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【帝都短歌事件録「シャッツ・オペラ」二】 (ていとたんかじけんろく「しゃっつ・おぺら」に) 男性4:女性3 前作「シャッツ・オペラ 一」の続きです。 有償版販売ページはこちら。 【春日 天真(かすがてんま)】 22歳男性、探偵所所員。 東北から帝都へ上京し、一話「秋待つ鮮血」の事件を切っ掛けに天之川探偵所に就職。 平々凡々だが気の優しい、機転が利く青年。 【若葉 景織子(わかばきょうこ)】 外見は30代女性、探偵所所員。 前話「シャッツ・オペラ一」にて旭宇と結託し帝都で放火事件を起こし、突然事務所を飛び出す。 遥か昔人魚の肉を食べた事で不老不死、「八百比丘尼」となっており 当時と変わらない外見を隠す為各地を転々とする中で旭宇や昴と出会い、「天之川探偵事務所」設立に立ち会う。 元々の生まれは貴族で、我儘で飽き性だが愛情深い女性。 【天之川 昴(あまのがわすばる)】 35歳男性、天之川探偵事務所所長。 過去警察に所属しており、独立し探偵事務所を構えている。 仕事はできるが壊滅的に不器用で、「破壊神」と呼ばれる程のドジ。 警察時代自らの怪異で小さな漁村を壊滅させ、「事故死」として処理された事がある。 【香鹿 閏(こうがじゅん)】 23歳男性、探偵所所員。 天之川探偵事務所に所属している青年。 喧嘩っ早いが面倒見が良く、年下や弱者に親切で優しい。 可愛い物、文房具に目がない。 【八尋 久々利(やひろくくり)】 18歳女性、探偵所所員。 天之川探偵事務所に所属している少女。 書類整理からお茶出しまで、細々した雑務をテキパキこなす。 「超記憶症候群(ハイパーサイメシア)」と呼ばれる症状で、物心ついた頃、3歳頃からの記憶を全て覚えている。 【式 旭宇(しきぎょくう)/シイ・シューユー】 28歳男性、露天商。「狐火」の怪異を扱う男性。 祖先に景織子と同じ「八百比丘尼」がいた事、そして旭宇自身が妾の子だった為、 景織子が気まぐれに彼を拾うまで居場所を見つける事ができなかった青年。 景織子を慕い、執着している。 【久遠寺 蓮華(くおんじれんげ)】 外見は20代女性、「泡影屋」店主。 怪しげな古物商を営み、魔女を自称する女性。天之川探偵事務所に物品諸々を提供している。 正体は悪夢を食べる「獏」。火が苦手。 ※一言中国語での台詞があります。 【伊良部 啓太(いらべけいた)】 25歳男性、洋食屋「七福堂」店主。 おっとりしたマイペースな青年。幼馴染で夫人の美姫(みき)と七福堂を営む。 二話「寂寞の所在」内、自身の短歌怪異解決後は天之川探偵事務所の所員達に場所や料理、 噂や情報を提供している。 ※台詞が極端に少ないので「式旭宇」との兼ね役を推奨します。 【昴の父】 昴の父親。資産家。 ※「天之川昴」以外の男性と兼ね役を推奨します。 【昴の母】 昴の母親。 ※「幼少期の昴」以外の女性と兼ね役を推奨します。 【幼少期の昴】 幼い頃(五歳頃)の昴。 ※兼ね役推奨、男女可。「昴の母」以外と兼ね役を推奨します。 【配役表】 春日天真 : 若葉景織子: 天之川昴 : 香鹿閏  : 八尋久々利: 伊良部啓太: 式旭宇  : 久遠寺蓮華: 昴父   : 昴母   : 昴幼   : ======================================= 001昴  :この力が。 他の人々が持たない力だと知るまでに五年。       知ってから。 使いこなせるようになるまで、十年。 <回想。昴の幼少期。> 002昴母 :スバルは、他のお友達にはできない事ができるのね。       それはとても素晴らしい事。 かか様は、スバルの事を誇らしいと思うわ。 003昴幼 :<泣きじゃくる> でもね、でもねかか様。       タケちゃんも、ミカちゃんも。 僕の事怖いって言ったもん。 004昴母 :タケルくんも、ミカちゃんも。 今日初めてご覧になったんでしょう? 005昴幼 :うん。 006昴母 :なら、怖いのは仕方がないわ。 だってみんな知らなかったんだもの。       スバルは優しくて、強くて、格好良い、かか様の自慢よ。       みんなもスバルの事をもっと知ったら、あなたの事を大好きになるわ。 007昴幼 :本当に? タケちゃんも、ミカちゃんも、また遊んでくれる?       もう、怖いって言わない? 008昴母 :ええ。 スバルが正しく、優しく生きていたら、みんなまた遊んでくれるわ。 <回想ここまで。> 009昴  :母は、いつも僕の味方だった。       力が上手く使えなくて、人々を脅かす度に。 従来の不器用で失敗をする度に。       いつでも、何度でも、やり直せる事を教えてくれた。 <回想。昴十六歳。> 010昴  :父様、今回の件……。 011昴父 :ん? ああ、スバルは何も気にしなくていいんだよ。 012昴  :でも、俺の所為で校舎が。 013昴父 :学校に寄付金を渡して、建設会社も紹介した。 校舎の代わりになりそうな物件も紹介した。       完全な復旧までに数年と掛かってしまうのは確かだ。       生徒の皆さんは紹介した物件で授業を受けて頂き、その間に新しい校舎を建てて下さい、とお話したよ。 014昴  :また。 015昴父 :また金で解決する父を、スバルは軽蔑するかい。 016昴  :いえ、最善策だと思います。 全て俺の為なんでしょう。 お陰で俺は、ここから逃げずにいられます。       しかしあなたにも、母様にも。 申し訳が立ちません。       迷惑を掛けてしまった学友の皆さんにも、先生方にも。 017昴父 :うん。 スバル、キミは今十六になるか。 まだ子供だ。       私達の庇護下で暮らし、学友の皆様と共に、教師の皆様に教えを乞うている。       ……担任の先生にお聞きしたよ。 ご学友が虐められているのを、助けようとしたんだって。 018昴  :はい。 大勢の前で酷い暴言を浴びていたので、止めたくて。 そうしたら。 019昴父 :暴走してしまったんだね。 ご学友の皆様に怪我が無くて本当によかった。       それに。 スバル、立派な行いをしたな。 弱きを守る、それは尊(たっと)ぶべき心だ。       それは、私や母様がどうしたってスバルに与える事ができないものなんだ。       金で買えるものじゃない、私達が与えられるものでもない。 お前が、自ら手に入れたものなんだ。       私も母様もね。 決して逃げ出さないお前にできる事を、しているだけなんだよ。 <回想ここまで。> 020昴  :父はいつも、僕が出した損害を金で償ってくれた。       思う事がない訳ではなかった。       けれど父は当時の僕が知らぬ所で、沢山の人に、頭を下げてくれていた。 021昴母 :あなたは優しくて、強くて、格好良い男の子だから。 真っ直ぐに生きなさい。 022昴父 :悔やんだ分、人に優しくありなさい。 人として正しくありなさい。 023昴母 :あなたの名前は六連星(むつらぼし)。 天上の星々のように、胸を張って生きなさい。 024昴父 :今の己を悔やむなら、いつか。 同じように悩む人達を、救って差し上げなさい。 025昴  :だから僕は。 大勢を助く為に、この事務所を作ったんだ。 <前話回想。七福堂店内。> 026啓太 :ろ、露店街で買った良いお品……?       確かにアソコは、良い物、特に金物が揃ってるって話は知ってるけど……。 