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【庭石菖】 (にわぜきしょう) 登場人物についてはこちら。 有償版販売ページはこちら。 栞は本棚を漁りながら、誉は椅子に掛けて話している。 ======================================= 001誉 :ソウジと僕はね、幼馴染なんだよ。 002栞 :あら、そりゃあ初耳です。 003誉 :だろう? 彼には人生の汚点だと言われた。 004栞 :至極(しごく)致命的で気の毒な汚点だ。 005誉 :まあ仕方ないよ。 幼少期の僕が散々付き纏(まと)ってたからさ。      後ろじゃなくて、主に右隣を。 006栞 :だからソウジさんは自分に都合の悪い話を聞く時、右耳を擦(さす)るのか。      ところで、押してダメなら引いてみろって言葉知ってます? 007誉 :さあ。 でも恐らく僕の性分と正反対に位置する言葉なんだろうね。 008栞 :乙女の間じゃ常識ですよ。 009誉 :それはいい勉強になった。 しかしキミってば乙女だったのかい? 010栞 :私のナニをどう見たら男性に見えるのでしょうね。 011誉 :これこれ、女性がナニなんて言うモンじゃあないよ。 012栞 :ほら女性だ。 013誉 :しかし乙女、とは程遠いように見える。 014栞 :そんなモンご機嫌ようって挨拶かまして、お手々を口に当ててうふふって言っとけば出来上がります。 015誉 :へえ、それはいい事を聞いた。 今度お付き合いする女性にお願いしてみよう。 016栞 :彼女とはどうなんですか。 017誉 :彼女? はて、どの彼女だい? 018栞 :すっとぼけるような相手が他にいるんですか。 019誉 :いやいないね。 彼女は相変わらず他の男共に夢中だよ。 020栞 :ホームズですか、ジェフリーですか。 021誉 :今現在はバロネス・オルツィの描(えが)く死体だ。 022栞 :あら、まだ現実には目を向けていないんですね。 一安心です。 023誉 :なあなあなあ、乙女諸君は菓子と茶を持ち寄って好いた殿方の情報交換をするそうじゃないか。      その要領でさ、僕とも一つ情報交換会を開こうよ。 024栞 :どこから仕入れたお話か知りませんが、それは互いの容姿と持ち物を適当に誉めた後、      美味しいお茶菓子の情報交換を経て、嫌いな同性のお友達への悪口を一通り公開してからでないと      ダメなんですよ。 025誉 :一番最後は聞かなかった事にしよう。 キミにとってもきっと悪い話じゃないぞ?      先に言った通り、僕は右側から見たソウジの成長過程を、      空で描ける程に纏わり付いていたからな!      ただし、僕の絵心に関しては言及しない事! 026栞 :色々通り越して気味が悪いんですけど、残念ながら私と彼女、学生時代は話した事すら      片手で数える程有るか無いか、ですよ。 027誉 :そうなのかい? にしては特別親しいように見えるが。 028栞 :そんなモンです、女って。 029誉 :ふうん。 まあ乙女諸君の世界に関しての見聞は今はいいんだよ。      なんかこう、ないのかい? 彼女から聞いた僕の話! 030栞 :特にありません。 031誉 :本当に!? あいつ喧(やかま)しいとか、うるさいとか、そんな話でも! 032栞 :特に、ありません。 っていうかそれでいいんですか。 033誉 :あーあーあー! いいなぁキミの所は! 盤石じゃないか!      ソウジの家に転がり込んでさ! さぞかし素敵な蜜月を過ごしているんだろうよ! 034栞 :あ、そうだ。 聞きますか? 035誉 :聞かない! そんなモノを聞かされたら嫉妬で書類を片っ端から破り千切りそうだ! 036栞 :じゃなくて、彼女の話ですよ。 037誉 :ほらあるじゃないか! そういうのを待ってたんだ! 038栞 :最近、親御さんからの見合いの催促が加速したそうです。 039誉 :なんだその話か。 