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【百日紅】 (さるすべり) 登場人物についてはこちら。 有償版販売ページはこちら。 ※「ジゴマ」……この頃日本で公開された、フランスの怪盗小説映画。  変装、強盗の真似事をする「ジゴマごっこ」が流行っていました。 ======================================= 001誉 :やあやあ、ちょっと休憩しよう。 楽しいお茶会の時間だ。 002栞 :楽しいという形容には物申したいのですが、まあ、お茶は飲みたかったですね。      ありがとうございます、頂戴します。 003誉 :うんと召し上がっておくれ。 せめてもの罪滅ぼしだ。 004栞 :罪滅ぼし? 何ですか、あなたの汚い字には慣れてきましたよ。      他に滅ぼすような罪があるんですか? 末恐ろしい人ですね。 005誉 :愛しの君の機嫌は直ったかい? 006栞 :一番の重罪を! よくもまあヘラヘラと!      直りませんよ! 一体どうしてくれるんですか!? 007誉 :僕の幼馴染はいじけると長いからなあ。 ん? そうだ。      一分、一分そこら閑話休題として一つ、いいかい? 008栞 :は? いいですよ、どうぞ。 009誉 :いやね、これは僕の見解であり偏見である事は重々承知だ。      いじけた成人男性というものが一番面倒だと思うのは僕だけかい?      子供ならまだ可愛い、年寄ならそういうもので片付くだろう?      しかし僕の経験則において僕らくらいの年頃から壮年にかけての男性のいじける、という意思表示はさ、      一番面倒だと僕はそう思うんだよ。 コレね、キミならわかってくれると思ってさ?      ヤツらはそれでも自分が正しいと思い込んでいるんだよ、アレは一体何故だ?      自尊心か? 男として生まれ二十ウン年男子として生きてきた意地がそうさせるのか?      僕は全くそんなもの備わらなかったし欲しくもないんだが? 010栞 :一分経ちました。 それでですね、 011誉 :キミは情緒がないな!? まだ導入も導入だというのになんだその切り上げ方は!? 012栞 :あなたが一分そこらの閑話休題って仰ったでしょう! 013誉 :じゃあキミの持ち時間も一分だはいどうぞ愚痴でも何でもかんでも僕にご高説下さい! 014栞 :面倒だと言って一分経たずに面倒だと言ったソレを体現して見せつけるのはどういう冗談ですか!? 015誉 :あ。 すまないとんでもない理不尽を押し付けてしまった! そうか、こういう具合か……。 016栞 :<溜息> そういう具合なんじゃないですか。      ま、いじけるという行為そのものが、小さな理不尽への抵抗策なのでしょう。      その度合いは人によるでしょうから、確かに成人男性とは断定致しかねますね。 017誉 :しかし僕の目から見れば、その辺り女性はとても上手く立ち回っているように見える。 018栞 :そりゃあそうでしょう。 結婚して旦那様の家に入れば生活様式はガラッと変わる訳です、女性は。 019誉 :あぁ、成程。 020栞 :そうじゃなくても私達は、子供を産む為に自動的に小さい頃から、問答無用に、成長につれて。      体が設えられる訳です。 これは結婚の生活様式云々以上に、どうしようもない。 021誉 :ふむ。 022栞 :慣れているんですよ、きっと、多分、私達は。      だから、ある程度気持ちを操るのが、いや、そういうものだと割り切るのが上手いように。      男性から見えるものではないのですか。 023誉 :ほー……。 024栞 :……私からしてみれば、全く逆の意見になりますがね。 025誉 :キミは男性の方が立ち回りが上手いと、そう思うのかい? 026栞 :立ち回りが、というより。 耐え性という観点から見れば世の男性は皆立派だと思いますよ。      ほら、私は。 実家を捨てた人間ですからね? 027誉 :キミのご事情はまた特殊だ。 028栞 :しかし世の殆どの家が子息を跡継ぎに指名している以上、      私と同じ特殊な事情を抱えるのは男性が多いかと。      聞いた事ありますか? 実家を捨て、名前を捨てた男性の話。 029誉 :両親と名前を捨てた馬鹿者なら、身近にいるけどね。 030栞 :アレくらいでしょう? 031誉 :ああ。 キミ、驚かないんだな? ソウジが両親と名前を捨ててるってソレ。 032栞 :事情は一通り聞いていますよ。 