027天真 :不可思議な事や心変わりって、それってまるで。 028昴  :クオンジ。 その話、詳しく聞かせてくれないか。 029蓮華 :へっ。 どーしたの、みんなしておかしな顔して。       ただの噂話だよ、こんな話が聞きたいの? 030昴  :僕らの仕事と関係しているのかもしれない。 031閏  :おい、言っていいのかよ。 032昴  :このくらいなら、差し支えないだろう。       ケイタくん、キミは確か日記を事細かにつけていたな。       買い物についても記録しているかい。 033啓太 :買い物なら帳簿を付けていますよ。 すぐ持ってきますね! 034蓮華 :ふうん……? まあ、キミらは私の恩人だからね。       何も聞かずに、手伝ってあげようじゃないか。       露店街の連中は私みたいな流れ者ばかりだからねえ。       彼奴等(きゃつら)が自分の品物に箔をつける為の嘘だと、思っていたんだが。 <回想ここまで。天之川探偵事務所内。> 035久々利:ケイタさんの短歌怪異は、あの露店街で寸胴鍋を買った直後から始まっていた、と。 036昴  :考えてみれば。 キョウコがあの青年の火の怪異を扱って騒ぎを起こせた。       何かしら短歌怪異を譲渡する方法が存在していても、おかしくはない。 037閏  :俺らの前でわざわざ見せて下さったんだ。 あの野郎とっちめて聞き出せば一石二鳥だな。       シマの爺さんとも連絡が取れた。 警察の方で、露店街を一店ずつ確認してくれるとよ。 038天真 :ケイタさんの寸胴鍋のように、短歌怪異がついている品物が売られているかもしれないと。 039閏  :ああ。 ま、レンゲが言ってた通り、あの辺りの連中は一筋縄にゃいかねえからなあ……。       どのくらい進展があるのかは、何とも。 シマの爺さんもあまり期待はするな、だとよ。 040昴  :<苦笑する> 少なくとも。 彼とキョウコの足取りは辿れないだろうな。 041久々利:困りましたね、どうしましょうか……。 042天真 :キョウコさんと、僕らと行き会ったあの時。 シキさん、露店商をしていると仰っていましたね。 043閏  :ああそうか。 虱(しらみ)潰しに探すとしても、露店街を探せばいいんじゃね。 044久々利:でも、まだ露店街にいますかね。 045閏  :いるだろ。 ああいう腐った性根の奴は、自分が手にしたモンを見せびらかすのが大好きだからな。 046天真 :あはは……。 でも、その。 自信家というか、好戦的ではありましたね。       彼の目的はどうあれ、僕らが訪ねてくるのを待っていても、それ程不思議ではないかと。 047昴  :……探そう。 僕とジュンは、それぞれで。 テンマとククリは一緒に探しなさい。       何かあったら必ず連絡するように。       あちらに攻撃の意思があった場合のみ、身を守る為なら、攻撃を許可する。 048久々利:……。 049天真 :……。 050閏  :あの野郎に会ったら俺に連絡しろよ! あのニヤケ面、一発ブチ込まなきゃ気が済まねえ! 051久々利:<苦笑する> はいはい、もー、血の気が多いですねえ。 052閏  :絶対だぞ、絶対だからな! お前らも気を付けろよ! 053天真 :ククリちゃん、ククリちゃん。 出掛ける前にちょっと。 054久々利:はいはい、どうされました? 055天真 :作戦、というか……。       浅慮(せんりょ)だとは思うので、所長やジュンさんには黙っていて欲しくて。 056久々利:はい? はい、まあ。 テンマさんは日頃思慮深い方だと知っていますからね。       その辺りは心配していませんよ。 057天真 :あはは……その。 拳銃ってもう一丁、お持ちです? 058久々利:はい、……はい!? <露店街裏、不法建築街の一室。> 059景織子:え。 アンタ、ココから出る気ないの? 060旭宇 :うん、なんで? 061景織子:なんで、って。 062旭宇 :あはは。 昔みたいにキョウコと二人旅、っていうのもいいけどね。       僕はここの暮らしが気に入ってるんだ。 物を売って日銭を得て、その日食う物を買って。       僕はキョウコとの旅か、その暮らし方しか知らないし。 063景織子:……生家、商家だったと。 言ってたわね、そういえば。 064旭宇 :あちらの方がどうしようもなかったさ。 馬で荷を引いて、物を売って。       その時々に愛人を作って、僕みたいなのが生まれてさ。       物を売っていたのか、愛想を売っていたのか、果たして。 はは。 065景織子:……。 066旭宇 :やはり帝都に住み続けるのは気まずいかい? まあ、知り合いも増えただろうしね。       どうしようかなあ、うん、この辺りは利便も良いし……神奈川の方ならそう変わらないかな。       キョウコは? どこか、行きたい所はある? 067景織子:……特には。 068旭宇 :ははは、本当に変わったねえ。       あの頃は同じ宿に二日と続けて泊まるのすら、嫌がったじゃないか。 069景織子:そうだったかしら。 <露店街。> 070久々利:……キョウコさんの事。 071天真 :ん。 072久々利:もっと何か、知っていたら。 変わったんですかね。 073天真 :どうしたんです、藪から棒に。 074久々利:あはは。 何となく、考えちゃって。 すみません。 075天真 :……。 076久々利:いつも、優しい方だと。 あそこまで強い言葉を使う方だとは、私、思っていなかったので。       びっくりしちゃって。 あはは、情けないですね。 077天真 :情けない事なんてありませんよ。       咄嗟に拳銃を持ち出すなんて、僕よりずっと勇敢だ、ククリちゃんは。 078久々利:……、勇敢なだけでは、どうにもなりませんね。 079天真 :はは……。 僕は、ククリちゃんの勇敢さに報いますよ。 次は大丈夫だから! 080久々利:……。 081天真 :……んん。 先日の火事の見回りの際、僕はキョウコさんとご一緒していましたよね。 082久々利:はい。 083天真 :えーと……ここだけの話にしてもらえますか? 恥ずかしい話だから。       あの時僕、キョウコさんと二人きりでゆっくり話すのは初めてで。       何の話をしていたと思います? 異性、女性の方へはどんな贈り物が喜ばれるのかと。       そんな他愛もない話をしていたんです。 084久々利:はあ……あ! もしかしてご予定があるのですか!? 085天真 :全く。 しばらくは予定すらなさそうだから。       お贈りするなら、キョウコさんか、ククリちゃんか。       どちらかかなあ、なんて考えていて。       ……話の折。 僕が、自らの想像で話の先々を手折ってしまう事を。       キョウコさんは笑っておられました。 086久々利:はあ……? 087天真 :その。 こう言ってしまっては、ご本人に失礼だとは思いますか……。       少しだけ、母のような人だな、と。 僕はそう思っていました。       僕が話す度に、笑う前に目を細めて、そうして話を聞いて下さるんです。       何かを是正する訳でもなし、否定する訳でもなし。 でも、そうやって。       そんな方が、ああして激昂して僕らに背を向けるのは、何か理由があるんだと思うんです。       ……なぁんて。 僕はそう思ってるよって、うん、それだけの話。 088久々利:……。 089天真 :……僕はまだまだ、キョウコさんとは関係も浅い。       