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【帝都短歌事件録「猫の子一人いない」】 (ていとたんかじけんろく「ねこのこひとりいない」) 男性4:女性3 有償版販売ページはこちら。 【春日 天真(かすがてんま)】 22歳男性、探偵所所員。 東北から帝都へ上京し、一話「秋待つ鮮血」の事件を切っ掛けに天之川探偵所に就職。 平々凡々だが気の優しい、機転が利く青年。 【天之川 昴(あまのがわすばる)】 35歳男性、天之川探偵事務所所長。「雷」の怪異を扱う。 過去警察に所属しており、独立し探偵事務所を構えている。 仕事はできるが壊滅的に不器用で、「破壊神」と呼ばれる程の生真面目なドジ。 警察時代自らの怪異で小さな漁村を壊滅させ、「事故死」として処理された事がある。 【若葉 景織子(わかばきょうこ)】 外見は30代女性、探偵所所員。「氷結」の怪異を扱う。 遥か昔人魚の肉を食べた事で不老不死、「八百比丘尼」となっており 当時と変わらない外見を隠す為各地を転々とする中で昴と出会い、「天之川探偵事務所」設立に立ち会う。 我儘で飽き性だが愛情深い女性。 【香鹿 閏(こうがじゅん)】 23歳男性、探偵所所員。「時間操作」の怪異を扱う。 天之川探偵事務所に所属している青年。 喧嘩っ早いが面倒見が良く、年下や弱者に親切で優しい。 可愛い物、文房具に目がない。 【八尋 久々利(やひろくくり)】 18歳女性、探偵所所員。 天之川探偵事務所に所属している少女。 書類整理からお茶出しまで、細々した雑務をテキパキこなす。 「超記憶症候群(ハイパーサイメシア)」と呼ばれる症状で、物心ついた頃、3歳頃からの記憶を全て覚えている。 【珠(たま)/珠枝(たまえ)】 4歳・28歳女性、猫又。「俊足」の怪異を扱う。 猫耳のついた幼い姿(脚本上「珠」表記)と成人女性の姿(脚本上「珠枝」表記)を持つ。 山中で白と共に暮らす猫又。白を「お兄ちゃん」と呼んでいる。 「三味線花魁」と呼ばれる成人の姿で村に下り、白の人攫いを手伝っていた。 ※4歳児の姿(脚本上「珠」)と、28歳の姿(脚本上「珠枝」)と  演じる方を分けても構いません。台詞数が少なくなる事をご了承下さい。 【白(しろ)】 外見は20代後半~30代前半男性、猫又。「俊足」の怪異を扱う。 山中に住み着いた猫又。元々は飼い猫で飼い主の夕映を殺された事、 そして乳児で山に捨てられた珠を保護した事で、人間を恨み麓の村から度々人間を攫っていた。 ※「彰彦」と兼ね役をお願いします。 【上原夕映(うえはらゆえ)】 16歳女性、家事手伝い。故人。 白の元の飼い主。兄弟が多い家庭に育ち、村の権力者の元へ嫁いだものの 不貞をでっち上げられ、暴行の末殺害隠蔽される。 ※「若葉景織子」か「八尋久々利」か「珠(珠枝)」との兼役を推奨します。 【彰彦(あきひこ)】 25歳男性、村役場勤務。村長の息子。 天之川探偵事務所に「神隠し」解決を依頼し、彼らを村に迎え入れるも村の様子を見にきた白に食い殺される。 ※「白」と兼ね役をお願いします。 【男】 白に攫われた男性。 ※「白」以外の男性と兼ね役を推奨します。 【配役表】 春日天真 : 天之川昴 : 若葉景織子: 香鹿閏  : 八尋久々利: 珠/珠枝 : 白/彰彦 : 上原夕映 : 男    : ======================================= <山中、洞窟内。> 001白  :軒(のき)の雨。 立ち寄るかげは、難波津(なにわづ)や。       芦(あし)葺(ふ)く宿の、しめやかに。       語り明かせし可愛(かわ)いとは。 嘘か誠か、その言の葉に。       鶴の一声、幾千代(いくちよ)までも。 末は互いの── 002珠  :お兄ちゃん。 003白  :何だい、タマ。 004珠  :ねえ、ねえ。 またお団子出てきてる。 今日は食べていい? 005白  :<苦笑する> またかい。 あんなに大きいのだから、食べられないよ。 006珠  :食べれるよ、タマ、全部食べれる! ごはんあれがいい! 007白  :もう腹が減ったのか。 まだ食料はあったかな。 008珠  :しょくりょー! タマのあるよ! これが最後! 009白  :もうこれしかないのか。 ……参ったな。 010珠  :お兄ちゃんの分も、これだけだよ。 取ってくる? 取ってくる? 011白  :……いや。 私のはまだいいよ。       今日は月が大きくて明るい。 村に降りるのは止めておこう。 012珠  :えー! <不服そうに> 013白  :お前はそれを食べたら、もう寝なさい。       明日私がお前の分のご飯を用意するよ。 014珠  :お兄ちゃんは? どこか行くの? 015白  :散歩だよ。 ほら、お前は先に寝なさい。 016珠  :わかった! お、おー、お……? 017白  :おやすみ、タマ。 018珠  :おー、やすみ! お兄ちゃん! <珠、奥へ駆けていく。> 019白  :──子の成長というものは。 本当に早いものだ。       ついこの間まで、一人寝もできなかった、食事も一人でできなかった。       なのに五年としない内に一人寝や食事も覚え、ああして言葉を喋り、       私を慮(おもんぱか)るまでになった。       子の成長とは尊(たっと)ぶべきだ。 お前もそう思うだろう。 <打音。> 020男  :ひいっ!? 021白  :お前の家は、家内と娘子(むすめご)が一人、いたな。       かけっこをせぬか。 この私と。       お前が今生の別れを済ますが早いか、私がお前の娘子を攫うが早いか。 022男  :む、娘っ、娘だけはお助け下さい! 023白  :ほう。 わかった、わかった。 ならば家内を連れてきてやろうか。       それとも二人とも連れてきてやろうか。 一族郎党、末路はコレだ。       お前の左腕と同じ、家族皆仲良く骨となりこの山へ還る。 それも悪くはないと思うか? 024男  :俺、俺を食うのは、二日後って、今日の夜だって言ったじゃねえか! 家族だって、手を出さねえって! 025白  :一昨日、家族の命だけはと泣いて懇願するお前を想って、私は左腕だけを食うに留めたのだ。       なあ、子の成長とは尊ぶべきだ。 最期に娘子の寝顔くらいは見たいだろう。       ──かけっこを、せぬか。 026男  :わ、わっ、わかった、わかりました! 027白  :よし。 お前は今生の別れを済ませたら、食料を持ってここに戻れ。       米、肉、魚、野菜。 何でもいい、しかしたぁんとだ。       お前がここに戻らねば。 私は朝方にここを出て、食料の代わりにお前の家内と娘子を迎えに参ろう。       お前の家族が朝日と共に。 ──この猫又を見て、おぞましい私を知る事が、ないように。       さあ急げ! 精々足掻けよ、人間風情。 無情と嘆け、雛鶴の如く!       なんともまあ、お誂(あつら)え向きではないか。 <中央本線、電車内。> 028久々利:わー! すごいすごい、随分開けてきましたね! 029天真 :本当だ。 都心からちょっと電車に乗っただけで、この風景とは! 030景織子:もう一時間以上電車に乗ってるじゃない。 足浮腫んじゃうわ。 031閏  :そろそろ山梨に入るんじゃねえか? 032昴  :そうだな、昼食をとっておこうか。 ……お。 山菜飯か、いいな! 033景織子:そんながちゃがちゃしないの、アンタどうせ零すんだから! 034昴  :ん? おお、悪いな。 035天真 :──あの大騒ぎから数週間が経ちました。 私設、天之川探偵事務所です。       僕が拳銃で撃ち抜いたキョウコさんの脚も、ご覧の通り何ともないご様子。       ……何百年と生きる八百比丘尼(やおびくに)。       彼女も変わりなく、こうして僕らと行動を共にしています。       変化と言えば。 表情が多少明るくなった事と、少々正直になられた事、くらいですかね。 