最終更新:2024/5/1 利用規約をご一読下さい。
してはいけない事→脚本のコピー&ペースト/ページURL以外の配布/アーカイブ等の7日以上の公開 告知や配信画面の為に画像や動画を作らず、使わなければ、お金を支払う必要はありません。 アーカイブ等の7日以上の公開は、有償版の購入と別途申請が必要です。 わからない事がありましたら羽白深夜子までご連絡下さい。
サイト掲載版を使う方は使用申請フォームからご申請下さい。
【付喪神の件 四話】 (つくもがみのくだん よんわ) 男性2人:女性2人。 これまでのあらすじ:付喪神、人間の暮らしを始めた。 有償版販売ページはこちら。 【高野 里歌(たかの りか)】 16歳、高校一年生。流歌の双子の姉。 流歌より社交的だが学校の成績は悪い。ギャルっぽい見た目で厚化粧。 国を問わずお伽噺や古典文学が大好き。周囲には隠している。 流歌と同じ学校の文系のクラスで授業を受けており、将来の夢は翻訳家。 高校卒業後に留学をしたいと思っている。 ​ 【高野 流歌(たかの るか)】 16歳、高校一年生。里歌の双子の弟。 里歌より学校の成績が良いが内向的。休み時間も黙々と勉強している。 天体が好きで、将来は数学者を目指している。 里歌と同じ学校の理系のクラスで授業を受けており、将来の夢は数学者。 【空木(うつぎ)】 鏡の付喪神。女性型。 前の持ち主の所にいた際欠けた事で、人間の情を取り込み欠けた箇所を 補おうとした過去があり、人の心を読む事ができる。 現と空木は対の鏡として置かれていたものの、空木は人の情まで映してしまい 本来鏡に映らない筈の物が映り気味悪がられ、目利きの骨董品屋を転々としてきた。 【現(うつつ)】 鏡の付喪神。男性型。 空木の様な欠けはなく、人間の真似が上手い。とにかく器用。 空木が上記の通り人の情を映してしまう為、過去現の鏡だけを買いたがる客がいたが、 空木と離れる事を厭い空木を真似、こちらも本来鏡に映らない物を映してきた事で 結局空木と一緒に目利きの骨董品屋を転々としてきた。 【妹】 空木と現が元々置かれていた家の娘。明治時代の華族。 彼女の部屋には空木が置かれていた。 ※「高野里歌」と兼任して下さい。 【兄】 空木と現が元々置かれていた家の息子。明治時代の華族。 ※「高野流歌」と兼任して下さい。 【配役表】 高野里歌・妹: 高野流歌・兄: 空木    : 現     : ======================================= <流歌に昔話をする空木。> 001空木:──明治は十七年。 アレは丁度、七夕の日であったな。      華族令という物が制定された。 聡いお前なら知っておろう。      そう、一言で言ってしまえば、貴族制度だな。      爵位は華族となった家の戸主(こしゅ)、男のみが襲位した。      その家は永世(えいせい)華族と呼ばれる。 一代のみならず、子孫も華族となって暮らしていた。      それも侯爵家。 爵位はわかるか? 上から二番目の位だ。      ふふ、我らはそんな家にあったモノなんだ、すごいだろう。      ……とはいえ。 我らが家を離れる頃は、すっかり没落してしまったがな。 002妹 :──まぁ、貴族院の方が。 こんな素敵な物を。      お兄様、私が頂いてしまって本当によろしいのですか? お父様とお母様はなんて? 003空木:その豪奢(ごうしゃ)な館の玄関先には、ウツツが置かれた。      沢山の人が出入りした。 ウツツはそこで沢山を映した。      あの通り妾(わらわ)よりうんと器用なのは、そういう訳だ。 004兄 :あちら様がな、年頃のお前に是非と言っていたよ。 父上と母上も喜んでいた。      僕も良い物を頂いたんだ。 お前も遠慮なんてせず、頂きなさい。 005妹 :対の姿見は玄関に置くのでしょう。      こちらの鏡も綺麗だから、食堂辺りに置くのは如何(いかが)でしょう。      こんなに美しい鏡、私が独り占めするのは些か気が引けますわ。 006兄 :良い鏡だからお前の部屋に置くんだよ。      お前ももう年頃の女性だ。 家族の一員として、国民の模範として。      恥ずかしくない身なりで、立ち居振る舞うように。 