最終更新:2024/5/1
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【八重桜】 (やえざくら) 登場人物については
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。 崇司と撫子、喫茶店で茶を前に話している。 ======================================= 001撫子:名前の無い男。 002崇司:そう、名前が無い。 推理物の小説らしくて好まれるのではないかと思いまして。 003撫子:推理小説が好きと、お話しましたっけ。 004崇司:あの九官鳥から聞きました。 005撫子:シオリからではなく? 006崇司:ええ。 この案件シオリは面白がっていますが、私はほとほと困り果てていましてね。 007撫子:そうでしたか。 ええ、確かに好きですよ。 推理物の小説。 しかし名前が無い、という事は、住所も? 008崇司:住所もなにも、です。 009撫子:ご依頼の内容は? 010崇司:居場所を探してくれ、だそうで。 011撫子:推理物から遠ざかりましたね。 どなたかの探し人の可能性は? 012崇司:残念ながら、私の情報網では。 生憎警察にお渡しするような案件でもなさそうなもので。 013撫子:というと? 014崇司:依頼主の身形(みなり)。 上等な背広に銀時計、そして懐に、拳銃が一丁。 015撫子:まあ。 016崇司:拳銃をお預かりした上で、今は川原町(かわらまち)の長屋(ながや)に匿ってます。 さて如何(どう)したものかと思いまして、知恵を拝借できれば。 017撫子:この町生まれの方なのでしょうか。 018崇司:繁華街や河原を共に歩いてはみたのですが、特に思い出せる事はなかったそうです。 019撫子:お店にいらした時は? 020崇司:ふらりと現れて、私を見てこんにちは、と。 021撫子:記憶はなくとも挨拶の言葉は出てくるのですね。 022崇司:らしいですね。 023撫子:拳銃をお持ちなら、警察の方では? 024崇司:と、考えはしたのですが。 025撫子:見当違いでしたか。 026崇司:ええ、まあ。 027撫子:確か、一月半、二月(ふたつき)程前でしょうか。 あちらの件は? 028崇司:……どうしてそれを? 029撫子:酷い仕事だったと、珍しく愚痴っていたので。 030崇司:あの九官鳥め。 031撫子:詳細は教えてくれませんでした。 ただ、海の向こうから酷い仕事がきた、と。 032崇司:……では、あなたの口は堅いとお見受けして。 033撫子:ええ。 034崇司:二ヵ月程前に、拳銃の密輸がありましてね。 035撫子:まあ。 036崇司:どうもその関係なのではないかと。 037撫子:あの人はそんな仕事にまで手を出しているのですか。 038崇司:アレも私も、報酬さえ支払われるならどんな仕事でもこなしますよ。 039撫子:模造貴金属や贋作の販売をしている、と聞いていました。 040崇司:まあ、ええ。 専門はそっちでしょうね。 私は宝石や絵の価値はさっぱりで。 041撫子:では、あなたの専門は? 042崇司:犬の散歩から法的に許されない物の販売まで。 浅く、手広く、です。 043撫子:専門的な知識が必要な依頼が来た時は? 044崇司:アレのような専門家に任せています。 045撫子:仲介もなさるのですね。 046崇司:ええ。 曾祖父の代からの店なので、その辺の伝手(つて)は、ぼちぼち。 ……話が逸れましたね。 その仕事の際、拳銃が一つ持ち出された。 その責を負う羽目になったあの九官鳥は、報酬が言い値の半分も支払われなかったので騒いでいる。 そういう顛末です。 047撫子:あの人が、責任を負う? 048崇司:海の向こうとこちらとの仲介人をしていたそうです。 英語がからっきしなどと、よくもまあ抜かせたものだ。 049撫子:彼の一番嫌いな言葉だと思っていました、責任。 050崇司:でしょうね。 阿呆みたいな額の報酬に釣られた結果ですよ。 051撫子:彼から幼馴染と伺っておりましたが、やはり随分仲が良いのですね。 052崇司:何故。 053撫子:憎まれ口を言うその顔が何よりの証拠だと。 054崇司:……あなたも、もっと取っつきにくい方というか。 気難しい方だと。 055撫子:昔から、何を考えているのかよくわからないとは言われてきました。 056崇司:奇遇ですね。 私もです。 057撫子:そうなのですか? 私の知っている柳の君は、シオリが駆け寄れば嬉しそうに微笑んでいらっしゃいました。 058崇司:……その呼び名は、どうにかなりませんか。 059撫子:あら。 シオリはとても気に入ってる様子でしたから、つい。 駄目でしたか? 060崇司:駄目というか、まあ……。 <咳払い> また話が逸れました。 そう、拳銃の話です。 061撫子:そうでした。 シオリの話は、また後で。 062崇司:するのですか。 063撫子:是非。 064崇司:……検討しておきます。 いや、喧(やかま)しいのがいないとどうも話が脱線してしまう。 065撫子:奇遇ですね、私もです。 もうしばらく脱線してみますか? 066崇司:先に私の話からでも? 067撫子:ならば、後で私のお話を。 068崇司:私の……僕の勘ですが。 彼は件(くだん)の拳銃の密輸に関わっていた可能性が高い。 069撫子:証拠はあるのですか? 070崇司:勘でしかありません。 偶然彼が記憶を無くした町で、偶然拳銃の密輸があった。 どうしてもそうは思えないのです。 071撫子:この町では、拳銃の密輸はよくあるのでしょうか。 072崇司:滅多にない、と形容していいでしょう。 073撫子:あなたの知る限りで、頻度は。 074崇司:年に一度有るか無いかです。 075撫子:思いの他少ないのですね。 海に近くて、程良く都会で、なのにのんびりした土地柄なので、もっとあるのかと思っていました。 