036景織子:ちょっと目を離したら、おにぎりがアンタの口じゃなくて床に散らばるのは一体どういう理屈なの。       全く、赤ん坊より手が掛かるしタチが悪い。 食事もまともにできないなんて。 037昴  :でも、キョウコが面倒をみてくれるだろ? 038景織子:うるさいわね、凍りたいの。 039天真 :──まあ、こんな感じで。 失礼ながら、ある種の微笑ましさはあるんですよね。 040景織子:ちょっとテンちゃん、何よその生温かい目は! 041天真 :いやあ、キョウコさんはちょっと素直じゃないだけで、本当にお優しい方なんだなあって       思ってただけです。 042景織子:……もう! 知らない! 043天真 :──さて。 僕らは今、あるご依頼を賜りまして。       鉄道は中央本線に乗り込み、山梨県南都留(つる)郡、無生野(むしょうの)地区という場所を       目指しています。 044閏  :痴話喧嘩はその辺にしといてくれよ。 俺もおにぎりもーらい。       で? メシにするってこたぁ、例の村が近いんだろ? 045昴  :んあ? ああ、 046景織子:口に物を入れたまま喋らない! 047久々利:<苦笑する> 私から、概要の確認をしましょうか。       今回のご依頼は、シマさんのお知り合い。       南都留郡秋山村(あきやまむら)、駐在所に勤務なさっている警察の方と。       村長さんのお家から連名でのご依頼ですね。 048閏  :村を荒らす猫又退治、だっけか? まぁた胡散臭い依頼だなあ。 049久々利:行方不明者が激増したそうです。 それが、山に住み着いた猫又の所為ではないか、と。       ここ数年、十人以上が行方不明になっているそうで。 050閏  :激増ってこたぁ、元々人が消えてたんだろ? 051昴  :依頼者は神隠しが、と言っていたそうだが。 どうにも手紙の記載が曖昧だな。 052閏  :何だかなあ。 そもそもきな臭かった訳だ。 053景織子:猫又ってアレ、元々は海の向こうの話じゃなかった? この国にもいるの? 054天真 :明月記(めいげつき)に記載がありますね。 鎌倉前期から、一晩で数人を食い殺したとあります。 055景織子:ふうん? 結構最近なのねえ。 056閏  :最近か? 最近なのか? 057天真 :確か明月記が最古の記載だったかと。       山で暮らしている獣、野犬などを見違えた、なんて話もありますが……。 058久々利:あのぉ。 猫又って、人に飼われていた猫が化けているんじゃなかったんでしたっけ? 059天真 :そっちは古今著聞集(ここんちょもんじゅう)の記載だね。 同じ鎌倉時代の文献が元かな。 060久々利:ん? どう違うんですか? 061天真 :古今著聞集は世俗説話集(せぞくせつわしゅう)、民俗学や神話学で使用される、要はお伽噺や伝説の類。       明月記は、藤原定家(ふじわらのさだいえ)の日記なんだ。 062久々利:成程。 063閏  :お。 藤原定家、百人一首を選んだヤツだな。 064天真 :ご明察。 小倉百人一首を制定した、その人の日記です。 065景織子:茶々を入れるようで悪いのだけど。       美男美女に化けて人間の精気を吸い取るのも、猫又じゃなかったっけ? 066天真 :キョウコさんが仰っているのは仙狸(せんり)。       中国の妖怪で、長生きした山猫が神通力を身に着けたものだといわれています。       猫又についてのお話は、その仙狸が元になっている、って説もあるんですよ。 067景織子:ふうん、色々あるのね。 068天真 :その後も、猫又は怪談集や妖怪画などに度々登場するのですが。       不思議なんですけれども、後期になるにつれてこう、巨大化していくのですよね。 069景織子:<笑う> そりゃあそうでしょうよ。       人の噂話だって尾ヒレ背ヒレがついて、大きくなっていくでしょう? 070久々利:ああ。 071景織子:妖怪ねえ。 こう言っちゃなんだけど、天災でも、人災でも。       人間に都合が悪い事が妖怪の所為になるのは常でしょう。 072昴  :確かにな。 今回も、その線は拭えない。 073天真 :神隠し。 あの辺りにそういった伝承って、特にないんですよね。 074閏  :お前、そんな話まで知ってんのか。 075天真 :小説のネタになるかと思ったのもありますが、ちょっとだけ事前に調べて参りました。 076閏  :おお。 077天真 :そもそも神隠しとは、人が忽然(こつぜん)と消える現象を神の仕業として捉えた概念です。       実際は拉致監禁や口減らし、迷子や殺害など。 常識的、かつ人為的なものなんですがね。 078昴  :まあ、そうなんだろうな。 079天真 :そもそも、行方不明者の件。 どうして神隠しなんて話になっているのか?       気になって、そこから調べてみました。 どうやらそもそもが信仰が厚い地域のようですね。 080閏  :要するに古臭えド田舎だと。 081天真 :まあまあ、続きを聞いて下さい。 富士山が近い所為かな? とも思ったのですが……。       見つけちゃったんですよ。 今僕達が向かっている無生野地区。       「雛鶴姫」(ひなづるひめ)という伝承があり、地名の由来にもなっているんです。 082久々利:雛鶴姫。 083天真 :はい。       ──鎌倉将軍府に殺された護良親王(もりよししんのう)、その人は。       無念のあまり、死後も刺客を睨みつけていた。       それに恐れをなした刺客は、護良親王の首を竹薮に捨ててしまいます。 084閏  :おお……。 085天真 :護良親王の寵愛を受け、彼の子を身籠っていた雛鶴姫。 彼女は、親王の首を竹藪から探し出し。       首と共に鎌倉からこの山梨、秋山へ辿り着き、子供を産みます。       が。 当時の秋山には人家が少なく、雛鶴姫は師走、十二月の末に屋外……       従者が集めた木の葉の上で出産。       寒さと飢えから、子供も雛鶴姫も助かる事はなく。 ああ無情と呟きながら、死んでいったそうです。 086景織子:ああ、だから無生野(むしょうの)。 無情の野、が変化した地名なのかもね。 087昴  :無情の無に、生きる、野原。 生きない野原、とも取れるな。 088天真 :その通り。 従者達は雛鶴姫とその息子、そして護良親王の神霊と共にこの地に祀(まつ)り。       彼女を憐れんだ村人達は、正月用に飾りつけておいた門松を取り払い、冥福を祈ったそうです。       無生野地区では今でも、正月飾りを行っていないんだそうですよ。 089昴  :成程、鶴か。 090天真 :そう、鶴なんです。       僕らがこの件について聞いている、もう一つの噂、「三味線花魁」。 091昴  :村に突然現れ、「鶴の声」という地歌を歌っていた女。 最初は皆流しの三味線弾きだと思っていた。 092景織子:その花魁姿の女に興味本位で近寄った男が、目撃者が目を離した数秒の間に消えた。 093閏  :そしてその男は行方知れず。 村の連中は三味線の音が聞こえたらこぞって家に籠るようになった。       行方不明者が攫われたと思われる、唯一目撃証言が残っている人攫い。 094久々利:退治を試みた村の方や彼女を詰(なじ)った村の方、またはその家族、子供が、次々と消えていく。 095閏  :十中八九、この花魁とやらが犯人だろ。 096天真 :まあ……。 しかし、目を離した数秒で成人男性を攫う、というのは。 097昴  :短歌怪異、──なのかもしれない。 098久々利:行方不明者は若い男性か子供。 雛鶴姫の伝承に関連付けているのかも。 099景織子:まあ、幸い? 若い男にも、子供にも。 私達事欠かないからねえ。 100昴  :ん? 誰の事だ? 101景織子:アンタ達の事を言ってんのよ。 102昴  :お前からしてみたら誰彼構わず若いだろ。 103景織子:ねえ凍りたい? 凍りたいのよね? 