知ってるよ。 彼女に聞いたよ。 040栞 :知ってるんじゃないですか。 じゃあ私から言う事はなにもありません。 041誉 :そんな話を僕に聞かせてどうするつもりだったんだ、キミは。 042栞 :焚き付けるつもりですがなにか? 043誉 :僕に彼女を攫(さら)えと? そんな度胸が僕にあると思ったかい? 044栞 :ないでしょうね。 045誉 :そうだよないんだよ。 どうしたモンかな。 046栞 :どうもこうもできないんだから、そのままでいればいいと思いますよ。 047誉 :キミは冷たいな。 そもそも焚き付けようとしておいてそれかい。 048栞 :焚き付けられない火に特に興味は持てないもので。 049誉 :興味持ってくれよ。 焚き付けてくれよ。 050栞 :焚き付けられたいんですか? 051誉 :ああ。 自ら動く気はさらさらないんだ。 052栞 :あら、そうですか。 面白くない。 053誉 :面白くないって、キミ本当に酷いな。 054栞 :酷いのはどちらですか。 そりゃあ面白くないですよ。      それって適当に好き好き追い回していたいって事でしょう? 055誉 :非常に耳が痛いな。 でもそういう事になるね。 056栞 :私の可愛いお友達にそんな事されて面白い訳がないでしょう。 057誉 :可愛いお友達? 会話をした事が片手で数えられる程有るか無いか、なんだろ? 058栞 :学生時代はそうですよ。 でも今は違いますからね。      すましている癖に、一度興味を持てばどうして、どうしてって、子供みたいに聞くんだもの。      可愛いじゃあないですか。 059誉 :成程、全面的に同意しよう。 060栞 :同意を頂けたのは嬉しいですが、だからと言って贋作師の仕事振りについて      喫茶店で披露するのは関心しませんけどね。 061誉 :しかし僕は人攫いになる勇気も覚悟もない。 詐欺で手一杯だ。 062栞 :そのようなので火を点けるのは諦めました。 063誉 :二つ程聞いても? 064栞 :はい。 065誉 :一つは例え話だ。      僕がキミから見合いの話を聞いて、彼女がそれ程に困窮(こんきゅう)しているなら、      僕が海を越え地の果てまでも、どこまでも連れ去ろう。      寓話(ぐうわ)のように窓辺に佇む彼女に手を差し伸べて、彼女に仮死薬を飲ませてでも連れ去ろうと、      そう決心したらどうするつもりだったんだい? 066栞 :シェイクスピアですか。 彼女はあまり好きではないと言っていましたよ。 067誉 :キミはどうなんだい? 068栞 :割と好きですよ、ああいう大それた夢物語は。 アレもまた女の幸せでしょう。 069誉 :夢物語か。 070栞 :あなたも今寓話と表現したじゃないですか。      ただし、あなたが眠る彼女を死体と見紛う馬鹿でない事が大前提です。      その上で、夢を見せるだけ見せて先に死ぬ大馬鹿者ではない証拠に、      定職について、毎日三食、ついでに彼女の好きな菓子を支度するだけの収入が得られるのであれば、      あの子の好きな紅茶に私が仮死薬を混ぜても構いませんよ。      あ、後。 彼女に週に一度は愚痴を織り交ぜた手紙をよこせとよく言って聞かせる予定なので、      手紙が届かないような地の果てに連れて行かれたら困ります。 071誉 :なら二つ目だ。 それはキミの願望か? 072栞 :は? 073誉 :気を悪くしないでくれよ? 僕の幼馴染はあの通りの朴念仁(ぼくねんじん)だ。      とんだ修羅場を見たキミが描いた絵空事なんじゃないかと思ったんだよ。 074栞 :はははは、馬鹿を言わないで下さいな!      私が絵空事に縋(すが)る暇がある人生を送っているように見えますか?      ソウジさんはアレがいいんです。 焚き付けた所で火なんか立ちやしない。      あの人が梃子(てこ)で動くように見えますか? 075誉 :確かに。 だからこそこんな僕と親友でいてくれるんだろうけど。 