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【付喪神の件 九話】 (つくもがみのくだん きゅうわ) 男性2人:女性2人。 これまでのあらすじ:双子、喧嘩した。 有償版販売ページはこちら。 【高野 里歌(たかの りか)】 16歳、高校一年生。流歌の双子の姉。 流歌より社交的だが学校の成績は悪い。ギャルっぽい見た目で厚化粧。 国を問わずお伽噺や古典文学が大好き。周囲には隠している。 流歌と同じ学校の文系のクラスで授業を受けており、将来の夢は翻訳家。 高校卒業後に留学をしたいと思っている。 ​ 【高野 流歌(たかの るか)】 16歳、高校一年生。里歌の双子の弟。 里歌より学校の成績が良いが内向的。休み時間も黙々と勉強している。 天体が好きで、将来は数学者を目指している。 里歌と同じ学校の理系のクラスで授業を受けており、将来の夢は数学者。 【空木(うつぎ)】 鏡の付喪神。女性型。 前の持ち主の所にいた際欠けた事で、人間の情を取り込み欠けた箇所を 補おうとした過去があり、人の心を読む事ができる。 現と空木は対の鏡として置かれていたものの、空木は人の情まで映してしまい 本来鏡に映らない筈の物が映り気味悪がられ、目利きの骨董品屋を転々としてきた。 【現(うつつ)】 鏡の付喪神。男性型。 空木の様な欠けはなく、人間の真似が上手い。とにかく器用。 空木が上記の通り人の情を映してしまう為、過去現の鏡だけを買いたがる客がいたが、 空木と離れる事を厭い空木を真似、こちらも本来鏡に映らない物を映してきた事で 結局空木と一緒に目利きの骨董品屋を転々としてきた。 【配役表】 高野里歌: 高野流歌: 空木  : 現   : ======================================= <早朝。> ​ 001現 :リカ、リカ! ノートを忘れてるよ、コレ今日授業で使うんだろ! 002里歌:あーごめん! ありがとう! 003流歌:今日俺、帰るの七時過ぎになるから。 004空木:うむ。 では帰ったらコンビニに行くとしよう……おや。      リカ、おはよう。 005里歌:あ、……おはよ、ウツギ。 <玄関先、里歌と流歌が鉢合わせる。> 006流歌:……。 007里歌:……。 008現 :ほ、ほらぁ、二人ともいってらっしゃい! 気を付けてね! 009里歌:うん。 いってきます、二人とも! <里歌、家を出る> 010流歌:……俺の帰り、待ってなくてもいいから。 金渡しておくわ。 011空木:じゃあ、昨日と同じチャーハンを買っておく。 012流歌:おー、頼んだわ。 <流歌、家を出る。空木と現、二人を見送ってから溜息を吐く。> 013空木:……そろそろ、どのくらいになる。 014現 :喧嘩して一日半、って所かな。 015空木:あああ、息が詰まる……! 016現 :<苦笑する> <深夜、現がリビングにやって来る。空木がリビングでゲームをしている。> 017空木:おや、そちらも部屋を追い出されたか。 どうだ? 018現 :課題やってそのまま寝るって。 ルカは? 019空木:似たような物だ、勉強した後そのまま寝ると。      <溜息> あれから二日か。 家に帰っても顔を合わせない、夕食も別。 020現 :<苦笑する> 今まで、俺達が来るまではいつもこうだったから気にしないでって。      そうは言ってもなあ……。 021空木:気に掛かるに決まっておろう、全く。 022現 :距離を縮め始めた矢先、だもんねえ。 023空木:ああ。 それも今までのような無関心故の嫌味ではなく、互いを知った上での意地の張り合いだ。 024現 :……どうしようか、ウツギ。 025空木:こればっかりは、当人達の問題だなあ。 026現 :そうなんだけど俺、気が気じゃないよ。 027空木:だからと言ってなあ、っと……ウツツ。 <立ち上がる> 028現 :何? 029空木:らあめん、とやらはどうしたらよかったかな。      水に袋麺を入れて、一緒に沸かせばよかったか? 030現 :ラーメン? 今から食べるの? 031空木:小腹が減ったんだよ。 032現 :袋の裏に作り方が書いてあるよ、手伝う。 033空木:ああ、書いてあるならいいんだ、自分でやろう。 座っていてくれ。 034現 :そう? わかった。 <笑う> 言ってくれたら、何か作ったのに。 035空木:妾(わらわ)もルカも料理ができぬ。 