意地を通してああしてお店を持って続けている訳です。      それなりに尊敬はしています。 033誉 :そうか。 いや、安心した。 僕は幼馴染だからさ、ソウジとご両親の事情については把握してる訳で。      キミはどうなのかなとちょっと心配していたんだ。 034栞 :承知できなかったら家に転がり込んではいませんよ。      あなたの見解はどうなんです? 私は彼とご両親のやり取りを見た事はありませんで。 035誉 :……どっちもどっち、かなぁ。 どうにか敷いた道を歩かせたい両親と、自分の道を歩きたいソウジと。      よくある話ではあると思うけどね、まあ、どちらも我が強いんだ、あの家族は。 036栞 :その緩衝材(かんしょうざい)がおじい様だったと。 037誉 :そういう事。 おじい様が亡くなって均衡が保てなくなってあの通りさ。 038栞 :ふうん。 039誉 :おや? なんだい、面白くなさそうだね。 040栞 :面白くないですよ。 結局今になっても、おじい様への郷愁で立っていて、自分の足で立っていないと。      そういう事でしょう? 041誉 :手厳しいが、そうなるね。 そうしておじい様への思慕がありながら、ソウジはキミが大事なんだ。      とんだ美談だよ。 しかしそれら全てを自分に向けて欲しいと? そういう話かい? 042栞 :私はソウジおじい様の分身と添い遂げたい訳ではないんです。 043誉 :キミまで界隈の乙女のようじゃないか! 一体どこで悪い物を食べたんだい? 044栞 :私と添い遂げるのに未来はあれど、おじい様は既に鬼籍に入(い)る訳です。 045誉 :わかってる、わかってるって僕は。      それでもおじい様の名誉の為にと死地へ出向くような馬鹿だから心配していた、それだけだよ。 046栞 :死地、ああ。 あの名前の無い男を庇おうとしたとでも? 047誉 :そうなんだよ。 全く呆れちゃうよ。 048栞 :アレは結局どういう顛末だったんです。 049誉 :警察の若い衆が自らの矜持の為更に武器を手に入れようとした。 050栞 :まあ。 ジゴマごっこでもやりたかったのでしょうか。 051誉 :アレはそれこそ警察が、上演禁止に持ち込んだそうだね。      ごっこ遊びで済ませてくれるなら玩具は提供したけどね。 実弾はダメだ。 052栞 :優秀な方でしたでしょうに、そんな事で警察として、人としても終えてしまうなんて。      呆気ないモノですね。 053誉 :盛者必衰なんて言葉がある。 自らの力量以上の事をやらかそうとするからだ。 054栞 :あら、案外そうは言い切れないのではないですか?      窮鼠猫を噛む、なんて言葉もあるんですよ? 055誉 :そう思うかい? 056栞 :ええ。 実家に噛みついた実体験がありますからね、私には。 057誉 :はは、実体験には敵わないな。 よくもまあやってくれたモノさ。 拳銃の方ね。      僕のようなか弱い売人がお天道様の下に炙り出されてしまったらどう落とし前をつけてくれたのか。 058栞 :そういうおつもりだったのではないですか? 059誉 :まさか。 あんまり手段が杜撰(ずさん)すぎてすぐに辿れた、呆れ返ったよ。 060栞 :ふうん。 061誉 :それでいてご大層な理想を掲げていた訳だ。 この国の未来が心底心配だ。 062栞 :あなたみたいな売人もいますしね。      でも、私は好きですよ。 そうして阿呆面で遠吠えしかできない連中。 063誉 :本当に良い性格してるな。 064栞 :面白いじゃないですか。 きゃんきゃんキャンキャン飽きもせず、まあ、可愛らしい事で。 065誉 :キミ、夜道に気を付けろよ。 066栞 :果たして阿呆面に刃物が扱えるのでしょうか? 067誉 :さあ? どうなんだろうね。 拳銃を発注できる浅知恵はあるらしいよ、全く忌々しい。 068栞 :あなたまで辿り着けないよう頭さえ回れば、そこまで忌々しくはなかったのでしょう? 069誉 :そりゃあね。 僕も商売だから。      お天道様の下、大手を振って歩けない僕らのような日陰者を抱えるには、それが最低限の礼儀だろ? 070栞 :その割にはあなたも白昼堂々喫茶店で贋作師の手腕を披露するのでしょう? 071誉 :僕の話を盗み聞いて贋作に興味を持ったとて辿れないように話していたよ、当たり前じゃあないか。      僕にもそのくらいの行儀はあるよ。 072栞 :あらそうですか、それは失礼しました。 073誉 :キミ、僕がそんな節操無しに見えていたのかい。 