007妹 :はぁい、わかりました。 お兄様はいつもそればかりなんだもの。 008空木:その豪奢な屋敷には、侯爵の息子と娘が一人ずつ、住んでいた。      息子が兄で、娘が妹。 お前達とは反対の兄妹だなぁ。      どちらも見目麗しく器量良しで、各々の将来を期待されていた。      そして。 飛び切り仲の良い兄妹だった。 009妹 :私の部屋と、お兄様の部屋と。 こんなに美しい対の鏡があれば、内緒話ができそうだったのに。 010兄 :お前は面白い事を言うなぁ。 そんなお伽噺のような事ができれば、楽しかったろうね。      そうだ。 今日からは僕ではなく、この鏡に話しかけなよ。      鏡よ鏡、この世界で一番美しいのは妾でしょう、と。 011妹 :「雪姫物語」、お兄様も読まれましたか!? 012兄 :お前があんまり夢中だったからね。 お前だけが知っていて兄の僕が知らないのは癪だ。 013妹 :という事は。 内容を知っていて、悪い魔女の台詞を私に言わせようとしましたね? 014兄 :そんな意地悪はしないよ。 あの魔女もお前のように美人だったから、ああして驕ってしまったんだろう。      お前はそんな事をしないようにと、兄からの指南だよ。 015妹 :はぁい。 でも鏡から返事が返ってくる事があれば、それこそお伽噺になってしまいますよ。 016兄 :成程、そうだな。 017妹 :どんなに綺麗な鏡でも、お兄様のように、私が綺麗だとは言ってくれませんもの。 018空木:──しかし。 兄は自死、妹は外(と)つ国へ。      後継者を失くしたその家は、没落する。 <流歌、リビングへ入る。> 019里歌:あれ、ルカだ。 ウツギは? 020流歌:……あ、なんか。 俺の部屋でパソコン弄ってる。 021里歌:パソコン!? ウツギすごいね。 022流歌:ちょっと教えたらすぐ覚えて、さー……。      ウツツ、お前も一緒に見てみれば、今動画見てっから。 ウツギ、呼んでたぞ。 023現 :んむ? しかし動画とやらは、このすまーとふぉんとやらでも……あっ。 024流歌:あ、あー、あっちの方が画面デカいから、その、ほら。 025現 :そうかそうか! 画面がデカいならそちらにしような! 俺もな!      ではリカ、行って参るぞ。 いいか、仲良く、楽しくするんだぞ。 026里歌:ん? うん、わかった。 027現 :わかったか、そうか! 俺もな、ウツギと仲良くしているからな!      二人でゆっくりするんだぞ! ゆっくりな! <現、流歌の部屋へ向う。> 028流歌:<小声> ……アイツ、手先はあんなに器用なのに……下手糞だな……。 029里歌:何が? 030流歌:あ、いや……。 何飲んでんの。 031里歌:え? コーヒーだけど。 032流歌:お前コーヒーとか飲むの。 033里歌:飲むよ。 飲む? 034流歌:ん、あぁ……。 035里歌:そこ座ってて。 淹れてあげる。 036流歌:……それ何? 037里歌:んえ? コーヒーミル。 なに、めっちゃ話し掛けてくるじゃん。 038流歌:駄目かよ。 039里歌:駄目じゃないけど。 040流歌:え、なに、豆挽く所からやんの!? 041里歌:私いつもそうしてるけど……あ、待つの嫌? 042流歌:あ、いや……。 043里歌:ならよかった。 044流歌:……。 045里歌:……。 046流歌:……。 047里歌:……、物珍しいなら、こっち来て見てていいよ。 048流歌:お、おお……邪魔じゃない? 049里歌:じゃない、じゃない。 やってみる? 050流歌:いいの? 051里歌:うん。 簡単だよ、ほら。 052流歌:……テレビで見た事ある、こういうの。 053里歌:やってみたくてママに買おうって言ったんだよね。 054流歌:これ、こうして淹れた方が美味いの。 やっぱ。 055里歌:缶コーヒー飲めなくなるよ。 056流歌:それ大袈裟じゃね? 057里歌:かもしんない。 でもセタバのコーヒーくらいにはなるよ。 058流歌:……俺、ああいう所の飲んだ事ない。 059里歌:マジ? じゃあ明日行こうよ。 ウツツとウツギも連れてさ。 060流歌:あーまあ……でも、ああいう所の注文ってややこしいんじゃねえの。 061里歌:ややこしい事ないよ。 困ったら私注文したげるから。 