そもそも、同性であるククリちゃんとは、感覚は少し違うのかもしれないけれど。 090久々利:いえ、その……。 仰られてる事は、わかります。       でも、母、<言い淀む> ……ああ、私は、歳の離れた姉のように、思っていたかもしれませんね。       そうですね。 まだ、決めつけるには早かったかも。 091天真 :そうそう、大丈夫。 まずはちゃんと、キョウコさんのお話を伺いましょう! <回想。泡影屋、店内。> 092景織子:レンゲちゃん。 093蓮華 :あれ、今日はキョウコちゃん一人? 珍しいな、どうしたの。 094景織子:誘いにきたの。 今度一緒に、ご飯食べにいかない? 095蓮華 :……ご、はん? 096景織子:うん。 ちょっと、ゆっくり話したくて。 097蓮華 :れ、レンゲと? ご飯? 本当に? 098景織子:う、うん。 ……何? 099蓮華 :……わあ。 わああ、人間のお友達にご飯誘われたの、初めてだなあ。 100景織子:人間? 101蓮華 :うれしい、嬉しいな。 何を一緒に食べるの?       お友達と、何を一緒に食べたらいいの? 102景織子:……まあ、喜んでくれてるのはわかったわ、よかった。 103蓮華 :だって。 レンゲとキョウコちゃん、絶対仲良くなれるもん。       ──同じ穴のムジナ、なんて言葉もあるくらいだ。 <回想ここまで。無法建築街の一室。> 104景織子:レンゲちゃん。 105旭宇 :ん? 106景織子:ああ、いや。 泡影(ほうえい)屋の。 107旭宇 :泡影屋? ああ、魔女がいるって噂は聞いた事あるかな。 親しいの? 108景織子:いえ。 109旭宇 :ふうん親しいんだ。 謝罪かい? それとも別れの挨拶でもしてくる? 110景織子:……いえ、何でもないの。 111旭宇 :そ。 でさ、しんみりしてる所悪いんだけど。       彼らキョウコの事探してるね。 どーする? 112景織子:え……え? 113旭宇 :窓、見てごらんよ。 <文鳥の鳴き声。> 114景織子:っ……! 115旭宇 :あれ、キミも文鳥持ってたの。       さっきからあの文鳥、ああして何度もこちらを覗き込んでいたんだ。 事務所の子かい? 116景織子:……。 117旭宇 :やっぱりそうか、利口なんだね。 ふうん、人間だけじゃなかったんだ。       失敗したな。 捕まえて丸焼きにでもするかい。 118景織子:やめっ、止めなさい! 119旭宇 :あはははは、冗談だよ!       まあいいや。 ……僕の事を、彼らに売る訳じゃないよね? 120景織子:しないわよ、そんな事。 121旭宇 :んーまあ、その言葉を信じるしかないんだけど。       <溜息> 追い払うしかないよなあ、はーあ、面倒だなあ。 122景織子:ギョクウ、やっぱり引っ越して 123旭宇 :<遮る> 追い払ってきてよ、キョウコ。 124景織子:……。 125旭宇 :追い払ってきて。 僕、ココでの暮らしが気に入ってるんだ。       キョウコも逐一干渉されるのは面倒じゃない? ね? 126景織子:……。 127旭宇 :僕。 いつでも彼らの情報売りに出せるんだけど。       短歌怪異専門、然るべき所に売れば結構いい値はつくと思うんだ。       でもそれはきっと、キョウコが嫌がる。 そうだろ? 128景織子:……。 <溜息> 129旭宇 :どーしても困ったら、僕も助けにいくからさ。 130景織子:来なくていいわよ。 私まで燃やされそう。 131旭宇 :そんな事しないよ! した所でキミは別に何ともないだろ? 132景織子:不快にはなるわよ、じゃあね。 133旭宇 :あ、待って! 134景織子:何。 135旭宇 :先にさ、僕の食事を作っていってくれない?       久しぶりにキョウコの手料理が食べたいな。 ダメ? <無法建築街、入り口付近。> 136閏  :この辺りなんだな? よーしよし、戻ってこい。 よくやった。 137昴  :やはり、露店街付近に居(きょ)を構えていたか。 138閏  :へーこりゃ、すげえな……。 部屋が積み木みたいになってら。 139昴  :法の手が入っていなくて。 戸籍を持たない人間や流れ者が、集まって暮らしているらしい。       体が動く者は露店街で得た金で暮らしたり、不自由な者の住まいを増設していると。 140閏  :言葉はアレだがまあ、助け合って暮らしている移民街、と。 ……どうする? 141昴  :厄介だな。 踏み込むのは難しい。 142閏  :かと言って警察に任せる気もねーんだろ? 143昴  :悪いな。 144閏  :ま、相手さんが怪異を使えるのはこの目で見てる。 的外れではないんじゃねえの。 145昴  :……。 146閏  :誘き出す、ブン殴る、説得する。 これでいいだろ。 147昴  :ああ、そうだな。 テンマとククリは事務所に返すか、 148閏  :なあ、所長。 149昴  :ん。 150閏  :アンタ、キョウコさんとはどういう付き合いなんだ。       事務所の創設前からって話だったよな。       なのに、どうしてそんなにあの人の事知らねえんだ。 151昴  :……当時の僕が聞かなかった、聞く余裕がなかったからだ。       昔、僕が間違えた時に。 助けてもらったんだ。 152閏  :警察にいた頃か? 153昴  :そうだ。 154閏  :大失敗、ってヤツか。 155昴  :ああ。 大勢死んだ。 書面上は事故という事になっているがな。 156閏  :……。 157昴  :軽蔑したかい。 158閏  :……いや。 俺と似たようなモンだろ。 159昴  :全く違う。 犯人確保の為にと焦った、僕の未熟さだ。 160閏  :そうか、わかった。 ひひひ、辛気臭え顔しやがってよお。       でもようやく聞き出せたな。 161昴  :もう聞かないのか? 162閏  :これ以上聞いて何になるよ。 そういう辛気臭え話は自分の分だけで十分だ。       あちらさんも文鳥に探らせてんのはわかってんだろ、こっから別行動な。 163昴  :わかった。 何かあれば── 164天真 :<無線、小声> ──ジュンさん! 今、大丈夫ですか! 165閏  :お? テンマか、聞こえてるぞ。 どうした。 166天真 :──今、キョウコさんとククリちゃんが接触してます。       露店街で見掛けて、ククリちゃんが声を掛けました。       露店街外れの、廃工場に向かってます! <露店街外れ、廃工場内。> 167景織子:声を掛けてくれてありがとうね。 食事の買い物だけのつもりだったんだけど。       まさか、探して頂いているなんて思わなかったわ。 ちょっと驚いちゃった。 168久々利:……あ、あの……。 169景織子:私からは何もしないわ。 ちょっと埃っぽいけど、座れる? 170久々利:……。 171景織子:……ハンカチ。 これ敷いて座りなさい。       ここね、随分前から使われていない廃工場なの。       もう誰も来ないでしょうからゆっくり話せる── <久々利、景織子に銃を突きつける。> 172久々利:今、あなたにその気がなくても。 その気になればすぐに、怪異は使えますよね。 173景織子:……そうね。 もっと甘えん坊だと思ってたけど、利口だわ、あなた。       ジュンみたいに感情的になる事も殆どない。 スバルみたいに甘い訳でもない。       超記憶症候群、だっけ。 関係してるのかしらね。 174久々利:……。 