最終更新:2024/5/1
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【帝都短歌事件録「シャッツ・オペラ」一】 (ていとたんかじけんろく「しゃっつ・おぺら」いち) 男性4~5:女性3 有償版販売ページは
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。 【春日 天真(かすがてんま)】 22歳男性、探偵所所員。 東北から帝都へ上京し、一話「秋待つ鮮血」の事件を切っ掛けに天之川探偵所に就職。 平々凡々だが気の優しい、機転が利く青年。 【若葉 景織子(わかばきょうこ)】 30代女性、探偵所所員。 天之川探偵事務所設立時から所属している女性。 雑務や寮での食事など所員の面倒を見、壊滅的にドジな昴の世話もしている親切な女性。 【天之川 昴(あまのがわすばる)】 35歳男性、天之川探偵事務所所長。 過去警察に所属しており、独立し探偵事務所を構えている。 仕事はできるが壊滅的に不器用で、「破壊神」と呼ばれる程のドジ。 【香鹿 閏(こうがじゅん)】 23歳男性、探偵所所員。 天之川探偵事務所に所属している青年。 喧嘩っ早いが面倒見が良く、年下や弱者に親切で優しい。 可愛い物、文房具に目がない。 【八尋 久々利(やひろくくり)】 18歳女性、探偵所所員。 天之川探偵事務所に所属している少女。 書類整理からお茶出しまで、細々した雑務をテキパキこなす。 「超記憶症候群(ハイパーサイメシア)」と呼ばれる症状で、物心ついた頃、3歳頃からの記憶を全て覚えている。 【伊良部 啓太(いらべけいた)】 25歳男性、洋食屋「七福堂」店主。 おっとりしたマイペースな青年。幼馴染で夫人の美姫(みき)と七福堂を営む。 二話「寂寞の所在」内、自身の短歌怪異解決後は天之川探偵事務所の所員達に場所や料理、 噂や情報を提供している。 ※「式旭宇」と兼ねる事ができます。 【式 旭宇(しきぎょくう)】 28歳男性、露天商。 景織子に親しげに接する、のんびりした男性。 ※「伊良部啓太」と兼ねる事ができます。 【久遠寺 蓮華(くおんじれんげ)】 20代女性、「泡影屋」店主。 怪しげな古物商を営み、魔女を自称する女性。 天之川探偵事務所に物品諸々を提供している。 【配役表】 春日天真 : 若葉景織子: 天之川昴 : 香鹿閏 : 八尋久々利: 伊良部啓太: 式旭宇 : 久遠寺蓮華: ======================================= 001蓮華 :私設アマノガワ探偵事務所。 人知の及ばぬ何かしらを追っている、仲睦まじい探偵事務所。 衣食住と絶対の庇護。 それらを約束された、……ううん、そうなあ。 私に言わせれば。 悪夢の巣窟、かなあ。 そうは思えない? どうして。 コウガジュン。 彼は幼い頃に暮らしていた孤児院、その職員、極々身近な人間が、全員。 こぞって首を吊るという怪死を遂げている。 ヤヒロククリ。 彼女は記憶し続ける。 すなわち、自身に起きた事象、見聞きしたそれらを忘れる事ができない。 そして。 ああ。 新しい子が、入ったんだっけか。 きっと似たり寄ったりなんだろう? 002旭宇 :類は友を呼ぶ、というからねえ。 003蓮華 :彼が悪夢を知らなかったとして。 004旭宇 :楽しそうだなあ。 幸せそうだなあ。 005蓮華 :他人の悪夢も幸福も、誰もが区別はできないのだから。 006旭宇 :羨ましいなあ。 <帝都、露店街。> 007天真 :おお……! 確かに、表通りとは雰囲気が違いますね! 008景織子:でしょ? この露店街、結構掘り出し物が安く買えるのよ。 009閏 :だからってテンマ、お前一人で来るんじゃねえぞ。 こないだの七福堂(しちふくどう)と同じ気分でノコノコ出向くな。 絶対に、所長か姉さんか俺と一緒に来い。 010天真 :ん。 どうしてですか? <通行人にぶつかりかける> っとと、すみませ……んん? 行ってしまわれた。 011閏 :<小声> 馬鹿お前気を付けろ! 何もスられてねえか!? 012天真 :あっ……っと、大丈夫みたいです。 成程。 013景織子:治安があんまり、ね。 ククリちゃんにも一人で来ないように言ってるから。 014天真 :肝に銘じておきます。 ところで、今日はどちらへ? 015閏 :自称魔女様のトコ。 016天真 :魔女!? 017景織子:<笑う> 私達が贔屓(ひいき)にしてる、骨董品屋に行くのよ。 018天真 :はー、魔女の骨董品屋さん……! それは楽しみですね! 019旭宇 :あれ? キョウコ? 020景織子:あ。 し、……シキさん。 021旭宇 :町中で会うのは久しい……、キョウコ、今の家族かい? 022景織子:まあそんなトコ。 023旭宇 :どうも、こんにちは。 私はシキ、ギョクウといいます。 この辺りで露店商をやっていますよ。 024閏 :あ? どーも、コウガです。 025天真 :こんにちは、カスガテンマです! キョウコさんのお知り合いですか? 026旭宇 :そうだよ。 ふうん、キョウコにこんな若い家族がいたんだ。 027景織子:ええ。 じゃあ、私達行かないとだから。 028旭宇 :どこか行くの? 呼び止めて悪かったね。 ゆっくり話したかったんだけどな、残念だ。 029閏 :悪いな兄さん。 また。 030天真 :ん、んん? ああ、それじゃあ! 031旭宇 :キョウコ、これだけ。 032景織子:……なあに、どうしたの。 033旭宇 :キミは今、幸せかい。 034景織子:──。 035旭宇 :キミの生い立ちは、同情するに余りある。 楽しそうに歩いていたから、一瞬キミだってわからなかったんだよ。 036景織子:そ、そう。 037天真 :同情? 038旭宇 :うん。 彼女は大層な苦労人でね、楽しそうに歩いていたから安心したんだよ。 また話を聞かせておくれ。 それと、── 039閏 :そのまたっていうの。 日を改めちゃくれんか。 040旭宇 :ん。 ああ、どこか出掛けるんだったね、引き留めてごめんね。 それじゃあ。 <旭宇、立ち去る。> 041天真 :あ、あのぉ……? 042閏 :テンマ、お前な? 素直なのはいいんだけどよ。 もうちぃとばかし女の顔色見えねえと、モテねえぞ。 043天真 :ん? んん? 044閏 :姉さん、何だありゃ。 昔の男か? 045景織子:そうじゃないのよ。 046閏 :どーにもいけ好かねえ男だな? 047景織子:……兄弟分、みたいな感じだったの。 ごめんね、ありがと。 助かったわ。 048閏 :話す気はねえ、と。 俺は詮索しねえし所長にも話さねえよ。 テンマ、お前もな。 049天真 :んへ? あ、はい! 勿論です! 050閏 :よーし。 お前、後ろ気を付けて歩いてみろ。 ……尾行されてねえか、よく確認しな。 051天真 :びっ!? は、はい! 052旭宇 :──あはは。 楽しそうだなあ。 幸せそうだなあ。 053旭宇 :羨ましいなあ。 <古物商「泡影屋」店内。> 054蓮華 :なぁになぁに、新しい子? また? 性懲りもないねえ。 055天真 :カスガテンマといいます、よろしくお願いします! 056蓮華 :テンマちゃん。 ふうん。 ねえねえ、最近夢見はどう? 057天真 :へ? 058閏 :テンマ、その女レンゲっつーんだけどな。 まともに話そうったって労力の無駄だぞ。 059天真 :ほお……? 060蓮華 :ジュンちゃん、酷い事言うんだぁ。 061閏 :趣味は雑草集め。 062蓮華 :趣味は薬草集め。 063閏 :仕事は詐欺。 064蓮華 :仕事は古物商をやってるの。 065閏 :極めつけは自称、魔女ときたモンだ。 066蓮華 :そういう訳で、このお店は「泡影(ほうえい)屋」、私はクオンジレンゲ。 本物の魔女だよ。 困り事があったら何でも、私を頼りなねぇ。 067天真 :は、はあ……よろしくどうぞ……。 068景織子:それで、レンゲちゃん。 頼んでおいた物は? 069蓮華 :あー、あるよ、きてるよ。 ほら。 070天真 :うわあ可愛い! 文鳥ですか!? 071蓮華 :文鳥。 でもこの子はちょっと特別でね。 072天真 :特別。 073蓮華 :そう、特別。 訓練されているんだ。 何事にも物怖じしない。 暗所、閉所に慣れている。 だから、この小さい鳥籠に入れて連れ歩ける。 テンマちゃんが主人だって学習すれば、キミから逃げない。 必ずキミの所に帰ってくる。 074天真 :おお! お利口ですねえ! 075蓮華 :でしょう? そして、極めつけ。 