074栞 :見えていましたとも。 075誉 :そんな事をすれば話を聞いていた彼女まで巻き込まれてしまうだろ。 076栞 :ああはいはい。 そうでございましたね。      そういえばあの子、あなたが仕事の話をしてくれないと不貞腐れていましたよ。 077誉 :そうかい……え? 僕の? 078栞 :この間ちょいと愚痴って、あなたの愚痴と交換だと言ったら、ちょろっと。 079誉 :それは、え? 何なに、僕の仕事の話!? 080栞 :私は知らなくていい事が多いみたいだから、って。 081誉 :……あー。 082栞 :宥めはしましたよ、一応。 後はあなたの手腕でもって、どうぞ。 083誉 :そう、うん、そうか。 084栞 :思ったより反応が薄いんですね。 なんだ、つまらない。 085誉 :いや、その。 彼女が僕の仕事にうっすらでも興味を持ってくれていたとて、      彼女には明かせない事ばっかりじゃないか。      だからそう、贋作の話だの、彼女が面白がってくれる範囲で話していたんだけど。 086栞 :ふむ。 087誉 :それでも足りないんであればどうしよう、と考えていたんだ。 088栞 :本当に好き好き追っかけていたいだけなんですね。 089誉 :それはまあ、耳が痛い話だけど、まあ……。 090栞 :……別にそれでも構いませんよ? あの子が楽しく暮らしているのが一番です。 091誉 :定職について毎日三食、ついでに好きな菓子の用意は? 092栞 :そんなの。 あの子もお嬢様とはいえいい歳なんだから、自分でできますよ。      もしかして、ご自身がからかわれていると気付いていなかったのですか? 093誉 :そりゃあ、冗談の一端だとは思っていたよ? 思っていたさ。      でもさ、あのオオハシのご子女相手ってなると、ねえ。 094栞 :それはあなたの罪悪感でしかないんですよ。それを彼女の所為にしないで下さいな。      グダグダ言い訳を並べるならそれこそ、あなたの言うお天道様の下を大手振って歩けるような      仕事を覚えたらいいのではないですか。 095誉 :<溜息> 全くキミには敵わないな。 仕事はとかく、彼女との話は僕も内容を検討しよう。      僕と過ごす時間は彼女にとって楽しくあって欲しいからね。 096栞 :シェイクスピアには程遠いですが、自らそう言えるなら及第点でしょう。 097誉 :なんせ彼女の不貞腐れ方は慎ましいからね。 キミからご指摘賜るまで僕は気付かなかった。      しかし気付いたからには、キミよりは簡単な案件さ。 098栞 :あら。 こちらももう、そう難しい話ではありませんよ?      不貞腐れていたとて時間が解決してくれましょう。      彼が不貞腐れているのが対私ではなく、名前の無い男の一件であるのなら。      解決しているんですから。 099誉 :人の命一つ捨てたんだ、アレにとっては大事だと思うが。 100栞 :端役の命一つと私と、流石に天秤に掛けるまでもないと思っていますよ。      あの人の大切なご家族ならとかく。 口の無い只の死人に妬いている程、暇ではありませんで。 101誉 :なんだいキミ、余裕綽々じゃあないか。      そういえば不貞腐れてると言いながら、ソウジから上手い事聞きだしているモンだ。 102栞 :いいえ、その件に関しては口を割りませんで。 だからあなたから聞き出しているんですよ。 103誉 :いや、あれ、──キミ? 104栞 :はい? ああ。 流石に私もこんな話、あなた以外にはしていませんよ。 105誉 :……馬に蹴られるのは嫌だな。 沈黙は金だ。 106栞 :あらお利巧ですね、普段からそのお利巧ぶりを見せびらかして下さっても構いませんよ? 107誉 :冗談止してくれよ。 僕からこの口を取り上げたら一体何が残るんだい?      しかしまあ健気な事だ。 僕にはとても真似できそうにないね。      キミみたいな人なら、定職について毎日三食、ついでに好きな菓子を支度するだけの収入を以って      一人を掻っ攫(さら)って行くのだろうね。      下々たる僕は仮死薬でも混ぜて、手伝ってしんぜようか? 108栞 :そりゃあどうも、結構ですよ。 ──全部私がやりますので。 2015.9.17 完成 羽白深夜子 2021.1.16 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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