175景織子:……撃てる? ククリちゃん。 176久々利:……。 177景織子:ねえ! 私と話した事、遊びにいったお店! 全部! あなた覚えてるんでしょう!       あなたに私が殺せるの! 178久々利:撃てます! 私、私だって! 天之川探偵事務所の所員なんだから! 179景織子:……そう。 180久々利:撃てます、 181景織子:うん。 182久々利:撃てますから、 183景織子:うん。 184久々利:違うって、全部何かの間違いだって、言って下さい。 185景織子:……。 186久々利:誤解だって、言って下さい。 187景織子:……何も、間違えてないわよ。 188久々利:じゃあ。 189景織子:スバルが。 調査を間違えて、人を糾弾した事があった? 190久々利:……。 191景織子:ジュンが。 間違えて人に手を出した事があった? 192久々利:……。 193景織子:あなたもわかっているでしょう。 ちゃんとわかっているでしょう。       あの二人は絶対に、そんな事をしないって。 194久々利:わかってますよ、 195景織子:この放火、天之川探偵事務所の調査内容を把握しながら 196久々利:ちゃんと! わかってるから! 197景織子:事件を起こせたのは私しかいないって! 198久々利:だからあなたに銃を向けているんでしょう! <空砲の音。> 199景織子:な、 <銃声。景織子の後ろ太腿付近に着弾する。> 200景織子:あッ!? 201天真 :騙し打ちのような真似をして、申し訳ない。 202久々利:でも私達、これしか、これしか思いつかなかったんです。 203天真 :キョウコさんに怪異を発動させずに確保する方法。 204景織子:……っ、 205久々利:私がキョウコさんの気を引いて、 206天真 :僕が後ろから発砲する。 207景織子:…… <笑いながら> そう。 208天真 :キョウコさんに何か事情がおありなのは、僕ですらわかります。       ね、みんなで考えましょう。 きっと今までもそうなさってきたんでしょう、っ!? <天真、凍る手元を見て拳銃を放り投げる。> 209天真 :な、なんで、凍っ……!? 210景織子:上手い事考えたじゃない。 ねえ、ククリちゃん! 211久々利:え、あっ!? <景織子、天真の拳銃を拾い上げて久々利の米神に拳銃を押し付ける。> 212景織子:そうね。 普通の人間だったら、太腿ブチ抜かれたら。       痛みで怪異だどーのこーのやったり、拳銃奪ったり。       こんな風に、人質取ったり。 できやしないんでしょうよ。 213天真 :ククリちゃん! 214景織子:動かないで! そう、こういうのが様式美よね。 面白くなってきたじゃない!       この子の頭、吹っ飛ばされたくないなら! 大人しくなさい! 215久々利:な、なんで、太腿! 216景織子:ええ当たったわよ、痛かった。 多分貫通したわよ、すごく痛かった。 今は何て事ないけど。       テンちゃんも! 拳銃とその手、凍らせようと思ったのに。 反射神経も良いのね。       本当に、二人とも良い子ね。 甘っちょろいガキだと思っていたんだけど。 217天真 :……。 218景織子:趣味じゃないけど、いいわ。 種明かしくらいはしてあげる。 手切れ金の代わりよ。 219久々利:手切れ金……。 220景織子:人魚の肉を食べると。 不老長寿になれるって話、聞いた事ない? あれってね、本当なのよ。       怪我だってすぐ治る。 拳銃で撃たれたくらいじゃ、死ねない。 221天真 :は。 222景織子:もう覚えてないけどね。 昔々、うーんと昔。 食べたのよ、私。 223久々利:……キョウコ、さん? 何を言って、 224景織子:キョウコって名前も四つ目よ。       長く生きてるとね、同じ名前を使って一ヵ所に留まってると不便で仕方ないのよ! 225天真 :昔、え……? 226景織子:まだわからない? 思ってたより学がないのね! 想像力がないって言った方がいい!?       八百比丘尼(やおびくに)! 不老長寿、死ねない存在! 怪異云々以前に、私はそれなのよ! ====================================================== 227久々利:……死ねない、んですか……? 228景織子:そうよ! ああ面倒臭い、もう全部面倒臭い、面倒なのよ私は! もう全部!       生きるのが面倒なの! あんな馬鹿をして、夫が死んで、息子が死んで、孫も、ひ孫も!       もうみんな死んだのよ!       ……あの子ね、ギョクウ。 息子みたいなモノなのよ。 私が拾ってあげた息子みたいなもの。       ちょっと我儘だけど、全部、何でも叶えてあげたいって。       なのに、もう! 何なのよアンタ達は! 面倒なのよ!       呼んだんでしょ!? ジュンも、スバルも! ねえ! 229天真 :キョウコさ 230景織子:だって、そう、本当に息子みたいに思ってたの。       夫と、息子と、孫と、みんなが入る墓を守って、でもあんなの唯の墓石よ、あの子達じゃないの!       嫌になって逃げて、ギョクウに会った時。 息子が帰ってきてくれたって、私思ったのよ。       だって私みたいな馬鹿が、他にいるだなんて思いたくないじゃない!       もしかしたら、何かの間違いで! 私が勘違いしていただけで!       だって、だって私の家族が、産んだ子から繋がった血が、途絶えていなかったって! 私は! 231天真 :……。 232景織子:……違うって、血はとうに絶えてるって、わかってるのよ。 戦争でね。       もう今の私は、ギョクウか、あの捨ててきた墓石に、縋るしなないのよ。       あの事務所なら、アンタ達なら。 殺されても悪くないか、って。       ……殺してはくれないか、って。 期待、したんだけどね。 233天真 :本当に殺されたいのですか。 そうして大切な存在があって尚、殺されたいのですか。       僕らはまだあなたの事を知らない。 僕はまだあなたに頂いた沢山を返していない! 234景織子:……。 235天真 :何故あなたは! 人を害してまで僕らと対峙しているのですか!       あなたのこれからは何かに縋るしかない生だと、本当にそう思っているんですか! <硝子の割れる音。> 236昴  :あの青年に僕らの情報を掴まれて、敵対する必要があった。 そうだろ? 237景織子:……っ、 238天真 :スバルさん! 239昴  :あの露店街の裏で、情報屋を名乗る人間を見つけて話を聞いた。       よく頑張ったな。 怪我は無いかい。 240天真 :はい、でも、 <景織子を見やる> 241昴  :キョウコ。 ククリを離してやってくれないか。 242景織子:……。 243昴  :お前の話は、僕が聞く。 掴まれている情報についても話を聞かせて欲しい。       その後の対処は僕がしよう。 どうだ。 244景織子:……。 <景織子、久々利を離す。> 245久々利:あの……。 246景織子:もう用はないわ。 拳銃だけ借りる。 行きなさい。 247久々利:キョウコさん、 248昴  :ククリ。 拳銃は一丁だけの約束だろう。       テンマ、キミには拳銃を与えていない。 二人とも謹慎だ、事務所に帰りなさい。 249天真 :で、でも。 250昴  :帰りなさい。 251久々利:……テンマさん、行きましょう。       勝手に持ち出して、すみませんでした。 