足元を見てご覧。 076天真 :ん、……無線? 077蓮華 :そう、無線機をつけてる。 最近は電話、ってあるだろ? それを持ち歩けると思えばいいよ。 078天真 :おおお! 079蓮華 :スバルちゃん、キョウコちゃん、ジュンちゃん、ククリちゃんが連れてる文鳥ちゃんと兄弟なの。 兄弟から無線が入ったら、テンマちゃんに教えてくれるよぉ。 とっても働き者だから、ちゃんとお仕事してくれたらご飯、沢山あげてね。 080天真 :え、この子を僕に? 081景織子:うちで本格的に探偵やるなら、必須。 082蓮華 :本当はさぁ、こんなかわい子ちゃん達を訓練するんじゃなくて、 式神用意するよーってスバルちゃんに言ってるんだよぉ? キミらのお仕事ってさ。 きっと式神とか、護符とか、ちゃんと使った方がいいんだって。 083閏 :そんな詐欺紛いのモンが当てになる訳ねえだろ! 084蓮華 :ってジュンちゃんが言うからぁ。 夢じゃない? テンマちゃん。 お札一枚で使役できる式神! 085閏 :いらねえ! 086天真 :あー、あはは……。 まあ、その。 夢はありますよね。 087閏 :伝達用の文鳥で我慢しろ! ったく。 レンゲ、金これで足りるか。 088蓮華 :はいはい。 毎度あり。 089閏 :テンマ、お前が連れ歩くんだからな。 ちゃんと面倒見ろよ。 090天真 :おおっ! お代、お代僕がお支払いしますよ! 091景織子:お給料から引いておくから、今はいいのよ。 092天真 :あああ、何から何まですみません……! えへへ、可愛いなあ。 これからよろしくね。 名前は何にしようかなあ……。 093蓮華 :うんうん、相変わらず仲睦まじくて何より。 えーっと、伝票、伝票っと……。 それで? 今度はどういう面倒事なの? 094天真 :へ? 095閏 :おいカマ掛けんな。 テンマ、コイツは俺達が調べてるモンは知らねえ。 調査内容は? 096天真 :こ、公言は厳禁、です! 097閏 :よし。 098蓮華 :なんだあ、良い子だなあ。 099景織子:そうでしょ? あまり虐めないであげてよ。 100蓮華 :んん。 キョウコちゃんがそう言うなら、わかった。 101閏 :そもそも、そんな頻繁に面倒事抱えてたまるかよ。 102蓮華 :おん? なんだ、面倒事があって私を訪ねてくれた訳じゃないのか。 あ、ただの買い物か。 なんだなんだ、そうなのか。 103閏 :……言いたい事があるならはっきり言えよ。 <舌打ち> テンマ、姉さん。 帰るぞ。 104景織子:レンゲちゃん、またね。 どうもありがとう。 105蓮華 :あはは。 ──毎度あり。 またご贔屓に、テンマちゃん。 <こっそり天真にお札とメモを渡す> 106天真 :んえ、あ、……ああ、どうも! また来ますね! 107蓮華 :はあーい。 あははは。 <露店街、街中。> 108閏 :──ああ、くそ。 相変わらず胡散臭い女だな! 109天真 :あはは……ちょっと不思議な方でしたね、確かに。 110景織子:優しい子よ。 調査の内容は知らなくても、こういう物資の面で私達を助けてくれるの。 111天真 :へええ! 店内も、並んでいる品物も、確かに見た事のない物ばかりでした。 んん、一人で来れないのが惜しいなあ。 112景織子:<笑う> いつでも誘ってくれていいの……あ。 113閏 :ん? どした、姉さん。 114景織子:──……ごめんなさい。 買い忘れた物があったわ。 先に帰ってて。 115閏 :なんだ、付き添うぞ。 116景織子:テンちゃんのお勉強見るんでしょ。 先にお帰りなさいな。 117天真 :キョウコさん、お一人で大丈夫ですか。 118景織子:ええ、私は大丈夫よ。 じゃあね。 119天真 :……淑女とは、秘密が多くていらっしゃる。 120閏 :あんま突っ込んでやるなよ。 121天真 :それもモテなくなりますか? 122閏 :おうおう、わかってんじゃねえか。 123天真 :んんんん。 僕も年頃の一男子、その辺はやはり気になりますからね! 124閏 :よーし! んじゃあ年頃の青少年は、事務所に帰ったらお兄様とお勉強だ! 125天真 :んあ? ジュンさん僕と一つしか違わないじゃないですか! 126閏 :ほお。 生意気言えるってこたぁ、昨日出した宿題、完璧なんだろうなあ? 127天真 :無茶言わないで下さいよ! 百人一首を百首! 一晩で覚えるだなんてえ! <天之川探偵事務所、事務室。> 128昴 :火事。 129久々利:だ、そうです。 130昴 :放火ではなく、か。 それで何故、うちに話がくる? 131久々利:火が上がったのは、火の気のない草原。 この事務所の南方、建物が建つとかで空き地になっている、あそこです。 そしてもう一ヵ所、東地区の駄菓子屋。 こちらは駄菓子を買いにきた子供達の目の前で火が上がったと。 あ、子供達に怪我はないそうです! 132昴 :通報が入ったの、がー……、空き地が十四時頃、駄菓子屋が十六時過ぎ。 133久々利:発生時刻だけ見れば人為的な連続放火、とも取れますが……。 134昴 :シマさんが言うには、どうにもそうじゃない、と。 135久々利:まだ警察が捜査をしているそうですが、被害を出さないよう先手を、と仰っていましたよ。 136昴 :そうだな、幸い抱えてる案件もない。 ククリ、ジュンと合流して帝都東方面を。 137久々利:わかりました。 138昴 :僕は北方面を、西方面はキョウコとテンマに任せるか。 僕が連絡しておく。 空振りなら空振りで、それで。 ……被害が出ないといいんだが。 <帝都東方面。> 139久々利:ふむ。 東方面異常なし! 不審人物もなし! ……といっても、放火。 何があるかわかりませんからね。 どうしましょう、手分けしますか? 140閏 :いや、このまま二人で回るぞ。 お前の足なら俺について来れるだろう。 141久々利:はーい。 <溜息> ジュンさんは相変わらず過保護ですねえ。 スバルさんやキョウコさんですら、私を信用していると言って手分けして捜査、させてくれますよ? 142閏 :馬鹿言え! お前みたいなチビ、誘拐でもされたら探す方が面倒なんだよ! 143久々利:そんな時の為に! <太腿のホルダーを見せる> 144閏 :ンッ!? 145久々利:こちら、持っているんです! 誘拐くらい自分で対処できます! 146閏 :ば、ば、馬鹿、脚! 脚しまえ馬鹿! 147久々利:ジュンさんがいつも私を子供扱いするモノですから、 148閏 :所長が持たせて下さった拳銃な! 持ってるんだよな! わかった、わかったから! ……お前な、その、対処できるのはわかったから。 腰に下げるとかじゃ駄目なのかよ。 149久々利:私は武器を携帯してます、なんて。 わざわざ見せびらかす必要はありませんよ。 こういう物は隠しておくのが定石(じょうせき)です。 警察の方に見咎められるのも面倒ですし! 150閏 :じゃあ上着の内側に入れとけ! 151久々利:ええっ! 152閏 :あのな、お前、女子! わかるか!? 153久々利:……ええー。 その、女子ですので。 こう、体型の見目が崩れてしまうのは些か抵抗があります! 154閏 :ガキが色気付きやがって! 155久々利:ガキ!? 156閏 :拳銃持ち出す為に太腿ピラピラ見せる方がマズいだろうが! 大体なんで制服がスカートなんだよ! どうしてそんな短けえんだよ! ズボンか袴にしろ! 157久々利:キョウコさんが可愛い方がいいって言って下さったんです! 私だって可愛い方がいいんです! ズボンじゃ嫌です! 158閏 :じゃあ姉さんみたいに長いのにしろ! 159久々利:キョウコさんみたいにこう、見目麗しければ長くしましたよ!? 私はまだ発達中なんです! 発達中! 見てわかりません!? 160閏 :発達中とか連呼すんな! そういうの止めろ! ええい、調査しながら腹巻買って帰るぞ、そこにしまっときゃいいだろ!? 161久々利:はらま……ッ!? ジュンさんは本当に乙女心のわからない方ですね! 162旭宇 :──本来の彼(か)は非人(ひにん)だ。 非人、とは。 どういうものか、ご存じだろうか。 まずそれは、「人に非(あら)ず」と書く。 人ではない、要するに蔑称(べっしょう)。 僕に言わせれば、彼は誰より人らしいと思うのだけれど。 そう、彼も人の子さ。 彼は様々な事情がある。 人ではないと称され、しかし人なのさ。 事情というと少々ややこしいか。 時代においてそれらは変わっていった。 彼は人ではなかったり、人だったり。 様々を強いられた。 