104閏  :子供、っつーのはククリとテンマか。 まあ確かになあ。 105天真 :あはは……。 でも、おとり捜査? というか、それが手っ取り早そうな感じはしますよねえ。 106久々利:何を仰っているんですか!       この件、生存者は勿論、行方不明になった方の遺体すら発見されていないのですよ!?       自分が攫われてみる、なんて言わないで下さいよ!? 107天真 :う。 いい手だと思ったんだけどなあ……。 108久々利:いい手なモンですか! 109閏  :最善手だとは思うぞ。 お前が三味線花魁のお目に叶うならな? 110天真 :それは自信ないですねえ。 111久々利:もーっ! 112景織子:はいはいはい。 馬鹿言ってないで、そろそろ猿橋(さるはし)駅に着くわよ。 113閏  :うーい。 ……そういや、駅からどうやってその村に行くんだ? 114昴  :歩くぞ。 115閏  :ンッ!? 116昴  :大体三時間程歩くかな。 117景織子:は!? 118久々利:えっえっ、山道(やまみち)を、ですよね!? 119昴  :ああ、山道だ。 120天真 :お、おおう……。 121昴  :四時前には村に着けるか。 歩きながら、今後の方針について考えよう。 122景織子:馬鹿言ってんじゃないわよ!? え!? 私達三時間も歩くの!? 123閏  :おいおいおい、勘弁してくれよ……。 <山中。> 124珠  :ん! ……お兄ちゃん、全然戻ってこない。       ごはん食べたのかなあ。 まだかなあ。       ……お兄ちゃん、いなくて退屈だもん。 しょうがないにゃあ。 125珠枝 :──お兄ちゃんのごはん、取りにいくかあ! <自家用車内。> 126彰彦 :いやあ、こんな辺鄙(へんぴ)な所まで、わざわざ。 本当に助かりました。 127久々利:こちらこそ本当に助かりました! 128彰彦 :へ? 129天真 :本当、本当にありがとうございます! 130彰彦 :あ、ああ、……えっと? 131景織子:私達、この道を歩いて村まで行こうとしていたんです……。 132彰彦 :ええ!? いや、それは……ははは。 それはえらい、かったるいですよ。 133昴  :散策、楽しみにしていたんですがね僕は……どうにも不評で……。 134彰彦 :ああ、特に面白いものもありませんし。 こうして車で迎えにあがって、正解でしたね。 135景織子:ちゃんと段取りしてよ。 136昴  :悪かったって……。 137彰彦 :こっちが悪いんですよ。 親父がどーにも、頭が固くて。       俺と駐在さんで話を進めてたんです。 だから実質、依頼人は俺になります。 138閏  :村長の息子さん、だっけか。 良い車乗ってんすね。 139彰彦 :そうですか? 都会の人は、もっと洒落てるのに乗ってるでしょう。       ……こうして。 車ん中でしかできない話もありますし。 140昴  :ん? 141彰彦 :どーにも、村ん連中、じいさんばあさんがねえ……。       田舎で閉鎖的な場所なんで、しょうがないんでしょうが。       猫又さんは最近山に住み着いた神様の使いかもしれねえ、だから退治なんてとんでもねえ、       なんて言ってるんですよ。 142久々利:ああ……。 143景織子:信仰とはいえ、人には代えられませんよ。 144彰彦 :ねえ、そうですよねえ。 ……俺のね、幼馴染が一人、やられたんすわ。 娘がまだ小さいってのに。 145昴  :それは。 146彰彦 :こうなるまで、俺が親父をせっつけなかったのも事実です。 だからこうして、あなた達をお呼びした。       いやあ、最初はね。 随分若え探偵さんもいるんだなって、驚きはしましたが。 147天真 :あ、恐縮です……。 148彰彦 :いやいや! 探偵さんだなんて、勝手におっかねえ人を想像してたんですよ。 149天真 :はは……。 あの、ついでにお聞きしていいですか。 150彰彦 :ん? なんでしょう。 151天真 :神隠しの件、増えた、と聞いています。 その、元々……。 152彰彦 :ああ。 小さい村ですからね、結婚やら就職で、村を出ていく人が多くて。       村から出ていく人間を立てて、大袈裟に例えたりするんです。       近所の姉ちゃんが結婚すりゃ、綺麗な雛鶴姫になって嫁いだー、って。 153景織子:じゃあ、比喩表現なんでしょうか。 事件性がない? 154彰彦 :……どうなんでしょ。       農業と、養蚕(ようさん)と絹織(きぬおり)で成り立ってる、本当に小さい集落なんです。       昔は口減らしで他所へ出稼ぎへ出て、そこを逃げ出したり、駆け落ちだったり。       事件、……とまではいかなくても。       田舎の人付き合い、何十年以上と代り映えのない付き合いの中で、生きていかないといけない訳です、       我々は。       体裁の悪い事柄がそういう言葉に成り代わったりは、よくあるんでしょう。 155閏  :まあ、想像はつくわな。 156彰彦 :でしょ。 そうしてぼかしていって、聞く側も憶測しかできませんで。       真実が覆い隠される、というのは。 俺が思っているより沢山あるのかも。       あ、でも。 俺の幼馴染は神隠し、……人攫いで間違いありませんよ。 157景織子:どうして? 158彰彦 :アイツがいなくなった日の夜、俺達と無尽(むじん)、まあ、良い仲の連中との飲み会の約束があって。 159天真 :互助(ごじょ)扶助(ふじょ)の飲み会、でしたっけ。 160彰彦 :そんな立派なモンじゃないですよ。 毎月酒を飲むついでに、みんなでちょっとずつ金を積み立てて。       ソイツの娘の七五三祝いに、着物を買おうって話を詰める気でいたのがその日で、       ……喜んでたんだけど、なあ。 161閏  :……じゃあ、その直前に自分から、ってのはなさそうだな。 162昴  :なら、その。 猫又の話の方は。 163彰彦 :朝方物音がして、人の形をしてない男が台所を漁ってたのを見た、って人がいるんすわ。       幼馴染の嫁さんです。 164久々利:台所を? 165彰彦 :はい。 まあ、亭主が行方不明になってすっかり怯えてて。       寝たふりをしていたら、娘に何事か話して、野菜持っていっちまったと。 166景織子:泥棒。 167彰彦 :の、姿が人間に見えなかった。 らしいんですわ。       この件があって、俺と駐在さんであなた達を呼ぶ決心をしました。 168昴  :……猫又騒ぎに乗じた盗人。 169景織子:でも村には「三味線花魁」がいる。 今も、村で三味線を? 170彰彦 :ええ。 つい一昨日も、三味線の音が一晩中。       三味線、あれって猫の皮で作るモンでしょ。 どうにも気味が悪くってなあ。       今じゃみんな、夜の七時前には家で戸を閉めてます。 171昴  :一度様子を見てみるか。 172景織子:そうね、そうしましょ。 173彰彦 :何もない村ですが、皆さんの宿もご用意してます。       三味線花魁が出るのも、毎晩じゃない。 聞き込みがてらゆっくりして下さいね。       温泉なんかもありますから。 174久々利:温泉! 175昴  :温泉! 176天真 :おおお、いいですね! 177閏  :上等じゃないっすか、やりい! 178景織子:んん……まあ、ちょっとくらいなら……。 179彰彦 :喜んでもらえてよかった。       俺の名前、アキヒコって言やあ、村の若い衆からは話が聞けると思いますんで。       三味線が聞こえるのは大体夜の八時頃から。 それまでには、宿に戻って下さいね。       さ、そろそろ村に着きますよ。 <秋山村内、温泉前。> 180閏  :あー……! 良い湯だった! 181天真 :七時過ぎ。 思いがけず、のんびりしてしまいましたね。 182閏  :だな。 姉さんもククリもまだみてえだし、ここいらでちょっと待つか。       ん、どうしたんだ所長。 難しい顔をして。 