252天真 :拳銃は、もう一つ持ち出そうって僕が言い出したんです、 253昴  :わかったよ。 事務所に着いたら、反省文を書いて待っていなさい。 254天真 :……はい。 <天真、久々利、立ち去る。> 255昴  :……さてと。 彼、ギョクウと言ったか。 大金を叩いて僕らの情報を買ったそうだ。       青年に僕らの情報を掴まれて、敵対し僕らの情報を取り戻そうとしていた。       これは、どうだい。 256景織子:……。 257昴  :違っていないようだな。 息子のような、と聞こえていたが、彼の話だな。 258景織子:……私は、そう、思い込みたくて、 259昴  :そうか。 だったら何だ? 260景織子:は、 261昴  :俺には、お前がそう思いたかった理由がわからない。       俺はお前じゃない。 そうして思い込む気持ちがわかるとは、言えない。 262景織子:……。 263昴  :……何かの過ちで、失ったものが大きくて。 縋りたいものがある、と言うなら。 わかる。       俺はそれが、お前だった。 たまたま縋ったのが、お前だった。 264景織子:……そうね、ええ、そうね! 思えば大きな口、叩くようになったものね! 265昴  :俺が警察に赴任したばかりの頃。 266景織子:郊外の漁村を壊滅させたあの火事! 267昴  :俺の怪異が村一つ滅ぼした。 268景織子:何十人と死んだあの火事! 269昴  :詫びて死ぬ事も逃げる事もできない俺に、声を掛けたのがお前だった。 270景織子:たまたま居合わせただけの私に、惨めに縋るだけだったアンタが! 271昴  :自分は何も知らないと、お前がそう言ってくれたから 272景織子:退屈しのぎのつもりだったのよ、私は! 初めから! 273昴  :だから俺は、もう一度、改めて、人を助く道を選んだ。 274景織子:何百年と生きて退屈で! 275昴  :人を傷つけて生きる自分が嫌いで、 276景織子:みんな死んでいくのを見ているだけの自分が大嫌いで! 277昴  :だから、大勢を助く俺になりたかった。 278景織子:だから、退屈を紛らわせるのに、退屈しのぎに! あの事務所が丁度よかった! 279昴  :そうだな。 知らん顔をしているようで、ずうと俺達を見ているお前が、俺にも丁度よかった。 280景織子:そう! 丁度よかった、ただそれだけだったのよ! 私には! 281昴  :丁度よかったから、必要になった。 282景織子:……。 283昴  :丁度いい。 人に仇成す人知を超えたそれを追うのに。 人の生活を脅かす理不尽を断ち切るのに。       俺を見ていないようで見ていてくれる。 だから、俺にはお前が必要なんだ。 284景織子:……そう、そうよね! そういう男よね! アンタは! 285昴  :ああ。 ──すまない。 俺はドジで不器用な、ただの破壊神なんだ。 <落雷の音。> 286昴  :そういう男だから。 俺が絶対に引かないのは、わかっているだろう。       次は、当てるぞ。 287景織子:……つ、使うの、使うつもりなの、怪異を、私に……? 288昴  :神鳴り、稲妻。 雲と地上との間の放電によって、光と音を発生する自然現象の事。       俺はそれを意図して呼ぶ事ができる。 短歌を介して呼ぶ事ができる。 できるようになった。       俺の怪異は、お前の水を扱う怪異と。 相性が悪い事くらい、わかるだろう。 289景織子:……それで何十人と焼き殺して、村一つ焼いて、泣きべそをかいてたアンタが。       私に、その怪異を使うの。 290昴  :俺はドジで不器用で、その上自分勝手なんだ。 お前が俺の話を聞き分けないのが悪いんだ。 291景織子:っ、滅茶苦茶言わないでよ! 折角助けてやったのに! 292昴  :ん。 退屈しのぎ、ではなかったのか? 293景織子:ぐ……! 294昴  :俺に言わせれば、探偵所から逃げ出したお前の方が滅茶苦茶だ。       今まで黙ってついてきていた癖に。 やっと我儘を言ったと思えば、これか。 295景織子:はあっ!? 296昴  :次は俺の我儘だ。 二度と一人になんてなるものか。 一人になんてするものか。       お前が、聞き分けろ。 297景織子:……わかっ、……ああ、もう! わかってんのよ!       アンタが出しゃばったら、私に打つ手がない事くらい!       だからわざわざククリちゃんを……ああもう! 好きにしなさいよ!       面倒臭い! もう全部面倒臭い! 298昴  :ん。 気が済んだか。 299景織子:済んだわよ! 300昴  :そうか、何よりだ。 帰るぞ。 301景織子:……はあ!? 302昴  :やっぱりお前、声がデカいな。       事務所に帰るんだ。 主犯じゃないお前をどうにかした所で、この件、どうにもならないだろ。 303景織子:いやっ、え、 304昴  :ククリが酷く心配していた。 あの通り、テンマも。 ジュンは、……あれは心配の裏返しなんだろう。 305景織子:……。 306昴  :お前が退屈しのぎだったとして。 俺達にとってお前は、そうじゃない。       今、一緒に生きているんだ。 それ以上もそれ以下もない、何かを与える事すらできやしない。       お前が何か得たいなら、お前が勝手に、探せばいいだろう。 ──僕達は、力を貸すぞ。 307景織子:……わかったわよ、もう……。 308昴  :九尾の彼はジュンが追ってる、 309景織子:え、 310昴  :だから心配は 311景織子:<遮る> ダメ、ジュンじゃあの子に敵わない! 312昴  :は? 313景織子:あの子は、私と同じで── <無法建築街。> 314旭宇 :八百比丘尼。 でも僕はキョウコとは違って、僕自身が人魚の肉を食べた訳じゃない。       その肉を食った人が祖先にいるらしくて。       みーんな気味悪がって、まあ、そもそもが妾の子だからね、嫌われていて。       僕にはキョウコしかいない、って訳。 とんでもなく美談だろ? 315閏  :やお……? ああ、絵本か何かで見た事があるぞ。 不老不死の人魚の肉、か。 316旭宇 :そう。 殺された事はないけど、怪我はすぐに治る。       簡単には死なないんじゃないかな、僕も。キョウコも。 317閏  :……なぁるほど。 だから家族も住所も、嘘を言ってた訳だ。 318旭宇 :どーする? 立派な刀を持ってるみたいだけど、そういう事だから。 キミは分が悪いんじゃない?       僕、キョウコを迎えに出ただけだからさ。 また今度にしない? 319閏  :お前、歳はいくつだよ。 320旭宇 :歳? 二十八になるけど。 321閏  :歳を数えられるって事ぁ、生きてはいる訳か。 322旭宇 :うん? うん。 変な事を聞くね? 323閏  :狐だ何だ言ってたからよ、てっきり人間じゃねえのかと。 324旭宇 :……ふうん? 人間じゃなかったら、何が起きたんだろう? 325閏  :俺が怪異でどーにかできた。 326旭宇 :じゃあ人間じゃない。 僕の手の内、怪異は割れてるんだ。 キミも使ってよ。       事務所で、所長さんがキミが怪異を使うのを止めてたね。 アレなんで? 327閏  :……俺の怪異は、暇(いとま)を作る。 <抜刀する> 328旭宇 :……刃、付いてないじゃん。 329閏  :もっとイイモンがついてくるんだよ。       ──「嘆けとて 月やは物を 思はする」 330旭宇 :「御垣守(みかきもり) 衛士(えじ)のたく火の 夜は燃え」 331閏  :「かこち顔なる わが涙かな」 332旭宇 :「昼は消えつつ ものをこそ」── 333閏  :<旭宇の後ろに回り込んでいる>       お前、どこ見てんだ? 334旭宇 :え、っ!? <旭宇、閏に後ろから蹴り飛ばされる。> 335旭宇 :……いったいなあ。 でもわかった、時間操作か! 336閏  :おお、ご名答。       生きてる、普通の人間相手じゃ、時間を狂わせちまうからな。       でもお前は自称不老不死。 ちっとくらい時間を狂わせた所で、何とも── 337旭宇 :<遮る> そうだね僕は構わないよ。 でも、キミは? 338閏  :──……。 339旭宇 :ふ、ふふ、ふふふふ。 キミの生きてる時間は? どうなるの?       所長さんが止める訳だね。 へええ、成程。 先天性かあ、羨ましいなあ。 340閏  :……あ? 341旭宇 :持って生まれた怪異なんだろ? 時間を狂わせる怪異なんて、聞いた事がない。       参ったな、僕みたいな付け焼刃の怪異じゃ敵いそうにないけど。       手が出ないのはキミも同じだね。 ね? そうだよね?       八百比丘尼の僕相手じゃ、時間を狂わせて僕を殺すにしても。       先にキミの頭が狂うんじゃない? 342閏  :待て、お前、何を言ってる? 343旭宇 :わからない? キミが時間を止めながら僕を殺すのは手間だし、       僕には狐火を呼ぶ暇はなさそうだし── 344閏  :そうじゃねえ! 怪異が生まれつきだの、先天性だの! 345旭宇 :あれ? 知らないの?       キミらがキョウコと一緒に歩いていた、あの露店街。       あそこにはね、時々短歌怪異がついた品が売ってるんだよ? 346閏  :……。 347旭宇 :僕のはね、この耳飾り。 キョウコにも貸してあげてたんだ。       だからキョウコは、僕の怪異を扱う事ができた。       キョウコはほら、あのよくつけてる首飾り。 見た事ある? あの綺麗な青いヤツ!       ずっと昔に旦那さんからもらったんだって! 348閏  :……成程なあ。 そうか、短歌怪異が、売ってんのか。       いい話が聞けた、もう十分だ。 349旭宇 :十分だから、どうしようって? 350閏  :お前が気に入らないから、ブン殴る。 351旭宇 :<笑う> さっき蹴飛ばしたじゃないか。 352閏  :あんなモンで足りる訳ねえだろ。       火事だなんだ騒ぎ起こして、それも人様にやらせてよ。 353旭宇 :キョウコが自ら手伝ってくれたんだって。 354閏  :大方手前が脅しつけたんだろ。 キッチリ尻拭い、してもらうぞ! <閏、旭宇に殴りかかる。> 355旭宇 :っと、あははは! おっかないな、……あ? 356閏  :おー、いいなこりゃ。 よく見てりゃ、怪異自体が木っ端微塵になるのか。 357旭宇 :……何した? 僕、キミの事、燃やすつもりだったんだけど。 358閏  :馬鹿野郎、この辺り他の連中も住んでるんだろ。 火が移ったらどうする。 359旭宇 :だから何? 住んでるのは流れ者ばかりだ、住む場所が無くなるのも慣れてるよ。 360閏  :あ? 361旭宇 :いい、いい。 キミが燃やせないなら、建物ごと燃やせばそれで済むよね。 362閏  :ばっ、お前! 363旭宇 :「御垣守(みかきもり) 衛士(えじ)のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ」。 <閏、咄嗟に札をばら撒く。> 364旭宇 :……あれ。 365閏  :危ねえ……! お前! 馬鹿野郎! 関係ねえヤツ巻き込むんじゃねえ! 366旭宇 :へー! この札か、いいね、いいね! こんなのがあるのか! すごい! 367閏  :……おう、魔女様お手製でよ。 ご大層な数持たせてもらったが、今ので使い切っちまった。 368旭宇 :あれ、泡影屋? あの店燃やさなかったっけ。 369閏  :手前……! 人様の命も生活も、何だと思ってんだ! <殴りかかる> 370旭宇 :あはは! 僕、あんまり物事を考えるのが得意じゃなくてさ!       キミも僕と似てると思ってたけど、違ったか! 371閏  :お前みたいな自己中野郎と一緒にすんな、反吐が出る! <昴、駆け付ける。> 372昴  :ジュン! 373閏  :所長、例の札出しとけ! あの野郎やっぱりそこかしこ火をつけるつもりだぞ! 374旭宇 :考えたのは僕だけど、火をつけてたのはキョウコなんだってばー。 375閏  :この野郎……! 376昴  :ジュン。 二本先の通りにキョウコを待たせてる。 帰りなさい。 377閏  :は!? 378昴  :彼は俺が説得する。 テンマとククリも、もう事務所に帰らせている。 379閏  :でも、 380昴  :怪異を使う。 お前は、帰りなさい。 381閏  :……おいおいおい、正気かよ。 382昴  :ああ。 383閏  :…… <溜息> おい、お前! 384旭宇 :んー? どした? 話、ついた? 385閏  :……お前、その……危ないと思ったら、ちゃんと逃げろよ! 386旭宇 :はぁ? 387閏  :俺はちゃんと警告したからな! わかったな! 全く……! <閏、立ち去る。> 388旭宇 :……変な人だね? 389昴  :いい子だろう。 言葉はああだが、優しいんだ。 390旭宇 :ふうん。 それで? <間。> 391昴  :キョウコは、事務所に帰らせたよ。 392旭宇 :……帰った? 393昴  :ここの情報屋に話を聞いた。 キミが大金を叩いて買った情報について。       それで彼女を、脅していたんじゃないのかい。 394旭宇 :だーかーらー。 頼んだらキョウコが叶えてくれただけだって。       人聞きの悪い事ばかり言わないでよ。 395昴  :彼女が八百比丘尼と呼ばれる、不死の存在だという事。       キミがそれと似た存在である事。 似た存在であるが故に。       幼い頃家族に捨てられた、キミと同居していた時期がある事。 ひとしきり、聞いた。 396旭宇 :……お喋りだなあ。 397昴  :俺が無理に聞き出したんだ、悪く思わないでくれ。       そしてだ。 俺はキミに、キミが掴んだ俺達探偵事務所の話を口外しないと、約束してほしい。 398旭宇 :……。 399昴  :口外さえしないでいてくれたら、キョウコと親交を持つ事は 400旭宇 :<遮る> 嫌だね。 401昴  :……どうして。 402旭宇 :どうして? 折角面白そうなネタを拾ったんだ。       どう使うかは、僕の自由だろ? 403昴  :短歌怪異専門の事務所でな。 その情報を好き勝手使われたら、都合が悪いんだ。 404旭宇 :そっか。 僕には関係ないかな。 405昴  :交渉決裂か。 ……残念だよ。 <抜刀する> 406旭宇 :そうこなくちゃ。 所長さんも、刀を使う怪異なのかな? 407昴  :いや、俺はちょっと訳が違うんだ。 でもキミにはこの方がいいだろう。 408旭宇 :なんで? 何でもいいけど。 409昴  :俺も人を殺したくはないからな。 410旭宇 :あはは! そっか、そっか。 <周囲に火が燃え上がる。> 411旭宇 :その傲慢が、あなたを焼き殺すんだろうさ。 <昴、拳銃を取り出し発砲する。> 412昴  :<舌打ち> 逃げ足が随分、早いな。 413旭宇 :び……っくりした! ええ!? 拳銃持ってるなら、先に言ってよ! 