それこそ人間らしいだろう? まず墓を守る事を強いられる。 墓守、それに都合が良かったのだから。 そう。 大層に、それに都合が良かった。 それ自体が、彼の最大の傲慢であり、過ちであり、不幸だった。 <七福堂、店内。> 163閏 :だああ、畜生! もう三日連続だぞ!? 164久々利:火の気のない場所から突然、人前で、火が上がる……何なんでしょうねえ。 165天真 :ただ火が上がる訳じゃない。 必ず人の目がある所で。 166景織子:自然発火の線も一応は考えたけど。 ここまで続くのであれば短歌怪異、なんでしょうよ。 167昴 :参ったな、どうするか。 168天真 :あのー。 これは、僕の憶測、なんですけども。 169閏 :んあ? 170天真 :僕らの調査場所から、あえて。 犯行場所を外してるように見えません……? <一瞬静まり返る。> 171久々利:……な、何言ってるんですか、もう! その……万が一だとして! 私達、複数人で調査してたじゃないですか、お互いの潔白は誰かどうか証明できますって! 172閏 :そ、そ、そうだぞ! 変な事言うなよ! 173天真 :い、いや、あはは! 僕の考え過ぎですよね! ……ですよね? 174啓太 :あれ。 難しい顔して、皆さんどうしましたー? ご注文の品、お持ちしましたよぉ。 例の火事を追ってるんでしょう、頑張って下さいねー。 175閏 :ケイタ。 お前その、噂かなんか掴んでねえか? 176啓太 :んー、それがさっぱり。 何でも、近所のお姉さん方が遭遇したみたいで。 177昴 :この辺の火事、二日前かい。 178啓太 :そうです。 ミキちゃんが話を聞いてきたんですけど。 干したばかりの洗濯物から急に火が上がったそうです。 びっくりでしょ? 179久々利:生乾きの洗濯物から、ですか!? 180啓太 :そうそう。 他に僕が聞いたのはー、駄菓子屋のお菓子からだったり、 空の鍋、小物入れ、畳んであった新聞紙……火を起こしようがない物ばっかり。 こんな話聞いちゃうと、火の用心しててもどうしようもないなあって。 僕なんか、火を使う仕事ですからね。 もーおっかなびっくりですよー。 181天真 :お菓子、鍋、小物入れ、新聞紙、洗濯物……物品に関連性があるんでしょうか。 182景織子:怪異なら話は別じゃない? 何でもできちゃうもの。 183久々利:んんん……そうですね。 怪異が原因の火事だとしたら、過去の事件は参考にならない、かなあ。 私の知る限り。 火を扱う怪異は、この件が初めてです。 184昴 :まあ、とりあえず食事にしようか。 すまないなケイタくん、いつもありがとう。 185啓太 :いーえ。 皆さんが調査なさってるって知って、少し安心しました。 絶対に、解決してくれますよね。 186閏 :おう、任せとけよ。 んじゃ飯、冷めないうちに頂きますか! 187天真 :ですね。 んん、空腹の所為で変な事を考えるんだ……。 188久々利:腹が減っては戦はできない! ですよ! 189天真 :うん! 190昴 :ああ。 そうそう、肉はこのくらい厚みがないと食った気があっつ!? 191景織子:絶対やると思った! 鉄板に直(じか)に触る馬鹿どこにいるの!? 192昴 :こ、こっ、ここに! 193景織子:馬鹿! 194啓太 :僕、氷持ってきますー! 195景織子:ああもう、これくらいなら私がやるわ。 ほら、手貸して。 「恨みわび 干さぬ袖(そで)だに あるものを 恋に朽(く)ちなむ 名こそ惜しけれ」。 196昴 :冷たっ! 197景織子:当たり前でしょ、冷やしてるんだから。 198啓太 :お、おお……。 199天真 :自分の手元も冷やせるのですか! 200景織子:勿論。 対象が目視できていればね。 201閏 :怪異をそんな雑に使うなよ……。 202久々利:暑い時期だと、かき氷作ってくれますもんね! 203閏 :ええ……。 204景織子:水分さえ含まれていれば、何でも。 雪を作ったり、雨を氷の矢にしたり。 205啓太 :ひえっ。 206天真 :へええ、すごいなあ! 207景織子:ほら、もう痛くない? 208昴 :あ、ああ……ありがとう、もう大丈夫だ。 よし、食うか! 209景織子:全くもう。 210閏 :ほんっとに。 所長は姉さんがいないと何もできねえんだな。 211昴 :ん。 ああ、そうだぞ。 212閏 :そんな情けねえ事で威張んなよ。 213昴 :裏返せば。 僕はキョウコがいれば何でもできるんだ。 214景織子:<むせる> 215久々利:おお、熱烈……! 216啓太 :<小声> ねね、お二人ってほんとにそういう関係じゃないのぉ? 217天真 :ら、らしいですよ。 218景織子:アンタほんと馬鹿なんじゃないの!? 219昴 :心外だが、馬鹿は馬鹿だぞ。 お前が一番知ってるだろ。 220景織子:ああああああ! <頭を抱える> 221昴 :僕が昔、大失敗……そんな簡単なものではないんだが。 仕出かしてしまった時に、キョウコがいてくれた。 だからこの探偵事務所がある。 あの時、キョウコが僕に声を掛けてくれなかったら。 僕は自責の念に潰されて、ここにいなかったかもしれない。 222閏 :そう言うけどよ。 俺も具体的に何があったか知らねえんだよな。 なあなあ、何仕出かしたんだ? 223昴 :……気軽には話せないな。 気が向いたら、話すよ。 224閏 :ずっとそれだ。 まあそれならそれで、別にいいんだけどさ。 今日この後はどうするんだ? また空振りの見回りか? 225昴 :空振りかどうかはわからないだろう。 やるしか、ないさ。 226旭宇 :──彼(か)は墓守という強いられた役目を放棄し、逃亡を選ぶ。 転々と流浪の旅を続け、時には住居を定め。 しかし終の棲家を見つけるには至らなかった。 恐らく従来飽き性だったのだろう。 加えて、彼の心に残り続けた後悔が定住を妨げる。 家族だ、血を分けた家族。 墓を、家を、家族を、捨て続け悔やみ続け、彼は今日に至る。 まあ、そういうものを恐らく愛と呼ぶのだ。 麗しいだけで成り立つものか。 淀む後悔を、恐らく人は愛と呼ぶのだ。 227景織子:ねえ、いつまで続けるの? 228旭宇 :んー? いつまで? 229景織子:こんな事してたら、いつか足がつくわよ。 230旭宇 :だからキミと一緒にやってるんじゃないか。 231景織子:……あっそ。 本当に、いい性格してるわ。 232旭宇 :でしょ。 ……あーそうだなあ。 派手に、家一軒燃えたら。 満足するのかもしれないね? 233景織子:<溜息> 私に、燃やせと。 234旭宇 :どうだろう? 235景織子:はいはい。 それで最後だからね。 236旭宇 :いいよ。 だってキミ、 ──ちゃんと彼らに気付かれるように、やってるじゃないか。 <昼頃。露店街、裏通り。> 237天真 :うーん……。 <手帳を捲りながら> お菓子、草原、鍋、小物入れ、新聞紙、洗濯物、本、糸巻、野菜。 そして薬缶(やかん)、水桶、土嚢(どのう)、化粧品……っと、 全く関連性がありませんね。 日用品や、人の近くにある物、としか。 あぁ、駄目だ。 お腹が空いて頭が回りません! 238昴 :<苦笑する> 僕達もそろそろ昼食にするか。 身近な物品から火が上がり、必ず無傷の目撃者が存在する。 間違いなく短歌怪異だろう。 239閏 :火が上がる所を目撃させたい訳だ。 いい度胸してらぁ。 240久々利:どうしてそんな、……愉快犯としか、考えられませんね。 241昴 :だろうな。 警察にも確認したが、捜査の攪乱(かくらん)が必要だろう事件もないそうだ。 242天真 :火が上がった物品は、大体がこの露店街で買われた物、と。 243昴 :当然、草原や土嚢を除いてな。 244閏 :露店街から買われた物が燃えた訳で、露店街の店先で燃えた物は無し、だったか? 怪しいな。 足がつくのをビビってんのか。 245久々利:そもそも愉快犯の可能性が高い訳で。 これから、という可能性もありますよ。 246昴 :ああ。 皆、不審人物の聞き込みを優先、で……? 247天真 :ん? どうしましたか所長。 何か見えますか? 248昴 :……あれ、煙じゃないか……? 249天真 :えっ!? 250閏 :本当だ、細いが、……待てよ。 251久々利:所長、あの方角! 泡影屋の辺りなんじゃ! 252閏 :おい、おい! この時間、アイツ店にいるんじゃねえか!? 253景織子:いた! ねえ、あの煙! 254天真 :キョウコさん? 255久々利:あれ、外食に行かれたんじゃ? 