ここ二日、出来合いの物を食べていてな。 036現 :タッパーの作り置き食べていいんだよ。      <冷蔵庫を開ける> これ。 先に言っておけばよかったね、ごめん。 037空木:食ってよかったのか、……ああ、いや、いい。 038現 :不満? 039空木:ルカがな、食事時になると黙って考え込んでいるんだ。      妾も気持ちはわかる。 人の身を得てから、ウツツに料理を任せきりだからな。 040現 :気にしなくていいのに。 041空木:まあ、できない、やった事がないからなあ。 気を揉むしかする事がないんだ。 042現 :そっか。 それでやってみようと思った訳だ。 043空木:うむ。 妾はまだいいが、ルカは育ち盛りだ。      出来合いの物しか口にしないというのは、どうにもな。 044現 :やっぱり俺もやるよ。 045空木:いいと言うに、……ん? 野菜か? 046現 :そうしてラーメンを待ってる間に、野菜を炒めて、出来上がったら乗せるといいよ。      コンビニにこういう袋入りのカット野菜、売ってるから。 047空木:おお。 マシマシになるな。 048現 :そう。 ラーメンを食べ終えたら、ご飯を入れて雑炊にしたら。      ルカもお腹いっぱいになるんじゃないかな。 049空木:おお! 流石、台所を預かるだけあるな。 050現 :どーいたしまして。      リカに作ってあげたら、太っちゃうからってあまり喜んでもらえなかったんだよね。 051空木:リカはもう少し太った方がいい。 052現 :……、リカが、さ。 053空木:うん? 054現 :……いや、なんでもない。 055空木:リカが? 何かあったのか? 056現 :あー、あの。 ほら、前の持ち主の話。 ウツギは、ルカにしたんだよね? 057空木:ああ。 058現 :俺も、リカに話したんだ。 そしたら黙り込んじゃって。 059空木:そうか。 060現 :俺ばっかり話して。 その、さ。      あの時も、今も。 あんな些細で幸せが壊れるくらいなら、さあ。 061空木:ダメだぞ。 062現 :……。 <苦笑する> 063空木:お前が言おうとしているそれは、人の理(ことわり)に反する。 だから、ダメだぞ。 064現 :当然だ、わかってるよ。      些細だから尊い、人はそういうもの。 わかってる。 065空木:──本当か? 066現 :うん、勿論。 <翌日夕方。流歌が帰宅する。> 067流歌:<溜息> 068現 :あれ? おかえり、もう学校終わったの? 今日は早いんだね。 069流歌:あー、……仮病使って、帰った。 070現 :仮病。 体調が悪い訳じゃないんだ。 071流歌:ん。 あれ、ウツギと、アイツは? 072現 :ウツギはコンビニ、リカなら今日は友達と買い物。      その後スーパーに寄るって言ってたから、遅くなるんじゃないかな。 073流歌:そか。 074現 :コーヒー淹れたばっかりなんだよね。 飲まない? 075流歌:……。 076現 :<笑う> ……別に、お説教がしたいとか、そういう訳じゃないよ。 077流歌:俺何も言ってねえけど。 078現 :顔に全部書いてある。 079流歌:あー、悪い。 080現 :いいよ。 出来合いの物ばっかり食べて、飽きてない?      今朝ウツギにも言ったけど、作り置きは殆ど俺が作ってるから、食べていいんだよ。      お腹空いたら、食べてよ。 081流歌:マジ? 082現 :うん。 083流歌:っあー、助かった! いや、惣菜でも何でもいいと思ってたんだけど。      ウツツのメシに慣れてるとどうも、なあ。 ほんと助かるわ。 084現 :本当? ありがとう、嬉しいよ。 085流歌:なあ、ウツツ。 俺でも作れそうな料理って、何かある? 086現 :え、 <笑う> ルカも、料理? 087流歌:俺は慣れてるからいいんだけどさ、ウツギに総菜ばっかりって悪いじゃん。      一応神様なんだし。 088現 :ウツギも同じ事言ってたよ。 ルカ、育ち盛りだからって。 089流歌:マジで。 090現 :マジで。 夜、リカが課題やってる時でよければ、簡単な物教えるよ。 091流歌:助かるー……。 ちゃんと課題やってんだ。 092現 :ルカと喧嘩する前より、机にいる時間が増えたよ。 ありがとうね。      って俺がお礼を言うのも変か、あはは。 093流歌:いや、まあ。 