414昴  :いや、すまない。 不意打ちの方がいいかと思ったんだ。 415旭宇 :あははは! 何、人を殺したくないって言ってた割に本気だって! よーくわかったよ! 416昴  :あまり褒められた話ではないんだがな。 仕方ない。 417旭宇 :いやいや、僕もその方が楽しめるし── <旭宇の視界が暗転する。> 418蓮華 :なんだぁ。 どれほど立派な九尾狐狸(きゅうびごり)かと思えば、まだ子狐じゃあないか。       けれど随分、懐かしい匂いがする。 ははあ、お前海の向こうの生まれなのかい。 419旭宇 :……あ? 420蓮華 :札を追ったはいいが、とんだ藪蛇だったな。       さてと、坊。 他の人間への悪さだったら、見逃してあげたんだけどねえ。       ──私設アマノガワ探偵事務所。 人知の及ばぬ何かしらを追っている、仲睦まじい探偵事務所。       あの子達はダメだ。 可愛い可愛い、私の雛の命の恩人。 そして、馳走の巣窟だからなあ。 421旭宇 :誰、誰だ、どこにいる!? 422蓮華 :我が身可愛さで他者を使うお前程度の悪夢はね、そう美味いモンじゃないんだ。       他者を使い、起きている間に一時(いっとき)の満悦を得る。 味がコロコロ変わっちまうんだ。       可哀想に。 真摯に生きてさえいれば、その悪夢も我々が食ってやれたものを。 423旭宇 :満悦……? 僕がか? 僕の話をしてるのか? 424蓮華 :悪夢は食い切ったよ、ご馳走様。 夜明けの時間だ、子狐ちゃん。 425旭宇 :おい……おい! 僕の話を聞けよ! 426蓮華 :你早(ニーザオ ※中国語で「おはよう」)。        ──悪い事をしたら、父上に雷を落とされるのが、人の子というものだ。 427昴  :「憂かりける 人を初瀬(はつせ)の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを」 <落雷の音。> 428旭宇 :ギャッ!? 429昴  :足を止めて、随分悠長だな。 ──加減した。 次は、容赦しないぞ。 430旭宇 :……あー、ははは。 わかった、もーわかった。 降参、参りました。       感電してるのか、これ、喋りずらい。 コレで手加減してるの? やばぁ。 431昴  :燃やせるぞ、俺は。 その気になれば村の一つ二つ。 キミのように燃やすものを選ばない。 432旭宇 :わーかったってば。 おっかない顔しないでよ。 もう抵抗はしないしない。       で? 僕にどうして欲しい訳? 事務所の話をしない、だっけ? 433昴  :謝れ。 キョウコに。 434旭宇 :……なんで? 435昴  :放火に加担させた事。 悪戯に彼女の安寧(あんねい)を弄んだ事。 436旭宇 :<鼻で笑う> 437昴  :謝れ、キョウコに。 438旭宇 :それを指図される筋合いはない。       違うか? キョウコの安寧は全て彼女の嘘の上に成り立っていた。       僕のこの悪戯如きで崩れる安寧ならその程度だ。       僕はもう子供じゃない。 キョウコが守ってくれるだけの、子供じゃない。 439昴  :──……。 440旭宇 :なあ、何故僕に指図する? 僕とキョウコのこれまでを全て知っての指図か?       キョウコが僕と過ごした全てを事前に明かしていたとは思えない、 441昴  :キミは。 俺がキョウコへ、放火を糾弾した際の顔を見たのか。       キミは、キョウコを糾弾したククリに、怒鳴り返すキョウコを見て何も思わなかったか。 442旭宇 :……。 443昴  :あれを見て何も思わないのであれば。 成程、俺達やキョウコとは、違うんだろうな。 444旭宇 :もう、いいよ。 いい。 みっともない。 その代わり一つ伝えてよ。       ……あれは、いつの話だったかなあ。 <景織子のみ回想。旭宇と出会った日の言葉。> 445景織子:──シイ、シューユー…………この字で、シューユーと読むの?       ふうん。 海の向こうの言葉は、いつになっても難しいのね。 446旭宇 :失敗したなあ。 多分、ほんのちょっとの嫉妬だったんだ。 447景織子:アサヒに、ソラの字。 こんな素敵な名前、捨てるなんて勿体無いじゃない。 448旭宇 :ずっと思っていたんだ。 彼女、永遠と生き続けるには、性根が優しすぎるんだよ。 449景織子:朝のぼる太陽、その光、空の字。 素敵な字ね、この国の言葉で読めばいいわ。 450旭宇 :だから、僕がいれば丁度いいと思った。 それだけなんだよ。       あなたがいたから、僕がいたんだ。 僕の名前を知っているのは、今はあの人だけだ。 451景織子:ギョクウ。 ね、今日からそう名乗りなさいな。       今までがどうあれ、ご両親が下さったものをむざむざ捨てる事はないわ。       私、面倒を見てあげる。 あなたが生きていけるようになるその日まで。       気にしないでいいのよ。 私の罪滅ぼしでもあるの。       勝手よね、そう、私って自分勝手だから。 私と一緒にいらっしゃい。 452旭宇 :母のようなあなたに会えて、僕はとても幸せだったと。 453昴  :……絶対に、伝えない。 コブ付きはゴメンだ。 454旭宇 :<笑う> そっか。 残念だ、バチが当たったかな。 <落雷の音。> 455閏  :……おう。 456景織子:……膨れっ面しちゃって。 本当に可愛くないわね。 457閏  :は、 458景織子:アンタを待って帰れって言われたのよ。 ほら、とっとと歩きなさい。 459閏  :あ、アンタなあ! こんだけ大騒ぎしといて何だよ! その態度! 460景織子:うるさいわね、私今虫の居所が悪いの。 凍りたいの? 461閏  :は……はあぁ!? 462景織子:冗談よ。 もう間違っても怪異向けたり、しないわよ。 463閏  :お、 464景織子:悪かったわね、手間掛けたわ。 疲れたからとっとと帰りましょ。 465閏  :……。 466景織子:……何よ。 467閏  :……アンタ、そっちが素か……? 468景織子:そうよ。 何か文句あんの。 469閏  :……ひひひ。 そっちの方がずっと取っ付きやすくていいわ。       不老不死だっけか? 長い事生きてんのか?       って事ぁ随分歳誤魔化していっでえ!? <景織子に蹴られる> 470景織子:馬鹿言ってんじゃないわよ糞ガキが。 疲れたって言ってんでしょ。 471閏  :へーへーわかりましたよ、 <落雷の音。> 472閏  :……今の、雷。 473景織子:……行きましょう。 474閏  :なあ、おい、姉さん! あの雷スバルさんの怪異じゃねえのか!       あの野郎の事、まさか── 475景織子:……。 476閏  :……、わかった。 騒いで悪かったよ、帰ろう。 477景織子:ええ。 478天真 :──今回のキョウコさんの行動はお咎めなし、……しばらくしてスバルさんにお聞きしたのですが。       そもそも、警察や他所へは報告自体がされていないそうです。       あの九尾の彼、シキさんについても。       スバルさんからは「逃げられた」と、ただその一言でした。 <泡影屋。> 479景織子:……レンゲちゃん。 480蓮華 :あー、キョウコちゃん! 481景織子:お店、ちょっと雰囲気変わったわね。 482蓮華 :うん、うん! 新しくしてみたんだぁ。 どうかな?       キョウコちゃんが一番最初のお客様だよ! 483景織子:……ごめんね。 484蓮華 :え。 