256景織子:レンゲちゃんと食事にいく約束をしてて、待ち合わせの時間になっても来ないから! 迎えにいこうと、それで煙が見えて! 257閏 :おいおいおいおい……! 258昴 :行くぞ! <燃え盛る泡影屋前。> 259天真 :レンゲさん、レンゲさん! 260閏 :火消しはまだ来てねえのか! 姉さん! どうにかならねえか!? 261景織子:野次馬の目があるし、こんなに燃えてたら間に合わないわよ! 262久々利:レンゲさーん! 263昴 :クオンジ! おい、クオンジ! 264蓮華 :<店から駆けて出てくる> スバルちゃん! 助けて! 265昴 :ああよかった無事だったか、怪我は、 266蓮華 :どうしよう、どうしよう! お店の中に、鳥ちゃん達がいるんだよ! 267天真 :えっ!? 268蓮華 :助けないと! <蓮華、店の中に戻ろうとして、閏と景織子に引き留められる。> 269閏 :だからって、馬鹿、お前も焼けちまうだろ! 270蓮華 :あの子達だって焼けてない! 271景織子:レンゲちゃんが燃えたら元も子もないでしょう!? 272蓮華 :でも! 助けないと! 273天真 :レンゲさん落ち着いて! 274昴 :どこだ。 275久々利:えっ。 276蓮華 :店、店の、商品棚の前、鳥籠が大きくて一人で運べなくて、 産まれてさっき届いたばかりの子達なんだよ! 277昴 :<駆け出す> 278景織子:ちょっと!? 279閏 :所長!? 280天真 :スバルさん! 無茶だ! 281蓮華 :私、私駄目なんだ、火が駄目なんだ、魔女は火炙りにされるんだ! 282久々利:お、落ち着いてレンゲさん、大丈夫だから! 283蓮華 :どうして、逃げてきたのに、ああ、私が逃げたからあの子達が、 284久々利:大丈夫なんですってば! わ、私達の所長が! 助けにいきましたから! 285閏 :ククリ、コイツ任せてもいいか! 286久々利:はい! 287閏 :テンマ! 水、水ねえか! 288天真 :ご近所の方に、すみません! 水を、どなたか! 289景織子:……っ、「恨みわび 干さぬ袖(そで)だに── <轟音。> 290景織子:あ、…… 291久々利:ああ……建物が……、 292蓮華 :……スバルちゃん、スバルちゃん! 293閏 :所長! 294景織子:っ、スバル、スバル! 返事なさい! スバルっ! 295昴 :なんだ! 小鳥、無事だぞ! 全部で七羽だ! 296蓮華 :あ……あああ! 297昴 :<むせる> ああ、スーツがちょっと燃えたか、くそ! 確認してくれ、この鳥籠でいいんだよな!? 298蓮華 :うん、うん! よかったあ! 299閏 :馬鹿か手前!? あと一瞬遅かったら、アンタ! 300昴 :心配かけたな、悪かった。 この通り、僕も無事だ。 301久々利:も、……もお、もおお! <泣き出す> 302昴 :うん、悪かった、悪かったよ。 303天真 :き、肝が冷えました、本当に……せめて水を被っていって下さいよ……。 304昴 :<笑う> 次からは、そうする。 305閏 :次があってたまるかよ! あんた本当に馬鹿だな! 306景織子:……。 307昴 :キョウコ。 はは、お前、案外声がデカいな。 308景織子:……アンタ。 自分が、何したか……。 309昴 :わかってるよ。 でも、今度は助けた。 310景織子:……。 311昴 :お、やっと火消しが来たか。 とりあえずは一安心だな。 クオンジ。 小鳥は七羽でいいんだな? 312蓮華 :うん、うんっ! みんないるよ、ありがとう、本当にありがとう、スバルちゃん! 313旭宇 :──未熟児で産んだ息子は、孫ひ孫に囲まれて死んだ。 大往生だった。 その後、子孫達の繁栄を糧にひっそりと暮らした。 その子孫達も、やがて戦争で途絶えた。 人は生まれたらある程度生きて、必ず死ぬ。 それは絶対だ。 そういうものだ。 血を分けて尚、死という形で別れは存在する。 だから。 この世で繋ぐ縁になんの意味がある? その上人は、絶対の絆を持ち得ない。 意図してか、意図せずか。 裏切りというものは、必ず存在する。 情なんて持たない方が利口だ。 ──お前はそういう理屈がわかっている、至極賢い人だと思っていたよ。 <天之川探偵事務所内。ノック音。> 314昴 :テンマ。 いるかい。 315天真 :ん、スバルさん? <ドアを開ける> 部屋を訪ねるなんて、珍しいですね。 どうなさいました? 316昴 :すまない。 明日、僕は急ぎの用で早朝から午後まで出掛ける。 それぞれに調査の指針を伝えて回っている。 これを。 317天真 :んん? 「キョウコさんと一緒に、朝九時から帝都東通りの見回り。 万が一火災が起きた場合、時間を記録せよ」、ですか。 わかりました! 以前キョウコさんと見回りをした際のお話の続きが聞けます、楽しみです! 318昴 :<苦笑する> よろしく頼む。 319天真 :……ん? 事務所で待ち合せてから向かっては? 320昴 :キョウコはその前に、聞き込みを頼んでいてな。 321天真 :成程。 でもこれきりの連絡なら、口頭で事足りるでしょうに。 どうして手紙なんですか? 322昴 :どうしてだと思う? 323天真 :へ。 324昴 :<笑う> 僕ですら思い着いた手だ。 テンマ、どうしてこんな手間を掛けているのか、気付くのはきっとキミなんだろう。 気が付いたらでいい、手伝っておくれ。 おやすみ。 325天真 :は、はあ……? <昴を見送る> 手紙。 ……うーん、特に透かしもなさそうだ。 何だろう……? <帝都、東通り。> 326天真 :ふわぁ……んん、八時五十分。 ちょっと早く着いちゃったな。 キョウコさんが来るまで、あと十分。 何をして待とうかなあ。 <鳥の鳴き声。> 327天真 :うおあっ!? ……あ、キミか。 無線が入ったんだね、どうもありがとう。 キミの名前も早く考えないとなあ。 328昴 :<無線> ──テンマ、聞こえるかい。 329天真 :はい、ちゃんと聞こえていますよ。 330昴 :──何より。 先程火災が発生した。 331天真 :えっ。 332昴 :──怪我人は無い。 僕も事務所に戻っている。 至急、事務所事務室へ。 昨晩の手紙を持ってくるように。 333天真 :あ、はい! ……切れた。 教えてくれてありがとう。 昨日の残りの小松菜があるから、帰ったら食べようね。 <天之川探偵事務所内。> 334閏 :お。 来たかテンマ! お前が一番遅いぞ。 いやあ驚いたぜ、待ち合わせに向かう最中、その辺に置いてある竹箒が急に燃えてよお。 335天真 :災難で……え? キョウコさん、まだ事務所にいらしたんですか? 336景織子:慌てて戻ったのよ。 北通りに向かってる最中に呼び出されたから。 337天真 :え、待ち合わせは東通りでは? 338景織子:えっ? 北通りでしょ? そうよねスバル? 339昴 :まあ待て。 ジュン、ククリ。 僕が二人に伝えた内容は? 340閏 :ああ……? 所長と一緒に八時半から帝都南方面の見回り、九時に駅で姉さんと落ち合う、だろ? 341天真 :えっ!? 342閏 :なのにアンタ来ないから、……なんだ、テンマ? 343天真 :え、あ、いや、その、所長? 344昴 :……早朝に出掛ける、事務所で留守番をする、警察へ出向く、待ち合わせ場所で落ち合う。 それぞれ別の文言で、僕と別行動の旨を伝えた。 345久々利:わ、私には所長、留守番するって! 八時から西方面を見回った後、十一時に、帝都西の大きな八百屋の前でテンマさんを待てって! 346昴 :ああ。 テンマ、七福堂でキミが言っていた事を覚えているかい。 347天真 :え、……僕らの調査場所から、あえて、犯行場所を外してるように見えると……。 348昴 :それが引っ掛かってな。 それぞれに少しずつ時間や場所をずらして指示を出した。 今日今まで、実際に僕が何をしていたかというと。 ──明け方に一度出掛け、隠れてこの事務所に戻り、待機していた。 349景織子:……。 350昴 :一人だけ。 僕の言付けに背いて、見回りに出ていない人間がいる。 詰めが甘かったな。 せめて事務所内に誰もいないと確認してから、怪異を使うべきだった。 351景織子:……計ったわね。 352久々利:キョウコさん? 353昴 :「御垣守(みかきもり) 衛士(えじ)のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ」。 キョウコ。 お前が部屋で口遊(くちずさ)んでいた、この短歌は何だ。 354天真 :いや、キョウコさんは別の仕事があるからと所長が、 355昴 :キョウコ。 