076栞 :でしょう? ソウジさんは梃子でも動かない、けれど私の事を待っていてくれた。      私にはそこに飛び込む度胸があった。 彼には受け入れる器量があった。      私達はただそれだけなんですよ。 077誉 :成程。 ちょっと千切っても差支えない書類を探してくれないかい? 078栞 :そんな物ありません。 そう、さしずめ私は、礎(いしずえ)を飛び回る蝶といった所でどうです? 079誉 :キミは馬子にも衣装という言葉を知っているだろうか。 080栞 :聞こえませんね。 081誉 :なんだなんだ。 結局惚気(のろけ)話になるんじゃないか。 082栞 :ええ惚気話です。 退屈しなくていいでしょう? 083誉 :退屈しないどころか新しい趣味が生まれそうだ。 書類千切り。 084栞 :誰がこの書類達をまとめたと思っているんですか。      領収書と帳簿と、記録されている九割五分が無駄話なあなたの手記と睨み合いを続けた末、      私の華奢な肩が悲鳴を上げ続けたあの日々を忘れたとは言わせませんよ。 085誉 :その件に関しては何度も礼を言ったじゃないか。      そして償いにわらび餅だって奢ったじゃないか。 五日も連続で! 086栞 :わらび餅で肩こりが治ると? 087誉 :そうは言ってない! わらび餅で治るんであればいくらでも肩に乗せてやったさ!? 088栞 :結構です。 ソウジさんに労わって頂きましたので。 089誉 :やっぱり惚気話になるんじゃないか。 いい加減にしてくれよ、羨ましいから。 090栞 :度胸のないあなたには羨む資格もありません。 091誉 :大量にわらび餅を買い込んで店主と顔見知りになる度胸はあるのにね。 僕は本当に面倒な性分だ。      いや、本当にありがとう。      キミがこれまでの仕事をまとめてくれたお陰で、こうも仕事が捗るようになるなんて想像もしなかった。      足の踏み場も見付からなくて、毎日踏み歩いていたんだよ。 092栞 :人間相手の仕事なんですから、マメに記録はつけておいた方がいいですよ。      私はしばらく、紙の束との睨めっこは御免蒙(ごめんこうむ)りますからね。 093誉 :そう言いながら熱心に片付けてくれたじゃあないか。 いや、冗談抜きで感謝しているよ。 094栞 :『あら探しをするより改善策を見付けよ。 不平不満など誰でも言える。』 095誉 :おじい様の言葉かい? 096栞 :かの国の企業家さんの言葉だそうですよ。 097誉 :成程。 キミらしいな。      ところでさ、さっきから人の話を話半分で聞きながら、何の書類を探しているんだい?      キミがここに通うようになってからの書類ならその左の棚なんだが。 098栞 :いえ、探してるのは二ヵ月程前の──あ、あった。 099誉 :拳銃の密輸記録? 酷い仕事だったと辟易(へきえき)したものだが、これがどうした?      この手の仕事ならソウジの所にいくらでも記録があるだろう。 アレは僕より遥かにマメな性分だからね。 100栞 :あなたの最近の手記に、これに関わった新しい人物の名前があったので、記録しておこうと思いまして。      せめて手記くらいは時系列順にまとめておいて欲しいんですがね。 101誉 :いやぁすまない。 取り留めなく書き留めてしまうものだから。 しかしまぁよく覚えていたね。      やれ、その功績を讃えて、僕がとびきり美味しい紅茶を淹れて差し上げようじゃないか。 ​ <誉、退室する。> ​ 102栞 :ふふ。 そんなモンですよ、女って。 あ、砂糖はいりませんからね。 2015.3.12 完成 羽白深夜子 2015.9.18 更新 羽白深夜子 2016.12.18 更新 羽白深夜子 2021.1.16 修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 引用 ヘンリー・フォード
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