なんで謝るの? どうしたの? 485景織子:お店…… 486蓮華 :ああ! いいのいいの、そんなのは!       魔女ならね、このくらいの修復は何でもないからねぇ。       それに──形あるものはいつかは壊れる、それが早いか遅いかなのさ。 そうだろ? 487景織子:えっ。 488蓮華 :しかし火をつけた張本人が、ああして慌てていたのは傑作だったな。 なあ?       人の子はね、そう、単体では脆いんだ。 しかし複数だからこそ、脆くなる事もある。       物のように、この店のように、あり続けるか、壊れるか。 そんな簡単な話ではない。       心の機微(きび)など、簡単に判じる事はできないモンさ。       失敗して学べばいい。 わかるよな? 489景織子:……。 490蓮華 :そんな不思議そうな顔をしなくてもいいだろぉ。       言った筈だ。 同じ穴のムジナ、だと。 491景織子:……食事、私がご馳走するわ。 492蓮華 :ケイタくんのお店の餡蜜でいいからね、あははは。       ──今回はいい悪夢だったからなぁ。 ご馳走様。 493天真 :──キョウコさんは解決の翌日昼すぎから、何事もなかったかのように業務に復帰されました。       ……それでよかったと、思います。 今回の発端、理由、九尾の彼の存在。       これから関係を重ねるうちに、詳細はお聞きできるだろうと。 僕は考えています。 <天之川探偵事務所内。> 494久々利:キョウコさん! 495景織子:ククリちゃん。 おはよう、ご飯は食べた? 496久々利:た、食べました、私の事より! 大丈夫なんですか!? 497景織子:流石に少し疲れたからね、休ませてもらっていただけよ。 498久々利:よかった……朝食におられなかったので、私心配になって! 499景織子:ごめんね。 怖い思いを、させたわね。 500久々利:いいんですそんなのは! も、戻ってきてくれたからぁ……! 501景織子:もー、良い子ね、あなたはとことん。 でも。 <久々利の両頬を手で挟む> 502久々利:にゅっ!? 503景織子:そんな良い子で。 この先やっていけると思わない事よ。       でもアンタ、可愛いから。 女の生き方教えてあげるわ。 504久々利:ひゃ!? ひゃ、ひゃい……。 505景織子:よし。 ……うんとうんと可愛いから、大事にしてあげるわ。 あなたも、みんなも。       アンタ達と縁を切ればどうにかなると思ってた。       でも、レンゲちゃん。 あの子、私の事わかってた、勘付いてた。       あなた達が私を探さなくても、どうにもならなかったのよ。       だから、嘘はもうおしまい。 本当にごめんなさいね、困らせて。 506久々利:きょ……キョウコさぁん、 <泣き出す> 507景織子:泣かないの、大丈夫。 もうどこにも行かないから。       置いていったり、しないからね。 508天真 :──……正直な所。 ものすごーく、気になってはいるんですけどね。       しかし! 心に沿うという事は即ちその方の生活に沿うという事。       慮(おもんぱか)る、という事は、紳士への第一歩なのです。       そして僕は。 紳士の卵であると同時に、作家の卵でもございます。       一を得て十を成すのは、作家の特権ですから。       しっかり、今回の事件も書き残しておこうと考えておりますよ。 509閏  :全く。 ただの家出話が、どうしてこうも大袈裟になったんだよ。 510久々利:もー、ジュンさんたらだらしない! しゃんとして下さい!       私達は反省文にてんてこ舞いだというのに……! 511閏  :お前ら反省文書くの得意だろ。 512久々利:人を不良みたいに言わないで下さい! 513閏  :拳銃持ち出したんだと? テンマ。 やるじゃねーか。 514天真 :ぐ……まあ、その、たまのヤンチャの一環ですよ……。 515閏  :ははは! いい、いい。 家出の方がよっぽど面倒だわ。 516天真 :別に、いいんじゃないですか。       歳をとればワガママは難しくなる、そういうものではないですか。 517久々利:そうですよ。 普段あんなにお世話になっているんですから、今回くらいは。 518閏  :へーへー聞き分けのいいこって、……お前らソレ、文鳥に何食わせてんだ? 519天真 :これは牡蠣の殻を砕いた物ですよ。 僕のブンちゃんが好物らしくて! 520閏  :お前文鳥にブンちゃんって、そのままじゃねえか。 521久々利:私のセシリアちゃんは初めてなんですけど、よく食べますね、これ! 522天真 :でしょ、でしょ! 調べたんですよ僕! 523閏  :さいですか、そちらさんはまあ洒落た名前で。 よし、ピー助ももらってみるか? なあ? 524天真 :文鳥にピー助って……。 525閏  :うるせえな! いいだろ可愛いだろ!       で、ワガママが難しいらしいお二人はどこ行ったよ?       また家出なんてされちゃたまらねえぞ。 526久々利:ま。 野暮ですねえジュンさんたら! 今、お部屋でお話されていますよ。 527天真 :──永遠に生き続ける事。 僕にとって途方もないそれは。       はたして幸福なのでしょうか。 不幸、なのでしょうか。       僕の眼前で、ああも必死に終わりを求めていた彼女の言葉が、       薮から棒な八つ当たりだったとは、僕は思いません。       あの彼女の心情を図る術は、僕には、僕達にはありませんで。       彼女が選び続けるしかないのです。 きっと、この先もずっとずっと。 528昴  :もう、どこにも行かないか? 529景織子:馬鹿な事を聞くのね。 先に死ぬのは、間違いなくアンタ達なのよ。 530昴  :それでも、僕達が生きている間は。 お前と一緒にいる。 531景織子:自分勝手ね。 532昴  :そんなモンだろう。 533景織子:そうね。 ……じゃあ、私も。 アンタ達が生きている間は。 534天真 :──その謳歌がどうあろうと、それはそれで美しく、そしてそう在るべきだと思うと話したら。       それは作家の理想であり妄言だと、ジュンさんには笑われました。       ククリちゃんは。 それは素敵な宝物ですね、と。 いつも通りはにかんでいました。       ……僕は。 僕は、どうするのでしょうね。 どう、選んでいくのでしょうね。       今は、わからないから。 勝手に名前を付けてしまおうと思います。 535景織子:──自分勝手、するわ。 536天真 :シャッツ・オペラ、「宝物の歌劇」。       そんな題目はどうかなあと、考えている次第です。 2020.10.6 初版 羽白深夜子 2020.10.12 更新 羽白深夜子 2021.2.21 更新 羽白深夜子 2021.6.2 更新 羽白深夜子 2021.11.29 更新 羽白深夜子 2022.1.24 更新 羽白深夜子 2022.3.5 更新 羽白深夜子 2022.4.9 更新 羽白深夜子 2022.5.6 更新 羽白深夜子 2022.6.25 更新 羽白深夜子 2022.6.29 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 引用 「小倉百人一首」大中臣能宣 「小倉百人一首」源俊頼朝臣 「小倉百人一首」西行法師
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