094現 :……料理、覚えるより。 リカと仲直りする方が先だと、俺は思うよ。 095流歌:それは、……わかってんだけど。 096現 :わかってるならいいや。 俺からはこれ以上言わないよ。 097流歌:……なんか。 098現 :うん。 099流歌:……なんて、いうか……その。 100現 :納得いかない? 101流歌:うん。 102現 :だよね。 リカもルカも納得できるまで、俺達待ってるよ。 103流歌:だってアイツ、翻訳家になりてえんだろ? 104現 :うん。 105流歌:なのに遊び歩いてて、先生から成績の事、指摘されてさ。      最近はその、塾見学に行ったり、ちょっと変わったと思ってたのに。 106現 :うん。 107流歌:俺は、俺の事しかわかんねえから。      夢、叶えたいって思ったら。 ちゃんと必死に頑張るモンじゃねえの。 108現 :必死に、っていうのは。 例えば? 109流歌:まず成績だよ、学校の。      それがちゃんとできて、他の事に目を向けるべきなんじゃねえの。 110現 :んー……半分は、俺と同じ考えかな。 111流歌:半分? 112現 :ルカは、自分の生活の中で。 勉強が何割? 113流歌:割合……九割、いや、八割くらい?      たまにネット見たり、ゲームしたりしてるけど。 114現 :うん、うん。 リカは、そうだな。 三割くらいじゃないかな。 115流歌:三割、そんだけ? 116現 :あくまで俺が見ていての所感だから。      後の七割は、家事、友達、興味が向いてる事、そういう物が占めてるように見える。 117流歌:うん。 その、友達とか興味が向いてる事、多分映画とか雑誌とか、そういう物なんだろ? 118現 :そうだね。 化粧とか、お洒落とか。 119流歌:そういう物を勉強に切り替えたら、成績が良くなるってわかりきってる。      どうしてそれをやらないで、俺に口出しするんだって。 120現 :うん、そういう喧嘩だったんだよね。      リカにとっては、勉強と同じくらい、友達とか、興味が向いてる事が大事なんだよ。      双子だけど、違う人間なんだ。 121流歌:それは、……そう、なんだけど。 122現 :一緒に買い物に行って、フラペチーノを飲んで。      あの時俺は、ルカも楽しそうだなって嬉しくなったけど。      ルカは、楽しくなかった? 123流歌:……こういうのも、悪くないな、とは、思った。 124現 :よかった。 リカも楽しそうだったよ、ルカとそうして過ごしたの、初めてだった、って。      近いだけで、別々の人間なんだ。 お互いの得意な事、好きな事。      持ち寄って分かり合う事は、できないかな。 125流歌:……。 126現 :……結局お説教みたいになっちゃったね、ごめん。 127流歌:いや。 ……俺とアイツの事、ここんとこ、口出す人っていなかったから。      どう返せばいいかわからないだけで。 俺も何も言えなくてごめん。 128現 :いいよ。 俺に言う言葉があるなら、それをリカに向けてくれたら。      俺は、それでいいんだよ。 <家での帰り道。空木と里歌、並んで歩いている。> 129空木:おお。 これ美味いな、リカ! なんちゃらポテト! 130里歌:ハッシュドポテトね。      この時間だとあのコンビニ、揚げたてが置いてあるんだよねえ。      今日なんか丁度並んだ所だったし。 ラッキーだったね。 131空木:そうなのか、ではまたこの時間に買いに来よう。 132里歌:うん。 ……ねえ、ウツギ。 ちゃんと食事してる? 133空木:なんだぁ? 気になるなら作ってくれてもいいんだぞ? 134里歌:…… <苦笑する> うーん。 135空木:はいはい、なんだっけな。 そうだ、ボイコット。      結構じゃないか。 気が済むまでやればいいさ。 136里歌:ありがと。 137空木:ボイコットは構わぬが。      ルカも決して、お前が憎くて口を出した訳ではないと。 それだけはわかっていてくれな。 138里歌:……うん。 139空木:リカくらいの年頃で、家事を全て担う方が珍しいんだろ?      それに口を出すならルカもまず手伝えばいい、それはお前が正論だ。      全く、自分の洗濯物を洗うにもスマホで調べながらになるとは妾も思わなんだ。 140里歌:あ、ちゃんと洗ってるんだ、よかった。 