183昴  :……殆ど、聞き込みができなかったな。 184閏  :あー、まあ……。 仕方ねえんじゃないの。 185天真 :名産品や、美味しい物については聞けたんですけどねえ。 186景織子:あら、早いのね。 待たせたかしら。 187久々利:遅くなってしまってすみません。 湯冷めしていませんか? 188天真 :僕らも今出てきた所ですよ。 189久々利:よかった! そうそうそう、湯舟で村の方とご一緒して、お話を聞けました。 190閏  :お! 俺らも村の爺様がたに捕まったんだけどさ、さっぱりだったんだよ。       アキヒコ坊ちゃんは村一番の美丈夫で、あれは良い村長になるだとか、気が優しすぎるだとか。 191景織子:<苦笑する> 私達はたまたま、気の良い人に当たったみたい。 色々聞かせて頂いたわ。 192久々利:ええ。 おっかない噂があるから、早く宿に戻った方がいいですよって。 193景織子:覚悟はしてたけど田舎ってすごいのね。 もう私達の事知ってたわ。       絹織のお嬢さん達だったのだけど、駐在さんが呼んだ都内の方ですか? って。 194閏  :げえ。 195天真 :もう噂になっているんですかね……。 聞き込み、難しいかもしれませんね。       警戒されてしまうかも。 196景織子:若い方は大丈夫そうよ。 むしろ、色々聞かれたわ。 ねえ? 197久々利:あはは、まあ、そう、ですね。 所長より少し年上くらいの方々でした。 198景織子:ククリちゃんったら、村のお嬢さん達からモテモテでね。       可愛い、お肌綺麗、彼氏はいるの? なーんて。 199久々利:キョウコさんが嗾(けしか)けたんじゃないですか! 200天真 :お肌。 201閏  :綺麗。 202昴  :うん、ククリは少々華奢だがまあそれなりに、 <久々利に殴られる> いっだい! 203久々利:所長がそんな失礼な方だとは思いませんでした! 見損ないました! 204昴  :褒めたんだが!? 205景織子:今のはアンタが悪いわ。 206昴  :何故!? 207天真 :そ、それで! どんなお話が聞けたんですか! 208久々利:<溜息> ……人が急にいなくなるという事、昔からあったそうです。       子供や若い男性、酷い時は一家族まるごといなくなったり、だとか。 209景織子:いくつか噂を聞かせてもらったのだけど、成程確かに駆け落ちか口減らしか、夜逃げか。       判別がつかなかったわ、良くも悪くも何とでも言える。       神隠しを笠に着て。 表面上は上手くやってるそうよ、みんな。 210閏  :理屈も気持ちもわかるが、なんだかなあ。 雛鶴姫、だったか。       たまたまここで死んだ奴を憐れんで、正月飾りまで止めた村が。       今になっちゃ、神様をいいように使ってる訳だ。 211昴  :時代だろう。 そうして上手くやってるからこそ、村も信仰も続いている。 212天真 :その。 猫又被害に遭った方に、話を伺ってみますか? 213閏  :まどろっこしい。 三味線花魁とやらに会ってみるのは。 214久々利:だからそれは危ないから、……とは思いますが。       被害に遭われた方に、っていうのも、心苦しい気はしますね。 215昴  :慎重にはなった方がよさそうだ。 アキヒコくんが仰っていた盗みの件もある。 216閏  :そう、それなんだよ。 猫又が人ん家入り込んで野菜盗んでいくのはなんでだ? 217景織子:なんでって? 218閏  :人を攫って山に住まわせてる、なんて呑気な話があるか?       で、何人もいなくなってる訳だ。 じゃあまあ、食ってんだろ、人を。 219天真 :人を……。 220閏  :おう。 じゃあ何で野菜を盗んでく必要があるんだ?       なんでわざわざ人ん家入り込んで、危険を犯してまで。 野菜盗む必要がある? 221景織子:人と同じ物も、食べたくなったとか。 222昴  :<溜息> 猫又騒ぎに乗じた人間かもしれない。 何とも言えんな。       とりあえずは明日、アキヒコくんのお父様、村長殿にも話を伺ってみるか。       三味線花魁がいつ顔を見せるかわからない以上、被害者にも話を聞いた方がよさそうだ。       慎重に行動した方がいいだろう。 とりあえず、村長殿と話してみて…… 223久々利:テンマさん? どうなさいました? 224天真 :いやね。 ……あのお着物の女性、ずっとあの辺りをうろうろしてて。       僕、ちょっと様子を見てきます。 225久々利:ああ、はーい。 あまり離れないで下さいね。 226天真 :もし。 何か、お探しなんですか? 227珠枝 :あ。 あのう……。 228閏  :お、噂をすれば。 おーい、アキヒコー! 229白  :ん? ああ、……旅行の方ですか、どうしましたか? 230閏  :なんだよ、余所余所しいな。       温泉で村の爺様達に、美味い飯が食える食堂を聞いたんだけどよお。 231昴  :待て、ジュン。 232閏  :へ? 233昴  :すみません。 我々、明日村長殿に村内をご案内して頂く約束がありまして。       お宅はどちらになるでしょうか。 234白  :父が……成程。 俺は村長の息子です、道をご案内しましょうか。 こちらに 235昴  :ああ、もう結構だ。 僕達はそんな約束はしていない。       ついでに。 キミとは昼間に会って、いくらか話をしている。 知り合いだ。       お父上の呼称が間違っているぞ。 ──お前は、誰だ。 236珠枝 :ええと……。 困っているのです。 大事な物を、どこかに置き忘れてしまって。       もう暗くなってしまって、寒いし、怖いし、見つからなくて。 237天真 :それは大変だ。 僕も一緒にお探ししましょう。 何をお探しなのですか? 238珠枝 :このくらいの、──そこに置いてある、猫の皮で作った三味線です。 239天真 :えっ。 <珠枝、天真を蹴倒す。> 240珠枝 :見つけた、見つけた! お前でいいや、今日のごはん! 241天真 :な、……もしや、あなた! 242珠枝 :あはは! お前、粋がいいな! ──「難波潟(なにわがた)」! 243景織子:「干さぬ袖(そで)だに」! 244珠枝 :「ふしの間も」! 245昴  :「はげしかれとは」! 246白  :「過ぐしてよとや」。 <雷鳴。> 247白  :──ほう、雷を呼ぶか。 248昴  :外した!? 249景織子:<舌打ち> すばしっこいわね! 250閏  :おい、なんだこれ!? なんでアキヒコが、 251景織子:彼じゃないわ。 電車の中で話したじゃない、美男美女に化けるって! 252天真 :……三味線花魁……! 253珠枝 :んにゃ? 三味線弾けるぞ、上手なんだぞ!       <天真の胸倉を持ち上げながら> 鶴の歌、お兄ちゃんに教えてもらったんだ! 254天真 :っ、あなたが、村の人達を攫ってるんですね!? 255珠枝 :なんだあ、三味線が聞きたいのか? 後で聞かせてやるよ! 256天真 :どうして── <珠枝、天真の腹を蹴り上げる。> 257珠枝 :あはは! お兄ちゃん待つの、退屈だったんだ。 帰るまであっちで遊ぼうな! 258白  :──アキヒコ、ああ。 <白、彰彦の上半身の遺体を掲げる。> 259白  :この男の名前か? 260久々利:アキヒコさん! 261昴  :ククリ、駄目だ! 262白  :ああ、この坊がお前達を村に呼んだか、そうか。       利口な坊だとは思っていたが……村が騷がしいので何事かと、探っていたんだ。 263昴  :アレで、あんなになって、生きていると思うか。 264久々利:でも、それでも、遺体だけでも! 265白  :これは私の食事だ。 やらんぞ。       <溜息> お前達も異能を使うか。 旅行者なら丁度良いかと思ったが、これは食えんな。 <白、立ち去る。> 266天真 :──ククリちゃんの言った通りだ。 まずい、まずいぞこれは……! 267昴  :待て! ……くそっ。 