僕が昨夜渡したその手紙、読み上げてみろ。 356景織子:……っ。 357昴 :<溜息> ……「露店街で聞き込みの後、九時に北通りでテンマと待ち合わせ」。 先程北通りに向かっている最中だった、そう言ったな。 違う。 昨日僕達とここへ帰ってから、今まで。 お前は部屋を出ていない。 358天真 :いや、……いや! 何かの間違いですよ! 359昴 :百人一首は四十九。 大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)。 360閏 :テンマ、ククリ! 姉さんから離れろ! 361昴 :全員に共通して出した指示は一つ。 火事の起きた時間を記録しろ。 ジュンが提示した火事の発生時刻と、短歌が聞こえた時間が、合致する。 362久々利:キョウコさん、嘘ですよね!? 何かの間違いですよね!? 363昴 :成程。 火の短歌だな。 364天真 :キョウコさん! 何か言って下さい! 365景織子:……何の小細工かと思ったら。 そういう事だったのね。 昨日の時点で、私を。 疑っていたのね。 366昴 :ああ。 あの泡影屋の火事。 お前、クオンジを店から連れ出した後で火事を起こそうとしたな。 しかし彼女は、小鳥が入荷した為火災発生時も店から出ていなかった。 お前は、彼女の安否を確かめる為に泡影屋に向かいながら、僕達に行き会った。 367景織子:<舌打ち> 368昴 :決定打が欲しかった。 だから、バラバラに指示を出していた。 それに。 僕がお前を疑いたくはなかった。 369昴 :──内通者は、お前だ。 キョウコ。 370旭宇 :彼、ワカバキョウコは、非人である。 ====================================================== <回想。露店街、裏通り。> 371景織子:何よアンタ。 あれからずうと私達を付け回してたの。 372旭宇 :いいや? たまたままた行き会えたから。 気付いてくれないかなと思って見てた。 373景織子:<舌打ち> どうだか……。 で、何よ。 374旭宇 :僕も久し振りにキョウコと一緒に買い物がしたくて。 いいでしょ? 375景織子:……ま、買い物程度なら付き合ってあげてもいいわよ。 早く終わらせてよね。 376旭宇 :ありがと! んーと……。 ──人魚の肉をさ、買い付けようと思ってる。 377景織子:えっ。 378旭宇 :どこに売ってるんだい? 心当たりはある? 379景織子:いや、馬鹿を言わないでよ! 私を揶揄(からか)いたいからって、限度ってモンがあるでしょ!? 380旭宇 :不老長寿。 それを商売に組み込めたら 381景織子:<遮る> つまらない冗談は止めなさい! 382旭宇 :じゃあ、僕にも付き合ってよ。 383景織子:つ、……付き合うって、何に。 384旭宇 :退屈なんだよ、僕も。 不老長寿という不幸、それがいくらになるのか。 興味があるんだよ。 385景織子:だから! 386旭宇 :売り上げが伸びれば。 きっと僕の退屈も紛れると思ったんだけど……。 買い物じゃなくてさ、怪異を貸すよ。 少しでいいからさ、一緒に。 悪戯をしようよ。 387景織子:……。 388旭宇 :……あはは。 んー……。 「私設、天之川探偵事務所」。 389景織子:え。 390旭宇 :アマノガワスバル、コウガジュン、ヤヒロククリ、カスガテンマ……。 キミと歩いてたのはコウガくんとテンマくん、ククリって子は多分女の子だよね、じゃあ、 391景織子:ちょっと、調べたの!? この短時間で!? 392旭宇 :短歌怪異専門。 つまるところ、警察の犬か。 そっかそっか。 じゃあ、僕と悪戯をするのは難しいかもね。 我儘を言ってごめんね。 393景織子:やる、やるわよ! 私やらないなんて言ってないでしょ! 394旭宇 :ええっ、いいの? 僕は嬉しいけど、キョウコは大丈夫? 短歌怪異を使って僕と悪戯をしようって話なんだけど! キミの今の家族に反目しようよって! そういう話なんだけど! 395景織子:……っ! 396旭宇 :あはははははは! ──ぬるま湯に浸かっていたくても、そうはいかないのが人生さ。 潮時がくるまで、浸かっていたかったんだろう? 397旭宇 :残念だったね、キョウコ。 <天之川探偵事務所内。> 398閏 :……内通者。 399昴 :なあ、キョウコ。 お前が実行犯だという確証はできた。 でもな。 お前がこの一連の火事の黒幕だとは、僕はどうしても思えないんだ。 400景織子:……。 401昴 :お前一人での犯行なら、粗が多すぎる。 僕らの調査に同席していたのも、現場を調査場所から外していたのも、まだ理解はできる。 しかし見回りに同行し、僕の記憶では短歌怪異での火事だ、と言い出したのはお前だ。 何があった、何を思っていた。 話してはくれないか。 402景織子:……── 403旭宇 :こんこん、お邪魔しまぁす。 キョウコー? 待ち合わせの時間に来なかったから迎えにきたんだ、け、どー……。 404天真 :露店街の……? 405旭宇 :どうしたの、キョウコ? ……ありゃ、もしかしてもうバレちゃった? 406閏 :お前、やっぱり! 407景織子:……ええ。 バレたの。 408旭宇 :そう。 思ったより早かったね、あはは、随分と優秀だ。 409昴 :キミは、 410旭宇 :「御垣守(みかきもり) 衛士(えじ)のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ」。 <事務所内に火が上がる。> 411久々利:<悲鳴> 412天真 :火が……!? 413昴 :キョウコ! 414旭宇 :慌てなくても大丈夫だよ。 この炎、燃やす物は僕が選べるんだ。 その証拠に、これまでの火事も火が上がるだけで、燃えた物や怪我人は無かっただろう? 勿論。 今すぐにキミ達に引火させちゃったりもできるからね、あはは! 415昴 :……っ、 416旭宇 :そろそろじゃないかって思ったんだよねえ。 大丈夫? 怪我してないかい、キョウコ? 417景織子:大丈夫。 418閏 :手前! <抜刀する> 419旭宇 :酷いなあ、火事をキョウコの所為にするなんて! だってキョウコは、僕に頼まれて火事を起こしていただけなんだよ? それを、この人数で寄ってたかって虐めていたのかい? 420昴 :お前、黒幕か。 421旭宇 :うん。 あなたとそちらのお嬢さんには自己紹介がまだだったね。 シキ、ギョクウというよ。 キョウコが世話になったね。 今日までどうもありがとう! 422天真 :今日まで? 423旭宇 :あれ? この探偵事務所って、短歌怪異専門の事務所なんだろ? 短歌事件を起こした人間が居続けるのはマズいんじゃない? 424天真 :で、でもあなたさっき、キョウコさんに頼んでいたと <銃声> 425天真 :仰っ……!? 426旭宇 :──おお、怖い怖い、いきなり撃つなんて。 この尻尾が無ければ、当たったんだけどねえ。 427久々利:あと五発、撃てますから。 428旭宇 :その五発もこの炎の尾があれば。 さっきみたいに僕に当たる前に溶けるんじゃないかな。 429昴 :……炎の九尾。 どういう訳で、キョウコはキミと同じ怪異を使っているんだ。 430天真 :<小声> い、い、今、ククリちゃんが撃ったの!? 431久々利:<小声> ええ。 大丈夫、拳銃は一通り扱えます。 テンマさん、耳を塞いで、私の後ろにいて下さいね。 432旭宇 :<笑う> 僕とキョウコは仲良しだからね。 僕が貸したんだ、怪異を。 433昴 :怪異を、貸した? 434旭宇 :そう。 狐火って知ってるかい? 火の気のない所に、提灯または松明のような怪火が現れる。 正体を突き止めようと出向いても、必ず途中で消えてしまう火を狐火という。 でも、辿れないならいずれ飽きてしまうだろう? だからキミ達には足掛かりをあげようと思ったんだ。 435閏 :ふざけやがって! 436旭宇 :ふざけてなんかいないよ。 この怪異、百人一首は四十九番。 「御垣守(みかきもり) 衛士(えじ)のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ」。 大中臣能宣。 ふふふ、良い歌だよね。 夜の長い冬の時期。 外を歩けば、家々の明かりが暖かそう。 ──羨ましくなっちゃうよねえ。 437天真 :……羨ましいから人の身近な物に火をつけていたと、そういう訳ですか! 438旭宇 :ご明察! 