141空木:洗って自分の部屋に持ち込んで干してるさ。 食事も心配ない。 142里歌:そっか。 143空木:……浮かない顔だな。 144里歌:わかってて聞いてるよね? 145空木:ああ、勿論。      そうして身の回りの事ができるようになったとて。      お前の事が必要なくなるなんて事、ある訳ないだろ。 血を分けたたった一人の姉弟なんだぞ。 146里歌:それは、そうなんだけど。 ねえ、ルカって、本当にそう思ってくれてる? 147空木:教えてやらん。 自分で聞け。 148里歌:意地悪。 149空木:意地悪なもんか。 そうして互いの気持ちの本質がわからないからこそ、人付き合いがあるんだろ。      自分が不安だからと、ズルをしようとするんじゃない。 150里歌:だってー……この間、結構色々無神経な事言っちゃったからさぁ。 151空木:そう思うなら謝ればいい。 お前の言う、無神経を言ったお釣りだ。 152里歌:うぅー、ちょっとだけ、ヒントだけでもいいからさぁ! 153空木:駄々をこねるな、全くもう。      ルカはな、ひねくれてはいるがお前を心配してるだけなんだよ。 154里歌:だからってさあ、洗濯物取り込み忘れただけであんなにネチネチ言ってさあ。      しまいには留学を海外に遊びに行きたいだけ、って言ったんだよ!? 155空木:リカも二日前の事をまあネチネチ言ってるじゃないか、今。      お前はできた子だ、我儘は叶えてやりたいがな。      ルカの、他人様(ひとさま)の心を覗くズルは。 そればっかりはダメだ。 156里歌:ちぇー……。 ウツギはウツツより厳しい気がする。 157空木:なに。 アイツ、そんなにリカを甘やかしているのか? 158里歌:まあ半分冗談なんだけどさ?      喧嘩した後すぐ私がヘコんでたらね。 鏡の中に招くか、って言ってくれたの。 159空木:……へ。 ウツツが、か? 160里歌:うん。 急にさ、ほんと、いきなりだよ。      どっか買い物行こうか? ってノリで神様みたいな事言い出したから、びっくりしちゃったよ。 161空木:お前、それに返事はしたのか。 何と言った。 162里歌:色々話聞かせてもらって、それは怖いから断るって、……ウツギ? 163空木:……そうか、断ったのか。 それは、その。 ウツツは何て言ってたんだ? 164里歌:え? えっとー。 165空木:攫(さら)う訳じゃない、リカを取り上げない、留学が心配、リカがルカを拒絶した事を心配している。      頭が冷えるまでは、と。 大体、こうか? 166里歌:あぁうん、そうそう。 ……二人の前の持ち主さんの話、聞かせてもらったんだけど。      そんな事があれば、心配になっちゃうよね。 こういうちょっとした喧嘩も。 167空木:……まあ、そうだな。 168里歌:さっきも我儘言ったり、ごめんね、本当に。      ま、二人に謝るなら先にルカに謝れよって話だよね。      ちゃんと踏ん切りつけて、私から謝るから。 心配し過ぎないで。 169空木:ああ、……わかったよ。 ただな、一つだけ。 170里歌:ん? 171空木:我らは、人の子との約束の中で。      守る約束を、……破棄する約束を、我らが選べるんだからな。 <流歌の部屋。> 172流歌:えーっと……なんて検索すりゃいいかなぁ……。      喧嘩、謝り方、女子、……あ、姉の方がいいか? 173空木:<勢いよく部屋に入る> ルカ! 174流歌:んあああああああおかえり!? なんだよ! ノックしろって! 175空木:ただいま、少々マズい事になったぞ! 176流歌:だからノック、……なに、マズい事って。 177空木:お前、リカとこのままで本当にいいのか。 178流歌:……な、なんだよ。 179空木:今までは無関心故の嫌味だったのだろう。      しかし今回は、互いを知った上での意地の張り合いだ。 180流歌:……まあ、その。 二人に気まずい思いさせてるのは、悪いと思ってるけどさ。 181空木:そうじゃない、いいか、お前達を心配してるヤツがいるんだ。 182流歌:んん? うん。 ウツギと、ウツツな。 183空木:我らは些細で壊れた幸せを知っている。      ルカ。 お前はリカの留学の話を聞いて、妾を鑑みてくれたな。 184流歌:ん? まあ。 185空木:その、同じように、ウツツがリカを心配している。 186流歌:あー。 それは、さっき話してて思ったな。 