268景織子:山の方へ向かったわ、追い掛けましょう。 269閏  :テンマは!? アイツ、どこ行った!? 270久々利:困ってる方が見えたって、こっちの方に──       テンマさん、テンマさーん! 271閏  :……なあ、おい、これ。 三味線じゃねえの。 272久々利:まさか、……まさか! 273閏  :あの馬鹿! 連れ去られたのか! 274天真 :ああ、そういえば── 275白  :嘆けよ、人間。 無情と嘆け。 ここは無生野、雛鶴の姫の今際の如く。       我らの無念で焦土となるべき土地なのだ。 276天真 :女の怖がりと猫の寒がりは嘘、なんだったな。 ====================================================== <山中、洞窟前。> 277天真 :──ん、いっ!? たたたた……あれ、ここは……? 278珠  :あ! 起きた、起きたな! 279天真 :へっ!? 280珠  :お、おー……おはよう! だ! おはよう! 281天真 :おはよ……いや! キ、キミ、大丈夫!? 282珠  :う? 283天真 :キミみたいな綺麗な着物を着たお姉さんに、連れてこられたんだろう!? 284珠  :きもの? おねえさん? 285天真 :なんともない? 痛い所はない? 286珠  :ない! タマはね、お耳しまってここで待ってなさいって! 287天真 :お耳……? 誰がそう言ったの? 288珠  :お兄ちゃん! 289天真 :お兄ちゃんも一緒なのか。 困ったな、僕一人で助けられるかな……。 290珠  :ここで良い子にしてなさいって、言ってた! 291天真 :そっか……兄妹二人で不安だろうに、えらいね。 292珠  :えらい? タマ、えらい? 293天真 :うん。 タマちゃんっていうんだね。       お兄ちゃんがどっちへ行ったかわかる? お兄ちゃん、探しにいこうか。 294珠  :駄目、ここで待ってるの、お兄ちゃんが来るの待ってるの! 295天真 :う……まあ、こんな森の中を不用意に歩くのはマズいか。       じゃあ、僕だけでもキミのお兄ちゃんを探してくるから、 296珠  :駄目、駄目、駄目! 一緒に待ってるの! 297天真 :ええ……? 僕と一緒に? 298珠  :うん! 一緒に待ってるの! 299天真 :──いや、おかしいだろう。 300珠  :どうした? 怖くなったか? 301天真 :──こんな小さい子が、僕のように攫われてきたのはまだわかる。 302珠  :大丈夫か? どこか痛いのか? 303天真 :──微塵も怯えていない。 どうして、平然としていられる。 何が起きているかわかっていない? 304珠  :痛いの痛いのとんでけー! 305天真 :──多分そうじゃない。 怯えるどころか、僕を気に掛けてばかりだ。 306珠  :って、いつもお兄ちゃんがやってくれるの!       怖いの怖いのとんでけ! もするか? 307天真 :っ、 308珠  :あ! <天真、駆け出す。> 309天真 :あの子は囮だ! 攫ってきた人を油断させる為の囮! 310珠  :……行っちゃった。 311天真 :僕を、攫ってきた人間を森の奥へ誘う餌だ! 312珠  :ご飯は逃げちゃダメなんだぞ。 しょうがないにゃあ。       ──「難波潟(なにわがた) みじかき芦(あし)の ふしの間も」 313天真 :もっと早く勘付いていれば……! 314珠枝 :「逢はでこの世を 過ぐしてよとや」! 315天真 :逃げる余裕が、っ!? <首根っこを捕まれる> 316珠枝 :捕まえた、捕まえた! ご飯は逃げちゃ駄目なんだぞ。 317天真 :嘘だろ、どこから……! 318珠枝 :とことん粋のいい奴だなあ、お前。 困ったな、まだ帰らないのかなあ。 319天真 :ご、ごめんなさい! 観念しました、もう逃げません! 首、服っ、離して下さい! 320珠枝 :嫌だね! まあ、逃げたってお前より足が速いぞ! すぐ捕まえるぞ! 321天真 :んん……! 322珠枝 :逃げたら足、取らないといけないだろ。 お兄ちゃんにはいっぱい食べて欲しいんだ。 323天真 :た、たっ……!? 324珠枝 :お兄ちゃんは大きいから、足まで全部、沢山食べないとお腹いっぱいにならないんだぞ。 325天真 :……あ、あなたがたは、人を食べるんですか。 326珠枝 :ん? お兄ちゃんは、人しか食べないぞ。 327天真 :さっき小さい女の子がいました、あの子は! 328珠枝 :女の子? ──誰の事だ? <発砲音。> 329珠枝 :にゃあっ!? 330久々利:テンマさん! 無事ですか!? 331天真 :く、ククリちゃん! 332久々利:その人から手を離して下さい! 撃ちますよ! 333珠枝 :……っ、うるさいの、デカい音! お前かあ! 334閏  :よお! お前が噂の三味線花魁か!       商売道具忘れてんぞ! <三味線で珠に殴りかかる> 335珠枝 :っ! 336久々利:テンマさん、こちらです! 337天真 :う、うん! 338昴  :テンマ、怪我は無いかい。 339天真 :所長。 すみません、お手間を。 340昴  :無事ならいい。 俺達に任せておきなさい。 341閏  :こうして男と子供攫って、雛鶴姫に思い入れでもあんのか。       ──姫と呼ぶにゃ、ちと品がねえな。 <珠、手元が凍り付く。> 342珠枝 :にゃぁっ!? 343景織子:そもそも。 雛鶴姫の伝承って、何かを恨んで攫って、って訳じゃないでしょ。 344閏  :男の首と子供とー、なんちゃらかんちゃらなんだろ?       ま、山暮らしの畜生が人間の真似をしたと思えば、上出来なんじゃねえの。 345白  :本当にそう思うか? 雛鶴は恨まなかったと思うか? <白、景織子に蹴りかかる。> 346景織子:<舌打ち> 「恨みわび」── 347白  :その手にはもう乗らんぞ! <白、地面を蹴り上げる。> 348景織子:っ!? 349閏  :ああくそ、やい、随分足が速いな! 350白  :たかが目潰しだろう。 目玉を抉らなかっただけ、ありがたいと思え! <鍔迫り合い。> 351閏  :……刀まで持ってんのかよ。 352白  :なんだ、鈍(なまくら)かと思えば。 刃が見えないだけか。 353閏  :鈍ぁ? 354白  :村中で。 そこの女ともう一人が、異能を使った時。 お前だけは使わなかったろう。       お飾りの鈍だと思ったんだ。 355珠枝 :おにい── 356白  :彼奴等(きゃつら)は私の客だ、隠れていなさい。 357珠枝 :でも、 358閏  :随分な言い草だな、おい。 こっちは使いたくても易々使えねえんだっつの。       俺らは遥々、猫又退治に来たんでさあ。 お前が、猫又だな。 359白  :如何(いか)にも。 わざわざ食われに、ご苦労な事だ。 360閏  :村の連中攫ってたのもお前だな。 361白  :勿論。 362昴  :素直に認めるか。 363白  :ああ。 馳走が雁首(がんくび)揃えてやって来た、機嫌が良い。       お前も一緒にどうだ。 お守りばかりは退屈だろう。 364昴  :……彼女も、猫又だな。 365白  :どうだろうか。 366昴  :二人いたか。 成程、二人で掛かって、その俊足。       人一人攫うも容易いか。 367白  :まあなあ。 それも、あちらはかどわかすのみだ。 368天真 :キョウコさん、大丈夫ですか! 369景織子:砂が目に入っただけよ、大丈夫。 舐めた真似するわね……!       テンちゃんは怪我、してないの。 370天真 :ええ、一応。 371久々利:あの二人、どうして……。 372閏  :どういう訳で、人を攫ってたんだ。 373白  :食う為だ、生きる為だ。 猫でも人でも腹は減るだろう。 374昴  :人の食料を盗んだのは。 375白  :私だ。 376昴  :どうして。 377白  :時々は食いたくなるんだ。 378昴  :人を食っているのにか。 379白  :人を食っているからだ。 