行こ、行こ。 062流歌:……。 063里歌:そんなモン、かなー。 それでね、このドリッパーに挽いたの入れて。      このスプーンの一杯分。 064流歌:山盛り一杯? すり切り一杯? 065里歌:ええ、適当で大丈夫だよ。 066流歌:いや、山盛り一杯とすり切り一杯って結構違うぞ。 いいわ、ググる。 067里歌:オッケー。 お湯ケトルに入ってるから。 068流歌:ん、すり切りだった。 069里歌:マジ? いつも適当に入れてたわ。      <笑う> 慣れたらルカが淹れた方が美味しそうだね。 私適当だから。 070流歌:なんか、お湯淹れたらちょっと蒸らすって。 071里歌:そーそー。 はい。 072流歌:できっかな……。 073里歌:できる、できる。 074流歌:……おお。 075里歌:え、上手い。 076流歌:上手いの、コレ。 077里歌:うん。 078流歌:……いつも、本読む時、とか。 こうしてんの。 079里歌:うん、……ん!? 080流歌:や、なんか、今朝あの二人が。 読んでもらったって。 081里歌:あぁー!? もお、黙っててって言ったのにー! 082流歌:なんで黙ってんだよ。 ……その、いいじゃん。 083里歌:んえ。 084流歌:俺全然読まねえから知らないけど。 カラマーゾフ、とか、初めて聞いたし。 085里歌:……ま、まあ、私も、そんな詳しいって訳じゃないし。 086流歌:なんか、ロシア語読めるって聞いたけど。 087里歌:……電子辞書使いながらだし、全然大した事ないよ。      あ、お湯。 のの字書くみたいに入れて。 あんま外側に行かないように。 088流歌:のの字、……こう? 089里歌:そう、そう。 え、めっちゃ上手い。 090流歌:……おおー。 コーヒーだ。 091里歌:えー、やばやばやば。 一口頂戴。 092流歌:なんでだよ、やだよ。 093里歌:絶対私が淹れたのより美味しいもん。 094流歌:そんな事あるかよ。 095里歌:あるかもしんないから! 096流歌:……まあ、いいけど。 097里歌:ふふ、やった。 じゃあコレ出してあげる。 098流歌:ん? 099里歌:クッキー。 100流歌:おお。 え、手作り? 101里歌:昨日作ったヤツだけどね。 手作り嫌だった? 102流歌:……クッキーとか、作るんだ。 103里歌:まあ簡単だし。 え、なに? 104流歌:……いや。 105流歌:──うん。 これなら、飲める。 <物陰で二人を覗いている空木、現。> 106現 :……よし、よし! 親しくしているようではないか! 107空木:ひねくれてはいるが性根は素直だからなあ、ルカは。 108現 :ウツギ、何を話した? だからと言ってああまで軟化はせぬ。 109空木:アレと妾との内緒だ。 110現 :何、ずるいぞ! 111空木:秘密を持つ、というのも初めてだからな? 112現 :む、確かに……! 113空木:お主も大概素直よなぁ。 ま、そのくらいがいいんだろうな。      さ、行くぞ。 114現 :む? 115空木:一緒に食事をするんだろ? 我らにも茶を淹れてもらおう。 116現 :あ、お、おい! 117空木:リーカ! それは茶か? 妾にも淹れてくれ! 118里歌:あれ。 もう動画はいいの? 119空木:アレは目が疲れる。 また後で見る事にした。 120流歌:<小声> ……さては、見てたな? 121現 :い、い、い、い、いや!? 122流歌:人を大勢映してきたなら、こういう所から器用になりそうなモンだけどなあ……。 123現 :俺は見てなかった! 見てなかったからな!? 124流歌:わかったわかった、からかって悪かったよ! 125空木:む。 美味い。 126里歌:よかった。 これね、ルカが淹れてくれたんだよ! 127空木:そうであったか。 ルカも器用だなあ。 128流歌:お、……まあな。 129空木:少々口当たりが温いのは、そういう物か? 130里歌:温かった? ごめんね、コーヒーそのままだと飮みにくいかなと思って、牛乳入れたから。 131空木:冷めたのか、よい、よい。 ありがとうな。 132現 :ウツギ、俺も飲みたいぞ! 133空木:わかった、わかった。 134流歌:明日色々コーヒーが飲める店に行ってみないかって。      