友達と買いにいくお菓子、友達と遊ぶ草原、生活の為の数多! 人の目があって、人の目に触れて、人の手に触れる物で。 僕が手に入れられなかった全てだ。 だからせめて。 キョウコは、僕に返してもらうよ。 439閏 :ごちゃごちゃと……! 何訳わかんねえ事言ってんだよ! 440旭宇 :ほら、キョウコ。 この場所もこれまでだ、一緒に行こう。 441景織子:──……そうね。 442久々利:キョウコさん!? 443景織子:遅かれ早かれ、こうなったのよ。 しょうがなかったのよ。 火事はもう起きないわ、ちゃんと私が見張る。 騒ぎ立てて、悪かったわね。 444昴 :どこへ行く気だ。 <太刀を持ち出す> 445旭宇 :おや。 446景織子:……へえ。 何、私と喧嘩しようって? 447昴 :出掛けるなら、行く先と帰宅時間くらい言っていけ。 448景織子:は。 449昴 :それと。 いってきますの挨拶も聞いてないぞ。 450景織子:そういうのはね、帰る気がある人が言うものなのよ。 451昴 :帰る気がないと。 452景織子:そうよ。 453旭宇 :だ、そうだから。 僕らはこの辺りで、 <銃声。> 454旭宇 :──お暇(いとま)したいなって、思ってるんだけどな? 455久々利:か、火事を起こすように頼んだって、要は脅したんでしょう! キョウコさんはそれでいいんですか、このまま脅され続けて 456景織子:<遮る> 誰が脅されたなんて言ったのよ、コイツが頼んだって言ってるでしょ! 457久々利:え、 458景織子:私がそれを了承したのよ! それをごちゃごちゃともう、やかましいわね! 459閏 :おい、姉さんを心配して言ってんだぞ、そんな 460景織子:<遮る> うるさいって言ってんのよ! 聞こえてないの、耳が馬鹿になってんじゃない!? 461昴 :わかった。 462天真 :す、スバルさん? 463昴 :話は、わかった。 力尽くで止めるまでだ。 464景織子:そう。 <閏、旭宇に殴りかかる。> 465旭宇 :お、っと。 466閏 :お前……! 姉さんに何言ったか知らねえけどな! 羨ましいから他人巻き込んで火事を起こしていいなんて道理、まかり通る訳ねえだろ! 467旭宇 :あはは。 だよねー、わかるわかる。 468閏 :は、 469旭宇 :でも、キョウコは叶えてくれたんだ。 僕はそれで充分。 470閏 :あっつ!? 471旭宇 :<笑う> 言ったろ? 僕の炎は、この九尾は。 燃やす物を選べるんだってば。 472閏 :この……! <景織子、昴の足払いを避ける。> 473昴 :<舌打ち> ククリはな、お前を思って言ってるんだぞ。 474景織子:だから何よ、 <景織子、昴に蹴りかかる。> 475景織子:余計なお世話だって、さっきから言ってんのよ! 476昴 :<刀で足を払う> スカートでそんなに足を上げるんじゃない! 477景織子:馬鹿言ってないで、その刀抜いたら!? 力尽くって言う癖に甘いのは相変わらずね! 478天真 :ククリちゃん。 479久々利:だ、大丈夫です、……キョウコさんが、何を思ってるのかは、わかりませんが。 480天真 :うん。 きっと本意じゃないのは、僕もわかるけど。 481旭宇 :ねえ、二人はそっちで何を話してるの? キミらもおいでよ、折角だし一緒に遊ぼうよ。 482閏 :手前! 483旭宇 :どうせ燃やすなら、纒めての方がやりやすいんだよー。 484昴 :ジュン! 代われ! 485旭宇 :キョウコ、流石に手が足りないや。 486景織子:……「恨みわび」 487閏 :な、 488景織子:「干さぬ袖(そで)だに あるものを」 489天真 :キョウコさん! 490久々利:ジュンさん、逃げて! 491景織子:「恋に朽(く)ちなむ」 492閏 :っ、クソが! 493景織子:「名こそ惜しけれ」 <閏、景織子の腕を掴む。> 494景織子:──……え? 495久々利:凍っ、……て、ない? どうして、 496天真 :ジュンさん! 確保を! 497閏 :あ、ああ! <閏、景織子の腕を掴んだまま後ろに回る。> 498景織子:っ、ちょっと! 499閏 :見えなきゃ、目視ができなきゃ。 後ろに回れば、流石に凍らせるのは無理だよな。 変に気を使って、一人で歩かせなきゃよかった。 ──アンタ。 あの時俺とテンマと別れた後、どこほっつき歩いてたんだ? 500景織子:<舌打ち> アンタには、関係ないでしょ! <蹴飛ばす> 501閏 :いッ、ああ、そうかよ! 「嘆けとて」、 502昴 :ジュン! ダメだ! 503閏 :っ、 <景織子、閏を蹴倒す。> 504景織子:──甘いのよアンタ達は、何もかも! ……お暇、するわ。 長年、私にしては良い夢を見させてもらった。 ありがとう。 505久々利:キョウコさん! 506旭宇 :って事で、さよならー。 何も燃やしてないんだからさ、あまり怒らないでよ? じゃあねー。 507景織子:<小声> 殺してはくれないかって。 期待、してたんだけどね。 <ドアの開閉。> 508閏 :……あぁ、クソ! 509天真 :お二人共大丈夫ですか!? 怪我、火傷は!? 510閏 :このくらいなら、冷やせばなんともない。 511昴 :僕は大丈夫だ。 ジュン、すぐに冷やしてきなさい。 テンマ、ククリも、……。 512久々利:……何も、燃えてないです。 備品も大丈夫です。 513昴 :そうか。 燃やす物を選べるんだったな。 514閏 :しかしさっきの、絶対凍ったと思った。 どうなってんだ? 515天真 :あの、これです! 僕がジュンさんの背中に仕込みました! 516閏 :ん、……紙? 517昴 :いや、札か! 518天真 :実は、泡影屋を出る直前。 レンゲさんに頂いていたんです。 519蓮華 :──キミは非力だ。 520天真 :ジュンさんが快く思っていないようだったので、使うのは迷ったのですが……。 521蓮華 :──だから、使える。 522天真 :黙っていろと、合図を頂いていたので。 その、でも、黙っていてごめんなさい! 523蓮華 :──キミが守りたいモノの背中に、貼り付けてあげなさい。 効果は一枚で一度きり。 524天真 :あと四枚、あります。 キョウコさんはこれを知りません。 525閏 :……あの女が。 526久々利:レンゲさん、まさか予見していらしたのでしょうか。 527昴 :考えるのは後だ、ありがたく使わせて頂こう。 後四度、キョウコの怪異を、氷結を防げる。 探すぞ。 必ず連れて帰る。 528閏 :手掛かりはあるのか? 529昴 :……手当たり次第、探す。 クオンジにも話を聞いてみよう。 530景織子:──最初の結婚は。 両親や親族がいて、とても華やかだった。 すぐに子供を授かった、男の子だった。 信じられない程小さい、珠のような男の子だった。 盛大な産養(うぶやしない)は屋敷で連日行われた。 私と息子には数多の調度品が贈られた。 幸せだった。 私の生はこの日の為にあったと、そう思った。 産養を過ぎれば夫は政(まつりごと)へ。 その夫の方針で息子は、生後十日にして乳母と、沢山の家庭教師を付けられて、私の手を離れる。 <七福堂。> 531蓮華 :<店内をキョロキョロ見回して> わあ……。 ここで食事をするの? 532昴 :ああ、そうだぞ。 533啓太 :遅くなってすみませんー、お冷です。 <席に腰かけ、苦笑する> ……話を聞いてもまだ、信じられません。 キョウコさんが。 534閏 :ケイタ、ミキちゃんいねえのか? 姉さんと買い物だなんだ、仲良かったろ。 ちょっと話を聞きてえんだ。 535啓太 :今日は地域の婦人会に出掛けててー……、もうしばらくしないと帰らないかな、すみません。 536閏 :そうか、参ったな。 537啓太 :皆さんに心当たりが、……ないからいらしてるんですよね。 538昴 :<苦笑する> 実家だと聞いてた邸宅も訪ねてはみたんだが、数年人が住んでいないそうでな。 539久々利:近所の方も、キョウコさんを知らないと仰っていて。 540天真 :エギョウ先生の事件。 キョウコさんは確か、実家に戻られていて非番だった、と。 541昴 :ああ。 度々そう言って休みを取っていたんだ。 両親が高齢で、世話をしていると言っていたが。 542久々利:私がご両親について何となく聞いても、答えづらそうにしていたけど 543閏 :そりゃあそうだろうな。 架空の親の話してもしょうがねえもんな。 544久々利:ジュンさん、まだそう決まった訳では。 545閏 :じゃあ何だってんだよ、これは。 住所が嘘だったんだろ。 ……あーむしゃくしゃする。 俺ちょっと外の空気吸ってくらぁ。 546昴 :ああ。 <閏、席を立つ> ……ククリも、テンマも。 そんな顔をするんじゃない。 547久々利:でも。 548昴 :あれでいてジュンもな、キョウコを慕っていたから。 思う事はあるんだろう。 549蓮華 :ねえねえ。 550天真 :ん、どうしました? 551蓮華 :これ、水? 飲んでいいの? 552天真 :へ。 553昴 :ああ、客が自由に飲んでいい。 お代わりはそこの水差し。 554蓮華 :そうなんだ、すごいねぇ。 ここはキミのお店? 555啓太 :あ、はい。 556蓮華 :すごいお店だねえ、水が自由に飲めるなんて。 どうもありがとう。 557啓太 :あ、あぁ、どうも……? 558昴 :ほら、品書きはこれ。 金は僕が出すから、好きな物を頼みなさい。 559蓮華 :わあ! こんなにお料理できるの? 560啓太 :え、ええ。 <小声> ……あ、あのぉ、スバルさん。 561昴 :合わせてやってくれ。 562蓮華 :ククリちゃん、ククリちゃん。 どれが美味しいのかなぁ? 563久々利:えーっと。 甘い物が好きなら、ホットケーキはどうですか? 564蓮華 :ホットケーキ、……あの、クレープの厚いヤツ? 565久々利:え? あぁ、まあ。 566蓮華 :アレはあんまり好きじゃないな。 あ、この餡蜜は? 567啓太 :餡子と白玉と果物を、黒蜜を掛けて食べるんですよ。 568蓮華 :ああ、みつ豆ホールか。 そっか、最近は葛餅じゃなくて白玉なんだねえ。 食べてみたかったんだ、それにしようかな。 ククリちゃんは? 569久々利:じゃ、じゃあ。 私はいつも通りのパフェで! いいですか! 570啓太 :わかった。 ジュンくんはー、いつものエクレアで大丈夫かなぁ。 571天真 :じゃあ、僕も餡蜜を頂いていいですか! 572昴 :勿論。 ケイタくん、僕はコーヒーを淹れてもらえるかい。 573啓太 :はーい、作ってきますねぇ。 <啓太、席を立つ> 574昴 :<笑う> クオンジはな、魔女だそうで。 最近の流行りには疎いんだ。 575天真 :はあ……その、キョウコさんにもお聞きしていましたが。 魔女。 576蓮華 :そうだよ。 うんと昔、海の向こうから来たんだぁ。 577天真 :海の? じゃあ、海外のお生まれですか!? 578蓮華 :うん、生まれはー……今は何て呼ばれていたっけ? 579昴 :満州の辺りだったか。 580蓮華 :ああうん、それそれ。 581天真 :へええ! 582蓮華 :何だい? 海の向こうに興味があるの? 583天真 :はい! 僕は作家を志しておりまして、海の向こうの文化についても勉強したいなと! 584蓮華 :そっかぁ。 話してあげたいけど、私は日本に来るまで、あまりいい思い出がないからなあ。 海の向こうから宣教師がやってきて、綺麗な物が沢山増えた所まではよかったんだけどねえ。 私も海を渡って……あの国は魔女を嫌うって、知らないまま渡っちゃってねぇ。 585天真 :……ん? 586蓮華 :やっと逃げ帰ったと思ったらまた戦争して、植民地になって。 だから日本に来たんだぁ。 587閏 :まぁた、胡散臭え話してらぁ。 588昴 :おや。 機嫌は治ったかい。 589閏 :うるせ。 590天真 :<小声> いや、……最後の魔女狩りは、確か千七百年代、二百年程前の筈では。 591久々利:テンマさん。 その、あんまり難しく考えない方がいいですよ。 592天真 :へっ。 593閏 :言ったろ、コイツの話はマトモに聞くだけ無駄だ。 594蓮華 :もー! 真面目に話してるのにさ! 595閏 :お前の言う通りならお前今いくつなんだよ!? 例え今お前がシワシワのババアでも! 魔女だの植民地だの、辻褄が合わねえんだよ! お前の話は! 596蓮華 :なんでレンゲの話は聞いてくれないのに、キョウコちゃんとは仲良くしてるのさ!? 597閏 :姉さ、……あ? 598久々利:キョウコさん? え、どうしてキョウコさんの話になるんですか? 599蓮華 :え? だって、キョウコちゃんは私と、 <ハッとして口を噤む> 600天真 :私と? 何ですか? 601昴 :クオンジ? キョウコについて何か知ってるのか? 602蓮華 :……知らない。 603閏 :嘘つけ! 明らかに何か知ってるだろ!? 604蓮華 :知ってても話せないよ! キミらがそう言うって事は、キョウコちゃんキミらに何も話してないんだろ? 605閏 :それは、……スバルさん、どうなんだよ。 606昴 :……聞いてない。 607蓮華 :じゃあダメだ。 こういうのは漏れる、人から人へあっという間に伝わるものなんだ。 だから言わない。 私やキョウコちゃんは、それで命を狙われて生きてきたんだもの。 608久々利:命を? 609蓮華 :そう、そうだよ。 この国はとても平和だから、想像するのは難しいかもしれないけど。 みんな魔女狩りって言葉くらい、知ってるでしょ。 私だってそれで命からがら逃げたんだ。 だから、だから。 キョウコちゃんを危険に晒すなんてしたくない。 友達だもの。 610天真 :……。 611蓮華 :……だから、言わない。 意地悪とかじゃあないんだよ。 612昴 :それでも。 クオンジ、話せる範囲でいい。 キョウコについて、何か僕達に教えられる事はないか。 何でも、どんな些細な話でも構わない。 613蓮華 :──……歳。 生きた年数。 614昴 :歳? 615蓮華 :うん。 スバルちゃん達には、私はいくつに見える? 616昴 :それは、その……。 女性には、ほら。 617久々利:二十代後半、ですか? 618蓮華 :全然ハズレ。 キョウコちゃんは? いくつに見えた? 619久々利:……レンゲさんと同じくらいか、少し上くらい、ですかね。 620蓮華 :大ハズレ。 でも、私よりキョウコちゃんの方が上等なものだっていうのは、正解かな。 <静まり返る。> 621閏 :──……じゃあ。 お前、お前と姉さんって、一体何なんだよ。 622蓮華 :言わない。 言わないけど、でも。 私もキョウコちゃんも、生まれや、生き方のほんの一部がちょっと違ってるだけで。 みんなみたいに、人間みたいに。 普通に生きて、老いて、死んでいきたいって。 それは変わらないんだよ。 623天真 :普通に生きて、老いて、死んでゆく。 624蓮華 :そうだよ。 一番最後が一番大事。 私達はそれが一番難しいから。 ──キミらが追ってるのも、そういうモノじゃないの? 625昴 :……そうか。 わかったよ、ありがとう。 クオンジ、お前の事情もキョウコの事情も、僕らは誰にも言わない。 それでいいんだな? 626蓮華 :うん、そうして。 627昴 :みんな、わかったかい。 628天真 :勿論、当然です。 629久々利:お友達なのも、変わりませんからね。 630蓮華 :ほんと? ありがとう! 631閏 :……。 632天真 :そのようなご経歴で、あの不思議な札が作れたのですね。 633蓮華 :あ! 使ったの? 634天真 :はい。 その、……委細は話せませんが、僕でもジュンさんも助けられましたよ。 ありがとうございます! 635蓮華 :うんうん、よかった! あ、あの札が使われたのは、喜べないけどー……。 ジュンちゃんもわかってくれた? これからもお札使ってみない? キミらの件でも十分 636閏 :<遮る> いらねえ。 637蓮華 :なんでー!? 便利だってわかってもらえるかなぁと思って渡したのに! 638閏 :それでお前の事情とやらに足がついたら、どうすんだよ。 命からがら逃げてきたんだろ。 大人しくしてろ。 639蓮華 :うぅー、わかったぁ……。 640閏 :でも、ま、そのー……助かったのは事実だからな。 ありがとな。 641蓮華 :……うん! そっかぁ、あの札を使うような事態だったんだね。 みんなの分も作ってあげるよ。 642閏 :お前俺の話わかってんのか? 643蓮華 :わかってるよ! みんなはあの小鳥ちゃん達の命の恩人なんだし、 644啓太 :お待たせしましたー。 あ、ジュンくん戻った? エクレアでよかったかなぁ? 645閏 :ん、悪いな。 646啓太 :はーい。 えーっと、パフェと、餡蜜とー…… 647蓮華 :あ! ねえねえこの薩摩切子、露店街で買わなかった? 648啓太 :はい! よくご存じですね、ミキちゃん、ああ、僕の奥さんが大好きで! 硝子物は薩摩切子と江戸切子で揃えてるんですよー! 649蓮華 :うわぁ、いいないいな! ねえ、江戸切子も見せて! 