お前達も鳥に牛に豚に、同じ味ばかりでは飽きるだろう。 380閏  :ははあ。 正(まさ)しく、猫に小判ってか。 381昴  :猫に経、ではなかったか。 <抜刀する> 382閏  :どっちも一緒だろ。 383白  :ふん、過ぎた高説ではあったな。 384閏  :お前の耳にか? 385白  :貴様の口だ。 386閏  :ほお。 猫を殺せば七代祟る、だっけか。 387白  :七代、傲慢な。 お前が末代になる。 388閏  :そうか。 祟ってくれるなよ。       先に悪さしたのは、お前の方なんだからな! <昴、切りかかる。> 389白  :<弾き返す> ああ、トロい、トロい! 鈍間(のろま)が! 390昴  :乗じる前に、確認しておきたかったからな。 遅れてすまなかった! 391白  :いや違う違う。 貴様らの太刀筋の話だ! <閏、切りかかる。> 392白  :いや、こうも遊んでられまいか。 あの雪女の目があるな! 393閏  :見抜いたか! 394白  :当然! 次にアレが凍らせたら、目玉を刳り貫くぞ! 395昴  :させるか! 396白  :貴様らの臓腑と合わせて煮付けにしようか!       そのまま食うは飽きたでなあ! 397景織子:<溜息> 猫の歯に蚤、ってね。       ああもすばしっこかったら、凍らせるのは難しいわ、どうしましょ。 398天真 :何か、何か手を……! 399久々利:──っ <拳銃を構える> 400白  :娘ぇ! 無粋は許さぬぞ! 401久々利:ひっ、 402白  :その細腕、刻んで食ってやろうか! <久々利、拳銃を構え直して発砲する。> 403白  :っ!? 404昴  :させる訳が! 405閏  :ないだろ! <珠枝、白を庇う。> 406珠枝 :お兄ちゃんをいじめるな! 407白  :タマ!? 408閏  :あ? タマ? 409珠  :お兄ちゃんを、いじめるなぁ! 410閏  :へっ……あぁ!? 411天真 :あの子は……!       な、何が起きてるんですか、えっ、先程の女性はどこに……!? 412白  :<珠に掴み掛かる> 何をしてるんだ! 隠れていなさいと言っただろう! 413珠  :やだ! やだあ! お兄ちゃんのご飯、タマがとるのぉ! 414景織子:……もしかして、その子が三味線花魁……? 415白  :違う、この子は関係ない! 416昴  :キョウコ? 417景織子:そうとしか思えないでしょ。 瞬きしている間に、人間が入れ替わるなんて。 418珠  :お兄ちゃん、離して! タマがやっつけるの! お兄ちゃんの分のご飯、取るの! 419白  :私のご飯は足りている、だから大人しくしなさい! 420久々利:え、ええと……ご飯……? 421珠  :お兄ちゃんが、タマのご飯取ってくれるもん!       タマがお兄ちゃんのご飯取るのお! 422閏  :な、……なんだあ……? 423昴  :……青年、訳を話してくれないか。 僕達とキミで、何か誤解があるのかもしれない。       平和的に解決できるのであればそれに越した事はないだろう。 424白  :平和的な解決などない! 425天真 :そんな、 426白  :山を開き森を奪い、この子の未来を毟(むし)り、あまつさえ猫又退治などと宣(のたま)い、       舌の根も乾かぬうちに平和的な解決とほざいたか! 何をのうのうと! 427昴  :互いに誤解があるのなら話は別だ、僕達に敵対の意思はない! 428白  :あろうがなかろうが関係ない! 429久々利:あ、あのッ! お話だけでも、聞かせて頂けませんか、これッ! 拳銃! そちらにお渡しします! 430白  :……。 431久々利:お二人とも、拳銃の発砲音、……大きな音がする度、驚いていましたね。       猫って、大きな音が苦手なんでしょう。 432白  :……。 433景織子:こうして話が通じるなら、人を害していればいずれどうなるか、それくらいわかるでしょう。 434久々利:私達はあなた達兄妹が、そうして人に危害を加えるのは何か理由があると思うんです。 違いますか? 435白  :……。 436天真 :さっきその子と……ええと。 大人の姿をしていた彼女と、でいいんですかね。       少し話した時、僕をお兄ちゃんに食べさせると言っていました。       あなたも先程、山を開き森を奪われと言っていましたね。       ……もしかして、食べる物に困っているのですか。 437久々利:私も! 先程の問答、あなたはどうにも、彼女を庇おうとしているように見えました! 438閏  :あー……なあ、食うモンに困ってんのか? それこそ俺達が何とかしてやらあ。       村の連中はビビっちまってるから仕方ねえとして、 439白  :あの村の人間だから、奪う価値があるのだ。 440閏  :あ? 441白  :如何にも、私は猫又と呼ばれている。 何十年と生き、人の姿を、言葉を覚えた猫だ。       この子は二十八年前、村の夫婦が山に捨てた子だ。       赤子の頃、死に掛けていた所で私の尻尾を分け与えて、猫又として生かした子だ。       子供と大人。 二つ姿があれど、人が捨てた、人の子だ。 442天真 :捨てられた……。 443白  :この子だけではない。 私も飼い主を奪われた。 そこの、拳銃の娘くらいの年頃の。 444久々利:わ、私? 445白  :年端もいかぬうちに嫁ぎ、亭主の酷い癇癪(かんしゃく)で死んだ私の家族だ!       奪い続け、害されたからと駆除を選んだか! しかし先に害したのは彼奴らだ!       今更被害者面など、ああ、笑止千万! 報いとは受ける為にあるものだ! <静まり返る。> 446天真 :……死して尚、睨め付ける親王の首。 447白  :坊、よく知っているじゃないか。 448天真 :無念の為の報復。 449白  :そうだ。 この地にお誂え向きだろう。 450天真 :報復を繰り返して何を得ますか。       あなたはそれでいいのかもしれない、満足するのかもしれない。       その子は。 僕にはただ、あなたに喜んで欲しい一心の。       ……人の幼子と変わらないように、見えますよ。 451白  :……。 452景織子:そうよ。 あなたにとっては人間のやる事なんて、造作もないものなのかもしれない。       でも、そっちの子は。 あなた達が苦手な拳銃を、人間が沢山持ち込んだら。       もっと酷い目に遭うって、簡単に想像できるでしょう。 453白  :……。 454閏  :なあ。 俺、難しい事はわかんねえけどさ。       恨んでねえと駄目なのか。 それは、どうしてもお前が恨んでねえとならねえのか。 455白  :……家族を、亡くした事はあるか。 456閏  :俺は、あるぞ。 457白  :ユエ、といった。 器量良しで、父母を慕い、下の兄弟の面倒をよく見ていた。       私は、あの子が生まれる前からネズミの駆除の為に飼われていた。 458夕映 :──シロちゃん、シロちゃん。 お前は良い子だねえ。       お前も口が利けたらよかったのにね。 そうしたら、私と沢山お喋りできたのに。 459白  :家の貧困の為に、村で一番の豪農(ごうのう)の家に嫁いだ。       まだ十六だった。 結納金で家の暮らしが楽になったと、喜んでいた。 460夕映 :──こんなにお金を払って頂いて、ねえ、シロちゃん。       あんなに立派な方が、私の旦那様で本当にいいのかしら。       立派な奥様になって、旦那様を支えていかないといけないね。 461白  :たった十六年しか生きていない娘が、だぞ。       そうして嫁いでいった先で、亭主の癇癪で! 酷い折檻で!       次に帰った時には体中に痣を作り、手足がおかしな方向に曲がっていた、       顔面は腫れあがり白無垢で愼ましく微笑んだあの面影すらもなかった! 462夕映 :──シロちゃん。 私のお兄ちゃん。 ねえ、内緒にしてね。       