俺も行った事ないからさ、二人も行く? 135現 :店があるのか? 行きたいぞ! 136里歌:ウツツ、ウツツ、口元拭いて。      二人もコーヒー飲めるなら、クリーマー買っちゃおうかな。 137流歌:クリーマー? あ、もしかして、泡立てるヤツ? 138里歌:うん、欲しかったんだよねえ。 139流歌:泡立て器あるだろ、それでいいじゃん。 140里歌:いやいやいや、泡のふわふわ感とか、手軽なんだって! 141流歌:ちょっと調べりゃ器械いらないやり方出てくるよ、これでやれよ。 142里歌:ボタン一個でできるのと全然違うじゃん! 143流歌:うげ、泡立てるだけなのに千五百円もする! 144里歌:もっと安いのもあるから! 145流歌:はいはい、泡立てるくらいならやってやるって。 146空木:<苦笑する> 本当に、素直な事だ。 <里歌に昔話をする現。> 147現 :──華族とは家の戸主、男のみが襲位する。      じゃあ。 残る娘はどうなる? 148妹 :英国、ですか? 149兄 :ああ。 父上が是非にと、縁談を進めているそうだぞ。 150妹 :えっ。 151兄 :よかったなあ、本当に。 お相手はあちらの将校殿だそうだ。      言葉も文化も違う、けれどお前は昔から勉強熱心な良い子だ。      きっと立派な夫人になるだろう。 微力ではあるが、兄も協力するからな。 152妹 :……嫌です。 153兄 :──何か、言ったかい。 154妹 :嫌です、そんな縁談! どうか取り止めて下さいませ、国内ならまだしも、私は、 155兄 :我儘を言うんじゃない。 これ程良い縁談はそうないんだぞ。 156妹 :見ず知らずの、それも海外の方に嫁ぐ事が、ですか。 157兄 :この家に、一族に、最も相応しい縁談なんだ。      お相手もお前に申し分ないよ、お前はきっと幸せになれる。 158妹 :お相手様がどうあれ、言葉も文化も違い、家族と会えない場所に嫁ぐ、それが本当に幸せなんですか! 159兄 :僕から必ず手紙を送るよ、だからお前も、 160妹 :嫌ですそんな結婚! お兄様、お父様に考え直すように申し出て下さいまし! 161兄 :いやぁ、私は……。 162現 :──兄妹とはいえ、男と女。 それも年頃の二人であった事が尚、まずかった。      どちらも器量良しであった事がそれに輪をかけた。      本当に仲の良い兄妹だった。 周囲が疑念を抱くのは、容易かった。 163兄 :あぁ、父上、帰られていたのですね。      縁談の件を妹に聞かせていたのですが、── 164妹 :お父様、どうか取り止めて下さいまし!      外国だなんてわざわざそんな遠い所に、どうして!? 165兄 :お父様もお前の幸せについて考えての事なんだよ。 166妹 :私の幸せを、何故他の方が 167兄 :少し落ち着きなさい。 お父様はこの家の戸主だから、家族の幸せについて考えるのは当然だろう?      どうした、そんな我儘を。 お前らしくもない。 168妹 :私は落ち着いています! お兄様も私の話を聞いて下さいまし、私は、私はただ、 169現 :あるいは、その場に居合わせてしまったお父上の間が悪かったのか。 全てが天命だったのか。 170兄 :……父上? どうなさいましたか。 171現 :あんな良い娘が親に歯向かう訳がない。 娘が父親の取り決めに歯向かう訳がない。      そうさせたのは一体、なんだ。 172兄 :……僕が、妹を誑(たぶら)かした……? いや、いやッ、そんな訳! そんな訳ないでしょう父上!      僕は婚約者のいる身ですよ、何を根拠にそんな、いや、何を仰っているんですか!? 173現 :──……本当に、仲が良い兄妹。 真相はそれだけだったんだよ。      リカの話を聞いていると、今はあの頃とは生活様式も人の決まり事も、随分違うね。      そうだな……どう説明しようかな。 174兄 :世襲(せしゅう)財産目的だなんてそんな、      お父様は僕の事をそんな浅はかな人間だと思っていたのですか!? 175現 :少し前、俺がこの人の身を得た頃に。 人は見た目でしか判断できないと、リカが俺に教えてくれたよね。      それと似てるんじゃないかな。 自分が見たもの、感じたものしか信じる事ができない。      