187空木:ウツツの様子はどうだった。 188流歌:どうって、別に。 なんて事なかったけど。 189空木:あぁあ、ええと……。 190流歌:……珍しいな。 何をそんなに慌ててるんだよ。 191空木:ルカ、あのな。      神隠し、と。 聞いた事はないか。 192流歌:人がいなくなるヤツ? 193空木:そう、それだ。 神隠し、決して伽噺(とぎばなし)ではないぞ、実際にある話だ。      付喪神、末席とは言え神。 その特権だ。      人の世とは別の場所に、箱庭のような物、何もかもを我々が自由にできる世界を持っていてな。      そこにな、気に入った人間なり、人の世に置いておけない人間を、隠すんだ。 194流歌:うん。 それで? 195空木:……どうも、ウツツがな。 そこに、リカを。 196流歌:……えっ。 197空木:無理矢理攫う訳ではないぞ。 でもな、人間の同意があれば連れて行くのは簡単だ。      リカの頭が冷えるまで、という話だったそうだが。 198流歌:待てって、なに、ウツツが、リカを、神隠しに? 199空木:ああ。 リカが聡い子でよかった、何が起きるかわからないからと断ったそうだ。      うん、と。 たった一言了承していればわからなかった。      勿論、ウツツも悪意があった訳ではないからな、そこはわかってくれよ。 200流歌:それは当然なんだけど、……じゃあ、なんで。 そんな焦ってんの。 201空木:ウツツが、大事な個所を。 暈(ぼか)してリカを誘っていたんだ。 202流歌:……は? 203空木:人の了承があれば簡単に連れて行ける事。 帰る事が困難な事。      ──神である我々は、人の子との守る約束と、破棄する約束を、選べる事。 204流歌:選べる……ええっと、例えば。 まず一緒に行くって、約束する。 205空木:ああ。 次にすぐに帰す事を、約束する。 206流歌:……その、すぐに帰す約束だけを、神様だけが破棄できる。 207空木:そうだ。 208流歌:それを、ウツツはリカに、話してない。 209空木:……そうだ。 210流歌:……いや、いやっ! ウツツがそんな事リカにする訳ねーじゃん! 211空木:妾もそう思っているさ、思っているけども。      妾はな、前の持ち主の件で欠けた上、おかしな物を映すようになったと。      中々買い手がつかなかったんだ。 お前達の母君が買うまでは。 212流歌:ウツツは? 213空木:買い手がつかない妾を真似て、ずっと。 おかしな物を映すフリをしていた。 214流歌:お前と一緒に店に残る為に? 215空木:そうだ。 人の為の鏡が、自らの思いで。 これがどれだけ異質な事か、わかってくれるか? 216流歌:……そんな事ができんの? 217空木:……こうして、別々に人の身を得て気付いた。 真似が上手いんだ、アイツは。      料理、家事、喋り方、立ち振る舞い、人間らしくなった。 何故上手いと思う。      寂しがりなんだ。 周囲と同じ物であれば、一人きりになる事はない、そうだろう? <現のみ、過去話回想。> 218現 :──ああ、そうだぞ。 人間をうんと見てきたぞ。 219空木:持ち主が、些細な事で気落ちして。      しかもその持ち主は、数年後には海外での生活を検討している。      事情は違えど、前の持ち主の片割れのように。 しかも、今回は持ち主が自主的に、だ。 220現 :──そうだな、人間が出入りしていて、彼らの話を聞くのが楽しかった。 221空木:我らは姿見の鏡。 持ち主は、これだけ人間がいようとただ一人。      鏡には替えが利くが。 人は、そうはいかない。 222現 :──どう? 最初の頃の俺と比べて。      最近はリカと一緒に洋画も見てるから、すぐに英語も話せるようになるかもな。 223空木:……心配になって、おかしな事を考え始めるのは。      それほど突飛な話だとは、妾は、思えないんだ。 224現 :──何事もそうだ。 失って初めて気づくのだ、人は。      失って初めて気づく人の子を、愚かしいとは、思わんよ。 2016.12.29 完成 羽白深夜子 2021.1.17 修正 羽白深夜子 2022.2.13 修正 羽白深夜子 2024.5.1 更新 羽白深夜子
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