076崇司:最近は躑躅森(つつじもり)造船の勢いもありますし、後ろ暗い仕事はやりにくいですからね。 077撫子:後ろ暗い仕事。 078崇司:犬の散歩や買い物の代行だけでは、暮らしていけないもので。 079撫子:それで、仲介もなさるのですね。 080崇司:ええ。 081撫子:どういったお仕事の仲介を? 082崇司:それは企業秘密にさせて下さい。 あなたのような方にお話するのは、憚(はばか)られる仕事ばかりだ。 083撫子:そうですか。 躑躅森の勢いがあって、後ろ暗い仕事がやりにくいのですか。 084崇司:ええ、まあ。 そんな仕事です。 085撫子:それでは、ロクジョウの頃は? 086崇司:……僕は、当主様と面識があったのでぼちぼち。 おこぼれに預かっていました。 087撫子:お仕事上手ですね。 088崇司:まあ、成り行きで。 089撫子:大層気の難しい方だったとお聞きしていますよ。 090崇司:だからこそネジの外れた孫娘が可愛かったのでしょう。 091撫子:成程。 そこに付け込んだと。 092崇司:そう言われると耳が痛いですね。 でもまあ、そういう事になりますね。 093撫子:言い回しがそっくりですね。 094崇司:シオリに? 095撫子:いえ、九官鳥に。 096崇司:あなたも、自分の調子で話をするのがお好きなんですね。 097撫子:シオリもこういう調子で話を進めませんか。 098崇司:そしてどうしてもシオリの話をしたいのですね。 099撫子:数年前は窓から眺めるだけの人だったのです、私にとってあなたは。 今、目の前にいらっしゃる事が楽しくて、つい。 100崇司:……何からお話しましょうか。 拳銃の件は以上でよろしいですか? 101撫子:ええ、また何かわかったら教えて下さいね。 102崇司:長々と憶測の話を聞かせた上に、脱線ばかりしてしまってすみません。 103撫子:いえ、とても新鮮でした。 どうなるのかわくわくします。 ……さて、あなたはどうして、毎日シオリの送り迎えをしていたのですか? 104崇司:……随分答えが難しいお話ですね。 105撫子:あの頃、登下校中に危険がある訳でもなく、シオリ自身も一人歩きが できないような子ではなかったでしょう。 下校時刻のきっかり十五分前からあの柳の下でシオリを待ち、 下校だけではなく朝早い登校まで同行していたのはどうしてですか? 106崇司:あの頃のシオリには、門限がありましたので。 107撫子:はい。 108崇司:……ええ。 109撫子:え? 110崇司:えっ。 111撫子:それだけですか? 112崇司:ええ。 113撫子:どうして、わざわざ朝早く起きて同行していたのですか。 114崇司:シオリには、門限があったので。 115撫子:登校時には門限は関係ありませんよね? 116崇司:……あの、何といいますか。 117撫子:はい。 118崇司:失礼かとは思いますが、その。 疎い方ですね。 119撫子:……成程。 そういう話でしたか。 120崇司:わかって頂けましたか。 121撫子:ええ、何となく。 122崇司:よかったです。 123撫子:シオリにもよく言われます。 何か失礼がありましたか? 124崇司:いえ。 失礼という程では。 125撫子:粗相がありましたか? 126崇司:そんなに大袈裟なものではありませんよ。 127撫子:……ああ、成程。 少し考えたらわかりました。 逢瀬の時間を作っていたのですね。 128崇司:はい。 129撫子:そう仰って下さればよかったのに。 130崇司:すみません。 そういう話には慣れていないもので。 131撫子:私こそ。 どうにも察しが悪くて。 132崇司:あなたは、何かないのですか。 133撫子:え? 134崇司:そういう話。 親御さんがよく見合いの写真をお持ちになると聞いていますよ。 135撫子:そういう話でしたら、先日お話が一つ延期になりまして、安堵している所です。 136崇司:延期。 137撫子:先方の都合だそうです。 138崇司:それはまた。 139撫子:大学を優秀な成績で卒業された上で、警察に勤めていた方だそうで。 両親が落胆していました。 140崇司:良いお話ではないですか。 延期になって安堵されているのですか? 141撫子:会った事もない方と夫婦になるだなんて、どうもしっくりこなくて。 142崇司:成程。 それは確かに、僕から助言のしようがありません。 143撫子:九官鳥が言うには、私はそういう優秀な殿方の横でにこにこ笑っていればそれが幸せだろう、 との見立てなのですが、いまいちピンとこないと言いますか。 144崇司:……ほう。 145撫子:あ、すみません。 私ばかり喋っていますね。 146崇司:ああ、いえ。 僕もいくらか喋り過ぎて疲れました。 147撫子:慣れないものですね。 148崇司:そうですね。 149撫子:お菓子のお代わりは? 150崇司:僕は大丈夫です。 151撫子:コーヒーは? 152崇司:あー……そうですね。 もらいましょうか。 153撫子:時間は大丈夫ですか? 154崇司:ご心配ありがとうございます。 大丈夫ですよ。 シオリもまだ、この時間なら遊び歩いているでしょう。 後半刻ほど時間があります。 155撫子:ならば、これまで体験した面白いお仕事について、差支えなければ。 156崇司:ええ。 差支えない範囲でお話しましょう。 もし、コーヒーのお代わりを。 こちらのご婦人には紅茶を。 砂糖は……いりません。 2015.9.15 完成 羽白深夜子 2015.9.18 更新 羽白深夜子 2020.1.9 修正 羽白深夜子 2021.1.16 修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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