忙しかった父上は自分が見ていた、兄妹にしては親しすぎる二人しか、信じられなかったんじゃないかな。 176兄 :……そんな、そんな。 177妹 :お兄様。 178兄 :……どうして。 どうして、剥奪(はくだつ)なんて話になるんだ……?      お前の結婚の話をしていただけで、私は、私の、田畑に、山林に、財産に……。 179妹 :お父様とちゃんとお話しをしましょう? お疲れのご様子でしたし、きっと落ち着けば私達の話を、 180兄 :聞いて下さると思うか!? お父様が私達の話を聞いて下さった事があったか!? 今まで!?      生活に進学に華族制度に貴族院に! あの人が! 私達の話を聞いた事があったか!? 181妹 :お兄様、 182兄 :お前はいいだろう! お前、お前は! 結婚でどこへでも逃げ遂(おお)せる! 183妹 :財産の世襲はまだ先のお話ではありませんか、 184兄 :私はこの家唯一の男子だ、国民の模範たる人間でなければならなかったのに! 185現 :──明治維新の折に功績を挙げた新華族、勲功(くんこう)華族の誕生。 貴族院の制定。 政治的特権。      その家には様々、新しい物が齎(もたら)された。      平民の憧れの目が、駆け落ちや心中なんかで騒がれたり、……うん?      すきゃんだる? それはどういう意味? ……ああ、そうそう! そんな感じ。      そんな中で、父上も疲れていたのかもしれないね。 186妹 :わ、私はただ、……せめてこの国で、家族と共にいたかっただけなのです……。 187兄 :まだわからないか!? お前の我儘のおかげで、私は実質平民に成り下がったんだぞ!?      お前、お前さえいなければ、私は、俺は! 188現 :──耐え難かったのだろうね。 国民の模範たれと、妹の模範たれと、そうして生きてきた彼にとって。      誰も悪くなんてなかったよ。 だってそうだろう?      どんな身分であれ、どんなに財産を持っていたとて、皆必死に生きていた。 そういう時代だった。      ……そうだな。 時代が、悪かったのかもな。 189兄 :……家族でなど、いられるか……! 190現 :それから間もなく。 正式な剥奪の前に、家族との話し合いもしない内に。      彼は自ら命を絶ってしまって。      あの子、ウツギを部屋に置いていたあの子。 最終的には海を渡ってお嫁に行ったけれどね。 <明治時代、妹の部屋。> 191妹 :どうして……どうして、お兄様が……。 192空木:食事を、しなくていいのか、なあ。      嫁ぐ前にお前まで死んでしまっては、どうしようもないんだぞ。 193妹 :お兄様にあんな我儘を言って、どうして私が生きているの……。 194空木:我儘ではないよ。 お前は家族が大好きだから。 195妹 :遺書ですら私を慮(おもんばか)って下さったお兄様が……。 196空木:その家族と一緒にいたいと、それだけがどうして我儘になるのか。      ……家族の話を、お前からもう聞けなくなるのは。 寂しいぞ。 197妹 :──鏡よ鏡。 198空木:ああ、この世界で一番美しいのはお前だよ。 199妹 :この世界で最も愚かなのは、私でしょう! 200空木:家族を敬い、尊(たっと)ぶ心を持った、お前が一番美しいよ。 201妹 :お兄様を殺したのは、私でしょう! 202空木:いつものように、お前の話を聞いているよ。 この声が届かずとも。 203妹 :私さえいなければ、よかったんでしょう! 204空木:お前の話を、聞かせておくれ。 205妹 :わかってるのよ! そんな事! <椅子を振り上げる> 206空木:──そうか。 207空木:そうしてお前の心が晴れるなら。 ここで割れるのも、悪くはないな。 208現 :──この先は、ウツギが話してくれなくて。      あの子のあの、細腕で。 何があったのか、俺には想像もできないけれど。      ウツギはそうして、欠けてしまったんだ。 2016.12.20 完成 羽白深夜子 2021.1.16 修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 引用 「雪姫物語」 中川霞城
三話←   ◆   →五話
サイトへ戻る