650啓太 :いいですよー! 厨房に並べてるので、こちらに! <啓太、蓮華、はしゃぎながら席を離れる。> 651閏 :……なんでえ、ケロッとしやがって。 652天真 :まあまあ。 気を落とされていたご様子ですし、いいじゃないですか。 653久々利:ジュンさんったら、いつもレンゲさんに悪態をついていたと思えば! 本当にお優しいんですから! 654閏 :うるせえやい。 で、どーすんだよ、所長。 655昴 :ん? キョウコを探すぞ。 656閏 :どう探すんだって聞いてるんだよ。 657昴 :俺が妙案を思い付いているとでも? 658閏 :思い付いてないんだな。 659昴 :ああ、全く。 660閏 :闇雲に探した所でしょうがねえだろ……。 661天真 :と、とりあえず! ミキさんの帰りを待って、他にキョウコさんが親しかった方にもお話を聞きましょう! 662久々利:私に何件か心当たりがありますよ、どちらの会話も皆、よくよく覚えております! 663閏 :そーだそういうの! とりあえず書き出してみろ、手際は悪いが虱(しらみ)潰しに当たるぞ。 664昴 :皆。 665天真 :はい? 666昴 :すまないな、こんな大事(おおごと)になってしまって。 667久々利:んえ。 どうしてスバルさんが謝るんですか? 668閏 :そうだ、なんで姉さんが出てってアンタが謝るんだよ。 後ろめたい事でもあんのか? 669昴 :それは全くない。 670閏 :だろ? アンタが探すっつったんだろ。 所長のアンタがそう言うなら、俺達はそれについてくしかねーだろ。 671久々利:キョウコさんのお心も気になりますし。 あの九尾の、シキさんも気になります。 早く見つけて、きちんとお話を聞きたいですね。 672天真 :そうです。 所長お一人が謝られる事は何もありませんよ。 673昴 :……そうだな。 ありがとう。 674閏 :ぼけっとしてないでほら、俺らが入所する前の姉さんの知り合いとか、 思い出せるだけ思い出してくれよ。 一番付き合い長いんだし── 675蓮華 :でもねぇ、ケイタくん。 あの露店街には時々妙な物が売ってるからね。 変な物を掴まされないよう、よくよく気を付けないとダメだよ? 676啓太 :変な物って!? ええ、僕下積み時代からあの辺りで買い物してたからなぁー……。 677蓮華 :おお? どれどれ、見せてご覧よ。 物を見る目は自信があるよ、鑑定してあげよう。 678啓太 :え、いいんですか! 本当に沢山あるんですよ!? 679蓮華 :勿論もちろん。 露店街で買ったと、確かに覚えてる物を持ってきな。 なんでもね、アソコで良いお品物に出会うとね。 急に不可思議な事ができるようになったり、心変わりしちゃったり。 ほんとーに稀なんだけどね、そんな品があるらしいんだ。 680天真 :……え。 681景織子:──あの頃の私がいくら泣き喚けど、私が息子を抱くのは行事の折々のほんのひと時だけ。 大きな屋敷と調度品、それに莫大な金品だけを渡された私は、 手当たり次第にそれらを壊すのに飽きて、いつしか掌を返して収集に没頭するようになった。 金を使う道楽は須(すべか)らく楽しかった。 使えば金は消えるのだから。 四歳になった息子が私の前で折り目正しく「母様」と呼んだその時、私は泣いた。 私の生は、息子への執着を金で書き換えたそれは、何も間違ってはいなかったのだと。 涙を流す私に慌てふためく息子に微笑み掛け、一緒に笑い合ったその時、 これでよかったのだ、何もかもが正しかったのだと確信した。 そうして息子が十を数えた時。 夫は旅の行商から、美しい首飾りを買い与えてくれた。 深い深い青の美しい、渡来物(わたりもの)の首飾りだと、聞いていた。 <帝都西方面。見回り時の回想。> 682天真 :──すみません、火事の見回りついでにと、こんなに根掘り葉掘りお聞きしてしまって。 683景織子:私も楽しんでるから、気にしないでいいのよ。 メモまで取っちゃって、本当に面白い子ね。 684天真 :姉がいたとはいえ、やはり異性の見解とは新鮮なもので! で、で、先程のお話の続きなのですが、異性への贈り物の本質とは! 685景織子:<笑う> テンちゃんが言ってた、宝飾品を送るのも素敵だけれどね。 高価な物を贈るだけじゃ駄目なの。 気持ちが伴ってないとね。 686天真 :おおお……! 気持ちが伴うというのはどういう事を指すのでしょうか!? 687景織子:そうねえ……例えば、テンちゃんにうんと好きな子ができたとするでしょう? 688天真 :はい! 見通しは全く立っていませんが! 689景織子:できたとして、ね? テンちゃんは何を贈りたいかしら? 690天真 :んんんん……僕はそうですね。 その方へ僕の好きな小説を贈りたいです! 一緒に読みましょう、感想を語り合いましょうと、是非! 691景織子:その子が同じ小説を既に持っていたら、逆に困らせてしまうわね。 692天真 :あ、な、成程! でしたらあらかじめ、本はお好きですか、とか、好きな作家について、 本棚の事情について調べておかないといけませんね! そうか、心に沿うとは即ち、その方の生活に沿う、という意味でありましたか! 693景織子:<笑う> 生活でも、趣味趣向でも何でもいいと思うわよ。 694天真 :ええ、ええ! 例えば立派なハンカチをお持ちでしたら、僕のような未熟者がお選びする物は不足しましょうね。 ん? ああ、そうか! 一緒に買いに出向くのも楽しそうですね! それはいいな。 道中ハンカチのお話をするもよし、全く悟られずにいるのも楽しそうだな……うーん。 695景織子:……本当に。 一を得ると十にしてしまうのね。 696天真 :ん? 697景織子:いやね、この間。 ケイタくんの話をした時から感心していたのよ、私。 一つ情報を得ると、そこから十にも百にもできるのね。 流石、作家さんね。 698天真 :僕はまだまだで……しかしそうか。 確かに人のお話を聞きながら、自分なりに発展させて先走ってしまうのはよくありますね。 姉さん達によく叱られました。 想像するのではなく、人のお話をよく聞きなさいと。 699景織子:私は素敵だと思うけどね。 ……さて、異常なし、と。 700天真 :あっ。 ぼ、僕、キョウコさんとのお話に夢中であまり周囲を見ていませんでした! いけないいけない、気を付けないと……! 701景織子:なら、ここから先はテンちゃんに任せようかしら。 702天真 :はい! ここまで、お任せしてしまって申し訳ありませんでした。 僕が周囲を見ています。 キョウコさん、少し休憩されては如何(いかが)でしょうか? 703景織子:いや、……そうね。 もう少し行けば泡影屋ね。 彼女に用があるの。 少しお喋りをしてきてもいい? 704天真 :ええ! 僕はこの辺りでお待ちしています。 ごゆっくり! 705景織子:ありがとう。 すぐ戻るわ。 706天真 :……気持ちが良いくらい、気立ての良い方だ。 良い方とお知り合いになれたなあ。 探偵業は勿論だが、一端(いっぱし)の紳士になれるよう、勉強させて頂かないと! 707景織子:──あの子を見ている思い出す。 聰い子、賢い子。 息子もそうだった。 夫の英才教育と本人の努力の甲斐あって、息子は夫以上の地位を手に入れた。 彼らは私に更なる贅沢を与えてくれた。 金銀財宝、私に手に入らない物は無かった。 そうして私は、永久を買った。 それが何を意味するかも知らずに、興味本位で、買った。 その日まで、金を使い続け数多を手に入れた。 同じ感覚で、生き地獄すら金で買う事ができたのだ。 他を、生活を、家族を、理を。 全て失う日がくるなどと。 どうして考えられようか。 ああ、──こうして咽ぶ後悔を、恐らく人は愛と呼ぶのだ。 2020.10.6 初版 羽白深夜子 2020.10.12 更新 羽白深夜子 2021.2.21 更新 羽白深夜子 2021.6.2 更新 羽白深夜子 2021.11.29 更新 羽白深夜子 2022.1.24 更新 羽白深夜子 2022.3.5 更新 羽白深夜子 2022.4.9 更新 羽白深夜子 2022.5.6 更新 羽白深夜子 2022.6.25 更新 羽白深夜子 2022.6.29 更新 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子 引用 「小倉百人一首」大中臣能宣 「小倉百人一首」相模
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