誰も知らないお家に嫁ぐの、ちょっとだけ怖いんだ。       朝になっても弟達の声が聞こえない、夜に妹達の髪を梳く事もなくなる。       今までと全然違う暮らしになるんだよ。 お前とも、こうしてお喋りできなくなるんだよ。       ……でも。 こうやってちゃんと、たまには、帰ってくるからね。 463白  :ユエの不貞だと、それきりの説明があった。 家族は逃げるように村を後にした。       信じられる訳がなかった。 私は村に残った、ユエの無念は私の無念だ。       そうして村唯一の酒場で、あの男は、ああ、ユエに飽きたと仲間に零していたのだ。 464天真 :そんな……。 465白  :私は人を学んだ。 姿、生活、言葉、飽きたという言葉がどういうものなのか。       人間と同じ物を食って、そう、あの酒場にも入った。 あの男と酒を飲み交わした事すらある。       ──数年もすれば。 男は酒場に顔を見せなくなった。       様子を探りにいけば、子供を抱いた女と笑い合っていたさ。       ユエが生きていれば、ユエと同じ年頃の女。       ユエが兄弟に聞かせていた雛鶴の姫、彼女とて恨んだだろう! ああ、無情と! 466天真 :それでも雛鶴姫は子供を産んだ! 467白  :しかし死に際は無情と嘆いて死んだ! ああ彼女は私だと思った!       私がこの無情の地に! 呪いを振りまいてやろうと! そう思った!       ……そんな頃に。 この子、タマが山に捨てられた。 468夕映 :シロちゃんは、子供と遊ぶのが上手だもんね。 469白  :真っ先に思いついたさ。 470夕映 :ねえ。 私に子供ができたら、その子とも遊んでくれるよね。 471白  :タマを連れて、子供をかどわかして。 472夕映 :私が小さい頃みたいに、一緒に遊んで── 473白  :その男の子供を、最初の食事にした。       次にやはりタマをつれて、男が娶った女を。 474天真 :……それで、心は晴れましたか。 475白  :……晴れた、ら。 ……晴れてくれたら、楽だったろうな。       私はもう、取り返しがつかない。 祟り神にでも何でもなってやるさ。       <溜息> ……そう思っていた、筈だったんだがな。 476珠  :う? にゃあ! 477白  :雛鶴の姫は産んだ子と共に死んだ。 しかし、私にはこの子がいた。 この子がいたから。       ……あの男の後妻(ごさい)は、私がこの子の世話に困っていると適当なホラを話せば、       それを信じて甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。 それでも私は、……       そういう訳で。 もうどうにもならんのだ。 478閏  :本当にどうにもなんねえのか。 479白  :ならんさ。 こんな畜生も、道理と矜持は持ち合わせている。       道を正せる機会は、何度もあったんだろう。       あの男と酒を飲み交わした時。 酒さえ飲んでいなければ、呑気で気の良い男だった。       あの男の子供も、利発な子だった。 そして、何より。       タマが大きくなるにつれ、言葉を覚えるにつれ。 覚えていたこれは、       思い返してみれば、罪悪感だったのだろう。 480久々利:ど……どうにもならない事、ないじゃないですか!       お話を聞いていれば、あなたはただただ優しいだけです!       飼い主さんも、一番最初に食べた人だって、覚えていて! 481白  :優しいか、そうか。 ユエもよくそう言った、性分なんだろう。       だからといってこれまでの私の悪行を水に流せと。 無茶を言うな。       恨みは晴らしてこその恨みだ。 それ以外の何物でもない。 あの頃の私のようにな。 482久々利:……。 483昴  :何を、どう為したいのか、だと。 僕は思う。       何を為したいのか。 ……それ次第なんじゃあ、ないのかと。 484白  :──…… <溜息> そうか。 人間、お前が、頭領か。 485昴  :あ、ああ、そうだ。 486白  :……人の子に生まれて、尻尾を分け与えられた半妖。 しかし、この子は人を食った事はない。 487久々利:やっぱり! 人の食べる物を盗んでいたのは、この子の為だったんですね! 488白  :ああ。 今なら人里に帰れる。 人として、生きる事ができる。 ……それが、いいと思う。 489昴  :僕も、そう思う。 490白  :……これは、契約だ、人間。 491昴  :ああ。 492白  :この子に、人として当たり前の幸せを。 やれるか。 493昴  :……ああ。 494白  :この子に、衣食住を。 人間としての尊厳を。 495昴  :ああ。 496白  :この子が天寿を全うした暁。 最期の時間をほんの少し、私に。 497昴  :わかった、約束する。 498白  :──……わかった。 私は山を移ろう。 この子は、人の世界に。 499閏  :山移った所で悪さ続けたら、移った意味ねえんだぞ。 500白  :吠えるな愚図。 501閏  :ああ!? 502景織子:ジュン。 503白  :人を食うのも、止める。 別に何でもよかったんだ。 食うものも、恨むものも。       子育てがひと段落したんだ、しばらくはブラブラするさ。       ……瞬きのような、充足だった。 504珠  :お、お兄ちゃん。 505白  :タマ。 506珠  :んう? 507白  :この人達に、ついていくんだ。 508珠  :お兄ちゃんは? 509白  :お兄ちゃんは、ついていけない。 510珠  :……なんで? なんで? 511白  :なんでも。 512珠  :やだ、嫌だ! お兄ちゃんと一緒がいい! 513白  :タマ。 514珠  :やだやだやだ! 515白  :……空にある、でっかいお団子があるだろう。 516珠  :んん? うん。 517白  :タマがいつも、食べたいと言っていたろう。 あれをね、取りにいくんだ。 518珠  :タマも行く! 519白  :タマは小さいから、連れていけない。 タマのご飯を取るのは、お兄ちゃんの仕事だろう。 520珠  :……うん。 521白  :タマの仕事は? 522珠  :いい子にして、待ってる。 523白  :そうだろう?       タマがいい子にして、もっとずっと大きくなったら、迎えにいくよ。 524珠  :……お兄ちゃん。 また、会える? 525白  :……。 526珠  :お兄ちゃん。 また会える? 527白  :……お前は、聡いな。 大きくなったな。 528珠  :会える? 529白  :会えるよ、約束だ。 530珠  :約束、絶対、絶対だよ。 531白  :ああ。 幸せに、なっておいで。 532昴  :……その。 尻尾を分け与えるのは、よくある事なのか? 533白  :いや、私も知らなかった。       あの頃ふらりと山にやってきた人間に、教えてもらった。 534昴  :人間に? 535白  :丁度お前くらいの歳で、髪の長い男だったな。       私の尻尾、私の持つ怪異とやらを分ければ、生きる事はできるだろうと。 536昴  :……怪異。 537白  :ああ。 長い腰までの髪を結った、医者だと言っていた。 会ったのはそれきりだった。       「言葉があれば、想いがあれば、何でも叶う」と言って。 私達に、短歌を教えてくれた。 538閏  :短歌? 539白  :「難波潟(なにわがた) みじかき芦(あし)の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや」 540久々利:百人一首! 541景織子:伊勢の句、よね? 542白  :人の生は短い。 いつか、この歌にこの子を思う日がくるのだと……どうした? 543昴  :いや、……いや、何でもない。 彼女を、こちらに。 544白  :……タマ。 息災でな。 <珠を昴に渡す> 545珠  :お兄ちゃん。 