近所に俺の遠縁だと話してしまったんだ。 045誉 :はいはい。 名は? 046崇司:お前に一任するそうだ。 047誉 :僕に? またまた。      私の新しい名前はあなたにお任せします、とかそんな事を言われたんじゃないのか?      キミが付けなくていいのかい。 まあ、賢明だね。 野良猫に名前なぞ付けたら情が湧いてしまう。 048崇司:御託(ごたく)の多い奴だな。 049誉 :なんとでも。      さて、人一人の過去をまるっと偽造する訳だ。 当然見返りはあるんだろうね? 050崇司:ああ、金なら 051誉 :<遮る> そんな無粋な事は言わないよ。      なに、つい数秒前見返りをとは言ったけどね、僕は友人から金を取る趣味はないのさ。 052崇司:友人ではないので金を払う。 053誉 :まあまあまあまあ。 その代わり、一つ頼みがあるんだ。 054崇司:なんだ。 055誉 :貸してくれないか? 056崇司:は。 057誉 :彼女、新生ツクヨミ嬢は羞月閉花(しゅうげつへいか)の才色兼備。      見目麗しくその上大変聡いそうじゃないか。      僕の聞いた話ではかの鋼の堅城(けんじょう)、ロクジョウ家の最後を辿った当主様が、      次期当主に彼女を指名していたと。      自分の息子にも家督(かとく)を渡さなかったあの頑固者……失敬。      大変高名な当主様が溺愛していたそうだね。      ま、でなければこのご時世、ご婦人を単身英国留学なんてさせないのだろうけどね。 058崇司:まさかお前、アレを貸せと言いたいのか。 059誉 :ご名答。 060崇司:帰る。 この話はなかった事に 061誉 :<遮る> しないよ。 いや何、危険な目に遭わせない事は約束しよう。      僕が守ってみせる──とでも言えたら僕も男前になれただろうか。      しかし残念ながら僕は腕っ節に関してはからっきしダメでね。 その辺はキミも知ってると思うけど。      だからさ、腕っ節が必要になる依頼は全部断っているんだ。 故に彼女は危険な目に遭う事はない。      そして勿論、これは絶対だ。 お役所様方にご厄介になる事もない。      ……見合った給金は払うよ。      押し掛け女房でないと言うなら、彼女だってまるっと一日キミの家政婦でいる必要もないだろう? 062崇司:うちの店を手伝わせる。 063誉 :そうくるかい、ならこうしよう。 僕は恥ずかしい話英語もからっきしでね。      昨今は海の向こうからのお客様も多くて、困っていたんだよ。      そんな可哀想な僕の手伝いをしてもらえたらありがたいんだ。      彼女と話だけでもさせておくれよ。 064崇司:<溜息> お前なぁ。 065誉 :なあ、何を渋る事がある?      キミが既に、彼女を家から一歩も出したくない程想っていると言うのなら、      そりゃ僕も喜んで身を引くよ?      確かにあまり誉められた仕事ではないと自覚しているけれど、その辺はほら、      友人の秘書になってくれ。 とでも言っておけば問題ないだろうに。      仮に何かあっても、キミは何も知らずに僕に頼まれて彼女を紹介し、      天涯孤独の身である彼女は、恩義を感じているキミの頼みを断る事なんてできない。      義理人情に厚く可哀想な無実の被害者だとそれを真実にする、その程度簡単だ。      キミは詐欺師の片棒を担ぐ同居人は困る、なんてつまらない事を言う男じゃないだろう?      僕と何年友人やってるんだい。 066崇司:アレが乗り気になるだろうから嫌なんだ。 067誉 :は? 068崇司:アレはお前寄りの人間だ。 実家の造船所の件、俺に何て言ったと思う。 069誉 :なんだい? 070崇司:清々した上に、みんなが私を可哀想だと言ってくれました。 願ったり叶ったりです。      出さなければならない生ゴミを誰かが纏めて捨ててくれた気分、だそうだ。 071誉 :ははははは! それはまた素敵なお嬢さんだ。 実家の破産を生ゴミ、かい。      ますます気に入ったよ。 こりゃあ金は受け取れないね。      なあ、とりあえず話すだけでもいいんだ。 紹介しておくれよ。 072崇司:……給金は、俺の言い値だ。 073誉 :よしわかった。      まあ、キミみたいなお天道様の下大手を振って歩ける仕事をしている聖人と、      僕の価値観は大分と違うだろうからね。 明後日同じ時間にここで。 必ず二十分前から待っていよう。 074崇司:それほど誉められた仕事ではないんだがな。 075誉 :少なくとも戸籍を偽造する僕よりマシさ。      他人様(ひとさま)の頼み事を片っ端から片付けるなんて、      僕にはまるで物語に出てくる正義の英雄のように見えるよ。 076崇司:好きに言え。 俺は出るぞ。 077誉 :ああ、時間をもらって悪かったね。 僕はこれからご婦人と約束があるんだ。      もうしばらくここにいるから、僕が持とう。 078崇司:女と? 079誉 :そうだよ。 本と菓子を何より愛する、僕が恋する人だ。 080崇司:それはまた随分と詩的なお相手だな。 081誉 :近いうちにキミにも紹介しよう。 ああ、そういえば彼女も女学院の出身だったな。      よしよし、四人でお茶を、なんてのも悪くないな。 082崇司:明後日でも俺は構わないぞ。 083誉 :明後日、か。 ふむ、僕は彼女の前では仕事の話はしない主義なんだがな。      まあいいや、少し時間を遅らせて彼女にご登場願おう。      にしてもキミ、僕がご婦人の話をする時だけは、僕とまともに会話をしてくれるね。 084崇司:この胡散臭い馬鹿に引っかかる物好きの面を拝みたいだけだ。 085誉 :ははは、そんな事だろうと思ったよ。 残念、今回は僕が引っかかった側なんだよなぁ。      あ、そうだそうだ、大事な事を忘れる所だった。 新生ツクヨミ嬢の名前、これでどうかな。      元の名前と響きが変わらないよう気を付けてみたのだが。 086崇司:ああ、これでいい。 087誉 :よかった。 じゃあ、明後日ここで。 また楽しい時間を。 楽しみにしているよ。 088崇司:俺は微塵も楽しみじゃないんだけどな。 089誉 :そう言わないでくれよ。 キミに僕の惚れた女性を見定めて欲しいんだよ。      僕は異性を見定める術すらからっきしダメな様子なんだよ。 090崇司:類は友を呼ぶ。 091誉 :その理屈だとキミも僕と同じ部類の人間になってしまう訳だが。 092崇司:言ってろ。 <崇司、退店する。> 093誉 :──ツクヨミシオリ。 我ながら、中々良い名じゃあないか。      ああ、キミきみ。 こちらのカップを下げてもらえるかい。      それと、コーヒーのお代わりをもらおうかな。 角砂糖も一緒にね。 2015.2.12 完成 羽白深夜子 2015.3.24 更新 羽白深夜子 2015.9.18 更新 羽白深夜子 2016.11.22 更新 羽白深夜子 2020.1.9 修正 羽白深夜子 2021.1.16 修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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