546昴  :行こう。 約束は、必ず果たすよ。 547珠  :お兄ちゃん。 お兄ちゃん、お兄ちゃん! 548景織子:行きましょう。 これ以上は、……。 549珠  :お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん! 550久々利:半妖。 私達と同じように生きるか、長く生きるか。 どちら、なんでしょうね。 551天真 :ううん……でも。 552珠  :お兄ちゃん! 553白  :──お前がこの山に捨てられてからの、本当に短い間。       本当に、本当に長い、瞬きだった。 554天真 :ああ仰っていたし、きっとまた会えるんだろうなって、僕は思うよ。 555景織子:……ほんの短い時間も逢えないまま、この世で過ごせと、死ぬまでそうしていろと、       あなたは言うのでしょうか。 556昴  :百人一首、十九番、伊勢の句か。 皮肉なもんだな。 557閏  :うだうだ言っても仕方ないだろ。 ……何ていうか。 そういうモンだろ。 558白  :お前と出会えて、私は報復を顧みた。 お前の隣で目を閉じれば、私は報復を忘れられた。       今度は、お前が旅をしておいで。 そうして最期には、揃ってこの無生野に帰ろう。       お前が今際に、「無情」なんて言葉を残さないように。 きっと私が送り出そう。 559景織子:ああ、だから、「鶴の声」を歌っていたのね。 なんて皮肉な歌を歌うの、って思っていたけど。 560昴  :ん? 561白  :──鶴の一声、幾千代までも。 末は互いの共白髪(ともしらが)、か。 562景織子:あれはね。 夫婦が揃って、仲良く、白髪になるまで一緒にいましょうって。       ご祝儀の場で歌われる、そういう歌なのよ。 563白  :お前と過ごした日々は、私には過ぎた幸せだった。       幸せな、瞬きだったよ。 564天真 :──村に戻って、もう人攫いの心配がない事、そして「三味線花魁」は現れないだろうと伝え。       アキヒコさんや、他の被害者の皆さんの供養に参列した後。       帰り道で僕らはうんと話し合い、黒い猫又の彼女は。       スバルさんの遠縁の親戚で身寄りがない養子、というテイで探偵事務所に迎える事に       相成(あいな)りました。       僕らの言葉通り、神隠しはぱったりと止み。 村に三味線花魁が現れる事は、なくなったそうです。 <中央本線、電車内。> 565景織子:人間でいうと二十八歳……猫でいうと四歳ってトコかしら。 566久々利:ああ、猫の耳がついてるこの姿が幼いのは、猫としての年齢が反映されているのかもしれませんね。 567閏  :こんなチビだと何もわかんねえだろうしなあ、何から教えりゃいいんだ?       しっかし、よく寝てんなあ。 ほれほれ。 568昴  :こら、つつくな。 あれだけ大泣きしたんだ、疲れたんだろう。 569天真 :……ん? あの、僕らもしかして。 猫又と約束事を交わしたと……? 570景織子:そうよ、それが何……あ。 571天真 :ね、猫じゃ! 572久々利:しーっ! 573閏  :なんだよ、急に。 574天真 :あ、あ、あの。 津軽地方に、約束を破った娘を食い殺した猫の話が……。 575景織子:あー、あったわねそんな話。 でもアレって確か、喋る猫が自分の事を他言すんな、って、……。 576閏  :……喋ってたな。 577珠  :<寝言> ごはんんん。 578久々利:しゃ、喋ってますね。 579昴  :た、た、他言しなければいいんだろう? うん、そう! この子はうちの遠縁の子だからな! 580景織子:でもほら、黒猫だから商家に福を呼ぶって伝承もあるし、猫又って恩返ししたり、 581昴  :しーっ! 582閏  :誰かに聞かれたらどうすんだよ! 583久々利:あああ、早く帰りたい! 584景織子:本当に、しょうもない連中ね……。 585天真 :──そう。 あの山には、猫の子一人いなかった。 ええ、いなかったんです! <私設探偵天之川事務所、医務室。> 586珠  :……んー……んにゃ……? <珠、しばらく辺りを見渡す。> 587珠  :……お、お兄ちゃ、 588閏  :おっ、起きたかネコ助! 589珠  :にゃっ!? 590天真 :おはよう、タマちゃん。 朝ご飯にしようね。 591珠  :ご、ごはん……? 592閏  :お前何食うかわかんねえからよ。       とりあえず、焼き魚。 わかるか? 593珠  :……やき、ざかな? 594天真 :魚はわかる? 595珠  :タマ、魚食べるの好き。 596閏  :お、魚好きか! 597天真 :じゃあ大丈夫かな。 ほら、おいで。 598珠  :……。 599天真 :……うーん。 まだダメかな……。 600珠  :ご、ご飯、くれる? 601閏  :おう。 腹一杯食っていいぞ。 602珠  :家族? 603天真 :タマちゃんが、嫌じゃないなら。 僕らはそう思ってるよ。 <珠、やや躊躇った後で天真に飛び付く。> 604珠  :か、家族。 605天真 :っととと……うん、そうだよ。 これからよろしくね。 606閏  :よしよしよし。 おいネコ助、俺んとこにも来い! 607珠  :家族? 608閏  :そうだぞ。 <珠、閏に飛び移る。> 609閏  :よーし! なんだネコ助、思ってたより軽いな! 610珠  :タマ、ネコ助じゃないよ! タマだよ! 611閏  :わかった、わかった。 ひひひ、メシ食うぞ! 612珠  :メシ? 家族、メシは何? 613閏  :だから、焼き魚だっての。 614天真 :あ。 メシって言葉がわからないのかな。 僕らの呼び方も。 615閏  :ん? あー、そうか。       メシっつーのは、ご飯の事。 で、俺はジュン。 616珠  :じゅー、……ジュン。 617閏  :そうだ。 618天真 :僕はテンマ、ね。 619珠  :テンマ。 620天真 :そうそう。 621珠  :ジュン! テンマ! タマはね、タマ! 622閏  :知ってる知ってる。 623昴  :おっ。 起きたかい、タマ。 624久々利:タマちゃんおはよう! よく眠れたかな? 625景織子:箸……は、使えないわよね。 今日は私が面倒見てあげる。       タマちゃん、こっちいらっしゃい。 626珠  :んんん……。 627閏  :なぁに愚図ってんだよ。 628珠  :冷たいの、しない? 629景織子:え? <笑う> ああ。 しないわよ、もうしない。 630閏  :ほら、飯食わせてもらえ。 <景織子に珠を渡す> 631珠  :にゃ、にゃあ。 632景織子:ああー懐かしい。 うちの息子、手が離れるのが早かったのよ。       子供ってやっぱり、こうして膝で大人しく食べてるうちが一番可愛いわ。 633珠  :んにゃ、にゃあ! <愚図る> 634景織子:あらあら、ごめんなさいね。 ほら良い子良い子、大人しくなさいな。 635昴  :はは。 まだ慣れていないだけだろう。 いいさ、徐々に慣れていけばいい。 636久々利:沢山美味しい物、食べれるからね。 637珠  :おいしーもの? 638久々利:そうだよ。 沢山食べて、大きくなろうね。 639閏  :よっし、じゃあ朝飯、食いますか。 640天真 :<勢いよく手を合わせる>       ──頂きます! <珠以外、天真に続く。> 641珠  :<周囲を見渡した後、真似をする>       いただきまあす! 2021.3.27 初版 羽白深夜子 2021.6.4 更新 羽白深夜子 2021.12.9 更新 羽白深夜子 2022.4.2 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 引用 「鶴の声」作詞者不明 「小倉百人一首」相模 「小倉百人一首」源俊頼朝臣 「小倉百人一首」伊勢
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